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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019281
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】スイッチトキャパシタ回路
(51)【国際特許分類】
   H03H 19/00 20060101AFI20230202BHJP
   H03F 3/70 20060101ALI20230202BHJP
   H03F 3/45 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
H03H19/00
H03F3/70
H03F3/45
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123903
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】手島 紘明
【テーマコード(参考)】
5J023
5J500
【Fターム(参考)】
5J023CA07
5J023CB01
5J500AA01
5J500AA12
5J500AA48
5J500AC16
5J500AC22
5J500AF04
5J500AF18
5J500AH10
5J500AH32
5J500AH39
5J500AK02
5J500AT01
5J500AT06
5J500DP02
(57)【要約】
【課題】動作のフェーズ移行時に容量端子電圧の変動が大きい場合でも、容量の電荷のリークを抑制する。
【解決手段】スイッチトキャパシタ回路は、全差動オペアンプ回路A1と、入力容量C1_P,C1_Nと、スイッチS1_P,S1_N,S2_P,S2_N,S3_P,S3_N,S4_P,S4_N,S5_P,S5_Nから構成される。スイッチS1_P,S5_P,S3_Pは、入力容量C1_Pの入力側の端子の接続先を、入力電圧VI_P、電圧VCM2、入力電圧VI_Nの順に周期的に切り替え、スイッチS1_N,S5_N,S3_Nは、スイッチS1_P,S5_P,S3_Pと同期して、入力容量C1_Nの入力側の端子の接続先を、入力電圧VI_N、電圧VCM2、入力電圧VI_Pの順に周期的に切り替える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプリング容量と、
演算増幅回路と、
前記サンプリング容量の入力側の端子を第1の入力電圧と第2の入力電圧と電荷転送用の第1の基準電圧のうちいずれかに選択的に接続するように構成された入力側スイッチと、
前記サンプリング容量の演算増幅回路側の端子を電荷充電用の第2の基準電圧と前記演算増幅回路の入力端子のうちいずれかに選択的に接続するように構成された出力側スイッチとを備え、
前記サンプリング容量の入力側の端子の接続先を、前記第1の入力電圧、前記第1の基準電圧、前記第2の入力電圧の順に周期的に切り替えることで、前記第1の入力電圧と前記第2の入力電圧の差動電圧を演算することを特徴とするスイッチトキャパシタ回路。
【請求項2】
請求項1記載のスイッチトキャパシタ回路において、
一端が前記演算増幅回路の入力端子に接続され、他端が前記演算増幅回路の出力端子に接続された積分容量をさらに備え、
前記サンプリング容量の入力側の端子の接続先を、前記第1の入力電圧、前記第1の基準電圧、前記第2の入力電圧の順に周期的に切り替えることで、前記第1の入力電圧と前記第2の入力電圧の差動電圧を積分することを特徴とするスイッチトキャパシタ回路。
【請求項3】
請求項1または2記載のスイッチトキャパシタ回路において、
前記入力側スイッチは、
第1の端子が前記第1の入力電圧に接続され、第2の端子が前記サンプリング容量の入力側の端子に接続された第1のスイッチと、
第1の端子が前記サンプリング容量の入力側の端子に接続され、第2の端子が前記第1の基準電圧に接続された第2のスイッチと、
第1の端子が前記第2の入力電圧に接続され、第2の端子が前記サンプリング容量の入力側の端子に接続された第3のスイッチとからなり、
前記出力側スイッチは、
第1の端子が前記サンプリング容量の演算増幅回路側の端子に接続され、第2の端子が前記第2の基準電圧に接続された第4のスイッチと、
第1の端子が前記サンプリング容量の演算増幅回路側の端子に接続され、第2の端子が前記演算増幅回路の反転入力端子に接続された第5のスイッチとからなり、
前記第1、第2、第3のスイッチは、前記サンプリング容量の入力側の端子の接続先を、前記第1の入力電圧、前記第1の基準電圧、前記第2の入力電圧の順に周期的に切り替えることを特徴とするスイッチトキャパシタ回路。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスイッチトキャパシタ回路において、
前記出力側スイッチは、前記入力側スイッチが前記サンプリング容量の入力側の端子を前記第1の入力電圧に接続するフェーズにおいて前記サンプリング容量の演算増幅回路側の端子を前記第2の基準電圧に接続し、前記入力側スイッチが前記サンプリング容量の入力側の端子を前記第1の基準電圧または前記第2の入力電圧に接続するフェーズにおいて前記サンプリング容量の演算増幅回路側の端子を前記演算増幅回路の反転入力端子に接続することを特徴とするスイッチトキャパシタ回路。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスイッチトキャパシタ回路において、
