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▶ 株式会社 黒田精機製作所の特許一覧

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  • 特開-トルクレンチ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019287
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】トルクレンチ
(51)【国際特許分類】
   B25B 23/142 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
B25B23/142
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123910
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】599169748
【氏名又は名称】株式会社 黒田精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 好徳
【テーマコード(参考)】
3C038
【Fターム(参考)】
3C038AA01
3C038BC01
3C038BC06
(57)【要約】
【課題】トルクリミッター機能を備えるとともに、筐体の外部からの操作によってトルク値を調整することが可能であり、切削工具のチップ交換に使用することが可能な小さいサイズのトルクレンチを提供すること。
【解決手段】厚みの薄い箱型形状のハンドルに軸部3を貫通させ、前記ハンドルの内部に、トルク値設定用のばね4を備えたトルク値設定機構7を収容したトルクレンチ1であって、トルク値設定機構7は、軸部3の外周に形成された外歯34に係合する回転体5と、ばね4により付勢されて外歯34に回転体5を押し付ける揺動レバー6とを備え、ばね4は、前記ハンドルの内部に、長手方向が軸部3に対して略平行となる向きに配置され、ばね4には外部操作可能なばね圧調整部材41が設けられたトルクレンチ1とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みの薄い箱型形状のハンドルに軸部を貫通させ、
前記ハンドルの内部に、トルク値設定用のばねを備えたトルク値設定機構を収容したトルクレンチであって、
前記トルク値設定機構は、
前記軸部の外周に形成された外歯に係合する回転体と、
前記ばねにより付勢されて前記外歯に前記回転体を押し付ける揺動レバーとを備え、
前記ばねは、前記ハンドルの内部に、長手方向が前記軸部に対して略平行となる向きに配置され、
前記ばねには外部操作可能なばね圧調整部材が設けられたトルクレンチ。
【請求項2】
前記ハンドルの一方の端部に前記軸部が配置され、他方の端部に前記ばねが配置された請求項1に記載のトルクレンチ。
【請求項3】
前記揺動レバーは正面視長板状であり、長手方向の一方の端部側に前記回転体と当接する押圧部を備え、前記揺動レバーを軸支する支軸は、前記揺動レバーの中央よりも前記押圧部に近い位置に配置されている請求項1または2に記載のトルクレンチ。
【請求項4】
前記ばねは、前記揺動レバーと当接する部分が凸球面状に形成されたピンを介して前記揺動レバーを押圧する前請求項1乃至3のいずれかに記載のトルクレンチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸部にかかる締め付けトルクが設定値を超えることを抑制するトルクリミッター機能を備え、かつ、前記締め付けトルクの設定値の調整が可能なトルクレンチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属等の加工物に旋削加工やフライス加工などを行う場合、交換用の刃先であるチップがホルダに装着された切削工具が用いられることがある。このようなチップをホルダに装着する際に、ねじを締める締め付けトルクが大きすぎると、チップにひずみが生じたり、ねじが破損したりするおそれがある。逆に締め付けトルクが小さすぎると、ねじが緩んでチップの固定が甘くなるおそれがある。よって、チップをホルダに正確に装着するためには、適正な締め付けトルクでねじを締めることが重要となる。
【0003】
