(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019027
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】ライニング方法
(51)【国際特許分類】
C04B 41/71 20060101AFI20230202BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20230202BHJP
E04B 1/64 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C04B41/71
E04G23/02 A
E04B1/64 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123486
(22)【出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】片岡 弘安
(72)【発明者】
【氏名】小川 晴果
【テーマコード(参考)】
2E001
2E176
4G028
【Fターム(参考)】
2E001DA01
2E001EA01
2E001FA29
2E001GA06
2E001GA24
2E001GA26
2E001HA01
2E001HA31
2E001HA33
2E001HD11
2E001JA01
2E001JA21
2E001JA22
2E001JD04
2E001KA05
2E176AA01
2E176AA05
2E176BB01
2E176BB04
4G028FA04
(57)【要約】
【課題】背面水圧に起因したライニング層の膨れや剥離を抑えることのできるライニング方法を提供する。
【解決手段】セメント製構造物の地下躯体12の内表面12aをライニング構造10で覆う。ライニング構造10は、地下躯体12の内表面12aにセメント系接着材を塗布して内表面12aを覆う接着層13を形成する接着材塗布工程と、未硬化状態にある接着層13に対し、接着層13の表面13aから毛羽立つ毛羽立ち部分31が形成されるように立体網目構造の繊維シート14を張り付ける張付工程と、硬化後の接着層13に対して樹脂ライニング材を塗布して、毛羽立ち部分31を含んで接着層13に積層されるライニング層15を形成するライニング工程と、を経て形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント製構造物の表面にセメント系接着材を塗布して前記表面を覆う接着層を形成する接着材塗布工程と、
未硬化状態にある前記接着層に対し、前記接着層の表面から毛羽立つ毛羽立ち部分が形成されるように立体網目構造の繊維シートを張り付ける張付工程と、
硬化後の前記接着層に対して樹脂ライニング材を塗布して、前記毛羽立ち部分を含んで前記接着層に積層されるライニング層を形成するライニング工程と、を備える
ライニング方法。
【請求項2】
前記ライニング工程では、前記毛羽立ち部分が埋設されるように前記樹脂ライニング材を塗布する
請求項1に記載のライニング方法。
【請求項3】
前記張付工程では、複数の前記繊維シートを隙間なく張り付ける
請求項1または2に記載のライニング方法。
【請求項4】
前記張付工程では、前記複数の前記繊維シートを互いの外周部が重畳するように張り付ける
請求項3に記載のライニング方法。
【請求項5】
前記セメント製構造物の表面は、複数の面が交差する角部を有し、前記角部においては、前記複数の面に跨がるように前記繊維シートを張り付ける
請求項1~4のいずれか一項に記載のライニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製構造物の表面を被覆するライニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント製構造物の防水工法として、セメント基材にそれぞれ、脂肪酸塩を加えたモルタル防水、ケイ酸質系微粉末を加えたケイ酸質系塗布防水、ポリマーエマルジョンを加えたポリマーセメントモルタルおよびポリマーセメント系塗膜防水などにより、透水性の低い下地モルタル層を形成する方法がある。また、セメント製構造物の防食工法として、セメント製構造物の表面をエポキシ樹脂などのライニング層で被覆するライニング工法が知られている。例えば、特許文献1では、セメント製構造物の表面にモルタルを塗布して下地モルタル層を形成したのち、その下地モルタル層に耐アルカリ性繊維ネットを設置している。そして、エポキシ樹脂系ライニング材からなるライニング層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のライニング方法では、セメント製構造物から漏れた水の圧力(背面水圧)の影響を受けて、ライニング層が膨らんだり、ライニング層が剥離したりすることがあった。