前記第1、第2の基準電圧は、前記入力側スイッチが前記サンプリング容量の入力側の端子を前記第1の基準電圧または前記第2の入力電圧に接続するフェーズにおいて前記サンプリング容量の演算増幅回路側の端子と前記出力側スイッチとの接続点の電圧が、グランド電位と電源電圧の範囲内に収まるように設定されることを特徴とするスイッチトキャパシタ回路。
【請求項6】
請求項1記載のスイッチトキャパシタ回路において、
前記演算増幅回路は、全差動オペアンプ回路であり、
前記サンプリング容量は、第1のサンプリング容量と第2のサンプリング容量とからなり、
前記入力側スイッチは、
第1の端子が前記第1の入力電圧に接続され、第2の端子が前記第1のサンプリング容量の入力側の端子に接続された第1のスイッチと、
第1の端子が前記第2の入力電圧に接続され、第2の端子が前記第2のサンプリング容量の入力側の端子に接続された第2のスイッチと、
第1の端子が前記第1のサンプリング容量の入力側の端子に接続され、第2の端子が前記第1の基準電圧に接続された第3のスイッチと、
第1の端子が前記第2のサンプリング容量の入力側の端子に接続され、第2の端子が前記第1の基準電圧に接続された第4のスイッチと、
第1の端子が前記第2の入力電圧に接続され、第2の端子が前記第1のサンプリング容量の入力側の端子に接続された第5のスイッチと、
第1の端子が前記第1の入力電圧に接続され、第2の端子が前記第2のサンプリング容量の入力側の端子に接続された第6のスイッチとからなり、
前記出力側スイッチは、
第1の端子が前記第1のサンプリング容量の全差動オペアンプ回路側の端子に接続され、第2の端子が前記第2の基準電圧に接続された第7のスイッチと、
第1の端子が前記第2のサンプリング容量の全差動オペアンプ回路側の端子に接続され、第2の端子が前記第2の基準電圧に接続された第8のスイッチと、
第1の端子が前記第1のサンプリング容量の全差動オペアンプ回路側の端子に接続され、第2の端子が前記全差動オペアンプ回路の反転入力端子に接続された第9のスイッチと、
第1の端子が前記第2のサンプリング容量の全差動オペアンプ回路側の端子に接続され、第2の端子が前記全差動オペアンプ回路の非反転入力端子に接続された第10のスイッチとからなり、
前記第1、第3、第5のスイッチは、前記第1のサンプリング容量の入力側の端子の接続先を、前記第1の入力電圧、前記第1の基準電圧、前記第2の入力電圧の順に周期的に切り替え、前記第2、第4、第6のスイッチは、前記第1、第3、第5のスイッチと同期して、前記第2のサンプリング容量の入力側の端子の接続先を、前記第2の入力電圧、前記第1の基準電圧、前記第1の入力電圧の順に周期的に切り替えることを特徴とするスイッチトキャパシタ回路。
【請求項7】
請求項6記載のスイッチトキャパシタ回路において、
一端が前記全差動オペアンプ回路の反転入力端子に接続され、他端が前記全差動オペアンプ回路の非反転出力に接続された第1の積分容量と、
一端が前記全差動オペアンプ回路の非反転入力端子に接続され、他端が前記全差動オペアンプ回路の反転出力に接続された第2の積分容量とさらに備え、
前記第1、第3、第5のスイッチは、前記第1のサンプリング容量の入力側の端子の接続先を、前記第1の入力電圧、前記第1の基準電圧、前記第2の入力電圧の順に周期的に切り替え、前記第2、第4、第6のスイッチは、前記第1、第3、第5のスイッチと同期して、前記第2のサンプリング容量の入力側の端子の接続先を、前記第2の入力電圧、前記第1の基準電圧、前記第1の入力電圧の順に周期的に切り替えることで、前記第1の入力電圧と前記第2の入力電圧の差動電圧を積分することを特徴とするスイッチトキャパシタ回路。
【請求項8】
請求項6または7記載のスイッチトキャパシタ回路において、
前記第7、第8のスイッチは、前記入力側スイッチが前記第1のサンプリング容量の入力側の端子を前記第1の入力電圧に接続し、前記第2のサンプリング容量の入力側の端子を前記第2の入力電圧に接続するフェーズにおいて、前記第1、第2のサンプリング容量の全差動オペアンプ回路側の端子を前記第2の基準電圧に接続し、
前記第9、第10のスイッチは、前記入力側スイッチが前記第1のサンプリング容量の入力側の端子を前記第1の基準電圧または前記第2の入力電圧に接続し、前記第2のサンプリング容量の入力側の端子を前記第1の基準電圧または前記第1の入力電圧に接続するフェーズにおいて、前記第1のサンプリング容量の全差動オペアンプ回路側の端子を前記演算増幅回路の反転入力端子に接続し、前記第2のサンプリング容量の全差動オペアンプ回路側の端子を前記演算増幅回路の非反転入力端子に接続することを特徴とするスイッチトキャパシタ回路。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか1項に記載のスイッチトキャパシタ回路において、