従来、設定した範囲内のトルクでねじを締めるために、締め付けトルクが設定値の上限に達するとトルクリミッター機能が作動するトルクレンチが知られている。特許文献1には、カム機構を利用したトルクリミッターを備えたトルクレンチであって、カム部に係合するローラ部材に対して、ローラ保持レバー体を介してトルク値設定用ばねのばね力を作用させるトルクレンチが記載されている。この発明では、ローラ保持レバー体における支軸とローラ部材との間の距離よりも、前記支軸とばね力伝達ロッドの作用点との間の距離を長くすることにより、ローラ部材に発生させる反力に対してばね力を小さくすることが可能となり、ばね及び他の部材の小型軽量化が図られている。
【0004】
しかし、このトルクレンチは全体が長い棒状であって、トルクリミッター機構が直線状に配置されたものである。このような大きさ及び形状のトルクレンチでは、狭い空間において切削工具のチップを着脱する用途には適さない。
【0005】
また、特許文献2には、切削工具のチップを着脱するのに適した大きさ及び形状を有し、締結部材に対して所定のレベルより高くないトルクを与えることが可能なトルクレンチが記載されている。このトルクレンチは、ロッドと同軸に配置されたギアと、このギアに係合する2枚の板ばねを用いたトルクリミッター機構を備え、ロッドの中心軸からの板ばねのオフセット量を増減させることによってトルク値の上限を設定することが可能である。しかし、このトルクレンチにおいて設定トルク値を変更するためには、ハンドル(ハウジング31)を分解して板ばね保持部材(ばねホルダ49及び51)を交換し再度組み直さなければならない。このため、実質的には一度設定されたトルク値を随時変更することは困難であり、設定トルク値の異なる複数のトルクレンチを用意して使い分けることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再公表特許第2010/119599号公報
【特許文献2】特開2015-199194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上記した従来の問題点を解決し、トルクリミッター機能を備えるとともに、筐体の外部からの操作によってトルク値を調整することが可能であり、切削工具のチップ交換に使用することが可能な小さいサイズのトルクレンチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、厚みの薄い箱型形状のハンドルに軸部を貫通させ、前記ハンドルの内部に、トルク値設定用のばねを備えたトルク値設定機構を収容したトルクレンチであって、前記トルク値設定機構は、前記軸部の外周に形成された外歯に係合する回転体と、前記ばねにより付勢されて前記外歯に前記回転体を押し付ける揺動レバーとを備え、前記ばねは、前記ハンドルの内部に、長手方向が前記軸部に対して略平行となる向きに配置され、前記ばねには外部操作可能なばね圧調整部材が設けられたトルクレンチとする。
【0009】
また、前記ハンドルの一方の端部に前記軸部が配置され、他方の端部に前記ばねが配置されている構成とすることが好ましい。
【0010】
また、前記揺動レバーは正面視長板状であり、長手方向の一方の端部側に前記回転体と当接する押圧部を備え、前記揺動レバーを軸支する支軸は、前記揺動レバーの中央よりも前記押圧部に近い位置に配置されている構成とすることが好ましい。
【0011】
また、前記ばねは、前記揺動レバーと当接する部分が凸球面状に形成されたピンを介して前記揺動レバーを押圧する構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、トルクリミッター機能を備えるとともに、筐体の外部からの操作によって設定トルク値を調整することが可能であり、切削工具のチップ交換に使用することが可能な小さいサイズのトルクレンチを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態のトルクレンチの正面図である。
図2】実施形態のトルクレンチのカバーが外された状態を示す斜視図である。
図3】実施形態のトルクレンチのカバーが外された状態を示す一部断面図である。
