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特開2023-19017精油抽出用木材加工物および精油抽出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019017
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】精油抽出用木材加工物および精油抽出方法
(51)【国際特許分類】
   B27M 1/00 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
B27M1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123459
(22)【出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】517391303
【氏名又は名称】高原木材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】石松 真吾
【テーマコード(参考)】
2B250
【Fターム(参考)】
2B250AA40
2B250BA09
2B250FA03
2B250GA01
(57)【要約】

【課題】 木材からの精油の収率を向上させることが可能な精油抽出用木材加工物およびこれを用いた精油抽出方法を提案すること。
【解決手段】 精油抽出用木材加工物Mは、木材から切削した所定の厚みと幅員を有する薄膜状木片を、複数回転の転巻状としたものである。所定量の精油抽出用木材加工物Mを装置20の蒸留釜21に収容してボイラ22から水蒸気を導入して加熱し、精油抽出用木材加工物Mを水蒸気に曝して蒸すことにより、精油成分を含む水蒸気を得る。精油成分を含む水蒸気を冷却器24により冷却することで凝縮液を得る。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材を切削して得た薄膜状木片が転回した転巻状構造を有することを特徴とする精油抽出用木材加工物。
【請求項2】
木材を切削して得た薄膜状木片の形状が糸状であることを特徴とする精油抽出用加工物。
【請求項3】
請求項1に記載の精油抽出用木材加工物において、
前記薄膜状木片の転回数は、少なくとも2転回である精油抽出用木材加工物。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の精油抽出用木材加工物において、
前記木材は、ヒノキ、ケヤキ、スギ、マツ、または、クスノキのいずれかである精油抽出用木材加工物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の精油抽出用木材加工物から精油を抽出する精油抽出方法。
【請求項6】
請求項5に記載の精油抽出方法において、
前記精油抽出用木材加工物を収容した容器に水蒸気を充満させて該精油抽出用木材加工物を熱処理する水蒸気加熱処理工程と、
前記水蒸気加熱処理工程により得た前記精油抽出用木材加工物から気化した精油成分を含む水蒸気を回収して冷却する冷却工程と、
前記冷却工程で得た凝縮液を水分と精油とに分離する分離工程と、
を含むことを特徴とする精油抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精油抽出用木材加工物およびこれを用いた精油抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物から抽出される精油は、植物由来の成分に応じて、香料、防虫剤、塗料等の用途に利用されている。その精油の原料としては、例えば、植物の枝葉、花、材(木部)等の部位が用いられている。
【0003】
植物から精油を抽出する方法としては、水蒸気蒸留法が知られている。水蒸気蒸留法によって精油を抽出する装置では、蒸留釜に原料を収容して蒸煮し、蒸留釜から配管を介して導出した蒸気を冷却し、精油を水分から分離することにより精油を得ている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60―132495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように、装置の蒸留釜に投入される原料は、精油の抽出効率の観点から、植物の所定部位が細断されたものである。樹木の木部から精油を抽出する場合には、樹皮が取り除かれた木材を破砕してチップ状、あるいは、おが屑のような粉体状としたものが原料とされている。
