(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018721
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】塗膜剥離剤
(51)【国際特許分類】
C09D 9/00 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
C09D9/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122926
(22)【出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】392007566
【氏名又は名称】ナトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 啓統
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038RA02
4J038RA04
4J038RA12
4J038RA14
4J038RA16
(57)【要約】
【課題】ベンジルアルコールを含有しないか、または、含有量が小さくても塗膜剥離性能および貯蔵安定性が良好な、水系タイプの塗膜剥離剤を提供すること。
【解決手段】水(A)と、N-メチルピロリドン(B)と、脂肪酸モノエステル(C)と、二塩基酸エステル(D)と、スルホン酸型可溶化剤(E)とを含有する塗膜剥離剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水(A)と、N-メチルピロリドン(B)と、脂肪酸モノエステル(C)と、二塩基酸エステル(D)と、スルホン酸型可溶化剤(E)とを含有する塗膜剥離剤。
【請求項2】
N-メチルピロリドン(B)を1~50質量%含有する、請求項1に記載の塗膜剥離剤。
【請求項3】
脂肪酸モノエステル(C)を1~50質量%含有する、請求項1または2に記載の塗膜剥離剤。
【請求項4】
二塩基酸エステル(D)を1~60質量%含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の塗膜剥離剤。
【請求項5】
スルホン酸型可溶化剤(E)を1~50質量%含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の塗膜剥離剤。
【請求項6】
スルホン酸型可溶化剤(E)がスルホン酸塩化合物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の塗膜剥離剤。
【請求項7】
スルホン酸型可溶化剤(E)が芳香族環または芳香族複素環を含まない化合物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の塗膜剥離剤。
【請求項8】
ベンジルアルコールを含有しない、請求項1~7のいずれか一項に記載の塗膜剥離剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜剥離剤に関する。
【0002】
塗膜は経時により劣化するため、塗り替え補修が必要となる場合がある。例えば橋梁などの構造物や船底などは、定期的な塗り替え補修が必要である。
塗り替え補修の際には、劣化塗膜の剥離が行われる場合がある。劣化塗膜の剥離には、従来、ブラスト処理や動力工具による物理的作用による方法が広く採用されている。しかし、これら方法では粉塵や破片の飛散が懸念される。また、処理を行う際に発生する騒音も懸念される。
【0003】
そこで、物理的作用による劣化塗膜の剥離ではなく、塗膜剥離剤を用いた化学的作用により劣化塗膜を剥離する場合がある。塗膜剥離剤としては、非塩素系溶剤が主成分であり水を含まない溶剤系タイプのものや、溶剤と水を含有する水系タイプのもの(典型的には水分比率は5~60質量%程度)などが知られている。水系タイプの塗膜剥離剤は、さらに、水に溶剤分を(あるいは溶剤分に水を)分散させたエマルジョンタイプのものや、水と溶剤分とが相溶化剤等を介して均一に混ざったタイプのものなどに分類可能である。
法規制や環境配慮などの要請から、近年では水系タイプの塗膜剥離剤の需要が高まってきている。
【0004】
水系タイプの塗膜剥離剤の構成成分として、塗膜剥離性能に優れるベンジルアルコールが広く用いられている。他方、法規制や環境配慮などの要請がさらに高まりつつあることから、ベンジルアルコールを含有しないか、または、含有量が小さい水系タイプの塗膜剥離剤の需要も徐々に高まりつつある。
【0005】
従来の塗膜剥離剤の例としては、特許文献1~3に記載のものが挙げられる。
特許文献1には、A剤とB剤からなる2剤型塗膜剥離組成物のA剤として、水、ベンジルアルコールおよびp-トルエンスルホン酸ナトリウムを含有する組成物が記載されている。
