(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018754
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】免震システム、振動調整装置及び免震システム用プログラムの生産方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20230202BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20230202BHJP
F16F 15/067 20060101ALI20230202BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20230202BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20230202BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
F16F15/02 A
F16F15/02 Z
F16F15/023 Z
F16F15/067
F16F15/08 E
F16F15/02 L
F16F15/04 P
E04H9/02 331Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122996
(22)【出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(71)【出願人】
【識別番号】000145954
【氏名又は名称】株式会社昭電
(74)【代理人】
【識別番号】100135828
【弁理士】
【氏名又は名称】飯島 康弘
(72)【発明者】
【氏名】村井 和男
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 正人
(72)【発明者】
【氏名】古賀 弘将
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139CB05
2E139CB15
3J048AA02
3J048AB01
3J048AB08
3J048AB09
3J048AB11
3J048AC06
3J048AD05
3J048BA08
3J048BC02
3J048BC09
3J048BE03
3J048CB01
3J048CB21
3J048DA02
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】復元力及び減衰力の少なくとも一方を好適にアクティブ制御できる免震システムを提供する。
【解決手段】免震システム1において、受動要素9は、免震対象物5と支持構造物3とのD1方向の相対移動における復元力及び減衰力の少なくとも一方となる力F1を生じる。力F1は、力方向Dfにおいて免震対象物5と支持構造物3とに作用する。駆動部11が生じる駆動力は、受動要素9が免震対象物5に力F1を作用させる作用位置P2を免震対象物5に対して移動させて、D1方向に対する力方向Dfの傾斜角を変化させる。制御部41は、駆動部11を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1対象物及び第2対象物の一方である免震体を前記第1対象物及び前記第2対象物の他方である支持体に対して少なくとも第1移動方向に移動可能に支持するアイソレータと、
前記第1対象物と前記第2対象物との前記第1移動方向の相対移動における復元力及び減衰力の少なくとも一方となる、第1力方向において前記第1対象物と前記第2対象物とに作用する第1力を生じる第1受動要素と、
前記第1受動要素が前記第1対象物に前記第1力を作用させる第1作用位置を第1対象物に対して移動させて、前記第1移動方向に対する前記第1力方向の傾斜角を変化させる、駆動力を生じる第1駆動部と、
前記第1駆動部を制御する制御部と、
を有している免震システム。
【請求項2】
前記第1受動要素は、前記第1力方向における復元力を生じる復元要素を含む
請求項1に記載の免震システム。
【請求項3】
前記第1作用位置の前記第1対象物に対する移動方向は、前記傾斜角が大きくなるときに前記復元要素の前記第1力方向における復元力が小さくなる方向である
請求項2に記載の免震システム。
【請求項4】
前記第1受動要素は、前記第1力方向における減衰力を生じる減衰要素を含む
請求項1~3のいずれか1項に記載の免震システム。
【請求項5】
前記第1力が前記第2対象物に作用する第2作用位置は、前記第1作用位置の前記第1対象物に対する移動可能範囲の一端から他端への方向において、前記一端又は当該一端よりも前記他端とは反対側に常に位置している
請求項1~4のいずれか1項に記載の免震システム。
【請求項6】
前記第1駆動部は、前記支持体に振動が入力されていないときは前記第1作用位置を前記移動可能範囲の中央側に位置させる
請求項5に記載の免震システム。
【請求項7】
前記免震体は前記支持体に対して前記第1移動方向に案内されており、
前記第1駆動部は、前記第1移動方向及び前記第1力方向に沿う平面に沿う第1調整方向において、前記第1作用位置を前記第1対象物に対して駆動し、
前記第1調整方向は、前記第1移動方向に直交している
請求項1~6のいずれか1項に記載の免震システム。
【請求項8】
前記免震体は前記支持体に対して前記第1移動方向に案内されており、
前記第1駆動部は、前記第1移動方向及び前記第1力方向に沿う平面に沿う第1調整方向において、前記第1作用位置を前記第1対象物に対して駆動し、
前記第1調整方向は、前記平面内において前記第1移動方向に直交する方向に対して、当該直交する方向よりも前記第1力方向に対する傾斜が大きくなる側に傾斜している
請求項1~7のいずれか1項に記載の免震システム。
【請求項9】
前記免震体は前記支持体に対して前記第1移動方向に案内されており、
前記第1対象物と前記第2対象物との前記第1移動方向における相対移動における復元力及び減衰力の少なくとも一方となる、第2力方向において前記第1対象物と前記第2対象物とに作用する第2力を生じる第2受動要素と、
前記第2力が前記第1対象物に作用する第3作用位置を前記第1対象物に対して移動させて、前記第1移動方向に対する前記第2力方向の傾斜角を変化させる、駆動力を生じる第2駆動部と、
を有しており、
前記第1力方向及び前記第2力方向は、前記第1移動方向に直交する方向に対して互いに逆側に傾斜している
請求項1~8のいずれか1項に記載の免震システム。
【請求項10】
前記第1作用位置と前記第3作用位置とが連動して移動する
請求項9に記載の免震システム。
【請求項11】
前記アイソレータは、前記免震体を前記支持体に対して前記第1移動方向を含む平面に沿う任意の移動方向に移動可能に支持しており、
前記第1対象物と前記第2対象物との前記平面に沿う方向における相対移動における復元力及び減衰力の少なくとも一方となる、第2力方向において前記第1対象物と前記第2対象物とに作用する第2力を生じる第2受動要素と、
前記第2力が前記第1対象物に作用する第3作用位置を前記第1対象物に対して移動させる駆動力を生じる第2駆動部と、
前記第1対象物と前記第2対象物との前記平面に沿う方向における相対移動における復元力及び減衰力の少なくとも一方となる、第3力方向において前記第1対象物と前記第2対象物とに作用する第3力を生じる第3受動要素と、
前記第3力が前記第1対象物に作用する第4作用位置を前記第1対象物に対して移動させる駆動力を生じる第3駆動部と、
を有しており、
前記平面の平面視において、前記第1作用位置の移動による前記第1力方向の方位の移動範囲、前記第3作用位置の移動による前記第2力方向の方位の移動範囲、及び前記第4作用位置の移動による前記第3力方向の方位の移動範囲は、360°を3等分した互いに異なる角度範囲に位置している
請求項1~6のいずれか1項に記載の免震システム。
【請求項12】
前記第1受動要素は、
前記第1対象物に対して前記第1移動方向に直交する前記第1回転軸の回りに回転可能に前記第1対象物に連結される第1連結部と、
前記第2対象物に対して前記第1回転軸に平行な第2回転軸の回りに回転可能に前記第2対象物に連結される第2連結部と、
前記第1連結部と前記第2連結部との間に位置しており、前記第1連結部と前記第2連結部とを結ぶ前記第1力方向における前記第1連結部と前記第2連結部との相対位置及び相対運動の少なくとも一方に応じた大きさで前記第1力を生じる要素本体と、を有しており、
前記第1駆動部は、前記第1連結部の位置を、前記第1回転軸に直交するとともに前記第1力方向に交差する第1調整方向において、前記第1対象物に対して移動させる駆動力を生じる
請求項1~11のいずれか1項に記載の免震システム。
【請求項13】
前記第1対象物に対して前記第1調整方向に案内されるスライダを更に有しており、
前記第1連結部は、前記スライダに対して前記第1回転軸の回りに回転可能に前記スライダに連結されている
請求項12に記載の免震システム。
【請求項14】
前記制御部は、前記免震体の前記第1移動方向の振動の情報に基づく前記第1駆動部の制御について強化学習を行い、
前記強化学習における報酬は、前記免震体の前記支持体に対する相対的な変位の絶対値が小さいほど高くなり、かつ前記免震体の絶対的な加速度の絶対値が小さいほど高くなる
請求項1~13のいずれか1項に記載の免震システム。
【請求項15】
前記報酬は、複数のデータセットを有するテーブルに基づいて決定され、
前記複数のデータセットのそれぞれは、
前記免震体の前記支持体に対する相対的な変位の絶対値の範囲を示す第1範囲情報と、
前記免震体の絶対的な加速度の絶対値の範囲を示す第2範囲情報と、
前記報酬の高さを示す報酬情報と、を有しており、
前記複数のデータセット同士で、前記第1範囲情報が示す範囲、前記第2範囲情報が示す範囲、及び前記報酬情報が示す報酬の高さのいずれも重複しておらず、
前記第1範囲情報が示す範囲の下限値が小さいデータセットほど、前記第2範囲情報が示す範囲の下限値が小さく、かつ前記報酬情報が示す報酬の高さが高く、
取得された、前記免震体の前記支持体に対する相対的な変位の絶対値、及び前記免震体の絶対的な加速度の絶対値、に対応するデータセットが存在するときは、当該対応するデータセットの前記報酬情報が示す高さの報酬が用いられ、対応するデータセットが存在しないときは、いずれのデータセットの報酬よりも低い報酬が用いられる
請求項14に記載の免震システム。
【請求項16】
前記報酬は、前記免震体の前記支持体に対する相対的な変位の絶対値、及び前記免震体の絶対的な加速度の絶対値の2つの値のうちの一方の値のみに基づく、当該一方の値が小さいほど大きくなる指標値と、上記2つの値のうちの他方の値のみに基づく、当該他方の値が小さいほど大きくなる指標値と、の積に基づいて決定される
請求項14に記載の免震システム。
【請求項17】
前記制御部は、前記強化学習において、前記振動の情報として、
前記免震体の前記支持体に対する相対変位、前記免震体の絶対的な加速度、前記免震体の前記支持体に対する相対的な速度、及び前記第1作用位置の前記第1対象物に対する相対変位を用い、
前記支持体に加えられる絶対的な加速度、速度及び変位、並びに前記第1作用位置の前記第1対象物に対する相対速度を用いない、
請求項14~16のいずれか1項に記載の免震システム。
【請求項18】
第1対象物と第2対象物との移動方向の相対移動における復元力及び減衰力の少なくとも一方となる、力方向において前記第1対象物と前記第2対象物とに作用する第1力を生じる受動要素と、
前記受動要素が前記第1対象物に前記第1力を作用させる作用位置を前記第1対象物に対して移動させて、前記移動方向に対する前記力方向の傾斜角を変化させる駆動力を生じる駆動部と、
前記駆動部を制御する制御部と、
を有している振動調整装置。
【請求項19】
請求項1~17のいずれか1項に記載の免震システムに用いられるプログラムの生産方法であって、
前記免震体の前記第1移動方向の振動の情報に基づく前記第1駆動部の制御についての強化学習によって、学習済みのエージェントのプログラムを作成し、
前記強化学習における報酬は、前記免震体の前記支持体に対する相対的な変位の絶対値が小さいほど高くなり、かつ前記免震体の絶対的な加速度の絶対値が小さいほど高くなる
免震システム用プログラムの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、免震システム、振動調整装置及び免震システム用プログラムの生産方法に関する。なお、免震システムは、地震動に起因する振動を低減するためのシステムに限定されない。ただし、便宜上、慣例的に利用されている「免震システム」の語を用いる。振動調整装置は、免震システムに含まれ、復元力及び減衰力(減衰抵抗)の少なくとも一方を調整する装置である。免震システム用プログラムは、振動調整装置が有する駆動部の制御を行うためのものである。
【背景技術】
【0002】
免震対象物を当該免震対象物を支持する支持構造物に対して水平方向に相対変位可能とした免震システムが知られている(例えば特許文献1及び2)。このような免震システムは、地震が生じたときに免震対象物に加えられる加速度を減じることができる。しかし、その一方で、免震対象物の相対変位が過大になると、免震対象物とその周囲の構造物との衝突を招く等の不都合が生じる。
【0003】
特許文献1及び2では、復元力を生じる機構として、免震対象物の相対変位が大きくなると、免震対象物に作用する復元力のばね定数が実質的に小さくなるものを提案している。このような機構が設けられていると、長周期の地震動が生じた場合は、免震対象物が初期位置付近に位置するときに固有周期が比較的短いことから、免震対象物の共振が避けられ、ひいては、相対変位が過大になる蓋然性が低減される。また、短周期の地震動が生じた場合は、免震対象物が初期位置から離れたときに固有周期が比較的長くなることから、免震対象物の共振が避けられ、ひいては、加速度が過大になる蓋然性が低減される。
【0004】
