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  • 特開-水素透過膜およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019093
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】水素透過膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20230202BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20230202BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20230202BHJP
   C01B 3/56 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D69/10
B01D69/12
C01B3/56 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123575
(22)【出願日】2021-07-28
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000159618
【氏名又は名称】吉川工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇佐川 準
(72)【発明者】
【氏名】加納 達也
(72)【発明者】
【氏名】網谷 健児
【テーマコード(参考)】
4D006
4G140
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA09
4D006MA31
4D006MB03
4D006MC02
4D006MC02X
4D006NA31
4D006NA50
4D006PB66
4G140FA06
4G140FB09
4G140FC01
4G140FD06
4G140FE01
(57)【要約】
【課題】安価で水素透過性に優れた水素透過膜を提供する。
【解決手段】水素透過膜は、平均細孔径が0.05~20μmである円筒状の多孔質体3と、この多孔質体3の表面に形成された厚みが0.05~5μmのPdまたはPd合金膜2と、このPdまたはPd合金膜2の表面に形成された厚みが1~500μmのZr、NbおよびNiを含む溶射皮膜1と、この溶射皮膜1の表面に形成された厚みが0.05~5μmのPdまたはPd合金膜2にて構成された積層構造を有する。この水素透過膜は、円筒状の多孔質体3の表面に、PdまたはPd合金膜2を形成する工程と、このPdまたはPd合金膜2の表面に、溶射皮膜1をプラズマ溶射法により形成する工程と、この溶射皮膜1の表面に、PdまたはPd合金膜2を形成する工程により製造する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均細孔径が0.05~20μmである円筒状の多孔質体と、この多孔質体の表面に形成された厚みが0.05~5μmのPdまたはPd合金膜と、このPdまたはPd合金膜の表面に形成された厚みが1~500μmのZr、NbおよびNiを含む溶射皮膜と、この溶射皮膜の表面に形成された厚みが0.05~5μmのPdまたはPd合金膜にて構成された積層構造を有する、水素透過膜。
【請求項2】
溶射皮膜中の気孔に封孔剤が充填されている、請求項1に記載の水素透過膜。
【請求項3】
溶射皮膜の組成は、Zr:25~55原子%、Ni:25~65原子%、Nb:10~25原子%であり、アモルファスの割合が90%以上である、請求項1または2に記載の水素透過膜。
【請求項4】
平均細孔径が0.05~20μmである円筒状の多孔質体の表面に、厚みが0.05~5μmのPdまたはPd合金膜を形成する工程と、
このPdまたはPd合金膜の表面に、厚みが1~500μmのZr、NbおよびNiを含む溶射皮膜をプラズマ溶射法により形成する工程と、
この溶射皮膜の表面に、厚みが0.05~5μmのPdまたはPd合金膜を形成する工程を含む、水素透過膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスと不純ガスの混合ガスの中から水素ガスを選択的に分離する水素透過膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エネルギー源として石油、石炭などの化石燃料が使用されてきたが、地球温暖化抑制の観点から環境にやさしい水素の使用拡大が経産省等の国主導で進められている。その反応は水素と酸素から水を生成させるものであり二酸化炭素を全く排出しないため、クリーン社会を実現するために重要な技術である。
【0003】
水素を含むガスから水素のみを取り出すために、これまでPSA(圧力振動吸着)法やPd膜法が公知の技術として使用されている(例えば、特許文献1)。PSA法では、水蒸気改質され生成した水素や一酸化炭素、水蒸気等を含むガスを、大型吸着分離塔で水素以外の不純物を吸着除去し、水素ガスを取り出すが、設置設備が大きく、騒音もあり、不純物をある程度吸着した後で回復させる処理作業が必要などの課題がある。Pd膜法では、高価な貴金属であるPdを主体に耐久性を考慮した厚みにて使用するために価格面で障害となる。
【0004】