前記第1、第2の基準電圧は、前記入力側スイッチが前記第1のサンプリング容量の入力側の端子を前記第1の基準電圧または前記第2の入力電圧に接続し、前記第2のサンプリング容量の入力側の端子を前記第1の基準電圧または前記第1の入力電圧に接続するフェーズにおいて、前記第1のサンプリング容量と前記第7、第9のスイッチとの接続点の電圧および前記第2のサンプリング容量と前記第8、第10のスイッチとの接続点の電圧が、グランド電位と電源電圧の範囲内に収まるように設定されることを特徴とするスイッチトキャパシタ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量とスイッチの組み合わせにより等価的に抵抗を実現するスイッチトキャパシタ回路に係り、特にフェーズ移行時の容量の電荷リークを抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スイッチトキャパシタ回路は、スイッチ素子と容量素子を組み合わせることによって、抵抗器のように電流を流す回路である(特許文献1、特許文献2参照)。IC内部に回路を形成する場合、抵抗器をスイッチトキャパシタ回路に置き換えることで、容量素子同士の相対精度に応じた回路特性を実現できる。
【0003】
図4は、入力端子VI_P,VI_Nの差動電圧を積分する全差動型のスイッチトキャパシタ積分回路のブロック図、図5図4の全差動型のスイッチトキャパシタ積分回路のタイミングチャートである。全差動型のスイッチトキャパシタ積分回路は、全差動オペアンプ回路A1と、入力容量C1_P,C1_Nと、積分容量C2_P,C2_Nと、スイッチS1_P,S1_N,S2_P,S2_N,S3_P,S3_N,S4_P,S4_Nとから構成される。
【0004】
図5のタイミングチャートに示したとおり、スイッチS1_P,S1_N,S2_P,S2_N,S3_P,S3_N,S4_P,S4_Nの接続状態を2つのフェーズ(φ1,φ2)に分割する。クロック信号φ1がHigh、クロック信号φ2がLowのフェーズでは、スイッチS1_P,S1_Nがオン、スイッチS2_P,S2_Nがオフとなり、入力容量C1_Pの入力側の端子は入力端子VI_Pと接続され、入力容量C1_Nの入力側の端子は入力端子VI_Nと接続される。
【0005】
クロック信号φ1がLow、クロック信号φ2がHighのフェーズでは、スイッチS1_P,S1_Nがオフ、スイッチS2_P,S2_Nがオンとなり、入力容量C1_Pの入力側の端子は入力端子VI_Nと接続され、入力容量C1_Nの入力側の端子は入力端子VI_Pと接続される。
【0006】
一方、クロック信号φ1がHigh、クロック信号φ2がLowのフェーズでは、スイッチS3_P,S3_Nがオン、スイッチS4_P,S4_Nがオフとなり、入力容量C1_P,C1_Nのオペアンプ側の端子は電圧VCM1に接続される。この結果、入力容量C1_P,C1_Nには、入力端子VI_P,VI_Nに入力される電圧に応じた電荷が充電される。
【0007】
クロック信号φ1がLow、クロック信号φ2がHighのフェーズでは、スイッチS3_P,S3_Nがオフ、スイッチS4_P,S4_Nがオンとなり、入力容量C1_P,C1_Nのオペアンプ側の端子は全差動オペアンプ回路A1の入力端子と接続される。この結果、クロック信号φ2がHighになる瞬間に、入力容量C1_P,C1_Nのオペアンプ側の端子の電圧が等しくなるようにフィードバックがかかる。
【0008】
クロック信号φ1がHighからLowに切り替わるときまでに入力容量C1_Pに充電された電荷の量Q1_P(φ1)と入力容量C1_Nに充電された電荷の量Q1_N(φ1)との差分Q1(φ1)は次式のようになる。
Q1(φ1)=Q1_P(φ1)-Q1_N(φ1)
=C1_P(VI_P-VCM1)-C1_N(VI_N-VCM1)・・(1)
【0009】
クロック信号φ2がHighからLowに切り替わるときまでに入力容量C1_Pに充電された電荷の量Q1_P(φ2)と入力容量C1_Nに充電された電荷の量Q1_N(φ2)との差分Q1(φ2)は次式のようになる。
Q1(φ2)=Q1_P(φ2)-Q1_N(φ2)
=C1_P(VI_N-VCM’)-C1_N(VI_P-VCM’)・・(2)
【0010】
ここで、VCM’は、全差動オペアンプ回路A1の入力端子電圧であり、全差動オペアンプ回路A1の差動出力電圧と、積分容量C2_P,C2_Nに充電されている電荷量とによって決定される。全差動オペアンプ回路A1は、通常、差動出力の中心電圧が一定となるよう出力電圧にフィードバックをかける。差動出力の中心電圧をVCM1、入力容量CI_P=CI_Nと設計した場合は、積分容量C2_P,C2_Nに積算される電荷量が反対称の値となるため、VCM’=VCM1となる。
【0011】
CI_P=CI_N=CIとすると、図4のスイッチトキャパシタ積分回路のクロック信号φ1の1周期の動作で転送される電荷量ΔQ1は、次式のようになる。
ΔQ1=Q1(φ1)-Q1(φ2)=2×CI×(VI_P-VI_N)
・・・(3)
【0012】
図4のスイッチトキャパシタ積分回路では、クロック信号φ1の1周期ごとに差動電圧(VI_P-VI_N)に比例した電荷が積算されることになる。
例えば特許文献2に開示されている通常の回路では、クロック信号φ2がHighのフェーズで入力容量を差動出力の中心電圧VCM1などに接続するが、その場合の電荷の転送量ΔQ1は、次式のようになる。
ΔQ1=CI×(VI_P-VI_N) ・・・(4)
【0013】
つまり、図4のスイッチトキャパシタ積分回路は、特許文献2に開示されている回路と比較して同一の入力容量についての電荷の転送量が2倍になるため、S/N比の向上が期待できる。
【0014】
一方で、図4のスイッチトキャパシタ積分回路においては、(VI_P-VI_N)の電位差次第では、問題が発生しうる。
