(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018899
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】疾患判断装置、疾患判断プログラム、及びコンピュータ読取可能な記録媒体
(51)【国際特許分類】
G16H 50/20 20180101AFI20230202BHJP
G16H 10/40 20180101ALI20230202BHJP
A61B 5/145 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
G16H50/20
G16H10/40
A61B5/145
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123263
(22)【出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】512245230
【氏名又は名称】一般社団法人 医科学総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】矢作 尚久
【テーマコード(参考)】
4C038
5L099
【Fターム(参考)】
4C038KK01
5L099AA04
5L099AA22
(57)【要約】
【課題】より高い精度で疾患を判断することが可能な疾患判断装置、疾患判断プログラム、及びコンピュータ読取可能な記録媒体を提供する。
【解決手段】バイタル項目及び検査項目の少なくとも一方である状態項目の値である状態値に基づいて、対象者に生じている疾患を判断する疾患判断装置であって、複数の疾患それぞれに対して、状態項目毎に、状態値の時間経過に伴う推移、又は、状態値を加工した値である加工値の時間経過に伴う推移を記憶した記憶部41と、対象者個人について、少なくとも1つの状態値の情報を入力する入力部42と、入力された状態値の情報と記憶部41により記憶された推移とに基づいて対象者の疾患を判断する疾患判断部43とを備え、疾患判断部43は、入力された状態値に基づいて状態値又は加工値の変化成分を算出し、当該変化成分が記憶部41により記憶された推移に合致するか否かに基づいて対象者の疾患を判断する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイタル項目及び検査項目の少なくとも一方である状態項目の値である状態値に基づいて、対象者に生じている疾患を判断する疾患判断装置であって、
複数の疾患それぞれに対して、状態項目毎に、状態値の時間経過に伴う推移、又は、状態値を加工した値である加工値の時間経過に伴う推移を記憶した記憶手段と、
対象者個人について、少なくとも1つの状態値の情報を入力する入力手段と、
前記入力手段により入力された状態値の情報と、前記記憶手段により記憶された推移とに基づいて、対象者の疾患を判断する判断手段と、を備え、
前記判断手段は、前記入力手段により入力された状態値に基づいて状態値又は加工値の変化成分を算出し、当該変化成分が前記記憶手段により記憶された推移に合致するか否かに基づいて対象者の疾患を判断する
ことを特徴とする疾患判断装置。
【請求項2】
前記入力手段は、1つの状態項目について、疾患発症後の前記状態値の情報と当該状態値の情報が得られた時間を示す時間情報とのセット情報を2以上入力し、
前記判断手段は、前記入力手段により入力された2以上のセット情報に基づいて状態値又は加工値の変化成分を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の疾患判断装置。
【請求項3】
対象者個人について予め正常時に取得されていた状態項目の値である正常値を記憶した第2記憶手段と、
対象者個人の白血球数及びC反応性蛋白の値に基づいて、疾患の症状が出始めてからの経過時間を算出する算出手段と、をさらに備え、
前記判断手段は、同じ状態項目に係る前記第2記憶手段により記憶された正常値及び前記入力手段により入力された状態値と、前記算出手段により算出された経過時間とに基づいて、状態値又は加工値の変化成分を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の疾患判断装置。
【請求項4】
前記判断手段は、前記入力手段により入力された少なくとも1つの前記状態値に基づいて疾患の候補を判断し、判断した疾患の候補の推移に対して算出した少なくとも1つの状態値又は加工値の変化成分に基づいて疾患を特定する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の疾患判断装置。
【請求項5】
前記判断手段は、2以上の状態項目それぞれの状態値又は加工値の変化成分を算出し、算出した各変化成分に基づいて疾患を判断する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の疾患判断装置。
