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2023-19237付着灰除去用燃料添加剤及び同添加剤注入方法並びに付着灰除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019237
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】付着灰除去用燃料添加剤及び同添加剤注入方法並びに付着灰除去方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 10/04 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
C10L10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123810
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】松井 陽平
(72)【発明者】
【氏名】若林 信行
【テーマコード(参考)】
4H015
【Fターム(参考)】
4H015AA28
4H015AB07
4H015CB01
(57)【要約】
【課題】付着灰を除去するに必要な添加量(総量)を削減でき、コストがかかり過ぎず廃棄する灰分も増加させない、付着灰除去用燃料添加剤及び同添加剤注入方法並びに付着灰除去方法を提供する。
【解決手段】付着灰除去用燃料添加剤は、SiO結晶から成り、好ましくは石英、クリストバライト、トリディマイトのうちの少なくとも1種含み、燃料と共に供給し若しくは燃焼ガス中に噴霧することで、ボイラの運転開始直後あるいは負荷変動直後に供給される。そして、前記添加剤を取り込んだ付着灰に、SiO結晶の結晶構造転移温度を跨ぐボイラ内の温度変化を与えることにより、付着灰を破壊・剥離させることで除去するようにしている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO結晶から成る付着灰除去用燃料添加剤。
【請求項2】
前記SiO結晶は石英、クリストバライト、トリディマイトのうちの少なくとも1種含むことを特徴とする請求項1記載の付着灰除去用燃料添加剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の付着灰除去用燃料添加剤を燃料と共に供給し若しくは燃焼ガス中に噴霧することを特徴とする付着灰除去用燃料添加剤の注入方法。
【請求項4】
前記付着灰除去用燃料添加剤の注入は、ボイラの運転開始直後あるいは負荷変動直後に行うことを特徴する請求項3記載の付着灰除去用燃料添加剤の注入方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の付着灰除去用燃料添加剤を取り込んだ付着灰が、前記SiO結晶の結晶構造転移温度を跨ぐ温度変化を通過するようにボイラ内の温度変化を与えることにより、前記付着灰を破壊・剥離させることで除去することを特徴とする付着灰の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灰分を含む燃料例えば石炭の燃焼の際に石炭中の灰分に起因する付着灰を除去するための付着灰除去用燃料添加剤及び同添加剤注入方法並びに付着灰除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭やオイルコース、副生油等を燃料とするボイラ、回収ボイラ、各種加熱炉及び各種廃棄物、廃タイヤ等を焼却処理する種々の焼却炉等は、燃料及び廃棄物中の灰分に起因するクリンカー(溶融した灰が付着して塊になったもの)が生じ易く、火炎からのふく射を受ける伝熱面に生じる灰粒子の付着現象(スラッギング)を起こすことが知られている。
【0003】
スラッギングは、伝熱阻害・流路閉塞などのトラブルに発展する原因ともなるので、解消が求められている。例えば、石炭火力のボイラ内では、溶融した灰が伝熱管に付着して伝熱面を覆うため、熱交換が妨げられ、発電効率が低下する。さらに、付着灰が成長して大きな塊となって脱落すると、プラントの運転、設備の安全性に影響を与える。