特許文献1では、ばね定数の変化は、アクティブ制御及びパッシブ制御のいずれによって実現されてもよいことが開示されている。また、パッシブ制御の場合にリンク機構が利用されてよいことが開示されている。特許文献2では、ばね定数の変化は、免震対象物の振動を弾性部材に伝達する機構が、リンクとスライダとを組み合わせて構成されることによって実現されている。特許文献3では、不釣り合い力を利用する弾性機構が縦免震に利用されてよい旨が開示されている。なお、特許文献1~3の内容は、本願において、参照による援用(incorporation by reference)がなされてよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-163799号公報
【特許文献2】特開2020-085079号公報
【特許文献3】国際公開第2017/043230号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、アクティブ制御によってばね定数を変化させることが開示されているものの、その具体的な構成については開示されていない。従って、復元力及び減衰力の少なくとも一方を好適にアクティブ制御できる免震システム、振動調整装置及び免震システム用プログラムが提供されることが待たれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る免震システムは、第1対象物及び第2対象物の一方である免震体を前記第1対象物及び前記第2対象物の他方である支持体に対して少なくとも第1移動方向に移動可能に支持するアイソレータと、前記第1対象物と前記第2対象物との前記第1移動方向の相対移動における復元力及び減衰力の少なくとも一方となる、第1力方向において前記第1対象物と前記第2対象物とに作用する第1力を生じる第1受動要素と、前記第1受動要素が前記第1対象物に前記第1力を作用させる第1作用位置を第1対象物に対して移動させて、前記第1移動方向に対する前記第1力方向の傾斜角を変化させる、駆動力を生じる第1駆動部と、前記第1駆動部を制御する制御部と、を有している。
【0008】
本開示の一態様に係る振動調整装置は、第1対象物と第2対象物との移動方向の相対移動における復元力及び減衰力の少なくとも一方となる、力方向において前記第1対象物と前記第2対象物とに作用する第1力を生じる受動要素と、前記受動要素が前記第1対象物に前記第1力を作用させる作用位置を前記第1対象物に対して移動させて、前記移動方向に対する前記力方向の傾斜角を変化させる駆動力を生じる駆動部と、前記駆動部を制御する制御部と、を有している。
【0009】
本開示の一態様に係る免震システム用プログラムの生産方法は、上記免震システムに用いられるプログラムの生産方法であって、前記免震体の前記第1移動方向の振動の情報に基づく前記第1駆動部の制御についての強化学習によって、学習済みのエージェントのプログラムを作成し、前記強化学習における報酬は、前記免震体の前記支持体に対する相対的な変位の絶対値が小さいほど高くなり、かつ前記免震体の絶対的な加速度の絶対値が小さいほど高くなる。
【発明の効果】
【0010】
上記の構成によれば、復元力及び減衰力の少なくとも一方を好適にアクティブ制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1(a)及び
図1(b)は実施形態に係る免震システムの要点を説明するための模式図。
【
図2】第1実施形態に係る免震システムの概要を示す斜視図。
【
図3】
図2の免震システムが有する振動調整装置の構成を示す斜視図。
【
図5】
図3の振動調整装置の制御部が有しているエージェントの構成を示す概念図。
【
図6】
図5のエージェントの強化学習における報酬の一例を示す模式図。
【
図7】
図7(a)及び
図7(b)は
図5のエージェントの強化学習における報酬の他の例を示す模式図。
【
図8】第2実施形態に係る免震システムを示す平面図。
【
図9】第3実施形態に係る免震システムを示す平面図。
【
図10】第4実施形態に係る免震システムを示す平面図。
【
図11】第5実施形態に係る免震システムを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に係る実施形態について、図面を参照して説明する。以下の説明で用いられる図は模式的なものである。従って、例えば、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。寸法比率等が図面同士で一致しないこともある。特定の形状又は寸法等が誇張されて示されることもある。
【0013】
複数の実施形態のうち相対的に後に説明される実施形態については、基本的に、先に説明された実施形態との相違部分についてのみ説明する。特に言及が無い事項については、先に説明された実施形態と同様とされたり、先に説明された実施形態から類推されたりしてよい。実施形態間で互いに対応する構成要素については、相違点があっても、同一の符号を付すことがある。
【0014】
後述するように、復元力を生じる要素(「復元要素」と呼称する。)は、ばねに限定されない。ただし、便宜上、変位(ばねの伸びに相当)に対する復元力の変化率を「ばね定数」と呼称する。また、引っ張りに抗する復元力を「引張力」ということがあり、圧縮に抗する復元力を「圧縮力」ということがある。以下の説明における「直交」は、矛盾等が生じない限り、ねじれの位置を含むものとする。
【0015】
以下では、まず、実施形態に係る免震システムの要点(抽象的な概念)を簡単に述べる。その後、より具体化した種々の実施形態(第1~第5実施形態)について述べる。
【0016】
<実施形態に係る免震システムの要点>
(免震システムの構成)
図1(a)及び
図1(b)は、実施形態に係る免震システムの要点を説明するための模式図である。
図1(a)及び
図1(b)は、同一の免震システム1の互いに異なる状態を示している。これらの図には、直交座標系D1-D2-D3が付されている。
【0017】
図示の免震システム1は、支持構造物3に対してD1方向に移動可能に免震対象物5を支持するアイソレータ7(免震支承)を有している。また、免震システム1は、免震対象物5及び支持構造物3に連結されている受動要素9を有している。受動要素9は、免震対象物5のD1方向における振動に関して、復元力及び/又は減衰力を生じる。ここでは、復元力を例に取る。
【0018】
復元力(F1又はF2)が生じる方向は、例えば、受動要素9の支持構造物3に対する連結位置P1と、受動要素9の免震対象物5に対する連結位置P2とを結ぶ方向(以下、「力方向Df」と呼称する。)である。なお、力方向Dfは、復元力が作用する方向と捉えることもできる。連結位置P1及びP2は、力の作用位置と捉えることもできる。以下では、作用位置の語にP1及びP2の符号を付すことがある。
【0019】
力方向Dfは、免震対象物5の振動方向(D1方向)に対して所定の傾斜角θ(符号は
図4参照。ここではθ1又はθ2)で傾斜している。力方向Dfの復元力(F1又はF2)は、D1方向に平行な分力(F1x又はF2x)と、D1方向に直交する分力(F1y又はF2y)とに分けて考えることができる。そして、D1方向に平行な分力(F1x又はF2x)がD1方向における振動に関する復元力として作用する。
【0020】
連結位置P1及びP2の少なくとも一方(ここでは後者を例に取る。)は、駆動部11からの駆動力によって移動する。この移動方向は、免震対象物5の振動方向(D1方向)に対して交差(例えば直交)する方向(図示の例ではD2方向)である。別の観点では、連結位置P2の移動方向は、力方向Dfに交差する方向である。従って、連結位置P2が移動すると、D1方向に対する力方向Dfの傾斜角θが変化する。
図1(a)及び
図1(b)は、傾斜角が互いに異なる状態を示している。
【0021】
傾斜角θが変化することによって、免震対象物5のD1方向における振動の復元力として作用する分力(F1x又はF2x)の大きさが変化する。換言すれば、力方向Dfにおける復元力(F1又はF2)のうち、免震対象物5の振動に関して復元力として作用する分力(F1x又はF2x)が占める割合(cosθ)が変化する。これにより、免震対象物5のD1方向の振動におけるばね定数が実質的に変化し、ひいては、当該振動の固有周期が変化する。
【0022】
以上のように、実施形態に係る免震システム1は、アクティブ制御によって受動要素9(別の観点では力方向Df)の傾斜角θを変化させ、これにより、復元力(別の観点ではばね定数)を調整する。復元力を例に取ったが、減衰力(別の観点では減衰係数等)についても同様である。
【0023】
(免震システムの作用)
アクティブ制御の対象を受動要素9の傾斜角θとしていることによって、種々の効果を得ることができる。例えば、以下のとおりである。
【0024】
本実施形態に対する比較例としては、例えば、力方向Dfが免震対象物5の振動方向(D1方向)に平行になるように受動要素9を設け、受動要素9の連結位置P1又はP2を駆動部11によってD1方向に移動させる構成が挙げられる。
【0025】
本実施形態は、上記の比較例に対して、例えば、復元力を生じる受動要素9の設計の自由度が向上する。分かりやすく極端な例を挙げる。本実施形態においては、受動要素9が復元力を生じていても、傾斜角θを90°にすれば、D1方向の振動に関する復元力(F1x又はF2x)を0にすることができる。一方、上記の比較例においては、そのような調整は不可能である。このような相違から、実施形態は、受動要素9の設計の自由度が向上する。
【0026】
また、本実施形態では、例えば、連結位置P2(及び/又はP1)の位置の変化に対するD1方向におけるばね定数の実質的な変化を大きくすることが可能である。具体的には、例えば、以下のとおりである。
【0027】
まず、
図1(a)における傾斜角θ1は、
図1(b)における傾斜角θ2よりも小さいから、D1方向の分力(F1x又はF2x)が力方向Dfに占める割合(cosθ)は、
図1(a)の方が
図1(b)よりも大きい。すなわち、傾斜角θだけに着目した場合、
図1(a)は、
図1(b)よりもばね定数が大きくされる。
【0028】
ここで、図示の例において、受動要素9は、
図1(a)及び
図1(b)のいずれにおいても圧縮状態のばねであると仮定する。このとき、
図1(a)における連結位置P1及びP2の距離は、
図1(b)における連結位置P1及びP2の距離よりも短いから、
図1(a)における復元力F1は、
図1(b)における復元力F2よりも大きい。従って、傾斜角θの影響を考えない場合、
図1(a)は、
図1(b)よりもD1方向におけるばね定数が実質的に大きくされることになる。
【0029】
従って、連結位置P1及びP2の距離の変化(力方向Dfにおける復元力の変化)によるD1方向におけるばね定数の実質的な変化と、傾斜角θの変化によるD1方向におけるばね定数の実質的な変化とが足し合わされることになる。これにより、連結位置P2の位置の変化に対するD1方向におけるばね定数の実質的な変化を大きくすることができる。その結果、例えば、連結位置P2の移動可能範囲に対する固有周期の変化可能範囲を大きくすることができる。別の観点では、連結位置P2の移動可能範囲を小さくして免震システム1を小型化できる。
【0030】
なお、上記とは逆に、連結位置P2(及び/又はP1)の位置の変化に対するD1方向におけるばね定数の実質的な変化が小さくされてもよい。
【0031】
例えば、上記の仮定とは逆に、図示の例において、受動要素9は、
図1(a)及び
図1(b)のいずれにおいても引っ張り状態のばねであってよい。この場合は、例えば、
図1(a)の状態から
図1(b)の状態へ遷移すると、連結位置P1及びP2の距離の増加による復元力の増加と、傾斜角θの増加による復元力の減少とが生じる。すなわち、距離の変化によるばね定数の変化と、傾斜角の変化によるばね定数の変化とは、その少なくとも一部同士が相殺される。このような態様においては、例えば、連結位置P2の移動量に対するばね定数の変化量が小さくされるから、駆動部11の制御誤差がばね定数の制御誤差に及ぼす影響を低減できる。
【0032】
また、上記の2つの態様が組み合わされても構わない。例えば、受動要素9は、
図1(a)においては圧縮力を生じ、
図1(b)においては引っ張り力を生じてよい。
【0033】
受動要素9が復元力を生じる場合について述べたが、受動要素9が減衰力を生じる場合については、例えば、アクティブ制御が容易化される。具体的には、例えば、以下のとおりである。
【0034】
減衰力を生じる受動要素9として、連結位置P1及びP2の距離によらず、連結位置P1及びP2の相対速度に比例する減衰力を生じる典型的なオイルダンパーを想定する。この場合、上述した比較例において、連結位置P2を移動させて減衰係数を変化させるためには、連結位置P2の速度を制御することになる。そして、免震対象物5の振動状態に応じた所望の速度(別の観点では所望の減衰係数)を得るように制御を行ったとき、速度の積分値である連結位置P2の移動量が、オイルダンパーのストロークに収まるとは限らない。すなわち、制御が難しい。
【0035】
一方、本実施形態では、D1方向における減衰係数は、D1方向におけるばね定数と同様に、オイルダンパー自体の減衰係数にcosθを乗じたものとなる。そして、D1方向における減衰係数の実質的な変化は、連結位置P2(及び/又はP1)の移動による傾斜角θの変化によって実現される。すなわち、連結位置P2の位置の制御によって減衰係数が実質的に調整される。従って、上述した比較例におけるような不都合は生じない。
【0036】
<第1実施形態>
図2は、第1実施形態に係る免震システム1Aの概要を示す模式的な斜視図である。この図では、直交座標系xyzが付されている。xy平面は、例えば、水平な面である。以下では、特に断りなく、xy平面が水平であることを前提とした説明を行うことがある。
図2では、後述する免震部材23が取り外された状態が示されている。
【0037】
免震システム1Aは、概念的に示した免震システム1と同様に、受動要素9(
図2では不図示)の傾斜角θを制御する。この点を除いて、免震システム1Aの構成は、種々の態様とされてよく、例えば、公知の態様とされても構わない。以下では、公知の態様とされても構わない構成については、適宜に説明を省略することがある。
【0038】
免震システム1Aは、例えば、以下の構成要素を有している。アイソレータ7の具体例としてのアイソレータ7A。
図1(a)に示した受動要素9及び駆動部11を含む振動調整装置31(符号は
図3参照)。
【0039】
