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特開2023-19103銅めっき膜および銅めっき膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019103
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】銅めっき膜および銅めっき膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/16 20060101AFI20230202BHJP
   C25D 3/38 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C25D5/16
C25D3/38 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123585
(22)【出願日】2021-07-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年4月5日に、新井進、岩下稜介、清水雅裕、井上淳期、堀田将臣、長岡崇、板橋雅巳が、MDPIによって発行されるオープンアクセス科学雑誌「metals Volume 11,Issue4(April 2021),591,MDPI」にて発明を公開
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 進
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
【Fターム(参考)】
4K023AA04
4K023AA19
4K023BA06
4K023CB03
4K023CB32
4K023DA06
4K024AA09
4K024AB01
4K024AB02
4K024AB09
4K024BA02
4K024BA09
4K024CA01
4K024CA02
4K024CA04
4K024CA06
4K024DA09
4K024GA01
4K024GA12
4K024GA16
(57)【要約】
【課題】従来の粗面化銅めっき膜では得られない作用を備える銅めっき膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る銅めっき膜は、析出物が密に詰まった緻密層上に、100nm以下の粒状の析出物が、空隙を含んで堆積した粗面化層が形成されていることを特徴とする。本発明に係る銅めっき膜の製造方法は、ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩を添加した銅めっき浴に、基材を浸し、電流を流す電解銅めっき工程を含み、前記銅めっき浴における前記ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩の濃度、前記電流の電流密度、または、前記銅めっき浴における銅イオン濃度を、それぞれ所定に設定することを特徴とする。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
析出物が密に詰まった緻密層上に、100nm以下の粒状の析出物が、空隙を含んで堆積した粗面化層が形成されていること
を特徴とする銅めっき膜。
【請求項2】
前記粗面化層の厚さは、20nm以上であること
を特徴とする請求項1記載の銅めっき膜。
【請求項3】
ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩を添加した銅めっき浴に、基材を浸し、電流を流す電解銅めっき工程を含み、
前記銅めっき浴における前記ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩の濃度を3×10-4M以上とし、前記電流の電流密度を2.5Adm-2以上とすること、
もしくは、前記銅めっき浴における前記ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩の濃度を5×10-4M以上とし、前記電流の電流密度を1.5Adm-2以上とすること、
もしくは、前記銅めっき浴における前記ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩の濃度を7×10-4M以上とし、前記電流の電流密度を1.0Adm-2以上とすること、