特許文献2には、N-メチルピロリドン、二塩基酸エステル、グリコールエーテルおよび水を含有する水含有有機溶剤溶液を用いた、揮発性有機ペイント担体の再生法が記載されている。
特許文献3には、二塩基酸エステル、脂肪酸モノエステル、脂肪族炭化水素化合物および/または芳香族炭化水素化合物を含有する剥離剤組成物が記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の組成物はベンジルアルコールを多量に含有するため、法規制や環境配慮などの要請に必ずしも応え得るものではない。また、特許文献2に記載の水含有有機溶剤溶液はベンジルアルコールを含有しないが、塗膜剥離剤として使用した場合の塗膜剥離性能が十分とはいえない。さらに、特許文献3に記載の剥離剤組成物は溶剤系タイプに分類され、水系タイプとは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-095596号公報
【特許文献2】特開平4-100511号公報
【特許文献3】特開2021-054936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
塗膜剥離剤には上記の要請が高まりつつあるものの、塗膜剥離性に優れるベンジルアルコールの代替となり得る成分は水との親和性が一般的に低く、これを用いた水系タイプの塗膜剥離剤には二層分離を生じるなどの問題があった。このように、ベンジルアルコールを含有しないか、または、含有量が小さいことと、塗膜剥離性能および貯蔵安定性を維持すること、とを両立させることは非常に困難であった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の1つは、ベンジルアルコールを含有しないか、または、含有量が小さくても塗膜剥離性能および貯蔵安定性が良好な、水系タイプの塗膜剥離剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく鋭意研究する中で、本発明者らは、水(A)と、N-メチルピロリドン(B)と、脂肪酸モノエステル(C)と、二塩基酸エステル(D)と、スルホン酸型可溶化剤(E)とを含有する塗膜剥離剤は、ベンジルアルコールを含有しないか、または、その含有量が小さくても塗膜剥離性能に優れ、貯蔵安定性が良好であり、さらに、塗膜への塗布時に垂れが少ないことを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1] 水(A)と、N-メチルピロリドン(B)と、脂肪酸モノエステル(C)と、二塩基酸エステル(D)と、スルホン酸型可溶化剤(E)とを含有する塗膜剥離剤。
[2] N-メチルピロリドン(B)を1~50質量%含有する、[1]に記載の塗膜剥離剤。
[3] 脂肪酸モノエステル(C)を1~50質量%含有する、[1]または[2]に記載の塗膜剥離剤。
[4] 二塩基酸エステル(D)を1~60質量%含有する、[1]~[3]のいずれか一つに記載の塗膜剥離剤。
【0012】
[5] スルホン酸型可溶化剤(E)を1~50質量%含有する、[1]~[4]のいずれか一つに記載の塗膜剥離剤。
[6] スルホン酸型可溶化剤(E)がスルホン酸塩化合物である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の塗膜剥離剤。
[7] スルホン酸型可溶化剤(E)が芳香族環または芳香族複素環を含まない化合物である、[1]~[6]のいずれか一つに記載の塗膜剥離剤。
[8] ベンジルアルコールを含有しない、[1]~[7]のいずれか一つに記載の塗膜剥離剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ベンジルアルコールを含有しないか、または、含有したとしても含有量が小さく、かつ、塗膜剥離性能および貯蔵安定性が良好であり、さらに、塗膜への塗布時に垂れが少ない水系タイプの塗膜剥離剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0015】
<塗膜剥離剤>
本発明の塗膜剥離剤は、水(A)と、N-メチルピロリドン(B)と、脂肪酸モノエステル(C)と、二塩基酸エステル(D)と、スルホン酸型可溶化剤(E)とを含有する。
以下、本発明の塗膜剥離剤が含有するまたは含有してよい成分や、塗膜剥離剤の性状、物性などについてより詳細に説明する。
【0016】
[水(A)]
本発明の塗膜剥離剤は、水(A)を含有する。これにより、本発明の塗膜剥離剤は、非塩素系溶剤が主成分であり水を含まない溶剤系タイプの塗膜剥離剤に比べて環境性能に優れる。
塗膜剥離剤が良好な性能を奏する限りにおいて、水は、水道水、蒸留水などのいずれであってもよい。