【請求項6】
前記判断手段は、対象者の疾患を判断した場合、変化成分が前記記憶手段により記憶された推移に合致したときの経過時間に基づいて、その疾患の進行度を判断する
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の疾患判断装置。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の疾患判断装置として機能させるための疾患判断プログラム。
【請求項8】
請求項7に記載の疾患判断プログラムが記録されたコンピュータ読取可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患判断装置、疾患判断プログラム、及びコンピュータ読取可能な記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象者の体温や血中酸素濃度等のバイタル値と、血液検査や肝機能検査等の検査を経て得られる検査値とに基づいて、対象者の病気を判断する病気診断装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。この装置は、バイタル値や検知値、これらの平均値、及びこれらの変化量に基づいて、病気を判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の装置は、値そのもの、平均値、及び変化量に基づいて病気を判断しているため、判断精度に欠けるものであった。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、より高い精度で疾患を判断することが可能な疾患判断装置、疾患判断プログラム、及びコンピュータ読取可能な記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る疾患判断装置は、バイタル項目及び検査項目の少なくとも一方である状態項目の値である状態値に基づいて、対象者に生じている疾患を判断する疾患判断装置であって、複数の疾患それぞれに対して、状態項目毎に、状態値の時間経過に伴う推移、又は、状態値を加工した値である加工値の時間経過に伴う推移を記憶した記憶手段と、対象者個人について、少なくとも1つの状態値の情報を入力する入力手段と、前記入力手段により入力された状態値の情報と、前記記憶手段により記憶された推移とに基づいて、対象者の疾患を判断する判断手段と、を備え、前記判断手段は、前記入力手段により入力された状態値に基づいて状態値又は加工値の変化成分を算出し、当該変化成分が前記記憶手段により記憶された推移に合致するか否かに基づいて対象者の疾患を判断する。
【0007】
なお、ここでいう疾患の判断とは、疾患を1つに特定する場合に限らず、罹患している可能性がある複数の疾患に絞り込む場合も含む概念である。
【0008】
また、本発明に係る疾患判断プログラムは、コンピュータを、上記の疾患判断装置として機能させるための疾患判断プログラムであり、本発明に係るコンピュータ読取可能な記録媒体は、上記の疾患判断プログラムが記録されたコンピュータ読取可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の疾患それぞれに対して、状態項目毎に、状態値又は加工値の時間経過に伴う推移を記憶しており、対象者個人の少なくとも1つの状態値又は加工値の変化成分を算出し、算出した変化成分が推移に合致するか否かに基づいて対象者の疾患を判断する。ここで、疾患によっては、特定の状態値について、疾患の症状が出始めてから長時間で或る値以上に至る場合や、短時間で急激に或る値以上に至る場合等があり、単に状態値や平均値を参照しても疾患の判断は困難である。特に、短時間で急激に或る値以上に至る場合であっても、疾患毎に変化成分については若干の相違があることから、疾患毎に推移を記憶しておき変化成分との合致を判断することで、より精度良く疾患を判断できることとなる。従って、より高い精度で疾患を判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る疾患判断装置を示す構成図であり、(a)は外観図を示し、(b)はブロック図を示している。
【
図2】本発明の実施形態に係る疾患判断装置のCPUを示すソフト構成図である。
【
図3】
図2に示した記憶部に記憶される推移の例を示す第1のグラフである。
【
図4】
図2に示した記憶部に記憶される推移の例を示す第2のグラフである。
【
図5】
図2に示した記憶部に記憶される推移の例を示す第3のグラフである。
【
図6】本実施形態に係る疾患判断方法を示すフローチャートである。
【
図7】第2実施形態に係る疾患判断装置のCPUを示すソフト構成図である。
【
図8】