免震システム1Aは、上記以外の種々の構成要素を有していてよい。例えば、特に図示しないが、免震システム1Aは、振動調整装置31とは別個に、復元力を生じる復元要素及び/又は減衰力を生じる減衰要素を有してよい。このような復元要素及び/又は減衰要素は、例えば、アイソレータ7Aと一体不可分のものであってもよいし、アイソレータ7Aとは別個のものであってもよい。なお、前者の場合においては、復元要素及び/又は減衰要素は、換言すれば、アイソレータ7Aの復元機能及び/又は減衰機能を構成要素として概念化したものである。なお、前者及び後者のいずれにおいても、図示されない復元要素及び/又は減衰要素は、振動調整装置31の一部として捉えられても構わない(単に振動調整装置の定義の問題として捉えられて構わない。)。
【0040】
第1実施形態に係る以下の説明では、概略、以下の順で説明を行う。
・支持構造物3、免震対象物5及びアイソレータ7(7A)
・振動調整装置31
・免震システム1Aの制御
・第1実施形態のまとめ
免震システム1Aの制御は、より具体的には、駆動部11によって連結位置P2を移動させるときの制御である。
【0041】
(支持構造物、免震対象物及びアイソレータ)
図1(a)及び
図1(b)に示した免震対象物5及び支持構造物3の具体的な組み合わせは任意である。例えば、免震対象物5及び支持構造物3の組み合わせは、建築物(家屋等)及び当該建築物を支持する基礎部分の組み合わせであってよく、また、什器及び当該什器を支持する建築物の組み合わせであってよい。とりわけ、建築物に支持される物のうち免震されることが好ましい物としては、例えば、芸術品及びコンピュータ機器(サーバ)が挙げられる。また、ビルの高層階又は屋上等に配置される免震対象物5は、ビルの共振によって大きな加速度及び/又は変位で振動する可能性が高いことから、免震されることが好ましいとともに、変位が抑制されることが好ましい。上記の例示から理解されるように、実施形態に係る免震システムが適用される対象の大きさは任意である。
【0042】
免震システム1(1A)において、支持構造物3に対する免震対象物5の移動方向は、水平方向及び上下方向のいずれであってもよく、また、双方であっても構わない。また、上記移動方向が水平方向である場合において、免震システム1(アイソレータ7A)は、一の水平方向における免震対象物5の移動を許容するものであってもよいし、任意の水平方向における免震対象物5の移動を許容するものであってもよい。本実施形態では、免震対象物5の任意の水平方向における移動が許容される態様を例に取る。
【0043】
図1(a)及び
図1(b)に示したアイソレータ7は、例えば、支持構造物3と免震対象物5との間に介在している。アイソレータ7は、例えば、公知の構成と同様とされてよい。公知のアイソレータとしては、積層ゴム、転がり支承又は滑り支承が挙げられる。
【0044】
図2では、アイソレータ7の具体例としてのアイソレータ7Aが示されている。アイソレータ7Aは、支持構造物3に固定される支持部材21と、免震対象物5に固定される免震部材23とを有している。免震部材23は、支持部材21に支持されているとともに、xy平面に沿う(例えばxy平面に平行な)任意の方向(任意の水平方向)における移動が許容されている。これにより、支持構造物3に対する免震対象物5の任意の水平方向における移動が許容されている。
【0045】
なお、ここでの説明とは異なり、支持部材21は、支持構造物3の一部であってもよい。同様に、免震部材23は、免震対象物5の一部であってもよい。また、別の観点では、アイソレータ7(7A)は、支持構造物3及び/又は免震対象物5と明瞭に区別できなくてもよい。
【0046】
支持部材21及び免震部材23の形状、寸法及び材料は任意である。図示の例では、これらは、概略、板状に構成されており、また、平面視において、矩形状である。実際の形状は、このような形状と全く異なっていても構わない。ただし、実施形態の説明では、便宜上、支持部材21及び免震部材23の形状が矩形の板状であることを前提とした説明を行うことがある。
【0047】
アイソレータ7Aは、例えば、支持部材21と免震部材23との間に介在する中間部材25を有している。中間部材25は、x方向に延びるリニアガイド27Xによって支持部材21に対してX方向に移動可能とされている。免震部材23は、y方向に延びるリニアガイド27Yによって中間部材25に対してy方向に移動可能に移動可能とされている。これにより、免震部材23は、支持部材21に対して、任意の水平方向に移動可能とされている。
【0048】
中間部材25の形状、寸法及び材料は任意である。図示の例では、中間部材25は、後述するように、受動要素9等を収容可能な構成とされている。また、中間部材25の上面及び下面には、受動要素9と中間部材25の外部の部材(支持部材21又は免震部材23)とを連結するための開口29a(下面の開口29aについては
図3参照)が形成されている。
【0049】
ただし、後述する説明から理解されるように、受動要素9は、中間部材25の外部に設けることも可能であるし、中間部材25の内部から中間部材25の側面に形成された開口(不図示)を介して中間部材25の外部の部材と連結されることも可能である。従って、中間部材25の形状は、上面及び下面に開口29aを有さない形状であっても構わない。
【0050】
リニアガイド27Xによって、中間部材25は、支持部材21に対してx方向に案内されている。別の観点では、中間部材25は、支持部材21に対するx方向以外の方向における移動が規制されている。ただし、中間部材25の上下方向の移動は、リニアガイド27Xによらずに、重力と反力とによって規制されていてもよい。支持部材21、中間部材25及びリニアガイド27Xを例に取って説明したが、中間部材25、免震部材23及びリニアガイド27Yについても同様である。
【0051】
リニアガイド27X及び27Yは、例えば、レールと、レールに案内される被案内部材とを有してよい。これらの部材は、支持部材21、中間部材25又は免震部材23の一部であってもよい。レールと被案内部材との間には、転がる部材(例えばボール)が介在してもよいし、介在しなくてもよい。前者の場合において、リニアガイドは、例えば、総ボール式又はボールリテーナ式とされてよい。
【0052】
支持部材21及び中間部材25のうち、いずれにレールが設けられてもよい。中間部材25及び免震部材23についても同様である。図示の例では、リニアガイド27X及び27Yは、平面視で矩形状の支持部材21及び免震部材23の辺に平行に延びている。図示の例とは異なり、リニアガイド27X及び27Yは、対角線の方向に延びていてもよい。
【0053】
(振動調整装置)
図3は、振動調整装置31の構成を示す斜視図である。
図3は、
図2において、免震部材23の図示を省略するとともに、中間部材25の一部を透視した図に相当する。また、
図4は、振動調整装置31の構成を示す平面図である。
図4は、
図3よりも模式的とされている一方で、
図3では図示が省略されている構成要素が示されている。
【0054】
図3及び
図4の説明においては、支持部材21が
図1(a)及び
図1(b)の支持構造物3に相当し、中間部材25が
図1(a)及び
図1(b)の免震対象物5に相当する。振動調整装置31は、
図1(a)及び
図1(b)の受動要素9の具体例として、復元力を生じる復元要素33を有している。
【0055】
復元要素33は、支持部材21に連結される連結部33aと、中間部材25に連結される連結部33bと、連結部33a及び33bの間で復元力を生じる要素本体33cとを有している。連結部33aは、
図1(a)及び
図1(b)の連結位置P1に相当する。連結部33bは、
図1(a)及び
図1(b)の連結位置P2に相当する。なお、以下では、便宜上、連結部33a及び33bを連結位置P1及びP2と同一視した表現をすることがある。
【0056】
中間部材25は、支持部材21に対してx方向に振動するから、x方向は、
図1(a)及び
図1(b)のD1方向(免震対象物5の振動方向)に相当する。そして、連結部33bは、x方向に交差(より詳細には直交)するy方向(D2方向に相当)において駆動部11によって駆動される。
【0057】
上記のような構成により、中間部材25の支持部材21に対するx方向の振動に関して、
図1(a)及び
図1(b)を参照して説明した効果と同様の効果が奏される。ひいては、免震部材23(別の観点では免震対象物5)の支持部材21(別の観点では支持構造物3)に対するx方向の振動に関して、
図1(a)及び
図1(b)を参照して説明した効果と同様の効果が奏される。
【0058】
復元要素33の連結部33bのy方向における移動は、例えば、中間部材25に対して移動可能なスライダ35に連結部33bが連結されていることによって実現されている。
図4では、スライダ35の移動可能範囲が点線で示されている。すなわち、スライダ35は、
図4の点線で示された領域にスライダ35が収まる範囲内でy方向に移動する。
【0059】
復元要素33に加えて、傾斜角θ(
図4)の変化を実現するための部材(例えばスライダ35)を含み、かつ駆動部11を含まない構成を復元機構37と呼称するものとする。振動調整装置31は、2つの復元機構37を有している。2つの復元機構37は、例えば、互いに同一の構成とされており、x方向に直交する不図示の対称面に対して面対称に配置されている。上記の説明とは異なり、2つの復元機構37は、互いに異なる構成とされても構わない。ただし、実施形態の説明では、特に断りがない限り、両者は同一の構成であるものとする。
【0060】
振動調整装置31は、上記に述べた構成要素の他、例えば、以下の構成要素を有してよい。中間部材25のx方向における振動に関して減衰力を生じる減衰要素39(
図4)。駆動部11を制御する制御部41(
図4)。振動に関する情報を検出して制御部41へ入力するセンサ43(
図4)。
【0061】
振動調整装置31に係る以下の説明では、概略、以下の順に説明を行う。
・復元機構37
・駆動部11(及びスライダ35の移動の態様)
・減衰要素39
・制御部41
・センサ43
・免震部材23の中間部材25に対するy方向の振動に係る振動調整装置
【0062】
(復元機構)
復元機構37は、既述のように、復元要素33と、スライダ35とを有している。復元機構37に係る以下の説明では、概略、以下の順に説明を行う。
・復元要素33の構成
・復元要素33の配置等
・その他の構成(スライダ35等)
【0063】
(復元要素の構成)
復元要素33(要素本体33c)は、入力された変位に応じた復元力を生じる。この復元力は、例えば、変位の増加に伴って変位の方向とは逆方向への力を増す。すなわち、復元要素33は、正のばね特性を有しており、ばね定数は、一般に正の値で表現される。なお、復元要素33は、変位の増加に伴って変位の方向と同一方向への力を増す、負のばね特性を有するものとされることも可能である。ただし、実施形態の説明では、特に断りがない限り、復元要素33は、正のばね特性を有しているものとする。
【0064】
本実施形態では、復元要素33に入力される変位は、連結部33a及び33bの距離の変化に由来する。復元力は、変位が大きいほど大きく、例えば、変位に比例する。復元力が生じる方向は、例えば、連結部33a及び33bを結ぶ方向(
図1(a)及び
図1(b)の力方向Dfに相当)である。既に言及したように、復元要素33(要素本体33c)は、圧縮力を生じるもの、引張力を生じるもの、又は双方を生じる(入力された変位に応じていずれか一方を生じる)ものであってよい。
【0065】
復元要素33(要素本体33c)の構成は、公知の種々の構成と同様とされてよい。例えば、復元要素33は、つる巻きばね、板ばね、空気ばね、又はゴムを含んで構成されてよい。すなわち、復元要素33は、適宜な弾性体を含んで構成され、変形に伴って生じる弾性力を復元力としてよい。なお、弾性体以外の構成によって復元要素33を実現することも可能である。例えば、復元要素33は、上方に凹となる湾曲面を転がる、又は滑る部材に働く重力を復元力に変換する機構であってもよい。また、復元要素33は、力方向Dfに作用する復元力以外の他の力も生じる構成要素における、力方向Dfに作用する復元力を生じる機能が概念化されたものであっても構わない。
【0066】
図示の例では、復元力を生じる要素本体33cは、作用位置P1及びP2の間に位置している。ただし、要素本体33cは、作用位置P1及びP2の外部に位置することも可能である。例えば、一端が作用位置P1に固定されるワイヤーを設ける。また、作用位置P2に滑車(又はピン等)を設ける。ワイヤーは、作用位置P1から作用位置P2を経由して、適宜な方向(力方向Dfとは異なる方向)に延ばされる。その先に、引っ張り力を生じる要素本体33c(例えばつる巻きばね)を接続する。つる巻きばねのワイヤーとは反対側の端部は、支持部材21の適宜な位置に連結される。
【0067】
なお、上記の説明から理解されるように、図示の例とは異なり、作用位置P1及びP2は、復元要素33の支持部材21及び免震部材23に対する連結位置である必要はない。また、別の観点では、力方向Dfは、復元力が支持部材21及び免震部材23に対して作用する方向であればよく、復元力が生じる方向でなくてもよい。
【0068】
また、特に図示しないが、要素本体33cと、復元要素33の支持部材21及び/又は中間部材25に対する連結位置との間には、力を増加又は減少させる機構(歯車機構等)が介在してもよい。このような機構については、例えば、特許文献2を参照されたい。
【0069】
(復元要素の配置等)
既に言及したように、復元要素33は、力方向Dfにおける力の増減と、傾斜角θによる力の増減とが足し合わされるように配置されてもよいし、一部同士が相殺されるように配置されてもよいし、足し合わせと相殺との双方が生じる(入力された変位に応じていずれか一方が生じる)ように配置されてもよい。実施形態の説明では、特に断りなく、力方向Dfにおける力の増減と、傾斜角θによる力の増減とが足し合わされる態様を前提とした説明を行うことがある。
【0070】
力方向Dfにおける力の増減と傾斜角θによる力の増減とが足し合わされる場合、図示の例では、復元要素33は、スライダ35がその移動可能範囲のいずれに位置しても復元要素33が圧縮状態となるように初期変位が与えられる。また、スライダ35の移動方向(図示の例ではy方向)は、傾斜角θが増加する方向に移動したときに、復元力が減少する方向である。
