(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019104
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】金属膜および金属膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 5/16 20060101AFI20230202BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20230202BHJP
C25D 3/38 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C25D5/16
C25D5/50
C25D3/38 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123586
(22)【出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 進
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
【Fターム(参考)】
4K023AA04
4K023AA19
4K023BA06
4K023CB32
4K023DA02
4K023DA06
4K023DA07
4K023DA08
4K023DA11
4K024AA09
4K024AB01
4K024AB08
4K024AB09
4K024AB19
4K024BA02
4K024BA03
4K024BA09
4K024BB09
4K024CA01
4K024CA02
4K024CA04
4K024CA06
4K024DA03
4K024DA04
4K024DA09
4K024DB01
4K024GA01
4K024GA07
4K024GA12
(57)【要約】
【課題】基材上に、銅からなるナノ析出物が空隙を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜が目的に応じて変形した金属膜を製造する方法であって、膜全体としての機械的強度が向上した構造や、より優れたアンカー効果を発揮できる構造を備える金属膜を、簡易に、基材への負荷を少なく実現可能な金属膜の製造方法およびそれらの金属膜を提供する。
【解決手段】本発明に係る金属膜の製造方法は、電解めっき法により、基材上に、銅からなるナノ析出物が空隙を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜を形成させるめっき工程と、前記銅めっき膜を銅の融点以下の温度で熱処理をする低温熱処理工程と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、銅からなるナノ析出物が空隙を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜が変形した金属膜であって、
前記基材上に、前記ナノ析出物同士が融着して形成された不規則形の析出物が、
前記ナノ析出物に混在し若しくは置換して、空隙を含んで堆積し若しくは交錯する三次元構造に形成されていること
を特徴とする金属膜。
【請求項2】
基材上に、銅からなるナノ析出物が空隙を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜が変形した金属膜であって、
前記ナノ析出物同士が融着して、前記基材上に、空隙を含まない銅からなる膜が形成されていること
を特徴とする金属膜。
【請求項3】
前記ナノ析出物は、10nm以上100nm未満であること
を特徴とする請求項1または請求項2記載の金属膜。
【請求項4】
前記ナノ析出物は、粒子状または板状であること
を特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の金属膜。
【請求項5】
前記基材は、銅からなること
を特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の金属膜。
【請求項6】
電解めっき法により、基材上に、銅からなるナノ析出物が空隙を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜を形成させるめっき工程と、
前記銅めっき膜を銅の融点以下の温度で熱処理をする低温熱処理工程と、を含むこと
を特徴とする金属膜の製造方法。
【請求項7】