【0004】
このため、スラッギングの防止あるいは付着灰の除去が望まれる。中でも、灰分含有量が多く燃焼灰の融点の低い燃料では、巨大なクリンカーに成長し易くなることから、付着灰を除去する必要がある。
【0005】
従来、多量の灰分含有量の燃料を燃焼する際に生ずる付着灰を除去する手段としては、粒径3~200nmの超微粒子状のアルミニウム化合物、シリカ化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物の一種又は二種以上を水及び/又は油に安定分散させた組成物より成る石炭添加剤が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
この石炭添加剤は、クリンカーを多孔性にして圧潰強度を低下させることにより、水管等への付着抑制を図ったり、クリンカーの脆弱化を目的としたものである。即ち、非常に粒径の細かい特定の組成の石炭添加剤を用いて石炭を燃焼させることにより、生成灰の強度を低下させてスートブロー等で容易に掻き落とせるようにしたものである。
【0007】
さらに、この石炭添加剤は、石炭添加剤投入時間における石炭中に含まれている灰分に起因する燃焼時の飛散スケール量に対して、石炭添加剤5~50重量%を1日1~3回、30分から2時間の短時間に間欠多量投入することにより、脆い多孔質の層と脆くない非多孔質の層とを交互に積み重ねさせて、全体としてスートブロー等にて容易に剥離、脱落させ易い脆いクリンカーにすることで、連続的に使用して付着灰全体を改質する場合よりも少ない使用量で付着灰を除去しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-285179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1記載の石炭添加剤およびその使用方法は、石炭と共に石炭添加剤を添加することによりクリンカーを多孔質にしてその強度を低下させるものなので、多量の石炭添加剤を添加しなければ、付着灰が容易に脱落できる程の強度低下を見込めないため、その使用量が多くなる。このため、添加剤の使用量が多く、コストがかかり過ぎると共に廃棄する灰分が増加するという本質的な問題がある。
【0010】
また、間欠多量投入することにより全体としての石炭添加剤の使用量を削減できるといっても、クリンカーの多孔質化により付着灰が容易に脱落できる程の強度低下を引き起こすには、間欠注入によって長期間にわたって一定量注入し続ける必要があることから、総量としては相応の添加量を必要とする問題がある。
【0011】
本発明は、付着灰を除去するに必要な添加量(総量)を削減でき、コストがかかり過ぎず廃棄する灰分も増加させない、付着灰除去用燃料添加剤及び同添加剤注入方法並びに付着灰除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成する請求項1記載の付着灰除去用燃料添加剤は、SiO結晶から成ることを特徴とする。
【0013】
ここで、SiO結晶は石英、クリストバライト、トリディマイトのうちの少なくとも1種含むことが好ましい。
【0014】
また、本発明の付着灰除去用燃料添加剤の注入方法は、請求項1または2記載の付着灰除去用燃料添加剤を燃料と共に供給し若しくは燃焼ガス中に噴霧することを特徴とする。
【0015】
ここで、付着灰除去用燃料添加剤の注入は、ボイラの運転開始直後あるいは負荷変動直後に行うことが好ましい。
【0016】
さらに、本発明にかかる付着灰の除去方法は、請求項1または2記載の付着灰除去用燃料添加剤を取り込んだ付着灰が、SiO結晶の結晶構造転移温度を跨ぐ温度変化を通過するようにボイラ内の温度変化を与えることにより、付着灰を破壊・剥離させることで除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる付着灰除去用燃料添加剤は、SiO結晶の粒子であるため、添加することだけでは付着灰の除去が直ちに起こりあるいは進むわけではない。添加剤を石炭に混合して供給あるいは燃焼ガス中に噴霧することにより、付着灰の中に結晶粒子のまま取り込ませ、破壊の起点をつくるものである。そして、ボイラ内の温度変化を活用して、SiO結晶に結晶構造転移を起こさせて、あるいは付着灰内部の添加剤粒子と周囲の灰の線膨張係数差によって、付着灰内で膨張、応力を発生させ、付着灰の破壊を進め剥離を促す。
