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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019120
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】ピストン及び往復動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/00 20060101AFI20230202BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
F16J9/00 A
F04B39/00 107J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123606
(22)【出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】森中 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】岡田 徹
(72)【発明者】
【氏名】大塚 友裕
【テーマコード(参考)】
3H003
3J044
【Fターム(参考)】
3H003AA02
3H003AC01
3H003BC03
3H003CB08
3J044AA16
3J044AA20
3J044BC03
3J044CA09
3J044CA11
3J044DA10
3J044DA16
(57)【要約】
【課題】複数のピストンリングを備えたピストンにおいて、時間が経過してもピストンリング間の差圧の差が緩和された状態を維持して、ピストンリングの寿命を延長する。
【解決手段】シリンダ10とピストン本体22間の隙間が複数のピストンリング30によって高圧側空間26と低圧側空間28とに仕切られているピストン20において、第1ピストン部材56は高圧側空間26に開口する第1接続路60と第1接続路60に連通する第1貫通孔70とを有し、第2ピストン部材57は低圧側空間28に開口する第2接続路61と第1貫通孔70及び第2接続路61に連通する第2貫通孔71とを有し、第1貫通孔70の第1開口62の開度と第2貫通孔71の第2開口65の開度とが調整されるようにピストン20の周方向における第1ピストン部材56の向きと第2ピストン部材57の向きとの間の相対的な関係が決められる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダを有する往復動圧縮機に用いられるピストンであって、
外周面に複数のリング溝が形成されるピストン本体と、
前記複数のリング溝にそれぞれ配置された複数のピストンリングと、を備え、
前記複数のピストンリングはそれぞれ、前記シリンダ及び前記ピストン本体間の隙間を、当該ピストンリングの高圧側空間と当該ピストンリングの低圧側空間とに仕切り、
前記ピストン本体は、
前記複数のピストンリングのうち1つのピストンリングの高圧側の空間に開口する第1接続路と、前記第1接続路に繋がり前記ピストンの軸方向に貫通する第1貫通孔と、を有する第1ピストン部材と、
前記第1ピストン部材とは別体として構成されており、前記1つのピストンリングの低圧側の空間に開口する第2接続路と、前記第1貫通孔に連通するとともに前記第2接続路に繋がり前記ピストンの軸方向に貫通する第2貫通孔と、を有する第2ピストン部材と、を備え、
前記第1貫通孔における前記第2ピストン部材側の第1開口の開度と、前記第2貫通孔における前記第1ピストン部材側の第2開口の開度とが調整されるように、前記ピストンの周方向における前記第1ピストン部材の向きと前記第2ピストン部材の向きとの間の相対的な関係が決められる、ピストン。
【請求項2】
前記ピストン本体は、
前記第1ピストン部材を含む複数の第1ピストン部材と、
前記第2ピストン部材を含む複数の第2ピストン部材と、備え、
前記複数の第1ピストン部材はそれぞれ、第1接続路と、第1貫通孔と、を有し、
前記複数の第2ピストン部材はそれぞれ、第2接続路と、前記それぞれの第1ピストン部材の前記第1貫通孔に連通する第2貫通孔と、を有している、請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記複数のピストンリングのうち、前記ピストンの軸方向における中央よりも高圧側に配置された少なくとも2つのピストンリングにおいて、
より高圧側に位置するピストンリングに対応する前記第1開口及び前記第2開口の開度の大きさは、より低圧側に位置するピストンリングに対応する前記第1開口及び前記第2開口の大きさ以上である、請求項2に記載のピストン。
【請求項4】
前記複数のピストンリングのうち、前記ピストンの軸方向における中央よりも低圧側に配置された少なくとも2つのピストンリングにおいて、