前記低温熱処理工程において、前記熱処理により、前記ナノ析出物同士を融着させて不規則形の析出物を形成し、
前記基材上に、前記不規則形の析出物が、前記ナノ析出物に混在し若しくは置換して、空隙を含んで堆積し若しくは交錯する三次元構造を形成させること
を特徴とする請求項6記載の金属膜の製造方法。
【請求項8】
前記低温熱処理工程において、前記熱処理により、前記ナノ析出物同士を融着させて、
前記基材上に、空隙を含まない銅からなる膜を形成させること
を特徴とする請求項6記載の金属膜の製造方法。
【請求項9】
前記めっき工程において、前記電解めっき法により、10nm以上100nm未満のナノ析出物が空隙を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜を形成させること
を特徴とする請求項6記載の金属膜の製造方法。
【請求項10】
前記めっき工程において、前記電解めっき法により、粒子状のナノ析出物が空隙を含んで堆積し、または板状のナノ析出物が空隙を含んで交錯する三次元構造を備える銅めっき膜を形成させること
を特徴とする請求項6または請求項9記載の金属膜の製造方法。
【請求項11】
前記めっき工程において、めっき浴にポリアクリル酸を添加すること
を特徴とする請求項6~10のいずれか1項に記載の金属膜の製造方法。
【請求項12】
前記基材は、銅からなること
を特徴とする請求項6~11のいずれか1項に記載の金属膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属膜および金属膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、基材(被めっき物)上に、銅からなる微細なナノ析出物が空隙(隙間)を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造(このように、析出物が空隙(隙間)を含んで堆積しまたは交錯する構造を、本願では「三次元構造」と表記する。ただし、必ずしも全ての析出物間に空隙を有しているとは限らない)を備える銅めっき膜を発明した(特許文献1:特開2015-42776号公報)。当該銅めっき膜は、基材表面に微細な三次元構造を付与することができ、様々な応用分野がある。
【0003】
一例として、当該三次元構造は、きわめて大きな比表面積や、空隙を含んだ不均一で複雑な形態を有し、優れたアンカー効果(接合性)を発揮することから、この銅めっき膜を形成させた銅を、リチウムイオン電池の負極集電体とすれば、スズ、シリコン等の活物質を多量に固定でき、且つ、それらの剥落を抑制できる。また、この銅めっき膜に樹脂材を強固に接合できる(特許文献2:特開2019-151090号公報)。このように、当該銅めっき膜に係る一連の発明は、我が国の産業を大いに発達させ得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-42776号公報
【特許文献2】特開2019-151090号公報
【特許文献3】特開2017-106093号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yoichi Kamikoriyama, Hiroshi Imamura, Atsushi Muramatsu & Kiyoshi Kanie, “Ambient Aqueous-Phase Synthesis of Copper Nanoparticles and Nanopastes with Low-Temperature Sintering and Ultra-High Bonding Abilities”, SCIENTIFIC REPORTS, 29 January 2019, 9:899
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、従来の銅めっき膜に係る課題として、三次元構造に係るナノ析出物の機械的強度が必ずしも十分でないこと、また、基材との接合面積が小さく、基材との密着性が弱いことがあり、膜全体としての機械的強度が必ずしも十分でないことが挙げられる。これに対して、特許文献3(特開2017-106093号公報)では、基材上にナノ析出物を形成した後、析出物の基部側に選択的に銅を析出させる添加剤を加えためっき浴を使用した補強めっきをさらに施すことで、接合面積を大きくし、密着性を強めて、膜全体としての機械的強度の向上を図っている。