一般的なCMOSプロセスのICでは、図6に示すようにスイッチS1_Pは、Nチャネル型MOSFET(NMOS)100とPチャネル型MOSFET(PMOS)200とを組み合わせたトランスミッションゲートと呼ばれる構成で実現される。他のスイッチS1_N,S2_P,S2_N,S3_P,S3_N,S4_P,S4_Nについても同様である。
【0015】
図7にNMOS100とPMOS200の断面図を示す。図7の101,201はP型サブスレート、102はN型拡散層、202はP型拡散層、103,203はゲート酸化膜、104,204はポリシリコンからなるゲート、205はN型ウエルである。
【0016】
NMOS100ではP型サブスレート101上にN型拡散層102を形成し、PMOS200ではN型ウエル205上にP型拡散層202を形成する。通常は、P型サブスレート101とN型拡散層102の電位が順バイアスとならないように、NMOS100のP型サブスレート101はグランド電位に接続される。同様に、N型ウエル205とP型拡散層202の電位が順バイアスとならないように、PMOS200のN型ウエル205は電源電圧VDDに接続される。
【0017】
しかし、MOSの拡散層の電位が、グランド電位よりも低くなった場合、もしくは電源電圧VDDよりも高くなった場合は、バルク(P型サブスレート101、N型ウエル205)から拡散層の方向、もしくは拡散層からバルクの方向へ順バイアス電流が流れることになる。例えばN型拡散層102がグランド電位よりも低くなった場合は、NMOSのP型サブスレート101からN型拡散層102へ順バイアス電流が流れる。また、P型拡散層202が電源電圧VDDよりも高くなった場合は、PMOSのP型拡散層202からN型ウエル205へ順バイアス電流が流れる。
【0018】
図4の回路においては、入力電圧VI_P,VI_Nの関係次第では、CMOSスイッチのバルクまたは拡散層に順バイアス電流が流れ込むケースが発生しうる。
図4の回路において、クロック信号φ1がHighからLowに切り替わるときまでに入力容量C1_Pに充電された電荷の量Q1_P(φ1)は、次式のようになる。
Q1_P=C1_P(VI_P-VCM1) ・・・(5)
【0019】
クロック信号φ2がHighになった瞬間は、入力容量C1_Pに式(5)で示す電荷が充電されているために、入力容量C1_PとスイッチS3_P,S4_Pとの接続点の電圧VCO_P(φ1_2)は、次式のようになる。
VCO_P(φ1_2)=VI_N-(VI_P-VCM1) ・・・(6)
【0020】
ここで、入力電圧VI_P,VI_Nの値次第で、クロック信号φ2がHighになったフェーズにおいて入力容量C1_PとスイッチS3_P,S4_Pとの接続点の電圧VCO_P(φ2)の値がICの電源電圧以上、もしくはグランド電位以下の値となりうる。
【0021】
例えば電源電圧をVDDとして、電圧VCM1をVCM1≧VDD/2の値に設計した場合、(VI_P-VI_N)<-VDD/2となる条件で、クロック信号φ2がHighになった瞬間の入力容量C1_PとスイッチS3_P,S4_Pとの接続点の電圧VCO_P(φ1_2)は、次式のようになる。
VCO_P(φ1_2)=-(VI_P-VI_N)+VCM1>VDD
・・・(7)
【0022】
したがって、電圧VCO_P(φ1_2)が電源電圧VDDよりも高くなるので、スイッチS3_P,S4_PのNMOS,PMOSの拡散層に電源電圧VDDよりも高い電圧が印加されることになる。
【0023】
逆に、VCM1の電圧をVCM1≦VDD/2と設計すると、(VI_P-VI_N)>VDD/2となる条件で、クロック信号φ2がHighになった瞬間の入力容量C1_PとスイッチS3_P,S4_Pとの接続点の電圧VCO_P(φ1_2)は、次式のようになる。
VCO_P(φ1_2)=-(VI_P-VI_N)+VCM1<0 ・・(8)
【0024】
したがって、電圧VCO_P(φ1_2)がグランド電位よりも低くなるので、スイッチS3_P,S4_PのNMOS,PMOSの拡散層にグランド電位よりも低い電圧が印加されることになる。
すなわち、(VI_P-VI_N)の電位差の取りうる値がVDD/2の絶対値より大きい場合に、VCO_P(φ2)を電源電圧VDDの範囲に収めるための電圧は一意の解がないことになる。
【0025】
図4のスイッチトキャパシタ積分回路の動作時に、入力容量C1_PとスイッチS3_P,S4_Pとの接続点の電圧VCO_P、入力容量C1_NとスイッチS3_N,S4_Nとの接続点の電圧VCO_Nが電源電圧VDDよりも高い電圧、もしくはグランド電位よりも低い電圧になった場合、スイッチS3_P,S3_N,S4_P,S4_NのNMOSのバルクから拡散層の方向、もしくはPMOSの拡散層からバルクの方向へ電流が流れることになる。
【0026】
その結果、クロック信号φ1がHighのフェーズで充電された入力容量C1_P,C1_Nの電荷がリークすることになり、積分値に誤差が生じる。スイッチトキャパシタ積分回路の設計時には、この電荷のリークを回避する設計を行う必要がある。
【0027】
図4では、全差動型のスイッチトキャパシタ積分回路を例として挙げたが、シングルエンド型のスイッチトキャパシタ積分回路においても同様の課題が発生し、クロック信号φ1がHighになるフェーズとクロック信号φ2がHighになるフェーズとの入力容量端子電圧の差が大きい場合は、入力容量の電荷のリークを回避する措置を取る必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】特許第3795338号公報