【0006】
一方で、木材を細かく破砕しすぎると、破砕時の熱の影響により揮発成分が木材から抜けるため、原料における精油含有量が低下する。また、チップ状、粉体状の原料は蒸留釜の中で互いに面で密着しやすく、原料間の密着面には蒸煮時の水蒸気を十分に接触させることができない。そうすると、精油の収率(原料から精油が取れる割合)が低下するという問題が生じる。
【0007】
本発明は、木材からの精油の収率を向上させることが可能な精油抽出用木材加工物およびこれを用いた精油抽出方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る精油抽出用木材加工物は、(1)木材を切削して得た薄膜状木片が転回した転巻状構造を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の他の態様に係る精油抽出用木材加工物は、(2)木材を切削して得た薄膜状木片の形状が糸状であることを特徴とする。
【0010】
本発明に他の態様に係る精油抽出用木材加工物は、前記(1)の精油抽出用木材加工物において、(3)前記薄膜状木片の転回数は、少なくとも2転回であることが好ましい。
【0011】
本発明の他の態様に係る精油抽出用木材加工物は、前記(1)または(2)の精油抽出用木材加工物において、(4)前記木材は、ヒノキ、ケヤキ、スギ、マツ、または、クスノキのいずれかであることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る精油抽出方法は、(5)木材を切削して得た薄膜状木片から成る前記(1)~(4)の何れかの精油抽出用木材加工物から精油を抽出することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る精油抽出方法に用いる精油抽出用木材加工物は、木材を切削して得た薄膜状木片であり、その形状は、糸状もしくは転巻状である。薄膜状木片の形状が転巻状の場合は、2転回以上させていることが好ましい。また、精油抽出用木材加工物は、ヒノキ、ケヤキ、スギ、マツ、または、クスノキのいずれかの木材を切削したものであることが好ましい。
【0014】
上記本発明に係る精油抽出方法において、
(6)前記精油抽出用木材加工物を収容した容器に水蒸気を供給して該精油抽出用木材加工物を熱処理する水蒸気加熱処理工程と、
前記水蒸気加熱処理工程により得た前記精油抽出用木材加工物から気化した精油成分を含む水蒸気を回収し冷却する冷却工程と、
前記冷却工程により得た凝縮液を水分と精油とに分離する分離工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る精油抽出用木材加工物によれば、該精油抽出用木材加工物の形状が木材を切削して得た薄膜状木片を転回させた転巻状構造を有することから、精油抽出用木材加工物の外側が曲面となり、精油抽出装置の容器に収容したときに、精油抽出用木材加工物が互いに面で密着することが防止される。さらに、精油抽出用木材加工物単体では、転巻状を形成した薄膜状木片間には間隙が存在する状態となっている。したがって、精油抽出用木材加工物を形成する薄膜状木片の全ての面が、精油を抽出するための水蒸気および/または溶液に曝されることになる。このように、本発明に係る精油抽出用木材加工物では、従来のチップ状や粉体状の原料よりも、水蒸気および/または溶液に曝される面積が広くなることから、精油の抽出効率を向上させることが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る精油抽出用木材加工物によれば、木材を切削して得た薄膜状木片の形状が糸状であることから、複数の薄膜状木片が互いに絡まった三次元交絡構造を形成する。これにより、木片間の空隙が従来のチップ状や粉体状の原料よりも大きくなり、水蒸気および/または溶液に曝される面積を広くすることができる。このため、本発明に係る精油抽出用木材加工物では、従来のチップ状や粉体状の原料よりも、水蒸気および/または溶液に曝される面積が広くなることから、精油の抽出効率を向上させることが可能となる。このため、本発明に係る精油抽出用木材加工物では、従来のチップ状や粉体状の原料よりも、水蒸気および/または溶液に曝される面積が広くなることから、精油の抽出効率を向上させることが可能となる。