塗膜剥離剤中の水(A)の含有量は典型的には5~60質量%であり、好ましくは5~55質量%、より好ましくは10~50質量%、さらに好ましくは10~45質量%、特に好ましくは10~40質量%である。
【0017】
[N-メチルピロリドン(B)]
本発明の塗膜剥離剤は、N-メチルピロリドン(B)を含有する。これにより、本発明の塗膜剥離剤の塗膜への浸透性が向上する。塗膜剥離剤が浸透した塗膜は膨潤、軟化し、基材から浮き上がることにより剥離されやすくなる。
塗膜剥離剤の塗膜への浸透性と塗膜剥離性能との両立の観点から、塗膜剥離剤中のN-メチルピロリドン(B)の含有量は、好ましくは1~50質量%、より好ましくは5~40質量%、さらに好ましくは10~35質量%、特に好ましくは15~30質量%である。
【0018】
[脂肪酸モノエステル(C)]
本発明の塗膜剥離剤は、脂肪酸モノエステル(C)を含有する。脂肪酸モノエステル(C)は後述する二塩基酸エステル(D)との親和性が高く、塗膜剥離性能に優れる二塩基酸エステル(D)の塗膜への浸透性を向上させる働きがある。これにより、本発明の塗膜剥離剤の塗膜への浸透性および塗膜剥離性能が向上する。
なお、脂肪酸モノエステル(C)は、カルボン酸基、水酸基、スルホ基などのアニオンを形成し得る置換基、および、アミノ基などのカチオンを形成し得る置換基のいずれも有することはない。
塗膜剥離剤の塗膜への浸透性と塗膜剥離性能との両立の観点から、塗膜剥離剤中の脂肪酸モノエステル(C)の含有量は、好ましくは1~50質量%、より好ましくは5~40質量%、さらに好ましくは10~35質量%、特に好ましくは15~30質量%である。
【0019】
脂肪酸モノエステル(C)の例として、飽和または不飽和脂肪酸と飽和または不飽和脂肪族アルコールとのエステル化合物が挙げられる。
脂肪酸モノエステル(C)中の飽和または不飽和脂肪酸部分の好ましい炭素数は5~25であり、より好ましくは8~23であり、さらに好ましくは10~21であり、特に好ましくは12~19である。飽和または不飽和脂肪酸部分は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよい。不飽和脂肪酸部分を有する場合は、不飽和結合として二重結合または三重結合を含むことができ、含まれる二重結合または三重結合の数は1~5が好ましく、1~4がより好ましく、1~3がさらに好ましい。不飽和脂肪酸部分に含まれる不飽和結合は、二重結合がより好ましい。
これらの飽和または不飽和脂肪酸部分は、置換基を有しないことが好ましい。
【0020】
脂肪酸モノエステル(C)中の飽和または不飽和脂肪族アルコール部分の好ましい炭素数は1~15であり、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1~5であり、特に好ましくは1~3である。飽和または不飽和脂肪族アルコール部分は直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよい。不飽和脂肪族アルコール部分を有する場合は、不飽和結合として二重結合または三重結合を含むことができ、含まれる二重結合または三重結合の数は1~2が好ましく、1がより好ましい。不飽和脂肪族アルコール部分に含まれる不飽和結合は、二重結合がより好ましい。
これらの飽和または不飽和脂肪族アルコール部分は、置換基を有しないことが好ましい。
【0021】
脂肪酸モノエステル(C)としての飽和脂肪酸モノエステルの具体的な例として、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、ヘキサン酸ヘキシル、ヘキサン酸ヘプチル、ヘキサン酸オクチル、ヘプタン酸メチル、ヘプタン酸エチル、ヘプタン酸プロピル、ヘプタン酸ブチル、ヘプタン酸ヘキシル、ヘプタン酸オクチル、オクタン酸メチル、オクタン酸エチル、オクタン酸プロピル、オクタン酸ブチル、オクタン酸ペンチル、オクタン酸ヘキシル、オクタン酸ヘプチル、オクタン酸オクチル、ノナン酸メチル、ノナン酸エチル、ノナン酸プロピル、ノナン酸ブチル、ノナン酸ペンチル、ノナン酸ヘプチル、デカン酸メチル、デカン酸エチル、デカン酸プロピル、デカン酸ブチル、デカン酸ヘキシル、デカン酸ヘプチル、ドデカン酸メチル、ドデカン酸エチル、ドデカン酸プロピル、ドデカン酸ブチル、ドデカン酸ヘキシル、ドデカン酸ヘプチル、ドデカン酸オクチル、テトラデカン酸メチル、テトラデカン酸エチル、テトラデカン酸プロピル、テトラデカン酸ブチル、テトラデカン酸テトラデシル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸プロピル、パルミチン酸ブチル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、オクタデカン酸メチル、オクタデカン酸エチル、オクタデカン酸プロピル、オクタデカン酸ブチル、オクタデカン酸2-エチルヘキシル、オクタデカン酸オクタデシル、エイコサン酸メチル、および、エイコサン酸エチルが挙げられる。