【特許文献2】特開2016-042627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、動作のフェーズ移行時に容量端子電圧の変動が大きい場合でも、容量の電荷のリークを抑制することができるスイッチトキャパシタ回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明のスイッチトキャパシタ回路は、サンプリング容量と、演算増幅回路と、前記サンプリング容量の入力側の端子を第1の入力電圧と第2の入力電圧と電荷転送用の第1の基準電圧のうちいずれかに選択的に接続するように構成された入力側スイッチと、前記サンプリング容量の演算増幅回路側の端子を電荷充電用の第2の基準電圧と前記演算増幅回路の入力端子のうちいずれかに選択的に接続するように構成された出力側スイッチとを備え、前記サンプリング容量の入力側の端子の接続先を、前記第1の入力電圧、前記第1の基準電圧、前記第2の入力電圧の順に周期的に切り替えることで、前記第1の入力電圧と前記第2の入力電圧の差動電圧を演算することを特徴とするものである。
また、本発明のスイッチトキャパシタ回路の1構成例(第1、第2の実施例)は、一端が前記演算増幅回路の入力端子に接続され、他端が前記演算増幅回路の出力端子に接続された積分容量をさらに備え、前記サンプリング容量の入力側の端子の接続先を、前記第1の入力電圧、前記第1の基準電圧、前記第2の入力電圧の順に周期的に切り替えることで、前記第1の入力電圧と前記第2の入力電圧の差動電圧を積分することを特徴とするものである。
【0031】
また、本発明のスイッチトキャパシタ回路の1構成例(第2の実施例)において、前記入力側スイッチは、第1の端子が前記第1の入力電圧に接続され、第2の端子が前記サンプリング容量の入力側の端子に接続された第1のスイッチと、第1の端子が前記サンプリング容量の入力側の端子に接続され、第2の端子が前記第1の基準電圧に接続された第2のスイッチと、第1の端子が前記第2の入力電圧に接続され、第2の端子が前記サンプリング容量の入力側の端子に接続された第3のスイッチとからなり、前記出力側スイッチは、第1の端子が前記サンプリング容量の演算増幅回路側の端子に接続され、第2の端子が前記第2の基準電圧に接続された第4のスイッチと、第1の端子が前記サンプリング容量の演算増幅回路側の端子に接続され、第2の端子が前記演算増幅回路の反転入力端子に接続された第5のスイッチとからなり、前記第1、第2、第3のスイッチは、前記サンプリング容量の入力側の端子の接続先を、前記第1の入力電圧、前記第1の基準電圧、前記第2の入力電圧の順に周期的に切り替えることを特徴とするものである。
【0032】
また、本発明のスイッチトキャパシタ回路の1構成例(第2の実施例)において、前記出力側スイッチは、前記入力側スイッチが前記サンプリング容量の入力側の端子を前記第1の入力電圧に接続するフェーズにおいて前記サンプリング容量の演算増幅回路側の端子を前記第2の基準電圧に接続し、前記入力側スイッチが前記サンプリング容量の入力側の端子を前記第1の基準電圧または前記第2の入力電圧に接続するフェーズにおいて前記サンプリング容量の演算増幅回路側の端子を前記演算増幅回路の反転入力端子に接続することを特徴とするものである。
また、本発明のスイッチトキャパシタ回路の1構成例(第2の実施例)において、前記第1、第2の基準電圧は、前記入力側スイッチが前記サンプリング容量の入力側の端子を前記第1の基準電圧または前記第2の入力電圧に接続するフェーズにおいて前記サンプリング容量の演算増幅回路側の端子と前記出力側スイッチとの接続点の電圧が、グランド電位と電源電圧の範囲内に収まるように設定される。
【0033】
また、本発明のスイッチトキャパシタ回路の1構成例(第1の実施例)において、前記演算増幅回路は、全差動オペアンプ回路であり、前記サンプリング容量は、第1のサンプリング容量と第2のサンプリング容量とからなり、前記入力側スイッチは、第1の端子が前記第1の入力電圧に接続され、第2の端子が前記第1のサンプリング容量の入力側の端子に接続された第1のスイッチと、第1の端子が前記第2の入力電圧に接続され、第2の端子が前記第2のサンプリング容量の入力側の端子に接続された第2のスイッチと、第1の端子が前記第1のサンプリング容量の入力側の端子に接続され、第2の端子が前記第1の基準電圧に接続された第3のスイッチと、第1の端子が前記第2のサンプリング容量の入力側の端子に接続され、第2の端子が前記第1の基準電圧に接続された第4のスイッチと、第1の端子が前記第2の入力電圧に接続され、第2の端子が前記第1のサンプリング容量の入力側の端子に接続された第5のスイッチと、第1の端子が前記第1の入力電圧に接続され、第2の端子が前記第2のサンプリング容量の入力側の端子に接続された第6のスイッチとからなり、前記出力側スイッチは、第1の端子が前記第1のサンプリング容量の全差動オペアンプ回路側の端子に接続され、第2の端子が前記第2の基準電圧に接続された第7のスイッチと、第1の端子が前記第2のサンプリング容量の全差動オペアンプ回路側の端子に接続され、第2の端子が前記第2の基準電圧に接続された第8のスイッチと、第1の端子が前記第1のサンプリング容量の全差動オペアンプ回路側の端子に接続され、第2の端子が前記全差動オペアンプ回路の反転入力端子に接続された第9のスイッチと、第1の端子が前記第2のサンプリング容量の全差動オペアンプ回路側の端子に接続され、第2の端子が前記全差動オペアンプ回路の非反転入力端子に接続された第10のスイッチとからなり、前記第1、第3、第5のスイッチは、前記第1のサンプリング容量の入力側の端子の接続先を、前記第1の入力電圧、前記第1の基準電圧、前記第2の入力電圧の順に周期的に切り替え、前記第2、第4、第6のスイッチは、前記第1、第3、第5のスイッチと同期して、前記第2のサンプリング容量の入力側の端子の接続先を、前記第2の入力電圧、前記第1の基準電圧、前記第1の入力電圧の順に周期的に切り替えることを特徴とするものである。