【0071】
特に図示しないが、復元要素33が引っ張り力を生じるものであり、かつ力方向Dfにおける力の増減と傾斜角θによる力の増減とを足し合わせる場合は、例えば、スライダ35をx方向に移動させたり、作用位置P1をx方向に移動させたりしてよい。また、例えば、図示の例のようにy方向に移動するスライダ35に滑車を設け、作用位置P1から延びて滑車を経由したワイヤーの先に引っ張りばねを連結し、引っ張りばねのワイヤーとは反対側の端部を、スライダ35から+y側に離れた位置にて、中間部材25に連結してよい。
【0072】
作用位置P2(スライダ35)の移動方向は、作用位置P2の移動によって傾斜角θを変化させることができる限り、任意である。このような移動方向は、中間部材25の振動方向(x方向)に交差する方向であり、また、力方向Dfに傾斜する方向である。図示の例では、作用位置P2の移動方向は、x方向及び力方向Dfの双方に沿う(例えば双方に平行な)平面に沿う(例えば上記平面に平行な)方向とされている。すなわち、これらの3つの方向は、同一平面に沿っている。
【0073】
また、図示の例では、上記の3つの方向が沿う平面は、上下方向に直交する平面(水平面)とされている。ただし、
図1(a)及び
図1(b)において、D1方向が水平方向であり、D2方向が上下方向であると仮定すれば明らかなように、上記平面は、水平方向に直交する平面であっても構わない。
【0074】
また、図示の例では、作用位置P2の移動方向は、中間部材25の振動方向(x方向)に直交する方向とされている。なお、当該方向以外の例については、後述する第2実施形態(
図8)の説明で述べる。
【0075】
作用位置P2の移動方向(y方向)において、作用位置P1と、作用位置P2の移動可能範囲との相対位置は任意である。図示の例では、作用位置P1は、y方向において、移動可能範囲の一端(図示の例では-y側の端部)に位置している。図示の例とは異なり、作用位置P1は、y方向において、-y側の端部よりも移動可能範囲の外側(-y側)に位置していてもよい。さらに図示の例とは異なり、作用位置P1は、y方向において、作用位置P2の移動可能範囲の両端よりも内側に位置してもよい。この位置の相違に起因する作用の相違については後述する。
【0076】
なお、作用位置P2の移動可能範囲は、スライダ35を案内する部材(図示の例では後述するリニアガイド45)の駆動限によって規定されてもよいし、駆動部11が有する構成(例えばリニアモータ又はボールねじ機構)の駆動限によって規定されてもよい。
【0077】
作用位置P2の移動方向(y方向)とは異なる方向(例えばx方向)においても、作用位置P1と作用位置P2の移動可能範囲との相対位置は任意である。この相対位置は、作用位置P2の移動量に対する傾斜角θの変化量、作用位置P2の移動量に対する作用位置P1及びP2の距離の変化量(復元要素33に入力される変位の増減量)、免震システム1の大きさ等を考慮して、適宜に設定されてよい。
【0078】
図示の例では、作用位置P1は、x方向(作用位置P2の移動方向に直交する方向)において、作用位置P2の移動可能範囲に対して、免震システム1A(より詳細には中間部材25)の内側に位置している。ただし、図示の例とは逆に、作用位置P1は、中間部材25の外側に位置していても構わない。
【0079】
地震が生じていないとき(換言すれば支持部材21に振動が入力されていないとき)、作用位置P2は、移動可能範囲の中央側に位置してよい(そのように駆動部11の制御が行われてよい。)。すなわち、作用位置P2の初期位置は、移動可能範囲の中央側とされてよい。ここでいう中央側は、例えば、移動可能範囲を3等分したときの中央の範囲である。さらに、作用位置P2の初期位置は、移動可能範囲の中央(一端と他端とのちょうど中間)の位置とされてよい。
【0080】
2つの復元機構37(2組の復元要素33及びスライダ35)は、既述のように、x方向に直交する不図示の対称面に対して面対称に配置されている。別の観点では、復元要素33(換言すれば力方向Df)は、y方向に対して互いに逆側に傾斜している。なお、本実施形態の説明では、2つの復元機構37が互いに同一の構成であることを前提としているが、上記の復元要素33が互いに逆側に傾斜する関係は、2つの復元機構37が互いに異なる構成(例えば互いにばね定数が異なる構成)とされている態様で成立してもよい。
【0081】
(復元機構のその他の構成)
スライダ35の形状、寸法及び材料は任意である。また、スライダ35をy方向に移動可能に案内するための構成も任意である。
図3の例では、スライダ35は、リニアガイド45によってy方向に案内されている。リニアガイド27X及び27Yの説明は、矛盾等が生じない限り、リニアガイド45に援用されてよい。
【0082】
より具体的には、
図3の例では、中間部材25は、支持部材21に対して対向する基部29を有している。リニアガイド45は、基部29の支持部材21とは反対側(+z側)の面にレール(符号省略)を有している。そして、スライダ35は、基部29の+z側の面においてy方向に移動する。なお、図示の例とは異なり、スライダ35は、例えば、基部29の支持部材21側(-z側)の面、基部29の開口29aの内面、又は基部29の側面(開口29aとは反対側の面)に位置していても構わない。
【0083】
復元要素33の連結部33aは、例えば、支持部材21(別の観点では作用位置P1)に対して固定的な回転軸R1の回りに回転可能に支持部材21に連結されている。また、復元要素33の連結部33bは、例えば、スライダ35(別の観点では作用位置P2)に対して固定的な回転軸R2の回りに回転可能にスライダ35(別の観点では中間部材25)に連結されている。回転軸R1及びR2は、例えば、中間部材25の振動方向(x方向)及びスライダ35の移動方向(y方向)に沿う(例えば平行な)平面(xy平面)に直交しており、また、互いに平行である。
【0084】
このように復元要素33が回転可能に支持部材21及びスライダ35に連結されている場合、理論上、復元要素33と、作用位置P1又はP2との間では、力方向Dfにおける力のみが作用する。なお、回転軸R1及びR2は、具体的な部材を指すものではなく、回転中心を示す概念的な軸である。
【0085】
回転軸R1における連結に係る具体的な構成は任意である。
図3の例では、支持部材21は、作用位置P1にて+z側へ突出する軸部材47を有している。復元要素33の連結部33aは、軸部材47に連結されている。そして、軸部材47が支持部材21(軸部材47以外の部分)に対して回転可能であることにより、及び/又は連結部33aが軸部材47に対して回転可能であることにより、復元要素33は、支持部材21に対して回転軸R1回りに回転可能となっている。
【0086】
回転軸R2における連結に係る具体的な構成も任意である。
図3の例では、スライダ35は、作用位置P2にて+z側へ突出する軸部材35aを有している。復元要素33の連結部33bは、軸部材35aに連結されている。そして、軸部材35aがスライダ35(軸部材35a以外の部分)に対して回転可能であることにより、及び/又は連結部33aが軸部材35aに対して回転可能であることにより、復元要素33は、支持部材21に対して回転軸R2回りに回転可能となっている。
【0087】
作用位置P1についての既述の説明から理解されるように、平面視において、支持部材21の軸部材47は、例えば、中間部材25の外縁よりも内側に位置している。軸部材47は、中間部材25の基部29に形成された開口29aを通過するように+y側へ延びる。これにより、軸部材47と復元要素33の連結部33aとの連結位置と、スライダ35の軸部材35aと復元要素33の連結部33bの連結位置とは、概ね同等の高さとなっており、ひいては、力方向Dfは、概ねxy平面に平行となっている。軸部材47は、2つの復元要素33それぞれに対して設けられていてもよいし(図示の例)、2つの復元要素33に共用されていてもよい。
【0088】
図示の例とは異なり、作用位置P1についての既述の説明から理解されるように、軸部材47は、中間部材25の外側に位置してもよい。例えば、中間部材25に対して-y側に位置してもよい。また、例えば、軸部材47は、中間部材25のx方向の外側に位置してもよい。この場合、力方向Dfは、y方向に対する傾斜が図示の例とは逆である。また、スライダ35が中間部材25に対して支持部材21側に位置してよい旨の既述の説明から理解されるように、スライダ35の軸部材35aが支持部材21側に突出してもよい。なお、これらの場合においては、開口29aは不要である。
【0089】
(駆動部)
駆動部11(
図4)は、駆動力を生じる駆動源11aを有している。駆動源11aは、中間部材25に設けられてもよいし(図示の例)、スライダ35に設けられてもよい。前者の場合において、
図4において実線で示すように、2つの復元機構37に共用される1つの駆動源11aが設けられてもよいし、
図4において点線で駆動源11aを追加して示すように、復元機構37ごとに駆動源11a(駆動部11)が設けられてもよい。駆動源11aがスライダ35に設けられる場合、例えば、復元機構37ごとに駆動源11aが設けられる。ただし、2つのスライダ35を連結することなどによって、1つの駆動源11aを2つの復元機構37で共用することも可能である。
【0090】
2つのスライダ35は、連動して移動してよい。換言すれば、一方のスライダ35の移動と、他方のスライダ35の移動との間には、一定の法則が存在してよい。また、別の観点では、一方のスライダ35の制御量(位置)の目標値が決定されると、他方のスライダ35の制御量の目標値が自動的に決定されてよい。ただし、2つのスライダ35は、互いに独立に制御量が決定されてもよい。
【0091】
2つのスライダ35が連動して移動する態様において、2つのスライダ35は、例えば、共に同一の移動量(別の観点では速度)で移動してもよいし、互いに異なる移動量で移動してもよい。前者の場合において、2つのスライダ35のy方向の位置は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0092】
2つのスライダ35の連動は、機械的(ハードウェア的)に実現されてもよいし、制御的(ソフトウェア的)に実現されてもよい。前者としては、例えば、2つのスライダ35で駆動源11aが共用されている態様が挙げられる。この場合、2つのスライダ35は、互いに連結されて共に移動してもよいし、駆動源11aの駆動力を伝達する互いに別個の伝達機構によって駆動されてもよい。後者の場合、2つの伝達機構の変速比は、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。また、制御的(ソフトウェア的)に連動が実現される態様としては、駆動源11a(換言すれば駆動部11)がスライダ35ごとに設けられ、2つのスライダ35の制御量(位置)の目標値に一定の法則がある(例えば両者が同じ)態様が挙げられる。
【0093】
駆動部11(駆動源11a)は、電動式、油圧式又は空圧式等の適宜な方式のものとされてよい。実施形態の説明では、特に断りなく、電動式を例に取ることがある。また、実施形態の説明において、モータは、電動機を指す。電動式の駆動源11a(モータ)は、回転式のものであってもよいし、リニアモータであってもよい。また、モータは、直流モータでも交流モータでもよいし、誘導モータでも同期モータでもよい。駆動源11aが回転式のものである場合においては、駆動部11は、回転運動を並進運動に変換する変換機構を有してよい。このような変換機構としては、例えば、ねじ機構(ボールねじ機構又は滑りねじ機構)及びラックアンドピニオン機構が挙げられる。
【0094】
(減衰要素)
減衰要素39は、既述のように、中間部材25のx方向における振動に関して減衰力を生じる。より詳細には、減衰力は、支持部材21に対する中間部材25の速度の方向とは反対方向へ中間部材25に対して作用する。減衰力は、例えば、速度の増加に伴って増加し、典型的には、速度に対して比例する。
【0095】
減衰要素39の構成は、種々の態様とされてよく、公知の態様とされても構わない。例えば、減衰要素39は、免震システムに一般的に利用されている、オイルダンパー、鋼材ダンパー又は鉛ダンパーとされてよい。念のために記載すると、オイルダンパーは、中間部材25及び支持部材21の一方に連結されたピストンと、他方に連結されたシリンダとを有し、シリンダに対するピストンの移動に伴ってシリンダ内の粘性流体(例えば油)が流れるときの粘性抵抗によって減衰力を得る。鋼材ダンパー及び鉛ダンパーは、中間部材25及び支持部材21に連結された適宜な形状の金属部材からなり、金属の延性を利用して減衰力を得る。この他、減衰要素39は、中間部材25及び支持部材21の相対移動に伴って摩擦力を生じるものとされたり、中間部材25及び支持部材21の相対移動を粘性流体内に配置された回転体の回転に変換するものとされたりしてもよい。
【0096】
なお、既述のように、免震システム1Aは、アイソレータ7Aが減衰機能を有したり、振動調整装置31とは別個に減衰要素が設けられたりしてよい。従って、振動調整装置31は、減衰要素39を有していなくてもよい。また、図示の減衰要素39は、アイソレータ7A等の減衰機能を概念化したものと捉えられてもよい。
【0097】
(制御部)
制御部41は、例えば、コンピュータによって構成されてよい。コンピュータは、例えば、特に図示しないが、CPU(central processing unit)、ROM(read only memory)、RAM(random access memory)及び外部記憶装置を含んで構成されている。CPUがROM及び/又は外部記憶装置に記憶されているプログラムを実行することによって、制御等を行う各種の機能部(例えば後述のエージェント51)が構築される。なお、制御部41は、一定の処理のみを行う論理回路を含んでいてもよい。
【0098】
特に図示しないが、制御部41は、ユーザの操作を受け付ける入力部、及び/又はユーザに情報を提示する表示部を有してよい。あるいは、制御部41は、入力部及び/又は表示部を接続可能なインターフェースを有してよい。また、制御部41は、インターネット等のネットワーク61に接続されている、又は接続可能な通信部(あるいは通信部を接続可能なインターフェース)を有してよい。これらの構成要素は、例えば、各種の設定(例えば制御条件の設定)、各種の情報(例えばデータ及び/又はプログラム)のダウンロード、及び/又は各種の情報のアップロード等に利用されてよい。
