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特開2023-19026防水シート、防水構造、防水方法、および、防水シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019026
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】防水シート、防水構造、防水方法、および、防水シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 31/02 20060101AFI20230202BHJP
   E02D 29/05 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
E02D31/02
E02D29/05 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123483
(22)【出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】521332947
【氏名又は名称】ハセガワシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】片岡 弘安
(72)【発明者】
【氏名】小川 晴果
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖
(72)【発明者】
【氏名】前田 悟郎
【テーマコード(参考)】
2D147
【Fターム(参考)】
2D147KA01
2D147KA02
2D147KA07
(57)【要約】
【課題】地下躯体からの漏水を発生しにくくする。
【解決手段】防水シート15は、コンクリート構造物に対して接着層を介して接着される。防水シート15は、シート状の合成高分子からなり、接着層13側に配置される第1面21aと接着層13の反対側に配置される第2面21bとを有する樹脂シート21と、第1面21aに張り合わせられるベース繊維25とベース繊維25から樹脂シート21の反対側へ起毛する起毛状繊維26とを有する繊維材22と、を備え、第1面21aの一部が点在するように露出している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に対して接着層を介して接着される防水シートであって、
シート状の合成高分子からなり、前記接着層側に配置される第1面と前記接着層の反対側に配置される第2面とを有する樹脂シートと、
前記第1面に張り合わせられるベース繊維と前記ベース繊維から前記樹脂シートの反対側へ起毛する起毛状繊維とを有する繊維材と、を備え、
前記第1面の一部が点在するように露出する
防水シート。
【請求項2】
前記起毛状繊維は、前記ベース繊維の目合いよりも大きな長さを有する
請求項1に記載の防水シート。
【請求項3】
前記起毛状繊維の起毛高さが、繊維が自立する状態で10.0mm以下である
請求項1または2に記載の防水シート。
【請求項4】
前記樹脂シートの前記第1面と前記繊維材の前記起毛状繊維とが親水性を有する
請求項1~3のいずれか一項に記載の防水シート。
【請求項5】
前記繊維材が第1繊維材であり、
前記樹脂シートの前記第2面に張り合わせられるベース繊維と当該ベース繊維から前記樹脂シートの反対側へ起毛する起毛状繊維とを有する第2繊維材を備え、
前記第2面の一部が点在するように露出する
請求項1~4のいずれか一項に記載の防水シート。
【請求項6】
コンクリート構造物を被覆する接着層と、前記接着層を介して前記コンクリート構造物を被覆する防水シートと、を備え、
前記防水シートが、請求項1~5のいずれか一項に記載の防水シートである
防水構造。
【請求項7】
コンクリート構造物の防水方法であって、
前記コンクリート構造物を被覆するように接着層を塗布する工程と、
前記塗布された接着層に防水シートを張り付けて、前記接着層を介して前記コンクリート構造物を前記防水シートで被覆する工程と、を備え、
前記防水シートは、
シート状の合成高分子からなり、前記接着層側に配置される第1面と前記接着層の反対側に配置される第2面とを有する樹脂シートと、
前記第1面に接合されるベース繊維と前記ベース繊維から前記樹脂シートの反対側へ起毛する起毛状繊維とを有する繊維材と、を備え、
前記第1面の一部が点在するように露出する
防水方法。
【請求項8】