上記特許文献1のように、下地モルタルやライニング層を面的に繊維ネットにより補強した場合であっても、常に水の影響を受ける地下空間では、樹脂系材料からなるライニング層の接着力が経年劣化しやすく、コンクリート躯体や下地モルタルとライニング層との界面での剥離やライニング層の膨れが起こることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するライニング方法は、セメント製構造物の表面にセメント系接着材を塗布して前記表面を覆う接着層を形成する接着材塗布工程と、未硬化状態にある前記接着層に対し、前記接着層の表面から毛羽立つ毛羽立ち部分が形成されるように立体網目構造の繊維シートを張り付ける張付工程と、硬化後の前記接着層に対して樹脂ライニング材を塗布して、前記毛羽立ち部分を含んで前記接着層に積層されるライニング層を形成するライニング工程と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、背面水圧に起因したライニング層の膨れや剥離が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】ライニング構造の一実施形態を模式的に示す断面図。
【
図2】接着材塗布工程が完了した状態を模式的に示す断面図。
【
図4】ループ繊維状の起毛状繊維の概略構成を模式的に示す図。
【
図5】(a)キノコ状の起毛状繊維の概略構成を模式的に示す図、(b)フック状の起毛状繊維の概略構成を模式的に示す図、(c)マッチ棒状の起毛状繊維の概略構成を模式的に示す図。
【
図6】張付工程が完了した状態を模式的に示す断面図。
【
図7】地下躯体の角部におけるライニング構造を模式的に示す断面図。
【
図8】試験体を用いた実験の様子を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1~
図8を参照して、ライニング方法の一実施形態について説明する。まず、本実施形態のライニング方法によって形成されるライニング構造について説明する。
(ライニング構造の概要)
図1に示すように、ライニング構造10は、地中11に設置されたセメント製構造物である地下躯体12の内表面12aを被覆することにより、地下躯体12が形成する地下空間への漏水を抑制する。
【0009】
地下躯体12は、第1セメント系水硬性材料が硬化したものである。第1セメント系水硬性材料は、少なくともセメントと水とを混和した流動体である。第1セメント系水硬性材料は、例えば、セメントに対して骨材である砂利や砂などを混ぜたセメント混合物と水と混和したコンクリートである。
【0010】
ライニング構造10は、接着層13、繊維シート14、および、ライニング層15を有する。接着層13は、地下躯体12の内表面12aを被覆する。繊維シート14は、接着層13およびライニング層15の双方に含まれるように配設されている。ライニング層15は、接着層13を介して地下躯体12の内表面12aを被覆する。なお、以下では、地下躯体12から漏れた水がライニング構造10に与える圧力を背面水圧という。
【0011】
(接着層について)
図2に示すように、接着層13は、地下躯体12の内表面12aにセメント系接着材を塗布する接着材塗布工程を経て形成される。接着層13は、地下躯体12の内表面12aに塗布されたセメント系接着材が硬化したものである。セメント系接着材は、地下空間が湿潤環境になりやすいことから、湿潤環境においても地下躯体12に対して良好な接着性を示す。
【0012】
セメント系接着材は、セメント系防水材であることが好ましい。セメント系防水材は、基成分にセメント類を用いたものであり、合成樹脂、ケイ酸質微粉末、脂肪酸塩などを含むことで透水・吸水に対する対抗性能を高めた防水材である。
【0013】
セメント類とは、普通ポルトランドセメント、早強セメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱セメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、シリカセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、超速硬セメント、アルミナセメント、エコセメントのいずれかを指す。これらのうちの一つまたは二種類以上から選ばれたセメントを用いたセメントペースト、モルタル、コンクリートなどの第2セメント系水硬性材料をセメント系接着材として用いることが可能である。
【0014】
第2セメント系水硬性材料は、フライアッシュセメントやシリカセメントであることが好ましい。フライアッシュセメントは、フライアッシュを含有するセメント系水硬性材料である。シリカセメントは、シリカヒュームを含有するセメント系水硬性材料である。フライアッシュやシリカヒュームは、それ自体が水和反応を起こすものではないが、セメントに含まれる水酸化カルシウムとポラゾン反応を起こして硬化体を生成するポラゾン反応性物質である。第2セメント系水硬性材料としてフライアッシュセメントやシリカセメントを用いることにより、接着層13にクラックが生じたとしても、そのクラックに硬化体が生成されることとなる。その結果、地下空間への漏水をより抑制することができる。
【0015】
第2セメント系水硬性材料は、減水剤、AE剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤硬化促進剤、凝結遅延剤、消泡剤などの混和剤やポリプロピレン、ビニロン、ナイロンなどの短繊維を単独、または数種類混合したものであってもよい。