【0018】
つまり、付着灰内部にSiO結晶の結晶構造転移に起因する応力を発生させることで、あるいは付着灰内部の添加剤粒子と周囲の灰の線膨張係数差によって、付着灰の破壊・剥離を促し、除去するものである。このため、クリンカーを多孔性にして圧潰強度を低下させる従来の添加剤と比較して、必要な添加量(総量)を大幅に削減でき、運転コストを削減できるとともに廃棄する灰分も少なくすることができる。
【0019】
また、本発明の付着灰除去用燃料添加剤は、SiO結晶として石英、クリストバライト、トリディマイトのうちの少なくとも1種含むことで、石英の結晶構造転移温度は573℃、クリストバライトは200~300℃、トリディマイトは150℃付近であることから、ボイラ内で起こる運用のなかでの自然な温度変化(起動時、負荷変動時、強制冷却など)によって結晶構造転移温度を跨ぐ温度変化が与えられる。
【0020】
さらに、本発明の付着灰除去用燃料添加剤注入方法によれば、付着灰除去用燃料添加剤を燃料と共に供給し若しくは燃焼ガス中に噴霧することで、付着灰の中にSiO結晶を取り込ませて破壊起点を作ることができる。特に、灰付着が起きていない状況あるいは付着初期である運転開始時あるいは負荷変動直後に付着灰除去用燃料添加剤を注入することで、付着灰の根元部分にSiO結晶粒子を取り込ませて破壊起点を作るので、ボイラ内での温度変化によって付着灰を根こそぎ落とすことができる。
【0021】
さらに、本発明の付着灰の除去方法によれば、付着灰除去用燃料添加剤を取り込んだ付着灰に、SiO結晶の結晶構造転移温度を跨ぐボイラ内の温度変化を与えることにより、SiO結晶の結晶構造転移を起こさせて亀裂を発生させ、付着灰を破壊・剥離させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の付着灰除去用燃料添加剤を用いた付着灰除去方法の一実施形態を微粉炭燃焼ボイラに適用した場合の概念図である。
図2】本発明にかかる付着灰除去用燃料添加剤の添加タイミングの一例を示すグラフである。
図3】添加剤の累積粒径分布の一例を石英とクリストバライトについて示すグラフである。
図4】付着灰作製加熱条件と温度サイクル実験の加熱条件の一例を示すグラフである。
図5】温度サイクル試験の結果を示すグラフ(実施例1)である。
図6】実施例1における温度サイクル試験後の付着灰の状態を示す顕微鏡写真で、(A)はSiO結晶(石英)の添加あり付着灰(試験体B)、(B)はSiO結晶が添加されていない付着灰(試験体A)を示す。
図7】石炭灰の化学組成が添加剤の効果に及ぼす影響を示すグラフ(実施例2)である。
図8】実施例2における温度サイクル試験後の付着灰の状態を示す顕微鏡写真で、(A)はSiO結晶(石英)添加なし付着灰(試験体F)、(B)は石英10Wt%添加付着灰(試験体G)、(C)は石英20Wt%添加付着灰(試験体H)を示す。
図9】SiO結晶を含む付着灰模擬試料の温度サイクル試験の温度変化の違いが亀裂数密度に与える影響を示すグラフである(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1に、本発明の付着灰除去用燃料添加剤を用いた付着灰除去方法を微粉炭燃焼ボイラに適用した場合の一実施形態を概念図で示す。
【0025】
付着灰除去用燃料添加剤(以下、単に添加剤と呼ぶ)は、燃焼場の温度で溶解せずに結晶構造を保つと共に、ボイラ内の温度変化例えば出力変動や起動停止、強制冷却などを活用し、付着灰内部に応力を発生させることで付着灰の破壊・剥離を促し、除去するものである。つまり、燃焼場の温度よりも融点が高く、燃焼場の温度変化の範囲内に結晶構造転移温度が存在する結晶構造物であることが好ましく、例えばSiO結晶が好ましい。
【0026】