コンクリート構造物を被覆する接着層を介して前記コンクリート構造物を被覆する防水シートの製造方法であって、
前記防水シートは、
シート状の合成高分子からなり、前記接着層側に配置される第1面と前記接着層の反対側に配置される第2面とを有する樹脂シートと、
前記第1面に接合されるベース繊維と前記ベース繊維から前記樹脂シートの反対側へ起毛する起毛状繊維を有するとともに前記第1面の一部が点在するように露出することを特徴とし、
前記樹脂シートは、熱可塑性樹脂の押出成形によって成形され、
前記起毛状繊維は、前記樹脂シートの押出成形時に前記樹脂シートに対して熱ラミネートされる
防水シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下空間を形成するコンクリート構造物の内表面を被覆する防水シート、防水構造、防水方法、および、防水シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製の地下躯体を防水する方法として、後やり工法と先やり工法とがある。後やり工法は、打設後の地下躯体の外表面に防水層を直接施工する方法である。先やり工法は、山留壁と地下躯体が近接する場合に、地下躯体の打設前に山留壁を型枠代わりとして、その山留壁面に防水層を施工したうえで地下躯体を打設し、地下躯体と防水層とを密着させる方法である。例えば特許文献1には、施工対象に対してロックボルトで固定した防水シートと防水シートを覆うモルタルなどの防水材とで防水層を形成する工法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-80894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、後やり工法においては、地下という特殊な環境や地下水の影響により確実な施工が難しい。また、先やり工法においては、防水層の施工後、地下躯体の鉄筋や型枠の設置工事によって防水層が損傷してしまうことがある。このように、地下躯体の外側に防水層を施工する場合、完全な防水層を構築することが困難であり、漏水が発生しやすかった。一方、施工性に配慮して、地下躯体の内表面に防水層を施工する方法もある。これに特許文献1の方法を適用したとしても、地下躯体からの漏水を防ぐ目的ではないため、根本的な解決にはならなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する防水シートは、コンクリート構造物に対して接着層を介して接着される防水シートであって、シート状の合成高分子からなり、前記接着層側に配置される第1面と前記接着層の反対側に配置される第2面とを有する樹脂シートと、前記第1面に張り合わせられるベース繊維と前記ベース繊維から前記樹脂シートの反対側へ起毛する起毛状繊維とを有する繊維材と、を備え、前記第1面の一部が点在するように露出する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、地下躯体に対して防水シートが良好な水密性を有することから、漏水が発生しにくくなり、また地下躯体外側に存在している地下水が地下躯体内部に浸入しようとする圧力に対して、防水層が耐えられるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】防水構造の一実施形態の概略構成を示す断面図。
図2】(a)防水シートを張り合わせる様子を模式的に示す図、(b)防水シートを張り合わせた状態を模式的に示す図。
図3】(a)防水シートを突き合わせた状態を模式的に示す図、(b)防水シートの境界部分が境界被覆シートで被覆された状態を模式的に示す図。
図4】ベース繊維の概略構成を模式的に示す図。
図5】ループ繊維状の起毛状繊維の概略構成を模式的に示す図。
図6】(a)キノコ状の起毛状繊維の概略構成を模式的に示す図、(b)フック状の起毛状繊維の概略構成を模式的に示す図、(c)マッチ棒状の起毛状繊維の概略構成を模式的に示す図。
図7】(a)目合いよりもパイル高さが大きい場合における熱ラミネート処理の様子を模式的に示す図、(b)目合いよりもパイル高さが小さい場合における熱ラミネート処理の様子を模式的に示す図。
図8】(a)貫通路が形成されるまえの試験体を模式的に示す図、(b)貫通路が形成された状態を模式的に示す図、(c)貫通路に加圧水を供給する様子を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1図8を参照して、防水シート、防水構造、防水方法、および、防水シートの製造方法の一実施形態について説明する。