【0099】
制御部41は、免震システム1Aにおいて、任意の位置に配置されてよい。例えば、支持部材21、中間部材25及び免震部材23のいずれに配置されてもよいし、これらのいずれの部材からも離れた位置に配置されてもよい。また、制御部41は、ハードウェア的に複数の位置に分散されていても構わない。制御部41と、センサ43又は駆動源11aとの間の信号の伝達は、有線及び無線のいずれで行われてもよい。
【0100】
制御部41は、例えば、不図示のドライバを介して駆動源11aとしてのモータを制御する。これにより、制御部41は、スライダ35の中間部材25に対するy方向の位置の制御(位置制御)を行う。制御部41は、スライダ35の中間部材25に対する位置を検出するセンサの検出値に基づくフィードバック制御(フルクローズド式)を行ってよい。あるいは、制御部41は、駆動源11aが有しているセンサ(例えばエンコーダ又はレゾルバ)の検出値、及び/又はドライバからの信号に基づくフィードバック制御(セミクローズド式)を行ってもよい。また、制御部41は、フィードバックがなされないオープンループ制御を行ってもよい。制御部41は、位置制御に加えて、その下位の制御(例えばマイナーループの制御)として、速度制御及び加速度制御(又はトルク制御)を行ってもよい。
【0101】
制御部41は、例えば、種々のタイプ(例えば種々の周期)の地震動において、中間部材25の変位及び加速度の双方が低減されるように駆動源11aを制御する。その制御方法については後述する。
【0102】
(センサ)
免震システム1A(別の観点では振動調整装置31)は、種々のセンサを有してよい。
図4に示すセンサ43は、特定のセンサを示しているのではなく、免震システム1Aが有してよい種々のセンサの任意の1つを模式的に示しているものとして捉えられてよい。従って、以下の説明では、便宜上、1以上のセンサ43等ということがある。
【0103】
1以上のセンサ43は、例えば、制御部41による駆動部11の制御に用いられる、振動に係る種々の情報を取得してよい。このような情報としては、例えば、以下のものが挙げられる。説明を短くするために、支持部材21及び中間部材25の組み合わせ、中間部材25及び免震部材23の組み合わせ、及び支持構造物3及び免震対象物5の組み合わせを、支持体及び免震体の組み合わせと呼称するものとする。このとき、複数のセンサ43によって検出される情報としては、支持体に対する免震体の相対変位、相対速度及び相対加速度、免震体の絶対的な変位、速度及び加速度、並びに支持体の絶対的な変位、速度及び加速度が挙げられる。
【0104】
なお、絶対的な変位、速度及び加速度は、例えば、絶対座標系(ワールド座標系、基準座標系)における変位、速度及び加速度を指す。支持体が支持構造物3又は支持部材21である場合、支持体の絶対的な変位、速度及び加速度は、地震動の変位、速度及び加速度と捉えられてもよい。また、念のために記載すると、1以上のセンサ43は、上記の種々の情報の全てを取得する必要はなく、必要な情報を取得してよい。
【0105】
また、既述のように、制御部41は、駆動部11の制御において、フィードバック制御を行ってよい。従って、複数のセンサ43は、スライダ35(別の観点では作用位置P2)の中間部材25に対する相対位置を検出するセンサを含んでよい。
【0106】
なお、速度は、位置の微分値であり、加速度は、速度の微分値であるから、位置センサ、速度センサ及び加速度センサは、相互に兼用されて構わない。微分又は積分に相当する演算は、センサ43において行われてもよいし、制御部41において行われてもよい。なお、例えば、センサ43が検出した位置に基づく微分を制御部41が行って速度を取得する場合においても、センサ43は、速度センサと捉えられてよい。すなわち、位置センサ、速度センサ及び加速度センサは、相互に同一視されて構わない。
【0107】
位置、速度及び/又は加速度を検出するセンサ43の具体的な構成は任意であり、例えば、公知の種々のものが利用されてよい。例えば、慣性センサ、リニアエンコーダ又はレーザ測長器が用いられてよい。
【0108】
(免震部材の中間部材に対するy方向の振動に係る振動調整装置)
免震部材23の中間部材25に対するy方向の振動に係る振動調整装置32(
図2に基部29のみ示す。)は、上述した中間部材25の支持部材21に対するx方向の振動に係る振動調整装置31と同様とされてよい。従って、振動調整装置31の説明は、矛盾等が生じない限り、振動調整装置32に援用されてよい。この際、適宜に、支持部材21の語を中間部材25の語に置換するとともに中間部材25の語を免震部材23の語に置換し、又は支持部材21の語を免震部材23の語に置換するとともに中間部材25の語はそのままとする。また、xの語とyの語とを相互に置換する。+zの語及び-zの語(又はこれらに相当する語)は、適宜に置換されたり、そのままとされたりしてよい。基部29に対するスライダ35の位置(+z側又は-z側)は、振動調整装置31及び32において、互いに同一側であってもよいし、互いに逆側であってもよい。
【0109】
図2の例では、振動調整装置32は、中間部材25にスライダ35を有し、免震部材23に軸部材47を有している(いずれも振動調整装置31のものを参照)。そして、中間部材25は、免震部材23から下方に突出する軸部材47が挿通される開口29aを上面に有している。
【0110】
なお、振動調整装置31及び32の全体を1つの振動調整装置として捉えてもよい。また、振動調整装置31と、振動調整装置32とは、一部の構成要素が共用されて構わない。例えば、制御部41及び複数のセンサ43の一部は、両者に共用されてよい。
【0111】
中間部材25において、振動調整装置31及び32(その基部29等)は、適宜に連結されてよい。例えば、2つの基部29は、その外縁に位置する壁部によって連結されていてもよいし(図示の例)、両者の間に介在する柱によって連結されていてもよい。また、振動調整装置31及び32は、その全部又は大部分(例えば制御部41及び/又はセンサ43を除く機械部分)が全く同じ構成とされてよい。すなわち、2つの製品が互いに向きを変えて連結されることによって、振動調整装置31及び32の組み合わせが構成されてよい。
【0112】
(免震システムの制御)
免震システムにおいては、加速度と変位とはトレードオフの関係にある。すなわち、免震性能を高くすると、免震対象物5(又は中間部材25)の加速度を低減できるが、免震対象物5の支持構造物3に対する相対変位は増加する。この相対変位の増加は、例えば、免震対象物5と周囲の構造物との衝突の蓋然性を高くする。しかし、免震対象物5の相対変位を抑制すれば、免震性能が低下し、免震対象物5の加速度が増加する。加速度の増加は、例えば、免震対象物5に付与される慣性力による免震対象物5の破壊を招く。
【0113】
免震システムの特性(例えば、ばね定数。別の観点では固有周期)等を適宜に調整することによって、変位と加速度との双方を許容範囲に収めることが考えられる。しかし、地震ごとに地震動の周期は異なり、また、地震の開始から終了までの間においても地震動の周期は変化する。従って、一のタイプの地震に対して適切に免震システムの特性を設定しても、その特性が他のタイプの地震に対して適切であるとは限らない。
【0114】
そこで、制御部41は、リアルタイムに得られる地震動及び/又は地震動に起因する免震対象物5(及び/又は中間部材25)の振動の情報に基づいて、変位と加速度との双方を低減するように、駆動部11を制御する。この制御は、例えば、AI(artificial intelligence)技術を用いて行われてよい。AI技術を用いた制御は、例えば、強化学習又は教師あり学習によって実現されてよい。また、深層学習が利用されてもよいし、利用されなくてもよい。
【0115】
ただし、上記の説明とは異なり、制御部41による駆動部11の制御は、AI技術によらずに行われてもよい。すなわち、制御部41は、予め定められたアルゴリズムに従って、駆動部11を制御してよい。このアルゴリズムは、例えば、センサ43の検出値に基づく地震動及び/又は中間部材25の振動の情報に基づいて、地震動の周期が比較的短いときは傾斜角θを大きくして免震システム1Aの固有周期を長くし、地震動の周期が比較的長いときは傾斜角θを小さくして免震システム1Aの固有周期を短くするように構成されていてよい。
【0116】
以下では、AI技術を用いた制御の一例として、深層強化学習を利用するものについて説明する。深層強化学習の具体的な手法は、種々のものとされてよい。例えば、強化学習の具体的な手法としては、動的計画法、モンテカルロ法、TD学習法(例えばQ学習法)が挙げられる。また、ディープラーニングの具体的な手法としては、多層の(人口)ニューラルネットワーク(以下、「NN」と略すことがある。)を用いたものが挙げられる。NNの具体的なものとしては、順伝播型NN(例えば全結合型NN及び畳み込み型NN)及び再帰型NNが挙げられる。さらに、深層強化学習のより具体的な例としては、Deep Q-Network(DQN)が挙げられる。
【0117】
以下の説明では、中間部材25の振動に係る振動調整装置31の制御を例に取る。ただし、振動調整装置32の制御も同様に行われてよい。また、概略、以下の順に説明を行う。
・エージェントの構成及び学習方法
・強化学習における報酬の例
【0118】
(エージェントの構成及び学習方法)
図5は、制御部41が有しているエージェント51の構成の一部(制御に直接的に関わる部分)を示す概念図である。
【0119】
エージェント51は、例えば、ニューラルネットワーク(NN)を有しており、入力層53と、複数の中間層55と、出力層57とを有している。各層は、複数のノード59を有している。中間層55の数及び各層のノード59の数等のハイパーパラメータは、適宜に設定されてよい。
【0120】
入力層53の複数のノード59には振動に係る複数の情報が入力される。当該情報は、例えば、センサ43の説明で述べたとおりであり、ここでは、支持部材21、中間部材25及び/又はスライダ35の、相対的及び/又は絶対的な変位、速度及び/又は加速度である。エージェント51は、入力層53に入力された情報に基づいて、駆動部11の制御量の目標値を算出し、算出結果を出力層57の1以上のノード59から出力する。制御量は、例えば、スライダ35の中間部材25に対するy方向における位置(これに等価な物理量。以下、同様。)である。そして、制御部41は、出力された制御量を達成するように、駆動源11aを制御する。制御部41(エージェント51)は、例えば、上記の一連の動作を所定の制御周期(サンプリング周期)で繰り返し行う。
【0121】
図5では、順伝播型NNが例示されている。従って、入力層53側から出力層57側へ順に、前の層の複数のノード59から次の層の複数のノード59へ値が受け渡される。このとき、前の層の複数のノード59から次の層の複数のノード59へのそれぞれの経路に設定された結合重みが、前の層の複数のノード59の値に対して、行列計算のように乗じられる。前の層から次の層への値の受け渡しに際しては、適宜な活性化関数が用いられてよい。
【0122】
ノード59間の結合重みは、強化学習によって最適化される。上述した入力層53に入力される情報は、エージェントが観測する「状態」の情報に相当する。出力層57から出力される制御量の目標値(より正確には当該目標値に基づく制御)は、エージェントの「行動」に相当する。「価値」(Q値)は、例えば、不図示のニューラルネットワークによって算出される。すなわち、強化学習は、深層強化学習である。「報酬」は、例えば、後述するように、中間部材25の絶対加速度が小さくなるほど高くなり、かつ中間部材25の支持部材21に対する相対変位が小さくなるほど高くなる値(指標値)とされる。
【0123】
強化学習は、時系列データを用いて行われてよい。例えば、地震動が生じている期間を微小時間(例えば1ms)に区切る。1つの微小時間を1ステップとする。1ステップごとに、エージェント51による制御(別の観点では制御量の目標値の決定)、当該制御の結果(絶対加速度及び相対変位)に基づく報酬の決定、及び報酬に基づくQ値の更新(学習)を行う。このステップを地震動が生じている期間に亘って繰り返す。これにより、エージェント51のノード59間の結合重みの最適値を得る。このような学習を複数回(例えば50回)繰り返してもよい。
【0124】
なお、出願人は、シミュレーション計算により、1つの地震動について上記の学習を50回行い、その中で最も成果が高い結合重みのデータを用いて再度50回の学習を行った。この再度の50回の学習で得られた結合重みのデータを用いてシミュレーション計算を行った結果、いずれの結合重みのデータを用いた場合においても、絶対加速度及び相対変位の双方を一般的な許容範囲内に収めることができた。
【0125】
既述のように、入力層53に入力される情報は、種々のものとされてよい。上述した出願人が行った学習においては、中間部材25の支持部材21に対する相対変位、中間部材25の絶対的な加速度、中間部材25の支持部材21に対する相対速度、及びスライダ35(作用位置P2)の中間部材25に対する相対変位の4つを用いた。換言すれば、例えば、地震動の絶対的な加速度、速度及び変位、並びに作用位置P2の中間部材25に対する相対速度は用いなかった。
【0126】
上記のような学習は、地震動の実測値又は仮想された値に基づいて、シミュレーション計算によって免震システム1Aの挙動を再現して行われてもよいし、免震システム1の実物又は模型を用いた実験によって免震システム1の挙動を再現して行われてもよい。また、実際の地震動が生じたときに、免震システム1Aの実物が上記のような学習を行ってもよい。
【0127】
免震システム1Aが実際に設置されたとき、免震システム1A(制御部41)は、例えば、学習済みのエージェント51を有している。換言すれば、エージェント51が保持するパラメータ(ノード59間の結合重み)は、学習によって得られたものである。このパラメータは、例えば、制御部41(そのハードウェア)の流通段階で制御部41に記憶されていてもよいし、制御部41の設置後にインターネットなどのネットワーク61(
