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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018903
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】養生シートおよびその連結構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/30 20060101AFI20230202BHJP
   E04G 21/24 20060101ALI20230202BHJP
   H02G 1/02 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
E04G21/30 A
E04G21/24 A
H02G1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123268
(22)【出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】521238247
【氏名又は名称】関工商事株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505176682
【氏名又は名称】ヨシハタ工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304011902
【氏名又は名称】福井ファイバーテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000220642
【氏名又は名称】東京電設サービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼石 和浩
(72)【発明者】
【氏名】又吉 功
(72)【発明者】
【氏名】宮里 光栄
(72)【発明者】
【氏名】川添 智士
(72)【発明者】
【氏名】志村 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】川島 伸悟
【テーマコード(参考)】
5G352
【Fターム(参考)】
5G352AC01
5G352AC03
5G352AE03
(57)【要約】
【課題】絶縁性能を向上した養生シートおよびその連結構造を提供する。
【解決手段】充電設備における作業の際に用いられる養生シートは、絶縁性材料からなるメッシュ状のシート材5により形成されたシート部6と、シート部の周縁部に設けられた帯部7と、帯部に設けられたボタンホール8とを備える。帯部は、周縁部をなすシート材に積層され絶縁性材料からなるメッシュ状の帯部シート材9を備える。シート材と帯部シート材は、表側の第1層Y1、中間の第2層Y2、および裏側の第3層Y3を有する帯部を形成する。ボタンホールは、第1層と第3層の同一位置に一対設けられ、一対のボタンホールの間に第2層が介在される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電設備における作業の際に用いられる養生シートであって、
絶縁性材料からなるメッシュ状のシート材により形成されたシート部と、
前記シート部の周縁部に設けられた帯部と、
前記帯部に設けられたボタンホールと、
を備え、
前記帯部は、前記周縁部をなす前記シート材に積層され絶縁性材料からなるメッシュ状の帯部シート材を備え、
前記シート材と前記帯部シート材は、表側の第1層、中間の第2層、および裏側の第3層を有する前記帯部を形成し、
前記ボタンホールは、前記第1層と前記第3層の同一位置に一対設けられ、前記一対のボタンホールの間に前記第2層が介在される
ことを特徴とする養生シート。
【請求項2】
導電性材料を含まない
請求項1に記載の養生シート。
【請求項3】
乾燥状態で所定長さ当たりに所定電圧の耐電圧特性を有するように構成された
請求項1または2に記載の養生シート。
【請求項4】
前記所定長さが1mであり、前記所定電圧が300kVである
請求項3に記載の養生シート。
【請求項5】
前記シート材と前記帯部シート材の少なくとも一方は、合成樹脂繊維により形成されたラッセル構造を有する
請求項1~4のいずれか一項に記載の養生シート。
【請求項6】
前記シート部と前記帯部の少なくとも一方は、難燃性素材を含む
請求項1~5のいずれか一項に記載の養生シート。
【請求項7】
