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特開2023-18938長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置および長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法
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  • 特開-長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置および長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018938
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置および長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/06 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
C08J5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123335
(22)【出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 翼
(72)【発明者】
【氏名】渕上 智規
(72)【発明者】
【氏名】藤田 大祐
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB22
4F072AC01
4F072AD04
4F072AD44
4F072AG06
4F072AH04
4F072AH21
4F072AH46
(57)【要約】
【課題】繊維束に含まれる収束剤を十分に除去し、かつ繊維束と熱可塑性樹脂の密着度を向上させることができる長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置および長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法を提供することである。
【解決手段】繊維束を加熱しながら開繊する開繊バーと、前記開繊バーによって開繊された前記繊維束を過熱水蒸気によって加熱する過熱水蒸気処理を行う過熱水蒸気処理機と、前記過熱水蒸気処理機によって前記過熱水蒸気処理された前記繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させる含浸ダイとを備え、前記過熱水蒸気処理機は、前記過熱水蒸気処理によって前記繊維束を270℃以上500℃以下に加熱する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束を加熱しながら開繊する開繊バーと、
前記開繊バーによって開繊された前記繊維束を過熱水蒸気によって加熱する過熱水蒸気処理を行う過熱水蒸気処理機と、
前記過熱水蒸気処理機によって前記過熱水蒸気処理された前記繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させる含浸ダイと
を備え、
前記過熱水蒸気処理機は、前記過熱水蒸気処理によって前記繊維束を270℃以上500℃以下に加熱することを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置。
【請求項2】
前記過熱水蒸気処理機と前記含浸ダイとの間の距離は、1mm以上1000mm以下であることを特徴とする請求項1記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置。
【請求項3】
前記過熱水蒸気の噴出圧力は、0.1kPa以上0.6kPa以下であり、
前記過熱水蒸気の噴出速度は、5m/秒以上100m/秒以下であることを特徴とする請求項1または2記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置。
【請求項4】
前記過熱水蒸気処理機は、前記過熱水蒸気を噴出し、かつ前記繊維束と接触しない噴出口を備え、
前記噴出口から前記繊維束までの距離は5mm以上30mm以下であることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置。
【請求項5】
前記繊維束の進行速度は5m/分以上150m/分以下であることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置。
【請求項6】
前記繊維束は、炭素繊維束またはガラス繊維束であることを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置。
【請求項7】
繊維束を加熱しながら開繊する開繊工程、
前記開繊工程において開繊された前記繊維束を過熱水蒸気によって加熱する過熱水蒸気処理を行う過熱水蒸気処理工程、