【0016】
そのほか、セメント系接着材としては、エチレン酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、樹脂アスファルト、SBR、ラテックスなど、日本工業規格JISA6203:2015「セメント混和用ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂」の規格を満足するのセメント混和用ポリマーディスパージョンや再乳化型粉末樹脂と第2セメント系水硬性材料との混合物も使用できる。
【0017】
(繊維シートについて)
繊維シート14は、未硬化状態にある接着層13に対し、張付工程を経て張り付けられる。繊維シート14は、立体網目構造を有している。繊維シート14の素材としては、有機の合成繊維、天然繊維、半合成繊維、無機繊維のいずれでもよく、具体的には、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、アクリル樹脂、ビニロン、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、レーヨン、アラミド繊維、耐アルカリガラス繊維、バサルト繊維、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、液晶ポリマー、綿、麻のいずれか一つまたは二種類以上から選ばれる。そのなかでも、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ビニロンが好適である。
【0018】
繊維シート14の一例は、ベース繊維25と起毛状繊維26とで構成される。
図3に示すように、ベース繊維25は、網目状をなしている。ベース繊維25としては、織布、ニット布、ネット状布、不織布などが挙げられる。網目状をなすベース繊維25の目合いEは、起毛状繊維26の密度にかかわる。目合いEは、網目部分における最大幅である。目合いEは、未硬化状態にある接着層13への埋込性や後述するアンカー効果の観点から、0.1mm以上50mm以下であることが好ましい。
【0019】
起毛状繊維26は、ベース繊維25から起毛する立体形状を有する。起毛状繊維26は、ベース繊維25に対するライニング層15側の面にのみ形成されていてもよいし、ベース繊維25の両面に形成されていてもよい。
【0020】
起毛状繊維26は、ベース繊維25から容易に抜けたり外れたりしないように、ベース繊維25に対する織り込み、編み込み、絡め込み、埋め込み、接着などの方法によって固定される。こうした起毛状繊維26の形状としては、ループ繊維状およびカット繊維状のほか、渦巻繊維状、無方向繊維状などが例示できる。
【0021】
図4に示すように、ループ繊維状の起毛状繊維26は、環状形状の繊維がその一部においてベース繊維25に接合されたものである。なお、起毛状繊維26において、起毛状繊維26そのものの長さをパイル長さL、自立状態におけるベース繊維25からの高さをパイル高さHという。なお、
図1,6~8においては、ベース繊維25に対するライニング層15側の面にループ状の起毛状繊維26が形成された繊維シート14を示している。
【0022】
図5(a)~
図5(c)に示すように、カット繊維状の起毛状繊維26は、ベース繊維25に接合された基端部とベース繊維25から離れている先端部とを有する。カット繊維状の起毛状繊維26について、
図5(a)は、キノコ状の起毛状繊維を示す。
図5(b)は、フック状の起毛状繊維を示す。
図5(c)は、マッチ棒状の起毛状繊維を示す。カット繊維状の起毛状繊維26は、例えば、ベース繊維25から延びるパイル本体28と、パイル本体28の先端に一体に設けられたパイル先端部29とを有する。パイル先端部29は、パイル本体28の中心軸30を基準として、パイル本体28の先端から側方へ延びる部分を有する。
【0023】
図6に示すように、繊維シート14は、未硬化状態の接着層13に対して張り付けられる。繊維シート14は、接着層13の表面13aから起毛状繊維26の一部が毛羽立つように張り付けられる。セメント系接着材が硬化して接着層13が形成されると、接着層13の表面13aから毛羽立つ毛羽立ち部分31が形成される。また、毛羽立ち部分31の高さは、5mm以下であることが好ましい。この毛羽立ち部分31によって、ライニング層15と接着層13との間にアンカー効果が生じるため、接着層13とライニング層15との接着性、および、接着層13を介した地下躯体12とライニング層15との接着性を向上させることができる。
【0024】
繊維シート14は、1枚で地下躯体12の内表面12aの全体を覆ってもよい。しかしながら、その場合は繊維シート14が大きくなってしまい取り扱いにくくなる。そのため、繊維シート14は、地下躯体12の内表面12aの全体を覆うように並べて張り付けられることが好ましい。複数の繊維シート14は、隣接する繊維シート14との間に隙間がないように張り付けられることが好ましい。これにより、ライニング構造10において、機械的強度の弱い部分が局所的に形成されにくくなる。複数の繊維シート14は、互いの外周部が重畳することで隙間なく張り付けられてもよい。互いの外周部が重畳することにより、その重畳部分における強度を高めることができる。また、複数の繊維シート14は、互いの外周部が隣接することで隙間なく張り付けられてもよい。互いの外周部が隣接することにより、繊維シート14の使用量を抑えることができる。