より低圧側に位置するピストンリングに対応する前記第1開口及び前記第2開口の開度の大きさは、より高圧側に位置するピストンリングに対応する前記第1開口及び前記第2開口の大きさ以上である、請求項2に記載のピストン。
【請求項5】
前記第1開口及び前記第2開口の開度が調整されるように、前記ピストンの周方向における前記第1ピストン部材及び前記第2ピストン部材の相対的な向きを決める位置決め手段を備えている、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のピストン。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のピストンと、前記ピストンを摺動可能に収容するシリンダと、クランク機構とを備える往復動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン及び往復動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、合口が設けられたシールリングと、シールリングの内周に接して配置されるとともにシールリングにガスの圧力を均等に伝えるバックアップリングとを備えたピストンリングが開示されている。特許文献1のピストンリングでは、シールリングの突起部にバックアップリングを係止させて、合口同士が重なること及びリング同士が固着することを防ぎ、ピストンリングのシール性を向上させている。しかし、この構成では、ピストンリングのシール性が高いため、高圧の圧縮機に用いる場合に、一部のピストンリングに大きな差圧が負荷され、当該ピストンリングの寿命が短くなる虞がある。
【0003】
これに対して、特許文献2には、合口からガスを漏らすように構成されたピストンリングを備えた往復動圧縮機が開示されている。特許文献2では、各ピストンリングの合口隙間の大きさが、高圧側から低圧側に向けて小さくするように調整されている。すなわち、この往復動圧縮機では、各ピストンリングに負荷される差圧をより均等にすることで、局所的なピストンリングの摩耗の進行を抑制し、それによって、ピストンリングの寿命を延長しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-32935号公報
【特許文献2】特開2008-157076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の往復動圧縮機では、各ピストンリングの合口隙間の大きさを調整することにより差圧の均等化を図っている。しかしながら、この往復動圧縮機では、ピストンの往復運動によって時間経過とともに各ピストンリングの摩耗が進行するため、それぞれの合口隙間の大きさは、設定された大きさと異なる大きさに変化することがある。このため、各ピストンリングの差圧が調整されている状態は、時間経過とともに維持され難くなり、一部のピストンリングに大きな差圧が負荷されて、ピストンリングの寿命が短くなる虞がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、複数のピストンリングを備えたピストンにおいて、時間が経過してもピストンリング間の差圧の差が緩和された状態を維持して、ピストンリングの寿命を延長させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明に係るピストンは、シリンダを有する往復動圧縮機に用いられるピストンであって、外周面に複数のリング溝が形成されるピストン本体と、前記複数のリング溝にそれぞれ配置された複数のピストンリングと、を備える。前記複数のピストンリングはそれぞれ、前記シリンダ及び前記ピストン本体間の隙間を、当該ピストンリングの高圧側空間と当該ピストンリングの低圧側空間とに仕切る。前記ピストン本体は、前記複数のピストンリングのうち1つのピストンリングの高圧側の空間に開口する第1接続路と前記第1接続路に繋がり前記ピストンの軸方向に貫通する第1貫通孔とを有する第1ピストン部材と、前記第1ピストン部材とは別体として構成されており前記1つのピストンリングの低圧側の空間に開口する第2接続路と前記第1貫通孔に連通するとともに前記第2接続路に繋がり前記ピストンの軸方向に貫通する第2貫通孔とを有する第2ピストン部材と、を備える。前記ピストンは、前記第1貫通孔における前記第2ピストン部材側の第1開口の開度と、前記第2貫通孔における前記第1ピストン部材側の第2開口の開度とが調整されるように、前記ピストンの周方向における前記第1ピストン部材の向きと前記第2ピストン部材の向きとの間の相対的な関係が決められる。
【0008】