前記過熱水蒸気処理された前記繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させる含浸工程
を含み、
前記繊維束は、前記過熱水蒸気処理によって270℃以上500℃以下に加熱されることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法。
【請求項8】
前記過熱水蒸気処理を行う過熱水蒸気処理機と前記熱可塑性樹脂を含浸させる含浸ダイとの間の距離は、1mm以上1000mm以下であることを特徴とする請求項7記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法。
【請求項9】
前記過熱水蒸気の噴出圧力は、0.1kPa以上0.6kPa以下であり、
前記過熱水蒸気の噴出速度は、5m/秒以上100m/秒以下であることを特徴とする請求項7または8記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法。
【請求項10】
前記過熱水蒸気処理機は、前記過熱水蒸気を噴出し、かつ前記繊維束と接触しない噴出口を備え、
前記噴出口から前記繊維束までの距離は5mm以上30mm以下であることを特徴とする請求項8または9記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法。
【請求項11】
前記繊維束の進行速度は5m/分以上150m/分以下であることを特徴とする請求項7~10の何れか一項に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法。
【請求項12】
前記繊維束は、炭素繊維束またはガラス繊維束であることを特徴とする請求項7~11の何れか一項に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束を開繊する際に過熱水蒸気による処理を施す長繊維強化樹脂製造装置および長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維で強化された樹脂として、長繊維強化熱可塑性樹脂が知られている。この長繊維強化熱可塑性樹脂は、繊維と熱可塑性樹脂から成る複合材料であり、熱可塑性樹脂の特性と繊維の強度や耐熱性が複合化され、さまざまな構造部材、耐熱部材に使用されている。
【0003】
従来より、かかる長繊維強化熱可塑性樹脂を製造する際には、繊維束を溶融された熱可塑性樹脂に含浸させて連続繊維強化ストランドを作成することが行われている(例えば、特許文献1参照)。ここで、連続繊維強化ストランドに熱可塑性樹脂を十分に含浸させるために、繊維束は開繊バーによって予め開繊されてから熱可塑性樹脂に含浸される(開繊工程)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-246782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の特許文献1に示された発明などでは、開繊工程において、通常、開繊バーの温度を100~150℃程度に上昇させることにより繊維束に含まれる収束剤(繊維を束ねるために塗布された処理剤)を加熱除去することが行われているが、上記温度では過熱が不十分で収束剤を十分に除去しきれないという課題があった。
【0006】
一方、開繊バーを加熱し過ぎると収束剤は十分に除去できるものの、繊維束と熱可塑性樹脂が剥離し、繊維破断が生じるおそれがあった。繊維破断が生じた場合、切断された繊維が毛羽になり、含浸ダイに毛羽が進入し、含浸ダイの排出口で毛羽詰まりが惹起され、連続繊維強化ストランドの破断に繋がる可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、繊維束に含まれる収束剤を十分に除去し、かつ繊維束と熱可塑性樹脂の密着度を向上させることができる長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置および長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置は、
繊維束を加熱しながら開繊する開繊バーと、
前記開繊バーによって開繊された前記繊維束を過熱水蒸気によって加熱する過熱水蒸気処理を行う過熱水蒸気処理機と、
前記過熱水蒸気処理機によって前記過熱水蒸気処理された前記繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させる含浸ダイと
を備え、
前記過熱水蒸気処理機は、前記過熱水蒸気処理によって前記繊維束を270℃以上500℃以下に加熱することを特徴とする。
【0009】
このように、開繊後過熱水蒸気を用いて繊維束の温度を上昇させておくことにより、過熱水蒸気処理工程において、繊維束に含まれる収束剤を十分に除去すると共に、含浸工程において、繊維束と熱可塑性樹脂の密着度を向上させることができる。このため、複合材として高品質の長繊維強化熱可塑性樹脂を得ることができる。