もしくは、前記銅めっき浴における前記ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩の濃度を1×10-3M以上とし、前記電流の電流密度を0.8Adm-2以上とすること
を特徴とする銅めっき膜の製造方法。
ただし、前記銅めっき浴における前記ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩の濃度の上限を3×10-3Mとし、前記電流密度の上限を5.0Adm-2とする。
【請求項4】
ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩を添加した銅めっき浴に、基材を浸し、電流を流す電解銅めっき工程を含み、
前記銅めっき浴における銅イオン濃度を0.3M~0.5Mとし、前記銅めっき浴における前記ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩の濃度を3×10-4M以上とし、前記電流の電流密度を1.0Adm-2以上とすること
を特徴とする銅めっき膜の製造方法。
ただし、前記銅めっき浴における前記ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩の濃度の上限を3×10-3Mとし、前記電流密度の上限を5.0Adm-2とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅めっき膜および銅めっき膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、基材(被めっき物)上に、板状の析出物が空隙を含んで交錯する銅めっき膜を発明した(特許文献1:特開2015-42776号公報)。
【0003】
当該銅めっき膜は、大きな比表面積や、複雑な微細構造を備えることから、電池用電極の集電体の皮膜とすれば、多量の活物質を固定し、その剥落を抑制できる。また、当該銅めっき膜によるアンカー作用により強固な接合力を備える樹脂材との接合体を形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-42776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の板状の析出物が交錯する銅めっき膜は、従来の平滑性を有する通常の銅めっき膜とは対照的な粗面化銅めっき膜であって、大きな比表面積や粗面状の表面形態が求められる様々な製品形態および製品形状に利用できる。本発明は、このような粗面化銅めっき膜に係る発明であって、従来よりもさらに比表面積が大きくなると共に機械的強度が増し、樹脂材に対してより強固に接合可能であり、また、微細構造化することで銅の融点よりも低温での溶融が可能で銅-銅接合用途にも利用可能な銅めっき膜を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の通り、従来の粗面化銅めっき膜では得られない作用を備える銅めっき膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0008】
本発明に係る銅めっき膜は、析出物が密に詰まった緻密層上に、100nm以下の粒状の析出物が、空隙を含んで堆積した粗面化層が形成されていることを特徴とする。
【0009】
前記粗面化層の厚さは、20nm以上であることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る銅めっき膜の製造方法は、ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩を添加した銅めっき浴に、基材を浸し、電流を流す電解銅めっき工程を含み、前記銅めっき浴における前記ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩の濃度を3×10-4M以上とし、前記電流の電流密度を2.5Adm-2以上とすること、もしくは、前記銅めっき浴における前記ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩の濃度を5×10-4M以上とし、前記電流の電流密度を1.5Adm-2以上とすること、もしくは、前記銅めっき浴における前記ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩の濃度を7×10-4M以上とし、前記電流の電流密度を1.0Adm-2以上とすること、もしくは、前記銅めっき浴における前記ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩の濃度を1×10-3M以上とし、前記電流の電流密度を0.8Adm-2以上とすることを特徴とする。