図7に示した経過時間算出部による処理を説明するための図である。
【
図9】第2実施形態に係る疾患判断方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る疾患判断装置を示す構成図であり、(a)は外観図を示し、(b)はブロック図を示している。
【0013】
図1(a)及び
図1(b)に示す疾患判断装置1は、例えばパーソナルコンピュータの一機能として実現されるものであり、操作者から入力された情報等に基づいて対象者(例えば患者)の疾患を判断するものである。このような疾患判断装置1は、キーボード2やマウス3等の操作手段を備え、操作手段に対する操作を経て疾患を判断することとなる。
【0014】
このような疾患判断装置1は、操作手段に加えて、CPU(Central Processing Unit)4と、ディスプレイ5と、通信I/F(interface)部6と、HDD(Hard Disk Drive)7とを備えている。
【0015】
CPU4は、本実施形態に係る疾患判断装置1の全体を制御するものであり、ROM(Read Only Memory)4aとRAM(Random Access Memory)4bとを備えている。ROM4aは、疾患判断装置1を機能させるための疾患判断プログラムが記憶された読み出し専用のメモリである。RAM4bは、各種のデータを格納すると共にCPU4の処理作業に必要なエリアを有する読み出し書き込み自在のメモリである。
【0016】
ディスプレイ5は、キーボード2やマウス3の操作による入力画像を表示したり、疾患判断装置1により判断された疾患を表示したりするものである。通信I/F部6は、他の装置と通信するためのインターフェースである。後述する記憶部(符号41)に記憶される内容や後述する入力部(符号42)に入力される内容は、この通信I/F部6を通じて他の装置から取得するようになっていてもよい。
【0017】
HDD7は、パーソナルコンピュータに接続される補助記憶機器である。このHDD7には、ROM4aと同様に、疾患判断装置1を機能させるための疾患判断プログラムが記憶されていてもよい。すなわち、CPU4は、HDD7に記憶されるプログラムに従って、本実施形態に係る疾患判断装置1の各機能を実現するようになっていてもよい。また、可能であればHDDに代えて又は加えてUSB(Universal Serial Bus)等を備えていてもよい。
【0018】
なお、以下では疾患判断装置1が医療機関において用いられることを想定して説明するが、疾患判断装置1は自治体や消防等の他の機関等において用いられてもよい。また、適用可能であれば、上記以外の場所で用いられてもよい。さらに、本実施形態では疾患判断装置1をパーソナルコンピュータの一機能として説明するが、これに限らず、スマートフォン等の携帯端末とサーバとからなるシステムや、2台以上のパーソナルコンピュータからなるシステムによって疾患判断装置1が構成されていてもよい。
【0019】
図2は、本発明の実施形態に係る疾患判断装置1のCPU4を示すソフト構成図である。
図2に示すように、CPU4は、記憶部(記憶手段)41を備えると共に、疾患判断プログラムを実行することにより、入力部(入力手段)42と、疾患判断部(判断手段)43と、表示制御部44とが機能する。
【0020】
記憶部41は、複数の疾患それぞれに対して、状態項目毎に、状態値の時間経過に伴う推移、又は、状態値を加工した値である加工値の時間経過に伴う推移を記憶したものである。本実施形態において状態項目とは、バイタル項目及び検査項目の少なくとも一方を示すものである。
【0021】
バイタル項目とは、身体にセンサを接触させ、又は、計測器や機材を取り付けて数値として出力可能な項目であって、例えば体温、血圧及び血中酸素濃度等が該当する。
【0022】
検査項目とは、人体の一部(血液や尿等)を採取してJSCC標準化対応法等によって定められた方法によって数値化されるもの、又は、医師や看護師等が器具を操作して若しくは対象者が器具を使用する際に医師や看護師等が補助を行って、身体機能を数値化するものである。検査項目には、例えば肺活量、γ-GT、尿酸、C反応性蛋白(CRP)、白血球数(WBC)、尿潜血、及び聴力レベル等が該当する。
【0023】
また、状態値とは、状態項目の値をいう。このため、体温という状態項目(バイタル項目)について、状態値とは、例えば36.5℃といった数値が該当する。同様に、血中酸素濃度という状態項目(バイタル項目)について、状態値とは、例えば98%といった数値が該当する。さらに、CRPという状態項目(検査項目)について、状態値とは、例えば0.10mg/dLといった数値が該当する。
【0024】
記憶部41は、このような状態値の時間経過に伴う推移、又は、状態値を加工した値である加工値の時間経過に伴う推移を、疾患毎及び状態項目毎に記憶している。記憶部41に記憶される推移は、何ら治療を行っていない場合の推移を示している。
