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特開2023-18798熱サイクルシステム、インホイールモータおよび車両
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018798
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】熱サイクルシステム、インホイールモータおよび車両
(51)【国際特許分類】
   B60K 1/04 20190101AFI20230202BHJP
   B60K 11/04 20060101ALI20230202BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20230202BHJP
   B60H 1/22 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
B60K1/04 Z
B60K11/04 G
H02K9/19 Z
B60H1/22 651C
B60H1/22 671
【審査請求】未請求
【請求項の数】33
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123077
(22)【出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 暁史
(72)【発明者】
【氏名】豊田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】小山 昌喜
(72)【発明者】
【氏名】榎本 裕治
(72)【発明者】
【氏名】中津 欣也
【テーマコード(参考)】
3D038
3D235
3L211
5H609
【Fターム(参考)】
3D038AA00
3D038AB01
3D038AC14
3D038AC20
3D038AC22
3D235AA01
3D235BB45
3D235CC15
3D235CC42
3D235FF25
3D235HH12
3L211AA11
3L211BA32
3L211CA14
3L211DA94
3L211EA12
3L211EA56
3L211GA03
3L211GA26
5H609BB18
5H609BB19
5H609PP01
5H609PP02
5H609QQ05
5H609QQ09
5H609RR52
5H609RR55
5H609SS17
5H609SS21
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、電力消費を低減可能でかつ低コストな熱サイクルシステム、この熱サイクルシステムを利用して駆動されるインホイールモータならびにこの熱サイクルシステムを搭載した車両を提供することにある。
【解決手段】
本発明の熱サイクルシステム400は、圧縮機100と、アキュムレータ501と、電動機210から成る電気駆動部200と、圧縮機100によって圧縮される冷媒と、冷媒の熱交換を担う室内熱交換器321および室外熱交換器311と、を備え、熱サイクルシステム400は、冷媒を循環させる単一の循環経路から成り、かつ、圧縮機100の冷媒吐部の接続先が室内熱交換器321または室外熱交換器311に切り替え可能な四方弁102を有しており、電気駆動部210の冷却部211は、冷媒の流れにおいてアキュムレータ501の上流側に配置されている。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の室内空調を制御する熱サイクルシステムであって、
圧縮機と、アキュムレータと、電動機および前記電動機に適切な電力を供給する電気品から成る電気駆動部と、前記圧縮機によって圧縮される冷媒と、前記冷媒の熱交換を担う室内熱交換器および室外熱交換器とを備え、
当該熱サイクルシステムは、前記冷媒を循環させる単一の循環経路から成り、かつ、前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室内熱交換器または前記室外熱交換器に切り替え可能な四方弁を有しており、前記電気駆動部の冷却部は、冷媒の流れにおいて前記アキュムレータの上流側に配置されていることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は、前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室内熱交換器に繋がる第1状態に設定されることにより、前記冷媒は室内へ暖房エネルギーを供給し、
前記電気駆動部の発熱量Pdと、前記室内熱交換器の熱交換容量Piと、前記室外熱交換器の熱交換容量Peとの関係が
Pe+Pd ≦ Pi
となるように運用されることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項3】
請求項1に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は、前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室外熱交換器に繋がる第2状態に設定されことにより、前記冷媒は室内へ冷房エネルギーを供給し、
前記電気駆動部の発熱量Pdと、前記室内熱交換器の熱交換容量Piと、前記室外熱交換器の熱交換容量Peとの関係が
Pd+Pi ≦ Pe
となるように運用されることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項4】
請求項1に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記電気駆動部の機械的な動作を停止させた状態を維持しつつ、前記電気駆動部に通電損失を発生させ、前記通電損失に相当する発熱量Pdを前記冷媒に吸熱させることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項5】
請求項1に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記電気品の冷却部は、冷媒の流れにおいて前記電動機の冷却部の上流側に配置されていることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項6】
請求項1に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記電気品の冷却部は、冷媒の流れにおいて前記電動機の冷却部と並列に配置されていることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項7】
請求項4に記載の熱サイクルシステムにおいて、
外気温を検出する外気温センサと、
前記電気駆動部の温度を検出する電気駆動部温度センサと、
室内の温度を検出する室内温度センサと、
前記室内熱交換器の熱交換を促す室内ファンと、
前記室外熱交換器の熱交換を促す室外ファンと、
前記外気温センサと前記電気駆動部温度センサとの検出情報を基に前記電気駆動部の温度を判定する電気駆動部温度判定部と、
前記室内温度センサの検出情報と前記室内空調の設定温度を基に前記室内空調の運転モードを判定する空調運転モード判定部と、
前記電気駆動部温度判定部と前記空調運転モード判定部との判定演算結果を基に、前記四方弁と、前記室内ファンと、前記室外ファンと、前記通電損失の発生と、を制御する熱サイクルシステム制御部と、
を有することを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項8】
請求項7に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室内熱交換器に繋がる第1状態に設定され、かつ、前記冷媒は室内へ暖房エネルギーを供給し、かつ、前記設定温度を基準とした任意閾値を前記室内温度センサの検出温度が上回った場合に、
前記熱サイクルシステム制御部は、前記室内ファンを停止し、かつ、前記四方弁を前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室外熱交換器に繋がる第2状態に設定することを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項9】
請求項7に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室外熱交換器に繋がる第2状態に設定され、かつ、前記室内ファンを停止し、前記設定温度を基準とした任意閾値を前記室内温度センサの検出温度が下回った場合に、
前記熱サイクルシステム制御部は、前記室内ファンを稼働し、かつ、前記四方弁を前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室内熱交換器に繋がる第1状態に設定することを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項10】
請求項7に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室内熱交換器に繋がる第1状態に設定され、かつ、前記冷媒は室内へ暖房エネルギーを供給し、かつ、前記外気温センサの検出温度が任意閾値を下回った場合に、
前記熱サイクルシステム制御部は、前記通電損失を発生する指令を出すことを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項11】
請求項1に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記電気駆動部に電力を供給するバッテリを備え、
前記バッテリは、前記冷媒の流れにおいて、前記電気駆動部の冷却部の下流側、かつ、前記アキュムレータの上流側に配置されていることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項12】
請求項11に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は、前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室内熱交換器に繋がる第1状態に設定され、前記冷媒は室内へ暖房エネルギーを供給するとともに、前記バッテリへ加温エネルギーを供給し、
前記電気駆動部の発熱量Pdと、前記室内熱交換器の熱交換容量Piと、前記室外熱交換器の熱交換容量Peと、前記バッテリを加温する熱量Pbとの関係が
Pe+Pd-Pb ≦ Pi
となるように運用されることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項13】
請求項11に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は、前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室内熱交換器に繋がる第1状態に設定され、前記冷媒は室内へ暖房エネルギーを供給するとともに、前記バッテリを冷却し、
前記電気駆動部の発熱量Pdと、前記室内熱交換器の熱交換容量Piと、前記室外熱交換器の熱交換容量Peと、前記バッテリの発熱量Pbとの関係が
Pe+Pd+Pb ≦ Pi
となるように運用されることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項14】
請求項11に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は、前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室外熱交換器に繋がる第2状態に設定され、前記冷媒は室内へ冷房エネルギーを供給するとともに、
前記電気駆動部の発熱量Pdと、前記室内熱交換器の熱交換容量Piと、前記室外熱交換器の熱交換容量Peと、前記バッテリの発熱量Pbとの関係が
Pi+Pd+Pb ≦ Pe
となるように運用されることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項15】
請求項11に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記電気駆動部を少なくとも2組有し、前記バッテリは前記電気駆動部の少なくとも1組に対して、冷媒の流れにおいて下流側に配置されていることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項16】
請求項11に記載の熱サイクルシステムにおいて、
外気温を検出する外気温センサと、
前記電気駆動部の温度を検出する電気駆動部温度センサと、
室内の温度を検出する室内温度センサと、
バッテリ温度を検出するバッテリ温度センサと、
前記室内熱交換器の熱交換を促す室内ファンと、
前記室内熱交換器のそれぞれおよび室外ファンと、
前記外気温センサと前記電気駆動部温度センサとの検出情報を基に前記電気駆動部の温度を判定する電気駆動部温度判定部と、
前記室内温度センサの検出情報と前記室内空調の設定温度を基に前記室内空調の運転モードを判定する空調運転モード判定部と、
前記外気温センサと前記バッテリ温度センサとの検出情報を基に前記バッテリの温度を判定するバッテリ温度判定部と、
前記電気駆動部の機械的な動作を停止させた状態を維持しつつ前記電気駆動部に発生させる通電損失、前記通電損失に相当する発熱量Pdを前記冷媒に吸熱させ、
前記電気駆動部温度判定部と前記空調運転モード判定部と前記バッテリ温度判定部の判定演算結果を基に、前記四方弁と、前記室内ファンと、前記室外ファンと、前記電気駆動部の機械的な動作を停止させた状態を維持しつつ前記電気駆動部に発生させる通電損失の発生と、を制御する熱サイクルシステム制御部と、を有し、
前記通電損失に相当する発熱量Pdを前記冷媒に吸熱させることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項17】
請求項16に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室内熱交換器に繋がる第1状態に設定され、かつ、前記冷媒は室内へ暖房エネルギーを供給するとともにバッテリを冷却し、かつ、前記設定温度を基準とした任意閾値を前記室内温度センサの検出温度が上回った場合に、