このように構成されたピストンでは、1つのピストンリングにおいて高圧側の空間から低圧側の空間にガスが漏れるため、当該ピストンリングに負荷された差圧を低減できる。さらに、当該ピストンリングでは、連通部において第1開口及び第2開口の開度の調整により、高圧側空間から低圧側空間へのガスの漏れ量が調整されているため、当該ピストンリングの差圧の低減具合を調整できる。したがって、ピストンリングに負荷されている差圧の大きさに応じて、複数のピストンリング間の差圧の差を緩和できる。また、ガスを漏らすための接続路及び貫通孔がピストン本体に設けられているため、ピストンの摺動に起因する摩耗や変形が生じ難い。したがって、時間が経過しても複数のピストンリング間の差圧の差は緩和できるため、ピストンリングの寿命を延長できる。
【0009】
前記ピストン本体は、前記第1ピストン部材を含む複数の第1ピストン部材と、前記第2ピストン部材を含む複数の第2ピストン部材と、備えていてもよい。前記複数の第1ピストン部材はそれぞれ、第1接続路と、第1貫通孔と、を有していてもよく、前記複数の第2ピストン部材はそれぞれ、第2接続路と、前記それぞれの第1ピストン部材の前記第1貫通孔に連通する第2貫通孔と、を有していてもよい。
【0010】
この態様では、複数のピストンリングそれぞれにおいて、高圧側の空間から低圧側の空間にガスが漏れるため、各ピストンリングに負荷された差圧を低減できる。このため、各ピストンリング間の差圧の差をより効果的に緩和できる。
【0011】
前記複数のピストンリングのうち、前記ピストンの軸方向における中央よりも高圧側に配置された少なくとも2つのピストンリングにおいて、より高圧側に位置するピストンリングに対応する前記第1開口及び前記第2開口の開度の大きさは、より低圧側に位置するピストンリングに対応する前記第1開口及び前記第2開口の大きさ以上であってもよい。
【0012】
この態様では、中央よりも高圧側に配置された少なくとも2つのピストンリングにおいて、より高圧側のピストンリングほど、高圧側の空間から低圧側の空間へのガスの漏れ量が大きい。このため、より高圧側に位置するピストンリングにより大きな差圧が負荷されている場合に、これらのピストンリング間の差圧の差をより効果的に緩和できる。
【0013】
前記複数のピストンリングのうち、前記ピストンの軸方向における中央よりも低圧側に配置された少なくとも2つのピストンリングにおいて、より低圧側に位置するピストンリングに対応する前記第1開口及び前記第2開口の開度の大きさは、より高圧側に位置するピストンリングに対応する前記第1開口及び前記第2開口の大きさ以上であってもよい。
【0014】
この態様では、中央よりも低圧側に配置された少なくとも2つのピストンリングにおいて、より低圧側のピストンリングほど、高圧側の空間から低圧側の空間へのガスの漏れ量が大きい。このため、より低圧側に位置するピストンリングにより大きな差圧が負荷されている場合に、これらのピストンリング間の差圧の差をより効果的に緩和できる。
【0015】
前記ピストンは、前記第1開口及び前記第2開口の開度が調整されるように、前記ピストンの周方向における前記第1ピストン部材及び前記第2ピストン部材の相対的な向きを決める位置決め手段を備えていてもよい。
【0016】
この態様では、位置決め手段によって第1開口と第2開口の開度を確実に調整できる。
【0017】
前記ピストンは、前記ピストンを摺動可能に収容するシリンダと、クランク機構とを備えた往復動圧縮機に設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数のピストンリングを備えたピストンにおいて、時間が経過してもピストンリング間の差圧の差が緩和された状態を維持して、ピストンリングの寿命を延長されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態に係る往復動圧縮機の一部を概略的に示す断面図である。
図2】第1実施形態に係るピストンの一部を概略的に示す断面図である。
図3】第1実施形態に係るピストンの一部を概略的に示す構成図である。
図4図2のピストンにおけるピストン本体の構成を概略的に示す拡大図である。
図5】第1実施形態に係るピストン本体の一部を概略的に示す構成図である。
図6】(a)(b)第1実施形態に係るピストン本体の連通部の構成を概略的に示す断面図である。
図7】第2実施形態に係るピストン本体の構成を概略的に示す断面図である。
図8】第3実施形態に係るピストン本体の構成を概略的に示す断面図である。
図9】第4実施形態に係るピストン本体の一部を概略的に示す構成図である。
図10】(a)(b)4実施形態に係るピストン本体の位置決め手段の構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る往復動圧縮機(以下「圧縮機100」と称する)の一部の構成を示した概略的な断面図である。以下の説明において、「上」や「下」といった方向指標が用いられる。これらの方向指標は、説明の明瞭化のみを目的としており、限定的に解釈されるべきではない。