【0025】
図3~
図5は、
図2に示した記憶部41に記憶される推移の例を示すグラフである。なお、
図3~
図5においては疾患を気胸、ぜんそく、及び肺炎に限定して図示するが、推移は、これら3つの疾患に限らず、他の様々な疾患についても記憶されている。
【0026】
図3に示すように、気胸、ぜんそく、及び肺炎のいずれについても肺に関する疾患であり、血中酸素濃度が低下する傾向にある。
図3に示す例では、3つの疾患の全てについて、例えば血中酸素濃度はX(例えば85~90)%まで低下している。しかし、X%に至るまでの速度については大きな差異がある。まず、気胸については、肺に穴が開くことから穴が開いた時点から急激に血中酸素濃度が低下する傾向にある。また、ぜんそくについては、症状が出始めてから6時間から12時間程度の時間を掛けて血中酸素濃度がX%まで低下する傾向にある。また、肺炎については、症状が出始めてから48時間から72時間程度の時間を掛けて血中酸素濃度がX%まで低下する傾向にある。
【0027】
記憶部41は、
図3に示すように、血中酸素濃度という状態項目について、状態値の時間経過に伴う推移を、疾患毎(例えば気胸、ぜんそく、及び肺炎)に記憶している。
【0028】
また、
図4に示すように、気胸、ぜんそく、及び肺炎のいずれについても肺に関する疾患であり、心拍数についても増加する傾向にある。詳細に説明すると、気胸については、肺に穴が開いた時点から急激に且つ高い値まで心拍数が増加する傾向にある。また、ぜんそくについては、症状が出始めて6時間から12時間程度の時間が経過した時点から徐々に心拍数が増加していき、最終的に増加率が例えば20%程度まで達する傾向にある。また、肺炎については、症状が出始めて48時間から72時間程度の時間が経過した時点から徐々に心拍数が増加していき、最終的に増加率がぜんそくよりも高い値まで達する傾向にある。
【0029】
記憶部41は、
図4に示すように、心拍数という状態項目について、状態値(心拍数の値)を加工した加工値(心拍数増加率)の時間経過に伴う推移を、疾患毎(例えば気胸、ぜんそく、及び肺炎)に記憶している。なお、心拍数増加率を求めるにあたっては、正常なときの心拍数の情報が予め必要であることはいうまでもない。このときの正常なときの心拍数は対象者本人による申告であってもよいし、疾患判断装置1が後述する第2実施形態に係る第2記憶部45に相当するものを備えており、この記憶部から読み出される情報であってもよい。
【0030】
また、
図5に示すように、気胸、ぜんそく、及び肺炎のいずれについても肺に関する疾患であるが、そのうち感染症は肺炎のみである。このため、気胸やぜんそくについては、白血球数が初期値(基準値)を維持する傾向にある。これに対して、肺炎については、症状が出始めて48h~72h程度の時間が経過した時点から徐々にWBCが増加していき、最終的にWBCが明らかな異常値まで達する傾向にある。
【0031】
記憶部41は、
図5に示すように、WBCという状態項目について、状態値の時間経過に伴う推移を、疾患毎(例えば気胸、ぜんそく、及び肺炎)に記憶している。
【0032】
以上のように、記憶部41は、疾患それぞれに対して、状態項目毎に、状態値の推移又は加工値の推移を記憶している。
【0033】
再度
図2を参照する。
図2に示すように、入力部42は、対象者個人について、少なくとも1つの状態値の情報を入力するものであって、特に本実施形態においては疾患発症後の状態値の情報とその状態値が得られたときの時間(日時)を示す時間情報とのセット情報を、1つの状態項目に対して2以上入力するものである。なお、入力部42は、操作手段を介してセット情報を入力したり、自己又は他の装置等の記憶領域に記憶されているセット情報を入力したりする。
【0034】
疾患判断部43は、入力部42により入力された状態値に基づいて、対象者の疾患を判断するものであり、候補判断部43aと、変化成分算出部43bと、推移当て嵌め部43cとを備えている。
【0035】
候補判断部43aは、入力部42により入力された少なくとも1つの状態値に基づいて疾患の候補を判断するものである。例えば、
図5に示すWBCが基準値内であれば肺炎等の感染症等を除外できる。また、
図3に示すように、血中酸素濃度が低下して例えばX%付近となっていれば、肺疾患の可能性がある。このように、候補判断部43aは、入力部42により入力された状態値から、疾患の候補を判断する。
【0036】
ここで、状態値については或る時点での値であることから、状態値のみからでは疾患を絞り込むことに限界がある。例えば
図3の血中酸素濃度を参照すると、気胸、ぜんそく及び肺炎の全てで血中酸素濃度がX%付近まで低下している。このため、対象者に血中酸素濃度センサを取り付けて得られた状態値がX%であった場合、気胸、ぜんそく及び肺炎のいずれであるのか特定することができない。
