(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019367
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】自溶合金皮膜を有する物品の補修方法
(51)【国際特許分類】
C23C 30/00 20060101AFI20230202BHJP
C23C 6/00 20060101ALI20230202BHJP
B23K 5/18 20060101ALN20230202BHJP
【FI】
C23C30/00 E
C23C6/00
B23K5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124029
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000208695
【氏名又は名称】第一高周波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100066
【弁理士】
【氏名又は名称】愛智 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100100365
【弁理士】
【氏名又は名称】増子 尚道
(72)【発明者】
【氏名】奥津 賢一郎
(72)【発明者】
【氏名】天本 昌範
(72)【発明者】
【氏名】皆川 次夫
(72)【発明者】
【氏名】古吟 孝
【テーマコード(参考)】
4K031
4K044
【Fターム(参考)】
4K031CB30
4K031DA01
4K044AA02
4K044BA02
4K044BA06
4K044BB10
4K044BC02
4K044CA11
4K044CA31
(57)【要約】
【課題】作業効率が高くて大面積の補修も可能であり、空隙やクラックなどを内部に含まずに緻密性に優れ、基材表面に対する密着性にも優れた補修皮膜を形成することのできる補修方法を提供すること。
【解決手段】基材表面に自溶合金皮膜を有する物品の補修方法であって、自溶合金皮膜の欠損部分を含む被補修部に適合する形状に賦形された自溶合金からなる気孔率30%未満の補修用パッチを作製するパッチ作製工程と、被補修部を下地処理する下地処理工程と、下地処理された被補修部を予熱する被補修部予熱工程と、予熱された被補修部にパッチを接触させた状態で配置するパッチ配置工程と、パッチを被補修部に加熱接合して補修皮膜を形成する接合工程とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に自溶合金皮膜を有する物品の補修方法であって、
自溶合金皮膜の欠損部分を含む被補修部に適合する形状に賦形された自溶合金からなる気孔率30%未満の補修用パッチを作製するパッチ作製工程と、
前記被補修部を下地処理する下地処理工程と、
下地処理された前記被補修部を予熱する被補修部予熱工程と、
予熱された前記被補修部に前記パッチを接触させた状態で配置するパッチ配置工程と、 前記パッチを前記被補修部に加熱接合して補修皮膜を形成する接合工程と
を含む補修方法。
【請求項2】
前記パッチ作製工程において、気孔率20%未満の補修用パッチを作製する請求項1に記載の補修方法。
【請求項3】
前記パッチ作製工程において、前記パッチを溶射により作製する請求項1または2に記載の補修方法。
【請求項4】
前記パッチ作製工程において、被補修部と同一または近似する形状の型面に溶射皮膜を形成し、当該型面から溶射皮膜を剥離することによって前記パッチを作製する請求項3に記載の物品の補修方法。
【請求項5】
前記型面を有する型を、被補修部から型取りして作製する請求項4に記載の物品の補修方法。
【請求項6】
前記パッチが、前記物品の基材表面に形成されている前記自溶合金皮膜と同じ組成の合金からなる請求項1~5の何れかに記載の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に自溶合金皮膜を有する物品の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼構造物などの基材表面に防食用の溶射皮膜が形成されてなる被防食体の欠陥部を補修する方法として、ハンディタイプの溶射装置により金属粉末のフレーム溶射を行う方法が紹介されている(下記特許文献1参照)。
しかしながら、この溶射装置による補修方法は、補修できる面積も狭く、作業効率に劣るものであり、現地などで大きな面積の被補修部に対して行う補修方法として適当ではない。
【0003】