ただし、前記銅めっき浴における前記ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩の濃度の上限を3×10-3Mとし、前記電流密度の上限を5.0Adm-2とする。
【0011】
また、本発明に係る銅めっき膜の他の製造方法は、ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩を添加した銅めっき浴に、基材を浸し、電流を流す電解銅めっき工程を含み、前記銅めっき浴における銅イオン濃度を0.3M~0.5Mとし、前記銅めっき浴における前記ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩の濃度を3×10-4M以上とし、前記電流の電流密度を1.0Adm-2以上とすることを特徴とする。
ただし、前記銅めっき浴における前記ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩の濃度の上限を3×10-3Mとし、前記電流密度の上限を5.0Adm-2とする。
【0012】
これによれば、析出物が密に詰まった緻密層上に、100nm以下の粒状の析出物が、空隙を含んで堆積した粗面化層が形成された銅めっき膜を製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来よりもさらに微細構造化された粗面化層によって、比表面積がより大きくなると共に機械的強度が増し、樹脂材に対してより強固に接合可能であり、また、微細構造化することで銅の融点よりも低温での溶融が可能で銅-銅接合用途にも利用し得る銅めっき膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、ポリアクリル酸濃度を3×10-4Mとし、電流密度を0.5Adm-2~3.0Adm-2に変化させた場合の銅めっき膜の表面および断面のSEM写真を示す。
図2図2は、図1(i)(j)の拡大写真を示す。
図3図3は、ポリアクリル酸濃度を5×10-4Mとし、電流密度を0.5Adm-2~2.0Adm-2に変化させた場合の銅めっき膜の表面および断面のSEM写真を示す。
図4図4は、図3(e)(f)の拡大写真を示す。
図5図5は、ポリアクリル酸濃度を1×10-3Mとし、電流密度を0.5Adm-2~2.0Adm-2に変化させた場合の銅めっき膜の表面および断面のSEM写真を示す。
図6図6は、図5(c)(d)の拡大写真を示す。
図7図7は、図5(e)(f)の拡大写真を示す。
図8図8は、ポリアクリル酸濃度を0M~5×10-4Mに変化させ、電流密度を1.0Adm-2とした場合の銅めっき膜の表面および断面のSEM写真を示す。
図9図9は、ポリアクリル酸濃度を7×10-4M~5×10-3Mに変化させ、電流密度を1.0Adm-2とした場合の銅めっき膜の表面および断面のSEM写真を示す。
図10図10は、図9(a)(b)の拡大写真を示す。
図11図11は、図9(c)(d)の拡大写真を示す。
図12図12は、ポリアクリル酸濃度を0M~5×10-4Mに変化させ、電流密度を2.0Adm-2とした場合の銅めっき膜の表面および断面のSEM写真を示す。
図13図13は、図12(g)(h)の拡大写真を示す。
図14図14は、銅イオン濃度を0.1M~1.0Mに変化させた場合の銅めっき膜の表面のSEM写真を示す。
図15図15は、図14(e)(f)の拡大写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係る銅めっき膜は、析出物が密に詰まった緻密層上に、100nm以下の粒状の析出物が、空隙を含んで堆積した粗面化層が形成されていることを特徴としている。
【0016】
本実施形態に係る銅めっき膜は、電解めっき法によって形成できる。電解めっき法は、電解液からなるめっき浴に基材を浸し、電流を流すことで電解液中の金属イオンを基材上に析出させる方法である。したがって、基材は導電体に限定されるが、その中での種類は限定されない。一例として、銅、鉄鋼等の各種の金属を用いることができる。また、基材の形状および大きさは限定されない。また、基材上に適宜ストライクめっきを施してもよい。
【0017】