【0021】
図1に示すように、圧縮機100は、シリンダ10と、シリンダ10内に摺動可能に配置されたピストン20と、シリンダ10の側面にそれぞれ配置された吸込弁12及び吐出弁14と、シリンダ10の上面に配置されたシリンダヘッド15と、を備える。圧縮機100はさらに、シリンダ10の下方に配置されるとともにピストン20をシリンダ10内で上下方向に往復動させる図略のクランク機構を備えている。
【0022】
シリンダ10には、一方向に延びるとともにシリンダ10の上面に開口する円柱状の内部空間16が形成されており、上面の開口はシリンダヘッド15により塞がれている。シリンダ10には、内部空間16から側方に延びるとともにシリンダ10の側面に開口する吸込流路17と、内部空間16から前記側方と反対の側方に延びるとともにシリンダ10の吸込流路17と反対の側面に開口する吐出流路18と、が形成されている。
【0023】
吸込流路17には、シリンダ10の側面に結合された吸込弁12が設けられている。吸込弁12は、外部から内部空間16へのガスの流入を許容する逆止弁であり、外部から内部空間16にガスを供給するための図略の配管に接続されている。
【0024】
吐出流路18には、シリンダ10の側面に結合された吐出弁14が設けられている。吐出弁14は、内部空間16から外部にガスの流出を許容する逆止弁であり、内部空間16から吐出されたガスを流すための図略の配管に接続されている。
【0025】
ピストン20は、内部空間16内にシリンダ10と同軸に配置されており、シリンダ10の軸長よりも短い軸長を有している。シリンダ10の内部空間16において、ピストン20とシリンダヘッド15との間の部位は圧縮室19として機能する。吸込流路17及び吐出流路18はそれぞれ、圧縮室19と連通している。
【0026】
図2及び図3に示すように、ピストン20は、円柱状のピストン本体22と、ピストン本体22の外周面に配置された複数のピストンリング30とを備えている。ピストン本体22の外径は、シリンダ10の内周面の直径よりも少し小さい。したがって、ピストン本体22の外周面とシリンダ10の内周面との間には、上下方向に延びる環状のピストン隙間21が形成されている。なお、図1及び図3では、ピストン隙間21を実際よりも誇張して表現している。
【0027】
ピストン本体22の外周面には、ピストン20の軸方向に間隔をあけて配置された複数のリング溝40が形成されている。各リング溝40によって、ピストン本体22には、ピストンリング30を配置するための矩形断面の環状空間が形成される。複数のピストンリング30は、圧縮室19からのガスが、ピストン隙間21を通じてクランク機構側に漏出することを抑制するための環状のシール部材である。各ピストンリング30には、環の一部が切断されて形成された図略の合口部が設けられている。
【0028】
図4に示すように、複数のリング溝40はそれぞれ、高圧側面43と、内底面44と、低圧側面45と、を有している。
【0029】
内底面44は、ピストン20の軸方向に延びる円柱面状であり、ピストンリング30の内周面と対向する。内底面44の直径は、ピストン本体22の外径よりも小さく且つピストンリング30の内径よりも小さい。したがって、内底面44とピストンリング30の間には、底面側隙間48が形成される。内底面44のピストン20の軸方向の長さは、ピストンリング30の幅(ピストン20の軸方向の長さ)よりも少し大きい。したがって、高圧側面43又は低圧側面45とピストンリング30との間には、底面側隙間48と連通する側面側隙間49が形成される。
【0030】
高圧側面43は、リング溝40のうち圧縮室19側の端面を区画しており、内底面44における圧縮室19側の縁部とピストン本体22の外周面とを接続する下向き(クランク機構側向き)の面であり、ピストンリング30の高圧側の側面に対向する。
【0031】
低圧側面45は、リング溝40のうちクランク機構側の端面を区画しており、内底面44におけるクランク機構側の縁部とピストン本体22の外周面とを接続する上向き(圧縮室19側向き)の面であり、ピストンリング30の低圧側の側面に対向する。
【0032】
各ピストンリング30がシリンダ10の内周面に当接しつつ各リング溝40の低圧側面45に当接した状態では、ピストンリング30によって、ピストン隙間21は複数の空間に仕切られる。これら複数の空間のうち、各ピストンリング30に対して圧縮室19側に位置する空間を当該ピストンリング30の高圧側空間26と称し、各ピストンリング30に対してクランク機構側に位置する空間を当該ピストンリング30の低圧側空間28と称する。
【0033】