【0034】
また、本発明のスイッチトキャパシタ回路の1構成例(第1の実施例)は、一端が前記全差動オペアンプ回路の反転入力端子に接続され、他端が前記全差動オペアンプ回路の非反転出力に接続された第1の積分容量と、一端が前記全差動オペアンプ回路の非反転入力端子に接続され、他端が前記全差動オペアンプ回路の反転出力に接続された第2の積分容量とさらに備え、前記第1、第3、第5のスイッチは、前記第1のサンプリング容量の入力側の端子の接続先を、前記第1の入力電圧、前記第1の基準電圧、前記第2の入力電圧の順に周期的に切り替え、前記第2、第4、第6のスイッチは、前記第1、第3、第5のスイッチと同期して、前記第2のサンプリング容量の入力側の端子の接続先を、前記第2の入力電圧、前記第1の基準電圧、前記第1の入力電圧の順に周期的に切り替えることで、前記第1の入力電圧と前記第2の入力電圧の差動電圧を積分することを特徴とするものである。
【0035】
また、本発明のスイッチトキャパシタ回路の1構成例(第1の実施例)において、前記第7、第8のスイッチは、前記入力側スイッチが前記第1のサンプリング容量の入力側の端子を前記第1の入力電圧に接続し、前記第2のサンプリング容量の入力側の端子を前記第2の入力電圧に接続するフェーズにおいて、前記第1、第2のサンプリング容量の全差動オペアンプ回路側の端子を前記第2の基準電圧に接続し、前記第9、第10のスイッチは、前記入力側スイッチが前記第1のサンプリング容量の入力側の端子を前記第1の基準電圧または前記第2の入力電圧に接続し、前記第2のサンプリング容量の入力側の端子を前記第1の基準電圧または前記第1の入力電圧に接続するフェーズにおいて、前記第1のサンプリング容量の全差動オペアンプ回路側の端子を前記演算増幅回路の反転入力端子に接続し、前記第2のサンプリング容量の全差動オペアンプ回路側の端子を前記演算増幅回路の非反転入力端子に接続することを特徴とするものである。
また、本発明のスイッチトキャパシタ回路の1構成例(第1の実施例)において、前記第1、第2の基準電圧は、前記入力側スイッチが前記第1のサンプリング容量の入力側の端子を前記第1の基準電圧または前記第2の入力電圧に接続し、前記第2のサンプリング容量の入力側の端子を前記第1の基準電圧または前記第1の入力電圧に接続するフェーズにおいて、前記第1のサンプリング容量と前記第7、第9のスイッチとの接続点の電圧および前記第2のサンプリング容量と前記第8、第10のスイッチとの接続点の電圧が、グランド電位と電源電圧の範囲内に収まるように設定される。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、サンプリング容量の入力側の端子の接続先を、第1の入力電圧、第1の基準電圧、第2の入力電圧の順に周期的に切り替えることにより、第1の入力電圧と第2の入力電圧の差動電圧の振幅が大きい場合でも、サンプリング容量の電荷のリークを抑制することができる。その結果、本発明では、信号処理の誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、本発明の第1の実施例に係る全差動型のスイッチトキャパシタ積分回路の回路図である。
図2図2は、本発明の第1の実施例に係る全差動型のスイッチトキャパシタ積分回路のタイミングチャートである。
図3図3は、本発明の第2の実施例に係るシングルエンド型のスイッチトキャパシタ積分回路の回路図である。
図4図4は、従来の全差動型のスイッチトキャパシタ積分回路の回路図である。
図5図5は、従来の全差動型のスイッチトキャパシタ積分回路のタイミングチャートである。
図6図6は、トランスミッションゲートの回路図である。
図7図7は、Nチャネル型MOSFETとPチャネル型MOSFETの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施例に係る全差動型のスイッチトキャパシタ積分回路の回路図、図2図1のスイッチトキャパシタ積分回路のタイミングチャートである。
【0039】