ここで、SiO結晶としては、石英、クリストバライト、トリディマイトのうちの少なくとも1種あるいは2種以上を含むことが好ましい。石英は融点1610℃、結晶構造転移温度573℃であり、クリストバライトは結晶構造転移温度200~300℃付近、トリディマイトは結晶構造転移温度150℃付近である。一方、伝熱管の表面温度(厳密には、伝熱管内を流れる蒸気温度)は最大でも600℃程度あり、石英の結晶構造転移温度573℃を跨ぐ温度となる。他方、付着灰を形成する燃焼場の温度を1400℃程度(燃料や運転条件に依存する)と仮定すれば、SiO結晶は、結晶構造を維持したまま付着灰の中に取り込まれる。また、付着灰内部の温度は分布を有しているものの伝熱管表面温度と燃焼場温度の間にあると考えることができ、ボイラの出力変動や起動停止、強制冷却などによって、結晶構造転移温度を跨ぐ温度変化を受けることとなる。ここで、結晶構造転移温度を跨ぐ温度変化とは、結晶構造転移温度を通過することに意義があり、その温度変化が緩やかでも急激でも亀裂発生の効果は得られる。つまり、付着灰内にSiO結晶を取り込むことが、破壊起点を作ることとなる。
【0027】
添加剤の粒径は、特定の値に限定されるものではないが、本発明者等の実験結果から、SiO結晶の粒径が大きい方が結晶構造転移に因る亀裂を大きなものとして発生させる効果が認められた。その反面、空気搬送に適さない程に粒径が大きくなり過ぎると、例えば微粉炭燃焼ボイラなどに適用した場合、石炭に混合して1次空気で火炉まで搬送してボイラ・燃焼場に供給することが困難となるし、燃焼場で燃焼ガス中を浮遊せずに沈降してしまい付着灰中に取り込まれ難くなることが考えられる。このことから、空気搬送できる範囲で可能な限り大きな粒とすることが望ましいが、他の配慮すべき条件がある場合にはこれに限られない。例えば、他設備への影響を配慮する場合、微粉炭粒子と同程度の粒径とすることが好ましい。特に、JIS灰の品質規程を意識するのであれば、集塵器から排出されるフライアッシュの粉末度が品質規程を満たすような粒径にすることが好ましい。つまり、これらの要望を満たすような範疇に収まる範囲内で可能な限り大きな粒径にすることが好ましい。そこで、微粉炭燃焼ボイラに適用する場合の添加剤の粒径は、例えば、微粉炭燃料とほぼ同程度とすることが好ましい。例えば微粉炭燃焼装置では、微粉炭は、粉砕機で100~200メッシュ以下の質量割合を70%程度まで粉砕して供給されることから、SiO結晶を粉砕機で100~200メッシュ以下の質量割合を70%程度まで粉砕して供給するようにしても良い。本発明者等が実験で用いた添加剤は、図3に示すような累積粒径分布を示すもので、体積平均径は石英で48μm、クリストバライトで27μmであった。
【0028】
上述の付着灰除去用燃料添加剤は、例えば、図1に示すように、燃焼場(火炉内)に燃料に混合して供給され、あるいは燃焼場から伝熱管に流れる燃焼ガス中に単独で噴霧されることにより、結晶のまま付着灰中に取り込まれる。
【0029】
ここで、添加剤は、付着灰に結晶のまま取り込まれることで破壊起点を作るものであることから、SiO結晶として付着灰中にある程度残留できる量を最低限注入する必要がある。一方、付着後の温度履歴と灰の成分によっては、SiO結晶が灰中元素の一部(Caなど)と反応して消失してしまうことがある。このため、添加量が最小限であると、SiO結晶は付着灰の中にほとんど残存できず、亀裂促進効果がほとんど得られなくなる可能性がある(実施例2参照)。加えて、SiO結晶の注入量は多いほど亀裂発生数が多くなり、クリンカー除去効果が大きくなる。そこで、添加剤の添加量は、多めにして添加物の一部が確実に残存するようにすることが好ましい。しかし、その反面、注入量を増やすと、運用コストが高くなるし、廃棄する灰の量が無駄に増加する。さらには、灰の平均粒径と差が大きな添加剤を用いる場合、かつJIS灰の品質規程(粉末度)を意識する場合は、石炭灰粒子の粒径分布に大幅な影響を与えないような注入量に抑えることが好ましい。そこで、添加剤の費用や灰処理費などの経済性や諸般の事情を加味して注入量を決定することが望ましいが、例えば供給する石炭の灰分量に対して10wt%~20wt%、場合によっては20wt%程度あるいは20wt%を超えるようにしても良い。この注入量の制御は運転条件として設定可能である。