図5に示すように、ピストン本体22は、ピストン20の軸方向に延びる円柱状のピストン軸50と、ピストン軸50に外嵌されるとともにそれぞれ別体として構成された複数のピストン部材52とを備えている。ピストン軸50は同一径で一直線に延びており、ピストン20と同軸に形成されている。複数のピストン部材52はそれぞれ、ピストン20と同軸に形成されている。複数のピストン部材52にはそれぞれ、各ピストン部材52の上面及び下面を貫通するとともにピストン軸50を挿入するための軸穴51が形成されている。
【0034】
各ピストン部材52は、ピストン20の軸方向に延びる円柱状の第1部位54と、第1部位54の上面に配置されており第1部位54の直径よりも小さく且つピストンリング30の内径よりも小さい直径を有する円柱状の第2部位55とを有している。第1部位54と第2部位55とにより、ピストン部材52の外周面は段状に形成されている。段状の外周面を有する複数のピストン部材52が互いに当接しつつピストン軸50に外嵌されることにより、外周面にリング溝40が形成されたピストン本体22が形成される。
【0035】
図4に示すように、複数のピストン部材52には、第1ピストン部材56と、第1ピストン部材56の下側に隣接して配置された第2ピストン部材57と、が含まれる。複数のピストンリング30には、第1ピストンリング31と、第2ピストンリング32と、が含まれる。複数のリング溝40には、第1リング溝41と、第2リング溝42と、が含まれる。
【0036】
第1ピストン部材56と、上側に隣接するピストン部材52との間には、第1リング溝41が形成されており、第1リング溝41には第1ピストンリング31が配置されている。第1ピストン部材56と第2ピストン部材57との間には第2リング溝42が形成されており、第2リング溝42には第2ピストンリング32が配置されている。
【0037】
第1ピストンリング31がシリンダ10の内周面に当接しつつ第1リング溝41の低圧側面45に当接した状態では、第1ピストンリング31によってピストン隙間21は、第1ピストンリング31の高圧側空間26と低圧側空間28とに仕切られる。第1ピストンリング31の高圧側空間26は、第1リング溝41の側面側隙間49及び底面側隙間48に繋がっている。第1ピストンリング31の低圧側空間28は、第2リング溝42の側面側隙間49及び底面側隙間48に繋がっている。
【0038】
同様に、第2ピストンリング32がシリンダ10の内周面に当接しつつ第2リング溝42の低圧側面45に当接した状態では、第2ピストンリング32によってピストン隙間21は、第2ピストンリング32の高圧側空間26と低圧側空間28とに仕切られる。
【0039】
第1ピストン部材56には、径方向に延びて形成されており第1リング溝41からガスを漏らすための第1接続路60と、径方向の所定の位置に配置されており軸方向に延びる第1貫通孔70とが形成されている。第1貫通孔70の一方の端部は、第1ピストン部材56の低圧側の端面(すなわち第1部位54の下面)に第1開口62として開口し、他方の端部は第1開口62と反対側の高圧側の端面(すなわち第2部位55の上面)に第2開口63として開口する。第1接続路60は、内端が第1貫通孔70に接続されるとともに外端が第1リング溝41の内底面44に開口しており、第1貫通孔70と底面側隙間48とを連通させる。
【0040】
第2ピストン部材57は、第1ピストン部材56と同様に形成されており、径方向に延びる第2接続路61と、軸方向に延びる第2貫通孔71が形成されている。第2貫通孔71の一方の端部は第2ピストン部材57の低圧側の端面に第1開口64として開口し、他方の端部は高圧側の端面に第2開口65として開口する。
【0041】
第1ピストン部材56と第2ピストン部材57とは、2つのピストン部材56、57の当接面において、第1ピストン部材56の第1開口62と第2ピストン部材57の第2開口65とが対面するように構成されている。第1開口62と第2開口65とが対面しており、第1貫通孔70と第2貫通孔71とが連通する部位を第1連通部67と称する。
【0042】
上記の構成により、第1ピストン部材56と第2ピストン部材57とでは、第1接続路60と、第1貫通孔70と、第1連通部67と、第2貫通孔71と、第2接続路61とによって、第1ピストンリング31の高圧側空間26から低圧側空間28に、第1ピストンリング31を迂回してガスが漏れるようになっている。
【0043】
第1ピストン部材56と第2ピストン部材57とはさらに、第1連通部67の開度(すなわち第1開口62と第2開口65との重なり具合)が所定の開度となるように、2つのピストン部材56、57間における周方向の向きの相対的な関係が決められている。すなわち、第1ピストン部材56の周方向の向きに対して、第1連通部67の開度が所定の開度となるように、第2ピストン部材57の周方向の向きが決められている。
【0044】