前記帯部シート材は、幅方向に折り返されると共に前記シート材を挟んだ状態で前記シート材に取り付けられ、
前記帯部シート材は前記第1層と前記第3層を形成し、前記シート材は前記第2層を形成する
請求項1~6のいずれか一項に記載の養生シート。
【請求項8】
前記帯部シート材は、前記ボタンホールの外側と内側の位置で前記シート材に縫い付けられる
請求項1~7のいずれか一項に記載の養生シート。
【請求項9】
前記シート部は、互いに重ね合わされた2枚の前記シート材により形成され
前記2枚のシート材は前記第2層を形成する
請求項1~8のいずれか一項に記載の養生シート。
【請求項10】
前記充電設備は鉄塔であり、前記作業は塗装作業である
請求項1~9のいずれか一項に記載の養生シート。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の養生シートを連結してなる養生シート連結構造であって、
前記養生シートからなる第1の養生シートおよび第2の養生シートと、
前記第1の養生シートおよび前記第2の養生シートを連結する線条材と、
を備え、
前記線条材は、前記第1の養生シートの近接端縁部における前記第1層と前記第3層の前記ボタンホールに挿通されると共に前記第2層を貫通され、前記第2の養生シートの近接端縁部における前記第1層と前記第3層の前記ボタンホールに挿通されると共に前記第2層を貫通され、
前記線条材の両端部は互いに結束されている
ことを特徴とする養生シート連結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、養生シートおよびその連結構造に係り、特に、充電設備における作業の際に用いられる養生シートおよびその連結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧が印加された線路を含む充電設備において、各種作業が行われることがある。例えば、充電設備の一種である鉄塔において、作業の一種である塗装作業が行われることがある。
【0003】
この際、鉄塔は養生シートによって覆われ、鉄塔の周囲への塗料の飛散が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-13827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、養生シートの一部が強風等で鉄塔から外れることがある。このとき、養生シートが強風で煽られて活線線路に接触すると、線路から養生シートを通じて高圧電流が流れる虞がある。そのため、作業者の安全性を高める上で、絶縁性能を向上した養生シートが待ち望まれる。
【0006】
そこで本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、絶縁性能を向上した養生シートおよびその連結構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一の態様によれば、
充電設備における作業の際に用いられる養生シートであって、
絶縁性材料からなるメッシュ状のシート材により形成されたシート部と、
前記シート部の周縁部に設けられた帯部と、
前記帯部に設けられたボタンホールと、
を備え、
前記帯部は、前記周縁部をなす前記シート材に積層され絶縁性材料からなるメッシュ状の帯部シート材を備え、
前記シート材と前記帯部シート材は、表側の第1層、中間の第2層、および裏側の第3層を有する前記帯部を形成し、
前記ボタンホールは、前記第1層と前記第3層の同一位置に一対設けられ、前記一対のボタンホールの間に前記第2層が介在される
ことを特徴とする養生シートが提供される。
【0008】
好ましくは、前記養生シートは、導電性材料を含まない。
【0009】
好ましくは、前記養生シートは、乾燥状態で所定長さ当たりに所定電圧の耐電圧特性を有するように構成されている。
【0010】
好ましくは、前記所定長さが1mであり、前記所定電圧が300kVである。
【0011】
好ましくは、前記シート材と前記帯部シート材の少なくとも一方は、合成樹脂繊維により形成されたラッセル構造を有する。
【0012】
好ましくは、前記シート部と前記帯部の少なくとも一方は、難燃性素材を含む。
【0013】
好ましくは、前記帯部シート材は、幅方向に折り返されると共に前記シート材を挟んだ状態で前記シート材に取り付けられ、
前記帯部シート材は前記第1層と前記第3層を形成し、前記シート材は前記第2層を形成する。
【0014】