本実施形態では、電解銅めっき法として、銅を含む電解液からなるめっき浴に基材を浸し、電流を流すことで基材上に銅めっき膜を形成させる。電解液の組成は限定されず、一例として、硫酸銅(CuSO)および硫酸(HSO)を含む硫酸塩浴等とすればよい。そして、当該銅めっき浴に、所定量のポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩を添加することで、従来の平滑性を有する通常の銅めっき膜とは対照的な粗面化銅めっき膜を形成できる。
【0018】
その仕組みは、例えばポリアクリル酸を添加することにより、ポリアクリル酸が基材の特定の結晶面に優先的に吸着してそこからの銅の析出を抑えることで、ポリアクリル酸が吸着していない結晶面からのみ銅が析出する。また、ポリアクリル酸は析出した銅に対しても特定の結晶面に優先的に吸着する。その結果、析出物は厚み方向にはそれ程成長せず、長さ方向に成長することから、一例として、板状の析出物が空隙を含んで交錯した銅めっき膜、すなわち、板状の析出物が叢生した粗面化銅めっき膜が形成される(図12(e)(f)参照)。
【0019】
本実施形態では、ポリアクリル酸の添加量を多く、且つ、電流を流す際の電流密度を高くすることで、上記の板状の析出物が叢生した構造とは異なる、微細な粒状の析出物が特定の方向性を持って堆積した棒状体が叢生した構造に形成させることを特徴とする。すなわち、電流密度を高くすることで基材上に次々に新しい銅の核を形成させると共に、ポリアクリル酸で析出箇所および析出方向を規制することによって、析出物が密に詰まった緻密層上に、100nm以下の粒状の析出物が、空隙を含んで堆積した粗面化層を形成させることができる(図12(g)(h)および図13参照)。
【0020】
具体的には、第1の条件として、銅めっき浴におけるポリアクリル酸濃度を3×10-4M以上とし電流密度を2.5Adm-2以上(より好適には2.8Adm-2以上)とすること、もしくは、ポリアクリル酸濃度を5×10-4M以上とし電流密度を1.5Adm-2以上(より好適には1.8Adm-2以上)とすること、もしくは、ポリアクリル酸濃度を7×10-4M以上とし電流密度を1.0Adm-2以上とすること、もしくは、ポリアクリル酸濃度を1×10-3M以上とし電流密度を0.8Adm-2以上とする。
この条件において、ポリアクリル酸濃度または電流密度が上記範囲よりも低いと、板状の析出物からなる粗面化銅めっき膜が形成される。これに対して、ポリアクリル酸濃度または電流密度を上記範囲まで上げると、緻密な粒状の析出物が形成されるようになり、ポリアクリル酸濃度または電流密度を高くする程板状の抽出物からなる構造と明確に区別できるようになる。
ポリアクリル酸濃度を5×10-3M以上にすると、全体が緻密層のみからなる銅めっき膜が形成されることから、ポリアクリル酸濃度の上限を3×10-3とする。また、電流密度の上限を5.0Adm-2とするが、これよりも高く設定してもよい。なお、この条件において、銅イオン濃度は限定されない。一例として、0.3M程度に低くしてもよく、1.0M程度に高くしてもよい。
【0021】
また、本実施形態では、銅めっき浴中の銅イオン濃度を低めにすることで、ポリアクリル酸濃度および電流密度を必ずしも高くすることなく、微細な粒状の析出物からなる粗面化層を形成させることもできる(図14(e)(f)および図15参照)。具体的には、第2の条件として、銅めっき浴における銅イオン濃度を0.3M~0.5Mとし、銅めっき浴におけるポリアクリル酸濃度を3×10-4M以上とし電流密度を1.0Adm-2以上とする。このように、銅イオン濃度を0.3M~0.5Mの範囲に低く抑えることで、ポリアクリル酸濃度または電流密度を第1の条件のように上げずとも、第1の条件同様に粗面化層を形成させることができる。第2の条件においても、ポリアクリル酸濃度の上限を3×10-3とし、電流密度の上限を5.0Adm-2とする。
【0022】
なお、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸誘導体またはポリアクリル酸誘導体塩であっても取り扱いは変わらず、上記の第1の条件または第2の条件をそのまま適用することができる。
【0023】
以上の方法によって製造される、本実施形態に係る銅めっき膜は、基材上に、析出物が密に詰まった厚さ1.5μm~2.0μm程度の緻密層を有する(図12(g)(h)および図13参照)。ただし、緻密層の厚さは電析条件によって調整し得る。これによって、基材との界面が密になって吸着力が増し、基材に安定的に接合している。緻密層は、特に基材が銅である場合、基材と一体化して基材との界面が無くなる。ここでいう緻密層における「析出物が密に詰まった」状態とは、少なくとも緻密層を粗面化層と区別し得る程度に析出物が密に詰まった状態をいい、一定程度の空隙が混在している状態を含む。