なお、複数のピストン部材52のうち第1ピストン部材56及び第2ピストン部材57以外のピストン部材52は、第1ピストン部材56及び第2ピストン部材57と同様に、接続路と、貫通孔と、第1開口と、第2開口とを有している。複数のピストン部材52のうち隣接する2つのピストン部材52の当接面には、それぞれの貫通孔を連通させる連通部66が形成されている。そして、連通部66の開度が所定の開度となるように、隣接する2つのピストン部材52は、周方向の向きの相対的な関係が決められている。
【0045】
図6(a)(b)には、第1連通部67の開度(すなわち第1ピストン部材56の第1開口62と第2ピストン部材57の第2開口65との間での重なり具合)が所定の開度に調整された状態を上面視で示している。図6(a)に示すように、2つのピストン部材56、57間の周方向の向きが比較的小さくずれている状態では、第1連通部67の開度は比較的大きくなる。一方で、図6(b)に示すように、2つのピストン部材56、57間の周方向の向きが比較的大きくずれている状態では、第1連通部67の開度は比較的小さくなる。第1連通部67の開度が比較的大きく調整された状態では、第1連通部の開度が比較的小さく調整された状態と比べて、第1連通部67を通じて漏れるガスの漏れ量が大きくなる。
【0046】
(運転動作と作用効果)
圧縮機100の運転時に、ピストン20は、クランク機構の往復運動に伴ってシリンダ10内を摺動し、圧縮室19は圧縮と膨張を繰り返す。圧縮室19の圧縮及び膨張に伴って、吸込弁12を介して外部から圧縮室19にガスが吸込まれるとともに、吐出弁14を介して圧縮室19から外部に昇圧されたガスが吐出される。
【0047】
圧縮室19で昇圧されたガスの一部は、シリンダ10及びピストン20間のピストン隙間21に流入する。このガスは各リング溝40においてシリンダ10とピストンリング30との間を通過してクランク機構側に漏出する。このとき、各ピストンリング30には差圧が負荷される。この差圧は、各ピストンリング30において、当該ピストンリング30の高圧側空間26と低圧側空間28との圧力の差に起因するものである。この差圧によって、各ピストンリング30はシリンダ10の内周面に当接しつつリング溝40の低圧側面45に当接した状態になるため、ピストン隙間21は各ピストンリング30によって高圧側空間26と低圧側空間28とに仕切られる。さらに、リング溝40内には、底面側隙間48及び側面側隙間49が形成される。
【0048】
ピストン20では、圧縮室19からクランク機構側に漏れ出すガスの圧力を、複数のピストンリング30に分散させることにより、各ピストンリング30に大きな差圧が負荷されないように構成されている。しかし圧縮室19からのガスによる差圧が各ピストンリング30に均等に分散されずに、一部のピストンリング30に比較的大きな差圧が負荷されることがある。このように複数のピストンリング30間で差圧に差が生じた場合には、比較的大きな差圧が負荷されるピストンリング30の摩耗が進行し易くなることがある。
【0049】
本実施形態のピストン20では、各ピストンリング30に対応して設けられた接続路及び貫通孔により、各ピストンリング30の高圧側空間26から低圧側空間28にガスが漏れるため、各ピストンリング30の差圧を低減できる。さらに、連通部66の開度を所定の開度に調整して、各ピストンリング30の高圧側空間26から低圧側空間28へのガスの漏れ量を調整することにより、各ピストンリング30の差圧の低減具合が調整される。したがって、複数のピストンリング30間の差圧が均一でない場合に、各ピストンリング30に負荷されている差圧の大きさに応じてガスの漏れ量を調整することにより、複数のピストンリング間における差圧の差を効果的に緩和できる。
【0050】
また、接続路と貫通孔とは、ピストン本体22の内部に流路として形成されているため、ピストン20の摺動に起因する摩耗や変形の影響を受け難い。したがって、時間が経過しても複数のピストンリング30間の差圧の差に応じて低減具合を調整しながら各ピストンリング30間の差圧の差を緩和できる。これにより、ピストンリング30の寿命は延長される。
【0051】
また、ピストン20において中央よりも高圧側に配置された複数のピストンリング30では、より高圧側に配置されたピストンリング30ほど、当該ピストンリング30に対応する連通部66を通じて漏れるガスの漏れ量が大きい。このため、高圧側に配置されたピストンリング30ほど差圧が大きい場合に、差圧の大きいピストンリングほど差圧の低減具合が大きくなるので、複数のピストンリング30間の差圧の差をより効果的に緩和できる。
【0052】
同様に、ピストン20において中央よりも低圧側に配置された複数のピストンリング30では、より低圧側に配置されたピストンリング30ほど、当該ピストンリング30に対応する連通部66を通じて漏れるガスの漏れ量が大きい。このため、低圧側に配置されたピストンリング30ほど差圧が大きい場合に、差圧の大きいピストンリングほど差圧の低減具合が大きくなるので、複数のピストンリング30間の差圧の差をより効果的に緩和できる。