好ましくは、前記帯部シート材は、前記ボタンホールの外側と内側の位置で前記シート材に縫い付けられる。
【0015】
好ましくは、前記シート部は、互いに重ね合わされた2枚の前記シート材により形成され
前記2枚のシート材は前記第2層を形成する。
【0016】
好ましくは、前記充電設備は鉄塔であり、前記作業は塗装作業である。
【0017】
本開示の一の態様によれば、
前記養生シートを連結してなる養生シート連結構造であって、
前記養生シートからなる第1の養生シートおよび第2の養生シートと、
前記第1の養生シートおよび前記第2の養生シートを連結する線条材と、
を備え、
前記線条材は、前記第1の養生シートの近接端縁部における前記第1層と前記第3層の前記ボタンホールに挿通されると共に前記第2層を貫通され、前記第2の養生シートの近接端縁部における前記第1層と前記第3層の前記ボタンホールに挿通されると共に前記第2層を貫通され、
前記線条材の両端部は互いに結束されている
ことを特徴とする養生シート連結構造が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、絶縁性能を向上した養生シートおよびその連結構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る養生シートの使用状態を示す概略図である。
図2】養生シート1を示す正面図である。
図3】帯部の構造を示す拡大図である。
図4】養生シートの試験装置を示す概略図である。
図5】養生シートの取付方法を示す断面図である。
図6】本実施形態の養生シート連結構造を示す拡大図である。
図7】養生シート連結構造の他の例を示す拡大図である。
図8】変形例3の構成を示す断面図である。
図9】変形例4の構成を模式的に示す断面図である。
図10】変形例5の構成を模式的に示す断面図である。
図11】変形例6の構成を模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお本開示は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
【0021】
図1は、本実施形態に係る養生シートの使用状態を示す概略図である。養生シート1は、充電設備における作業の際に用いられる。本実施形態の場合、充電設備は鉄塔2であり、作業は塗装作業である。充電設備とは、電圧が印加可能な線路または機器を含む設備または建造物をいい、実際に電圧が印加されている状態(活線状態)と、電圧が印加されてない状態(非活線状態)とを含む。電圧は、電気設備技術基準第2条第1項に定める高圧と特別高圧を含むが、低圧を含んでもよい。本実施形態の鉄塔2は、その図外上方の部分によって支持された特別高圧線路を含む。
【0022】
図示例において、養生シート1は鉄塔2の下端部に敷設されている。鉄塔2の所定高さ位置に、水平方向に延びる第1支持材3が設置され、この第1支持材3から養生シート1が吊り下げられている。第1支持材3と同じ高さ位置には水平な足場板(図示せず)が設置されている。第1支持材3と養生シート1と足場板は、鉄塔2の前後左右の四面に設けられ、その四面が養生シート1によって覆われる。第1支持材3より低く、地面Gに近い高さ位置に、水平方向に延びる第2支持材4が設置され、この第2支持材4に養生シート1の下端部が支持されている。第2支持材4も鉄塔2の前後左右の四面に設けられる。
【0023】
図2には、本実施形態の養生シート1を示す。養生シート1の前後左右上下の各方向を図示の通り定める。但しこれら各方向が説明の便宜上定められたものに過ぎない点に留意されたい。図中の紙面厚さ方向手前側が前側であり、これは養生シート1の表側である。図中の紙面厚さ方向奥側が後側であり、これは養生シート1の裏側である。各部の寸法、縮尺等は正確ではなく、理解容易のため誇張されている。
【0024】
養生シート1は、シート部6と、シート部6の周縁部に設けられた帯部7と、帯部7に設けられたボタンホール8とを備える。養生シート1は四角形、具体的には縦長長方形とされ、上下方向(長手方向)の長さL1と、左右方向(幅方向)の幅W1(<L1)とを有する。符号CL,CWはそれぞれ長さL1方向の中心(長さ中心という)と幅W1方向の中心(幅中心という)とを示す。これらの交点を養生シート中心O1とする。養生シート中心O1に対しシート面方向に離間する側を外側、接近する側を内側という。
【0025】