【0024】
また、本実施形態に係る銅めっき膜は、上記の緻密層上に、100nm以下の微細な粒状の析出物が、空隙を含んで堆積した粗面化層を有する(図12(g)(h)および図13参照)。より詳しくは、この微細な粒状の析出物が特定の方向性を持って堆積した棒状体が叢生した粗面化構造が形成されている。析出物は方向性を持って堆積して棒状体を形成しているものの、当該棒状体は所々に膨らみを帯びており、各棒状体の長さも一様でなく、従来よりも比表面積が大きく且つ複雑な形態を有し、これによる強力なアンカー作用によって強固な接合力を備える樹脂材との接合体を形成できる。また、微細な析出物によって結晶子サイズが小さくなることから、従来よりも機械的強度が高く、射出成形時の衝撃等で粗面化層が破砕、変形することもない。
【0025】
そして、従来よりも微細化された結晶子により銅の融点よりも低温での溶融が可能であると共に、高比表面積を有する複雑形態により酸化にも強く、銅-銅接合用途にも利用し得る。
【0026】
なお、粗面化層の厚さは、電析条件によって調整することができ、20nm程またはそれ以下に薄くすることや、1μm程またはそれ以上に厚くすることができる。用途によって好適な厚さは異なるものの、本実施形態に係る銅めっき膜は、従来よりもはるかに薄い膜であっても、より強固な接合力で樹脂材に接合し得る。
【実施例0027】
電解銅めっき法において、ポリアクリル酸濃度および電流密度を変化させて銅めっき膜を製造した。
【0028】
(1)めっき浴組成
硫酸銅・五水和物(CuSO・5HO) 0.85M
硫酸(HSO) 0.55M
ポリアクリル酸(分子量約5000) 0M~5×10-3
(2)電析条件
陽極:含リン銅板
陰極(基材):銅板(実施例1-4)、銅ストライクめっきを施した鉄鋼板(実施例5)
電流密度:0.5Adm-2~3.0Adm-2
通電量:27C(実施例1-4)、4.1Ccm-2(実施例5)
浴温:25℃
【0029】
(実施例1)
図1に、ポリアクリル酸濃度を3×10-4Mとし、電流密度を0.5Adm-2~3.0Adm-2に変化させた場合の銅めっき膜の表面および断面のSEM写真を示す。
【0030】
電流密度0.5Adm-2では、板状の析出物が空隙を含んで交錯した銅めっき膜が得られた(図1(a)(b))。電流密度を増大させていくと、板状の析出物が小さくなり空隙が狭くなると共に、電流密度1.5Adm-2では板状の析出物が一部崩壊し始め、電流密度2.0Adm-2ではさらに進行した(図1(c)~(h))。
電流密度3.0Adm-2では、100nm以下の粒状の析出物が、空隙を含んで堆積した粗面化層が形成された銅めっき膜が得られた(図1(i)(j)および図2)。
【0031】
(実施例2)
図3に、ポリアクリル酸濃度を5×10-4Mとし、電流密度を0.5Adm-2~2.0Adm-2に変化させた場合の銅めっき膜の表面および断面のSEM写真を示す。
【0032】
電流密度0.5Adm-2では、板状の析出物が空隙を含んで交錯した銅めっき膜が得られた(図3(a)(b))。電流密度1.0Adm-2では、板状の析出物が小さくなり空隙が狭くなると共に、板状の析出物が一部崩壊していた(図3(c)(d))。
電流密度2.0Adm-2では、100nm以下の粒状の析出物が、空隙を含んで堆積した粗面化層が形成された銅めっき膜が得られた(図3(e)(f)および図4)。
【0033】
(実施例3)
図5に、ポリアクリル酸濃度を1×10-3Mとし、電流密度を0.5Adm-2~2.0Adm-2に変化させた場合の銅めっき膜の表面および断面のSEM写真を示す。
【0034】
電流密度0.5Adm-2では、板状の析出物が空隙を含んで交錯した銅めっき膜が得られたが、板状の析出物が一部崩壊していた(図5(a)(b))。
電流密度1.0Adm-2では、100nm以下の粒状の析出物が、空隙を含んで堆積した粗面化層が形成された銅めっき膜が得られた(図5(c)(d)および図6)。電流密度2.0Adm-2では、粒状の析出物がさらに小さくなり空隙が狭くなった(図5(e)(f)および図7)。
【0035】