【0030】
添加剤は、温度がある程度上昇し、灰が付着性を持ち始めた後に注入する必要がある。例えば、燃料が石炭の場合は、重油燃焼で温度を上昇させた後に石炭燃焼に切り替えるので、石炭燃焼開始時がそのタイミングに該当する。したがって、添加剤は、連続的にあるいは一時的にボイラ運転中の任意のタイミングで注入しても良いが、好ましくは付着灰全体を脆いものに改質する場合に比べて少量の添加剤で効果的に付着灰を破壊・剥離させる部位に取り込ませて破壊起点を作ることである。換言すれば、破壊起点を作りたいタイミングで大量に短時間投入することが好ましい。例えば、付着灰の付着面(例えば伝熱管表面)あるいはその近傍(即ち、付着灰の根元部分)に添加剤が多く付着するタイミングで注入することが望ましい。このようなタイミングは、例えば、ボイラ起動の直後や、ボイラの負荷変動直後など、大きな温度変化を経験した後であっても良い。ボイラ起動の直後は、灰があまり付着していない段階であることが想定される。また、ボイラの負荷変動直後などは、灰が除去されたばかりの段階であることが想定される。そこで、図2に示すように、運転開始時の溶融灰があまり付着していなときや負荷変動によって付着灰が除去された直後に添加剤を大量注入しても良い。例えば、供給される微粉炭の灰分量の10wt%~20wt%、場合によっては20wt%程度あるいは20wt%を超える添加剤を5分程度の短時間投入するようにしても良い。これによって、付着灰の根元の部分に破壊起点を作ることができ、添加剤の使用量が大幅に削減可能となる。この制御は、運転条件として設定可能である。
【0031】
本発明の添加剤は、破壊の起点をつくるものであり、クリンカーの性状を変化させるものではない。つまり、添加剤を添加することだけで付着灰が脆くなったり、付着灰の破壊・剥離による除去が直ちに起こるあるいは進行するわけではない。あくまで、ボイラ内の温度変化を活用し、付着灰内部に応力を発生させて、付着灰の破壊・剥離を促し、除去するものである。
【0032】
ここで、付着灰に与える温度変化条件としては、結晶構造転移温度を跨ぐ温度変化以外の温度変化であっても、付着灰内部の添加剤粒子と周囲の灰の線膨張係数差によって、一定の亀裂発生効果があると考えられる。しかしながら、SiO結晶の結晶構造転移温度を跨ぐ温度変化が与えられることがさらに望ましい。結晶構造転移温度を跨ぐ温度変化が与えられることでSiO結晶の結晶構造転移により、SiO結晶周辺に亀裂を発生させる。SiO結晶の結晶構造転移温度は、石英では573℃付近、クリストバライトでは200~300℃付近、トリディマイトでは150℃付近である。したがって、ボイラ内の自然な温度変化を活用することで、付着灰内部に応力を発生させて、付着灰の破壊・剥離を促し、除去することができる。尚、付着灰内部の温度変化は、伝熱管への付着の場合、燃焼ガス温度、管内蒸気温度、各部の熱抵抗などの情報からある程度推定することはできる。また、耐火材など断熱性が強い箇所への付着の場合、付着灰内部温度は燃焼ガス温度と同等と推定できる。
【0033】
添加剤は、灰付着が起きていない状況あるいは付着初期(つまり、ある程度温度が上がっていて溶融灰があまり付着していない状態)に添加することが好ましい。この場合、付着灰の根元部分即ち起点部分で添加されることで、温度変化が与えられて結晶構造転移を起こす際の膨張、応力を発生により付着灰中あるいは付着灰と伝熱管との間に亀裂を発生させ、破壊を進め剥離を促す。つまり、付着灰を根こそぎ落とすことが期待できる。
【0034】
温度変化が大幅でかつ急激な方がより効果的ではあるが、緩やかな温度変化速度でも結晶構造転移温度を跨げば、それなりの効果が見込まれる。そして、SiO結晶の結晶構造転移温度は石英で573℃付近、クリストバライトで200~300℃付近、トリディマイトで150℃付近であることから、石炭ボイラの運用のなかでの自然な温度変化例えば起動時、負荷変動時、停止時の際の温度変化であれば効果が得られる。
【0035】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【実施例0036】
(実施例1)