【0053】
なお、各ピストン部材52には、周方向の一箇所において1つの貫通孔が形成されているが、これに限らない。例えば、各ピストン部材52には、周方向の複数の箇所においてピストン20の軸方向に延びる複数の貫通孔が形成されていてもよい。この場合、各ピストン部材52には、複数の貫通孔に対応する複数の接続路が形成される。
【0054】
また、複数のピストン部材52のうち、比較的小さい差圧が負荷されるピストンリング30に対応するピストン部材52には、接続路が設けらなくてもよい。この態様では、ピストン20は、差圧の小さいピストンリング30において差圧を低減させず、差圧の大きいピストンリング30において差圧を低減させるように構成されている。
【0055】
(第2実施形態)
第2実施形態の圧縮機100では、図7に示すように、ピストン部材52において、接続路がピストン本体22の外周面に開口している点において第1実施形態とは異なっている。
【0056】
第1ピストン部材56の第1接続路60は、内端が第1貫通孔70に接続されており、外端が第1部位54の外周面(ピストン本体22の外周面)に開口している。同様に、第2ピストン部材57の第2接続路61は、内端が第2貫通孔71に接続されており、外端が第1部位54の外周面(ピストン本体22の外周面)に開口している。
【0057】
この態様では、第1接続路60、第2接続路61、第1貫通孔70及び第2貫通孔72を通じて、第1ピストンリング31の高圧側空間26と低圧側空間28とは連通するので、第1ピストンリング31に負荷される差圧を低減できる。
【0058】
なお、その他の構成、作用及び効果はその説明を省略するが、前記第1実施形態の説明を第2実施形態に援用することができる。
【0059】
(第3実施形態)
第3実施形態の圧縮機100では、図8に示すように、2つのピストン部材52の間に中間部材73が配置されている点において第1実施形態とは異なっている。
【0060】
ピストン本体22は、第1ピストン部材56と第2ピストン部材57とを含む複数のピストン部材52と、第1中間部材77と第2中間部材78と第3中間部材79とを含む複数の中間部材73と、を有している。ピストン本体22は、ピストン部材52と中間部材73とが交互に並んで配置されている。
【0061】
ピストン本体22では、第1中間部材77と、第1ピストン部材56と、第2中間部材78と、第2ピストン部材57と、第3中間部材79とが、高圧側から低圧側に、この順に並んで配置されている。第1中間部材77と第1ピストン部材56間には第1ピストンリング31が配置された第1リング溝41が形成されており、第2中間部材78と第2ピストン部材57間には第2ピストンリング32が配置された第2リング溝42が形成されている。
【0062】
第1ピストン部材56及び第2ピストン部材57は、第1実施形態における第1ピストン部材56の第2部位55と同じ形状に形成されている。第1ピストン部材56及び第2ピストン部材57にはそれぞれ、各リング溝41、42からガスを漏らすための接続路60、61及び貫通孔70、71が形成されている。
【0063】
第1ピストン部材56の貫通孔70の一方の端部は下面に第1開口62として開口し、他方の端部は上面に第2開口63として開口している。第2ピストン部材57の貫通孔71の一方の端部は下面に第1開口64として開口し、他方の端部は第2ピストン部材57の上面に第2開口65として開口している。
【0064】
3つの中間部材77~79は、第1実施形態における第1ピストン部材56の第1部位54と同じ形状に形成されている。3つの中間部材77~79にはそれぞれ、上面及び下面間を貫通する貫通孔101、102、103と、下面の第3開口94、96、98と、上面の第4開口95、97、99とが形成されている。
【0065】
2つのピストン部材56、57及び3つの中間部材77~79の間のそれぞれの当接面には、5つの貫通孔70、71、101~103を連通させる4つの連通部111~114が形成されている。このため、第1ピストン部材56の第1接続路60と第2ピストン部材57の第2接続路61とが連通しているため、第1ピストンリング31の高圧側空間26から低圧側空間28へガスが漏れる。
【0066】
2つのピストン部材56、57及び3つの中間部材77~79は、隣接する部材間において連通部111~114それぞれの開度が所定の開度となるように、周方向の向きの相対的な関係が決められている。これにより、連通部111~114を介して漏れるガスの漏れ量が調整されている。
【0067】