前記熱サイクルシステム制御部は、前記室内ファンを停止し、かつ、前記四方弁を前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室外熱交換器に繋がる第2状態に設定することを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項18】
請求項16に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室外熱交換器に繋がる第2状態に設定され、かつ、前記室内ファンを停止し、前記設定温度を基準とした任意閾値を前記室内温度センサの検出温度が下回った場合に、
前記熱サイクルシステム制御部は、前記室内ファンを稼働し、かつ、前記四方弁を前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室内熱交換器に繋がる第1状態に設定することを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項19】
請求項16に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室内熱交換器に繋がる第1状態に設定され、かつ、前記冷媒は前記バッテリへ加温エネルギーを供給し、かつ、前記外気温センサの検出温度が任意閾値を下回った場合に、
前記熱サイクルシステム制御部は、前記通電損失を発生する指令を出すことを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項20】
請求項1に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記電気駆動部に電力を供給するバッテリと、前記単一の循環経路の中で前記四方弁と前記室内熱交換器との間に配置される切替弁と、を有し、
前記切替弁は、接続先が前記バッテリであり、かつ前記バッテリには前記冷媒を循環しない第3状態と、前記単一の循環経路の中で前記バッテリにも前記冷媒を循環する第4状態とを、自在に切り替えることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項21】
請求項20に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室内熱交換器に繋がる第1状態に設定されて、前記冷媒は室内へ暖房エネルギーを供給するとともに、
前記切替弁は前記第4状態に設定されて、前記冷媒は前記バッテリへ加温エネルギーを供給し、
前記電気駆動部の発熱量Pdと、前記室内熱交換器の熱交換容量Piと、前記室外熱交換器の熱交換容量Peと、前記バッテリを加温する熱量Pbとの関係が
Pe+Pd ≦ Pi+Pb
となるように運用されることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項22】
請求項20に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室内熱交換器に繋がる第1状態に設定されて、前記冷媒は室内へ暖房エネルギーを供給するとともに、
前記切替弁は前記第3状態に設定されて、前記バッテリには前記冷媒を循環しない場合、
前記電気駆動部の発熱量Pdと、前記室内熱交換器の熱交換容量Piと、前記室外熱交換器の熱交換容量Peと、前記バッテリの発熱量Pbとの関係が
Pe+Pd ≦ Pi
となるように運用されることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項23】
請求項20に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室外熱交換器に繋がる第2状態に設定され、前記切替弁は前記第3状態に設定され、前記室内熱交換器の室内ファンは停止された状態で、
前記電気駆動部の発熱量Pdと、前記室外熱交換器の熱交換容量Peとの関係が
Pd ≦ Pe
となるように運用されることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項24】
請求項20に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室外熱交換器に繋がる第2状態に設定され、前記切替弁は前記第4状態に設定され、前記室内熱交換器の室内ファンは停止された状態で、
前記電気駆動部の発熱量Pdと、前記室外熱交換器の熱交換容量Peと、前記バッテリの発熱量Pbとの関係が
Pb+Pd ≦ Pe
となるように運用されることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項25】
請求項20に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室外熱交換器に繋がる第2状態に設定され、前記切替弁は前記第4状態に設定され、前記冷媒は室内へ冷房エネルギーを供給する状態において、
前記電気駆動部の発熱量Pdと、前記室内熱交換器の熱交換容量Piと、前記室外熱交換器の熱交換容量Peと、前記バッテリの発熱量Pbとの関係が
Pi+Pb+Pd ≦ Pe
となるように運用されることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項26】
請求項20に記載の熱サイクルシステムにおいて、
外気温を検出する外気温センサと、
前記電気駆動部の温度を検出する電気駆動部温度センサと、
室内の温度を検出する室内温度センサと、
バッテリ温度を検出するバッテリ温度センサと、
前記室内熱交換器の熱交換を促す室内ファンと、
前記室内熱交換器のそれぞれおよび室外ファンと、
前記外気温センサと前記電気駆動部温度センサとの検出情報を基に前記電気駆動部の温度を判定する電気駆動部温度判定部と、
前記室内温度センサの検出情報と前記室内空調の設定温度を基に前記室内空調の運転モードを判定する空調運転モード判定部と、
前記外気温センサと前記バッテリ温度センサとの検出情報を基に前記バッテリの温度を判定するバッテリ温度判定部と、
前記電気駆動部の機械的な動作を停止させた状態を維持しつつ前記電気駆動部に発生させる通電損失、前記通電損失に相当する発熱量Pdを前記冷媒に吸熱させ、
前記電気駆動部温度判定部と前記空調運転モード判定部と前記バッテリ温度判定部の判定演算結果を基に、前記四方弁と、前記室内ファンと、前記室外ファンと、前記電気駆動部の機械的な動作を停止させた状態を維持しつつ前記電気駆動部に発生させる通電損失の発生と、を制御する熱サイクルシステム制御部と、を有し、
前記通電損失に相当する発熱量Pdを前記冷媒に吸熱させることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項27】
請求項26に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室内熱交換器に繋がる第1状態に設定され、かつ、前記切替弁は前記第3状態に設定され、前記冷媒は室内へ暖房エネルギーを供給するととも、前記バッテリには前記冷媒を循環せず、かつ、前記設定温度を基準とした任意閾値を前記室内温度センサの検出温度が上回った場合に、
前記熱サイクルシステム制御部は、前記室内ファンを停止し、かつ、前記四方弁を前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室外熱交換器に繋がる第2状態に、かつ、前記切替弁を前記第4状態に設定することを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項28】
請求項26に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室外熱交換器に繋がる第2状態に設定され、かつ、前記切替弁は前記第4状態に設定され、かつ、前記室内ファンを停止し、前記設定温度を基準とした任意閾値を前記室内温度センサの検出温度が下回った場合に、
前記熱サイクルシステム制御部は、前記室内ファンを稼働し、かつ、前記四方弁を前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室内熱交換器に繋がる第1状態に設定し、かつ、前記切替弁を前記第3状態に設定することを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項29】
請求項26に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記四方弁は前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室内熱交換器に繋がる第1状態に設定され、かつ、前記切替弁は前記第4状態に設定され、かつ、前記冷媒は前記バッテリへ加温エネルギーを供給し、かつ、前記外気温センサの検出温度が任意閾値を下回った場合に、
前記熱サイクルシステム制御部は、前記通電損失を発生する指令を出すことを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項30】
請求項1に記載の熱サイクルシステムにおいて、
前記電気駆動部に電力を供給するバッテリと、高温になった冷媒を低温の冷媒に変化させる膨張弁と、前記バッテリを接続先とする切替弁と、を備え、
前記バッテリ、前記切替弁及び前記膨張弁は前記単一の循環経路の中に配置され、
前記バッテリ及び前記切替弁は前記単一の循環経路の中で前記室内熱交換器と前記膨張弁とを繋ぐ経路に配置され、
前記切替弁は、接続先が前記バッテリであり、かつ前記バッテリには前記冷媒を循環しない第3状態と、前記単一の循環経路の中で前記バッテリにも前記冷媒を循環する第4状態とを、自在に切り替えることを特徴とする熱サイクルシステム。
【請求項31】
ホイールと、電気駆動部と、を備えるインホイールモータにおいて、
請求項1に記載の熱サイクルシステムを備えたことを特徴とするインホイールモータ。
【請求項32】
電気駆動部と、バッテリと、前記バッテリの直流電力を交流電力に変換して前記交流電力を前記電気駆動部に供給する電気品と、を備えた車両において、
請求項1に記載の熱サイクルシステムを備え、
前記電気駆動部は、前記熱サイクルシステムに組み込まれ、かつ前記電気駆動部のトルクが車輪に直接伝達されるように構成されることを特徴とする車両。
【請求項33】
電気駆動部と、バッテリと、前記バッテリの直流電力を交流電力に変換して前記交流電力を前記電気駆動部に供給する電気品と、を備えた車両において、
請求項1に記載の熱サイクルシステムを備え、
前記電気駆動部は、前記熱サイクルシステムに組み込まれ、かつ前記電気駆動部のトルクが変速機を介して車輪に伝達されるように構成されることを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車、建機、鉄道車両などの移動車両に搭載される空調システムおよび冷却システム等を含む熱サイクルシステムに関わる。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の電動化が急速に進んでおり、電気駆動システムの電力消費(以下、電費)を低減するニーズが高まっている。特に、電気自動車(以下、EV)では冬季の暖房エネルギーをバッテリーから供給する必要があるため、航続距離が大幅に低下する問題がある。既存のエンジン車ではエンジンの排熱で暖房エネルギーを供給しているため、この問題は発生しない。
【0003】
ここで、EVの暖房エネルギーの供給形態は大きく2つあり、1つはPTCヒータ(電気抵抗加熱)によるもの、もう1つはヒートポンプ(家庭用エアコンの熱サイクル)によるものである。前者は電気抵抗によって加熱するため電力消費が大きい点に課題があるが、構成が簡素であり、導入コストを抑制できるメリットが大きい。既存のエンジン車では冷房専用エアコンを搭載しているが、これをそのまま流用できる点でも導入コストを抑制できる。後者のヒートポンプは冷房と暖房を兼ねるような構成となるため、冷房専用エアコンに比べると部品点数、部品サイズが増加する課題があるが、電力消費の削減に優れる。
【0004】
特許文献1では1組のヒートポンプサイクルで暖房、冷房、除湿を可能とする技術が開示されている。また特許文献2では、空調用の冷媒を電気駆動システムの冷却に活用することで、電気駆動システムの熱交換器と空調用の室外熱交換器を共通化し、熱交換器の台数を従来の3台から2台に低減する技術が開示されている(特許文献2では2台の熱交換器を凝縮器、蒸発器と呼称)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6―213531号公報
【特許文献2】国際公開第2019/098224号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
EVではモータやインバータなどからなる電気駆動システム(以下、e-Axle)が採用されており、e-Axleは水冷方式または油冷方式の冷却システムによって冷却される。したがって、e-Axle用に熱交換器や循環ポンプ、配管等が必要となり、部品点数が増加することで車両コストが増加するほか、車両重量が増加するため電費が低下する課題がある。特許文献1のようなヒートポンプを使用する場合には、これに加えて室外熱交換器と室内熱交換器が必要であり、さらに空調用圧縮機および冷媒配管等が必要となるため部品点数が膨大になる。
【0007】
この課題を解決するため、特許文献2では空調用の冷媒をe-Axleの冷却に活用することで、e-Axleの熱交換器と空調用の室外熱交換器を共通化し、熱交換器の台数を従来の3台から2台に低減している。しかしながら、e-Axleに冷媒を供給するための配管は、空調用の配管と分岐する必要があるため、流量調整弁が新たに必要となる。また、空調用の膨張弁に加えて、e-Axle用の膨張弁が新たに必要となる。さらに、空調用の配管に加えて、e-Axle用の分岐配管が新たに必要となる。このため、熱交換器の台数を低減することはできても、追加の部品点数が多くコストの増加を招く上に、追加部品の敷設面積が増加してレイアウト自由度が低下するほか、重量低減効果が得られないなど多くの課題がある。
【0008】
このように従来技術では、e-Axle用の冷却システムを導入する際に、コストの増加や重量の増加を回避することが困難であった。