(防水構造の概要)
図1に示すように、防水構造10は、地中11に設置された地下躯体12の内表面12aを被覆することにより、地下躯体12が形成する地下空間への漏水を抑制する。
【0009】
地下躯体12は、第1セメント系水硬性材料が硬化したものである。第1セメント系水硬性材料は、少なくともセメントと水とを混和した流動体である。第1セメント系水硬性材料は、例えば、セメントに対して骨材である砂利や砂などを混ぜたセメント混合物と水と混和したコンクリートである。
【0010】
防水構造10は、地下躯体12の内表面12aを被覆する接着層13と、接着層13を介して地下躯体12の内表面12aを被覆する防水シート15と、を有する。なお、以下では、地下躯体12から漏れた水が防水構造10に与える圧力を背面水圧という。
【0011】
接着層13は、地下躯体12の内表面12aに塗布された接着材が硬化したものである。接着材としては、普通ポルトランドセメント、早強セメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱セメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、シリカセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、超速硬セメント、アルミナセメント、エコセメントのいずれか一つまたは二種類以上から選ばれたセメントを用いたセメントペースト、モルタル、コンクリートなどの第2セメント系水硬性材料が挙げられる。
【0012】
第2セメント系水硬性材料は、フライアッシュセメントやシリカセメントであることが好ましい。フライアッシュセメントは、フライアッシュを含有するセメント系水硬性材料である。シリカセメントは、シリカヒュームを含有するセメント系水硬性材料である。フライアッシュやシリカヒュームは、それ自体が水和反応を起こすものではないが、セメントに含まれる水酸化カルシウムとポラゾン反応を起こして硬化体を生成するポラゾン反応性物質である。第2セメント系水硬性材料としてフライアッシュセメントやシリカセメントを用いることにより、接着層13にクラックが生じたとしても、そのクラックに硬化体が生成されることとなる。その結果、地下空間への漏水をより抑制することができる。
【0013】
第2セメント系水硬性材料は、減水剤、AE剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤硬化促進剤、凝結遅延剤、消泡剤などの混和剤やポリプロピレン、ビニロン、ナイロンなどの短繊維を単独、または数種類混合したものであってもよい。
【0014】
また、接着材としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステルなど樹脂系材料も使用できる。さらには、それらの樹脂系材料を用いたレジンモルタル、および、それらの樹脂系材料と第2セメント系水硬性材料との混合物も使用できる。
【0015】
そのほか、接着材としては、エチレン酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、樹脂アスファルト、SBR、ラテックスなど、日本工業規格JISA6203:2015「セメント混和用ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂」の規格を満足するのセメント混和用ポリマーディスパージョンや再乳化型粉末樹脂と第2セメント系水硬性材料との混合物も使用できる。
【0016】
接着材は、地下空間が湿潤環境になりやすいことから、湿潤環境においても地下躯体12に対して良好な接着性を示す第2セメント系水硬性材料であることが好ましい。また、接着材は、水密性と接着性の観点から、エチレン酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂のいずれかからなるセメント混和用ポリマーディスパージョンを混和したセメントペーストであることがさらに好ましい。
【0017】
防水シート15は、未硬化状態にある接着層13に対して張り付けられたのち、その接着層13が硬化することにより地下躯体12の内表面12aに固定される。内表面12a全体への防水シート15の張り付け、および、防水シート15の取扱性を考慮すると、適度な大きさの防水シート15同士を適切な幅で重ね合わせることが好ましい。複数枚の防水シート15は、外周部の一部が重畳するように接着層13に張り付けられる。