【0037】
そこで、本実施形態に係る疾患判断装置1は、変化成分算出部43b及び推移当て嵌め部43cの機能によって、更に疾患を絞り込むようにしている。変化成分算出部43bは、入力部42により入力された状態値の情報に基づいて状態値や加工値の変化成分を算出するものである。ここで、変化成分とは、1)変化率と時間、2)変化量と時間、3)変化率のみ等の時間の概念を有する状態値や加工値の変化を示すものが挙げられる。このような変化成分算出部43bは、例えば1)の時間について、2つのセット情報に含まれる時間情報の差分から求めることができる。また、1)の変化率については、例えば2つのセット情報に含まれる時間情報の差分と、2つのセット情報に含まれる状態値の情報の差分とから求めることができる。2)3)についても同様にして求めることができる。以下、変化成分については1)を例に説明する。また、以下においては血中酸素濃度及び心拍数の状態項目に係る2つのセット情報を入力した場合を想定して説明する。
【0038】
推移当て嵌め部43cは、変化成分算出部43bにより算出された変化成分が、記憶部41により記憶された推移に合致するか否かに基づいて対象者の疾患を判断するものである。特に、推移当て嵌め部43cは候補判断部43aにより候補として判断された疾患のみを対象に当て嵌めを行う。推移当て嵌め部43cの処理について
図3及び
図4を参照して説明する。
【0039】
まず、入力部42により入力された血中酸素濃度のセット情報に基づいて、変化成分算出部43bが時間ΔT3と算出し、変化率ΔBと算出していたとする。推移当て嵌め部43cは、記憶される血中酸素濃度の推移について、時間ΔT3と変化率ΔBとが合致する部分があるかを判断する。
【0040】
図3に示すように、ぜんそくと肺炎との推移については時間ΔT3(ぜんそくでt1~t2、肺炎でt3~t4)と変化率ΔBとが合致する部分があり、一方、気胸の推移については時間ΔT3と変化率ΔBとが合致する部分を有しなかったとする。このような結果により、疾患判断部43は、対象者が気胸ではないと判断することができる。
【0041】
さらに、入力部42により入力された心拍数のセット情報に基づいて、変化成分算出部43bが時間ΔT4と算出し、変化率ΔHと算出していたとする。推移当て嵌め部43cは、記憶される心拍数増加率の推移について、時間ΔT4と変化率ΔHとが合致する部分があるかを判断する。
【0042】
図4に示すように、ぜんそくの推移については時間ΔT4(t1~t2)と変化率ΔHとが合致する部分を有するとする。一方、気胸と肺炎との推移については時間ΔT4と変化率ΔHとが合致する部分を有しないとする。このような場合、疾患判断部43は、対象者が気胸及び肺炎ではないと判断することができる。
【0043】
なお、
図4からすると、肺炎の推移の時刻t5~t6の期間においては、時間ΔT4と変化率ΔHとが合致する部分を有する。しかし、血中酸素濃度の状態値の測定時間と心拍数の状態値の測定時間とが略同じであるとすると、両者の経過時間(症状が出始めてからの経過時間)が大きく異なることから矛盾が生じる。
【0044】
具体例を挙げると、例えば令和1年1月1日の正午あたりに血中酸素濃度と心拍数との状態値を得たとする。次に、令和1年1月1日の午後3時あたりに血中酸素濃度と心拍数との状態値を得たとする。この場合において、血中酸素濃度については、
図3に示すように、ぜんそくについて経過時間6h~12hあたりの期間t1~t2が該当し、肺炎について経過時間48h~72hあたりの期間t3~t4が該当する。一方、心拍数変化率については、
図4に示すように、ぜんそくについて経過時間6h~12hあたりの期間t1~t2が該当し、肺炎について経過時間72hを明らかに超える期間t5~t6が該当する。ここで、肺炎については、血中酸素濃度の経過時間が6h~12hあたりであるのに対して、心拍数変化率の経過時間が72hを明らかに超えることとなってしまう。すなわち、同じ疾患において状態項目毎に経過時間に相違が生じている。
【0045】
そこで、推移当て嵌め部43cは、特定の疾患の1つの状態項目の推移への当て嵌めを行って変化成分が特定の経過時間で合致した場合、特定の疾患の他の状態項目の推移への当て嵌めについて、前記特定の経過時間に基づいて当て嵌めの禁止領域を設定することが好ましい。上記例の場合、血中酸素濃度についてぜんそくが経過時間48h~72hあたりで合致したことから、例えば心拍数変化率については経過時間24h(48h-所定値)~96h(72h+所定値)の範囲外となる領域を禁止領域とすることとなる。これにより、矛盾がある推移への当て嵌めを防止できると共に処理負荷の軽減を図ることができる。
【0046】
また、推移当て嵌め部43cは、
図3に示すように、血中酸素濃度の推移について当て嵌めを行い、気胸のように合致しない推移があった場合、