【0009】
本発明の目的は、電力消費を低減可能でかつ低コストな熱サイクルシステム、この熱サイクルシステムを利用して駆動されるインホイールモータならびにこの熱サイクルシステムを搭載した車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明には様々な実施形態を含むが、その一例をあげると、本発明の駆動熱サイクルシステムは、
車両の室内空調を制御する熱サイクルシステムであって、
圧縮機と、アキュムレータと、電動機および前記電動機に適切な電力を供給する電気品から成る電気駆動部と、前記圧縮機によって圧縮される冷媒と、前記冷媒の熱交換を担う室内熱交換器および室外熱交換器とを備え、
当該熱サイクルシステムは、前記冷媒を循環させる単一の循環経路から成り、かつ、前記圧縮機の冷媒吐部の接続先が前記室内熱交換器または前記室外熱交換器に切り替え可能な四方弁を有しており、前記電気駆動部の冷却部は、冷媒の流れにおいて前記アキュムレータの上流側に配置されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電力消費を低減可能でかつ低コストな熱サイクルシステム、この熱サイクルシステムを利用して駆動されるインホイールモータならびにこの熱サイクルシステムを搭載した車両を提供できる。
【0012】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本発明の第1の実施例における駆動熱サイクルシステムの説明図。
図1B】本発明との比較例(第1比較例)に係る駆動熱サイクルシステムの説明図。
図1C】本発明との比較例(第2比較例)に係る駆動熱サイクルシステムの説明図。
図2A】本発明の第1の実施例における駆動熱サイクルシステムの説明図であり、暖房運転をした場合の図。
図2B】本発明の第1の実施例における駆動熱サイクルシステムの説明図であり、冷房運転をした場合の図である。
図2C】本発明の第1の実施例における駆動熱サイクルシステムの運用パターンを示す図。
図2D】本発明の第1の実施例における駆動熱サイクルシステムの制御シーケンスを示す図。
図3】本発明の第1の実施例における駆動熱サイクルシステムの別形態の説明図。
図4A】本発明の第2の実施例における駆動熱サイクルシステムの説明図であり、エアコンを暖房運転し、かつバッテリを加温する場合を示す図。
図4B】本発明の第2の実施例における駆動熱サイクルシステムの説明図であり、エアコンを暖房運転する一方で、バッテリには冷媒を循環させない場合を示す図である。
図4C】本発明の第2の実施例における駆動熱サイクルシステムの説明図であり、エアコンの暖房運転を停止にし、バッテリには冷媒を循環させない場合を示す図である。
図4D】本発明の第2の実施例における駆動熱サイクルシステムの説明図であり、エアコンの暖房運転を停止にし、バッテリに冷媒を循環させる場合を示す図である。
図4E】本発明の第2の実施例における駆動熱サイクルシステムの説明図であり、エアコンを冷房運転にするとともに、バッテリに冷媒を循環させる場合を示す図である。
図4F】本発明の第2の実施例に係る駆動熱サイクルシステムの運用パターンを示す図である。
図4G】本発明の第2の実施例に係る駆動熱サイクルシステムの制御シーケンスを示す図。
図4H】本発明の第2の実施例における駆動熱サイクルシステムの別形態の説明図である。
図4I】本発明の第2の実施例における駆動熱サイクルシステムの別形態の説明図である。
図5A】本発明の第3の実施例における駆動熱サイクルシステムの説明図であり、エアコンを暖房運転する場合を示す図である。
図5B】本発明の第3の実施例における駆動熱サイクルシステムの説明図であり、エアコンを冷房運転する場合を示す図である。
図5C】本発明の第3の実施例に係る駆動熱サイクルシステムの運用パターンを示す図である。
図5D】本発明の第3の実施例に係る駆動熱サイクルシステムの制御シーケンスを示す図である。
図6】本発明の第3の実施例における駆動熱サイクルシステムの別形態の説明図。
図7A】本発明の第3の実施例における駆動熱サイクルシステムの別形態の説明図。
図7B】本発明の第3の実施例における駆動熱サイクルシステムの別形態の説明図。
図8A】本発明に係る駆動熱サイクルシステムの圧縮機の実施例を示す概略図。
図8B】本発明に係る駆動熱サイクルシステムの圧縮機の一実施例について、内部構造を示す断面図。
図9A】本発明の第4の実施例に係る図であって、アウターロータ型のインホイールモータの外観を示す斜視図。
図9B図9Aのインホイールモータを回転軸線上に分離して示す分解斜視図。
図10】本発明の第5の実施例における車両の模式的平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。以下の説明では、同一の構成要素には同一の記号を付してある。それらの名称および機能は同じであり、重複説明は避ける。以下の説明では自動車用の駆動熱サイクルシステムを対象としているが、本発明の効果はこれに限定されるものではなく、移動車両全般に適用可能である。
【0015】
[実施例1]
以下、図1乃至3を用いて、本発明の第1の実施例について説明する。
【0016】
まず、従来技術と本発明の違いについて図1A乃至1Cを参照して説明する。
図1Aは本発明の第1の実施例における駆動熱サイクルシステム400の説明図である。図1Bは本発明との比較例(第1比較例)に係る駆動熱サイクルシステム(従来システム)400bの説明図である。図1Cは本発明との比較例(第2比較例)に係る駆動熱サイクルシステム(従来システム)400’の説明図である。
【0017】
EVでは電動機(モータ)や電気品(インバータ)などからなるe-Axleと呼ばれる電気駆動部200が搭載されており、電気駆動部200は水冷方式または油冷方式の冷却システムによって冷却される。図1Bに示すように、従来システムでは空調用の熱サイクルシステム(空調熱サイクルシステム)400aとe-Axle用の熱サイクルシステム(駆動熱サイクルシステム)400bが別個に構成されている。空調用の熱サイクルシステム400aは、駆動品搭載スペース300に設置された圧縮機100、室外ファン312aによって室外310との熱交換を担う室外熱交換器311a、膨張弁502、室内ファン322によって室内320との熱交換を担う室内熱交換器321から成る。e-Axle用の熱サイクルシステム400bとして、上記とは別に熱交換器311bや循環ポンプ201、配管503b等が必要となり、部品点数が増加することで車両コストが増加するほか、車両重量が増加するため電費が低下する課題がある。
【0018】
この課題を解決するため、特許文献2では図1Cに示すように空調用の冷媒401aを電気駆動部200の冷却に活用することで、電気駆動部200用の熱交換器を空調用の室外熱交換器311と共通化し、熱交換器の台数を従来の3台から2台に低減している。しかしながら、電気駆動部200に冷媒401aを適切に供給するためには、室外熱交換器311の下流側において、空調用の配管503aから電気駆動部200用の配管503bを分岐した上で、流量調整弁202によって供給流量を適切に制御する必要がある。このため、流量調整弁202が新たに必要となる。また、空調用の室内交換機321に低温の冷媒402aを、電気駆動部200に低温の冷媒402bをそれぞれ供給するため、空調用の膨張弁502aに加えて、電気駆動部200用の膨張弁502bが新たに必要となる。さらに、空調用の配管503aに加えて、電気駆動部200用の分岐配管503bが新たに必要となる。このため、熱交換器の台数を低減することはできても、追加の部品点数が多くコストの増加を招く上に、追加部品の敷設面積が増加してレイアウト自由度が低下するほか、重量低減効果が得られないなど多くの課題がある。
【0019】
本実施例ではこのような課題に対して、部品点数を増加することなく空調システムと電気駆動部の熱サイクルシステムを同時に成立させる構成を考案した。本実施例の最大の特徴は、図1Aに示すように空調用の冷媒401を循環させる配管503が単一の循環経路を構成し、この単一循環経路に空調システムと電気駆動部の冷却システムが配置されている点にある。
【0020】
ここで、単一循環経路に空調システムと電気駆動部の冷却システムが配置される構成は、圧縮機100、膨張弁502、室外熱交換器311、室内熱交換器321および電気駆動部200が同じ冷媒が流れる1つの循環経路に配置される構成を意味している。この場合、電気駆動部200が後述する実施例のように複数の電気駆動部で構成され、各電気駆動部が並列に分岐した冷媒の循環経路に配置されてもよい。この場合も、並列に分岐する冷媒の循環経路に配置された各電気駆動部を1つの電気駆動部群とみなせば、圧縮機100、膨張弁502、室外熱交換器311、室内熱交換器321および電気駆動部群が同じ冷媒が流れる1つの循環経路に配置されることになる。
【0021】
具体的に、圧縮機100によって高温になった冷媒401は室外熱交換器311によって放熱され、さらに膨張弁502によって低温の冷媒402に変化した後に、室内熱交換器321および電気駆動部200から吸熱する。すなわち、冷媒402は室内320へ冷房エネルギーを供給するとともに電気駆動部200を冷却する。このとき、電気駆動部200の発熱量Pdと、室内熱交換器321の熱交換容量Piと、室外熱交換器311の熱交換容量Peとの関係が下記となるように運用する。
【0022】
Pd+Pi ≦ Pe (1)
ここで、図1Bの従来システムでは、冷房エネルギーの最大値にあわせて室外熱交換器311aの熱交換容量Pe1が設定され、電気駆動部200の最大出力に合わせて室外熱交換器311bの熱交換容量Pe2が設定されていた。
【0023】
本実施例では、空調用の冷媒402で電気駆動部200を冷却するので、図1Bに示した従来システムの冷媒402bよりも低い温度で電気駆動部200を冷却することが可能となる。すなわち、電気駆動部200の運転上限温度に対して実運転温度を低減できるので、電気駆動部200の冷却能力を低減しても運転上限温度以下での運用が可能となり、結果的に、室外熱交換器311の熱交換容量を低減することができる。したがって、室外熱交換器311の熱交換容量Peを、従来システムの室外熱交換器311aと311bの合計熱交換容量Pe1+Pe2に対して低減できるため、室外熱交換器311のサイズならびに重量も低減することができる。さらに、電気駆動部200用の冷却ポンプ201や流用調整弁202、専用の膨張弁502b、専用の配管503bなどが不要となるため追加部品のコスト増が無く、重量増加もない。従来技術では、ドライバビリティ(車両の運転性能)に対するユーザ要求を制限することが無いように、空調用の熱サイクルと駆動部の冷却サイクルとは独立に制御するとの思想を前提としていたため、システムコストおよび重量が増加していた。これに対し、本発明では上述した構成を考案することで、システムコストおよび重量の増加を招くことなく、様々なユーザ要求への対応も可能とした。
【0024】
これに加えて本実施例では、Pe1とPe2が同時に最大値で運用されるシーンは極めて稀であることに着目し、図1B,1Cに示す高コストなシステムや重量増加による燃費悪化といった代償に比べると、それがもたらすユーザーメリットはさほど大きくないと考えた。すなわち、急速に普及するEVのシステムコストを低減することと駆動熱システムの総重量を低減して電費を改善することが真のユーザーメリットを生むとの思想に基づき、室外熱交換器のサイズならびに重量のさらなる低減を図るべきと考えた。具体的に、本発明の室外熱交換器311の熱交換容量Peは、電気駆動部200の最大発熱量Pdよりも大きな値に設定しつつ、従来システムの合計熱交換容量Pe1+Pe2に対しては大幅に低減した容量に設定する。電気駆動部200が高出力で運転され発熱量Pdが増加するときには、冷房エネルギーを供給するための熱交換容量Piが相対的に小さくなるよう室内ファン322を制御し、室内熱交換器321を流れる風量420を低減する。一方で、電気駆動部200が低出力で運転され発熱量Pdが低下するときには、熱交換容量Piが大きくなるよう室内ファン322を制御し、室内熱交換器321を流れる風量420を増加することで、より多くの冷房エネルギーを供給する。
【0025】
真夏の運転開始時などは、アイドリング状態で車内の冷房エネルギーを最大にする運用が想定されるが、この場合は電気駆動部200が不稼働であり発熱量Pdはゼロなので、従来と同等の冷房エネルギーを供給することが可能である。また、真夏の長距離移動時などで電気駆動部200が長時間にわたって連続運転される場合には、電気駆動部200(発熱量Pd)の冷却が主体的になるが、室内温度を一定に保つための冷房エネルギー(熱交換容量Pi)は室内熱交換器321の最大熱交換容量Pi,maxよりも小さくてよい。したがって、室外熱交換器311の最大熱交換容量Pe,maxはPdとPiとの和になるので、Pdよりは大きくなるものの、さほど大きくする必要はない。
【0026】
上述の運用は電気駆動部200の冷却を主体として冷房エネルギーを付随的に調整するものであるが、これとは対照的に冷房エネルギーを主体として電気駆動部200の冷却を付随的に調整することも可能である。すなわち、冷房エネルギーを増加したい場合には、熱交換容量Piが大きくなるよう室内ファン322を制御し、室内熱交換器321を流れる風量420を増加するとともに、電気駆動部200の発熱量Pdを低減するような出力制限をかければよい。このような運用とすることで、室外熱交換器のサイズを従来よりも大幅に低減することが可能となる。以上のように、電気駆動部200の冷却を主体をとしてドライバビリティ(車両の運転性能)を優先するか、冷房エネルギーを主体とするかは、車両の熱マネジメントシステムで判断して表示装置等を介してユーザに知らせる。車両走行時は車両の安全を優先する観点で、基本的には電気駆動部200の冷却を主体をとしてドライバビリティ(車両の運転性能)を優先する一方で、室内温度が顕著に高い場合には、冷房エネルギーを主体としてドライバビリティを一時的に制限する。ただし、冷房エネルギーを主体とするシーンは、真夏の炎天下にて車両を駐車した後に再発進するときなどに限定され、かつ車両窓を開けるなどでも室内温度を低減できるので、運用シーンに占める時間比率は極めて僅少と言え、ユーザーメリットの低下影響は極めて軽微と言える。
【0027】