【0018】
具体的には、図2(a)に示すように、第1防水シート16の次に第2防水シート17が張り付けられる場合、第1防水シート16の外周部の一部である第1重ね領域16Aに接着材が塗布される。そして、図2(b)のように、その第1重ね領域16Aに外周部の一部が重畳するように第2防水シート17の第2重ね領域17Aが重ね合わされる。
【0019】
なお、図3(a)に示すように、第1防水シート16と第2防水シート17は、重ね合わさずに突き付けであってもよい。その場合は、図3(b)に示すように、その境界部分を被覆するように、境界被覆シート18を適切な幅で張り付けることが好ましい。境界被覆シート18には、防水シート15と同様のシートを用いることができる。このように境界部分が境界被覆シート18によって被覆されることにより、防水シート15の境界部分を補強することができる。その結果、地下躯体12から漏水が生じたとしても防水シート15に膨れが生じにくくなる。
【0020】
(防水シートについて)
図1に示すように、防水シート15は、樹脂シート21と繊維材22とを有する2層構造のシートである。
樹脂シート21は、シート状の合成高分子からなる。樹脂シート21は、例えば、エチレン酢酸ビニル樹脂、加硫ゴム、非加硫ゴム、塩化ビニル樹脂、熱可塑性エラストマー、改質アスファルト、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネートのいずれか一つまたは二種類以上の樹脂材料で形成される。樹脂シート21は、単一の樹脂や複数の樹脂の混合物を単層としたものや、複数の防水層を重ねあわせたものでもよい。樹脂シート21は、取扱いや遮水性、防食性の観点からエチレン酢酸ビニル系樹脂、もしくはポリエチレン樹脂であることが好ましい。
【0021】
樹脂シート21は、第1面21aと第2面21bとを有する。第1面21aは、接着層13側に配置される面である。第1面21aは、繊維材22が第1繊維材として張り合わせられる面である。第2面21bは、接着層13の反対側に配置される面である。
【0022】
本実施形態において、第2面21bは、凹凸面である。第2面21bは、複数の突起23により凹凸面に形成されている。突起23の形状としては、線形状、ピラミッド形状、稜線形状、海島形状、エンボス形状、キノコ形状、フック形状、マッチ棒形状などが挙げられる。複数の突起23は、幅が0.01~10mm、高さが0.01~1mmであることが好ましい。これらの突起23は、樹脂シート21の製造時に形成される。突起23により、防水シート15同士の重畳部分にアンカー効果が生じることから、防水シート15同士の密着性を向上させることができる。さらに、突起先端の樹脂部分を物理的に起毛させて密着性を上げるようにしてもよい。
【0023】
繊維材22は、ベース繊維25と起毛状繊維(パイル)26とを有する。
繊維材22の素材としては、有機の合成繊維、天然繊維、半合成繊維、無機繊維のいずれでもよく、具体的には、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、アクリル樹脂、ビニロン、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、レーヨン、アラミド繊維、耐アルカリガラス繊維、バサルト繊維、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、液晶ポリマー、綿、麻のいずれか一つまたは二種類以上から選ばれる。そのなかでも、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ビニロンが好適である。
【0024】
図4に示すように、ベース繊維25は、網目状をなしている。ベース繊維25としては、織布、ニット布、ネット状布、不織布などが挙げられる。ベース繊維25は、樹脂シート21に張り合わせられる部分である。ベース繊維25が樹脂シート21に張り合わせられると、起毛状繊維26が密な状態で存在するとともに樹脂シート21の第1面21aが点在するように露出する。これにより、接着層13が繊維材22の周囲によく充填されることで、接着層13と防水シート15との層間の水密性を高め、水の横走りを抑えることができる。なお、繊維材22は、樹脂シート21の第2面21bに第2繊維材として張り合わせられてもよい。