図4)を介してサーバ63(
図4)から制御部41にダウンロードされてもよいし、記録媒体に記憶された状態で流通されて制御部41に提供されてもよい。上記において、パラメータの語は、エージェント51を構成するプログラム52(
図4)の少なくとも一部の語に置換されてよい。
【0128】
また、実際に設置された免震システム1Aの学習済みのエージェント51は、その設置後に実際に経験した地震動に基づく学習を行う機能を有していてもよいし、有していなくてもよい。サーバ63が保持しているパラメータは、実際の地震動を経験した制御部41の学習結果によってアップデートされてもよい。また、制御部41からの実際の地震動等の情報がサーバ63にアップロードされ、サーバ63等によって学習が行われ、サーバ63が保持しているパラメータがアップデートされてもよい。このアップデートされたパラメータが制御部41にダウンロードされてもよい。
【0129】
(強化学習における報酬の例)
図6は、報酬の一例を示す模式図である。
【0130】
この例では、報酬は、テーブルデータDT1に基づいて決定される。具体的には、テーブルデータDT1は、複数のデータセットDS1を有している。各データセットDS1は、中間部材25の支持部材21に対する相対変位の絶対値の範囲の情報DD1と、中間部材25の絶対的な加速度の絶対値の範囲の情報DA1と、報酬の高さを示す情報DR1とを有している。複数のデータセットDS1同士で、情報DD1が示す範囲、情報DA1が示す範囲、及び情報DR1が示す報酬の高さのいずれも重複していない。また、情報DD1が示す範囲の下限値(又は上限値)が小さいデータセットDS1ほど、情報DA1が示す範囲の下限値が小さく、かつ情報DR1が示す報酬の高さが高い。
【0131】
エージェント51の学習を行う学習システム(例えば制御部41又はサーバ63)は、例えば、上述したステップごとに、当該ステップの中間部材25の相対変位及び絶対加速度が該当するデータセットDS1を特定する。そして、学習システムは、特定したデータセットDS1で規定されている報酬をエージェント51に与える。また、学習システムは、該当するデータセットDS1が存在しないときは、いずれのデータセットDS1の報酬よりも低い報酬をエージェント51に与える。なお、低い報酬の付与は、報酬無しの概念を含むものとする(他の例においても同様。)。
【0132】
データセットDS1の数、情報DD1及びDA1が示す具体的な範囲、並びに情報DR1が示す報酬の高さは、適宜に設定されてよい。図示の例では、一般に、許容される相対変位の上限値が0.3m程度であること、及び許容される絶対加速度の上限値が3.0m/s2程度であることに基づいて、これらの値以下において情報DD1及びDA1が規定する範囲が設定されている。なお、報酬の値は、学習システム内の具体的な構成等に基づいて設定されている値であり、物理的な意味(換言すれば単位)を有するものではない。
【0133】
図7(a)及び
図7(b)は、報酬の他の例を示す模式図である。
【0134】
この例においては、報酬は、テーブルデータDT2及びDT3に基づいて決定される。具体的には、以下のとおりである。
【0135】
テーブルデータDT2は、複数のデータセットDS2を有している。各データセットDS2は、中間部材25の支持部材21に対する相対変位の絶対値の範囲の情報DD1と、報酬の高さを示す情報DR2とを有している。複数のデータセットDS2同士で、情報DD1が示す範囲は重複していない。また、情報DD1が示す範囲の下限値(又は上限値)が小さいデータセットDS2ほど、情報DR2が示す報酬(変位報酬)が高い。
【0136】
テーブルデータDT3は、複数のデータセットDS3を有している。各データセットDS3は、中間部材25の絶対的な加速度の絶対値の範囲の情報DA1と、報酬の高さを示す情報DR3とを有している。複数のデータセットDS3同士で、情報DA1が示す範囲は重複していない。また、情報DA1が示す範囲の下限値(又は上限値)が小さいデータセットDS3ほど、情報DR3が示す報酬(加速度報酬)が高い。
【0137】
エージェント51の学習を行う学習システム(例えば制御部41又はサーバ63)は、例えば、上述したステップごとに、当該ステップの中間部材25の相対変位が該当するデータセットDS2を特定するとともに、当該ステップの中間部材25の絶対加速度が該当するデータセットDS3を特定する。そして、学習システムは、特定したデータセットDS2及びDS3で規定されている報酬の値を掛け合わせ、その結果得られた値をエージェント51に与える。なお、学習システムは、該当するデータセットDS2及び/又はDS3が存在しないときは、データセットDS2及びDS3のいずれの報酬の値の積よりも低い報酬をエージェント51に付与する。
【0138】
(第1実施形態のまとめ)
以上のとおり、免震システム1Aは、アイソレータ7Aと、第1受動要素(受動要素9、より詳細には復元要素33)と、第1駆動部(駆動部11)と、制御部41とを有している。アイソレータ7Aは、第1対象物及び第2対象物(例えば中間部材25及び支持部材21)の一方である免震体(例えば中間部材25)を他方である支持体(例えば支持部材21)に対して少なくとも第1移動方向(例えばx方向)に移動可能に支持する。復元要素33は、中間部材25と支持部材21とのx方向の相対移動における復元力及び減衰力の少なくとも一方(ここでは復元力)となる、第1力方向(力方向Df)において中間部材25と支持部材21とに作用する第1力を生じる。駆動部11は、復元要素33が第1対象物(例えば中間部材25)に上記第1力を作用させる第1作用位置(作用位置P2)を中間部材25に対して移動させて、x方向に対する力方向Dfの傾斜角θを変化させる、駆動力を生じる。制御部41は、駆動部11を制御する。
【0139】
従って、
図1を参照して説明したように、種々の効果が奏される。例えば、中間部材25の振動に影響を及ぼす免震システム1の特性(ここではばね定数)を地震動の周期に応じて調整できる。その結果、例えば、種々のタイプ(例えば種々の周期)の地震において、中間部材25の支持部材21に対する相対変位と、中間部材25の絶対加速度との双方を低減できる。特性の調整が傾斜角θの変化によって実現されることから、例えば、復元要素33の設計の自由度が向上する。
【0140】
第1受動要素(受動要素9)は、力方向Dfにおける復元力を生じる復元要素33を含んでよい。
【0141】
この場合、例えば、傾斜角θの調整によって、免震システム1Aのばね定数を変化させ、免震システム1の固有周期を変化させることができる。その結果、地震動の周期に応じて、地震動の周期と免震システム1Aの固有周期との関係を調整し、中間部材25の支持部材21に対する相対変位と、中間部材25の絶対加速度との双方を低減できる。
【0142】
第1作用位置(作用位置P2)の第1対象物(中間部材25)に対する移動方向は、傾斜角θが大きくなるときに復元要素33の力方向Dfにおける復元力が小さくなる方向とされてよい。
【0143】
この場合、例えば、
図1(a)及び
図1(b)を参照して説明したように、傾斜角θの変化によるx方向の分力(F1x又はF2x)の減少(又は増加)と、力方向Dfにおける復元力(F1又はF2)の減少(又は増加)とを足し合わせることができる。その結果、例えば、ばね定数の調整範囲を広くしたり、振動調整装置31を小型化したりできる。
【0144】
力方向Dfの第1力が第2対象物(支持部材21)に作用する第2作用位置(作用位置P1)は、第1作用位置(作用位置P2)の第1対象物(中間部材25)に対する移動可能範囲の一端(-y側の端部)から他端への方向(y方向)において、上記一端又は当該一端よりも上記他端とは反対側(-y側)に常に位置している。
【0145】
この場合、例えば、作用位置P1がy方向において作用位置P2の移動可能範囲の内側に位置している態様(当該態様も本開示に係る技術に含まれる。以下、本段落において他の実施形態と呼称する。)に比較して、作用位置P2の移動可能範囲を有効に利用することができる。具体的には、上記の他の実施形態においては、作用位置P2がy方向において作用位置P1と同等の位置にあるときに傾斜角θが0°となる。そして、作用位置P2が、傾斜角θ=0°の位置から、+y側へ移動したときも、-y側へ移動したときも、傾斜角θの絶対値は同様に変化する。すなわち、傾斜角θの変化による免震システム1Aの特性(ここではばね定数)の変化は同じである。従って、結局、傾斜角θ=0°の位置から、+y側及び-y側の一方への移動のみが利用され、他方への移動は利用されないことになる。本実施形態では、そのような不都合が解消される。
【0146】
駆動部11は、支持体(支持部材21)に振動が入力されていないときは第1作用位置(作用位置P2)をその移動可能範囲の中央側に位置させてよい(初期位置を中央側としてよい。)。
【0147】
この場合、例えば、初期位置が移動可能範囲の一端に位置している態様(当該態様も本開示に係る技術に含まれる。以下、本段落において他の実施形態と呼称する。)に比較して、作用位置P2を任意の位置へ移動させる時間が平均的に短縮される。例えば、上記の他の実施形態では、移動可能範囲の一端に位置している作用位置P2が移動可能範囲の他端へ移動する時間は、本実施形態において作用位置P2が移動可能範囲の他端へ移動する時間の2倍となる。作用位置P2を任意の位置へ移動させる時間が平均的に短縮されることから、地震動の開始又は地震動の変化等に応じて速やかに免震システム1Aの特性を変化させ、変位及び/又は加速度を低減できる。
【0148】
免震体(中間部材25)は支持体(支持部材21)に対して第1移動方向(x方向)に案内されてよい(換言すれば、他の方向の移動が規制されてよい。)。駆動部11は、x方向及び力方向Dfに沿う平面(xy平面)に沿う第1調整方向(y方向)において、第1作用位置(作用位置P2)を第1対象物(中間部材25)に対して駆動してよい。第1調整方向(y方向)は、x方向に直交してよい。
【0149】
この場合、例えば、作用位置P2をx方向に移動させる態様(当該態様も本開示に係る技術に含まれる。)に比較して、傾斜角θが比較的小さいとき(例えば45°以下)において、作用位置P2の移動量に対する傾斜角θの変化量を大きくすることができる。すなわち、比較的小さい傾斜角θを本実施形態の原理に利用しやすい。傾斜角θが小さい場合は、x方向の分力(
図1(a)のF1xを参照)が力方向Dfの力(
図1(a)のF1を参照)に占める割合(cosθ)が大きい。その結果、受動要素9の能力を有効に利用できる。別の観点では、受動要素9の性能を下げることができる。
【0150】
免震体(中間部材25)は支持体(支持部材21)に対して第1移動方向(x方向)に案内されてよい。免震システム1Aは、上記のように第1受動要素及び第1駆動部(2つの復元機構37の一方の復元要素33及び駆動部11)に加えて、第2受動要素及び第2駆動部(2つの復元機構37の他方の復元要素33及び駆動部11)を有してよい。第2受動要素は、第1対象物(中間部材25)と第2対象物(支持部材21)とのx方向における相対移動における復元力及び減衰力の少なくとも一方となる、第2力方向(力方向Df)において中間部材25と支持部材21とに作用する第2力を生じてよい。第2駆動部は、上記第2力が中間部材25に作用する第3作用位置(作用位置P2)を支持部材21に対して移動させて、x方向に対する上記第2力方向の傾斜角を変化させる、駆動力を生じてよい。第1力方向(一方の復元要素33の力方向Df)及び第2力方向(他方の復元要素33の力方向Df)は、xに直交する方向(y方向)に対して互いに逆側に傾斜してよい。
【0151】
ここで、傾斜角θは、スライダ35の中間部材25に対する移動によってだけでなく、中間部材25の支持部材21に対するx方向の振動によっても変化する。すなわち、調整しようとしている免震システム1Aの特性(ばね定数)が中間部材25の振動によっても変化することになる。しかし、上記のように互いに逆側に復元要素33を傾斜させることによって、中間部材25の振動に伴う傾斜角θの変化によって生じる特性の変化の少なくとも一部が、2つの受動要素9(復元要素33)の間で相殺される。その結果、スライダ35の中間部材25に対する移動による特性の調整の精度が向上する。また、受動要素9が復元要素33であり、かつ作用位置P2がその初期位置(地震が生じていないときの位置)にあるときに復元要素33が復元力を生じている態様においては、その初期位置における復元力の少なくとも一部が2つの復元要素33の間で相殺される。これにより、中間部材25をその初期位置に位置させることが容易化される。なお、復元要素33が一つのみ設けられ、かつ作用位置P2がその初期位置にあるときに復元要素33が復元力を生じている態様(当該態様も本開示に係る技術に含まれる)においては、例えば、初期位置における復元力を相殺する他の復元要素(例えば作用位置が移動しないもの)が適宜に設けられてよい。
【0152】
第1作用位置(一方の復元機構37の作用位置P2)と、第3作用位置(他方の復元機構37の作用位置P2)とは連動して移動してよい。
【0153】
この場合、例えば、2つの作用位置P2を互いに独立に制御する態様(当該態様も本開示に係る技術に含まれる。)に比較して、制御の容易化及び/又は安定化が図られる。例えば、深層強化学習によってエージェント51が保持する結合重みを最適化するときに、適切でない値が選択される蓋然性が低減される。ひいては、エージェント51による制御が安定する。別の観点では、強化学習の負担(試行錯誤の回数等)を軽減することができる。
【0154】
第1受動要素(受動要素9、より詳細には復元要素33)は、第1連結部(連結部33b)と、第2連結部(連結部33a)と、要素本体33cとを有してよい。連結部33bは、第1対象物(例えば中間部材25)に対して第1移動方向(x方向)に直交する第1回転軸(回転軸R2)の回りに回転可能に中間部材25に連結されてよい。連結部33aは、第2対象物(例えば支持部材21)に対して回転軸R2に平行な第2回転軸(回転軸R1)の回りに回転可能に支持部材21に連結されてよい。要素本体33cは、連結部33bと及び連結部33aとの間に位置してよく、連結部33bと連結部33aとを結ぶ第1力方向(力方向Df)における連結部33bと連結部33aとの相対位置及び相対運動の少なくとも一方(本実施形態では相対位置)に応じた大きさで第1力を生じてよい。駆動部11は、連結部33bの位置を、回転軸R2に直交するとともに力方向Dfに交差する第1調整方向(y方向)において、中間部材25に対して移動させる駆動力を生じてよい。