本実施例のスイッチトキャパシタ積分回路は、全差動オペアンプ回路A1(演算増幅回路)と、入力容量C1_P,C1_N(サンプリング容量)と、一端が全差動オペアンプ回路A1の反転入力端子に接続され、他端が全差動オペアンプ回路A1の非反転出力端子に接続された積分容量C2_Pと、一端が全差動オペアンプ回路A1の非反転入力端子に接続され、他端が全差動オペアンプ回路A1の反転出力端子に接続された積分容量C2_Nと、第1の端子が入力端子VI_P(第1の入力電圧)に接続され、第2の端子が入力容量C1_Pの入力側の端子に接続され、制御端子にクロック信号φ1が入力されるスイッチS1_Pと、第1の端子が入力端子VI_N(第2の入力電圧)に接続され、第2の端子が入力容量C1_Nの入力側の端子に接続され、制御端子にクロック信号φ1が入力されるスイッチS1_Nと、第1の端子が入力端子VI_Nに接続され、第2の端子が入力容量C1_Pの入力側の端子に接続され、制御端子にクロック信号φ2bが入力されるスイッチS2_Pと、第1の端子が入力端子VI_Pに接続され、第2の端子が入力容量C1_Nの入力側の端子に接続され、制御端子にクロック信号φ2bが入力されるスイッチS2_Nと、第1の端子が入力容量C1_Pのオペアンプ側の端子に接続され、第2の端子が電圧VCM1(第2の基準電圧)に接続され、制御端子にクロック信号φ1が入力されるスイッチS3_Pと、第1の端子が入力容量C1_Nのオペアンプ側の端子に接続され、第2の端子が電圧VCM1に接続され、制御端子にクロック信号φ1が入力されるスイッチS3_Nと、第1の端子が入力容量C1_Pのオペアンプ側の端子に接続され、第2の端子が全差動オペアンプ回路A1の反転入力端子に接続され、制御端子にクロック信号φ2が入力されるスイッチS4_Pと、第1の端子が入力容量C1_Nのオペアンプ側の端子に接続され、第2の端子が全差動オペアンプ回路A1の非反転入力端子に接続され、制御端子にクロック信号φ2が入力されるスイッチS4_Nと、第1の端子が入力容量C1_Pの入力側の端子に接続され、第2の端子が電圧VCM2(第1の基準電圧)に接続され、制御端子にクロック信号φ2aが入力されるスイッチS5_Pと、第1の端子が入力容量C1_Nの入力側の端子に接続され、第2の端子が電圧VCM2に接続され、制御端子にクロック信号φ2aが入力されるスイッチS5_Nとから構成される。
【0040】
スイッチS1_P,S1_N,S2_P,S2_N,S5_P,S5_Nは入力側スイッチを構成し、スイッチS3_P,S3_N,S4_P,S4_Nは出力側スイッチを構成している。
クロック信号φ1,φ2,φ2a,φ2bは、図示しないクロック信号源から出力される。
【0041】
本実施例では、図4に示したスイッチトキャパシタ積分回路に対してスイッチS5_P,S5_Nを追加し、スイッチトキャパシタ積分回路の電荷ホールドのフェーズφ2を、φ2a,φ2bの2つに分割し、スイッチS1_P,S1_N,S2_P,S2_N,S5_P,S5_Nの接続状態を3つのフェーズ(φ1,φ2a,φ2b)に分割する。
【0042】
クロック信号φ1がHigh、クロック信号φ2,φ2a,φ2bがLowのフェーズでは、スイッチS1_P,S1_Nがオン、スイッチS2_P,S2_N,S5_P,S5_Nがオフとなり、入力容量C1_Pの入力側の端子は入力端子VI_Pと接続され、入力容量C1_Nの入力側の端子は入力端子VI_Nと接続される。
【0043】
クロック信号φ1,φ2bがLow、クロック信号φ2,φ2aがHighのフェーズでは、スイッチS1_P,S1_N,S2_P,S2_Nがオフ、スイッチS5_P,S5_Nがオンとなり、入力容量C1_P,C1_Nの入力側の端子は電圧VCM2と接続される。
【0044】
クロック信号φ1,φ2aがLow、クロック信号φ2,φ2bがHighのフェーズでは、スイッチS1_P,S1_N,S5_P,S5_Nがオフ、スイッチS2_P,S2_Nがオンとなり、入力容量C1_Pの入力側の端子は入力端子VI_Nと接続され、入力容量C1_Nの入力側の端子は入力端子VI_Pと接続される。
【0045】
従来と同様に、クロック信号φ1がHigh、クロック信号φ2がLowのフェーズでは、スイッチS3_P,S3_Nがオン、スイッチS4_P,S4_Nがオフとなり、入力容量C1_P,C1_Nのオペアンプ側の端子は電圧VCM1に接続される。また、クロック信号φ1がLow、クロック信号φ2がHighのフェーズでは、スイッチS3_P,S3_Nがオフ、スイッチS4_P,S4_Nがオンとなり、入力容量C1_P,C1_Nのオペアンプ側の端子は全差動オペアンプ回路A1の入力端子と接続される。
【0046】
クロック信号φ2aがHighになったフェーズにおける入力容量C1_PとスイッチS3_P,S4_Pとの接続点の電圧VCO_P(φ2a)の値は次式のようになる。
VCO_P(φ2a)=VCM2-(VI_P-VCM1) ・・・(9)
【0047】
また、クロック信号φ2bがHighになったフェーズにおける入力容量C1_PとスイッチS3_P,S4_Pとの接続点の電圧VCO_P(φ2b)の値は次式のようになる。
VCO_P(φ2b)=VI_N-(VCM2-VCM’) ・・・(10)
【0048】
式(10)において、VCM’=VCM1(コモンモードフィードバック電圧=VCM1の場合)である。
クロック信号φ1がHighのフェーズで充電された入力容量C1_P,C1_Nの電荷のリークを回避するためには、式(9)、式(10)の電圧VCO_P(φ2a),VCO_P(φ2b)の値がグランド電位から電源電圧VDDの範囲を超えないように、電圧VCM1,VCM2の値を設計すればよいことになる。
【0049】
例えば電源電圧VDDに対して、VCM1=VCM2=VDD/2とすれば、電圧VCO_P(φ2a),VCO_P(φ2b)は以下のようになる。
VCO_P(φ2a)=VDD-VI_P ・・・(11)
VCO_P(φ2b)=VI_N ・・・(12)
【0050】
