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特開2023-18744白色3価クロムめっき浴およびこれを利用した被めっき物への白色3価クロムめっき方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018744
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】白色3価クロムめっき浴およびこれを利用した被めっき物への白色3価クロムめっき方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/06 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
C25D3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122970
(22)【出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000120386
【氏名又は名称】株式会社JCU
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中上 まどか
(72)【発明者】
【氏名】辻野 峻
【テーマコード(参考)】
4K023
【Fターム(参考)】
4K023AA01
4K023AA11
4K023BA03
4K023BA06
4K023CA09
4K023CB03
4K023CB13
4K023CB28
4K023DA02
4K023DA07
4K023DA08
(57)【要約】
【課題】3価のクロムめっき浴においてめっきの析出速度が速く、装飾用途として適した外観が得られるめっき技術を提供する。
【解決手段】3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩としての硫酸塩、pH緩衝剤、 下記一般式(I)
【化1】
(式(I)中、Rは-H、-NH、-OH、-CH、-(CH-CHまたは-(CH-COOHを示し、前記nは1~4の整数を示し、XおよびYはそれぞれ独立してCH、C=OまたはC=Sを示す)
で表される硫黄含有有機化合物の1種または2種以上を含有することを特徴とする白色3価クロムめっき浴およびこれらを利用した白色3価クロムめっき方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩としての硫酸塩、pH緩衝剤、 下記一般式(I)
【化1】
(式(I)中、Rは-H、-NH、-OH、-CH、-(CH-CHまたは-(CH-COOHを示し、前記nは1~4の整数を示し、XおよびYはそれぞれ独立してCH、C=OまたはC=Sを示す)
で表される硫黄含有有機化合物の1種または2種以上を含有することを特徴とする白色3価クロムめっき浴。
【請求項2】
3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩としての硫酸塩、pH緩衝剤、 下記一般式(II)
【化2】
(式(II)中、Rは-H、-NH、-OH、-CH、-(CH-CHまたは-(CH-COOHを示し、前記nは1~4の整数を示し、XおよびYはそれぞれ独立してC=OまたはC=Sを示す)
で表される硫黄含有有機化合物の1種または2種以上を含有することを特徴とする白色3価クロムめっき浴。
【請求項3】
錯化剤が、ジカルボン酸またはその塩である請求項1または2記載の白色3価クロムめっき浴。
【請求項4】
ジカルボン酸が、リンゴ酸および/または酒石酸である請求項3記載の白色3価クロムめっき浴。
【請求項5】
更に、サッカリンまたはその塩を含有するものである請求項1~4の何れか1に記載の白色3価クロムめっき浴。
【請求項6】
被めっき物を請求項1~5の何れか1に記載の白色3価クロムめっき浴で電気めっきすることを特徴とする被めっき物への白色3価クロムめっき方法。
【請求項7】
下記一般式(I)
【化3】
(式(I)中、Rは-H、-NH、-OH、-CH、-(CH-CHまたは-(CH-COOHを示し、前記nは1~4の整数を示し、XおよびYはそれぞれ独立してCH、C=OまたはC=Sを示す)
で表される硫黄含有有機化合物を、3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩としての硫酸塩、pH緩衝剤を含有する白色3価クロムめっき浴に含有させることを特徴とする白色3価クロムめっきの析出速度向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色3価クロムめっき浴およびこれを利用した被めっき物への白色3価クロムめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムめっきは、銀白色の外観を有するため装飾用のコーティング膜として用いられている。このクロムめっきには6価のクロムが用いられていたが、近年ではこの6価のクロムが環境に影響を及ぼすため、その使用が制限されてきていて、3価のクロムを用いる技術へシフトしてきている。
【0003】
このような3価のクロムを用いる技術としては、多数報告されていて、例えば、水溶性3価クロム塩、リンゴ酸等の3価クロムイオン用錯化剤、pH緩衝化合物、チオ尿素等の硫黄含有有機化合物およびサッカリン等の水溶性化合物を含有し、pHが2.8~4.2のクロム電解めっき溶液が知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、この3価のクロムめっき浴は、めっきの析出速度が遅く、実用的なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5696134号
【特許文献2】国際公開パンフレットWO2019/117178