図4に示す心拍数増加率(他の状態項目)の推移については、気胸のような合致していなかった推移に対して当て嵌めを行わないことが好ましい。すなわち、推移当て嵌め部43cは、特定の状態項目の推移への当て嵌めを行って変化成分が合致しなかった疾患について、他の状態項目の推移への当て嵌め時に除外することが好ましい。
【0047】
以上のように、疾患判断部43は、推移当て嵌め部43cによる当て嵌め結果に基づいて、対象者の疾患を判断する。なお、上記の例では疾患が気胸、ぜんそく及び肺炎の3つだけであるため、血中酸素濃度と心拍数増加率との推移への当て嵌めによって、対象者の疾患が肺炎であると特定することができる。しかし、実際には多くの状態項目及び多くの疾患の推移が記憶されていることから、最終的に疾患判断部43は、1つの疾患に特定できない場合もある。このような場合、疾患判断部43は、絞り込めた複数の疾患について対象者が罹患している可能性があると判断することとなる。
【0048】
疾患判断部43により判断された疾患の情報はディスプレイ5に表示されたり、印刷等されたりする。さらに、判断された疾患の情報は、別機器や対象者の携帯端末に送信されてもよい。
【0049】
次に、本実施形態に係る疾患判断装置1による疾患判断方法について説明する。
図6は、本実施形態に係る疾患判断方法を示すフローチャートである。
図6に示すように、まず入力部42は、複数のセット情報を入力する(S1)。この処理において入力部42は、疾患に罹患した後の複数のセット情報を入力する。疾患に罹患した後であるか否かは医師の判断が採用されてもよいし、病院等で受診している時点で疾患に罹患しているものと判断し、来院後の検査等に基づく複数のセット情報を入力するようにしてもよい。
【0050】
次に、候補判断部43aは、最新のセット情報の状態値から疾患の候補を判断する(S2)。この処理において候補判断部43aは、例えばセット情報が示す状態値となり得ない疾患を除外等することで、候補を判断する。
【0051】
その後、変化成分算出部43bは、ステップS1において入力した複数のセット情報に基づいて変化成分を算出する(S3)。この処理において変化成分は、2以上の状態項目それぞれで算出されることが好ましい。本実施形態ではステップS2において疾患の候補が判断されて、或る程度絞り込みが行われていることから、1つの状態項目の1つの変化成分を得ることができれば、疾患を1つに特定できることもあり得る。しかし、より確実に1つの疾患に絞り込むためには、複数の状態項目において複数の変化成分を得ることが好ましい。
【0052】
次いで、推移当て嵌め部43cは、ステップS3において算出した変化成分をステップS2において算出した候補の推移に当て嵌めを行う(S4)。この処理においては、上記したように、或る状態項目について或る疾患の推移に合致しなかった場合、その疾患について他の状態項目での当て嵌めが禁止されたり、合致した場合に、経過時間に基づく禁止領域の設定が行われたりする。
【0053】
その後、疾患判断部43は、疾患が1つに特定されたかを判断する(S5)。疾患が1つに特定されたと判断した場合(S5:YES)、疾患判断部43は、疾患の進行度を判断する(S6)。この際、疾患判断部43は、推移に合致したときの経過時間に基づいて進行度を判断する。例えば
図3に示す肺炎の推移については、経過時間が48h~72hあたりで血中酸素濃度が低下し切ることとなる。このため、疾患判断部43は、例えば現在の経過時間が6hであれば、進行度は6h/48h及び6h/72hなる演算を行って、進行度8.3%~12.5%と判断する。
【0054】
次いで、表示制御部44は、特定された疾患に対象者が罹患している旨、及び、進行度を表示する(S7)。その後、
図6に示す処理は終了する。
【0055】
一方、疾患が1つに特定されていないと判断した場合(S5:NO)、すなわち複数の疾患に罹患している可能性がある場合、表示制御部44は、複数の疾患のいずれかに罹患している旨(疾患候補)を表示する(S8)。その後、
図6に示す処理は終了する。なお、可能であれば疾患候補の全てについて進行を算出して表示するようにしてもよい。
【0056】
このようにして、本実施形態に係る疾患判断装置1、疾患判断方法、疾患判断プログラム、及びコンピュータ読取可能な記録媒体によれば、複数の疾患それぞれに対して、状態項目毎に、状態値の時間経過に伴う推移を記憶しており、対象者個人の少なくとも1つの状態値の変化成分を算出し、算出した変化成分が推移に合致するか否かに基づいて対象者の疾患を判断する。ここで、疾患によっては、特定の状態値について、疾患の症状が出始めてから長時間で或る値以上に至る場合や、短時間で急激に或る値以上に至る場合等があり、単に状態値や平均値を参照しても疾患の判断は困難である。特に、短時間で急激に或る値以上に至る場合であっても、疾患毎に変化成分については若干の相違があることから、疾患毎に推移を記憶しておき変化成分との合致を判断することで、より精度良く疾患を判断できることとなる。従って、より高い精度で疾患を判断することができる。