【0022】
脂肪酸モノエステル(C)としての不飽和脂肪酸モノエステルの具体的な例として、パルミトレイン酸メチル、パルミトレイン酸エチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸プロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ペンチル、オレイン酸ヘプチル、オレイン酸-2-エチルヘキシル、エライジン酸メチル、エライジン酸エチル、エライジン酸プロピル、エライジン酸ブチル、エライジン酸ペンチル、エライジン酸-2-エチルヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸プロピル、リノール酸イソプロピル、リノール酸ブチル、リノール酸ペンチル、リノール酸ヘキシル、リノール酸ヘプチル、リノール酸-2-エチルヘキシル、リノレン酸メチル、リノレン酸エチル、リノレン酸プロピル、リノレン酸ブチル、リノレン酸ペンチル、リノレン酸ヘキシル、リノレン酸ヘプチル、リノレン酸-2-エチルヘキシル、アラキドン酸メチル、アラキドン酸エチル、アラキドン酸ブチル、アラキドン酸-2-エチルヘキシル、エイコセン酸メチル、エイコセン酸エチル、エイコセン酸ブチル、エイコセン酸ヘプチル、エイコセン酸-2-エチルヘキシル、エイコサペンタエン酸メチル、エイコサペンタエン酸エチル、エイコサペンタエン酸ブチル、エイコサペンタエン酸-2-エチルヘキシル、エルカ酸メチル、エルカ酸エチル、エルカ酸ブチル、エルカ酸-2-エチルヘキシル、ドコサヘキサエン酸メチル、ドコサヘキサエン酸エチル、ドコサヘキサエン酸ブチル、ドコサヘキサエン酸-2-エチルヘキシル、リシノール酸メチル、リシノール酸エチル、リシノール酸ブチル、リシノール酸ヘプチル、および、リシノール酸-2-エチルヘキシルが挙げられる。
【0023】
また、脂肪酸モノエステル(C)は天然由来のものであってもよく、その具体的な例として、ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、水添大豆油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、桐油脂肪酸、トール油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、ブドウ種子油脂肪酸、黒クミン油脂肪酸、カボチャ核油脂肪酸、ボラージ種子油脂肪酸、小麦胚種油脂肪酸、菜種油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、ピーナッツ油脂肪酸、杏仁油脂肪酸、ピスタチオ油脂肪酸、アーモンド油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、マカデミアナッツ油脂肪酸、アボカド油脂肪酸、シーバックソーン油脂肪酸、ごま油脂肪酸、大麻油脂肪酸、ヘーゼルナッツ油脂肪酸、サクラソウ油脂肪酸、野ばら油脂肪酸、ベニバナ油脂肪酸、および、くるみ油脂肪酸といった酸をエステル化して得られるモノエステル、ならびに、バイオディーゼルが挙げられる。
脂肪酸モノエステル(C)は単一の化合物により形成されていてもよく、また、2種以上の化合物の混合物であってもよい。
【0024】
これらのうち、デカン酸メチル、テトラデカン酸メチル、ステアリン酸メチル、リノール酸メチル、リノレン酸メチル、オレイン酸メチル、および、パルミチン酸メチル、ならびに、これらの2つ以上からなる混合物が好ましく、リノール酸メチル、オレイン酸メチル、および、パルミチン酸メチル、ならびに、これらの2つ以上からなる混合物がより好ましい。
【0025】
[二塩基酸エステル(D)]
本発明の塗膜剥離剤は、二塩基酸エステル(D)を含有する。二塩基酸エステル(D)は強力な塗膜の剥離効果を有する成分であり、脂肪酸モノエステル(C)と共に塗膜に浸透し、塗膜を剥離する働きがある。
なお、二塩基酸エステル(D)は、水酸基、スルホ基などのアニオンを形成し得る置換基、および、アミノ基などのカチオンを形成し得る置換基のいずれも有することはない。
塗膜剥離剤の塗膜への浸透性と塗膜剥離性能との両立の観点から、塗膜剥離剤中の二塩基酸エステル(D)の含有量は、好ましくは1~60質量%、より好ましくは10~50質量%、さらに好ましくは15~45質量%、特に好ましくは20~40質量%である。
【0026】
二塩基酸エステル(D)の例として、飽和もしくは不飽和脂肪族ジカルボン酸、または、芳香族環もしくは芳香族複素環を有するジカルボン酸と、飽和もしくは不飽和脂肪族アルコール、または、芳香族環もしくは芳香族複素環を有するアルコールとのエステル化合物が挙げられる。