【0025】
網目状をなすベース繊維25の目合いEは、起毛状繊維26の密度にかかわる。目合いEは、網目部分における最大幅である。目合いEは、0.1mmよりも大きいことが好ましい。また、目合いEは、10mm未満であり、5.0mm未満であることが好ましく、3.0mm未満であることがより好ましい。
【0026】
起毛状繊維26は、ベース繊維25に対する樹脂シート21の反対側に起毛する立体形状を有する。起毛状繊維26の繊維径は、0.1~500μmであることが好ましい。起毛状繊維26は、ベース繊維25から容易に抜けたり外れたりしないように、ベース繊維25に対する織り込み、編み込み、絡め込み、埋め込み、接着などの方法によって固定される。起毛状繊維26は、防水シート15を接着層13との間にアンカー効果を生じさせる。これにより、接着層13を介した地下躯体12と防水シート15との接着性を向上させることができる。こうした起毛状繊維26の形状としては、ループ繊維状およびカット繊維状のほか、渦巻繊維状、無方向繊維状などが例示できる。
【0027】
図5に示すように、ループ繊維状の起毛状繊維26は、環状形状の繊維がその一部においてベース繊維25に接合されたものである。なお、起毛状繊維26において、起毛状繊維26そのものの長さをパイル長さL、自立状態におけるベース繊維25からの高さ(起毛高さ)をパイル高さHという。パイル高さHは、パイル長さL以下である。パイル長さLは、10mm以下であることが好ましい。また、パイル長さLは、ベース繊維25の目合いEよりも大きいことが好ましい。
【0028】
図6(a)~図6(c)に示すように、カット繊維状の起毛状繊維26は、ベース繊維25に接合された基端部とベース繊維25から離れている先端部とを有する。カット繊維状の起毛状繊維26について、図6(a)は、キノコ状の起毛状繊維を示す。図6(b)は、フック状の起毛状繊維を示す。図6(c)は、マッチ棒状の起毛状繊維を示す。カット繊維状の起毛状繊維26は、例えば、ベース繊維25から延びるパイル本体28と、パイル本体28の先端に一体に設けられたパイル先端部29とを有する。パイル先端部29は、パイル本体28の中心軸30を基準として、パイル本体28の先端から側方へ延びる部分を有する。
【0029】
繊維材22の目付は、30~200g/mであることが好ましい。目付が30g/m以上であることにより、接着層13との接着前後において繊維材22にしわが発生しにくくなる。目付が200g/m以下であることにより、防水シート15が適度な厚さにすることができ、防水シート15が取り扱いやすくなる。なお、繊維材22は、樹脂シート21の第2面21bに張り合わせられてもよい。これにより、防水シート15同士の接着性を向上させることができる。
【0030】
また、防水シート15には、表面に親水性を付与する親水処理が施される。親水処理は、樹脂シート21に繊維材22が張り合わせられてから施されることが好ましい。親水処理は、防水シート15の表面にヒドロキシル基やカルボキシル基、アミノ基などの官能基を付与する処理である。防水シート15に親水性が付与されることにより、防水シート15と接着層13との接着性、具体的には、樹脂シート21の第1面21aにおける露出部分と接着層13との接着性、および、繊維材22と接着層13との接着性が向上する。
【0031】
官能基がカルボキシル基であることにより、セメントのカルシウムイオン(Ca2+)とカルボキシラートイオン(COO)とによって錯体が形成されることで、セメントとの化学的な結合性を得ることができる。その結果、セメント系水硬性材料に対する防水シート15の接着性を高めることができる。
【0032】
(防水シートの製造方法)
上述した防水シート15の製造方法の一例について説明する。
図7(a)に示すように、防水シート15は、樹脂シート21に対して繊維材22が熱ラミネート処理によって張り合わせられたのち、適当な大きさに裁断されることにより製造される。
【0033】
張り合わせ方法は、シート成型機から加熱溶融された樹脂がシート状に吐出され、ロール33の圧延による押出成形によって樹脂シート21となる。それと同時に繊維材22をロール33に送り込む。繊維材22は、ベース繊維25が樹脂シート21の第1面21aに当接するように、換言すれば、起毛状繊維26が樹脂シート21の反対側へ起毛するように供給される。これにより、樹脂シート21と繊維材22とが張り合わされる。
【0034】