【0057】
また、同じ状態項目について、疾患発症後の状態値の情報と状態値の情報が得られた時間を示す時間情報とのセット情報を2以上入力し、2以上のセット情報に基づいて状態値又は加工値の変化成分を算出するため、例えば患者が入院後に、同じ状態項目について例えば2回検査を行うことで、疾患発症状態における変化率等を算出することができる。特に、患者の正常時において得られた状態値と、入院後に得られた状態値とから、状態値の変化率を算出する場合、どの時点から罹患して症状が出始めたのか不明であり、変化成分が不正確になる可能性があるが、疾患発症後の状態値と時間情報との2以上のセット情報に基づいて変化成分を算出するため、正確な変化成分を算出して、より高精度に疾患を特定することができる。
【0058】
また、少なくとも1つの状態値に基づいて疾患の候補を判断し、判断した疾患の候補の推移に対して算出した少なくとも1つの状態値又は加工値の変化成分に基づいて疾患を特定する。このため、例えば体温、血中酸素濃度、CRP(C-reactive protein)等の状態値に基づいて或る程度の絞り込みを行い、その後、変化成分を用いることで、或る程度の絞り込み後に変化成分を適用して更なる絞り込みを行うことができる。従って、既存の状態値に基づく疾患判断を利用しつつ変化成分に基づく疾患判断を行うことができる。
【0059】
また、2以上の状態項目それぞれの状態値又は加工値の変化成分に基づいて疾患を判断するため、或る疾患に関して1つの状態値又は加工値の変化成分が合致するが他の状態値又は加工値の変化成分が合致しない場合等を判断することができる。これにより、2以上の状態項目同士の関連性も判断でき、より一層変化成分を用いて疾患の絞り込みを行うことができる。
【0060】
また、対象者の疾患を判断した場合、その疾患について進行度を判断する。ここで、記憶される推移については、何ら治療を行っていない場合の進行度合いと同等の状態を示すものであることから、推移に変化成分が合致した場合に、現時点での進行度を判断することが可能となる。従って、疾患だけでなく進行度も判断することができる。
【0061】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態に係る疾患判断装置は第1実施形態のものと同様であるが、一部構成及び処理内容が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0062】
図7は、第2実施形態に係る疾患判断装置1のCPU4を示すソフト構成図である。まず、第2実施形態においてCPU4は、第2記憶部(第2記憶手段)45を備えている。第2記憶部45は、対象者個人について予め正常時に取得されていた状態項目の値である正常値を記憶したものである。すなわち、第2記憶部45は、対象者個人について疾患に罹患していないときの状態値である血中酸素濃度100%、心拍数○○○、及びWBC基準値等を正常値として記憶している。
【0063】
さらに、第2実施形態に係る疾患判断部43は、第1実施形態と同様に、1つの状態項目に対して、複数のセット情報を入力してもよいが、疾患判断にあたり1つの状態値の情報を入力するようにしてもよい。通常、1つの状態項目に対して状態値の情報を入力しただけでは、時間情報の差分から
図3及び
図4に示した時間ΔT3,ΔT4の算出ができなくなる。このため、変化成分の算出に支障をきたす。
【0064】
そこで、第2実施形態に係る疾患判断部43は、経過時間算出部(算出手段)43dを備えている。経過時間算出部43dは、入力部42により入力された状態値の情報が得られた時点における経過時間を算出するものである。
【0065】
この経過時間算出部43dは、例えば以下のようにして経過時間を算出する。
図8は、
図7に示した経過時間算出部43dによる処理を説明するための図である。なお、
図8において縦軸は白血球数(WBC)及びC反応性蛋白(CRP)であり、横軸が経過時間である。
【0066】
対象者が感染症に罹患した場合、体内に侵入した細菌やウイルス等の異物の排除のために白血球数が増加する傾向にあり、例えば経過時間Tα1で白血球数がαとなる。その後、白血球数は経過時間Tmaxで最大値となり、次いで、異物の排除が順調に進んだ結果、経過時間Tα2で再度白血球数がαとなる。以後、白血球数は次第に減少していく。
【0067】
一方、C反応性蛋白は、炎症または組織壊死がある病態で血液中に増加する蛋白質である。このC反応性蛋白は、白血球数に遅れて最大値を示す傾向にあり、経過時間Tα1でβ1を示し、経過時間Tα2でβ2(>β1)を示す。
【0068】