【0017】
本発明に係る精油抽出用木材加工物によれば、薄膜状木片の転回数を、少なくとも2転回としたことから、精油抽出用木材加工物の内側に他の精油抽出用木材加工物の薄膜状木片の端部が入り込むことを防止することができる。これにより、薄膜状木片の面による接触が防止され、従来のチップ状や粉体状の原料よりも、水蒸気および/または溶液に曝される面積を広くすることができる。
【0018】
本発明に係る精油抽出用木材加工物では、精油抽出用木材加工物に加工する木材は、ヒノキ、ケヤキ、スギ、マツ、または、クスノキのいずれかとしている。これらの木材は、家具の製造によく用いられており、家具の製造所から端材が廃棄物として排出されている。このような端材を精油抽出用木材加工物に加工することで、廃棄物を低減できるとともに、原材料費を抑えることで精油のコストを低減することが可能である。また、ヒノキやスギは、我が国の人工林において大きな割合を占めており、木材として利用に適した時期の伐採と伐採後の再造林等の森林管理を持続的に行う必要がある。この発明に係る精油抽出用木材加工物に加工し、精油の原料とすることで、人工林での適切な伐採と木材利用の推進に寄与することができる。
【0019】
本発明に係る精油抽出方法では、上述した特徴を有する精油抽出用木材加工物から精油を抽出する。精油抽出用木材加工物の形状を転巻状とした場合、転巻内部に空間が形成され、それ単体で適度な弾力性を有する。このため、この精油抽出用木材加工物を積層して容器に収容したときに、容器の底側となる精油抽出用木材加工物が押しつぶされることがなく、各精油抽出用木材加工物の間にも空間が形成される。また、精油抽出用木材加工物の形状を糸状とした場合も、複数の精油抽出用木材加工物が互いに絡まった三次元交絡構造により各精油抽出用木材加工物の間に空間が形成される。したがって、精油抽出用木材加工物を形成する薄膜状木片において、精油を抽出するための水蒸気および/または溶液を接触させる接触面を可及的に広範囲にとることができる。このように、容器に収容された精油抽出用木材加工物を形成する薄膜状木片の略全面に精油を抽出するための水蒸気および/または溶液を作用させることが可能であることから、従来のチップ状や粉体状の原料を用いた場合よりも、精油の抽出効率を向上させることができる。さらに、精油抽出用木材加工物は薄膜状木片であることから、従来のチップ状の原料よりも水蒸気および/または溶液を速やかに浸透・透過させることができることから、抽出時間を短縮することが可能となる。
【0020】
本発明に係る精油抽出方法によれば、容器に収容した精油抽出用木材加工物を水蒸気により加熱し、精油成分を含む水蒸気を冷却した凝縮を得る水蒸気蒸留によって精油を抽出することから、精油に固形の不純物が混入することがない。また、水蒸気蒸留は、目的とする物質をその物質の沸点よりも低い温度で水とともに留出させることができるため、性質のよい精油を抽出することが可能となる。精油抽出用木材加工物を水に浸漬して圧搾することがないため、精油抽出用木材加工物の転巻形状が精油抽出の前後で維持される。このため、精油抽出後の精油抽出用木材加工物を、緩衝材、調湿材、芳香剤等の精油抽出用木材加工物の形状と性質を生かした二次利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る精油抽出用木材加工物の形状を説明する図である。
図2】本発明の実施形態に係る精油抽出用木材加工物の作製手順を説明する模式図である。
図3】本発明の実施形態に係る精油抽出用木材加工物を説明する模式図である。
図4】本発明の実施形態に係る精油抽出用木材加工物を説明する模式図である
図5】精油抽出方法を説明するフローチャートである。
図6】水蒸気蒸留法により精油を抽出する蒸留装置を説明する模式図である。
図7】本発明の変形例に係る精油抽出用木材加工物を説明する模式図である。
図8】本発明の変形例に係る精油抽出用木材加工物を説明する模式図である。
図9】本発明の変形例に係る精油抽出用木材加工物を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0023】
[1.精油抽出用木材加工物の形状]
本発明の実施形態に係る精油抽出用木材加工物の形状について、図1を参照しながら説明する。図1において、この精油抽出用木材加工物Mの斜視図を(a)、同正面図を(b)、同平面図を(c)、同側面図を(d)、(a)におけるA-A断面図を(e)にそれぞれ示す。