またPd以外の金属膜法として、V合金などの結晶金属を用いる方法や、水素を透過させる金属を含んだアモルファス金属を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献2、3)。しかし、V合金などの結晶金属を用いる方法は、水素透過時の脆化により耐久性が低くなる課題がある。
【0005】
一方、アモルファス金属を用いる方法は、製造法として、スパッタリング法や、単ロール法が使用されている。スパッタリング法は成膜速度が低く、生産性に課題がある。また単ロール法では、幅の寸法が限られたリボン状となるため、表面積を大きくすることが難しい。またアモルファス金属は高温になると結晶状態に変化するため溶接による接合ができず、このため、単ロール法で製造されたリボンは、円筒状につなぎ合わせてユニット化することが困難である。さらに単ロール法で製造されたリボン状のアモルファス膜は基材と一体化していないため、強度を高めるために多孔質基材に接着する工程が必要となる。接着されていない膜部分は、水素透過時に変形して破壊されやすい。
【0006】
一方、特許文献4では、金属ガラス粉末を高速フレーム溶射法によって成膜する方法が提案されている。そして特許文献4の段落0022には、Nb、V、Ti、Ta、Zrなどの金属が水素透過性能を有することが知られており、このような金属を中心とする金属ガラスは、水素選択透過性を発揮し得る旨の記載がある。しかし、このような金属を中心とする金属ガラスの水素透過性は十分ではない。
【0007】
以上の理由から、Pd膜以外の金属膜は水素透過膜として広く工業的に使用されるまでに至っていない。しかし、上述のとおりPd膜法では、高価な貴金属であるPdを主体に耐久性を考慮した厚みにて使用するため価格面で問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-289948号公報
【特許文献2】特開2008-264740号公報
【特許文献3】特開2005-334828号公報
【特許文献4】特開2006-159108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、安価で水素透過性に優れた水素透過膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の水素透過膜は、平均細孔径が0.05~20μmである円筒状の多孔質体と、この多孔質体の表面に形成された厚みが0.05~5μmのPdまたはPd合金膜と、このPdまたはPd合金膜の表面に形成された厚みが1~500μmのZr、NbおよびNiを含む溶射皮膜と、この溶射皮膜の表面に形成された厚みが0.05~5μmのPdまたはPd合金膜にて構成された積層構造を有する。
【0011】
また水素透過膜の製造方法は、平均細孔径が0.05~20μmである円筒状の多孔質体の表面に、厚みが0.05~5μmのPdまたはPd合金膜を形成する工程と、このPdまたはPd合金膜の表面に、厚みが1~500μmのZr、NbおよびNiを含む溶射皮膜をプラズマ溶射法により形成する工程と、この溶射皮膜の表面に、厚みが0.05~5μmのPdまたはPd合金膜を形成する工程を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安価で水素透過性に優れた水素透過膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態である水素透過膜の構成を模式的に示す断面図である。
図2】溶射皮膜をプラズマ溶射法により形成するためのプラズマ溶射装置の断面図である。
図3】プラズマ溶射法により形成した溶射皮膜の断面を示すSEM写真である。
図4】本発明の実施例で作製した水素透過膜の水素透過性を測定する模式図である。
図5】本発明の実施例で作製した水素透過膜の水素透過性を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の水素透過膜について、図表を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態である水素透過膜の構成を模式的に示す断面図である。水素透過膜は、平均細孔径が0.05~20μmである円筒状の多孔質体3と、この多孔質体3の表面に形成された厚みが0.05~5μmのPdまたはPd合金膜2と、このPdまたはPd合金膜2の表面に形成された厚みが1~500μmのZr、NbおよびNiを含むアモルファス状態の溶射皮膜1と、この溶射皮膜1の表面に形成された厚みが0.05~5μmのPdまたはPd合金膜2にて構成された積層構造を有している。
【0015】
このように溶射皮膜を用いることで円筒状のユニットを製造する際も溶接の必要がなく、製造工程を簡略化できる。また、溶接が不要であるため溶射皮膜1のアモルファス状態を維持することができる。また、表面に凹凸のある溶射皮膜1の上にPdまたはPd合金膜2を形成することで、表面積を増大させ、水素透過量を向上させることができる。さらに、溶射皮膜1には圧縮応力が生じ、円筒状の多孔質体3との密着性を向上させことができる。
【0016】