なお、冷媒402は電気駆動部200の筐体外周または筐体内部の少なくとも一方を循環する。冷媒402の流路は電動機の固定子や回転子と同一空間内(例えば筐体内部)に設けても良いし、固定子や回転子の格納空間に対して隔壁(例えば筐体構成部材)を設けた上で、冷媒402が充填される流路を別個(例えば筐体外周)に設けても良い。後者の場合、電動機の固定子や回転子の格納空間には空気を充填しても良いし、冷媒402とは異なる冷却油を充填しても良い。冷却油を充填する場合は、格納空間いっぱいに充填してもよいし、固定子または回転子の一部を浸漬するように充填しても良い。固定子または回転子の一部を浸漬する場合には、回転子の一部に冷却油を掻き揚げる構成を付与することで、回転子の回転動作を利用して格納空間で冷却油を撹拌できるので、電動機の放熱性がさらに向上するほか、軸受や油密シール材の潤滑作用を得ることもできる。電気品においても同様にして、冷媒402の流路をパワー半導体などの発熱部と同一空間内に設けても良いし、パワー半導体の格納空間に対して隔壁を設けた上で冷媒402が充填される流路を別個に設けても良い。
【0028】
以上、本実施例と従来技術との差異について述べた。図1A乃至1Cでは空調の運転モードが冷房の場合に限定して説明したが、本発明は冷房以外の運転モードにも適用可能であり、その詳細について図2A乃至2Dで説明する。
【0029】
図2Aは、本発明の第1の実施例における駆動熱サイクルシステム400の説明図であり、暖房運転をした場合の図である。図2Bは、本発明の第1の実施例における駆動熱サイクルシステム400の説明図であり、冷房運転をした場合の図である。図2Cは、本発明の第1の実施例における駆動熱サイクルシステム400の運用パターンを示す図である。図2Dは、本発明の第1の実施例における駆動熱サイクルシステム400の制御シーケンスを示す図である。
【0030】
以下では、図2Aを参照しながら本実施例の駆動熱サイクルシステム400の構成をより詳細に述べる。駆動熱サイクルシステム400は、圧縮機100と、アキュムレータ501と、膨張弁502と、冷却部211を備えた電動機210と、冷却部221を備えた電気品(インバータ)220と、電動機210および電気品220から成る電気駆動部200と、圧縮機100によって圧縮された冷媒401と、冷媒の熱交換を担う室内熱交換器321および室外熱交換器311と、を備えるとともに、冷媒を循環させる単一の循環経路から成り、かつ、圧縮機100の冷媒吐部の接続先が室内熱交換器321および室外熱交換器311に切り替え可能な四方弁102を有しており、電気駆動部200の冷却部211、221は,冷媒の流れにおいてアキュムレータ501の上流側に配置される。
【0031】
図2Aは暖房運転時の構成を示しており、四方弁102をAの状態(第1状態)にすることで、圧縮機100から四方弁102に繋がる配管と、四方弁102から室内熱交換器321に繋がる配管とを互いに接続する。同様に、室外熱交換器311から四方弁102に繋がる配管と、四方弁102から電気駆動部200に繋がる配管とを互いに接続する。このような構成によって、圧縮機100によって高温になった冷媒401は室内熱交換器321によって放熱され、さらに膨張弁502によって低温の冷媒402に変化した後に、室外熱交換器311および電気駆動部200から吸熱する。すなわち、冷媒401は室内熱交換器321を介して室内へ暖房エネルギーを供給するとともに電気駆動部200を冷却する。このとき、室内熱交換器321の熱交換容量Piと、電気駆動部200の発熱量Pdと、室外熱交換器311の熱交換容量Peとの関係が下記となるように運用する。
【0032】
Pe+Pd ≦ Pi (2)
この運用では、冷媒402の吸熱プロセスを電気駆動部200で担えば熱サイクルシステム400が成立するので、室外交換機311による吸熱プロセスは必ずしも必要ではない。したがって、室外ファン312を停止して室外熱交換器311を流れる風量410をゼロとすることで、室外熱交換器311の熱交換容量Peをゼロとすれば、式(2)から明らかなように、電気駆動部200の最大冷却能力(発熱量Pdの上限)を、室内熱交換器321の熱交換容量Piと同等に引き上げることができる。一方で、室内に供給する暖房エネルギーを低減したい場合には、室内熱交換器321の熱交換容量Piが小さくなるよう室内ファン322を制御し、室内熱交換器321を流れる風量420を低減する必要がある。このとき、電気駆動部200の最大冷却能力(発熱量Pdの上限)は熱交換容量Piと同等に制限されるため、電気駆動部200の出力制限が必要となってしまう。本発明では、この解決策を提供することも可能であり、具体的な手段については図2(c)を用いて後述する。
【0033】
なお風量410のようにドットで埋めた矢印は吸熱を表し、風量420のように斜線で埋めた矢印は放熱を表す。以下、同様である。
【0034】
続いて、図2Bは冷房運転時の構成を示しており、四方弁102をBの状態(第2状態)にすることで、圧縮機100から四方弁102に繋がる配管と、四方弁102から室外熱交換器311に繋がる配管とを互いに接続する。同様に、室内熱交換器321から四方弁102に繋がる配管と、四方弁102から電気駆動部200に繋がる配管とを互いに接続する。このような構成によって、圧縮機100によって高温になった冷媒401は室外熱交換器311によって放熱され、さらに膨張弁502によって低温の冷媒402に変化した後に、室内熱交換器321および電気駆動部200から吸熱する。すなわち、冷媒402は室内熱交換器321を介して室内へ冷房エネルギーを供給するとともに電気駆動部200を冷却する。先述した図1Aは上記の構成を簡略化して示したものであり、図2Bの運用に関しては図1Aでの説明と重複するので、ここでは割愛する。
【0035】
図2Cに本実施例の駆動熱サイクルシステム400の運用方法をまとめる。図2Cでは、電気駆動部200の温度が10℃未満の場合を「低」、外気温(10℃以上)と同等の場合を「中」、外気温(10℃以上)よりも高い場合を「高」として場合分けするとともに、エアコンの運転モードを暖房、冷房、停止の3通りとして、全6通りの運用形態における四方弁102の状態と冷媒がもたらす作用の関係を示した。四方弁102の状態を表す記号A(第1状態)およびB(第2状態)は、図2A,2Bの四方弁102近傍に示した記号AおよびBと同一の定義である。また、冷媒がもたらす放熱(加温)作用を●で、吸熱(冷却)作用を○で示した。#1~#3は、電気駆動部200の温度が「低」または「中」の場合であり、電気駆動部200が不稼働の場合を想定している。#4~#6は、電気駆動部200の温度が「高」の場合であり、電気駆動部200が稼働中または稼働後の場合を想定している。電気駆動部200の温度が#1~#3、#4~#6どちらに該当するかは、電気駆動部200に備えた温度センサおよび車両に備えた外気温センサによって検知する。なお、寒冷地においては電気駆動部200が稼働中または稼働後の場合でも「低」となる可能性があるが、この場合は電気駆動部200を積極的に冷却する必要が無いと判断できるので、#1~#3のいずれかで運用して問題ない。また、電気駆動部200の温度の定義として10℃を境界値としたが、この数値は必ずしも10℃に設定する必要はなく、暖房、冷房、および電気駆動部200の冷却をバランスよく実現できるのであれば10℃近傍の任意の温度に設定して良い。以下では図2Cの#1~#6の具体的な運用方法に関して詳しく説明する。
【0036】
まず、#1~#3は電気駆動部200の温度が「低」または「中」と検知された場合である。
【0037】
このうち#1はエアコン運転モードが暖房に設定された場合であり、このとき四方弁102はAの状態(図2A参照)に設定する。冷媒は室内熱交換器321を介してPiの熱量を放熱する一方で、室外熱交換器311を介してPeの熱量と、電気駆動部200の冷却部211、221を介してPdの熱量と、をそれぞれ吸熱する。ただし、電気駆動部200の温度は「低」または「中」と十分低く、当該部で吸熱できる熱量Pdは僅少であるので、主に熱量Peを吸熱することで熱サイクルシステム400を成立させることになる。この運用は通常のエアコンの暖房運転と同様である。一方で、従来のエアコンでは外気温が氷点下の場合に、室外熱交換器311で吸熱できる熱量Peが僅少となるため、十分な暖房エネルギーを供給できない課題があった。本実施例ではこのような課題を解決することも可能である。具体的に、電気駆動部200が駆動力を発生しないような電流パターン(以下、トルクゼロ電流)を印加することで、電動機210や電気品220に通電損失を発生させ、この損失分の発熱量Pdを冷媒に吸熱させる。この運用では、通電損失を発生させるために電力消費が生じるものの、ヒートポンプ作用によって電力消費以上の暖房エネルギーを供給できるため、PTCヒーターの電力消費に対しては大幅な低減となる。
【0038】
なお、本実施例の駆動熱サイクルシステム400は、空調熱サイクルシステムを含んでおり、単に「熱サイクルシステム」と呼んで説明する場合がある。
【0039】
次に#2の運用は、エアコン運転モードが冷房に設定された場合であり、このとき四方弁102はBの状態(図2B参照)に設定する。冷媒は室外熱交換器311を介してPeの熱量を放熱する一方で、室内熱交換器321を介してPiの熱量と、電気駆動部200の冷却部211、221を介してPdの熱量と、をそれぞれ吸熱する。ただし、電気駆動部200の温度は「低」または「中」と十分低く、当該部で吸熱できる熱量Pdは僅少であるので、主に熱量Piを吸熱することで熱サイクルシステム400を成立させることになる。この運用は通常のエアコンの冷房運転と同様である。一方で、図2Bに示すように、低温の冷媒402は室内熱交換器321を通過した後に、電気駆動部200の冷却部211、221を必ず通過するので、電気駆動部200の不稼働時間が長ければ、電気駆動部200を冷媒402と同等の温度にまで冷却できる。この場合、電気駆動部200の初期温度を低位に保つことができるので、稼働後の温度が通常よりも低位となり電動機210の電気抵抗値を低減できるほか、永久磁石の磁束量が増加するので電流値も低減できる。これにより通電損失を低減できるため、電気駆動部200の駆動時における電力消費を低減することができる。
【0040】
次に#3の運用は、エアコン運転モードが停止に設定された場合であり、このとき四方弁102はBの状態(図2B参照)に設定する。室内ファン322を停止する点を除いては#2の運用と同様である。ただし、圧縮機100と室外ファン312は運転を停止しても良い。
【0041】
続いて#4~#6は電気駆動部200の温度が「高」と検知された場合である。
【0042】
このうち#4はエアコン運転モードが暖房に設定された場合であり、このとき四方弁102はAの状態(図2A参照)に設定する。冷媒は室内熱交換器321を介してPiの熱量を放熱する一方で、電気駆動部200の冷却部211、221を介してPdの熱量を吸熱する。この運用では、室外熱交換器311によってPeの熱量を吸熱するプロセスを不要とする。すなわち、室外ファン312を停止することで、室外熱交換器311を介して吸熱する熱量Peをゼロにする。これによって、電気駆動部200の最大冷却能力(発熱量Pdの上限)を、室内熱交換器321の熱交換容量Piと同等に引き上げることができる。一方で、室内に供給する暖房エネルギーを低減したい場合には、室内熱交換器321を介して放熱できる熱量Piが小さくなるため、電気駆動部200で吸熱できる熱量Pdも小さくなり、電気駆動部200の出力制限が必要となってしまう。本実施例ではこのような課題を解決するため、#4の運用において暖房エネルギーを低減する必要が生じた場合には、速やかに#6の運用に切り替える手法を考案した。
【0043】
#6はエアコン運転モードが停止に設定された場合であり、このとき四方弁102はBの状態(図2B参照)に設定する。室内ファン322は停止する。圧縮機100と室外ファン312は稼働し、冷媒は室外熱交換器311を介してPeの熱量を放熱する一方で、室内熱交換器321を通過(室内ファン322は停止しているので吸熱はしない)した後に、電気駆動部200の冷却部211、221を介してPdの熱量を吸熱する。この運用であれば、電気駆動部200で吸熱できる熱量Pdは、室外熱交換器311の熱交換容量Peと同等に引き上げることができるため、電気駆動部200の出力制限をかける必要がなくなる。
【0044】
一方で、#6の運用を継続すると、暖房エネルギーが供給されない状態が続くので室内温度が低下する。そこで、エアコン設定温度を基準とした任意閾値1(例えば、エアコン設定温度よりも1℃低い温度)を室内温度が下回った時点で、速やかに#4の運用に切り替える。さらに#4の運用を継続すると、十分な暖房エネルギーが供給される状態が続くので室内温度が上昇する。そこで、エアコン設定温度を基準とした任意閾値2(例えば、エアコン設定温度よりも1℃高い温度)を室内温度が上回った時点で、速やかに#6の運用に切り替える(以下、運用パターン切替制御と呼称)。これにより、室内温度をエアコン設定温度近傍に維持できると同時に、電気駆動部200で吸熱できる熱量Pdを、室内熱交換器321の熱交換容量Piまたは室外熱交換器311の熱交換容量Peと同等に引き上げることができる。このため、電気駆動部200の稼働中においても当該部を十分に冷却できる上に、出力制限をかける必要もない。
【0045】
残る#5の運用は、エアコン運転モードが冷房に設定された場合であり、このとき四方弁102はBの状態(図2B参照)に設定する。室内ファン322をONにする点を除いては#6の運用と同様である。冷媒は室外熱交換器311を介して熱量Peを放熱する一方で、室内熱交換器321を介して熱量Piと、電気駆動部200の熱量Pdと、をそれぞれ吸熱する。この運用では、冷房エネルギー(熱量Pi)を低減すればするほど、電気駆動部200で吸熱できる熱量Pdを増加することができる。すなわち、電気駆動部200の冷却能力を向上することができるので、電気駆動部200の稼働時の温度を低位に保つことが可能となり、通電損失ならびに電力消費を大幅に低減することができる。
【0046】
以上で述べた本実施例の駆動熱サイクルシステム400の運用パターンは、駆動熱サイクルシステム制御部600によって制御される。図2Dに示すように駆動熱サイクルシステム制御部600の制御シーケンスはS0~S3のステップで構成される。なお、図2Dの#1~#6は図2Cに示した運用パターン#1~#6と同一の定義である。
【0047】