【0024】
この精油抽出用木材加工物Mは、伐採した樹木から樹皮を取り除き角材または板材として木材3(図2参照)から切削した所定の厚みと幅員を有する薄膜状木片であり、図1に示すような、複数回転の転巻状構造を有するものである。
【0025】
より具体的には、幅員0.5mm~150mm、長さ1mm~400mm、厚さ0.05mm~1mmの薄膜状の木片を2回転以上に巻いた転巻形状としている。
【0026】
また、薄膜状木片を転巻状態にした転巻形状における巻き直径は、0.5mm~100mmとしている。
【0027】
[2.精油抽出用木材加工物の作製方法]
上記構成の精油抽出用木材加工物Mの作製方法について説明する。図2は、本発明の実施形態に係る精油抽出用木材加工物Mの作製手順を説明する模式図である。
【0028】
精油抽出用木材加工物Mは、図2に示すように、木材3を、刃先がジグザグ形状のすき刃1と刃先が直線形状のすくい刃(カンナ刃)2の2種類の異なる刃を用いて切削することにより形成される。
【0029】
手順としては、図2(a)に示すように、まず、直方体の木材3の表面を、すき刃1により所定の深さに切削する。すなわち、木材3に対してすき刃1が木材3の木目と平行な方向(樹木の細胞組織における道管および仮道管の走行方向に沿う方向)に相対的に移動することで、木材3の表面がすき刃1によって切削される。これにより、木材3の表面に所定の間隔で離間した複数の溝1aが形成される。
【0030】
次に、図2(b)に示すように、溝1aが形成された木材3の表面から、すくい刃2により所定の厚みの薄膜状木片を削り出す。すなわち、木材3に対してすくい刃2が、すき刃1の移動方向と同方向に相対的に移動することで、溝1a以外の平坦面2aのみが切削される。このようにして削り出された所定の幅員を有する短冊状の薄膜状木片は、転巻した形状をとり、精油抽出用木材加工物Mとなる。
【0031】
なお、すき刃1およびすくい刃2により木材3を切削するときには、木材3を固定してすき刃1およびすくい刃2を移動させてもよく、すき刃1およびすくい刃2を固定して木材3を移動させてもよい。
【0032】
上述の手順により木材3を加工した精油抽出用木材加工物Mの幅員は、すき刃1の刃先に形成されるジグザグ形状の山部分の間隔によって決まる。したがって、ジグザグ形状の山部分の間隔が異なるすき刃1を複数用意しておき、適宜、所望の幅員に応じたすき刃1に交換すればよい。
【0033】
また、精油抽出用木材加工物Mを形成する薄膜状木片の厚みは、木材3の表面に対するすくい刃2の刃先の食い込み量によって決まる。したがって、所望の厚みに応じて、すくい刃2の食い込み量は適宜変更される。なお、精油抽出用木材加工物Mは、薄膜状木片の厚さが薄いほど柔らかく、厚さが厚いほど硬く弾力性に富むものとなる。
【0034】
精油抽出用木材加工物Mを形成する薄膜状木片の転回数は、薄膜状木片の厚みと長さで調節できるとともに、木材3に対するすくい刃2の時間当たりの移動距離(切削速度:mm/分)によっても調節できる。すなわち、切削速度を速くすることで、薄膜状木片の転回数を増やすこともできる。
【0035】
木材3としては、スギ、ヒノキ、ヒバ、マツ、ケヤキ、ナラ、ブナ、クスノキ、サクラ、クルミ、シラカバ等の樹木の材を広く利用することができる。すなわち、精油成分に抗菌、抗ダニ、防虫効果を有する成分を含む木材や、芳香性を有する木材等、精油の利用目的に応じた木材が適宜選択される。
【0036】
また、木材3としては、森林整備で伐採された木材、間伐材等の未利用材、建築材および家具材として利用される木材の端材等を利用してもよい。このような木材としては、例えば、ヒノキ、ケヤキ、スギ、マツ、クスノキ等が挙げられる。未利用材や端材を利用することにより、バイオマスの有効利用を図るとともに、精油の製造コストを低減することができる。
【0037】
上述の手順により作製された精油抽出用木材加工物Mについて図3および図4を参照してさらに詳細に説明する。
【0038】
精油抽出用木材加工物Mは、すくい刃2で切削された薄膜状木片の一方の面が外周壁4となり他方の面が内周壁5となり、中空部7が形成された転巻状の形状をとる。外周壁4と内周壁5は互いに密着することなく、その間には間隙6が形成される(図4参照)。図3に示すように、外周壁4側から押圧力が付与された場合でも、その押圧力が解除されると元の形状に容易に戻ることができる。このように、精油抽出用木材加工物Mは、それ単体で適度な弾力性を有する。