【0010】
また、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置は、
前記過熱水蒸気処理機と前記含浸ダイとの間の距離は、1mm以上1000mm以下であることを特徴とする。
【0011】
このように、過熱水蒸気処理機と含浸ダイとの間に適切な距離を設けることにより、過熱水蒸気処理によって加熱された繊維束は、適宜放冷される。このため、繊維束を含浸ダイにおける熱可塑性樹脂の温度付近で含浸ダイに進入させることができ、含浸ダイに進入する前の繊維束と含浸ダイに進入した後の繊維束の温度差を従来よりも低減することができるため、より的確に含浸ダイにおける繊維束への熱可塑性樹脂の含浸性を向上させることができる。
【0012】
また、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置は、
前記過熱水蒸気の噴出圧力は、0.1kPa以上0.6kPa以下であり、
前記過熱水蒸気の噴出速度は、5m/秒以上100m/秒以下であることを特徴とする。
【0013】
すなわち、過熱水蒸気の噴出圧力、噴出速度をかかる値に設定することにより、的確に繊維束に含まれる収束剤を十分に除去すると共に、繊維束と熱可塑性樹脂の密着度を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置は、
前記過熱水蒸気処理機は、前記過熱水蒸気を噴出し、かつ前記繊維束と接触しない噴出口を備え、
前記噴出口から前記繊維束までの距離は5mm以上30mm以下であることを特徴とする。
このように、噴出口を繊維束と接触しない位置に配置することにより、繊維束の擦過による毛羽立ち等のダメージ発生をより確実に防止することができる。
【0015】
また、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置は、
前記繊維束の進行速度は5m/分以上150m/分以下であることを特徴とする。
このように、高速で運転する場合にも連続的に斑なく瞬時に加熱でき、本発明の効果を発揮することが可能である。
【0016】
また、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置は、
前記繊維束は、炭素繊維束またはガラス繊維束であることを特徴とする。
すなわち、繊維束としては、炭素繊維束またはガラス繊維束を用いるのが好適である。
【0017】
本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法は、
繊維束を加熱しながら開繊する開繊工程、
前記開繊工程において開繊された前記繊維束を過熱水蒸気によって加熱する過熱水蒸気処理を行う過熱水蒸気処理工程、
前記過熱水蒸気処理された前記繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させる含浸工程
を含み、
前記繊維束は、前記過熱水蒸気処理によって270℃以上500℃以下に加熱されることを特徴とする。
【0018】
このように、開繊後過熱水蒸気を用いて繊維束の温度を上昇させておくことにより、過熱水蒸気処理工程において、繊維束に含まれる収束剤を十分に除去すると共に、含浸工程において、繊維束と熱可塑性樹脂の密着度を向上させることができる。このため、複合材として高品質の長繊維強化熱可塑性樹脂を得ることができる。
【0019】
また、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法は、
前記過熱水蒸気処理を行う過熱水蒸気処理機と前記熱可塑性樹脂を含浸させる含浸ダイとの間の距離は、1mm以上1000mm以下であることを特徴とする。
【0020】
このように、過熱水蒸気処理機と含浸ダイとの間に適切な距離を設けることにより、過熱水蒸気処理によって加熱された繊維束は、適宜放冷される。このため、繊維束を含浸ダイにおける熱可塑性樹脂の温度付近で含浸ダイに進入させることができ、含浸ダイに進入する前の繊維束と含浸ダイに進入した後の繊維束の温度差を従来よりも低減することができるため、含浸ダイにおける繊維束への熱可塑性樹脂の含浸性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法は、
前記過熱水蒸気の噴出圧力は、0.1kPa以上0.6kPa以下であり、
前記過熱水蒸気の噴出速度は、5m/秒以上100m/秒以下であることを特徴とする。
すなわち、過熱水蒸気の噴出圧力、噴出速度をかかる値に設定することにより、的確に繊維束に含まれる収束剤を十分に除去すると共に、繊維束と熱可塑性樹脂の密着度を向上させることができる。
【0022】
また、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法は、
前記過熱水蒸気処理機は、前記過熱水蒸気を噴出し、かつ前記繊維束と接触しない噴出口を備え、
前記噴出口から前記繊維束までの距離は5mm以上30mm以下であることを特徴とする。