【0025】
図7に示すように、地下躯体12は、内表面12aを構成する複数の面(
図7では2つの面33,34)が交差する角部35を有する。こうした角部35においては、1枚の繊維シート14が、それら複数の面に跨がるようにして接着層13に張り付けられることが好ましい。これにより、角部35からの漏水を効果的に抑えることができる。
【0026】
(ライニング層について)
ライニング層15は、硬化後の接着層13に樹脂ライニング材を塗布するライニング工程を経て形成される。ライニング層15は、硬化後の接着層13に塗布された樹脂ライニング材が硬化したものである。樹脂ライニング材の素材としては、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレア樹脂、ビニルエステル樹脂などが挙げられる。
【0027】
図1に示すように、樹脂ライニング材は、ライニング層15に毛羽立ち部分31が埋設されるように塗布されることが好ましい。樹脂ライニング材は、毛羽立ち部分31が埋設される十分な膜厚が得られるよう重ね塗りされることが好ましい。
【0028】
(防水構造の実施例について)
次に、防水構造を形成した試験体に対して行った背面水圧に関する実験とその結果について説明する。
【0029】
まず、実験方法について説明する。
図8に示すように、試験体40は、コンクリート板41の表面41aにライニング構造10を形成したものとした。
【0030】
具体的には、まず、コンクリート板41に直径10mmの貫通路42を形成したのち、表面41aにおける貫通路42の開口を濾紙などで覆ってからコンクリート板41の表面41aにセメント系接着材を厚さ2mmで塗布した。その後、未硬化状態にある接着層13に繊維シート14を張り付けた。そして、セメント系接着材を硬化させて接着層13を形成したのち、樹脂ライニング材を塗布して硬化させ、ライニング層15を形成した。
【0031】
次に、コンクリート板41の裏面41b側から加圧水を供給可能な状態で貫通路42をエポキシ樹脂系の接着材で封止した。そして、貫通路42に加圧水を供給した。
実験に使用したライニング構造10の具体的な構成を表1に示す。
【0032】
【0033】
表1に示すように、本実施形態の実施例1では、コンクリート板41を水湿したうえで、セメント系接着材として、日本建築学会JASS8-M-301-2014「ケイ酸質系塗布防水材の品質および試験方法」の品質基準を満たすケイ酸質系塗布防水材を塗布した。このケイ酸質系塗布防水材の材齢28日での圧縮強度は27.8N/mm2、吸水率は13.4%であった。繊維シート14は、ベース繊維25にポリプロピレン、起毛状繊維26にビニロンを用い、ベース繊維25にループ状の起毛状繊維26を編み込んだものとした。この繊維シート14は、繊維径32μm、目付72g/m2、目合い1.82mm、自立状態での起毛状繊維26のパイル高さが2.47mmであった。樹脂ライニング材は、エポキシ樹脂とし、毛羽立ち部分31が埋設されるように塗布した。
【0034】
実施例2では、コンクリート板41にEVA系ポリマーディスパージョンの3倍希釈液を塗布したうえで、セメント系接着材としてポリマーセメントペーストを塗布した。このポリマーセメントペーストは、普通ポルトランドセメント、シリカヒューム、エチレン酢酸ビニル樹脂系ポリマーディスパージョン、水道水、および、ポリカルボン酸系高性能減水剤を使用し、普通ポルトランドセメントとシリカヒュームの合計量である結合材について、結合材中へのシリカヒュームの置換割合(SF/B)を10%、水結合材比(W/B)を20%、ポリマー結合材比(P/B)を8%、ポリカルボン酸系高性能減水剤の添加量(Ad/B)を0.6%とした。また、このポリマーセメントペーストの材齢28日での圧縮強度は65.4N/mm2、吸水率は2.2%であった。繊維シート14および樹脂ライニング材は、実施例1と同じ構成とした。
【0035】
また、比較例1として、コンクリート板41の表面41aに、エポキシ樹脂からなるライニング層15のみを形成した。ライニング層の厚さは、実施例と同程度とした。
比較例2として、コンクリート板41の表面41aに、実施例1と同一のケイ酸質系塗布防水材を用いた接着層13に、エポキシ樹脂からなるライニング層15を形成した。接着層13の厚さおよびライニング層15の厚さは、実施例と同程度とした。
【0036】
比較例3として、実施例2と同一のポリマーセメントペーストを用いた接着層13に、エポキシ樹脂からなるライニング層15を形成した。接着層13の厚さおよびライニング層15の厚さは、実施例と同程度とした。
【0037】