以上の傾向からすると、例えば対象者が感染症に罹患した場合、白血球数及びC反応性蛋白の値から或る程度の経過時間を算出することができる。例えば白血球数がαであり、C反応性蛋白がβ2であるとすると、経過時間算出部43dは、経過時間Tα2であると算出することができる。よって、状態値の情報が得られたときに、白血球数及びC反応性蛋白の検査も行うことで、経過時間算出部43dは、状態値の情報が得られた時点での経過時間を算出することができる。なお、このような傾向は感染症に限らず、外傷及び腫瘍等によっても同様である。
【0069】
このような経過時間算出部43dを備えるため、疾患判断部43の変化成分算出部43bは、経過時間算出部43dにより算出された経過時間と、上記正常値と、状態値の情報とに基づいて、変化成分を算出することができる。これにより、少なくとも1つの状態値の情報に基づいて変化成分を算出でき、算出後は第1実施形態と同様に、疾患判断を行うことができる。
【0070】
図9は、第2実施形態に係る疾患判断方法を示すフローチャートである。
図9に示すように、まず入力部42は、セット情報を入力する(S11)。ここで入力される情報は1つの状態項目について1つのセット情報を想定しているが、複数のセット情報が入力されてもよい。さらに、1つのセット情報に限らず、1つの状態項目について1つの状態値の情報のみが入力されてもよい。
【0071】
次に、入力部42は、ステップS11において入力されたセット情報に対応する状態項目の正常値を入力する(S12)。その後、経過時間算出部43dは経過時間を算出する(S13)。このとき、疾患判断装置1には、白血球数やC反応性蛋白の値が入力され、経過時間算出部43dは、これらの値に基づいて
図8を参照して説明したようにして、経過時間を算出する。
【0072】
次に、変化成分算出部43bは、ステップS11において入力されたセット情報(状態値の情報)、ステップS12において入力された正常値、及び、ステップS13において算出された経過時間に基づいて、状態値の変化成分を算出する(S14)。
【0073】
その後、推移当て嵌め部43cは、
図6に示したステップS4と同様にして、推移に当て嵌めを行う(S15)。なお、この処理においては、第1実施形態と同様に、或る状態項目について或る疾患の推移に合致しなかった場合、その疾患について他の状態項目での当て嵌めが禁止されたり、合致した場合に、経過時間に基づく禁止領域の設定が行われたりする。
【0074】
その後、ステップS16~S19の処理において、
図6に示したステップS5~S8と同様の処理が行われ、
図9に示した処理は終了する。
【0075】
このようにして、第2実施形態に係る疾患判断装置1、疾患判断方法、疾患判断プログラム、及びコンピュータ読取可能な記録媒体によれば、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0076】
さらに、第2実施形態によれば、正常時に取得されていた正常値を記憶しておき、疾患の症状が出始めてからの経過時間を算出する。ここで、患者の正常時において得られた正常値と、入院後等に得られた状態値とから、状態値又は加工値の変化成分を算出する場合、どの時点から罹患して症状が出始めたのか不明であり、変化成分が不正確になる可能性があるが、疾患の症状が出始めてからの経過時間を算出することで、正確な変化成分を算出して、より高精度に疾患を特定することができる。
【0077】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、公知又は周知の技術を組み合わせてもよい。
【0078】
例えば、上記実施形態において疾患判断プログラムは、疾患判断装置1のROM4aに記憶されているが、これに限らず、USB、CD-ROM、CD-R等の他の種類の記録媒体に格納されていてもよい。
【0079】
加えて、上記実施形態に疾患判断装置1は1台の装置を想定しているが、これに限らず、複数台の装置によってシステム化されたものであってもよい。
【0080】
さらに、疾患判断装置1は、対象者個人の状態値(正常値)に基づいてカスタマイズされていてもよい。例えば血中酸素濃度については初期値(正常値)を100%と想定して説明したが、対象者によっては初期値が97%等であり、3%分だけ推移が縦軸に沿って平行移動されるようになっていてもよい。
【0081】
また、本実施形態において入力部42はセット情報を入力するにあたり、例えば対象者に取り付けられる体温計等のセンサから連続的な情報が入力されてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 :疾患判断装置
41 :記憶部(記憶手段)
42 :入力部(入力手段)
43 :疾患判断部(判断手段)
43a :候補判断部
43b :変化成分算出部
43c :推移当て嵌め部
43d :経過時間算出部(算出手段)
44 :表示制御部
45 :第2記憶部(第2記憶手段)