シート部6は、絶縁性材料からなるメッシュ状のシート材5により形成される。シート部6およびシート材5は、導電性材料を含まない。シート材5は、絶縁性材料である合成樹脂の繊維または糸をラッセル編みして形成されたラッセル構造を有し、比較的強靱な構造とされている。合成樹脂の種類は任意であるが、本実施形態の場合はポリエチレンである。シート部6は、養生シート1と実質的に同一寸法の縦長長方形とされる。本実施形態のシート部6は1枚のシート材5により形成される。
【0026】
帯部7は、絶縁性材料からなるメッシュ状の帯部シート材9を備える。帯部シート材9は前記シート材5と同様であり、絶縁性材料である合成樹脂の繊維または糸をラッセル編みして形成されたラッセル構造を有し、比較的強靱な構造とされている。合成樹脂の種類は任意であるが、本実施形態の場合はポリエチレンである。帯部7および帯部シート材9は、導電性材料を含まない。詳しくは後述するが、帯部シート材9はシート部6の周縁部に積層される。これにより養生シート1の周縁部の厚さが増し、その強度が向上される。
【0027】
帯部7は、シート部6の上下左右の四つの端縁部の全長に沿って連続的に設けられ、すなわちシート部6の全周に沿って連続的に設けられている。帯部7は、端縁部の長手方向に延びる長さと、端縁部の長手方向に直角な方向に延びる幅W7とを有する。本実施形態の帯部7の長さは、対応する各端縁部の長さに等しい。各端縁部における帯部7の構造は同様であるから、以下、仮想円IIIで囲まれた上端縁部の帯部7の構造を代表的に説明する。
【0028】
図3において、(A)は図2と同様の正面図、(B)は(A)のIIIB-IIIB断面図である。図示するように、帯部シート材9は、幅方向に折り返されると共にシート材5を挟んだ状態でシート材5に取り付けられる。帯部シート材9は、元々は帯部7の幅W7の約2倍の幅を有するが、幅方向に1回折り返されることで、その幅が半分に減少される。この折り返された帯部シート材9の間に、シート材5が挟まれ、かつ、シート材5が最も奥まで挿入される。シート材5の端縁(図示例では上端縁)10は、帯部シート材9の折り目11の内面に突き当てられるか接近される。
【0029】
この状態で帯部シート材9は、ボタンホール8の外側(図示例では上側)と内側(図示例では下側)の位置で、縫い糸によってシート材5に縫い付けられる。符号12は縫い糸、もしくは縫い糸によって形成された縫い目を示す。縫い目12は帯部7の長手方向に沿って延びる。
【0030】
ボタンホール8は、帯部7の幅中心部に設けられ、帯部7の長手方向に延び、スリット状に形成される。本実施形態のボタンホール8は、帯部シート材9の縫製時に同時に形成されるが、帯部シート材9の縫製後に帯部シート材9を切断、穴かがりするなどして事後的に形成されてもよい。ボタンホール8は、帯部7の幅方向において、外側と内側の縫い目12の間の丁度中間位置に位置される。図2に示すように、ボタンホール8は、帯部7の長手方向に所定間隔(本実施形態では等間隔)で複数設けられる。
【0031】
ボタンホール8は、シート材5を挟んで表側に位置する帯部シート材9と、裏側に位置する帯部シート材9との同一位置に、一対設けられる。これら一対のボタンホール8の間にはシート材5が介在される。従って一対のボタンホール8は見た目上、シート材5によって塞がれ、互いに連通されない。
【0032】
このように帯部7を形成すると、シート材5と帯部シート材9は、表側の第1層Y1、中間の第2層Y2、および裏側の第3層Y3を有する帯部7を形成するようになる。帯部シート材9は第1層Y1と第3層Y3を形成し、シート材5は第2層Y2を形成する。そしてボタンホール8は、第1層Y1と第3層Y3の同一位置に一対設けられ、一対のボタンホール8の間に第2層Y2が介在される。
【0033】
以上のように構成された本実施形態の養生シート1は、全体として導電性材料を含まず、高い絶縁性を有し、所定長さ当たりに所定電圧の耐電圧特性を有するように構成されている。本実施形態の場合、所定長さが1mであり、所定電圧が300kVである。以下、所定長さを耐電圧基準長といい、所定電圧を最小耐電圧値という。なおここでいう長さとは、養生シート1の長さL1および幅W1を含めた一般的な意味での長さをいう。
【0034】
帯部7の長手方向におけるボタンホール8の間隔は、耐電圧基準長より短い。
【0035】
図4は、養生シートの耐電圧試験を行うための試験装置を示す。試験用養生シートとして、長さL1=1m、幅W1=1mの正方形で乾燥状態の養生シート1Xが用いられる。この養生シート1Xが、上下に1m離間された一対の電極21,22に取り付けられる。養生シート1Xの長さL1および幅W1と、電極21,22間の距離とは耐電圧基準長に等しい。