図1、3、5から分かるように、所定量のポリアクリル酸を添加したうえで、電流密度を大きくしていくと、析出物が小さく細かくなり、板状の析出物からなる構造が微細な粒状の析出物からなる構造に変化した。微細な粒状の析出物からなる層は、板状の析出物からなる層よりも薄く、粗面化層の内面に析出物が密に詰まった緻密層が形成されているはずであるが、同種金属である銅板と一体化して基材との界面が無くなっており、外観上判別できなかった。
【0036】
(実施例4)
図8に、ポリアクリル酸濃度を0M~5×10-4Mに変化させ、電流密度を1.0Adm-2とした場合の銅めっき膜の表面および断面のSEM写真を示す。図9に、ポリアクリル酸濃度を7×10-4M~5×10-3Mに変化させ、電流密度を1.0Adm-2とした場合の銅めっき膜の表面および断面のSEM写真を示す。
【0037】
ポリアクリル酸濃度0M(無添加)では、大きめの粒子からなる緻密な銅めっき膜が形成され、表面に凹凸を有していた(図8(a)(b))。ポリアクリル酸濃度5×10-5Mでは、粒子が小さくなり、ある程度空隙を含み、表面の凹凸が大きくなった(図8(c)(d))。ポリアクリル酸濃度3×10-4Mでは、板状の析出物が空隙を含んで交錯した銅めっき膜が得られた(図8(e)(f))。ポリアクリル酸濃度5×10-4Mでは、板状の析出物が小さくなり空隙が狭くなると共に、板状の析出物の崩壊がかなり進んだ(図8(g)(h))。
【0038】
ポリアクリル酸濃度7×10-4Mでは、100nm以下の粒状の析出物が、空隙を含んで堆積した粗面化層が形成された銅めっき膜が得られた(図9(a)(b)および図10)。ポリアクリル酸濃度1×10-3Mでは、粒状の析出物がさらに微細化した(図9(c)(d)および図11)。ポリアクリル酸濃度5×10-3Mでは、全体が緻密層のみからなる銅めっき膜が得られた(図9(e)(f))。
【0039】
(実施例5)
図12に、ポリアクリル酸濃度を0M~5×10-4Mに変化させ、電流密度を2.0Adm-2とした場合の銅めっき膜の表面および断面のSEM写真を示す。各図における挿入写真は対応する拡大写真を示す。
【0040】
ポリアクリル酸濃度0M(無添加)では、銅めっき膜の表面に1μm~3μm程度の粒子からなる緻密な銅めっき膜が形成され、表面に1μm程度の凹凸を有していた(図12(a)(b))。ポリアクリル酸濃度5×10-5Mでは、無添加のものと類似の形態であったが、ある程度空隙を含み、表面の凹凸が大きくなった(図12(c)(d))。ポリアクリル酸濃度3×10-4Mでは、厚さ30nm~40nm程度の板状の析出物が空隙を含んで交錯した銅めっき膜が得られた(図12(e)(f))。膜の厚さは4μm程度であった。
【0041】
ポリアクリル酸濃度5×10-4Mでは、10nm~100nm程度の微細な粒状の析出物が空隙を含んで堆積した銅めっき膜が得られた(図12(g)(h)および図13)。より詳しくは、粒状の析出物が特定の方向性を持って堆積した棒状体が叢生した櫛歯状の粗面化層が形成された。粗面化層の厚さは300nm程度であった。粗面化層の内面には、析出物が密に詰まった厚さ1.5μm~2μm程度の緻密層が形成された。
【0042】
(実施例6)
電解銅めっき法において、銅イオン濃度を変化させて銅めっき膜を製造した。
【0043】
(1)めっき浴組成
硫酸銅・五水和物(CuSO・5HO) 0.1M~1.0M
硫酸(HSO) 0.55M
ポリアクリル酸(分子量約5000) 3×10-4
(2)電析条件
陽極:含リン銅板
陰極(基材):銅板
電流密度:1.0Adm-2
通電量:27C
浴温:25℃
【0044】
図14に、銅イオン濃度を0.1M~1.0Mに変化させた場合の銅めっき膜の表面のSEM写真を示す(紙面上の右列は対応する左列の拡大写真を示す)。
【0045】
銅イオン濃度0.1Mでは、緻密な銅めっき膜が得られた(図14(a)(b))。銅イオン濃度0.2Mでは、析出物の詰まりが緩和し(図14(c)(d))、銅イオン濃度0.5Mでは、100nm以下の粒状の析出物が、空隙を含んで堆積した粗面化層が形成された銅めっき膜が得られた(図14(e)(f)および図15)。銅イオン濃度0.85M以上では、板状の析出物が空隙を含んで交錯した銅めっき膜が得られた(図14(g)~(j))。
【0046】
このことから、銅めっき浴中の銅イオン濃度を低く抑えることで、ポリアクリル酸濃度および電流密度を必ずしも高くすることなく、微細な粒状の析出物からなる粗面化層を形成できることが示された。
図1
図2
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図15