一方、鋼材などの基材の表面に自溶合金層を被覆する方法として、本発明者らは、自溶合金粉末と結着樹脂と溶剤とを含有するスラリー状の組成物を基材表面に塗布して塗膜を乾燥した後、乾燥塗膜を大気中において所定の昇温条件で焼結温度まで昇温させ、焼結温度で自溶合金粉末を焼結させることにより、基材表面に焼結体からなる自溶合金層を形成する方法を提案している(下記特許文献2参照)。このような方法によって、基材表面に自溶合金皮膜を有する物品の被補修部(自溶合金皮膜の欠損部分)を補修することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-213988号公報
【特許文献2】特開2015-157971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2に記載の方法で物品の補修を行う場合には下記のような問題がある。
(1)焼結温度に至るまでの温度管理が難しく、昇温条件によっては粉末表面が酸化して所期の焼結体の皮膜を形成することができない。
(2)形成される皮膜に、結着樹脂の燃焼ガスの残存、合金粉末や焼結体の流動などに起因する空隙(巣)や亀裂(クラック)が生成することがある。
(3)形成される焼結体が、気孔率が高くて緻密性に欠けることがある。緻密性に欠ける自溶合金による補修部は、自溶合金層に要求される性能(耐蝕性、耐摩耗性など)を十分に果たすことができない。
(4)基材表面への接合と焼結とを同時に行うため、接合が不十分となり、自溶合金層(補修皮膜)と基材表面との間に部分的な剥離が形成されることがあり、基材表面に対する補修皮膜の密着性は十分であるといえない。
(5)被補修部における自溶合金皮膜の欠損部分が深いために補修用の自溶合金層を厚く形成しようとする場合には、スラリー状組成物を当該被補修部に重ね塗りして厚い塗膜を形成する必要があるため煩雑であり、また、当該塗膜を乾燥させるのに長い時間を要し、効率的に補修を行うことができない。特に、被補修部の面積が広い場合には顕著な問題となる。
【0006】
上記のように、自溶合金粉末と結着樹脂とを含有する乾燥塗膜から自溶合金層(補修皮膜)を形成する補修方法では、基材表面への塗膜の形成後に焼結工程を実施するために、塗膜(皮膜)の性状の変化に伴う補修皮膜の性能不良(空隙、クラックの存在、高い気孔率による)、基材表面に対する皮膜の密着不良などが生じるおそれがある。
このような事情により、基材表面に自溶合金皮膜を有する物品を補修する好適な方法は提案されていない。
【0007】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の目的は、作業効率が高くて大面積の補修も可能であり、空隙やクラックなどを内部に含まずに緻密性に優れ、基材表面に対する密着性にも優れた補修皮膜を形成することのできる補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の補修方法は、基材の表面に自溶合金皮膜を有する物品の補修方法であって、
自溶合金皮膜の欠損部分を含む被補修部に適合する形状に賦形された自溶合金からなる気孔率30%未満の補修用パッチを作製するパッチ作製工程と、
前記被補修部を下地処理する下地処理工程と、
下地処理された前記被補修部を予熱する被補修部予熱工程と、
予熱された前記被補修部に前記パッチを接触させた状態で配置するパッチ配置工程と、 前記パッチを前記被補修部に加熱接合して補修皮膜を形成する接合工程と
を含むことを特徴とする。
ここで、気孔率とは、パッチや皮膜の断面における気孔の面積の割合として定義され、気孔の面積を断面の面積で除した値を百分率で表した値をいう。例えば、皮膜の厚み方向の断面の光学顕微鏡写真を撮影し、その写真を画像処理によって白色部分と黒色部分とに二値化し、得られた二値化画像における、気孔部分に相当する部分の面積率を求め、その値を気孔率とする。
【0009】
このような補修方法によれば、被補修部にパッチを配置して加熱接合させるという簡単な操作により、物品の補修を行うことができる。
また、大きなサイズのパッチを作製することにより、大面積の被補修部にも対応することができる。
気孔率30%未満の自溶合金からなるパッチは、接合工程において、被補修部との接触面が一定の温度以上に加熱されることにより当該被補修部に対して強固に密着させることができるとともに、加熱処理による再溶融によって気孔率が減少し、最終的に形成される補修皮膜の性能は更に向上する。
【0010】
(2)前記パッチ作製工程において、気孔率20%未満の補修用パッチを作製することが好ましい。
【0011】
(3)前記パッチ作製工程において、前記パッチを溶射によって作製することが好ましい。
これにより、空隙などを含まない、気孔率の低いパッチを確実に作製することができる。
【0012】
(4)上記(3)の補修方法の前記パッチ作製工程において、被補修部と同一または近似する形状の型面に溶射皮膜を形成し、当該型面から溶射皮膜を剥離することによって前記パッチを作製することが好ましい。
これにより、物品の構造上、被補修部の形状がある程度決まっている場合などには、当該形状に適合するパッチを予め準備しておくことにより、より効率的な補修を行うことができる。