しかしながら、この場合、添加剤を使用した再度のめっき工程を実施する必要があることから、手間がかかり、コストも大きくなりやすい。こうしたことから、従来の銅めっき膜に係る三次元構造を、より簡易に、基材への負荷を少なく変形して、特性や機能を改善させまたは向上させた構造や、新たな課題の解決に応用し得る構造を作り出す方法の確立が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、基材上に、銅からなるナノ析出物が空隙を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜が目的に応じて変形した金属膜を製造する方法であって、膜全体としての機械的強度が向上した構造や、より優れたアンカー効果を発揮できる構造を備える金属膜を、簡易に、基材への負荷を少なく実現可能な金属膜の製造方法およびそれらの金属膜を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0009】
本発明に係る金属膜の製造方法は、電解めっき法により、基材上に、銅からなるナノ析出物が空隙を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜を形成させるめっき工程と、前記銅めっき膜を銅の融点以下の温度で熱処理をする低温熱処理工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
これによれば、銅めっき膜に係るナノ析出物同士を融着させて変形し、樹脂材等の接合等により適した新たな構造を備える金属膜を製造することができる。このとき、熱処理温度によって融着の度合いを調整し、複数種類の金属膜を製造することができる。そして、銅の融点以下の低温プロセスにより基材への高温負荷を少なくして、添加剤等を使用しないことにより基材へ化学的影響を与えることなく、その表面形態を所望の形態に形成することができ、エネルギーや材料コストを抑えつつ、きわめて簡易な方法で、微細な三次元構造を、樹脂材等の接合等により適した形態へと変形することができる。
【0011】
具体的に、前記低温熱処理工程において、前記熱処理により、前記ナノ析出物同士を融着させて不規則形の析出物を形成し、前記基材上に、前記不規則形の析出物が、前記ナノ析出物に混在し若しくは置換して、空隙を含んで堆積し若しくは交錯する三次元構造を形成させることができる。あるいは、前記低温熱処理工程において、前記熱処理により、前記ナノ析出物同士を融着させて、前記基材上に、空隙を含まない銅からなる膜を形成させることができる。
【0012】
また、前記めっき工程において、前記電解めっき法により、10nm以上100nm未満の数十nmサイズのナノ析出物が空隙を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜を形成させることができる。あるいは、前記めっき工程において、前記電解めっき法により、粒子状のナノ析出物が空隙を含んで堆積し、または板状のナノ析出物が空隙を含んで交錯する三次元構造を備える銅めっき膜を形成させることができる。そして、これらの銅めっき膜を、低温熱処理工程において所望の形態に変形させることができる。
【0013】
具体的に、前記低温熱処理工程において、前記熱処理により、前記粒子状のナノ析出物同士または前記板状のナノ析出物同士を融着させて不規則形の析出物を形成し、前記基材上に、前記不規則形の析出物が、前記粒子状のナノ析出物に混在し若しくは置換して、空隙を含んで堆積し、または、前記板状のナノ析出物に混在し若しくは置換して、空隙を含んで交錯する三次元構造を形成させることができる。あるいは、前記低温熱処理工程において、前記熱処理により、前記粒子状のナノ析出物同士または前記板状のナノ析出物同士を融着させて、前記基材上に、空隙を含まない銅からなる膜を形成させることができる。
【0014】
また、前記めっき工程において、めっき浴にポリアクリル酸を添加することができる。また、前記基材は、銅からなるものを適用できる。
【0015】
また、本発明に係る金属膜は、基材上に、銅からなるナノ析出物が空隙を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜が変形した金属膜であって、前記基材上に、前記ナノ析出物同士が融着して形成された不規則形の析出物が、前記ナノ析出物に混在し若しくは置換して、空隙を含んで堆積し若しくは交錯する三次元構造に形成されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る別の金属膜は、銅からなるナノ析出物が空隙を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜が変形した金属膜であって、前記ナノ析出物同士が融着して、前記基材上に、空隙を含まない銅からなる膜が形成されていることを特徴とする。