二塩基酸エステル(D)中の飽和もしくは不飽和脂肪族ジカルボン酸部分、または、芳香族環もしくは芳香族複素環を有するジカルボン酸部分の好ましい炭素数は2~20であり、より好ましくは2~15であり、さらに好ましくは2~12であり、特に好ましくは2~10である。飽和もしくは不飽和脂肪族ジカルボン酸部分を有する場合は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよい。不飽和脂肪族ジカルボン酸部分を有する場合は、不飽和結合として二重結合または三重結合を含むことができ、含まれる二重結合または三重結合の数は1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましい。不飽和脂肪族ジカルボン酸部分に含まれる不飽和結合は、二重結合がより好ましい。
これらの飽和もしくは不飽和脂肪族ジカルボン酸部分、および、芳香族環もしくは芳香族複素環を有するジカルボン酸部分は、置換基を有しないことが好ましい。
【0027】
二塩基酸エステル(D)中の飽和もしくは不飽和脂肪族アルコール部分、または、芳香族環もしくは芳香族複素環を有するアルコール部分の好ましい炭素数は、当該アルコール部分1個当たり1~15であり、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1~5であり、特に好ましくは1~3である。飽和または不飽和脂肪族アルコール部分は直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよい。不飽和脂肪族アルコール部分を有する場合は、不飽和結合として二重結合または三重結合を含むことができ、含まれる二重結合または三重結合の数は、当該アルコール部分1個当たり1~2が好ましく、1がより好ましい。不飽和脂肪族アルコール部分に含まれる不飽和結合は、二重結合がより好ましい。
これらの飽和もしくは不飽和脂肪族アルコール部分、および、芳香族環もしくは芳香族複素環を有するアルコール部分は、置換基を有しないことが好ましい。
飽和もしくは不飽和脂肪族アルコール部分、および/または、芳香族環もしくは芳香族複素環を有するアルコール部分は二塩基酸エステル(D)1分子あたり2個含まれるが、これらは同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。
【0028】
二塩基酸エステル(D)の具体的な例として、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、コハク酸ジエチル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、フタル酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、コハク酸ジイソブチル、グルタル酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソブチル、フタル酸ジイソブチル、マレイン酸ジイソブチル、コハク酸ジブチル、グルタル酸ジブチル、アジピン酸ジブチル、フタル酸ジブチル、マレイン酸ジブチル、コハク酸ジヘキシル、グルタル酸ジヘキシル、アジピン酸ジヘキシル、フタル酸ジヘキシル、マレイン酸ジヘキシル、コハク酸ジ-2-エチルヘキシル、グルタル酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、および、マレイン酸ジ-2-エチルヘキシルが挙げられる。
二塩基酸エステル(D)は単一の化合物により形成されていてもよく、また、2種以上の化合物の混合物であってもよい。
【0029】
これらのうち、コハク酸ジエチル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、および、アジピン酸ジメチル、ならびに、これらの2つ以上からなる混合物が好ましく、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、および、アジピン酸ジメチル、ならびに、これらの2つ以上からなる混合物がより好ましい。
【0030】
[スルホン酸型可溶化剤(E)]
本発明の塗膜剥離剤は、スルホン酸型可溶化剤(E)を含有する。これにより、上記(B)~(D)の成分が水中で安定に存在することが可能となり、本発明の塗膜剥離剤の貯蔵安定性が良好となる。
貯蔵安定性の観点から、塗膜剥離剤中のスルホン酸型可溶化剤(E)の含有量は、好ましくは1~50質量%、より好ましくは3~40質量%、さらに好ましくは5~35質量%、特に好ましくは10~30質量%である。
【0031】