【0036】
電極21,22は水平に延びる導電性ステンレスパイプにより形成される。上側の電極21に養生シート1Xの上端縁全体が接触状態で取り付けられ、下側の電極22に養生シート1Xの下端縁全体が接触状態で取り付けられる。
【0037】
上側の電極21に交流電圧が印加され、下側の電極22が接地される。上側電極21に印加される交流電圧の大きさが次第に上昇されると、ある電圧に達したとき養生シート1Xの絶縁が破壊され、上側電極21から下側電極22に電流が流れる。この絶縁破壊のことをフラッシュオーバーといい、絶縁破壊が起こる電圧をフラッシュオーバー電圧という。
【0038】
試験用養生シート1Xの場合、電圧を300kVに上昇してもフラッシュオーバーは起きなかった。従って試験用養生シート1Xのフラッシュオーバー電圧は300kVより高いということが言える。言い換えれば、試験用養生シート1Xは、最低でも300kVの耐電圧特性を有することとなる。
【0039】
この試験から、本実施形態の養生シート1が、乾燥状態で1m当たりに300kVの耐電圧特性を有することが分かるであろう。このような極めて高い耐電圧特性および絶縁性能を有することにより、充電設備でも安全に使用可能な養生シート1とすることができる。
【0040】
次に、本実施形態の養生シート1の使用方法を説明する。
【0041】
図1に示す例では、幅W1が1.8m、長さL1が10~数10mに亘る養生シート1を3枚横並び(幅W1方向)に連結して合計幅5.4mとした養生シート連結体13が用いられる。この養生シート連結体13における養生シート1の連結は、互いに横方向に隣接された帯部7同士を縫い合わせて行われる。
【0042】
図1の前後左右上下の各方向は図2と同様である。図示例では、鉄塔2の前面が、横並びに配置された2枚の養生シート連結体13によって覆われる。これら養生シート連結体13は、互いの間にできるだけ隙間ができないよう配置され、それらの上部は重ね合わされている。前述したように、養生シート連結体13の上端縁部と下端部が、それぞれ第1支持材3と第2支持材4に取り付けられて支持される。養生シート連結体13の下端縁部は地面Gに接近されるか着地される。
【0043】
図示しないが、鉄塔2の後面および左右の側面も養生シート連結体13によって同様に覆われる。これら養生シート連結体13の内側ないし裏側で鉄塔2の塗装作業が行われ、養生シート連結体13の外側ないし表側への塗料の飛散が防止される。
【0044】
なお、養生シート連結体13における養生シート1の連結数は3に限らず、2または4等の任意の数とすることができる。必要であれば、養生シート1を縦並び(長さL1方向)に連結してもよい。
【0045】
第1支持材3と第2支持材4は、絶縁性材料で作られたロッドで形成される。本実施形態の場合、第1支持材3と第2支持材4は、FRPで作られた断面円形の中空ロッドで形成される。
【0046】
なお、本実施形態では養生シート1で鉄塔2の下端部のみを覆う例を示すが、当然に、より上方の部分を覆うことも可能である。例えば鉄塔2はその上部に、水平方向に突出して線路を支持する複数のアームを有するが、これらアームを養生シート1で覆うことも可能である。
【0047】
養生シート1の第1支持材3および第2支持材4への取付方法を説明する。ここでは代表例として、図3に示したような養生シート1の上端縁部を第1支持材3に取り付けるときの取付方法を説明する。説明を省略するが、他の箇所の取付部における取付方法も同様である。
【0048】
図5において、(A)は正面図、(B)は(A)のVB-VB断面図である。図5に示すように、養生シート1の第1支持材3への取り付けには線条材14が用いられる。線条材14には、塑性変形可能な金属製のワイヤもしくは針金が用いられ、本実施形態では工事現場等で一般的に使用される番線が使用される。
【0049】
線条材14は、養生シート1の帯部7における第1層Y1と第3層Y3のボタンホール8に挿通されると共に、第2層Y2を貫通される。詳しくは、線条材14を帯部7に取り付けるとき、線条材14の一方の端部が例えば第1層Y1のボタンホール8に挿通された後、第2層Y2に刺し通される。このとき第2層Y2のメッシュ穴が線条材14の端部により強制的に押し開かれる。この後、線条材14の端部が第3層Y3のボタンホール8に挿通される。これにより線条材14が養生シート1の帯部7に取り付けられる。