【0039】
精油抽出用木材加工物Mの転回数や丸まる程度は、精油抽出用木材加工物Mの外周壁4と内周壁5の間隙6の幅の広狭に影響を与える。すなわち、転回数を少なく丸まる程度も緩くした場合には、間隙6が広くなり、精油の収率の向上がより期待できる。
【0040】
また、精油抽出用木材加工物Mの転回数や丸まる程度は、精油抽出用木材加工物Mの物理的な押圧力に対する復元力の増減に影響を与える。すなわち、転回数が多くより密に丸まることによって、弾力性が増すことになる。
【0041】
また、加工前の木材3の乾燥具合も転巻状態を左右する。例えば、乾燥具合が進んでいるものほど丸まりやすく転回数を増やす際には都合がよく、また、逆に転回数を減らしたい場合にはあまり乾燥が進んでいないものの方が好ましい。すなわち、湿気を多く含んだ木材3を削ることで機械的な条件を変えずに精油抽出用木材加工物Mの転回数を少なくすることができる。
【0042】
このように、加工時の木材3の状態、加工場の湿度等の環境条件の変動に応じて、精油抽出用木材加工物Mの形状の各種調整を行うことができる。なお、削った後に精油抽出用木材加工物Mが乾燥しても、切削時の形状は維持される。
【0043】
[3.精油の抽出方法]
上述した精油抽出用木材加工物Mから精油を抽出する方法について図5および図6を参照して説明する。
【0044】
図5のフローチャートに示すように、この精油抽出方法は、精油抽出用木材加工物Mを収容した容器内に水蒸気を充満させて該精油抽出用木材加工物Mを熱処理する水蒸気加熱処理工程(ステップS1)と、水蒸気加熱処理工程により得た精油抽出用木材加工物Mから気化した精油成分を含む水蒸気を回収して冷却する冷却工程(ステップS2)と、冷却工程により得た凝縮液(蒸留液)を水分と精油とに分離する分離工程(ステップS3)と、を含む。すなわち、精油抽出用木材加工物Mから、所謂、水蒸気蒸留法に従って精油を抽出する。
【0045】
この精油抽出方法を実現する装置20は、図6に示すように、精油抽出用木材加工物Mを収容する容器としての有底円筒状の蒸留釜21と、蒸留釜21に水蒸気を供給するボイラ22と、精油抽出用木材加工物Mから気化した精油成分を含む水蒸気を蒸留釜21から導出する管路23と、該管路23の中途に設けられ水蒸気を冷却する冷却器24と、冷却器24で冷却された水蒸気を液体として回収する回収槽25を備える。
【0046】
まず、蒸留釜21の上部に設けられた蓋(図示せず)を開け、所定量の精油抽出用木材加工物Mを蒸留釜21内に投入し、蓋を閉める。蒸留釜21内には、精油抽出用木材加工物Mを受けるカゴ26が配設されており、精油抽出用木材加工物Mが蒸留釜21の底に接触しない構造となっている。カゴ26は、ステンレス(SUS)等の金属製の網、もしくは、耐熱樹脂製の網から形成されている。網の目開きは、精油抽出用木材加工物Mが網目から脱落しないサイズであって、例えば、0.2~5mmが好ましい。
【0047】
次に、蒸留釜21にボイラ22から水蒸気を導入する。ボイラ22は、ボイラ22内の水に熱を加え、0.15~0.2MPaの水蒸気を発生させる水蒸気発生器である。蒸留釜21とボイラ22とは、管路27で接続されており、管路27に介挿された開閉バルブ28が開放されることにより、カゴ26と蒸留釜21の底との間の空間に、ボイラ22で発生させた水蒸気が導入される。蒸留釜21にボイラ22から飽和水蒸気を導入することにより、蒸留釜21内の温度は、100~140℃となる。なお、ボイラ22の熱源は、火気、電気、高温ガスのいずれであってもよい。
【0048】
また、蒸留釜21内に充満させる水蒸気を発生する水蒸気発生器は、ボイラ22に限定されるものではなく、例えば、蒸留釜21の内部に貯留した水を加熱する電気ヒータであってもよい。なお、蒸留釜21内で水を直接加熱する場合には、精油にコゲ臭が移り香り成分が劣化する場合がある。このため、ボイラ22により水蒸気を蒸留釜21内に供給する方が好ましい。
【0049】
精油抽出用木材加工物Mを水蒸気に曝して0.5~2時間蒸すことにより、精油成分を含む水蒸気を得る。精油成分を含む水蒸気は、蒸留釜21の上部に接続された管路23を介して回収され、管路23の途中に設けられた冷却器24により冷却される。これにより凝縮液(蒸留液)を得る。
【0050】
得られた凝縮液は回収槽25に貯留される。凝縮液からの精油の分離は、常温にて水層と油層とに分離するまで静置し、油層を回収することにより行う。なお、遠心分離器を利用して、水層と油層とを分離してもよい。