スルホン酸型可溶化剤(E)の例として、ジアルキルスルホ二塩基酸化合物、アルカンスルホン酸化合物、アルケンスルホン酸化合物、ヒドロキシアルカンスルホン酸化合物、アルキルベンゼンスルホン酸化合物、ナフタレンスルホン酸-ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸化合物、および、N-アルキル-N-アシルタウリン酸化合物が挙げられる。また、スルホン酸型可溶化剤(E)は、市販のスルホン酸型界面活性剤であってもよい。
これらの化合物はスルホン酸塩化合物であることが好ましい。スルホン酸塩を構成するカチオンの例として、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンおよびアンモニウムイオンが挙げられ、ナトリウムイオンが好ましい。
スルホン酸型可溶化剤(E)は、環境や人体への悪影響の観点から、芳香族環または芳香族複素環を含まない化合物であることが好ましい。
【0032】
スルホン酸型可溶化剤(E)の具体的な例として、スルホコハク酸ジオクチル、スルホコハク酸ジ2-エチルヘキシル、スルホコハク酸ジデシル、スルホコハク酸ジドデシルなどのジアルキルスルホ二塩基酸化合物またはその塩;ラウリル硫酸などのアルカンスルホン酸化合物またはその塩;テトラデセンスルホン酸などのアルケンスルホン酸化合物またはその塩;3-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸などのヒドロキシアルカンスルホン酸化合物またはその塩;ドデシルベンゼンスルホン酸、ラウリルベンゼンスルホン酸などのアルキルベンゼンスルホン酸化合物またはその塩;ナフタレンスルホン酸-ホルムアルデヒド縮合物またはその塩;7-ドデシル-2-ナフタレンスルホン酸などのアルキルナフタレンスルホン酸化合物またはその塩;およびラウロイルメチルタウリン酸などのN-アルキル-N-アシルタウリン酸化合物またはその塩が挙げられる。
スルホン酸型可溶化剤(E)は単一の化合物により形成されていてもよく、また、2種以上の化合物の混合物であってもよい。
【0033】
これらのうち、スルホコハク酸ジデシルナトリウム、スルホコハク酸ジドデシルナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、および、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ならびに、これらの2つ以上からなる混合物が好ましく、スルホコハク酸ジデシルナトリウム、スルホコハク酸ジドデシルナトリウム、および、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、ならびに、これらの2つ以上からなる混合物がより好ましい。
【0034】
[その他の成分]
本発明の塗膜剥離剤は、上記以外の成分を含んでもよいし、含まなくてもよい。
例えば、本実施形態の塗膜剥離剤は、pH調整などを目的に、無機酸および/または無機アルカリ、有機酸および/または有機アルカリを含んでもよい。その他、着色を目的とした染料および/または顔料、体質顔料、矯臭を目的とした香料、防錆剤、消泡剤、界面活性剤、塗膜に対する湿潤剤、有効成分の蒸発を防ぐためのポリオレフィンワックス、難燃剤、増粘剤、補助溶剤等を含んでもよい。
【0035】
ただし、好ましい態様において、塗膜剥離剤中の無機酸の含有量は0.5質量%以下であり、かつ、塗膜剥離剤中の無機アルカリの含有量は0.5質量%以下である。有機酸および/または有機アルカリの含有量も同程度であることが好ましい。
【0036】
また、法規制や環境配慮などの要請がある場合には、本発明の塗膜剥離剤はベンジルアルコールを含有しないことが好ましい。ベンジルアルコールを含有する場合、含有量は20質量%未満であることが好ましく、10質量%未満であることがより好ましく、5質量%未満であることがさらに好ましく、3質量%未満であることが特に好ましく、1質量%未満であることが最も好ましい。
【0037】
[物性、性状]
本発明の塗膜剥離剤は、増粘剤を添加する前であっても撹拌停止後に即座に二層分離することなく、好ましくは、透明または白濁した状態を1分間以上維持することができる。このように、たとえ粘度が低い状態でも撹拌停止後の塗膜剥離剤が透明または白濁した状態を一定時間維持することができれば、必要により追加の成分を添加する作業、および、塗膜への塗布の作業等をスムーズに行うことができる。
上述のとおり、本発明の塗膜剥離剤は透明または白濁した状態を一定時間維持することができれば問題なく使用できるが、上記(A)~(E)の各成分、特にスルホン酸型可溶化剤(E)、の量を調整することにより、透明または白濁のいずれか所望の状態とすることができる。
【0038】
本発明の塗膜剥離剤は室温下での貯蔵安定性に優れ、貯蔵後に僅かに上澄み液の発生が見られる場合であっても、簡単な撹拌により直ちに均一な状態に戻すことができる。
【0039】