まずステップS0では、車両に備えた外気温センサ710から外気温を検出する。また、電気駆動部200に備えた温度センサ720から当該部の温度を検出する。また室内320に備えた温度センサ730から室内温度を検出する。また、操作盤800で設定されたエアコン設定温度を検出する。次にステップS1の電気駆動部温度判定部601にて、ステップS0で検出した温度を用いて、電気駆動部200の温度が「低」「中」「高」のいずれに該当するかを判定する。次にステップS2のエアコン運転モード判定部602にて、ステップS0で検出した温度を用いて、エアコン運転モードが冷房、暖房、停止のいずれに該当するかを判定する。エアコンがOFFの場合は停止と判定する。エアコンがONされるかエアコン設定温度が変更されたら、その都度、ステップS2で判定演算を実行し、エアコン設定温度に対して室内温度が下回っている場合は暖房、上回っているか同等の場合は冷房と判定する。次にステップS3にて四方弁102、室内ファン322、室外ファン312、トルクゼロ電流を、四方弁制御部603、室内ファン制御部604、室外ファン制御部605、トルクゼロ電流制御部606で制御する。具体的には、ステップS1およびステップS2での判定結果を用いて、四方弁102の状態をAまたはBに設定する。同様にして、室内ファン322、室外ファン312をそれぞれONまたはOFFに設定する。加えて、トルクゼロ電流制御部606では、外気温センサ710の温度も用いて、電気駆動部200にトルクゼロ電流を印加するかどうかを判断する。
【0048】
ステップS1およびステップS2での判定結果の組合せによって#1~#6の運用パターンのいずれに該当するかが一義的に導出され、導出された運用パターンに対して、四方弁102、室内ファン322、室外ファン312、トルクゼロ電流をどの状態に制御するかが一義的に決定される。なお、運用パターン#1が導出された場合には、予め設定した閾値(例えば0℃)を外気温が下回る場合にはトルクゼロ電流を印加する。また、運用パターン#4が導出された場合においては、先述した運用パターン切替制御によって運用パターン#6との切り替えを繰り返す。
【0049】
以上より、本実施例の構成によれば、電力消費を低減可能でかつ低コストな空調システムおよび冷却システムならびにこれを搭載した移動車両を提供できる。
【0050】
図3は、本発明の第1の実施例における駆動熱サイクルシステム400の別形態の説明図である。
【0051】
図3の駆動熱サイクルシステム400における図2Aとの違いは、電動機210の冷却部211と、電気品220の冷却部221が並列に配置されている点である。このような構成とすることで、電動機210を通過する冷媒の温度を図2よりも低減することができるので、電気駆動部200の稼働時の温度を低位に保つことが可能となり、通電損失ならびに電力消費を大幅に低減することができる。図3では電気駆動部200の筐体に備えた流路の入口は1か所であり、筐体内部で電動機210と電気品220の流路を分岐しているが、筐体内部の冷媒流路の簡素化を目的に、電動機210、電気品220それぞれの流路の入口を筐体に設けても良い。
【0052】
[実施例2]
以下、図4A乃至4Gを用いて、本発明の第2の実施例について説明する。
【0053】
図4Aは本発明の第2の実施例における駆動熱サイクルシステム400の説明図であり、エアコンを暖房運転し、かつバッテリ230を加温する場合を示す図である。
図4Aの駆動熱サイクルシステムにおける図2Aとの違いは、冷媒を循環させる単一の循環経路にバッテリ230および切替弁103が追加されている点である。本実施例によれば、単一の循環経路で構成される簡素な熱サイクルシステムにおいて、電気駆動部200を適切に冷却できることに加えて、バッテリ230も適切に加温または冷却できる。以下にその原理を説明する。
【0054】
図4Aは冬季においてエアコンを暖房運転し、かつバッテリを加温する場合を示している。切替弁103をBの状態(第4状態)にすることで、四方弁102から切替弁103に繋がる配管と、切替弁103からバッテリ230に繋がる配管とを互いに接続する。同様に、室内熱交換器321から切替弁103に繋がる配管と、切替弁103からバッテリ230に繋がる配管とを互いに接続する。加えて、四方弁102をAの状態(第1状態)にすることで、圧縮機100によって高温になった冷媒401はバッテリ230および室内熱交換器321によって放熱され、さらに膨張弁502によって低温の冷媒402に変化した後に、室外熱交換器311および電気駆動部200から吸熱する。すなわち、冷媒401はバッテリ230を加温しつつ、室内熱交換器321を介して室内へ暖房エネルギーを供給するとともに電気駆動部200を冷却する。バッテリを加温する熱量Pb、室内熱交換器321の熱交換容量Pi、電気駆動部200の発熱量Pd、室外熱交換器311の熱交換容量Peとの関係は以下のようになる。
【0055】
Pe+Pd ≦ Pi+Pb (3)
ただし、圧縮機100から高温の冷媒401をバッテリ230に大量に供給してしまうと、バッテリ230の構成部材の内外で顕著な温度差が生じてしまい、バッテリ230の寿命が低下する。したがって、バッテリ230を加温する際には、圧縮機100を軽負荷で駆動させることで、バッテリ230への冷媒401の供給量を適切に制御する。冬季においては、外気温が低く圧縮機100が吐出する冷媒401の温度も低くなるので、前述の軽負荷駆動と組み合わせることで、バッテリ230の構成部材に顕著な温度差を発生させることなく加温でき、寿命低下を回避することができる。なお、外気温が氷点下の場合には、室外熱交換器311で吸熱できる熱量Peが僅少となるが、EVが走行中であれば電気駆動部200の発熱量Pdを吸熱できるので、熱サイクルシステムは問題なく成立する。一方で、EVが停止中で電気駆動部200が不稼働だと、バッテリ230に十分な加温エネルギーを供給できない場合がある。この場合は、電気駆動部200が駆動力を発生しないような電流パターン(トルクゼロ電流)を印加することで、電動機210や電気品220に通電損失を発生させ、この損失分の発熱量Pdを冷媒に吸熱させる。これによって、氷点下環境においてもバッテリ230に適切な加温エネルギーを供給することが可能となる。なお、前述の通電損失分の電力や、圧縮機100を駆動するための電力はバッテリ230から供給するが、EV走行時における電気駆動部200への供給電力と比べると極めて僅少であるため、バッテリ230にとっての負荷としても僅少であり、この運用が顕著な寿命低下を引き起こすことは無い。
【0056】
図4Bは本発明の第2の実施例における駆動熱サイクルシステム400の説明図であり、エアコンを暖房運転する一方で、バッテリ230には冷媒を循環させない場合を示す図である。
【0057】
図4Bは、図4Aにてバッテリ230を十分に加温した後に、加温を停止する状態にも相当する。図4Aとの違いは、切替弁103をAの状態(第3状態)にすることで、四方弁102から切替弁103に繋がる配管と、室内熱交換器321から切替弁103に繋がる配管とを互いに接続する点である。また、切替弁103からバッテリ230に繋がる2つの配管を互いに接続する。これによって、バッテリ230に冷媒が循環しない構成とする。加えて、四方弁102をAの状態(第1状態)にすることで、圧縮機100によって高温になった冷媒401は室内熱交換器321によって放熱され、さらに膨張弁502によって低温の冷媒402に変化した後に、室外熱交換器311および電気駆動部200から吸熱する。すなわち、冷媒401は室内熱交換器321を介して室内へ暖房エネルギーを供給するとともに電気駆動部200を冷却する。このときの熱交バランスは式(3)に示した通りだが、バッテリ230の加温は停止しているので右辺のPbはゼロとなる。
【0058】
この運用では、冷媒402の吸熱プロセスを電気駆動部200で担えば熱サイクルシステム400が成立するので、室外交換機311による吸熱プロセスは必ずしも必要ではない。したがって、室外ファン312を停止して室外熱交換器311を流れる風量410をゼロとすることで、室外熱交換器311の熱交換容量Peをゼロとすれば、式(3)から明らかなように、電気駆動部200の最大冷却能力(発熱量Pdの上限)を、室内熱交換器321の熱交換容量Piと同等に引き上げることができる。一方で、室内に供給する暖房エネルギーを低減したい場合には、室内熱交換器321の熱交換容量Piが小さくなるよう室内ファン322を制御し、室内熱交換器321を流れる風量420を低減する必要がある。このとき、電気駆動部200の最大冷却能力(発熱量Pdの上限)は熱交換容量Piと同等に制限されるため、電気駆動部200の出力制限が必要となってしまう。
【0059】
このような事態を回避するため、室内に供給する暖房エネルギーを低減したい場合には、図4Cに示すようにエアコン運転モードを停止にする。
【0060】
図4Cは本発明の第2の実施例における駆動熱サイクルシステム400の説明図であり、エアコンの暖房運転を停止にし、バッテリ230には冷媒を循環させない場合を示す図である。
このとき四方弁102はBの状態(第2状態)に、切替弁103はAの状態(第3状態)に設定する。室内ファン322は停止する。電気駆動部200の発熱量Pd、室外熱交換器311の熱交換容量Peとの関係は以下のようになる。
【0061】
Pd ≦ Pe (4)
この運用では、切替弁103がAの状態に設定されているので、冷媒402はバッテリ230を通過しない。一方で、圧縮機100と室外ファン312を稼働すると、冷媒は室外熱交換器311を介してPeの熱量を放熱した後に、電気駆動部200の冷却部211、221を介してPdの熱量を吸熱する。したがって、電気駆動部200で吸熱できる熱量Pdは、式(4)から明らかなように室外熱交換器311の熱交換容量Peと同等に引き上げることができるため、電気駆動部200の出力制限をかける必要がなくなる。一方で、暖房エネルギーが供給されない状態が続くので室内温度が低下する。そこで、先述した運用パターン切替制御を用いて、図4B図4Cとの切り替えを繰り返すことにより、室内温度をエアコン設定温度近傍に維持できる。
【0062】
さらにバッテリの冷却が必要となった場合には、図4Dに示すように切替弁103をBの状態に切り替える。図4Dは本発明の第2の実施例における駆動熱サイクルシステム400の説明図であり、エアコンの暖房運転を停止にし、バッテリ230に冷媒を循環させる場合を示す図である。
【0063】
この場合、四方弁102はBの状態(第2状態)に、切替弁103はBの状態(第4状態)に設定し、室内ファン322は停止する。圧縮機100と室外ファン312は稼働し、冷媒は室外熱交換器311を介してPeの熱量を放熱する一方で、室内熱交換器321を通過(室内ファン322は停止しているので吸熱はしない)した後に、バッテリ103にてPbの熱量を吸熱し、さらに電気駆動部200の冷却部211、221を介してPdの熱量を吸熱する。このとき、以下の関係式が成立する。
【0064】
Pb+Pd ≦ Pe (5)
この運用は、バッテリ230の急速充電時にも適用される。なお、バッテリ230が急速充電される場合、電気駆動部200は不稼働であることが想定されるので、式(5)のPdはゼロとなる。したがって式(5)から明らかなように、バッテリ230で吸熱できる熱量Pbは、室外熱交換器311の熱交換容量Peと同等に引き上げることができるため、急速充電時にバッテリの発熱が問題となって充電時間を短縮できない課題を解決できる。また、空調用の冷媒402でバッテリ230を冷却するので、従来よりも低い温度でバッテリ230を冷却することが可能となる。すなわち、バッテリ230の運転上限温度に対して実運転温度を低減できるので、バッテリ230の高温稼働を回避することが可能となり、寿命低下を回避することができる。さらに、バッテリ230を通過した低温の冷媒402は、電気駆動部200の冷却部211、221を必ず通過するので、電気駆動部200の不稼働時間が長ければ、電気駆動部200を冷媒402と同等の温度にまで冷却できる。したがって、電気駆動部200の初期温度を低位に保つことができるので、稼働後の温度が通常よりも低位となり電動機210の電気抵抗値を低減できるほか、永久磁石の磁束量が増加するので電流値も低減できる。これにより通電損失を低減できるため、電気駆動部200の駆動時における電力消費を低減することができる。
【0065】
エアコンを冷房運転する場合は、図4Dの状態から室内ファン322をONに制御することで、図4Eの状態にする。図4Eは本発明の第2の実施例における駆動熱サイクルシステム400の説明図であり、エアコンを冷房運転にするとともに、バッテリ230に冷媒を循環させる場合を示す図である。
【0066】
この場合、四方弁102はBの状態(第2状態)に、切替弁103はBの状態(第4状態)に設定し、室内ファン322は駆動する。
【0067】
室外熱交換器311の熱交換容量Pe、室内熱交換器321の熱交換容量Pi、バッテリからの吸熱量Pb、電気駆動部200の発熱量Pdとの関係は以下のようになる。
【0068】
Pi+Pb+Pd ≦ Pe (6)
この運用では、冷房エネルギー(熱量Pi)を低減すればするほど、バッテリ230で吸熱できる熱量Pb、および電気駆動部200で吸熱できる熱量Pdを増加することができる。すなわち、バッテリ230の冷却能力を向上することができるので、バッテリ230の高温稼働を回避することが可能となり、寿命低下を回避することができる。また、電気駆動部200の冷却能力を向上することができるので、電気駆動部200の稼働時の温度を低位に保つことが可能となり、通電損失ならびに電力消費を大幅に低減することができる。
【0069】
以上にて、単一の循環経路で構成される簡素な熱サイクルシステムにおいて、電気駆動部200を適切に冷却できることに加えて、バッテリ230も適切に加温または冷却できることを示した。従来技術では、ドライバビリティに対するユーザ要求を制限することが無いように、空調用の熱サイクルシステム、電気駆動部200の冷却システム、バッテリ230の熱サイクルシステムに対して、それぞれ個別の配管を設けて冷媒を循環させていた。このため、部品点数が多くコストの増加を招く上に、追加部品の敷設面積が増加してレイアウト自由度が低下するほか、重量が増加して電費低下を招くなど多くの課題があった。本発明では、空調用の冷媒402を流す単一の循環経路によって、電気駆動部200を冷却することに加え、バッテリ230も自在に加温または冷却することができる。これにより、従来よりも低い温度でバッテリ230や電気駆動部200を冷却することが可能となる。すなわち、バッテリ230や電気駆動部200の運転上限温度に対して実運転温度を低減できるので、バッテリ230や電気駆動部200の冷却能力を低減しても運転上限温度以下での運用が可能となり、結果的に、室外熱交換器311の熱交換容量、サイズおよび重量を低減することができる。したがって、システムコストおよび重量の増加を招くことなく、様々なユーザ要求への対応も可能とした。