【0051】
表1に、精油抽出用木材加工物Mを材料として、水蒸気蒸留法により精油を抽出した結果を示す。
【0052】
精油抽出用木材加工物Mはヒノキ材の木材を加工したものであり、容量は135Lの蒸留釜に5kgの精油抽出用木材加工物Mを収容し、100℃で1時間蒸留することによりヒノキ精油を得た(実験例)。なお、比較例1は、20kgのチップ状のヒノキ材を原料として、実験例と同じ装置を用いて、同じ温度で8時間蒸留することによりヒノキ精油を得た。比較例2は、5kgのチップ状のヒノキ材を材料として実験例と同じ装置を用いて同じ温度で2時間蒸留することによりヒノキ精油を得た。
【0053】
【表1】
【0054】
実験例では5kgの材料から5mlの精油が得られた。これに対し、比較例1では、実験例の4倍の重量の材料を8時間蒸留して得られた精油の量が5mlであった。すなわち、実験例では、比較例1の4分の1の重量の材料から、8分の1の時間で同量の精油が得られている。そして、実験例の収率(材料1kg当たりの精油量)は、比較例1の収率の約4倍であった。
【0055】
また、実験例と同量の材料を用いた比較例2では、実験例の2倍の時間蒸留して得られたヒノキ精油の量は0.8ml程度であった。すなわち、実験例の収率は、比較例2の収率の約6倍であった。
【0056】
表2に、実験例と比較例1の各ヒノキ精油の成分を分析した結果を示す。表2中には、分析により検出した成分数を示すとともに、特にヒノキの香り成分として知られているテルペンの成分名とその含有割合を示している。また、表2中において、テルペンの分類は、揮発性の高い性質の順に上から列挙している。なお、分析はガスクロマトグラフィー法により行った。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示すように、比較例1の従来のチップ状のヒノキ材から抽出したヒノキ精油から検出された成分数は22成分であるのに対し、精油抽出用木材加工物Mから抽出したヒノキ精油からは、34成分が検出された。すなわち、従来よりも、より多くの成分を抽出することに成功した。
【0059】
また、実験例では、比較例1では検出されなかった(N/D)成分のうち、セスキテルペンよりも揮発性が高い香り成分であるモノテルペン(例えば、テルピネン-4-オール、酢酸ボルニル)が検出された。さらに、セスキテルペンアルコール類よりも揮発性が高いセスキテルペン炭化水素類(特に、δ-カジネン、α-ムウロレン)でも、比較例1よりも含有割合の増加がみられた。
【0060】
本来のヒノキ材そのものが持つヒノキの香りは、多く含まれている成分が強い香りを持っているとは必ずしも言えず、少量しか含まれない成分でも香り全体に大きく影響する場合や、より多くの成分の組み合わせが香り全体の印象に影響する場合がある。精油抽出用木材加工物Mから抽出したヒノキ精油では、比較例1よりも多くの成分が含まれていることから、本来のヒノキ材が持つヒノキの香りの再現性が高いものであると考えられる。
【0061】
精油抽出用木材加工物Mは、図1~4を参照して説明したように、木材3から切削により転巻状に加工されたものである。したがって、蒸留釜に収容したときに、精油抽出用木材加工物Mは、互いの外周壁4が点または線で接触し、面で接触することがない。したがって、互いが密着することなく、個々の精油抽出用木材加工物Mの外周壁4の表面が水蒸気に曝されることになる。
【0062】
さらに、精油抽出用木材加工物Mの外周壁4と内周壁5の間には間隙6が形成され、転巻の中心は中空部7となっている。このため、精油抽出用木材加工物Mを形成する薄膜状木片の表面、裏面の全体が水蒸気に曝される。このように精油抽出用木材加工物Mでは、従来のチップ状および粉体状の材料と比較して、水蒸気に曝される面積が広くなる。したがって、精油抽出用木材加工物Mを原料として精油の抽出を行った場合、従来と比較して精油の収率が4~5倍に向上する。
【0063】
精油抽出用木材加工物Mは、薄膜状木片から構成されることから、膜厚が薄い分、従来のチップ状の材料と比較して木材への水蒸気の浸透が速い。すなわち、水蒸気が木材の薄膜を速やかに透過することで、短い時間での精油の抽出が実現される。
【0064】
また、この精油抽出用木材加工物Mを原料とすると、所謂、常温蒸留と呼ばれる100℃での蒸留で精油抽出を行った場合でも、従来よりも短時間でありながら高い収率で精油を得ることができる。このように、本発明に係る精油抽出用木材加工物Mからの精油抽出は、エネルギー効率に優れており、燃料コストを低減することができる。