石炭灰に付着灰除去用燃料添加剤を添加した付着灰試験体に温度サイクル試験を行って、SiO結晶粒子の添加による亀裂発生の促進について検証した。試験は、石炭灰にSiO結晶が添加されていない付着灰試験体A、10Wt%添加の付着灰試験体B、20Wt%添加の付着灰試験体C、クリストバライト10Wt%添加の付着灰試験体D、20Wt%添加の付着灰試験体Eの5種類について行った。
【0037】
実験は、電気炉(モトヤマ社製電気炉、製品名SH1415C)を使って、ボイラ内を模擬した。対象の石炭灰(表1の実施例1の化学組成の石炭灰)とSiO結晶添加剤を所望の混合比となるよう重量測定し、乳鉢でよく混ぜて上述の5種類の試料を調合した。次に、混合した試料をアルミナ板の上に1g程度盛ってから、アルミナ板ごと試料を電気炉に入れ、図4に示す加熱・温度サイクルを行った。まず、+400℃/hの加熱速度で試料を付着灰作製時の加熱温度T(灰溶融率が70%程度となる温度に設定(熱力学平衡計算に基づく))1360℃まで昇温させ、付着灰(石炭灰+添加剤)試験体を得た。次いで-40℃/hの冷却速度で温度サイクル下限温度Tまで降下させ、その後再び温度上限温度Tまで+200℃/hの速度で昇温させると共に、-200℃/hの速度で温度サイクル下限温度Tまで降下させる温度変化を1サイクルとして、5サイクル繰り返し、その後100℃まで-40℃/hの冷却速度で冷却した後、室温Tまで自然放冷した。尚、本実施例の温度サイクル試験は、温度サイクル下限温度Tは500℃、温度上限温度Tは700℃とし、繰り返し上下させる温度変化を与えた。ここで、SiO結晶添加剤の粒径分布は、図3に示すものであって、石英は体積平均径で48μm、クリストバライトは体積平均径で27μmである。
【0038】
【表1】
【0039】
温度サイクル試験の結果を図5のグラフに示す。この結果から、SiO結晶の添加がない試験体Aの場合には、ほとんど亀裂が認められなかったが、石英10Wt%添加の試験体Bの場合にはほぼ200個/mm、石英20Wt%添加の試験体Cの場合にはほぼ400個/mm、クリストバライト10Wt%添加の試験体Dの場合にはほぼ200個/mm、クリストバライト20Wt%添加の試験体Eの場合にはほぼ300個/mmの亀裂が確認された。このことから、SiO結晶添加剤の添加量が多いほど亀裂が発生し易いことが判明した。
【0040】
また、温度サイクル試験の結果を、図6に顕微鏡写真で示す。この顕微鏡写真からも、SiO結晶添加剤の添加の効果は明らかである。SiO結晶が添加されていない付着灰(試験体A)は、図6(B)に示すように、亀裂・破壊の痕跡が認められなかった。これに対し、SiO結晶が添加された付着灰(試験体B)は、図6(A)に示すように、SiO結晶(濃灰色)周辺に発生した亀裂が認められた。また、粒径が大きな添加剤の周辺に大きな亀裂が比較的多く発生する傾向が見られた。
【0041】
(実施例2)
実施例1とは化学組成の異なる石炭灰(表1の実施例2の化学組成の石炭灰)を用いて、添加剤として石英を添加して温度サイクル試験を行った。温度サイクル試験は、付着灰(石炭灰+添加剤)に対して、温度サイクル下限温度T500℃と、温度上限温度T700℃との間の温度変化を5サイクル繰り返した。
【0042】
試料は、石炭灰のみからなる付着灰(即ち、石英を添加しない)試験体Fと、これに体積平均径48μmのSiO結晶(石英)の粒子を10Wt%添加した付着灰試験体G、20Wt%添加した付着灰試験体Hを作製した。
【0043】
試験の結果を図7及び図8(A)~(C)に示す。この結果は、同じ石英を同量添加する場合でも、発生した亀裂数が実施例1のものとは全く異なったというものである。即ち、図7に示すように、SiO結晶の添加がない試験体Fの場合には、ほとんど亀裂が認められなかったが、石英10Wt%添加の試験体Gの場合には5個/mm程度、石英20Wt%添加の試験体Hの場合にはほぼ160個/mm程度の亀裂が確認された。また、顕微鏡写真からも明らかで、SiO結晶が添加されていない付着灰試験体Fでは、図8(A)に示すように、亀裂・破壊の痕跡が認められなかった。これに対し、石英20Wt%添加の試験体Hの場合には、図8(C)に示すように、SiO結晶(濃灰色)周辺に発生した亀裂が認められた。