【0070】
次に、本発明の第2の実施例における駆動熱サイクルシステム400の運用方法を説明する。図4Fは、本発明の第2の実施例に係る駆動熱サイクルシステム400の運用パターンを示す図である。
【0071】
図2Cとの違いは、バッテリ203の温度と切替弁103の状態が追加になっている点である。四方弁102、切替弁103の状態を表す記号A、Bは、図4A~4Eの四方弁102近傍および切替弁103近傍に示した記号A、Bと同一の定義である。#1~#3は、電気駆動部200、バッテリ230の温度がともに「低」の場合であり、冬場の車両起動時(バッテリ230の加温が必要)を想定している。#4~#6は、電気駆動部200、バッテリ230の温度がともに「中」の場合であり、冬場以外の車両起動時(バッテリ230の加温は不要)を想定している。#7~9は、電気駆動部200の温度が「低」または「中」、バッテリ230の温度が「高」の場合であり、主に急速充電時を想定している。#10~#12は、電気駆動部200、バッテリ230の温度がともに「高」の場合であり、主に車両走行時を想定している。電気駆動部200およびバッテリ230の温度はそれぞれに備えた温度センサによって検知する。なお、バッテリの動作温度範囲は一般に10~40℃程度なので、バッテリの寿命低下を回避する目的で、「低」と「中」の温度の境界値を10℃に設定した。ただし、この数値は必ずしも10℃に設定する必要はなく、バッテリの寿命低下を回避できる温度であれば10℃近傍の任意の温度に設定して良い。以下では図4Fの#1~#12の具体的な運用方法に関して詳しく説明する。
【0072】
まず、#1~#3は電気駆動部200、バッテリ230の温度がともに「低」と検知された場合である。このとき、電気駆動部200は不稼働か、稼働していても温度が「低」の状態であり、バッテリ230は加温が必要な状態である。
【0073】
このうち#1はエアコン運転モードが暖房に設定される場合であり、このとき四方弁102はAの状態、切替弁103はBの状態(図4A参照)に設定する。冷媒はバッテリ230と室内熱交換器321を介してPb+Piの熱量を放熱する一方で、室外熱交換器311および電気駆動部200を介してPe+Pdの熱量をそれぞれ吸熱する。ただし、電気駆動部200の温度は「低」なので十分低く、当該部で吸熱できる熱量Pdは僅少であるので、主に熱量Peを吸熱することで熱サイクルシステム400を成立させることになる。外気温が氷点下の場合、室外熱交換器311で吸熱できる熱量Peが僅少となる課題があるが、その場合はトルクゼロ電流を印加して通電損失Pdを発生させることで熱サイクルの成立に必要な吸熱量を確保する。一方で、バッテリ230への加温エネルギーPbが抑制されるので、バッテリの寿命低下を防止する観点では、バッテリ230の構成部材に顕著な温度差を発生させることなく加温できるメリットがある。
【0074】
次に#2の運用は、エアコン運転モードが冷房に設定される場合である。電気駆動部200、バッテリ230の温度がともに「低」の状態(外気温が低い状態)でこのような運用となるのはごく稀であるが、本発明では対応可能である。このとき四方弁102はBの状態、切替弁103はAの状態に設定し、バッテリ230には冷媒が循環しない構成とする。冷媒は室外熱交換器311を介してPeの熱量を放熱する一方で、室内熱交換器321および電気駆動部200を介してPi+Pdの熱量をそれぞれ吸熱する。ただし、電気駆動部200の温度は「低」なので十分低く、当該部で吸熱できる熱量Pdは僅少であるので、主に熱量Piを吸熱することで熱サイクルシステム400を成立させることになる。この運用ではバッテリ230には加温エネルギーを供給できない。一方で、圧縮機100を駆動するためにバッテリ230から少量の電力を供給する必要であり、この電力供給によってバッテリ230は自己発熱するため徐々に温度が「低」の状態から上昇していく。このため、バッテリ230の構成部材に顕著な温度差を発生させることなくバッテリ温度を適正な動作範囲に収まるように上昇させることができるので、バッテリを加温しなくても寿命低下を防止することができる。
【0075】
次に#3の運用は、エアコン運転モードが停止に設定された場合であり、室内ファン322を停止して放熱量Piをゼロにする点を除いては、#1の運用と同じである。
【0076】
続いて#4~#6は電気駆動部200、バッテリ230の温度がともに「中」と検知された場合である。このとき、電気駆動部200は不稼働の状態である。また、バッテリ230の温度は適正な動作温度範囲に収まっており、加温は不要な状態である。
【0077】
このうち#4はエアコン運転モードが暖房に設定される場合であり、このとき四方弁102はAの状態、切替弁103はAの状態(図4B参照)に設定する。バッテリ230には冷媒が循環しない構成とする。冷媒は室内熱交換器321を介してPiの熱量を放熱する一方で、室外熱交換器311および電気駆動部200を介してPe+Pdの熱量をそれぞれ吸熱する。ただし、電気駆動部200の温度は「中」なので十分低く、当該部で吸熱できる熱量Pdは僅少であるので、主に熱量Peを吸熱することで熱サイクルシステム400を成立させることになる。
【0078】
次に#5の運用は、エアコン運転モードが冷房に設定される場合である。このとき四方弁102はBの状態、切替弁103はBの状態(図4E参照)に設定する。冷媒は室外熱交換器311を介してPeの熱量を放熱する一方で、室内熱交換器321、バッテリ230および電気駆動部200を介してPi+Pb+Pdの熱量をそれぞれ吸熱する。ただし、電気駆動部200の温度は「中」なので十分低く、当該部で吸熱できる熱量Pdは僅少であるので、主に熱量Piを吸熱することで熱サイクルシステム400を成立させることになる。この運用では、圧縮機100を駆動するためにバッテリ230から少量の電力を供給する必要であり、この電力供給によってバッテリ230は自己発熱するが、そのときの発熱量Pbは冷媒402によって吸熱(冷却)することができる。また、電気駆動部200の不稼働時間が長ければ、電気駆動部200を冷媒402と同等の温度にまで冷却できる。この場合、電気駆動部200の初期温度を低位に保つことができるので、稼働後の温度が通常よりも低位となり通電損失を低減できるため、電気駆動部200の駆動時における電力消費を低減することができる。
【0079】
次に#6の運用は、エアコン運転モードが停止に設定された場合であり、室内ファン322を停止して吸熱量Piをゼロにする点を除いては、#5の運用と同じである。
【0080】
続いて#7~#9は電気駆動部200の温度が「低」または「中」と検知され、バッテリ230の温度が「高」と検知された場合である。このとき、電気駆動部200は不稼働の状態である。一方で、バッテリ230は充電または放電によって温度上昇しており冷却が必要な状態である。典型的な運用形態としては急速充電時が想定される。
【0081】
このうち#7はエアコン運転モードが暖房に設定される場合であり、バッテリ230の温度が「高」となっている点を除いては、#4の運用と同じである。バッテリ230には冷媒が循環しない構成となるので、バッテリ230を冷却することができず、このままでは寿命低下を招いてしまう。本発明ではこのような課題を解決するため、#7の運用に対しては、#9の運用に適宜切り替える手法を考案した。
【0082】
#9の運用は、エアコン運転モードが停止に設定された場合であり、バッテリ230における吸熱量Pbが大きい点を除いては、#6の運用と同じである。この運用であれば、バッテリ230で吸熱できる熱量Pbは、室外熱交換器311の熱交換容量Peとほぼ同等に引き上げることができるため、バッテリ230の寿命低下を回避することができる。
【0083】
一方で、#9の運用を継続すると、暖房エネルギーが供給されない状態が続くので室内温度が低下する。そこで、先述した運用パターン切替制御を用いて、運用パターン#7との切り替えを繰り返すことにより、室内温度をエアコン設定温度近傍に維持できると同時に、バッテリ230で吸熱できる熱量Pbを、室内熱交換器321の熱交換容量Piまたは室外熱交換器311の熱交換容量Peと同等に引き上げることができる。このため、バッテリ230の寿命低下を回避できる。
【0084】
次に#8の運用は、エアコン運転モードが冷房に設定される場合であり、バッテリ230の発熱量Pbが大きい点を除いては、#5の運用と同じである。
【0085】
続いて#10~#12は電気駆動部200の温度が「高」と検知され、バッテリ230の温度が「高」と検知された場合である。このとき、電気駆動部200は稼働中または稼働後の状態である。一方で、バッテリ230は充電または放電によって温度上昇しており冷却が必要な状態である。典型的な運用形態としては走行時または走行後、および走行後の充電時が想定される。
【0086】
このうち#10はエアコン運転モードが暖房に設定される場合であり、このとき四方弁102はAの状態、切替弁103はAの状態(図4B参照)に設定する。冷媒は室内熱交換器321を介してPiの熱量を放熱する一方で、電気駆動部200を介してPdの熱量を吸熱する。この運用では、室外熱交換器311によってPeの熱量を吸熱するプロセスは不要となる。したがって、室外ファン312を停止することで、室外熱交換器311を介して吸熱する熱量Peをゼロにする。これによって、電気駆動部200の最大冷却能力(発熱量Pdの上限)を、室内熱交換器321の熱交換容量Piと同等に引き上げることができる。一方で、室内に供給する暖房エネルギーを低減したい場合には、室内熱交換器321を介して放熱できる熱量Piが小さくなるため、電気駆動部200で吸熱できる熱量Pdも小さくなり、電気駆動部200の出力制限が必要となってしまう。また、バッテリ230には冷媒が循環しない構成となるので、バッテリ230を冷却することができず、寿命低下を招いてしまう。本実施例ではこのような課題を解決するため、#10の運用において暖房エネルギーを低減する必要が生じた場合、またはバッテリ230を冷却する必要が生じた場合には、速やかに#12の運用に切り替える手法を考案した。
【0087】
#12は、エアコン運転モードが停止に設定された場合であり、バッテリ230および電気駆動部200における吸熱量Pb+Pdが大きい点を除いては、#6の運用と同じである。この運用であれば、バッテリ230および電気駆動部200で吸熱できる熱量Pb+Pdは、室外熱交換器311の熱交換容量Peと同等に引き上げることができるため、電気駆動部200の出力制限をかける必要がなくなるほか、バッテリ230の寿命低下を回避することができる。
【0088】
一方で、#12の運用を継続すると、暖房エネルギーが供給されない状態が続くので室内温度が低下する。そこで、先述した運用パターン切替制御を用いて、運用パターン#10との切り替えを繰り返すことにより、室内温度をエアコン設定温度近傍に維持できると同時に、バッテリ230および電気駆動部200で吸熱できる熱量Pb+Pdを、室内熱交換器321の熱交換容量Piまたは室外熱交換器311の熱交換容量Peと同等に引き上げることができる。このため、電気駆動部200を十分に冷却できる上に、出力制限をかける必要もなく、さらに、バッテリ230の寿命低下も回避できる。
【0089】
残る#11の運用は、エアコン運転モードが冷房に設定される場合であり、バッテリ230および電気駆動部200の発熱量Pb、Pdが大きい点を除いては、#5の運用と同じである。
【0090】
以上で述べた本実施例の駆動熱サイクルシステム400の運用パターンは、駆動熱サイクルシステム制御部600によって制御される。図4Gは、本発明の第2の実施例に係る駆動熱サイクルシステム400の制御シーケンスを示す図である。
【0091】
図4Gに示すように駆動熱サイクルシステム制御部600の制御シーケンスはS0~S4のステップで構成される。なお、図4Gの#1~#12は図4Fに示した運用パターン#1~#12と同一の定義である。
【0092】
まずステップS0では、車両に備えた外気温センサ710から外気温を検出する。また、電気駆動部200、バッテリ230に備えた温度センサ720,740から当該部の温度をそれぞれ検出する。また室内320に備えた温度センサ730から室内温度を検出する。また、エアコン設定温度を検出する。次にステップS1の電気駆動部温度判定部601にて、ステップS0で検出した温度を用いて、電気駆動部200の温度が「低」「中」「高」のいずれに該当するかを判定する。次にステップS2のバッテリ温度判定部607にて、ステップS0で検出した温度を用いて、バッテリ230の温度が「低」「中」「高」のいずれに該当するかを判定する。次にステップS3のエアコン運転モード判定部602にて、ステップS0で検出した温度を用いて、エアコン運転モードが冷房、暖房、停止のいずれに該当するかを判定する。エアコンがOFFの場合は停止と判定する。操作盤800によりエアコンがONされるかエアコン設定温度が変更されたら、その都度判定演算を実行し、エアコン設定温度に対して室内温度が下回っている場合は暖房、上回っているか同等の場合は冷房と判定する。次にステップS4にて四方弁102、切替弁103、室内ファン322、室外ファン312、トルクゼロ電流を、四方弁制御部603、切替弁制御部608、室内ファン制御部604、室外ファン制御部605、トルクゼロ電流制御部606で制御する。具体的に、ステップS1~ステップS3での判定結果を用いて、四方弁102および切替弁103の状態をAまたはBにそれぞれ設定する。同様にして、室内ファン322、室外ファン312をそれぞれONまたはOFFに設定する。加えて、トルクゼロ電流制御部606では、外気温センサ710の温度も用いて、電気駆動部200にトルクゼロ電流を印加するかどうかを判断する。
【0093】