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願人は、3価のクロムめっき浴においてめっきの析出速度が速く、実用的なものを開発したが(特許文献2:3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩として硫酸カリウムおよび硫酸アンモニウム、pH緩衝剤、硫黄含有有機化合物を含有する3価クロムめっき浴であって、錯化剤として、ヒドロキシ基を2つ以上、カルボキシ基を2つ以上有するカルボン酸またはその塩を用い、硫黄含有有機化合物として、サッカリンまたはその塩と、アリル基を有する硫黄含有有機化合物を組み合わせて用いることを特徴とする3価クロムめっき浴)、これよりも組成が単純で、装飾用途としても適するような外観が得られるめっき技術を開発することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、白色3価クロムめっき浴に特定の構造の硫黄含有有機化合物を含有させることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すわなち、本発明は、3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩としての硫酸塩、pH緩衝剤、 下記一般式(I)
【化1】
(式(I)中、Rは-H、-NH、-OH、-CH、-(CH-CHまたは-(CH-COOHを示し、前記nは1~4の整数を示し、XおよびYはそれぞれ独立してCH、C=OまたはC=Sを示す)
で表される硫黄含有有機化合物の1種または2種以上を含有することを特徴とする白色3価クロムめっき浴である。
【0009】
また、本発明は、被めっき物を上記白色3価クロムめっき浴で電気めっきすることを特徴とする被めっき物への白色3価クロムめっき方法である。
【0010】
更に、本発明は、上記一般式(I)で表される硫黄含有有機化合物を、3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩としての硫酸塩、pH緩衝剤を含有する白色3価クロムめっき浴に含有させることを特徴とする白色3価クロムめっきの析出速度向上方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の白色3価クロムめっき浴を用いれば、6価クロムめっきと比べて色調や析出速度が同等の白色の3価クロムめっきをすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の白色3価クロムめっき浴(以下、「本発明めっき浴」という)は、3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩としての硫酸塩、pH緩衝剤、硫黄含有有機化合物を含有するものである。
【0013】
上記硫黄含有有機化合物は、下記一般式(I)
【化2】
(式(I)中、Rは-H、-NH、-OH、-CH、-(CH-CHまたは-(CH-COOHを示し、前記nは1~4の整数を示し、XおよびYはそれぞれ独立してCH、C=OまたはC=Sを示す)で表されるものである。
【0014】
上記一般式(I)で表される硫黄含有有機化合物で好ましいものとしては、下記一般式(II)
【化3】
(式(II)中、Rは-H、-NH、-OH、-CH、-(CH)n-CHまたは-(CH)n-COOH、より好ましくは-H、-NHを示し、前記nは1~4、より好ましくは1~2の整数を示し、XおよびYはそれぞれ独立してC=OまたはC=Sを示す)で表されるものが挙げられる。
【0015】
一般式(I)で表される硫黄含有有機化合物のより好ましいものとしては、例えば、チアゾリジン、ロダニン、チアゾリジン-2-オン、3-メチルチアゾリジン-2-チオン、4-チオキソ-1,3-チアゾリジン-2-オン、2-メルカプトチアゾリン(別名:2-チアゾリン-2-チオール)、2,4-チアゾリジンジオン、3-メチル-1,3-チアゾラン-2,4-ジオン、3-アミノロダニン、3-メチルロダニン、3-エチルロダニン、3-アリルロダニン、ロダニン-3-酢酸、ロダニン-3-プロピオン酸等が挙げられ、これらの中でもロダニン、2,4-チアゾリジンジオン、3-アミノロダニン、3-エチルロダニンが好ましい。これら硫黄含有有機化合物は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
本発明めっき浴における、一般式(I)等で表される硫黄含有有機化合物の含有量は特に限定されないが、例えば、1~500mg/L、好ましくは5~100mg/Lである。
【0017】
本発明めっき浴に用いられる3価クロム化合物は、特に限定されないが、例えば、塩基性硫酸クロム、硫酸クロム、塩化クロム、スルファミン酸クロム、酢酸クロムであり、好ましくは塩基性硫酸クロム、硫酸クロムである。これら3価クロム化合物は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明めっき浴における3価クロム化合物の含有量は特に限定されないが、例えば金属クロムとして1~25g/Lであり、好ましくは1~15g/Lである。
【0018】
本発明めっき浴に用いられる錯化剤は、特に限定されないが、例えば、リンゴ酸、酒石酸等のジカルボン酸や、リンゴ酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸ジアンモニウム等のジカルボン酸の塩等が挙げられ、好ましくはリンゴ酸または酒石酸ジアンモニウムである。これら錯化剤は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明めっき浴における錯化剤の含有量は特に限定されないが、例えば、1~90g/Lであり、好ましくは2~50g/Lである。
【0019】