【0017】
また、前記ナノ析出物は、10nm以上100nm未満の数十nmサイズであり得る。すなわち、本発明に係る金属膜は、基材上に、銅からなる10nm以上100nm未満のナノ析出物が空隙を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜が変形した金属膜であり得る。
【0018】
また、前記ナノ析出物は、粒子状または板状のナノ析出物であり得る。すなわち、本発明に係る金属膜は、基材上に、銅からなる粒子状のナノ析出物が空隙を含んで堆積し、または板状のナノ析出物が空隙を含んで交錯する三次元構造を備える銅めっき膜が変形した金属膜であり得る。この場合、本発明に係る金属膜は、前記基材上に、前記粒子状のナノ粒子同士または前記板状のナノ粒子同士が融着して形成された不規則形の析出物が、前記粒子状のナノ析出物に混在し若しくは置換して、空隙を含んで堆積し、または、前記板状のナノ析出物に混在し若しくは置換して、空隙を含んで交錯する三次元構造に形成されている金属膜であり得る。また、本発明に係る別の金属膜は、前記粒子状のナノ析出物同士または前記板状のナノ析出物同士が融着して、前記基材上に、空隙を含まない銅からなる膜が形成されている金属膜であり得る。
【0019】
また、前記基材には、銅からなるものを適用できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、銅からなるナノ析出物が空隙を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜を、簡易に、基材への負荷を少なく、所望の形態に変形できる。したがって、膜全体としての機械的強度が向上した構造や、より優れたアンカー効果を発揮できる構造を備える金属膜を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、析出物の三次元構造化の仕組みについて説明する説明図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る銅めっき膜の表面および断面のSEM写真である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例に係る熱処理前および熱処理後の銅めっき膜の表面および断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(金属膜の製造方法)
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る金属膜の製造方法について説明する。なお、本願では、熱処理後の銅めっき膜を、原則として「金属膜」と表記しているが、説明の都合上、「熱処理後の銅めっき膜」とそのまま表記する場合がある。本実施形態に係る金属膜の製造方法は、電解めっき法により、基材上に、銅からなるナノ析出物が空隙を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜を形成させるめっき工程S1と、前記銅めっき膜を銅の融点以下の温度で熱処理をする低温熱処理工程S2と、を含むことを特徴とする。以下、詳細に説明する。
【0023】
本発明は、銅からなるナノ析出物が空隙を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜が変形した新たな構造を備える金属膜を得るものである。したがって、先ず、基材上に、そのような微細な三次元構造を備える銅めっき膜を形成させるめっき工程S1を実施する。本工程S1には、電解めっき法を使用し、具体的には、特許文献1等に記載されている公知の方法で実施すればよい。
【0024】
電解めっき法は、電解液からなるめっき浴に基材を浸し、電気を流すことで電解液中の金属イオンを基材上に析出させる方法である。したがって、基材は導電体に限定されるが、その中での種類は限定されない。一例として、銅、鉄鋼等の各種の金属を用いることができる。また、基材の形状および大きさは限定されない。また、基材上に適宜ストライクめっきを施してもよい。本願でいう「基材」とは、このようなストライクめっき膜が形成された基材を含む。