図7(b)に示すように、起毛状繊維26のパイル長さLがベース繊維25の目合いEよりも小さいと、樹脂シート21の第1面21aの露出部分に埋もれた状態で張り合わせられてしまう起毛状繊維26の割合が高くなる。一方、起毛状繊維26のパイル長さLがベース繊維25の目合いEよりも大きいと、起毛状繊維26の一部がベース繊維25に引っ掛かることで、樹脂シート21の第1面21aの露出部分に埋もれた状態で張り合わせられてしまう起毛状繊維26の割合が低くなる。このため、パイル長さLは、目合いEよりも大きいことが好ましい。
【0035】
(防水シートの具体例)
本実施形態の防水シート15の具体例においては、樹脂シート21として、長谷川化学工業株式会社製の「サンエーシート」(登録商標)を用いた。表1に示すように、この樹脂シート21は、エチレン酢酸ビニル樹脂製のシートであり、厚さを1.1mmとした。このときの引張強さは1800N/cm、伸び率は600%であった。また、樹脂シート21の第2面21bには、幅0.24mm、高さ0.13mmの突起23を全面に形成した。
【0036】
【表1】
【0037】
繊維材22として、表2に示す物性の繊維材1、繊維材2、繊維材3を用意した。そして、上記樹脂シート21の第1面21aに熱ラミネート処理により張り合わせた。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示すように、繊維材1は、ベース繊維25および起毛状繊維26に繊維径28μmのナイロンを用い、目合いEが0.24mmのベース繊維25にループ状の起毛状繊維26を編み込んだものとした。繊維材1においては、熱ラミネート処理前における自立状態での起毛状繊維26のパイル高さHが2.37mm、目付が73g/mであった。
【0040】
繊維材2は、ベース繊維25に繊維径32μmのポリエステル、起毛状繊維26に繊維径32μmのビニロンを用い、目合いEが1.82mmのベース繊維25にランダムなループ状の起毛状繊維26を絡め込んだものとした。繊維材2においては、熱ラミネート処理前における自立状態での起毛状繊維26のパイル高さHが2.47mm、目付が72g/mであった。
【0041】
繊維材3は、ベース繊維25および起毛状繊維26に繊維径220μmのポリプロピレンとナイロンとを用い、目合いEが11.1mmのベース繊維25にループ状の起毛状繊維26を編み込んだものとした。繊維材3においては、熱ラミネート処理前における自立状態での起毛状繊維26のパイル高さHが3.01mm、目付が118g/mであった。
【0042】
繊維材1を樹脂シート21に張り合わせた防水シート15においては、張り合わせ後のパイル高さHが1.9mmであった。また、適度な厚さを有しており、取り扱いやすかった。繊維材2を樹脂シート21に張り合わせた防水シート15においては、張り合わせ後のパイル高さHが0.95mmであった。また、適度な厚さを有しており、取り扱いやすかった。
【0043】
一方、繊維材3を樹脂シート21に張り合わせた防水シート15においては、目付が118g/mもあるため、防水シート15として厚さが大きく、取り扱いにくかった。また、繊維材3は、自立状態における起毛状繊維26のパイル高さHが目合いEよりも小さいため、ラミネート処理にともなって、樹脂シート21の第1面21aの露出部分に埋没する起毛状繊維26の割合が高かった。これにより、自立状態における起毛状繊維26のパイル高さHは、目合いEよりも大きいことが好ましいことが確認された。
【0044】
(防水構造の具体例)
繊維材1あるいは繊維材2が張り合わせられた防水シート15を用いた防水構造の具体例、および、それらに行った実験とその結果について説明する。
【0045】
(接着材の具体例)
まず、接着層13を形成する接着材の具体例について説明する。
本実施形態では、3つの接着材1、接着材2、接着材3について説明する。表3に各接着材の仕様を示す。
【0046】
【表3】
【0047】
接着材1は、普通ポルトランドセメント、長谷川化学工業株式会社製のエチレン酢酸ビニル樹脂系セメント混和用ポリマーディスパージョンである「サンエーポリマーE」(登録商標)、および、水道水を使用し、水セメント比(W/C)を質量比で30%、ポリマーセメント比(P/C)を質量比で4%としたものである。
【0048】
接着材2は、普通ポルトランドセメント、エチレン酢酸ビニル樹脂系セメント混和用ポリマーディスパージョン「サンエーポリマーE」(長谷川化学工業製)、および、水道水を使用し、水セメント比(W/C)を質量比で30%、ポリマーセメント比(P/C)を質量比で8%としたものである。