ガスの漏れ量の調整について具体的に説明する。例えば、第1ピストン部材56と第2中間部材78間では、第1開口62と第4開口97の周方向の位置を揃えることにより、連通部112の開度が最大となるように調整されている。そして、第2中間部材78と第2ピストン部材57間では、第3開口96が第2開口65に対して周方向に所定の距離ずれて配置されており、連通部113の開度が所定の開度となるように調整されている。2つの連通部112、113の開度を調整することにより、第1ピストンリング31の高圧側空間26から低圧側空間28へのガスの漏れ量が調整される。他のピストンリング30においても同様に、各ピストンリング30の高圧側空間26から低圧側空間28へのガスの漏れ量が調整されている。
【0068】
この態様では、各ピストンリング30の高圧側空間26から低圧側空間28にガスを漏らすことにより各ピストンリング30の差圧を低減できる。さらに、複数のピストン部材52と複数の中間部材73との間のそれぞれの連通部の開度が調整されているため、複数のピストンリング30間の差圧の差を緩和できる。
【0069】
なお、ピストン本体22は、第1ピストン部材56と第2中間部材78は、連通部112の開度が所定の開度になるように、第1開口62と第4開口97の周方向の位置の相対的な関係が調整されていてもよい。この場合、第2中間部材78と第2ピストン部材57間では、第2開口65と第3開口96の周方向の位置を揃えることにより、連通部113の開度が最大になるように調整されている。
【0070】
なお、その他の構成、作用及び効果はその説明を省略するが、前記第1実施形態及び前記第2実施形態の説明を第3実施形態に援用することができる。
【0071】
(第4実施形態)
第4実施形態の圧縮機100は、隣接する2つのピストン部材52間の連通部66において、2つの開口の周方向の位置を決めるための位置決め手段80を備える点において、第1実施形態の圧縮機100とは異なっている。
【0072】
ピストン本体22は、図9に示すように、隣接する2つのピストン部材52間に配置されるとともに第1穴部82と第2穴部84と係止部材86とを有する位置決め手段80が設けられている。第1穴部82は、2つのピストン部材52のうち上側に配置された一方のピストン部材52の下面に形成されている。第2穴部84は下側に配置された他方のピストン部材52の上面に形成されている。係止部材86は、係止部材86の両端が第1穴部82及び第2穴部84に嵌め込まれるように一方向に延びて形成されている。
【0073】
図10(a)に示すように、係止部材86の両端が第1穴部82と第2穴部84とに嵌め込まれた状態で、一方のピストン部材52と他方のピストン部材52とは当接する。このとき、第1穴部82と第2穴部84間において周方向の位置の相対的な関係が調整されているため、連通部66における2つの開口62、64の周方向の位置の相対的な関係が決められる。すなわち、各位置決め手段80によって、各連通部66の開度が所定の開度となるように構成されている。これにより、ピストン20では、各連通部66の開度が確実に調整される。
【0074】
また、図10(b)に示すように、位置決め手段80は、隣接する2つのピストン部材52において、上側に配置された一方のピストン部材52の下面に形成された第1穴部82と、下側に配置された他方のピストン部材52の上面に形成された突起部88と、を含んでいてもよい。この場合、他方のピストン部材52の第2穴部84と、係止部材86とは省略される。第1穴部82と突起部88とは、2つのピストン部材52間の連通部66の開度が所定の開度となるように、周方向の位置の相対的な関係が調整されている。
【0075】
なお、突起部88は、上側に配置された一方のピストン部材52の下面に形成されてもよい。この場合、第1穴部82は、下側に配置された他方のピストン部材52の上面に形成される。
【0076】
なお、その他の構成、作用及び効果はその説明を省略するが、前記第1~3実施形態の説明を第4実施形態に援用することができる。
【0077】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0078】
上述の実施形態に関連して説明された技術は、ガスの圧縮が必要とされる様々な技術分野に好適に利用される。
【符号の説明】
【0079】
100・・・・・・・・・・圧縮機
10・・・・・・・・・・シリンダ
20・・・・・・・・・・ピストン
22・・・・・・・・・・ピストン本体
30・・・・・・・・・・ピストンリング
40・・・・・・・・・・リング溝
26・・・・・・・・・・高圧側空間
28・・・・・・・・・・低圧側空間
52・・・・・・・・・・ピストン部材
56・・・・・・・・・・第1ピストン部材
57・・・・・・・・・・第2ピストン部材
60・・・・・・・・・・第1接続路
61・・・・・・・・・・第2接続路
70・・・・・・・・・・第1貫通孔
71・・・・・・・・・・第2貫通孔
62、64・・・・・・・第1開口
63、65・・・・・・・第2開口
80・・・・・・・・・・位置決め手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10