【0025】
本工程S1では、電解銅めっき法として、銅を含む電解液からなるめっき浴に基材を浸し、電流を流すことで基材上に銅めっき膜を形成させる。このとき、めっき浴に所定量のポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸誘導体またはそのいずれかの塩を添加することで、一例として、板状のナノ析出物からなる微細な三次元構造を形成させることができる(特許文献1)。その仕組みは、
図1に示すように、例えばポリアクリル酸を添加することにより、ポリアクリル酸が基材(
図1では、銅板)の特定の結晶面に優先的に吸着して、そこからの銅の析出を抑えることで(
図1(a))、ポリアクリル酸が吸着していない結晶面からのみ銅が析出する(
図1(b))。さらに、ポリアクリル酸は析出した銅に対しても特定の結晶面に優先的に吸着する(
図1(c))。その結果、銅めっき(銅の析出物)は、特定の方向性を持って成長し(
図1(d))、基材上に、銅からなる厚さ数十nm程度の不均一な薄板のナノ析出物が交錯し、空隙を含んで重なり合う微細な三次元構造(
図2(a)(b))を形成させることができる。
【0026】
なお、ポリアクリル酸濃度等を調整することで、一例として、板状のナノ析出物に変えて、粒子状のナノ析出物からなる三次元構造が形成される仕組みも基本的には同じであり、上記の通り、ポリアクリル酸の選択的吸着による析出物(銅)の選択的成長によって、板状、粒子状等の不均一なナノ析出物からなる特徴的な三次元構造が形成される。本願でいう「ナノ析出物」とは、10nm以上100nm未満の数十nm程度のサイズの析出物を意味し、板状の析出物では厚さが数十nm程度であること、粒子状の析出物では直径が数十nm程度であることを意味する。
【0027】
ここで、一例として、
図2(a)~(d)に、本工程S1に係る銅めっき膜の例をSEM写真で示す。各図における挿入写真は対応する拡大写真を示す。当該銅めっき膜は、硫酸銅・五水和物(CuSO
4・5H
2O)および硫酸(H
2SO
4)を含むめっき浴に所定量のポリアクリル酸(分子量約5000)を添加し、また、含リン銅板を陽極とし、一方、銅ストライクめっき膜を形成させた鉄鋼板を陰極として、所定の電析条件で基材である当該鉄鋼板上(ストライクめっき膜上)に銅を析出させたものである。
【0028】
図2(a)はポリアクリル酸3×10
-4M含有のめっき浴で形成した銅めっき膜の表面、
図2(b)はその断面であって、基材上に、厚さ30nm~40nm程度の不均一な板状のナノ析出物が空隙を含んで互いに交錯する三次元構造、すなわち、板状の析出物が叢生した三次元構造が形成されている。一方、
図2(c)はポリアクリル酸5×10
-4M含有めっき浴で形成した銅めっき膜の表面、
図2(d)はその断面であって、基材上に、数十nm程度の不均一な粒子状のナノ析出物が空隙を含んで堆積する三次元構造、すなわち、粒子状のナノ析出物が特定の方向性を持って堆積した棒状体が叢生した三次元構造が形成されている。
図2(a)(b)に係る銅めっき膜は空隙を含む微細且つ複雑な交錯形態によって、
図2(c)(d)に係る銅めっき膜は空隙を含む微細且つ複雑な凹凸形態によって、いずれも樹脂材等に対して優れたアンカー効果(接合性)を発揮できる。また、これらの粗面化膜はきわめて大きな比表面積を有することから、樹脂材等を接合した場合に界面の距離が長くなり、その奥まで水分が浸透しにくい結果、界面での腐食にも強く、優れた接着耐久効果を発揮できる。
【0029】
このように、ポリアクリル酸濃度を調整することで析出物の形状を調整できる。また、銅イオン濃度(ここでは、硫酸銅・五水和物の濃度)等のめっき浴組成や、電流密度、浴温等の電析条件を調整することで、三次元構造の厚さや、析出物の形状、大きさ、緻密さ(空隙の大きさ、多少)等を調整できる。したがって、本工程S1で形成させる銅めっき膜におけるナノ析出物の形状は限定されない。また、
図2(c)(d)に示すように、三次元構造が比較的薄くなって、析出物が密に詰まった下地の層が形成されていてもよい。
【0030】