【0050】
次いで、線条材14は、ボタンホール8より外側(図示例では上側)に位置する帯部7の部分に巻き付けられ、1ないし複数回ひねられた後、第1支持材3に巻き付けられる。そして線条材14の両端部が1ないし複数回ひねられて互いに固定され、すなわち結束され、養生シート1の取り付けが完了する。符号15は最初のひねり部を示し、符号16は最後のひねり部を示す。最初のひねり部15は省略してもよい。
【0051】
こうして養生シート1の上端縁部の帯部7が、複数のボタンホール8の位置で、線条材14により第1支持材3に取り付けられる。これにより養生シート1は、吊り下げられた状態で第1支持材3に支持される。
【0052】
第2支持材4に対しては、これに近いボタンホール8と線条材14を用いて、養生シート1の取り付けが行われる。
【0053】
線条材14同士の間隔は、特に制約がない場合、前記所定距離(1m)より大きくされる。これにより、仮に養生シート1が外れて活線線路に線条材14が触れても、養生シート1によって所定電圧(300kV)の耐電圧性能を確保でき、安全性を高められる。
【0054】
次に、複数の養生シート1を連結するときの連結方法、および、養生シート1を複数連結してなる養生シート連結構造について説明する。
【0055】
図6には、本実施形態の養生シート連結構造17を示す。養生シート連結構造17は、前記養生シート1からなる第1の養生シート1Aおよび第2の養生シート1Bと、これら第1の養生シート1Aおよび第2の養生シート1Bを連結する線条材14とを備える。
【0056】
第1および第2の養生シート1A,1Bは互いに横並びされている。第1の養生シート1Aは、第2の養生シート1Bに近接された近接端縁部18Aを有する。第2の養生シート1Bは、第1の養生シート1Aに近接された近接端縁部18Bを有する。
【0057】
線条材14による連結は、両近接端縁部18A,18Bにおいて最も近い高さ位置に位置するボタンホール8,8を用いて行われる。線条材14の一端部が、前記同様の方法で、第1の養生シート1Aの表裏のボタンホール8に挿通されると共にシート材5を貫通される。同様に、線条材14の他端部が、第2の養生シート1Bの表裏のボタンホール8に挿通されると共にシート材5を貫通される。本実施形態では挿通および貫通が裏側から表側に向かってなされているが、これは逆でもよい。
【0058】
次に、第1および第2の養生シート1A,1Bの表側に突出した線条材14の両端部が、1ないし複数回ひねられて結束され、連結が終了し、養生シート連結構造17が構成される。
【0059】
こうした連結が、必要数のボタンホール8の位置で行われる。連結箇所の間隔は、前記所定距離(1m)以上離れているのが好ましい。
【0060】
本実施形態の養生シート連結構造17は、図1に示したような、横並びされた2枚の養生シート連結体13の、互いに近接する2枚の養生シート1の近接端縁部同士を連結する場合に適用可能である。また、1枚の養生シート連結体13における2枚の養生シート1の近接端縁部同士を連結する場合にも適用可能である。当然に、縦並びされた2枚の養生シート1の近接端縁部同士を連結する場合にも適用可能である。
【0061】
本実施形態の養生シート連結構造17は、2枚の養生シート1の近接端縁部(すなわち帯部7)同士を重ね合わせて連結する場合にも適用可能である。この場合には、図7に示すように、第1および第2の養生シート1A,1Bの帯部7が重ね合わされ、両者のボタンホール8の位置が合わされる。そして、第1位置P1の両者のボタンホール8に線条材14の一端部が挿通され、第1位置P1から離れた(好ましくは隣の)第2位置P2の両者のボタンホール8に線条材14の他端部が挿通される。線条材14の両端部がひねられて結束され、養生シート連結構造17が完成される。
【0062】
次に、本実施形態の作用効果を述べる。
【0063】
上述したように、本実施形態によれば、耐電圧特性と絶縁性能を向上した養生シート1を提供できる。このため、仮に養生シート1の一部が強風等で鉄塔2から外れ、強風で煽られて活線線路に接触した場合でも、線路から養生シートに高圧電流が流れるのを防止できる。そのため、作業者の安全性を確保することができる。
【0064】
また、本実施形態の養生シート1には次の利点もある。一般的に、活線状態にある鉄塔の塗装作業を行うとき、1日の作業の開始時に養生シート1を設置し、1日の作業の終了時に養生シート1を撤去するという着脱作業が生じることがある。この着脱作業は、1日の実質的な塗装作業時間を減少させ、作業効率を低下させる。また、これにより工期全体が延びる可能性もある。