溶射皮膜1は、Zr、NiおよびNbといった非常に酸化されやすい元素を有するため、図2に示すような、プラズマ溶射装置を用いて形成する。当該装置は特開2017-222921号公報に開示されたプラズマ溶射装置であって、プラズマジェットを噴射するプラズマ噴射部5と、プラズマ噴射部5から噴射されるプラズマジェットを囲むように配置され、先端が開放された二重円筒部6と、二重円筒部6の内筒内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部7と、二重円筒部6の内筒内に溶射材料を供給する材料供給部9と、二重円筒部6の外筒と内筒の間に不活性ガスを供給して噴射させる不活性ガス噴射部8を有する。供給する粉末を溶融させた後に急速冷却させることで、アモルファス状の溶射皮膜を形成でき、水素透過膜の製造において好適に使用できる手法である。
【0017】
触媒となるPdまたはPd合金膜2は、めっき法、蒸着、スパッタ法などの手法で多孔質体3と溶射皮膜1間、および溶射皮膜1表面に成膜させる。
【0018】
封孔剤4は溶射皮膜1表面への塗布、あるいは封孔剤への溶射皮膜の浸漬、あるいはこれらの後に真空引きを実施することで溶射皮膜1中の気孔に充填させ、表面の余分な封孔剤は硬化前の拭き取り、気体の吹付けによるブロー、あるいは封孔剤硬化後の研磨・ブラスト処理などによって除去する。すなわち、溶射皮膜1とPdまたはPd合金膜2の間には封孔剤が実質的になく、溶射皮膜1とPdまたはPd合金膜2が接触することで水素の透過経路が確保されるようにする。なお、封孔剤は高温でも比較的安定な無機系の材料を主体としたものが望ましく、具体的にはアルコキシシラン化合物を主成分とした無機系封孔剤を好適に使用できる。
【0019】
溶射皮膜1の組成は、Zr:25~55原子%、Ni:25~65原子%、Nb:10~25原子%である。溶射皮膜1が水素透過膜の主層となるが、Zr、Ni、Nbの含有量を振って、水素脆化性、熱脆化性、機械特性等を検討したところ、上記が脆化の傾向を抑制するために望ましい範囲であった。またこのときの溶射皮膜1のアモルファスの割合は90%以上であった。なお、溶射皮膜1のアモルファスの割合は熱分析法により特定することができる。
【0020】
多孔質体3の平均細孔径は0.05~20μmが適する。0.05μm未満では多孔質体3の表面に形成するPdまたはPd合金膜2や溶射皮膜3との密着力が弱くなり剥離しやすい。一方、平均細孔径が20μm以上になると表面の凹凸が大きくなり、連続した溶射皮膜3を形成するために大きな膜厚が必要になる。このため、水素透過能力が低下することに加え、溶射材料のコストが大きくなり、実用に適さない。なお、多孔質体3の平均細孔径は水銀圧入法により特定することができる。
【0021】
溶射皮膜1の厚みは1~500μmが適する。1μm未満では現行の溶射技術では連続した皮膜の形成が困難である。また上記のプラズマ溶射装置にて比較的粒径が小さい粉末を溶射した場合、ある程度の膜厚になると図3に示すように、緻密な溶射層を形成しやすいことがわかっている。一方、溶射皮膜の厚みが大きすぎると水素の透過量が大きく低減するため、500μm以下が適する。連続した緻密な溶射皮膜の形成のしやすさ、水素の透過能力、製造コストを考慮すれば、溶射皮膜の厚みは10~300μmがより好ましい。
【0022】
PdまたはPd合金膜2の厚みは0.05~5μmが適する。0.05μm以上であれば触媒効果が発現できる。また触媒層の厚みを大きくすると触媒効果は飽和してくるため、触媒層の厚みは5μm以下が適する。十分な触媒効果を得ること、および高価なPdの使用量の削減を考慮すれば、触媒層の厚みは0.1~2μmがより好ましい。
【実施例0023】
多孔質部分の面積が1188mmであるSUS316製の円筒状の多孔質体(平均細孔径=4.37μm)の表面に厚み0.5μmのPd膜をめっき法により形成し、その上にZr:30原子%、Ni:52原子%、Nb:18原子%を含む溶射皮膜をプラズマ溶射法で厚み280μmに成膜した。溶射の際は、溶射皮膜の気孔・未溶融粒子・酸化を極力少なくするために、図2に示したプラズマ溶射装置を用い、プラズマ出力は100kWにて行った。溶射皮膜の気孔に封孔剤を浸透・固化させ、表面に残る余分な封孔剤を除去した後、その上に厚み0.5μmのPd膜をめっき法で形成して水素透過膜を作製した。
【0024】
作製した水素透過膜は図4に示す測定装置によって水素透過量を測定した。水素ガスはガス供給口10から流入し、水素透過膜11が形成された円筒状の多孔質体12の外側から水素透過膜11を通って内側に透過した後、流量計へと繋がる水素ガス回収口13へ流れる。透過しなかったガスはガス排出口14へ流れる。
【0025】
作製した水素透過膜について、事前に水素より分子径が小さいヘリウムを流して水素以外のガスが透過しないことを確認した後、300℃にて、1次圧(円筒の外側):20kPa、2次圧(円筒の内側):0kPaで水素透過性を評価した結果、図5に示すように、4.08cm/分の水素透過量を得ることができた。水素透過係数を算出すると、厚さ100μmのPd膜が6.70×10-9mol・m-1・Pa-1/2であったのに対し、上記の水素透過膜は4.58×10-9mol・m-1・Pa-1/2であった。
【0026】
このように本発明によれば、従来のPd膜法に比べてPdの使用量を少なくすることができ、しかも従来のPd膜法に近い水素透過係数を得ることができる。すなわち本発明によれば、安価で水素透過性に優れた水素透過膜を提供することができる。
【符号の説明】
【0027】
1:溶射皮膜
2:PdまたはPd合金膜
3:円筒状の多孔質体
4:封孔剤
5:プラズマ噴射部
6:二重円筒部
7:不活性ガス供給部
8:不活性ガス噴射部
9:材料供給部
10:ガス供給部
11:水素透過膜
12:円筒状の多孔質体
13:水素ガス回収口
14:ガス排出口
図1
図2
図3
図4
図5