次に、工程S1により形成させた銅めっき膜を、銅の融点(1083℃)以下の温度で熱処理をする低温熱処理工程S2を実施する。これにより、銅めっき膜に係るナノ析出物同士を融着させて変形し、樹脂材等の接合等により適した新たな構造を備える金属膜を製造することができる。このとき、熱処理温度によって融着の度合いを調整し、複数種類の金属膜を製造することができる。本工程S2によれば、銅の融点以下の低温プロセス(実施例では、300℃)により基材への高温負荷を少なくして、添加剤等を使用しないことにより基材へ化学的影響を与えることなく、その表面形態を所望の形態に形成することができる。したがって、基材には、熱に弱い材料や化学的影響を受けやすい材料であっても適用でき、これらの基材への負荷を少なく、エネルギーや材料コストを抑えつつ、きわめて簡易な方法で、微細な三次元構造を、樹脂材等の接合等により適した形態へと変形することができる。
【0031】
本工程S2に係る熱処理は、銅めっき膜を形成させた基材を、銅の融点以下の所定温度で1時間程度保持すればよい。酸化に対して不活性雰囲気(真空中、アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等)や還元性雰囲気(水素ガス雰囲気等)で実施すると、より好ましい。以下、本実施形態に係る方法によって製造可能な金属膜の形態(構造)および産業上利用可能性について、実施例を示して説明する。
【実施例0032】
(金属膜の形態)
本実施形態に係る工程S1に沿って、以下の条件により基材である銅板上に銅めっき膜を形成した。
【0033】
(1)めっき浴組成
硫酸銅・五水和物(CuSO4・5H2O) 0.85M
硫酸(H2SO4) 0.55M
ポリアクリル酸(分子量約5000) 3×10-4M
(2)電析条件(電析は電流規制法によって行う)
陽極:含リン銅板
陰極(基材):銅板
電流密度:1.0Adm-2
通電量:27C
浴温:25℃
【0034】
ポリアクリル酸には、富士フイルム和光純薬製の商品名:「ポリアクリル酸 5,000」を使用した。また、基材である銅板は、10cm2の部分を除いてマスキングテープでマスキングして絶縁し、前処理として、5分間超音波洗浄してから市販の脱脂剤(60℃)で5分間脱脂し、その後10%硫酸(60℃)で1分間酸洗いしたものを使用した。
【0035】
次に、銅板に形成させた銅めっき膜を、それぞれ300℃、500℃、700℃、900℃で熱処理した。熱処理には、アルバック製の卓上型ランプ加熱装置、商品名:「MILA-3000」を使用した。装置内に銅板を収容して設定温度まで加熱し、1時間保持して熱処理した後、自然冷却により室温付近まで冷却し、装置内から銅板を取り出した。熱処理中の装置内の雰囲気モードは「真空中」に設定した。
【0036】
図3に、熱処理前後の銅めっき膜の表面および断面のSEM写真を示す。
図3(a)は熱処理前の表面、
図3(b)はその断面であって、本実施形態に係る工程S1によって形成された銅めっき膜である。銅からなる厚さ30nm~40nm程度の不均一な板状のナノ析出物が空隙を含んで交錯する微細な三次元構造が確認された。
【0037】
また、
図3(c)は熱処理温度300℃の表面、
図3(d)はその断面である。
図3(e)は熱処理温度500℃の表面、
図3(f)はその断面である。
図3(g)は熱処理温度700℃の表面、
図3(h)はその断面である。
図3(i)は熱処理温度900℃の表面、
図3(j)はその断面である。
【0038】
300℃~900℃で熱処理したいずれの銅めっき膜でも、熱処理前と比較して板状のナノ析出物同士の融着による構造の変化が確認された(
図3(c)~(j))。熱処理温度300℃の銅めっき膜では、板状のナノ析出物同士が融着して形成された不規則形の析出物が、当該ナノ析出物に混在して、交錯し、空隙を含んで重なり合う新たな三次元構造が確認された(
図3(c)(d)および
図4)。また、熱処理温度500℃の銅めっき膜では、板状のナノ析出物同士が融着して形成された不規則形の析出物が、当該ナノ析出物に置換して、交錯し、空隙を含んで重なり合う新たな三次元構造が確認された(
図3(e)(f)および
図5)。新たに形成された不規則形の析出物は、ナノ析出物の微細サイズが緩和して厚みや太さを増し、直線的な板状形状はアール形状へと変形し、尖った角部あるいは端部は丸みを帯び若しくは膨らみを帯びて隅丸ブロック状に変形し、全体として海綿動物様の形態を有すると共に、各部位の厚みや太さが一様でない不規則形に形成されていた。
【0039】