【0065】
一方、活線を停止すれば着脱作業を省略できる可能性はあるものの、実際に活線を停止するのは難しく、特に電力需要の多い夏場では尚更である。従って、活線を停止して作業効率を向上する手法は現実的ではない。
【0066】
一方、本実施形態の養生シート1によれば、優れた耐電圧特性と絶縁性能を有するので、活線状態にある鉄塔の塗装作業を行うときでも養生シート1の着脱作業を省略できる可能性がある。すなわち、一般的な家屋等の塗装工事のときと同様、工期の最初から最後まで、養生シート1を付けっぱなしにできる可能性がある。これにより、1日の実質的な塗装作業時間を延長し、作業効率を向上し、工期全体を短縮できる可能性がある。また、活線を停止する必要が無くなるので、任意のタイミングで塗装作業を行うことができ、電力需要等に拘わらず好きなときに塗装作業のタイミングを設定することができる。これにより作業タイミングのフレキシビリティが高まる。
【0067】
また、本実施形態によれば、帯部7が第1層Y1、第2層Y2および第3層Y3を有するので、養生シート1の端縁部に高強度の帯部7を設けることができる。よって帯部7を他の部材に取り付けて養生シート1の取り付けを行ったとき、帯部7が破れて破損するのを確実に抑制できる。
【0068】
また、本実施形態によれば、帯部7に上述の如きボタンホール8を設け、これに線条材14を挿通して取り付けを行うので、取付部の強度を向上できる。すなわち、取付後に長時間経過すると、シート材6(第2層Y2)において線条材14が貫通する貫通穴が広がり、これをきっかけにシート材6が破れていく可能性がある。しかし、本実施形態では線条材14が表裏のボタンホール8にも同時に挿通されている。そのためボタンホール8によって貫通穴の拡大を規制し、シート材6の破れを抑制できる。
【0069】
一般的なメッシュシートでは端縁部に複数の金属製ハトメリングが設けられている。これに対し本実施形態のボタンホール8は、帯部シート材9に設けた単なる切れ目であるため、金属ないし導電性材料を含まない。このことによっても養生シート1の絶縁性能を向上できる。
【0070】
また、本実施形態によれば、表裏のボタンホール8の間にシート材6(第2層Y2)が介在されているので、ボタンホール8を通過して塗料が外部に飛散するのを防止できる。
【0071】
本実施形態の養生シート連結構造17によっても、同様の作用効果を達成することができる。
【0072】
次に、変形例を説明する。なお前述の基本実施形態と同様の部分については説明を割愛し、以下、基本実施形態との相違点を主に説明する。
【0073】
(変形例1)
シート部6と帯部7の少なくとも一方は、難燃性素材を含んでもよい。具体的には、シート材5を構成する絶縁性繊維と、帯部シート材9を構成する絶縁性繊維との少なくとも一方は、難燃性素材を含んでもよい。こうした難燃性素材を含めると、養生シート1の安全性をより高めることができる。
【0074】
(変形例2)
難燃性素材の有無を識別するための目印を養生シート1に設けてもよい。例えば、難燃性素材の有無に応じてボタンホール8の色を変えたり、帯部7の着色線の有無を変えたりすることができる。これにより、難燃性素材の有無が一目で分かるようになるため、養生シート1の取り扱いが容易となる。
【0075】
(変形例3)
図8に示すように、シート部6は、互いに重ね合わされた2枚のシート材5により形成されてもよい。この場合、2枚のシート材5は第2層Y2を形成する。
【0076】
2枚のシート材5は、同一の長さL1および幅W1を有して完全に重ね合わされる。そして帯部シート材9の縫い合わせと同時に互いに縫い合わされる。
【0077】
このようにシート材5を2重にすると、シート部6をより頑丈にすることができる。
【0078】
(変形例4)
図9は、帯部7の数々の変形例を模式的に示す。比較容易のため、(A)に基本実施形態のもの(図3(B))を示す。
【0079】
(B)に示す変形例では、帯部7と同幅の2枚の帯部シート材9,9がシート材5を挟んでシート材5に縫い合わされている。このとき表側の帯部シート材9が第1層Y1、中間のシート材5が第2層Y2、裏側の帯部シート材9が第3層Y3を形成する。
【0080】