本発明の塗膜剥離剤は、垂直面に塗布しても垂れの発生が少ない。この性状は、塗膜剥離剤が十分に均一化または分散されているため、層分離による液状成分が界面に出てくることがなく、塗布した塗膜剥離剤がずり落ちにくいことに起因すると考えられる。これにより、垂れを防止することを目的として過剰に増粘剤を添加する必要が生じず、作業性および経済性の点で有利である。
また、垂直面に塗布した塗膜剥離剤に垂れが生じた場合、垂れが生じた部分に塗膜剥離剤が十分に浸透することができず、塗膜に対する剥離性能を十分に発揮することができない。このため、垂れの発生が少ない本発明の塗膜剥離剤は、特に垂直面の塗膜に対する剥離性能に優れる。
【0040】
本発明の塗膜剥離剤は、例えば、上記成分を容器に入れて混合することで製造される。混合には、例えば、市販の撹拌機などを用いることができる。特に、塗膜剥離剤の粘度が大きい場合、撹拌翼の径や容器の径を適切に選択することで、各成分が均一に溶解/分散した塗膜剥離剤を製造することができる。容器の大きさに比して小さすぎる撹拌翼を使うと、容器の壁面付近で十分な混合がなされないおそれがあるため、容器の大きさに応じた大きさの撹拌翼で混合を行うことが好ましい。
【0041】
本発明の塗膜剥離剤は、濃縮された形態で製造・流通され、使用直前に希釈して用いてもよい。例えば、水が少ない塗膜剥離剤を製造し、それを使用直前に水で希釈して用いてもよい。
【0042】
<塗膜剥離剤の使用方法(塗膜の剥離方法)>
本発明の塗膜剥離剤の使用方法は特に限定されない。
典型的には、まず、剥離対象である塗膜に塗膜剥離剤を塗布する。塗布方法としては、刷毛、ローラー、スプレー等を用いることができる。そして、塗膜剥離剤を塗膜中に浸透させる。これにより、浸透した塗膜剥離剤の成分が塗膜(樹脂)の基材に対する付着力を弱めたり、塗膜を膨潤、軟化させたりする。塗膜剥離剤を塗膜に接触させる時間は、塗膜の種類や膜厚および/または塗布時の環境温度に応じて適宜調整すればよい。接触時間は例えば1~24時間程度である。その後、塗膜を、スクレーパー等によって除去する。
本発明の塗膜剥離剤は垂れが抑えられるため、地面と水平ではない面にも長く留まりやすい。その結果、橋梁などの構造物の塗膜剥離においても良好な剥離性を得ることができる。
【0043】
本発明の塗膜剥離剤は、様々な種類の塗膜の剥離に好ましく用いられる。具体的には、エポキシ系塗料、ウレタン系塗料、メラミン焼付塗料、アクリル系焼付塗料、ポリエステル系粉体塗料、ラッカー塗料、外壁材などの様々な種類の塗膜において、良好な剥離性を奏する。このような、様々な種類の塗膜の剥離性が良好であることは、本発明の塗膜剥離剤の特徴の1つといえる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0045】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0046】
<塗膜剥離剤の製造>
(実施例1)
容器に水35質量部、N-メチルピロリドン10質量部、二塩基酸エステル15質量部、オレイン酸メチル10質量部、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム10質量部を加え、ディスパーにて撹拌した。その後撹拌状態を維持しながらフュームドシリカを4質量部加え、撹拌することで目的の塗膜剥離剤を得た。
【0047】
(実施例2~19、比較例1~7)
各成分およびそれらの量を下表に記載のようにした以外は、実施例1と同様にして塗膜剥離剤を製造した。
【0048】
(原料の詳細)
実施例および比較例の塗膜剥離剤を製造するために用いた原料の詳細は、下記のとおりである。
・N-メチルピロリドン:三菱ケミカル株式会社製
・二塩基酸エステル:三協化学株式会社製、商品名:No.23エステル(コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、および、アジピン酸ジメチルの混合物)
・オレイン酸メチル(脂肪酸モノエステル):関東化学株式会社製
・パルミチン酸メチル(脂肪酸モノエステル):関東化学株式会社製
・乳酸エチル(補助溶剤):関東化学株式会社製
【0049】
・スルホコハク酸ジオクチルナトリウム(可溶化剤):東京化成工業株式会社製
・ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(可溶化剤):Sigma-Aldrich社製
・ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート・Na(比較例の可溶化剤):竹本油脂株式会社製、商品名:ニューカルゲンP-205S30、有効成分30%、水70%
・ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(比較例の可溶化剤):花王株式会社製、商品名:ラムテルPD-420