このことから、当該新たに形成された金属膜によれば、熱処理前の銅めっき膜と比較して樹脂材等をより高強度で安定的に接合でき、当該樹脂材等との接合体や、当該金属膜を介した基材と樹脂材等との接合体を、より好適に形成することが可能になる。すなわち、不規則形の析出物によれば、射出成形等により注入される樹脂等が、適度に広がった空隙から好適に入り込み、丸みを帯びたアール形状の内部へと好適に流れ込んで、金属膜中の空隙内に完全に樹脂を注入できる。また、端部等に帯びた膨らみが留め具のように作用して固まった樹脂を係止できる。さらに、当該金属膜は、複数のナノ析出物同士が融着して厚みや太さを増すと共に、基材との接合面積は大きくなり、基材との密着性は向上し、膜全体としての機械的強度が大きく向上している。したがって、射出成形等による樹脂注入の衝撃等によって三次元構造が変形したり、崩壊してしまうこともなく、注入された樹脂材等に優れたアンカー効果を発揮して、当該樹脂材等をより高強度で安定的に接合することができる。
【0040】
なお、熱処理温度500℃の銅めっき膜は、熱処理前と比較して膜厚が所定程度薄くなっており(
図3(b)(f)の矢印参照)、基材である銅板との界面が無くなって膜の一部が銅板と一体化していることが確認できる。このことからも、基材との接合面積が大きくなり、基材との密着性が向上していることは明らかであり、当該金属膜を介した基材と樹脂材等との、より強固な接合体が形成可能になる。
【0041】
一方、熱処理温度700℃および900℃の銅めっき膜では、板状のナノ析出物同士の融着が進んで三次元構造が消失し、空隙を含まない銅からなる膜となって、膜全体が基材である銅板と一体化した構造が確認された(
図3(g)~(j))。これは、銅の融点以下の低温プロセスで、銅と銅とが接合されたことを意味することから、当該新たに形成された金属膜は、銅と銅との同種金属を融点以下の低温で接合し得る接合材として機能し得ることが示された。
【0042】
従来、金属のナノ粒子化による低温焼結性が知られており、非特許文献1には、200℃の窒素雰囲気において、銅ナノペーストを介して2枚の銅板の接合に成功した例が記載されている。しかしながら、この場合、ナノ粒子を安定化させ、且つ酸化を防止するための保護層で被覆しなければならず、また、銅板の接合も不活性雰囲気で行わなければならない。
【0043】
これに対して、本実施例に係る銅めっき膜は既に酸化されており、膜表面に酸化膜が形成されている。しかしながら、それにも関わらず、融点以下の熱処理によって形成された金属膜は、膜全体を基材である銅板と一体化して接合した。これは、ナノ析出物からなる微細な三次元構造によるものと考えられ、当該銅めっき膜は、膜表面が所定程度酸化されている状態であっても、融点以下の低温熱処理によってナノ析出物が融着して変形し、膜全体が同種金属である銅と完全に接合して一体化し得るきわめて特徴的な構造を有していることが示された。さらに、低温熱処理は不活性雰囲気や還元性雰囲気で行うことが勿論好ましいといえるが、既に酸化されている銅めっき膜に対して必ずしもこれらの雰囲気で行うことが必要な訳ではない。
【0044】
以上、実施例によれば、銅からなる微細なナノ析出物が空隙(隙間)を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜を、600℃程度以下の温度、好適には300℃~500℃の温度、より好適には400~500℃程度の温度で熱処理をすることによって、三次元構造を保持したまま、その内部に機械的強度が強く、アンカー効果に優れた不規則形の析出物を導入し、熱処理前の銅めっき膜と比較して樹脂材等をより高強度で安定的に接合可能な金属膜を形成できることが示された。本実施例では、不均一な板状のナノ析出物が空隙を含んで交錯する三次元構造を備える銅めっき膜に熱処理をしたが、例えば、不均一な粒子状のナノ析出物が空隙を含んで堆積する三次元構造を備える銅めっき膜に熱処理をしてもよい。この場合も同じく、三次元構造を保持したまま、その内部にナノ析出物同士が融着した不規則形の析出物が導入された金属膜を形成できる。
【0045】
また、別の実施例によれば、基材を銅からなるものとしたうえで、銅からなる微細なナノ析出物が空隙(隙間)を含んで堆積しまたは交錯する三次元構造を備える銅めっき膜を、600℃程度を超える温度、好適には700℃以上の温度で熱処理をすることによって、三次元構造が消失し、空隙を含まない膜全体が基材である銅と完全に接合して一体化した接合体を形成できることが示された。本実施例でも、不均一な板状のナノ析出物が空隙を含んで交錯する三次元構造を備える銅めっき膜に熱処理をしたが、例えば、不均一な粒子状のナノ析出物が空隙を含んで堆積する三次元構造を備える銅めっき膜に熱処理をしてもよい。また、基材に同以外のものを適用してもよい。この場合も同じく、ナノ析出物同士が融着して、前記基材上に、空隙を含まない銅からなる膜が形成された金属膜を形成できる。