ただし、0V≦VI_P≦VDD、かつ0V≦VI_N≦VDDとする。式(11)、式(12)によれば、入力電圧VI_P,VI_Nがグランド電位と電源電圧VDDの範囲内である限り、入力容量C1_PとスイッチS3_P,S4_Pとの接続点の電圧VCO_P(φ2a),VCO_P(φ2b)もグランド電位と電源電圧VDDの範囲内に収まることになる。
【0051】
式(11)、式(12)では、入力容量C1_PとスイッチS3_P,S4_Pとの接続点の電圧のみ示しているが、例えばVCM1=VCM2=VDD/2とすることにより、入力容量C1_NとスイッチS3_N,S4_Nとの接続点の電圧VCO_Nもグランド電位と電源電圧VDDの範囲内となる。
【0052】
本実施例では、入力容量C1_Pの入力端子側の電圧を、一度にVI_PからVI_Nへ変化させずに、VCM2を経由させることになる。入力電圧VI_Pと入力電圧VI_Nの電位差が大きい場合に、既知の電圧VCM2を経由することで、瞬間的な電圧の変化量を規定値内に抑えることができ、入力容量C1_Pの電荷のリークを抑制できる。入力容量C1_Nについても同様である。したがって、本実施例では、差動入力などの用途において、大きな振幅の電圧信号を取得できるようになり、特許文献2に開示された構成と比較して、積分回路のS/Nの向上が期待できる。
【0053】
[第2の実施例]
第1の実施例では、全差動型のスイッチトキャパシタ積分回路を例に挙げて説明したが、シングルエンド型のスイッチトキャパシタ積分回路にも本発明を適用可能である。図3は本発明の第2の実施例に係るシングルエンド型のスイッチトキャパシタ積分回路の回路図である。
【0054】
本実施例のスイッチトキャパシタ積分回路は、非反転入力端子が電圧VCM1(第2の基準電圧)に接続されたオペアンプ回路A2(演算増幅回路)と、入力容量C1(サンプリング容量)と、一端がオペアンプ回路A2の反転入力端子に接続され、他端がオペアンプ回路A2の出力端子に接続された積分容量C2と、第1の端子が入力端子V1(第1の入力電圧)に接続され、第2の端子が入力容量C1の入力側の端子に接続され、制御端子にクロック信号φ1が入力されるスイッチS1と、第1の端子が入力端子V2(第2の入力電圧)に接続され、第2の端子が入力容量C1の入力側の端子に接続され、制御端子にクロック信号φ2bが入力されるスイッチS2と、第1の端子が入力容量C1のオペアンプ側の端子に接続され、第2の端子が電圧VCM1に接続され、制御端子にクロック信号φ1が入力されるスイッチS3と、第1の端子が入力容量C1のオペアンプ側の端子に接続され、第2の端子がオペアンプ回路A2の反転入力端子に接続され、制御端子にクロック信号φ2が入力されるスイッチS4と、第1の端子が入力容量C1の入力側の端子に接続され、第2の端子が電圧VCM2(第1の基準電圧)に接続され、制御端子にクロック信号φ2aが入力されるスイッチS5とから構成される。
【0055】
スイッチS1,S2,S5は入力側スイッチを構成し、スイッチS3,S4は出力側スイッチを構成している。
本実施例においても、スイッチトキャパシタ積分回路のタイミングチャートは図2と同様である。
【0056】
クロック信号φ1がHigh、クロック信号φ2,φ2a,φ2bがLowのフェーズでは、スイッチS1がオン、スイッチS2,S5がオフとなり、入力容量C1の入力側の端子は入力端子V1と接続される。クロック信号φ1,φ2bがLow、クロック信号φ2,φ2aがHighのフェーズでは、スイッチS1,S2がオフ、スイッチS5がオンとなり、入力容量C1の入力側の端子は電圧VCM2と接続される。クロック信号φ1,φ2aがLow、クロック信号φ2,φ2bがHighのフェーズでは、スイッチS1,S5がオフ、スイッチS2がオンとなり、入力容量C1の入力側の端子は入力端子V2と接続される。
【0057】
クロック信号φ1がHigh、クロック信号φ2がLowのフェーズでは、スイッチS3がオン、スイッチS4がオフとなり、入力容量C1のオペアンプ側の端子は電圧VCM1に接続される。また、クロック信号φ1がLow、クロック信号φ2がHighのフェーズでは、スイッチS3がオフ、スイッチS4がオンとなり、入力容量C1のオペアンプ側の端子はオペアンプ回路A2の反転入力端子と接続される。
【0058】
本実施例では、クロック信号φ1の1周期毎に、入力端子V1とV2の差動電圧が積分される。第1の実施例と同様に、入力容量C1の接続先を、φ2a,φ2bの2段階に切り替えて電荷を段階的に積分容量C2へ転送することで、V1-V2の振幅が大きい場合でも、入力容量C1の電荷のリークを防ぐことができる。
【0059】
第1、第2の実施例では、スイッチトキャパシタ積分回路を例に挙げて説明したが、本発明はスイッチトキャパシタ回路全般に対して広く適用できると考えられ、動作のフェーズ移行時に容量端子電圧の変動が大きい場合の電荷リークの抑制方法として使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、スイッチトキャパシタ回路に適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
A1…全差動オペアンプ回路、A2…オペアンプ回路、C1,C1_P,C1_N…入力容量、C2,C2_P,C2_N…積分容量、S1,S1_P,S1_N,S2,S2_P,S2_N,S3,S3_P,S3_N,S4,S4_P,S4_N,S5,S5_P,S5_N…スイッチ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7