このように、噴出口を繊維束と接触しない位置に配置することにより、繊維束の擦過による毛羽立ち等のダメージ発生をより確実に防止することができる。
【0023】
また、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法は、
前記繊維束の進行速度は5m/分以上150m/分以下であることを特徴とする。
このように、高速で運転する場合にも連続的に斑なく瞬時に加熱でき、本発明の効果を発揮することが可能である。
【0024】
また、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法は、
前記繊維束は、炭素繊維束またはガラス繊維束であることを特徴とする。
すなわち、繊維束としては、炭素繊維束またはガラス繊維束を用いるのが好適である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、繊維束に含まれる収束剤を十分に除去し、かつ繊維束と熱可塑性樹脂の密着度を向上させる長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置および長繊維強化熱可塑性樹脂製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施の形態に係る長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置の概略図である。
図2】実施の形態に係る繊維束の表面の状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、実施の形態に係る長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置である。図1に示すように、長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置2は、繰出機4、開繊バー6、過熱水蒸気処理機7、押出機8、含浸ダイ10、賦形ダイ12、水槽14、フォーミングロール16、引取機18、カッター部20を備えている。
【0028】
ここで、繰出機4には、繊維束32が巻回された複数の炭素繊維ロービング4aが収納されている。また、繰出機4は、炭素繊維ロービング4aから繊維束32を繰り出すための繰出ロール4bを備えている。なお、繊維束32には、たとえば、炭素繊維束の他に、ガラス繊維束などが用いられる。
【0029】
開繊バー6は、繰出ロール4bから繰り出された繊維束32を開繊する開繊工程を実行するためのロールバーであり、上下に配置された複数の開繊ロール42から成る。なお、開繊バー6の近傍には、開繊バー6を100℃以上150℃以下に加熱する図示しない加熱装置が配置されている。
【0030】
過熱水蒸気処理機7は、開繊バー6によって開繊された繊維束32に対して高温の水蒸気である過熱水蒸気を噴霧する装置である。これにより、繊維束32を高い熱伝導率かつ高速で昇温することが可能となる。
【0031】
また、過熱水蒸気処理機7内には、過熱水蒸気を噴出する図示しない噴出口が設けられている。噴出口は、繊維束32と接触しない位置に配置されており、噴出口から繊維束32までの距離は、5mm以上30mm以下であることが好ましい。このように、噴出口と繊維束32とを非接触とすることで、繊維束32の擦過による毛羽立ち等のダメージ発生を防止することができる。
【0032】
過熱水蒸気の噴出圧力は0.1kPa以上0.6kPa以下であることが好ましく、過熱水蒸気の噴出速度は5m/秒以上100m/秒以下であることが好ましい。過熱水蒸気の温度は最大で500℃にすることができるが、繊維束32の温度は、過熱水蒸気の噴出流量やノズル数によって調整することが可能である。
【0033】
なお、繊維束32の進行速度は5m/分以上150m/分以下が好ましく、特に10m/分以上100m/分であることが好ましい。本発明は、このように高速で運転する場合において特に有用であり、連続的に斑なく瞬時に加熱することが可能である。
【0034】
押出機8は、溶融した熱可塑性樹脂を含浸ダイ10に供給する装置であり、含浸ダイ10は、開繊された繊維束32に溶融した熱可塑性樹脂を含浸する含浸工程を実行する装置である。かかる含浸工程において連続繊維強化ストランド34が作成される。なお、熱可塑性樹脂には、たとえば、ポリプロピレン、ポリアミドなどが用いられる。また、過熱水蒸気処理機7における繊維束32の排出口(不図示)と含浸ダイ10における繊維束32の進入口(不図示)との間の距離は、1mm以上1000mm以下である。
【0035】
賦形ダイ12は、連続繊維強化ストランド34の径を絞るための装置であり、含浸ダイ10の連続繊維強化ストランド34が排出される側に取り付けられている。ここで、賦形ダイ12は、含浸ダイ10から離れた位置に配置すると熱可塑性樹脂が冷却されて固化し連続繊維強化ストランド34の賦形がしづらくなるため、少なくとも含浸ダイ10のごく近傍に配置される必要がある。