ところが、SiO結晶が10Wt%添加された付着灰試験体Gでは、図8(B)に示すように、添加されたSiO結晶がみられない。これはSiO結晶の大半が他元素との反応により消失してしまったものと推測される。即ち、石英20Wt%添加の試験体Hの場合には、温度変化の際にも一部のSiO結晶が反応せずに残留しているため、SiO結晶(濃灰色)周辺に発生した亀裂が認められ、SiO結晶が残留することで亀裂発生効果が得られるが、SiO結晶の添加量が少ない付着灰試験体Gでは、SiO結晶の大半が他元素との反応により消失してしまって温度変化を与える際にはSiO結晶があまり残っていなかったものと推定される。
【0044】
この原因は、石炭灰の化学組成に起因すると思われる。実施例2の灰はFeやCaなどを多く含んでおり、添加剤がSiO結晶として残存しにくい条件であったと思われる。このデータからは、石炭灰の化学組成によっては、SiO結晶の添加量が少ないとSiO結晶はほぼ残存できずに、亀裂促進の効果はほぼ得られないが、添加量を増やして一部の添加剤が残存するようにすると、亀裂促進効果を得られる、ということが示されている。このことから、SiO結晶の添加量は、少ないよりも多い方が石炭灰の化学組成の影響を受け難く好ましいと言える。
【0045】
(実施例3)
付着灰に対して与える温度変化の態様と亀裂の発生との関連性、具体的にはどのような温度変化で亀裂が発生し、また増加するのかを確認する実験を行った。この実験は、実施例1で用いた化学組成の石炭灰(表1参照)を用いた。なお、本実施例で得た付着灰試験体はSiO結晶を添加していないが、灰自体が有する化学組成および試験体作製時の加熱によって石英およびクリストバライトが生成しており、特にクリストバライトを多く含有している。この付着灰試験体に対し、図9に示すIからMの5種類の温度変化を与えた。
【0046】
この結果、温度サイクル下限温度Tが150度、温度上限温度Tが350度の温度サイクルIの場合、クリストバライトの転移温度(200℃~300℃)を跨ぐ温度変化であり、亀裂数密度が約30個/mmと最も高かった。次いで、温度サイクル下限温度Tが500度、温度上限温度Tが700度の温度サイクルJの場合、石英の転移温度(573℃)を跨ぐ温度変化であり、亀裂数密度が約20個/mmとクリストバライトの次に高かった。また、温度サイクル下限温度Tが700℃、温度上限温度Tが900℃の温度サイクルKの場合には、亀裂数密度が約12個/mmとなり、温度サイクル下限温度Tが900℃で温度上限温度Tが1100℃の温度サイクルLの場合には亀裂数密度が約10個/mm、さらに温度変化なしの温度サイクルMの場合には亀裂数密度が約8個/mmとなった。
【0047】
ここで、温度サイクルMの場合、温度変化なしといっても、付着灰・クリンカーを得るために、燃焼場を想定した温度(例えば1300~1400℃)まで加熱してから室温まで冷却する過程で石英、クリストバライトの結晶構造転移温度を1回は通過している。このため、それに伴う亀裂の発生がある程度起こっていると思われる。同様に、上述の温度サイクルK、L、Mにおいても、石英、クリストバライトの結晶構造転移温度を1回は通過している。また、付着灰内部の添加剤粒子と周囲の灰の線膨張係数差によって、付着灰内で膨張、応力を発生させ、付着灰の破壊を進め剥離を促す効果もある程度得られるものと考えられる。このことから、温度サイクルK、L、Mの付着灰試験体においても、ボイラの起動から停止の間で亀裂がある程度発生することが明らかとなった。また、クリストバライトの転移温度を跨ぐ温度変化を繰り返し与えた試験体Iと石英の転移温度を跨ぐ温度変化を与えた試験体Jとにおいて、亀裂数の増加が顕著に見られた。このことから、付着灰に与える温度変化は温度の高さが重要なわけではなく、SiO結晶の結晶構造転移温度を跨ぐ温度変化を与えるか否かが重要な因子であることを見いだした。
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図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9