(C)に示す変形例では、シート材5の端縁部がS字状に2回折り返されて帯部7が形成される。帯部シート材9はシート材5と一体化されている。表側のシート材5が第1層Y1を形成し、中間と裏側のシート材5(これが帯部シート材9をなす)が第2層Y2と第3層Y3を形成する。ボタンホール8は、表側のシート材5と裏側のシート材5に設けられる。
【0081】
(D)に示す変形例では、帯部シート材9が半分に折り返された状態でシート材5の裏側に縫い付けられる。表側のシート材5が第1層Y1を形成し、中間と裏側の帯部シート材9が第2層Y2と第3層Y3を形成する。ボタンホール8は、表側のシート材5と裏側の帯部シート材9に設けられる。
【0082】
(変形例5)
図10は、シート材5を2枚重ねしたシート部6と、図9(B)~(D)に示した変形例との組み合わせを示す。比較容易のため、図10(A)に基本実施形態のもの(図8)を示す。
【0083】
図10(B)に示す変形例は、図9(B)に示した変形例との組み合わせである。中間の2枚のシート材5が第2層Y2を形成する。
【0084】
図10(C)に示す変形例は、図9(C)に示した変形例との組み合わせである。図9(C)に示した変形例の表側のシート材5(Y1)の表側にもう1枚のシート材5が追加される。追加された最も表側のシート材5が第1層Y1を形成する。中間の2枚のシート材5(シート材5と帯部シート材9)が第2層Y2を形成する。裏側のシート材5(帯部シート材9)が第3層Y3を形成する。ボタンホール8は、追加のシート材5と裏側のシート材5に設けられる。
【0085】
図10(D)に示す変形例は、図9(D)に示した変形例との組み合わせである。図9(D)に示した変形例の表側のシート材5(Y1)の表側にもう1枚のシート材5が追加される。追加された最も表側のシート材5が第1層Y1を形成する。中間の2枚のシート材、すなわちシート材5と帯部シート材9が第2層Y2を形成する。裏側の帯部シート材9が第3層Y3を形成する。ボタンホール8は、追加のシート材5と裏側の帯部シート材9に設けられる。
【0086】
以上の他にも、帯部7の構造については様々な変形例が可能である。
【0087】
(変形例6)
図11は、養生シート1における帯部7の配置に関する変形例を示す。(A)に基本実施形態のもの(図2)を示す。
【0088】
(B)に示す変形例では、帯部7が、シート部6の端縁部の長手方向に分割され、その長手方向に沿って間隔を隔てて複数設けられている。複数の帯部7は、シート部6の上下左右の四つの端縁部に沿って間欠的に設けられ、すなわちシート部6の全周に沿って間欠的に設けられている。そして各帯部7に表裏のボタンホール8が設けられている。
【0089】
強度が実質的に必要なのは主にボタンホール8の位置なので、このように帯部7をボタンホール8の位置に限定しても、必要十分な養生シート1の強度を得られる可能性がある。そして本変形例の構造によれば、帯部シート材9の材料費を削減できる。
【0090】
本変形例では表裏のボタンホール8の一組ごとに一つの帯部7を設けているが、表裏のボタンホール8の複数組ごとに一つの帯部7を設けてもよい。
【0091】
(変形例7)
充電設備は、必ずしも鉄塔でなくてもよく、例えば送電、受電または変電設備であってもよい。また作業は、必ずしも塗装作業でなくてもよく、例えば修理、整備、点検または建設作業であってもよい。
【0092】
(変形例8)
所定長さ(耐電圧基準長)と所定電圧(最小耐電圧値)は、1mと300kVに限らず、上記の目的および機能等を達成し得る範囲内で任意の値に設定することができる。
【0093】
(変形例9)
シート材5と帯部シート材9の一方のみが、合成樹脂繊維により形成されたラッセル構造を有してもよく、他方は他の構造とされてもよい。
【0094】
(変形例10)
シート部6と帯部7の一方のみが、難燃性素材を含んでもよい。
【0095】
他にも、変形例については様々なものが考えられる。
【0096】
前述の実施形態および変形例の構成は、特に矛盾が無い限り、部分的にまたは全体的に組み合わせることが可能である。本開示の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 養生シート
1A 第1の養生シート
1B 第2の養生シート
2 鉄塔
5 シート材
6 シート部
7 帯部
8 ボタンホール
9 帯部シート材
14 線条材
17 養生シート連結構造
18A,18B 近接端縁部
Y1 第1層
Y2 第2層
Y3 第3層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11