【0036】
水槽14は、賦形ダイ12で径が絞られた連続繊維強化ストランド34を水などの液体に浸し、冷却を行うための装置である。
フォーミングロール16は、水槽14で冷却された連続繊維強化ストランド34の外径形状を成形するためのロールバーである。
【0037】
引取機18は、連続繊維強化ストランド34を引き取る引取工程を実行するためのロールである。
カッター部20は、引取機18で引き取った連続繊維強化ストランド34を所定の長さにカッティングするための装置である。このカッター部20で連続繊維強化ストランド34をカットすることにより、長繊維強化熱可塑性樹脂38が製造される。なお、製造される長繊維強化熱可塑性樹脂38は、ペレット形状のものでもよくテープ状のものであってもよい。
【0038】
次に、本発明の特徴部分を構成する過熱水蒸気処理機7の前後における処理について説明する。まず、長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置2が稼働すると、図示しない加熱装置によって開繊バー6が100℃以上150℃以下に加熱される。
【0039】
次に、繊維束32が繰出ロール4bから繰り出され、開繊バー6に差し掛かると、繊維束32は、開繊バー6において加熱されながら開繊され、徐々に幅を広げながら過熱水蒸気処理機7に向かって進行する(開繊工程)。
このように、開繊バー6において加熱されながら開繊されることにより、繊維束32に含まれる収束剤が加熱除去される。
【0040】
次に、繊維束32は、過熱水蒸気処理機7において、過熱水蒸気によって270℃以上500℃以下に加熱されながら過熱水蒸気処理される(過熱水蒸気処理工程)。
【0041】
ここで、過熱水蒸気処理機7における繊維束32の排出口と含浸ダイ10における繊維束32の進入口との間の距離は、1mm以上1000mm以下であるため、加熱された繊維束32は、かかる距離間において、その後適宜放冷され、250℃以上350℃以下の温度で含浸ダイ10に進入する。この温度は含浸ダイ10において繊維束32に含浸される熱可塑性樹脂の温度(熱可塑性樹脂がポリプロピレンの場合280℃程度)と同等の温度である。なお、熱可塑性樹脂がポリプロピレンでない場合、繊維束32の温度は、熱可塑性樹脂の種類に応じて過熱水蒸気の噴出流量やノズル数を変更することによって適宜調整することができる。
【0042】
次に、過熱水蒸気処理機7において過熱水蒸気処理された繊維束32は、含浸ダイ10において含浸処理される(含浸工程)。具体的には、開繊された状態の繊維束32に溶融した熱可塑性樹脂が含浸される。
【0043】
この実施の形態に係る発明によれば、過熱水蒸気を用いて、繊維束32の温度を上昇させることにより、過熱水蒸気処理工程において、繊維束32に含まれる収束剤を十分に除去すると共に、含浸工程において、繊維束32と熱可塑性樹脂の密着度を向上させることができる。このため、複合材として高品質の長繊維強化熱可塑性樹脂38を得ることができる。
【0044】
また、過熱水蒸気処理機7と含浸ダイ10との間に適切な距離を設けることにより、過熱水蒸気処理によって加熱された繊維束32は、適宜放冷される。このため、繊維束32を含浸ダイ10における熱可塑性樹脂の温度付近で含浸ダイに進入させることができ、含浸ダイに進入する前の繊維束と含浸ダイに進入した後の繊維束の温度差を従来よりも低減することができるため、より的確に含浸ダイにおける繊維束への熱可塑性樹脂の含浸性を向上させることができる。
【0045】
また、噴出口が繊維束32と接触しない位置に配置されているため、繊維束32の擦過による毛羽立ち等のダメージ発生をより確実に防止することができる。
【0046】
また、繊維束32が炭素繊維束である場合、過熱水蒸気処理を行うことにより、図2(a)に示すように、炭素繊維(CF)の表面に官能基が増加して表面改質がなされる。
具体的には、熱可塑性樹脂がナイロン系樹脂の場合、図2(b)に示すように、炭素繊維(CF)の表面に形成された官能基が、水素結合によってナイロン系樹脂と反応し易くなる。
【0047】
また、熱可塑性樹脂が無水マレイン酸グラフトポリプロピレン(MAH-PP)の場合も同様に、図2(c)に示すように、炭素繊維(CF)の表面に形成された官能基が、水素結合によって無水マレイン酸グラフトポリプロピレンと反応し易くなる。
【0048】
このように、過熱水蒸気処理を行うことにより、繊維束32の樹脂界面接着性が向上し、さらなる複合材として長繊維強化熱可塑性樹脂38の高品質化を図ることができる。
【符号の説明】
【0049】
2 長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置
4 繰出機
4a 炭素繊維ロービング
4b 繰出ロール
6 開繊バー
7 過熱水蒸気処理機
8 押出機
10 含浸ダイ
12 賦形ダイ
14 水槽
16 フォーミングロール
18 引取機
20 カッター部
32 繊維束
34 連続繊維強化ストランド
38 長繊維強化熱可塑性樹脂
42 開繊ロール
図1
図2