【0155】
この場合、例えば、比較的簡便な構成で、力方向Dfにおける力のみを作用位置P1及びP2に作用させることができる。ひいては、傾斜角θの変化による免震システム1Aの特性の調整の精度が向上する。
【0156】
免震システム1Aは、第1対象物(例えば中間部材25)に対して第1調整方向(y方向)に案内されるスライダ35を更に有してよい。第1連結部(連結部33b)は、スライダ35に対して第1回転軸(回転軸R2)の回りに回転可能にスライダ35に連結されてよい。
【0157】
この場合、例えば、比較的簡便な構成で、安定して作用位置P2を所定の経路に沿って移動させることができる。なお、スライダ35を利用しない態様としては、回転するアームの先端に連結部33bを回転可能に連結する態様などが挙げられる。
【0158】
制御部41は、免震体(例えば中間部材25)の第1移動方向(x方向)の振動の情報に基づく第1駆動部(駆動部11)の制御について強化学習を行ってよい。強化学習における報酬は、中間部材25の支持体(例えば支持部材21)に対する相対的な変位の絶対値が小さいほど高くなってよく、かつ中間部材25の絶対的な加速度の絶対値が小さいほど高くなってよい。
【0159】
この場合、例えば、種々のタイプの地震において相対変位及び絶対加速度の双方を低減する制御を実現できる。かつ、理論上は、強化学習によって、最適な制御結果を得ることができる。
【0160】
報酬は、複数のデータセットDS1を有するテーブル(テーブルデータDT1)に基づいて決定されてよい。複数のデータセットDS1のそれぞれは、第1範囲情報(情報DD1)、第2範囲情報(情報DA1)及び報酬情報(情報DR1)を有してよい。情報DD1は、免震体(例えば中間部材25)の支持体(例えば支持部材21)に対する相対的な変位の絶対値の範囲を示してよい。情報DA1は、中間部材25の絶対的な加速度の絶対値の範囲を示してよい。情報DR1は、報酬の高さを示してよい。複数のデータセットDS1は、情報DD1が示す範囲、情報DA1が示す範囲、及び情報DR1が示す報酬の高さのいずれもが互いに重複しないように設定されてよい。また、複数のデータセットDS1は、情報DD1が示す範囲の下限値が小さいデータセットDS1ほど、情報DA1が示す範囲の下限値が小さく、かつ情報DR1が示す報酬の高さが高くなるように設定されてよい。取得された、中間部材25の支持部材21に対する相対的な変位の絶対値、及び中間部材25の絶対的な加速度の絶対値、に対応するデータセットDS1が存在するときは、当該対応するデータセットDS1の情報DR1が示す高さの報酬が用いられてよい。対応するデータセットDS1が存在しないときは、いずれのデータセットDS1の報酬よりも低い報酬(報酬無を含む。)が用いられてよい。
【0161】
この場合、例えば、相対変位と絶対加速度との双方を厳しく評価することができる。その結果、例えば、安定性に優れるエージェント51を得ることができる。
【0162】
上記とは異なり、報酬は、免震体(例えば中間部材25)の支持体(例えば支持部材21)に対する相対的な変位の絶対値、及び中間部材25の絶対的な加速度の絶対値の2つの値のうちの一方の値のみに基づく、当該一方の値が小さいほど大きくなる指標値(変位報酬)と、上記2つの値のうちの他方の値のみに基づく、当該他方の値が小さいほど大きくなる指標値(加速度報酬)と、の積に基づいて決定されてもよい。
【0163】
この場合は、例えば、相対変位と絶対加速度との抑えやすい方を抑えることができる。すなわち、免震システム1Aの長所を伸ばすように制御を行うエージェント51を得ることができる。
【0164】
制御部41は、強化学習において、振動の情報として、以下のものを用いてよい。免震体(例えば中間部材25)の支持体(例えば支持部材21)に対する相対変位、中間部材25の絶対的な加速度、中間部材25の支持部材21に対する相対的な速度、及び第1作用位置(作用位置P2)の第1対象物(例えば中間部材25)に対する相対変位。また、振動の情報として、以下のものを用いないようにしてよい。支持部材21に加えられる絶対的な加速度、速度及び変位、並びに作用位置P2の中間部材25に対する相対速度。
【0165】
この場合、例えば、複数回の学習における学習結果のばらつきが低減される。すなわち、学習結果が安定しやすい。別の観点では、学習の負担(試行錯誤の回数等)を軽減することができる。ただし、学習の負担を大きくできるのであれば、入力される情報が多いほど、エージェント51が最適化されると予想される。従って、上記において用いないこととした情報が用いられてもよいことはもちろんである。
【0166】
実施形態からは振動調整装置31を抽出することができる。例えば、振動調整装置31は、受動要素9と、駆動部11と、制御部41とを有する。受動要素9は、第1対象物(例えば中間部材25)と第2対象物(例えば支持部材21)との移動方向(x方向)の相対移動における復元力及び減衰力の少なくとも一方となる、力方向Dfにおいて中間部材25と支持部材21とに作用する第1力を生じる。駆動部11は、受動要素9が中間部材25に上記第1力を作用させる作用位置P2を中間部材25に対して移動させて、x方向に対する力方向Dfの傾斜角θを変化させる駆動力を生じる。制御部41は、駆動部11を制御する。
【0167】
このような振動調整装置31を用いることによって、実施形態に係る免震システム1Aを実現できる。実施形態では、振動調整装置31とアイソレータ7Aとで一部の部材が兼用されている。ただし、両者の間で部材が兼用されないようにして、アイソレータを含まない振動調整装置31のみが流通されて構わない。
【0168】
また、実施形態からは免震システム1Aに用いられるプログラム52の生産方法を抽出できる。当該生産方法は、免震体(例えば中間部材25)の第1移動方向(x方向)の振動の情報に基づく第1駆動部(駆動部11)の制御についての強化学習によって、学習済みのエージェント51のプログラム52を作成する。上記の強化学習における報酬は、中間部材25の支持体(例えば支持部材21)に対する相対的な変位の絶対値が小さいほど高くなり、かつ中間部材25の絶対的な加速度の絶対値が小さいほど高くなる。
【0169】
このようなプログラム52を用いることによって、実施形態に係る免震システム1Aを実現できる。既に触れたように、プログラム52は、種々の態様で提供されてよく、免震システム1Aのハードウェア及び/又は制御部41のオペレーティングシステムとは別個に流通されてよい。プログラム52は、学習によって変化する部分のみを含んでいてもよい。
【0170】
<第2実施形態>
図8は、第2実施形態に係る免震システム1Bを示す平面図であり、
図4に相当する。ただし、
図4に示された構成要素のうち、第1及び第2実施形態で同様とされてよい構成の一部については図示が省略されている。後述する他の実施形態を示す図についても同様である。
【0171】
免震システム1Bの振動調整装置31Bは、スライダ35(作用位置P2)の移動方向(第1調整方向の一例)が第1実施形態と相違する。具体的には、本実施形態では、まず、第1実施形態と同様に、スライダ35の移動方向は、振動方向(x方向。第1移動方向の一例)及び力方向Df(
図1(a)参照。第1力方向の一例)に沿う平面(xy平面)に沿っている。ただし、スライダ35の移動方向は、xy平面内において振動の方向(x方向)に直交する方向(y方向)に対して、当該直交する方向(y方向)よりも力方向Dfに対する傾斜が大きくなる側に傾斜している。
【0172】
このように作用位置P2の移動方向を設定すると、例えば、第1実施形態に比較して、傾斜角θ(
図4)が比較的大きい範囲(例えば45°以上)にあるときに、作用位置P2の移動量に対する傾斜角θの変化量の低下を低減できる。その結果、例えば、作用位置P2の移動可能範囲の全域に亘って、平均的に速やかに免震システム1Bの特性(例えばばね定数)を変化させることができる。
【0173】
なお、特に図示しないが、作用位置P2の移動方向は、直線状でなく、曲線状であってもよい。例えば、図示の例において、作用位置P2の移動方向は、+y側ほど、y方向に対する傾斜が大きくなるように傾斜してよい。また、この態様から理解されるように、第1調整方向(作用位置P2の移動方向)が、第1移動方向(x方向)に直交する方向(y方向)に対して、当該直交する方向(y方向)よりも力方向Dfに対する傾斜が大きくなる側に傾斜しているというとき、作用位置P2の移動可能範囲の全域に亘って作用位置P2の移動方向が上記の要件を満たす必要はなく、一部のみが上記の要件を満たしてもよい。
【0174】
<第3実施形態>
図9は、第3実施形態に係る免震システム1Cを示す平面図であり、
図4に相当する。
【0175】
免震システム1Cの振動調整装置31Cでは、アクティブ制御によって、減衰要素39の減衰係数が実質的に変化するように構成されている。具体的には、減衰要素39の中間部材25及び支持部材21の一方の部材(図示の例では前者)に対する連結位置(減衰力の作用位置)は、上記一方の部材(中間部材25)に対して振動方向(x方向。中間部材25の支持部材21に対する移動方向)に移動可能とされている。
【0176】
より具体的には、例えば、スライダ35と同様のスライダ65によって、減衰要素39の一端はx方向に移動可能とされている。スライダ65は、不図示の駆動部によって駆動力が付与されてx方向に駆動される。この駆動部については、駆動部11(
図4)の説明が援用されてよい。また、駆動部は、制御部41(
図4)によって制御される。
【0177】
減衰要素39は、その両端の距離が変化する(長く又は短くなる)過程において減衰力を生じる。従って、駆動部によって上記距離の変化を助長する方向の駆動力が付与されると、減衰要素39は、実質的に減衰係数が高くされたことになる。逆に、駆動部によって上記距離の変化を抑制する方向の駆動力が付与されると、減衰要素39は、実質的に減衰係数が低くされたことになる。
【0178】
減衰要素39の減衰係数が比較的大きくされると、中間部材25が支持部材21と共に移動しやすくなり、中間部材25の支持部材21に対する相対変位が低減される。逆に、減衰要素39の減衰係数が比較的小さくされると、中間部材25が支持部材21に対して相対移動しやすくなり、中間部材25の絶対的な加速度が低減される。
【0179】
従って、例えば、制御部41は、複数のセンサ43から得られる情報に基づいて、地震動の周期が比較的長いときは、減衰要素39の減衰係数を実質的に高くし、地震動の周期が比較的短いときは、減衰要素39の減衰係数を実質的に低くする。これにより、種々のタイプ(例えば周期)の地震において、相対変位及び絶対加速度の双方を低減できる。なお、制御部41がスライダ65の駆動において行う制御は、スライダ35の駆動において行う制御と同様に、AI技術(例えば深層強化学習)を用いた制御とされてもよいし、されなくてもよい。第1実施形態におけるスライダ35の制御の説明は、スライダ65の制御の説明に援用されてよい。
【0180】
<第4実施形態>
図10は、第4実施形態に係る免震システム1Dを示す平面図であり、
図4に相当する。
【0181】
免震システム1Cの振動調整装置31Dでは、傾斜角θが調整される受動要素9として、減衰要素39が設けられている。第1実施形態の説明は、矛盾等が生じない限り、本実施形態に援用されてよい。この際、復元要素33の語は、減衰要素39の語に置換する。
【0182】
なお、当該態様において、振動調整装置31Dは、復元要素33を有していてもよいし、有していなくてもよい。有している場合において、復元要素33は、第1実施形態と同様に、傾斜角θによって実質的にばね定数が調整可能とされていてもよいし、されていなくてもよい。前者の場合、減衰要素39と復元要素33とは、スライダ35等を共用していてもよいし、共用していなくてもよい。また、復元要素33が傾斜角θによって実質的にばね定数を調整可能とされていない態様としては、例えば、第1実施形態の減衰要素39と同様に、特性(ばね定数)が実質的に調整されない態様、及び第3実施形態(
図9)の減衰要素39と同様に、特性が実質的に調整される態様が挙げられる。
【0183】
以上のとおり、第1受動要素(受動要素9)は、第1力方向(
図1(a)の力方向Df参照)における減衰力を生じる減衰要素39を含んでよい。
【0184】
この場合、例えば、
図1(a)及び
図1(b)を参照して説明したように、速度制御ではなく、位置制御によって減衰係数を調整することができることから、制御が容易化される。
【0185】
<第5実施形態>
図11は、第5実施形態に係る免震システム1Eを示す斜視図であり、
図3に相当する。この図では、免震部材23に係る構成を透視して免震システム1Eの構成を示している。
【0186】
第1実施形態では、振動調整装置31は、一方向(x方向)の振動に関して、免震システム1Aの特性を調整した。そして、振動調整装置31及び32の組み合わせによって、xy平面に沿う任意の方向における振動に関して、免震システム1Aの特性が調整された。すなわち、第1実施形態の振動調整装置(31及び32の組み合わせ)は2段構成とされた。一方、本実施形態の振動調整装置31Eは、1段構成でxy平面に沿う任意の方向における振動に関して、免震システム1Eの特性を調整する。具体的には、例えば、以下のとおりである。
【0187】
免震部材23は、第1実施形態と同様に、支持部材21に対してxy平面に沿う任意の方向へ移動可能とされている。当該移動を実現するアイソレータ7Eの構成は、第1実施形態と同様に、種々の態様とされてよい。図示の例では、平面視において支持部材21の複数位置(図示の例では4か所)に配置されたリニアガイドによってアイソレータ7Eが構成されている。
【0188】