図4】実施形態のトルク値設定機構の動作を表した図である。なお、トルク値設定機構を点線で表している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に発明を実施するための形態を示す。なお、本明細書中における上下左右方向は、図1に示す上下左右方向と一致するものである。図1乃至図3に示されるように、本実施形態のトルクレンチ1は、厚みの薄い箱型形状のハンドル2と、ねじなどの締結部材に係合可能な係合部32が形成された軸部3とを備え、ハンドル2を軸部3が貫通している。実施形態のハンドル2は、ハンドル本体21と、ハンドル本体21を覆うことが可能なカバー22とを備え、ハンドル本体21には、トルク値設定用のばね4を備えたトルク値設定機構7を収容可能な空間が形成されている。また、実施形態の軸部3は、先端に係合部32が形成された軸31と、軸31と同軸に配置されて軸31を保持する軸保持部材33とを備えている。軸31及び軸保持部材33は、互いに対して回動不能となっている。軸部3の外周には、スプライン状の縦長の外歯34が複数設けられている。この実施形態の外歯34は軸保持部材33の外周に形成されており、ハンドル2の内部に収容されている。
【0015】
図3に示されるように、本実施形態のトルクレンチ1におけるトルク値設定機構7は、ばね4と、外歯34に係合する回転体5と、ばね4により付勢されて外歯34に回転体5を押し付ける揺動レバー6とを備えている。ばね4は、ハンドル2の内部に、長手方向が軸部3に対して略平行となる向きに配置され、揺動レバー6は、長手方向がばね4の上側と軸部3とを架け渡すような向きで配置されている。これらのトルク値設定機構7はハンドル2の内部に収容されている。また、ばね4の下端にはばね圧調整部材41が設けられている。実施形態のばね圧調整部材41は、ハンドル2の外部から、ハンドル本体21に形成された調整用ねじ孔23に差し込まれ、調整用ねじ孔23に螺合してばね4の付勢力を調整することが可能なねじである。ばね圧調整部材41の操作部はハンドル2の外部に位置するので、トルクレンチ1の外部から設定トルク値を容易に調整することができる。
【0016】
ここで、本発明のトルク値設定機構7、及び、トルク値設定機構7が収容されるハンドル2について詳細に説明する。図2及び図3に示すように、実施形態のハンドル本体21は、軸部3を支持する軸部支持溝211を備え、軸部支持溝211には、外歯34が形成された部分が収容される外歯部収容部212が設けられている。この実施形態においては、軸部支持溝211はハンドル本体21の正面視左側の位置に、外歯部収容部212は軸部支持溝211の中央より上側の位置に形成されている。
【0017】
ハンドル本体21の正面視上側には、長手方向が外歯部収容部212と略直交する向きで、揺動レバー6を軸支する揺動レバー収容部214が設けられている。外歯部収容部212と揺動レバー収容部214とは、回転体5を支持する通路状の回転体支持溝213によって連通している。
【0018】
実施形態の回転体支持溝213は、上下方向の幅が回転体5の直径とほぼ等しい大きさで形成されており、回転体支持溝213に嵌め込まれた回転体5の上下方向への移動を規制する。回転体5の右側の端部は回転体支持溝21の右側端部より外側に突出しており、ばね4に付勢された揺動レバー6からの押圧を受ける。なお、実施形態の回転体5は鋼球であるが、円筒形状など他の形状の回転体であってもよい。
【0019】
実施形態の揺動レバー6は全体が正面視略長板状の部材であり、正面視左下の角に左下方向に突出した正面視五角形の突出部61を備えている。揺動レバー6は、突出部61に設けられた支軸62を中心に揺動可能に軸支される。実施形態の揺動レバー6は金属製であるが、樹脂など他の材料で形成されたものであってもよい。実施形態の揺動レバー6は、その左側面において突出部61より上側の部分に、回転体5を受けて押圧する押圧部63を備えている。
【0020】
ハンドル本体21の正面視右側かつ揺動レバー収容部214の下側となる位置には、内部にばね支持孔215を有しトルク値設定用のばね4を収容するばね収容部216が設けられている。ばね収容部216は、長手方向が揺動レバー収容部214と略直交する。このため、ばね収容部216に収容されたばね4は、長手方向が軸部3に対して略平行かつ揺動レバー6に対して略直交する向きで、揺動レバー6の下側の位置に配置される。
【0021】
実施形態のばね4は、下端にばね圧調整部材41が、上端にピン42が設けられ、ピン42を介して揺動レバー6にばね圧が伝達される。実施形態のピン42の先端は凸球面状に形成されている。この凸球面の一部が、揺動レバー6の正面視中央より右側の下面の受け部64に当接する。
【0022】
また、ばね収容部216と軸部支持溝211との間には、ハンドル本体21にカバー22を取り付けるためのカバー固定ねじ24が螺合するカバー固定用ねじ孔25が形成されている。トルク値設定機構7が収容されたハンドル本体21にカバー22を取り付けると、カバー22の上縁部が揺動レバー6の上方向への移動を規制する。
【0023】