【0065】
このように、薄膜状木片を転巻形状とした精油抽出用木材加工物Mを精油抽出に使用すると、従来の4分の1から5分の1の重量の材料から従来と等量の精油が抽出できることから、希少な香木等から精油を抽出する際に有利である。
【0066】
[4.変形例に係る精油抽出用木材加工物]
次に、本発明に係る精油抽出用木材加工物の変形例について説明する。
【0067】
[4-1.変形例1]
変形例1に係る精油抽出用木材加工物Maについて、図7および図8を参照して説明する。図7に拡大して示すように、この変形例1に係る精油抽出用木材加工物Maの薄膜状木片には、複数の小孔10aが穿設されている。この複数の小孔10aは、水蒸気加熱工程で薄膜状木片への水蒸気の浸透を高める作用を有する。これにより精油の収率を向上させるものである。
【0068】
この複数の小孔10aは、より具体的には、以下の手順により精油抽出用木材加工物Maに設けられる。まず、図8(a)に示すように、開口手段10により、加工前の木材3の表面に予め複数の穴を設ける。
【0069】
この開口手段10は、剣山のような複数の針を備えた部材を機械で移動させて複数の針を木材3の表面に突き刺すことにより複数の小孔10aに相当する穴を形成するものであってもよいし、複数の針を有した櫛状部材を人手によって木材3の表面に押し付けて複数の小孔10aに相当する穴を形成するものであってもよい。
【0070】
次に、上述した手順によって、木材3に溝1aをすき刃1により形成し、しかる後にすくい刃2で切削する。そうすると、複数の小孔10aが形成された薄膜状木片が転巻状となった精油抽出用木材加工物Maが形成される。
【0071】
小孔10aを有した精油抽出用木材加工物Maは、小孔10aにより乾燥状態では空気が通り抜け、水蒸気と接触した場合には、水分を外周壁4や内周壁5の表面だけでなく薄膜状木片の内部にまで浸透させることができ、精油成分の溶出を向上させることができる。
【0072】
精油抽出用木材加工物Maに穿設する小孔10aは、肉眼で確認できないほどの小さいものから、直径5mm程度とすることができる。例えば、小さい小孔10aでは、数を多く穿設可能であり、より精油成分の溶出を向上させることが期待できる。小孔10aのサイズは、木材3の性質および後述する精油抽出後の精油抽出用木材加工物Maの他の用途に応じて適宜変更される。
【0073】
また、小孔10aを有した精油抽出用木材加工物Maは、小孔10aを有さない精油抽出用木材加工物Mと混ぜて使用してもよい。
【0074】
[4-2.変形例2]
変形例2に係る精油抽出用木材加工物Mbについて、図9を参照して説明する。図9(a)に示すように、この変形例2に係る精油抽出用木材加工物Mbは、細長い糸状の形状を有する薄膜状木片(以下、糸状木片と呼称する)である。
【0075】
精油抽出用木材加工物Mbは、図2を参照して説明した手順と同様の手順により作製されるが、刃先の間隔が精油抽出用木材加工物Mを切削する場合よりも狭いすき刃1を採用している。これにより、図9(a)に示すような糸状木片を、すくい刃2により削り出すことができる。精油抽出用木材加工物Mbは、より具体的には、幅員0.5mm~3mm、長さ50mm~400mm、厚さ0.05mm~1mmの細長い薄膜状木片である。
【0076】
こうして削り出された精油抽出用木材加工物Mbが図9(b)に示すように、互いに絡まり合うことにより、三次元交絡構造が形成される。すなわち、糸状木片である精油抽出用木材加工物Mbは、複数の糸状木片が互いに絡まり合った三次元交絡構造体を形成した状態で、図6に示す装置20の蒸留釜21の中に収容されることになる。このため、木片間の空隙が従来のチップ状や粉体状の原料よりも大きくなり、水蒸気および/または溶液に曝される面積を広くすることができる。したがって、従来よりも精油成分の溶出を向上させることが期待できる。
[5.精油抽出用木材加工物の他の利用]
精油抽出用木材加工物M、Maは、図3及び4を参照して説明したように、各々が適度な弾力性を有する。精油抽出後の精油抽出用木材加工物M、Maは乾燥させても転巻状の形状が維持されることから、緩衝材(所謂、木毛)として利用することができる。
【0077】