比較例4として、日本建築学会「ポリマーセメント系塗膜防水工事施工指針(案)・同解説」の品質基準を満たすポリマーセメント系塗膜防水材を用いた接着層13に、エポキシ樹脂からなるライニング層15を形成した。接着層13の厚さおよびライニング層15の厚さは、実施例と同程度とした。
【0038】
実験結果について説明する。
実施例1では、0.5MPaの加圧水を貫通路42に供給した状態を5分間維持加したところ、コンクリート平板41の表面41aと接着層13の界面で剥離および接着層13の凝集破断が生じた。実施例2では、0.5MPaの加圧水を7日間維持しても接着層13およびライニング層15に膨れや破断が生じなかった。
【0039】
一方、比較例1では、0.5MPaの加圧水による圧力を加えた直後にコンクリート板の表面41aとライニング層15との界面に水が溜まり、ライニング層15に膨れおよび破断が生じた。比較体2および比較例3では、0.5MPaの加圧水による圧力を加えた直後に接着層13とライニング層15との間に水が溜まり、ライニング層15に膨れが生じた。比較例4では、0.2MPaの加圧水による圧力を保持して15分後に接着層13とライニング層15に膨れおよび破断が生じた。
【0040】
すなわち、接着層13、繊維シート14、およびライニング層15を有するライニング構造10によって、接着層13とライニング層15の間を強固に接合することができた。さらに接着層13を緻密で優れた強度の材料とすることで、地下躯体12の内表面12aと接着層13との間も強固に接合し、良好な水密性が得られることが確認された。
【0041】
本実施形態の効果について説明する。
(1)ライニング構造10によれば、地下躯体12に対して良好な密性を得ることができる。また、繊維シート14によるアンカー効果によって、背面水圧に起因した接着層13の破断、ライニング層15の破断、および、ライニング層15の膨れなどが生じにくくなる。
【0042】
(2)ライニング構造10は、地下躯体12が形成する地下空間において一連の作業を行うことができる。このため、既存のライニング構造に補修などが必要となった場合にも、上述したライニング構造10を適用することができる。
【0043】
(3)ライニング工程では、毛羽立ち部分31が埋設されるように樹脂ライニング材が塗布される。これにより、毛羽立ち部分31によるアンカー効果を効果的に得ることができる。また、毛羽立ち部分31をガイドラインとして、樹脂ライニング材を塗布できるため、ライニング層15の厚さを十分なものとすることができる。
【0044】
(4)未硬化状態の接着層13に対して複数の繊維シート14が隙間なく張り付けられることにより、ライニング構造10において、接着層13とライニング層15との接着性の弱い部分が局所的に形成されにくくなる。
【0045】
(5)未硬化状態にある接着層13に対し、複数の繊維シート14を互いの外周部が重畳するように張り付けることにより、接着層13とライニング層15との接着性の弱い部分が確実に形成されにくくなる。
【0046】
(6)複数の面が交差する角部35においては、その複数の面に跨がるように1枚の繊維シート14が張り付けられることにより、当該角部35からの漏水を効果的に抑えることができる。
【0047】
(7)毛羽立ち部分31の高さが繊維シート14の厚さの半分程度であることにより、接着層13に対する起毛状繊維26の接着性、および、ライニング層15に対する起毛状繊維26の接着性をバランスよく得ることができる。
【0048】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・複数の繊維シート14は、その境界部分が角部35に配置されてもよい。
【0049】
・複数の繊維シート14は、若干の隙間を空けて張り付けられてもよい。若干の隙間は、例えば、隣接する繊維シート14の起毛状繊維26が接触可能な程度の隙間である。
・ライニング構造10においては、ライニング層15の表面から毛羽立ち部分31の一部がはみ出していてもよい。
【0050】
・繊維シート14は、立体網目構造を有していればよく、ベース繊維25と起毛状繊維26とを有するものに限られない。
・ライニング構造10が適用されるセメント製構造物は、地中11に設置された地下躯体12に限らず、地上部分に設置されたものであってもよい。
【0051】
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(付記1)
セメント製構造物の表面を被覆するセメント系接着材からなる接着層と、
前記接着層に積層されて、前記接着層を被覆する樹脂ライニング材からなるライニング層と、
前記接着層と前記ライニング層とに跨がるように配設される繊維シートであって、前記ライニング層に含まれる毛羽立ち部分を有する立体網目構造の前記繊維シートと、を備えるライニング構造。
【符号の説明】
【0052】
10…ライニング構造、11…地中、12…地下躯体、12a…内表面、13…接着層、13a…表面、14…繊維シート、15…ライニング層、25…ベース繊維、26…起毛状繊維、28…パイル本体、29…パイル先端部、30…中心軸、31…毛羽立ち部分、33,34…面、35…角部、40…試験体、41…コンクリート板、41a…表面、41b…裏面、42…貫通路。