このように、本発明のトルクレンチ1は、トルク値設定機構7が正面視略L字型となるように配置され、さらに、トルク値設定機構7と軸部3とが正面視略コ字状となるように配置されることにより、トルク値設定機構7を正面視矩形状のハンドル2の内部に収納することができる。
【0024】
次に、本発明のトルク値設定機構7の動作について説明する。ばね圧調整部材41を締めると、下側から押されたばね4が圧縮され、ばね4が揺動レバー6の正面視右下の部分を押し上げる。揺動レバー6が右下側からばね4によって押されることにより、揺動レバー6が左下方向へ向かってわずかに傾く。揺動レバー6が傾こうとする力が働くことにより、押圧部63が回転体5を外歯34へ押し付けるように作用する。揺動レバー6によって右側から押された回転体5は、わずかに左側へと移動して外歯34に押し付けられ、軸部3の回動を規制する。この状態のトルクレンチ1を用いて締結部材の締め付け作業を行う。
【0025】
操作者は、係合部32を締結部材に係合させ、ハンドル2をつまんでトルクレンチ1を回動させる。締め付けトルクが設定トルク値に達すると、外歯34から回転体5に対してかかる力が大きくなり、回転体5が押圧部63からの押圧力に対抗して移動し外歯34を乗り越える。このようにしてトルクリミッター機能が働くことにより、操作者は締め付けトルクがトルク値に達したことを感知することができる。
【0026】
なお、本実施形態の揺動レバー6を軸支する支軸62は、揺動レバー6の中央よりも押圧部63に近い位置に配置されている。具体的には、図4に示されるように、押圧部63と回転体5が当接する点を接点P1、受け部64とピン42が当接する点を接点P2としたとき、支軸62の中心点Cと接点P1との間の距離d1は、中心点Cと接点P2との間の距離d2より短い。実施形態では、距離d1と距離d2の長さの比は約1:4である。中心点Cを支点として、接点P1がてこの作用点、接点P2がてこの力点となるので、小さいばね圧であっても回転体5に対して大きな圧をかけることが可能となり、ばね4を小型化することができる。
【0027】
また、トルク値設定機構7において距離d1が距離d2より短いことにより、ばね圧調整部材41の回転操作による微細なトルク値の設定を精密に行うことが可能となる。ばね圧調整部材41を締める方向に回すと、押圧部63が回転体5を押圧する力が強くなり、回転体5が軸部3に近づく方向へ移動する。これにより、トルクレンチ1の締め付けトルクの上限値は大きくなる。一方、ばね圧調整部材41を緩める方向に回すと、押圧部63が回転体5を押圧する力が弱くなり、回転体5が軸部3から離れる方向へ移動する。これにより、トルクレンチ1の締め付けトルクの上限値は小さくなる。
【0028】
このとき、設定される締め付けトルクの上限値の変更は、ばね圧調整部材41の回転操作によって行われているが、ばね圧調整部材41の回転量と比較して、この回転量に対する回転体5の移動距離は極めて微量となる。このため、ばね圧調整部材41を回転させることにより、押圧部63が回転体5を押圧する力を微細に変化させて、トルクレンチ1の締め付けトルクの上限値を微調整することが可能となる。
【0029】
以上、実施形態を例に挙げて本発明について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。例えば、実施形態の軸部3は、軸保持部材33に対して軸31が着脱自在となっているが、これらが一体に形成されていてもよい。なお、実施形態のように軸31が分離可能であれば、被締結部材に応じて軸31を容易に交換することができる。
【0030】
また、実施形態ではハンドル2の一方の端部に軸部3が貫通しているが、軸部3がハンドル2の中央に配置されていてもよい。また、外歯34をハンドル本体21の下側の位置に配置し、トルク値設定機構7を実施形態とは上下反対となる向きに配置して、ばね圧調整部材41をハンドル2の上側に設けた構成としてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 トルクレンチ
2 ハンドル
21 ハンドル本体
211 軸部支持溝
212 外歯部収容部
213 回転体支持溝
214 揺動レバー収容部
215 ばね支持孔
216 ばね収容部
22 カバー
23 調整用ねじ孔
24 カバー固定ねじ
25 カバー固定用ねじ孔
3 軸部
31 軸
32 係合部
33 軸保持部材
34 外歯
4 ばね
41 ばね圧調整部材
42 ピン
5 回転体
6 揺動レバー
61 突出部
62 支軸
63 押圧部
64 受け部
7 トルク値設定機構
図1
図2
図3
図4