木毛は、商品を梱包した際に搬送時や荷積み時等の衝撃を吸収する目的で、商品と外箱の間に敷き詰める緩衝材である。一般的な木毛は、スギ、ヒノキ、マツ等の木材を単に薄膜短冊状に削ったものである。
【0078】
精油抽出用木材加工物M、Maは、薄膜状木片を転巻形状とすることで、従来の木毛にはない、単体での緩衝性能が付与されている。また、精油抽出後に乾燥させた精油抽出用木材加工物Mbも、複数の精油抽出用木材加工物Mbが互いに絡み合う三次元交絡構造による緩衝性能を有することから、従来の木毛と同様に緩衝材として利用することができる。
【0079】
また、精油抽出後の精油抽出用木材加工物M、Ma、Mbは、揮発性成分の多くが精油として抽出されていることから、従来の木毛と比べ、木毛の材料となる樹木特有の芳香が弱くなっている。したがって、他の香料等を添加して芳香材として利用する場合に、使いやすいものとなっている。さらに、木材由来の芳香が移ることが好ましくない食品に対しても、緩衝材としての利用が可能となる。
【0080】
精油抽出用木材加工物M、Maは、カニやエビなどを生きた状態で輸送する際に緩衝材として使用されるおが屑に替えて使用することができる。精油抽出用木材加工物M、Maは、転巻状の単体が互いに絡まることなく梱包容器内で分散することから、カニやエビの肢や爪が折れる心配がなく、おが屑ほど細かくないことから扱い易いという利点がある。生きたカニやエビの輸送においては、従来からおが屑を湿らせて使用していることから、精油抽出後の精油抽出用木材加工物M、Maを完全に乾燥させることなく、そのまま緩衝材として使用することができる。精油抽出後の精油抽出用木材加工物M、Maは、精油抽出時の蒸留釜での熱処理により滅菌されたに等しい状態となることから、生鮮食品の輸送において衛生的である。
【0081】
なお、精油抽出後の精油抽出用木材加工物M、Maを乾燥させる際には、変形例1に係る小孔10aを有する精油抽出用木材加工物Maの方が、より早く乾燥させることができる。例えば、5mm程度の小孔10aでは、より空気を通しやすくなり精油抽出時に多量の水分を含んだ精油抽出用木材加工物Maの乾燥性の向上が期待できる。
【0082】
また、木材には調湿性能があるが、小孔10aにより通気性を向上させると、一度水分を含んだ精油抽出用木材加工物Maの乾燥時間が短くなり、緩衝材としてだけでなく木のもつ吸湿効果を向上させた吸湿剤として繰り返し利用できる点において有利である。
【0083】
また、精油抽出用木材加工物Maは、小孔10aを複数穿設していることで、小孔10aを複数穿設していないものに比べて弾力性が低くなるが、手触りや柔軟性が増す。このため、緩衝材として使用する際にはより柔軟性の高いものとすることができ、柔らかく傷つきやすい物品(例えば、桃等の果実)を覆う緩衝材として好適なものとなる。すなわち、精油抽出用木材加工物に複数の小孔10aを穿設することで、弾力性と柔軟性の均衡を図りより状況に適した緩衝材とすることができる。
【0084】
緩衝材として使用した後の精油抽出用木材加工物M、Ma、Mbは、木材3から加工形成されていることから、土壌で分解が可能であり、肥料の原料としてさらに利用することができる。このため、ゴミとして処理することによる環境負荷を低減できる。
【0085】
また、精油抽出用木材加工物M、Ma、Mbの材料となる木材3には、例えば家具等の木製製品を製造する際に発生した端材等を利用することができるため、限りある資源の節約に寄与することができる。
【0086】
また、国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)における17の目標の中には、持続可能な消費と生産のパターンを確保することが挙げられており、廃棄物の発生を削減すること等が求められている。この精油抽出用木材加工物Mは、精油抽出後も、緩衝材、調湿材、芳香剤、肥料等の二次利用、三次利用が可能であり、SDGsの目標達成に寄与し得る。さらに、SDGsにおける17の目標の中には、森林の持続可能な管理が挙げられており、主伐期を迎えた人工林の適切な伐採と木材利用の推進にも寄与し得る。
【符号の説明】
【0087】
1 すき刃
2 すくい刃
3 木材
4 外周壁
5 内周壁
6 隙間
7 中空部
10 開口手段
20 装置
21 蒸留釜
22 ボイラ
23 管路
24 冷却器
25 回収槽
26 カゴ
27 管路
28 開閉バルブ
M 精油抽出用木材加工物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9