具体的には、図示の例では、平面視における支持部材21及び免震部材23の4隅の位置のそれぞれにおいて、以下の構成要素が設けられている。支持部材21に固定されたレール(符号省略)を有し、中間部材25Eをx方向に案内するリニアガイド67X。免震部材23に固定されたレール(符号省略)を有し、中間部材25Eをy方向に案内するリニアガイド67Y。第1実施形態におけるリニアガイド27X及び27Yの説明は、リニアガイド67X及び67Yに援用されてよい。中間部材25Eは、第1実施部材の中間部材25とは異なり、振動調整装置31Eの取付けに寄与する部材(又は振動調整装置31Eの一部)としては機能していない。
【0189】
振動調整装置31Eは、例えば、第1実施形態の振動調整装置31と同様に、少なくとも2つ(図示の例では3つ)の復元要素33を有している。ただし、復元要素33は、第1実施形態とは異なり、支持部材21と中間部材25E(より厳密にはスライダ35)とに連結されていない。すなわち、復元要素33は、支持部材21(より厳密にはスライダ35)と免震部材23とに連結されている。そして、支持部材21及び免震部材23の相対移動に直接的(中間部材25Eを介さずに)に影響を及ぼしている。
【0190】
より具体的には、図示の例では、支持部材21及び免震部材23の一方(図示の例では支持部材21)にリニアガイド45及びスライダ35が設けられている。これらの構成は、第1実施形態のものと同様である。また、支持部材21及び免震部材23の他方(図示の例では免震部材23)には、第1実施形態の軸部材47に相当する軸部材69が設けられている。そして、復元要素33の一端は、スライダ35に連結され、他端は、軸部材69に連結されている。なお、軸部材69は、軸部材47と同様に、複数の復元要素33のそれぞれに対して設けられていてもよいし、複数の復元要素33で共用されていてもよい(図示の例)。
【0191】
スライダ35は、復元要素33(別の観点では力方向Df(
図1(a)))に対して交差する方向に移動可能とされている。従って、第1実施形態と同様に、スライダ35(作用位置P2)の移動によって、xy平面に沿ういずれかの方向(第1移動方向の一例)に対する傾斜角θ(
図4参照)が変化する。なお、作用位置P1及びP2は、第1実施形態の作用位置P1及びP2とは異なり、復元力が支持部材21及び中間部材25に作用する位置ではなく、復元力が免震部材23及び支持部材21に作用する位置となっている。
【0192】
少なくとも2つ(図示の例では3つ)の復元機構37(復元要素33、スライダ35及びリニアガイド45の組み合わせ)は、力方向Dfを互いに交差させることが可能に、作用位置P1及び作用位置P2、並びに作用位置P2(スライダ35)の移動方向が設定されている。これにより、xy平面に沿う任意の方向において復元力を生じることが可能になっている。
【0193】
図示の例では、3つの復元機構37は、互いに同一の構成とされており、かつ120°ずつ向きがずれるように配置されている。別の観点では、xy平面の平面視において、3つの力方向Dfの方位の移動範囲(作用位置P2の移動による力方向Dfの変化の範囲)は、360°を3等分した互いに異なる角度範囲(互いに異なる120°の範囲)に位置している。なお、このようにいうとき、3つの力方向Dfの移動範囲は、例えば、3等分した互いに異なる角度範囲にそれぞれ収まって互いに離れていてもよいし(図示の例)、3等分した互いに異なる角度範囲からはみ出して、互いに重複していてもよい。
【0194】
より詳細には、図示の例では、リニアガイド45は、概ね正三角形を構成するように配置されている。軸部材69は、その三角形の幾何中心に位置している。これにより、上記のような3つの力方向Dfの関係が成り立っている。なお、図示の例とは異なる態様で、上記のような3つの力方向Dfの関係が成り立ってもよい。例えば、1つのリニアガイド45及び1つの軸部材69の組み合わせが、一方向に並べられつつ、向きが120°ずつずらされるなどしてもよい。すなわち、リニアガイド45によって三角形が構成されなくてもよい。また、三角形に配置された3つのリニアガイド45の外側に、リニアガイド45毎に設けられた軸部材69が配置されてもよい。
【0195】
作用位置P2(スライダ35)の移動方向における、作用位置P2の移動可能範囲に対する作用位置P1の相対位置は、第1実施形態とは異なり、作用位置P2の移動可能範囲の中央側(例えば中央の位置)とされている。ただし、作用位置P1は、第1実施形態と同様に、作用位置P2の移動可能範囲の一端又は当該一端よりも外側に位置してもよい。地震が生じていないときの作用位置P2のその移動可能範囲内の位置(初期位置)は、第1実施形態の初期位置と同様に、適宜な位置とされてよく、例えば、移動可能範囲の中央側(例えば中央の位置)とされてよい。
【0196】
振動調整装置31Eは、例えば、3つの復元機構37に対応する3つの駆動部11(
図4)を有している。3つのスライダ35は、互いに連結されていない。3つの復元機構37は、互いに駆動源11aを共用していない。制御部41(
図4)は、例えば、3つの作用位置P2の移動量が互いに異なる値をとり得る態様で、3つの駆動部11を制御する。制御部41は、例えば、第1実施形態と同様に、AI技術(例えば深層強化学習)を利用した制御を行ってよい。このとき、出力層57は、例えば、3つのスライダ35の変位に対応する3つのノード59を有してよい。
【0197】
以上のとおり、アイソレータ7Eは、免震体(例えば免震部材23)を支持体(例えば支持部材21)に対して第1移動方向(x方向)を含む平面(xy平面)に沿う任意の移動方向に移動可能に支持してよい。免震システム1Eは、第1受動要素及び第1駆動部(3つの復元機構37のうちの1つの復元要素33及び駆動部11)に加えて、第2受動要素及び第2駆動部(3つの復元機構37のうちの他の1つの復元要素33及び駆動部11)と、第3受動要素及び第3駆動部(3つの復元機構37のうちの残りの1つの復元要素33及び駆動部11)とを有してよい。3つの力方向Dfの方位の移動範囲は、360°を3等分した互いに異なる角度範囲に位置してよい。
【0198】
この場合、例えば、1段構成の振動調整装置31Eによって、xy平面に沿う任意の方向における振動に関して、免震システム1Eの特性(図示の例ではばね定数)を変化させることができる。従って、例えば、振動調整装置31Eの薄型化に有利である。
【0199】
また、例えば、互いに向きが異なる2つの復元機構37のみによって1段構成の振動調整装置を構成した様態(当該態様も本開示に係る技術に含まれる。)に比較して、不要な復元力を復元要素33同士で相殺できる。例えば、以下のとおりである。
【0200】
復元要素33は、例えば、作用位置P2がその移動可能範囲内のいずれの位置にあっても復元力を生じるように取り付けられてよい。この場合、復元要素33は、作用位置P2が初期位置(地震が生じていないときの位置)にあるときも復元力を生じる。一方、免震システム1Eは、例えば、上記の作用位置P2が初期位置にあるときの復元力を打ち消して、免震部材23を支持部材21に対して初期位置に位置させる。
【0201】
互いに向きが異なる2つの復元機構37のみによって1段構成の振動調整装置を構成する態様においては、例えば、作用位置P2が初期位置にあるときの復元力を打ち消すために、復元機構37とは別に復元要素33(スライダ35による移動が行われない復元要素33)を設けることになる。一方、本実施形態では、3つの復元機構37同士で上記の初期位置の復元力を互いに打ち消すことができる。その結果、例えば、復元機構37とは別個に設けられる復元要素33を無くしたり、又は小型化したりできる。その結果、例えば、振動調整装置31Eが小型化される。
【0202】
なお、
図1(a)に例示した実施形態において、免震対象物5は第1対象物の一例であり、支持構造物3は第2対象物の一例である。第1~第4実施形態(
図2~
図10)において、2段の振動調整装置のうち、下段の振動調整装置31等に関して、中間部材25は第1対象物の一例であり、支持部材21は第2対象物の一例である。第1(及び第2~第4)実施形態(
図2)において、上段の振動調整装置32に関して、中間部材25は第1対象物の一例であり、免震部材23は第2対象物の一例である。第5実施形態(
図11)において、支持部材21は第1対象物の一例であり、免震部材23は第2対象物の一例である。
【0203】
図1(a)に例示した実施形態において、免震対象物5は免震体の一例であり、支持構造物3は支持体の一例である。第1~第4実施形態(
図2~
図10)において、2段の振動調整装置のうち、下段の振動調整装置31等に関して、中間部材25は免震体の一例であり、支持部材21は支持体の一例である。上段の振動調整装置32に関して、免震部材23は免震体の一例であり、中間部材25は支持体の一例である。第5実施形態(
図11)において、免震部材23は免震体の一例であり、支持部材21は支持体の一例である。
【0204】
いずれの実施形態においても、作用位置P2は第1作用位置の一例であり、作用位置P1は第2作用位置の一例である。第1~第4実施形態において、1つの作用位置P2は第1作用位置の一例であり、他の1つの作用位置P2は第3作用位置の一例である。第5実施形態において、1つの作用位置P2は第1作用位置の一例であり、他の1つの作用位置P2は第3作用位置の一例であり、残りの1つの作用位置P2は第4作用位置の一例である。
【0205】
本開示に係る技術は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0206】
例えば、傾斜角が変化する受動要素として復元要素を例示した実施形態(第4実施形態(
図10)以外の実施形態)において、復元要素に代えて、又は加えて、傾斜角が変化する受動要素としての減衰要素が設けられてよい。また、傾斜角が変化する受動要素として、復元要素及び減衰要素の双方が設けられるとき、第4実施形態において述べたように、両者はスライダ等の部材を共用していてもよいし、共用していなくてもよい。
【0207】
実施形態の説明でも触れたように、1つの受動要素の2つの作用位置のうち、傾斜角の変化のために駆動される作用位置は、実施形態と逆であってもよい。換言すれば、第1対象物及び第2対象物の具体例は、実施形態とは逆であってもよい。例えば、第1実施形態において、支持部材21及び中間部材25に連結される復元要素33は、支持部材21との連結位置が支持部材21に対して移動可能とされ、中間部材25との連結位置が中間部材25に対して移動不可能とされてよい。
【0208】
実施形態の説明でも触れたように、1つの受動要素の2つの作用位置のうち、2つの作用位置が駆動されてもよい。例えば、第1実施形態において、支持部材21及び中間部材25に連結される復元要素33は、中間部材25との連結位置が中間部材25に対して移動可能であるだけでなく、支持部材21との連結位置が支持部材21に対して移動可能とされてもよい。このような態様において、2つの作用位置の移動方向は、互いに同一方向であってもよいし、互いに異なっていてもよい。このような態様は、例えば、2つの作用位置のいずれについても移動可能範囲を確保することが困難な場合に有効である。なお、実施形態のように、2つの作用位置のうち1つの作用位置のみを移動させる態様は、構成が簡素であるとともに制御が容易である。
【0209】
実施形態の説明では、傾斜角の変化によって免震システム(振動調整装置)の特性(ばね定数又は減衰係数)を変化させる点を実施形態の要点として説明した。ただし、本開示からは、他の種々の概念が抽出されてよい。例えば、強化学習を要点とする以下の概念が抽出されてよい。
【0210】
(概念1)
第1対象物及び第2対象物の一方である免震体を前記第1対象物及び前記第2対象物の他方である支持体に対して少なくとも第1移動方向に移動可能に支持するアイソレータと、
前記第1対象物と前記第2対象物との前記第1移動方向の相対移動における復元力及び減衰力の少なくとも一方となる第1力を生じる受動要素と、
前記受動要素が前記第1対象物に前記第1力を作用させる作用位置を第1対象物に対して移動させる駆動力を生じる駆動部と、
前記駆動部を制御する制御部と、
を有しており、
前記制御部は、前記免震体の前記第1移動方向の振動の情報に基づく前記第1駆動部の制御について強化学習を行い、
前記強化学習における報酬は、前記免震体の前記支持体に対する相対的な変位の絶対値が小さいほど高くなり、かつ前記免震体の絶対的な加速度の絶対値が小さいほど高くなる
免震システム。
【0211】
(概念2)
第1対象物と第2対象物との相対移動における復元力及び減衰力の少なくとも一方となる第1力を生じる受動要素と、
前記受動要素が前記第1対象物に前記第1力を作用させる作用位置を前記第1対象物に対して移動させる駆動力を生じる駆動部と、
前記駆動部を制御する制御部と、
を有しており、
前記制御部は、前記免震体の振動の情報に基づく前記駆動部の制御について強化学習を行い、
前記強化学習における報酬は、前記免震体の前記支持体に対する相対的な変位の絶対値が小さいほど高くなり、かつ前記免震体の絶対的な加速度の絶対値が小さいほど高くなる
振動調整装置。
【0212】
(概念3)
上記概念1に記載の免震システムに用いられるプログラムの生産方法であって、
前記免震体の前記第1移動方向の振動の情報に基づく前記駆動部の制御についての強化学習によって、学習済みのエージェントのプログラムを作成し、
前記強化学習における報酬は、前記免震体の前記支持体に対する相対的な変位の絶対値が小さいほど高くなり、かつ前記免震体の絶対的な加速度の絶対値が小さいほど高くなる
免震システム用プログラムの生産方法。
【0213】
上記概念1~3においては、傾斜角の変化による免震システムの特性の変化は必須の要件ではない。例えば、特性の変化は、
図9の減衰要素39のように、受動要素が力を生じる方向に平行な方向における作用位置の移動によって実現されてもよい。
【符号の説明】
【0214】
1…免震システム、3…支持構造物(支持体の一例であり、第1対象物又は第2対象物の一例)、5…免震対象物(免震体の一例であり、第1対象物又は第2対象物の一例)、7…アイソレータ、9…受動要素、11…駆動部、21…支持部材(支持体の一例であり、第1対象物又は第2対象物の一例)、22…免震部材(免震体の一例であり、第1対象物又は第2対象物の一例)、25…中間部材(支持体又は免震体の一例であり、第1対象物又は第2対象物の一例)、31…振動調整装置、33…復元要素(受動要素の一例)、39…減衰要素(受動要素の一例)、41…制御部、Df…力方向、θ…傾斜角。