ステップS1~ステップ3での判定結果の組合せによって#1~#12の運用パターンのいずれに該当するかが一義的に導出され、導出された運用パターンに対して、四方弁102、切替弁103、室内ファン322、室外ファン312、トルクゼロ電流をどの状態に制御するかが一義的に決定される。なお、運用パターン#1、#3が導出された場合には、予め設定した閾値(例えば0℃)を外気温が下回る場合にはトルクゼロ電流を印加する。また、運用パターン#7が導出された場合においては、そこで、先述した運用パターン切替制御を用いて、運用パターン#9との切り替えを繰り返す。運用パターン#10と#12に関しても同様の切り替えを繰り返す。
【0094】
以上より、本実施例の構成によれば、電力消費を低減可能でかつ低コストな空調システムおよび冷却システムならびにこれを搭載した移動車両を提供できる。
【0095】
図4Hは、本発明の第2の実施例における駆動熱サイクルシステム400の別形態の説明図である。図4Iは、本発明の第2の実施例における駆動熱サイクルシステム400の別形態の説明図である。
【0096】
図4H,4Iに示すように、切替弁103とバッテリ230は、室内熱交換器322と膨張弁502とを繋ぐ経路に配置してもよい。図4H,4Iの運用形態は図4F,4Gで説明した内容とそれぞれ同様であり、異なるのは切替弁103とバッテリ230の配置のみである。図4Hの配置とすることで、圧縮機100から供給される高温の冷媒401は室内熱交換器322で必ず放熱する。したがって、冷媒401が高温のままバッテリ230に共有されることが無くなるので、図4Aと比較してバッテリ230の構成部材の内外で顕著な温度差が生じることがなく、バッテリ230の寿命低下を回避することができる。
【0097】
本例では、電気駆動部200に電力を供給するバッテリ230と、高温になった冷媒を低温の冷媒に変化させる膨張弁502と、バッテリ230を接続先とする切替弁103と、を備える。バッテリ230、切替弁103及び膨張弁502は冷媒の単一の循環経路の中に配置され、バッテリ230及び切替弁103は単一の循環経路の中で室内熱交換器322と膨張弁502とを繋ぐ経路に配置される。切替弁103は、接続先がバッテリ230であり、かつバッテリ230には冷媒を循環しない第3状態(Aの状態)と、単一の循環経路の中でバッテリ230にも冷媒を循環する第4状態(Bの状態)とを、自在に切り替える。
【0098】
[実施例3]
以下、図5A乃至5Dを用いて、本発明の第3の実施例について説明する。図5Aは本発明の第3の実施例における駆動熱サイクルシステムの説明図であり、エアコンを暖房運転する場合を示す図である。図4Aとの違いは、バッテリ230が電気駆動部200と圧縮機100との間に配置されるとともに、切替弁103を不要としている点である。本実施例によれば、単一の循環経路で構成される簡素な熱サイクルシステムにおいて、電気駆動部200を適切に冷却できることに加えて、切替弁103を用いることなくバッテリ230も適切に加温または冷却できる。以下にその原理を説明する。
【0099】
図5Aに示すように暖房運転する場合には、四方弁102をAの状態にすることで、圧縮機100によって高温になった冷媒401は室内熱交換器321によって放熱され、さらに膨張弁502によって低温の冷媒402に変化した後に、室外熱交換器311および電気駆動部200から吸熱する。バッテリ230は加温または冷却されるが、どちらになるかはバッテリ温度によって受動的に決まる。これに関する詳細な運用は図5Cを参照して後述する。バッテリ230が加温される場合、バッテリを加温する熱量Pb、室内熱交換器321の熱交換容量Pi、電気駆動部200の発熱量Pd、室外熱交換器311の熱交換容量Peとの関係は以下のようになる。
【0100】
Pe+Pd-Pb ≦ Pi (7)
一方で、バッテリ230が冷却される場合、次式のようになる。
【0101】
Pe+Pd+Pb ≦ Pi (8)
式(8)では、Pbはバッテリからの吸熱量を表す。
【0102】
図5Bは、本発明の第3の実施例における駆動熱サイクルシステムの説明図であり、エアコンを冷房運転する場合を示す図である。四方弁102をBの状態にすることで、圧縮機100によって高温になった冷媒401は室外熱交換器311によって放熱され、さらに膨張弁502によって低温の冷媒402に変化した後に、室内熱交換器321、電気駆動部200およびバッテリ230から吸熱する。これに関する詳細な運用は図5Cを参照して後述する。室外熱交換器311の熱交換容量Pe、室内熱交換器321の熱交換容量Pi、電気駆動部200の発熱量Pd、バッテリからの吸熱量Pbとの関係は、
Pi+Pd+Pb ≦ Pe (9)
のようになる。
【0103】
次に、本発明の第3の実施例における駆動熱サイクルシステム400の運用方法を説明する。図5Cは、本発明の第3の実施例に係る駆動熱サイクルシステムの運用パターンを示す図である。
【0104】
図4Fとの違いは、切替弁103の状態が無くなっている点である。以下では図5Cの#1~#12の具体的な運用方法に関して詳しく説明する。
【0105】
まず、#1~#3は電気駆動部200、バッテリ230の温度がともに「低」と検知された場合である。このとき、電気駆動部200は不稼働か、稼働していても温度が「低」の状態であり、バッテリ230は加温が必要な状態である。
【0106】
このうち#1はエアコン運転モードが暖房に設定される場合であり、このとき四方弁102はAの状態(図5A参照)に設定する。冷媒は室内熱交換器321を介してPiの熱量を放熱する一方で、室外熱交換器311を介してPeの熱量を吸熱する。ただし、外気温が氷点下の場合、室外熱交換器311で吸熱できる熱量Peが僅少となる課題があるので、その場合はトルクゼロ電流を印加して通電損失Pdを発生させることで熱サイクルの成立に必要な吸熱量を確保する。これによって、冷媒がバッテリ230を通過する際には、バッテリに加温エネルギーPbを供給することができる。また、圧縮機100を駆動するためにバッテリ230から少量の電力を供給する必要があり、この電力供給によってバッテリ230は自己発熱するため徐々に温度が「低」の状態から上昇していく。このため、バッテリ230の構成部材に顕著な温度差を発生させることなくバッテリ温度を適正な動作範囲に収まるように上昇させることができるので、バッテリの寿命低下を防止することができる。
【0107】
次に#2の運用は、エアコン運転モードが冷房に設定される場合である。電気駆動部200、バッテリ230の温度がともに「低」の状態(外気温が低い状態)でこのような運用となるのはごく稀であるが、本実施例では対応可能である。このとき四方弁102はBの状態(図5B参照)に設定する。冷媒は室外熱交換器311を介してPeの熱量を放熱する一方で、室内熱交換器321を介してPiの熱量をそれぞれ吸熱する。#1の運用と同様に、圧縮機100を駆動するためにバッテリ230から少量の電力を供給する必要があり、この電力供給によってバッテリ230は自己発熱するため徐々に温度が「低」の状態から上昇していく。また、電気駆動部200にトルクゼロ電流を印加して通電損失Pdを発生させることで、バッテリへの加温エネルギーPbを増加することも可能である。
【0108】
次に#3の運用は、エアコン運転モードが停止に設定された場合であり、室内ファン322を停止して吸熱量Piをゼロにする点を除いては、#2の運用と同じである。
【0109】
以上のように、本実施例の#1~#3の運用では、バッテリ230を電気駆動部200と圧縮機100との間に配置した上で、電気駆動部200に印加するトルクゼロ電流によって通電損失を発生し、これを冷媒に吸熱させることで、バッテリ230の加温を可能としている点で優れている。
【0110】
続いて#4~#6は電気駆動部200、バッテリ230の温度がともに「中」と検知された場合である。このとき、電気駆動部200は不稼働の状態である。また、バッテリ230の温度は適正な動作温度範囲に収まっており、加温は不要な状態である。
【0111】
このうち#4はエアコン運転モードが暖房に設定される場合であり、このとき四方弁102はAの状態(図5A参照)に設定する。冷媒は室内熱交換器321を介してPiの熱量を放熱する一方で、室外熱交換器311、電気駆動部200、およびバッテリ230を介してPe+Pd+Pbの熱量をそれぞれ吸熱する。ただし、電気駆動部200およびバッテリ230の温度はともに「中」なので十分低く、当該部で吸熱できる熱量Pd、Pbは僅少であるので、主に熱量Peを吸熱することで熱サイクルシステム400を成立させる。この運用では、圧縮機100を駆動するためにバッテリ230から少量の電力を供給する必要であり、この電力供給によってバッテリ230は自己発熱するが、そのときの発熱量Pbは冷媒402によって吸熱(冷却)することができる。また、電気駆動部200の不稼働時間が長ければ、電気駆動部200を冷媒402と同等の温度にまで冷却できる。この場合、電気駆動部200の初期温度を低位に保つことができるので、稼働後の温度が通常よりも低位となり通電損失を低減できるため、電気駆動部200の駆動時における電力消費を低減することができる。
【0112】
次に#5の運用は、エアコン運転モードが冷房に設定される場合である。このとき四方弁102はBの状態(図5B参照)に設定する。冷媒は室外熱交換器311を介してPeの熱量を放熱する一方で、室内熱交換器321、バッテリ230および電気駆動部200を介してPi+P1b+Pdの熱量をそれぞれ吸熱する。#4の運用と比較すると、PiとPeにおける放熱・吸熱の関係が逆転しているが、電気駆動部200およびバッテリ230に関しては#4の運用と同様のことが言える。
【0113】
次に#6の運用は、エアコン運転モードが停止に設定された場合であり、室内ファン322を停止して吸熱量Piをゼロにする点を除いては、#5の運用と同じである。
【0114】
続いて#7~#9は電気駆動部200の温度が「低」または「中」と検知され、バッテリ230の温度が「高」と検知された場合である。このとき、電気駆動部200は不稼働の状態である。一方で、バッテリ230は充電または放電によって温度上昇しており冷却が必要な状態である。典型的な運用形態としては急速充電時が想定される。
【0115】
このうち#7はエアコン運転モードが暖房に設定される場合である。このとき四方弁102はAの状態(図5A参照)に設定する。冷媒は室内熱交換器321を介してPiの熱量を放熱する一方で、電気駆動部200およびバッテリ230を介してPd+Pbの熱量を吸熱する。この運用では、室外熱交換器311によってPeの熱量を吸熱するプロセスは不要とする。すなわち、室外ファン312を停止することで、室外熱交換器311を介して吸熱する熱量Peをゼロにする。また、電気駆動部200の温度は「低」または「中」なので十分低く、当該部で吸熱する熱量Pdは僅少となる。これによって、バッテリ230の最大冷却能力(発熱量Pbの上限)を、室内熱交換器321の熱交換容量Piとほぼ同等に引き上げることができる。これにより、急速充電時にバッテリの発熱が問題となって充電時間を短縮できない課題を解決できる。一方で、室内に供給する暖房エネルギーを低減したい場合には、室内熱交換器321を介して放熱できる熱量Piが小さくなるため、バッテリ230で吸熱できる熱量Pbも小さくなり、バッテリ230の冷却不足を招いてしまう。本実施例ではこのような課題を解決するため、#7の運用において暖房エネルギーを低減する必要が生じた場合、またはバッテリ230の冷却エネルギーを増加する必要が生じた場合には、速やかに#9の運用に切り替える手法を考案した。
【0116】
#9は、エアコン運転モードが停止に設定された場合であり、バッテリ230における吸熱量Pbが大きい点を除いては、#6の運用と同じである。この運用であれば、バッテリ230で吸熱できる熱量Pbは、室外熱交換器311の熱交換容量Peと同等に引き上げることができるため、バッテリ230の冷却不足ひいては寿命低下を回避することができる。
【0117】
一方で、#9の運用を継続すると、暖房エネルギーが供給されない状態が続くので室内温度が低下する。そこで、先述した運用パターン切替制御を用いて、運用パターン#7との切り替えを繰り返すことにより、室内温度をエアコン設定温度近傍に維持できると同時に、バッテリ230で吸熱できる熱量Pbを、室内熱交換器321の熱交換容量Piまたは室外熱交換器311の熱交換容量Peとほぼ同等に引き上げることができる。このため、バッテリ230の寿命低下を回避できる。
【0118】
次に#8の運用は、エアコン運転モードが冷房に設定される場合であり、バッテリ230における吸熱量Pbが大きい点を除いては、#5の運用と同じである。
【0119】
続いて#10~#12は電気駆動部200の温度が「高」と検知され、バッテリ230の温度が「高」と検知された場合である。このとき、電気駆動部200は稼働中または稼働後の状態である。一方で、バッテリ230は充電または放電によって温度上昇しており冷却が必要な状態である。典型的な運用形態としては走行時または走行後、および走行後の充電時が想定される。
【0120】
このうち#10はエアコン運転モードが暖房に設定される場合であり、このとき四方弁102はAの状態(図5A参照)に設定する。冷媒は室内熱交換器321を介してPiの熱量を放熱する一方で、電気駆動部200およひバッテリ230を介してPd+Pbの熱量を吸熱する。この運用では、室外熱交換器311によってPeの熱量を吸熱するプロセスは不要となる。したがって、室外ファン312を停止することで、室外熱交換器311を介して吸熱する熱量Peをゼロにする。これによって、電気駆動部200およびバッテリ230の最大冷却能力(発熱量Pd+Pbの上限)を、室内熱交換器321の熱交換容量Piと同等に引き上げることができる。一方で、室内に供給する暖房エネルギーを低減したい場合には、室内熱交換器321を介して放熱できる熱量Piが小さくなるため、電気駆動部200およびバッテリ230で吸熱できる熱量Pd+Pbも小さくなり、電気駆動部200の出力制限やバッテリ230の冷却不足を招いてしまう。本実施例ではこのような課題を解決するため、#10の運用において暖房エネルギーを低減する必要が生じた場合、またはバッテリ230を冷却する必要が生じた場合には、速やかに#12の運用に切り替える手法を考案した。
【0121】
#12は、エアコン運転モードが停止に設定された場合であり、電気駆動部200における吸熱量Pdが大きい点を除いては、#9の運用と同じである。この運用であれば、バッテリ230および電気駆動部200で吸熱できる熱量Pb+Pdは、室外熱交換器311の熱交換容量Peと同等に引き上げることができるため、電気駆動部200の出力制限をかける必要がなくなるほか、バッテリ230の冷却不足ひいては寿命低下を回避することができる。