【0049】
接着材3は、普通ポルトランドセメント、シリカヒューム、エチレン酢酸ビニル樹脂系セメント混和用ポリマーディスパージョン「サンエーポリマーE」(長谷川化学工業製)、水道水、および、ポリカルボン酸系高性能減水剤を使用し、普通ポルトランドセメントとシリカヒュームの合計量である結合材について、結合材中へのシリカヒュームの置換割合(SF/B)を10%、水結合材比(W/B)を20%、ポリマー結合材比(P/B)を8%、ポリカルボン酸系高性能減水剤の添加量(Ad/B)を0.6%としたものである。
【0050】
(防水構造の実験例)
次に、上述した樹脂シート21、繊維材1,2、および、接着材1~3の具体例を用いて構成した防水構造の試験体、および、その試験体に対して行った背面水圧に関する実験とその結果について説明する。
【0051】
図8(a)および図8(b)に示すように、試験体40は、隣り合う2つのコンクリート板41(縦15cm×横30cm×厚さ4cm)の表面41aに接着層13を介して防水シート15を張り付けたものとした。
【0052】
具体的には、図8(a)に示すように、まず、当接する2つのコンクリート板41の表面41aに接着層13を介して防水シート15を張り付けた。次に、図8(b)に示すように、その2つのコンクリート板41を離間させてコンクリート板41の裏面41b側から防水シート15に到達する幅0.1mmの貫通路42を形成した。その後、貫通路42の周囲をエポキシ樹脂系の接着剤で封止したのち、防水シート15の張付けから28日以上養生したものを試験体40とした。
【0053】
そして、図8(c)に示すように、コンクリート板41の裏面41b側から貫通路42に向けて0.2MPaの加圧水を供給し、試験1時間後の防水シート15の膨れ、防水シート15と接着層13との間における加圧水の浸入具合について確認した。浸入具合は、防水シート15における加圧水の拡がりを横走り長さとして計測した。
【0054】
表4に示すように、実施例1では、繊維材1を樹脂シート21に張り合わせた防水シート15を、接着材1を用いてコンクリート板41に接着した。実施例2では、繊維材1を樹脂シート21に張り合わせた防水シート15を、接着材2を用いてコンクリート板41に接着した。実施例3では、繊維材1を樹脂シート21に張り合わせた防水シート15を、接着材3を用いてコンクリート板41に接着した。実施例4では、繊維材2を樹脂シート21に張り合わせた防水シート15を、接着材3を用いてコンクリート板41に接着した。比較例1では、樹脂シート21の第1面21aに対して第2面21bと同様の突起23を形成し、接着材1を用いてコンクリート板41に接着した。なお、これら実施例1~4、および、比較例1においては、樹脂シート21の第2面21bには突起23が形成されている。
【0055】
【表4】
実験結果を表5に示す。
【0056】
【表5】
【0057】
表5に示すように、実施例1~4においては、防水シート15に膨れが生じなかった。一方、比較例1では、防水シート15に膨れが生じてしまった。また、横走り長さは、実施例1において75mm、実施例2において20mm、実験例3において3mm、実施例4において3mm、比較例1で95mmだった。このように、実施例1~4においては、比較例1よりも膨れおよび横走り長さの双方について有用な結果が得られた。すなわち、コンクリート板41に接着層13を介して防水シート15が張り付けられることにより、良好な水密性が得られることが確認された。
【0058】
本実施形態の効果について説明する。
(1)地下躯体12の内表面12aに対して、上述した接着層13を介して防水シート15が張り付けられることにより、地下躯体12との間に良好が水密性を得ることができる。また、防水シート15の伸び性能や繊維材22によるアンカー効果によって、背面水圧による防水シート15の破断や膨れが生じにくくなる。さらには、地下躯体12が形成する地下空間において一連の作業を行うことができる。
【0059】
(2)防水シート15を構成する繊維材22においては、パイル長さLが樹脂シート21の目合いEよりも大きい。これにより、樹脂シート21と繊維材22との張り合わせ後においても、起毛状繊維26の自立状態が保持されやすくなる。
【0060】