・ソルビタンモノオレート(比較例の可溶化剤):花王株式会社製、商品名:レオドールAO-10V
・フュームドシリカ(増粘剤):日本アエロジル社製、商品名:アエロジル300
【0050】
<液の透明性の評価>
上述の塗膜剥離剤の製造時において、フュームドシリカ(増粘剤)を添加する前の段階で撹拌を止め、直後の液の透明性について目視にて評価を行った。増粘剤を添加し粘度の調整を行う前の段階では、撹拌停止後1分間経過前に二層分離しなければ実用に適した安定性を有しているということができる。
A:濁りが無く、透明の状態が1分間以上維持される
B:白濁している状態が1分間以上維持される
C:撹拌停止直後は白濁しているが、1分間経過前に油層と水層の二層に分離しはじめる
【0051】
<貯蔵安定性の評価>
塗膜剥離剤を透明瓶に入れ、25℃雰囲気下で24時間静置し、状態の変化を目視にて評価した。
◎(とても良い):変化無し
〇(良い):僅かな上澄み液の発生が見られるが、容器の振とうなど簡単な撹拌で容易に均一な状態に戻る
×(悪い):上澄み液の発生が見られ、十分に撹拌することで一時的に均一な状態に戻るが、撹拌停止後1分間経過前に再び上澄み液の分離が見られるようになる
【0052】
<垂れ留まり性と剥離性能の評価>
下記のとおり入手または作成した外壁材および金属塗装板に対し、それぞれ下記の方法により実施例または比較例の塗膜剥離剤を塗布し、評価を行った。
【0053】
・外壁材
商社経由で入手した塗膜付き外壁材をサンプルとして準備した。塗膜の厚みは最薄部で約500μm、最厚部で約3000μmであった。
【0054】
・金属塗装板
A4サイズの冷延鋼板(規格:SPCC-SD、幅210mm、長さ297mm、厚さ0.8mm)に、一液硬化型エポキシ樹脂下塗塗料(製品名:スターク(登録商標)Eプライマー一液速乾αホワイト、ナトコ株式会社製)をシンナーで希釈して塗装した。20℃雰囲気下で30分静置した後、白色の二液硬化型ウレタン塗料(製品名:スターク(登録商標)1、ナトコ株式会社製)を、カタログ記載の主剤:硬化剤比で混合し、シンナーで適宜希釈して乾燥膜厚が80μmになるように塗装した。その後、20℃雰囲気下で7日間放置し、乾燥/硬化させることで、試験板を作成した。
【0055】
(垂れ留まり性の評価)
25℃雰囲気下、上述の試験板を垂直に立て、そこに塗膜剥離剤を0.7kg/m2塗布した。4時間静置後に、目視により、以下基準で垂れ留まり性を評価した。
◎(とても良い):塗布部全面に塗膜剥離剤が残存しており、塗膜剥離剤の垂れは見られない
〇(良い):塗布部の面積の80%以上に塗膜剥離剤が残存しており、重力方向に塗膜剥離剤の垂れが僅かに見られる
△(やや悪い):塗布部の面積の50%以上に塗膜剥離剤が残存しており、重力方向に塗膜剥離剤の垂れが見られる
×(悪い):塗布部の面積の50%未満にしか塗膜剥離剤が残存しておらず、重力方向に塗膜剥離剤の垂れが多量見られる
【0056】
(剥離性能の評価)
25℃雰囲気下、上述の試験板を垂直に立て、そこに塗膜剥離剤を0.7kg/m2塗布した。4時間静置後に、塗膜剥離剤塗布部の塗膜をスクレーパーでこすり、塗膜を剥離できるかどうかについて、以下の基準にて評価した。評価3以上のものが実用に適しているということができる。
5:容易に塗膜剥離剤塗布部の塗膜の全面を剥離することができる
4:塗膜剥離剤塗布部の塗膜の全面を剥離することができる
3:塗膜剥離剤塗布部の塗膜の80%以上を剥離することができる
2:塗膜剥離剤塗布部の塗膜の50%以上を剥離することができる
1:塗膜剥離剤塗布部の塗膜の50%未満しか剥離できない
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
上に示されるとおり、水(A)と、N-メチルピロリドン(B)と、脂肪酸モノエステル(C)と、二塩基酸エステル(D)と、スルホン酸型可溶化剤(E)とを含有する塗膜剥離剤(実施例1~19)は、液の透明性および貯蔵安定性の点で良好な作業性を示し、かつ、各種塗膜に対して良好な垂れ留まり性および剥離性能を示した。
【0061】
他方、可溶化剤としてスルホン酸型以外のものを用いた塗膜剥離剤(比較例1~6)は、液の透明性の評価において撹拌停止後1分間経過前に二層分離を生じ、また、貯蔵安定性の評価において撹拌停止後1分間経過前に上澄み液の分離を生じたため、本発明の塗膜剥離剤に比して作業性に劣るものであった。また、これらの塗膜剥離剤は、各種塗膜に対する垂れ留まり性および剥離性能の点でも本発明の塗膜剥離剤に比して劣るものであった。
【0062】
さらに、脂肪酸モノエステル(C)を含有しない塗膜剥離剤(比較例7)は、液の透明性および貯蔵安定性の点で本発明の塗膜剥離剤と同等であったが、各種塗膜に対する剥離性能の点で本発明の塗膜剥離剤に比して劣るものであった。