本発明めっき浴に用いられる伝導性塩は、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム等の硫酸塩である。これら硫酸塩の中でも硫酸カリウムが好ましい。これら硫酸塩は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明めっき浴における硫酸塩の含有量は特に限定されないが、例えば、100~300g/Lであり、好ましくは120~240g/Lである。
【0020】
本発明めっき浴に用いられるpH緩衝剤は、特に限定されないが、例えば、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、リン酸、リン酸水素2カリウム等が挙げられ、これらの中でもホウ酸、ホウ酸ナトリウムが好ましい。これらpH緩衝剤は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明めっき浴におけるpH緩衝剤の含有量は特に限定されないが、例えば、30~150g/Lであり、好ましくは50~110g/Lである。
【0021】
本発明めっき浴には、更に、サッカリンまたはその塩を含有させることが、クロムの析出を安定化させるために好ましい。サッカリンまたはその塩としては、例えば、サッカリン、サッカリン酸ナトリウム等が挙げられる。これらサッカリンまたはその塩は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明めっき浴におけるサッカリンまたはその塩の含有量は特に限定されないが、例えば、0.5~10g/Lであり、好ましくは2~8g/Lである。なお、当然ながら本発明めっき浴におけるサッカリンの含有量は上記した一般式(I)等で表される硫黄含有有機化合物の含有量には含まれない。
【0022】
本発明めっき浴の好ましい態様としては、例えば、上記成分を含有するものでもよいが、上記成分のみを含有するもの(上記成分からなるもの)でもよいことは言うまでもない。
【0023】
本発明めっき浴には、更に、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエチレングリコール等の高分子化合物、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、過酸化水素、界面活性剤、抱水クロラール、イミノジ酢酸等を含有させても良い。
【0024】
本発明めっき浴のpHは酸性であれば特に限定されず、例えば、2~4.5が好ましく、3~4.5がより好ましい。
【0025】
本発明めっき浴の調製法は特に限定されず、例えば、50~60℃の水に3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩としての硫酸塩、pH緩衝剤、硫黄含有有機化合物(必要によりサッカリンまたはその塩)を添加、混合し、最後に必要により硫酸、アンモニア水等でpHを調整することにより、調製することができる。
【0026】
本発明めっき浴は、従来のクロムめっき浴と同様に、被めっき物を本発明めっき浴で電気めっきすることにより被めっき物へ白色3価クロムめっきをすることができる。
【0027】
電気めっきの条件は特に限定されないが、例えば、浴温が30~60℃、アノードがカーボンあるいは酸化イリジウム、陰極電流密度が2~20A/dmで1~15分間電気めっきを行えばよい。
【0028】
電気めっきすることのできる被めっき物としては、例えば、鉄、ステンレス、真鍮等の金属、ABS、PC/ABS等の樹脂が挙げられる。なお、この被めっき物は本発明のめっき浴でめっきする前に予め銅めっき、ニッケルめっき等の処理をしておいてもよい。
【0029】
このように本発明めっき浴を用いて白色3価クロムめっきをすると析出速度は、0.03~0.17μm/分、好ましくは0.04~0.13μm/分となり、従来の6価クロムめっきと比べて析出速度が同等以上である。
【0030】
そのため、上記した一般式(I)等で表される硫黄含有有機化合物は、3価クロム化合物、錯化剤、伝導性塩としての硫酸塩、pH緩衝剤を含有する白色3価クロムめっき浴に含有させることにより白色3価クロムめっきの析出速度を向上させることができる。
【0031】
斯くして得られるクロムめっき製品は、白色で有り、色彩色差計を用いて測定されるL値が80以上、好ましくは82以上、より好ましくは83以上、特に好ましくは83~84となり、6価クロムめっきと比べて色調が同等のものとなる。
【0032】
この白色のクロムめっき製品は、従来の6価クロムめっき製品と同様の用途に用いることができるが、特に、車、オートバイ、金具等の装飾用途の製品に好適である。
【実施例0033】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
実 施 例 1
白色クロムめっき:
表1に記載の成分を水に溶解して、pHをアンモニア水で調整して3価クロムめっき浴を調製した。この3価クロムめっき浴について、ニッケルめっきを施した真鍮板を用いてハルセル試験を行った。ハルセル試験の条件は電流5A、めっき時間3分である。めっき後、真鍮板の電流密度10A/dmに該当する箇所の膜厚を蛍光X線で測定し、析出速度を算出した。更に、めっき後の外観は色彩色差計(コニカミノルタ社製)を用いてL値、a値、b値により評価した。それらの結果も表1に示した。
【0035】
【表1】
【0036】
この結果から、本発明めっき浴は、硫黄含有有機化合物として一般式(I)のものを用いることにより、めっきの析出速度が速く、外観が白色でL値が80以上となることが分かった。特に硫黄含有有機化合物として一般式(II)のものを用いることにより、めっきの析出速度が速く、外観が白色でL値が83以上となることが分かった。また、本発明めっき浴に、更にサッカリンまたはその塩を含有させることによりクロムの析出が安定化することも分かった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明めっき浴は、6価のクロムを用いた白色めっきと同様に各種用途に用いることができる。