【0122】
一方で、#12の運用を継続すると、暖房エネルギーが供給されない状態が続くので室内温度が低下する。そこで、先述した運用パターン切替制御を用いて、運用パターン#7との切り替えを繰り返すことにより、室内温度をエアコン設定温度近傍に維持できると同時に、バッテリ230および電気駆動部200で吸熱できる熱量Pb+Pdを、室内熱交換器321の熱交換容量Piまたは室外熱交換器311の熱交換容量Peと同等に引き上げることができる。このため、電気駆動部200を十分に冷却できる上に、出力制限をかける必要もなく、さらに、バッテリ230の寿命低下も回避できる。
【0123】
残る#11の運用は、エアコン運転モードが冷房に設定される場合であり、電気駆動部200の発熱量Pdが大きい点を除いては、#8の運用と同じである。
【0124】
以上で述べた本実施例の駆動熱サイクルシステム400の運用パターンは、駆動熱サイクルシステム制御部600によって制御される。図5Dは、本発明の第3の実施例に係る駆動熱サイクルシステムの制御シーケンスを示す図である。
【0125】
図5Dに示すように駆動熱サイクルシステム制御部600の制御シーケンスはS0~S4のステップで構成される。なお、図5Dの#1~#12は図5Cに示した運用パターン#1~#12と同一の定義である。また、ステップS0~ステップS3の工程は図4Gと同一のため、説明を割愛する。また、ステップS4の工程は、切替弁の制御が不要となっている点を除いては、図4Gと同一である。
【0126】
ステップS1~ステップ3での判定結果の組合せによって#1~#12の運用パターンのいずれに該当するかが一義的に導出され、導出された運用パターンに対して、四方弁102、室内ファン322、室外ファン312、トルクゼロ電流をどの状態に制御するかが一義的に決定される。なお、運用パターン#1~#3が導出された場合には、予め設定した閾値(例えば0℃)を外気温が下回る場合にはトルクゼロ電流を印加する。また、運用パターン#7が導出された場合においては、先述した運用パターン切替制御を用いて、運用パターン#9との切り替えを繰り返す。運用パターン#10と#12に関しても同様の切り替えを繰り返す。
【0127】
以上より、本実施例の構成によれば、電力消費を低減可能でかつ低コストな空調システムおよび冷却システムならびにこれを搭載した移動車両を提供できる。
【0128】
図6を用いて、第3の実施例における駆動熱サイクルシステム400の別形態を説明する。図6は、本発明の第3の実施例における駆動熱サイクルシステムの別形態の説明図である。
【0129】
図5Aとの違いは、電気駆動部200aと200bとが並列に配置されている点である。具体的には、前輪と後輪それぞれに電気駆動部が配置される場合や、インホイールモータのように車輪ごとに電気駆動部が配置される場合などが想定される。なお、図6では電気駆動部が2台の場合を示しているが、3台以上でも良い。この構成では、電気駆動部200a、200bと圧縮機100との間にバッテリ230a、230bをそれぞれ配置する。これにより、バッテリ230a、230bの入口と出口の温度差を小さくできるため、バッテリの寿命低下を回避できる。
【0130】
従来のシステムにおいも、バッテリに冷媒を供給する配管を二手に分岐することで同様の効果を得ることができるが、配管の経路によって配管からの放熱量が異なるほか、分岐した配管の流量にもバラつきが生じるため、2台のバッテリを等しく冷却することが困難であった。したがって、片方のバッテリでは入口温度が低位に保たれている一方で、もう片方のバッテリでは入口温度が高く、出口温度がさらに高くなる、といった事象を招きやすかった。結果として、バッテリの構成部材の内外で顕著な温度差が生じてしまい、バッテリの寿命が低下する課題があった。
【0131】
本実施例の構成では、電気駆動部200aとバッテリ230a、電気駆動部200bとバッテリ230bとをそれぞれセットで配置する。これにより、図5A乃至5Dで述べた原理にしたがって、電気駆動部200a、200bを適切に冷却できることに加えて、バッテリ230a、230bも適切に加温または冷却できる。バッテリ2台に並列に冷媒を供給するため、配管を分岐する点では従来システムと同様であるが、冷媒がバッテリに到達するよりも手前において、電気駆動部200a、200bで吸熱するプロセスを必ず通過するため、そこで冷媒をほぼ一様な温度に制御することができる。このため、2台のバッテリをほぼ等しく加温または冷却することが可能であり、バッテリ230a、230bの入口と出口の温度差を小さくできる。
【0132】
なお本実施例では、2つの電気駆動部200a、200bにはそれぞれ、冷却部211a,211b及び温度センサ720a,720bを備えた電動機210a,210bと、冷却部221a,221bを備えた電気品(インバータ)220a,220bと、が設けられている。
【0133】
図7Aを用いて、第3の実施例における駆動熱サイクルシステム400の別形態を説明する。図7Aは、本発明の第3の実施例における駆動熱サイクルシステムの別形態の説明図である。
【0134】
図6との違いは、電気駆動部200aよりも200bの出力が小さい一方で、バッテリ230aよりも230bの電池容量が大きい点である。具体的には、前輪と後輪それぞれに異なる出力の電気駆動部が配置される場合などが想定される。この構成では、高出力の電気駆動部200a(発熱量Pd1)と小容量のバッテリ230a(発熱量Pb1)とをセットで配置する。同様に、低出力の電気駆動部200b(発熱量Pd2)と大容量のバッテリ230b(発熱量Pb2)とをそれぞれセットで配置する。これにより、2つの経路における発熱量Pd1+Pb1と、Pd2+Pb2とを平準化することができる。これにより、バッテリ230a、230bの温度差を小さくできるため、バッテリの寿命低下を回避できる。
【0135】
さらに本発明の第3の実施例における別形態について、図7Bを用いて説明する。図7Bは、本発明の第3の実施例における駆動熱サイクルシステムの別形態の説明図である。
【0136】
図7Bに示すように高出力の電気駆動部200aと圧縮機100との間にはバッテリを配置せずに、低出力の電気駆動部200bとバッテリ230とをセットで配置することも可能である。
【0137】
[実施例4]
図8A,8Bにおいて、圧縮機100の構造について以下に説明する。
【0138】
図8Aは、本発明に係る駆動熱サイクルシステムの圧縮機の実施例を示す概略図である。図8Aに示すように、圧縮機100を扁平に構成し、電気駆動部200と一体で構成することで省スペース化を図ることができる。従来システムでは、圧縮機100と電気駆動部200は個別に配置されるため、実施例1~3で述べた本発明の構成を実現しようとした場合、両者を繋ぐ配管が必要となり、部品点数が増加することで車両コストが増加するほか、車両重量が増加するため電費が低下する課題があった。
【0139】
これに対し、図8Aのような構成とすることで、電気駆動部200と圧縮機100との間を繋ぐ配管を大幅に低減することができる。実施例3においては、図7Bのような構成とした上で、電気駆動部200aと圧縮機100とを図8Aのような構成とすればよい。
【0140】
以下では、圧縮機100の内部構造に関して図8Bを参照しながら説明する。図8Bは、本発明に係る駆動熱サイクルシステムの圧縮機の一実施例について、内部構造を示す断面図である。本実施例では、図8Aに対して、圧縮機用モータ101が圧力容器70の内部(内側)に構成される。
【0141】
圧縮機構部20は,固定スクロール部材21に直立する渦巻状ラップと,旋回スクロール部材22に直立する渦巻状ラップとを噛み合わせて形成されている。旋回スクロール部材22は回転子1の内周に配置された回転子支持部材4によって支持される。また、回転子支持部材4はクランクシャフト31と機械的に結合されている。回転子1は回転子コア2と永久磁石3とで構成され、外周側には径方向に設けた所定のギャップを介して固定子11が配置される。固定子11は固定子コア12と固定子巻線13とで構成され、固定子巻線13に通電することで、回転子1との間に回転トルクを発生する。回転子1および回転支持部材4は、軸受30a、30bによって回転自在に支持される。
【0142】
回転子支持部材4およびクランクシャフト31によって旋回スクロール部材22を旋回運動させることで圧縮動作を行う。固定スクロール部材21および旋回スクロール部材22によって形成される圧縮室23のうち、最も外径側に位置している圧縮室は,旋回運動に伴って両スクロール部材21、22の中心に向かって移動し,容積が次第に縮小する。圧縮室が両スクロール部材21、22の中心近傍に達すると,圧縮室23内の圧縮ガスは圧縮室23と連通した吐出口24から吐出される。吐出された圧縮ガスは,固定スクロール部材21、回転子支持部材4、固定子11などに設けられたガス通路(図示せず)を通って圧力容器70の下部に至り,圧力容器70の側壁に設けられた吐出パイプ(図示せず)から圧縮機外に排出される。圧力容器70の下部には、油溜め部71が設けられている。油溜め部71内の油は回転運動により生ずる圧力差によって,クランクシャフト31内に設けられた油孔を通って,旋回スクロール部材21とクランクシャフト31との摺動部,軸受30a、30bなどの潤滑に供される。
【0143】
以上のような構成とすることで、圧縮機100を扁平に構成することができるため、電気駆動部200との一体配置が可能となり、省スペース化を図ることができる。
【0144】
[実施例5]
図9A,9Bを参照してインホイールモータ1000の実施例について説明する。図9Aは、本発明の第4実施例に係る図であって、アウターロータ型のインホイールモータ1000の外観を示す斜視図である。図9B図9Aのインホイールモータ1000を回転軸線上に分離して示す分解立体図である。
【0145】
インホイールモータ1000は、ホイール1020と、回転子組立体1070と、固定子組立体1080と、電気品220と、第1ケース部1040と、を備えている。回転子組立体1070は、回転子、回転子ケース1041および第2ケース部1042を有する。固定子組立体1080は、固定子1081および固定子ケース1090を有する。インホイールモータ1000には、車輪を制動させる制動力を発生させるディスクブレーキ1110が取り付けられる。インホイールモータ1000は、サスペンション装置1120を介して車体を構成するフレーム(車体フレーム)に取り付けられる。
【0146】
本実施例のインホイールモータ1000は、電気駆動部200がギアを介さず機械的な結合部だけでホイールと直結している。
【0147】
本実施例では、アウターロータ型のインホイールモータ1000を例示したが、インナーロータ型のインホイールモータに本発明を適用してもよい。
【0148】
本実施例の熱サイクルシステム400を有する電気駆動部200(電動機210と電気品220)をインホイールモータ1000に適用することで、電力消費を低減可能でかつ低コストな冷却システムを提供できる。
【0149】
[実施例6]
図10は本発明の第5の実施例に係る車両1600の模式的平面図である。
【0150】
車両1600には、電動機210が搭載される。電動機210は支持部材1610により台車1640に固定支持されている。電動機210の回転子は車軸1630と直結し、電動機210は車軸1630を介して車輪1620を駆動する。バッテリ1650とバッテリ1650の直流電力を交流電力に変換して、交流電力を電動機210に供給する電気品220とを備えている。
【0151】
本実施例の車両1600では、電動機210と電気品220とを含む電気駆動部200は、上述した各実施例のいずれかに記載された熱サイクルシステム400に組み込まれる。この場合、電気駆動部200は、電気駆動部200のトルクが車輪1620に直接伝達されるように構成されるとよい。或いは電気駆動部200は、電気駆動部200のトルクが変速機を介して車輪に伝達されるように構成されてもよい。
【0152】
以上に説明したように、本実施例の熱サイクルシステム400及び電気駆動部200(電動機210と電気品220)を車両1600に適用することで、電力消費を低減可能でかつ低コストな空調システムおよび冷却システムを提供できる。
【0153】
なお、本発明は上記した各実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0154】
1…圧縮機用モータの回転子、2…圧縮機用モータの回転子コア、3…圧縮機用モータの永久磁石、4…圧縮機用モータの回転子支持部材、11…圧縮機用モータの固定子、12…圧縮機用モータの固定子コア、13…圧縮機用モータの固定子巻線、20…圧縮機構部、21…固定スクロール部材、22…旋回スクロール部材、23…圧縮室、24…吐出口、30…軸受、31…クランクシャフト、70…圧力容器、100…圧縮機、101…圧縮機用モータ、102…四方弁、103…切替弁、200…電気駆動部(e-Axle)、201…冷却ポンプ、202…流量調整弁、210…電動機、211…電動機冷却部、220…電気品、221…電気品冷却部、230…バッテリ、300…駆動品搭載スペース、310…室外、311…室外熱交換器、312…室外ファン、320…室内、321…室内熱交換器、322…室内ファン、400…熱サイクルシステム、401…冷媒(高温)の流れ方向を表す矢印、402…冷媒(低温)の流れ方向を表す矢印、410…室外機を流れる空気の流れ方向を表す矢印、420…室内機を流れる空気の流れ方向を表す矢印、501…アキュムレータ、502…膨張弁、503…配管、600…熱サイクルシステム制御部、601…電気駆動部温度判定部、602…エアコン運転モード判定部、603…四方弁制御部、604…室内ファン制御部、605…室外ファン制御部、606…トルクゼロ電流制御部、607…バッテリ温度判定部、608…切替弁制御部、710…外気温センサ、720…電気駆動部200の温度センサ、730…室内の温度センサ、740…バッテリ230の温度センサ、1000…インホイールモータ、1600…車両。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図4I
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10