(3)張り合わせ前の繊維材22において、自立状態における起毛状繊維26のパイル高さHが10.0mm以下である。これにより、接着層13の厚さを小さくすることができる。その結果、接着材の塗布についての作業性が向上する。
【0061】
(4)防水シート15が親水性を有するため、接着層13と防水シート15との接着性、ひいては、地下躯体12と防水シート15との接着性を向上させることができる。
(5)樹脂シート21の第2面21bが突起23により凹凸面に形成されている。これにより、防水シート15同士の接着性を向上させることができる。
【0062】
(6)起毛状繊維26のパイル高さHがベース繊維25の目合いEよりも大きいことにより、樹脂シート21の第1面21aの露出部分に埋もれた状態で張り合わせられてしまう起毛状繊維26の割合を低くすることができる。
【0063】
(7)樹脂シート21の第2面21bに繊維材22が張り合わせられることにより、防水シート15同士の接着性が向上する。
(8)起毛状繊維26がループ状であることにより、接着層13と繊維材22との引っ掛かりを強くすることができる。
【0064】
(9)起毛状繊維26がカットパイルであり、そのカットパイルがパイル本体28から側方に延びるパイル先端部29であることにより、接着層13と繊維材22との引っ掛かりを強くすることができる。
【0065】
(10)樹脂シート21への張り合わせ後におけるパイル高さHを10mm以下とすることにより、水密性を確保するための接着材の転圧を行いやすく、かつ、施工性の劣る地下空間での接着層の塗付け量を最小限として背面水圧の抵抗性のばらつきを低減することができる。なお、こうした効果は、パイル高さHを5.0mm以下、さらには3.0mm以下とすることにより顕著なものとなる。
【0066】
(11)防水シート15の境界部分が境界被覆シート18によって被覆されることで、その境界部分を補強することができる。このため、防水シート15に膨れが生じにくくなる。
【0067】
(12)防水シート15は、樹脂シート21と繊維材22とが熱ラミネート処理によって製造される。これにより、防水シート15を簡易な方法、簡易な装置のもとで製造することができる。
【0068】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・防水シート15の境界部分は、境界被覆部18によって覆われていなくともよい。
【0069】
・樹脂シート21の第2面21bは、凹凸面に限らず、平坦面であってもよい。
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(付記1)
前記起毛状繊維は、ループパイルである。
【0070】
(付記2)
前記起毛状繊維は、カットパイルであり、前記カットパイルは、前記ベース繊維から延びるパイル本体部と前記パイル本体部の先端に一体に設けられたパイル先端部とを有し、 前記パイル先端部は、前記パイル本体部の先端から側方へ延びる部分を有する。
【0071】
(付記3)
前記防水シートの前記第2面が凹凸面である。
(付記4)
前記接着層は、ポルトランドセメントを主成分として、セメント混和用ポリマーディスパージョンまたは再乳化形粉末樹脂と、を含有している。
【0072】
(付記5)
前記接着層は、ポゾラン反応性を有する材料を含有している。
(付記6)
前記接着層は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂のいずれか1種類以上を含有している。
【0073】
(付記7)
前記コンクリート構造物を被覆するように並べられた前記防水シートを有し、隣り合う前記防水シートは、重なり合う部分を有し、前記重なり合う部分が、接着層を介して張り合わせられている。
【0074】
(付記8)
前記防水シートが突き付けで張り付けられる場合に、その境界部分を外側から被覆する境界被覆部を備える。
【符号の説明】
【0075】
10…防水構造、11…地中、12…地下躯体、12a…内表面、13…接着層、15…防水シート、16…第1防水シート、16A…第1重ね領域、17…第2防水シート、17A…第2重ね領域、18…境界被覆シート、21…樹脂シート、21a…第1面、21b…第2面、22…繊維材、23…突起、25…ベース繊維、26…起毛状繊維、28…パイル本体、29…パイル先端部、30…中心軸、33…ロール、40…試験体、41…コンクリート板、41a…表面、41b…裏面、42…貫通路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8