【0013】
(5)上記(4)の補修方法において、前記型面を有する型を、被補修部から型取りして作製することが好ましい。
これにより、被補修部の形状に完全に適合するパッチを作製することができる。
【0014】
(6)本発明の補修方法において、前記パッチが、前記物品の基材表面に形成されている前記自溶合金皮膜と同じ組成の合金からなることが好ましい。
これにより、被補修部において残存する自溶合金層との密着性が更に向上するとともに、自溶合金層が欠損する前と同一の性能(耐蝕性、耐摩耗性など)を発揮することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の補修方法は、作業効率が高くて大面積の補修も可能である。
本発明の補修方法により、空隙やクラックなどを内部に含まずに緻密性に優れ、基材表面に対する密着性にも優れた補修皮膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例による補修部の外観を示す写真である。
【
図2】本発明の実施例による補修部の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図3】比較例(自溶合金粉末含有塗膜の焼結)による補修部の外観を示す写真である。
【
図4】比較例(自溶合金粉末含有塗膜の焼結)による補修部の断面を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の補修方法は、基材表面に自溶合金皮膜を有する物品における当該自溶合金皮膜の欠損部分を含む被補修部に補修皮膜を形成する方法である。
基材表面に自溶合金皮膜を有する「物品」としては、例えば、各種ボイラの伝熱配管を構成する管部品(ボイラチューブ)、冷却水路付き火炉ハウジングを構成する板材-管材複合パネル(ボイラ火炉パネル)などのボイラ部品を挙げることができる。
【0018】
本発明の補修方法は、パッチ作製工程と、下地処理工程と、被補修部予熱工程と、パッチ配置工程と、接合工程とを含む。
【0019】
<パッチ作製工程>
この工程は、被補修部に適合する形状に賦形された自溶合金からなる補修用のパッチを作製する工程である。
ここに、「被補修部」には、自溶合金皮膜の欠損によって露出した基材表面および残存している自溶合金皮膜が含まれる。従って、補修皮膜は、基材表面および/または自溶合金皮膜の表面に形成される。
【0020】
被補修部の形状としては、基材の形状(立体または平面)などにより種々の形状があり、管部品の外周形状(円筒状)などを例示することができる。
被補修部に適合する形状とは、被補修部にパッチを配置したときに、当該パッチの接合面全域にわたり被補修部と接触可能である(例えば、被補修部との間隙が5mm以内におさまる)ような形状をいう。
例えば、管部品の外周に適合するパッチの形状としては、管部品の外径と略同一の内径を有する部分円管状(樋状)である。
【0021】
補修用のパッチは自溶合金からなる。ここに、自溶合金としては、金属材料(基材)に、耐摩耗性および耐食性を付与しうる公知の自溶合金を挙げることができるが、好ましい自溶合金として、Bの割合が1~5質量%、Siの割合が1~5質量%、Crの割合が10~40質量%、Moの割合が4質量%以下、Cの割合が1質量%以下であるNi基合金を挙げることができる。
なお、パッチを構成する自溶合金は、基材表面に形成されている自溶合金皮膜と同じ組成であることが好ましい。
【0022】
補修用のパッチの気孔率は通常30%未満とされ、好ましくは20%未満、更に好ましくは15%未満とされる。
気孔率が30%以上であると、接合工程を経て形成される補修皮膜が被補修部に対して接合不良を起こしたり、当該補修皮膜に空隙が残留して自溶合金皮膜に要求される性能を具備することができなかったりする。
【0023】
パッチの厚さは、通常300μm以上とされ、好ましくは500~3000μmとされる。
パッチの厚さが過小である場合には、十分な厚さの補修皮膜を形成することができず、耐摩耗性や耐腐食性などの保護皮膜としての性能を発揮できない。
他方、パッチの厚さが過大である場合には、被補修部における基材形状に追従させることが困難となることがある。
パッチのサイズ(面積)は特に制限されるものでなく、被補修部の大きさなど応じて、適宜のサイズのものを作製することができる。
【0024】
パッチの作製方法としては、被補修部と同一または近似する形状の型面を有する型を準備し、当該型面に自溶合金粉末を溶射して皮膜を形成し、形成された溶射皮膜を型面から剥離する方法を挙げることができる。
【0025】
溶射方法としては、従来公知の方法を採用することができる。なお、溶射皮膜(パッチ)を型面から容易に剥離できるように、窒化ホウ素系等の離型剤で型面を処理してもよい。
溶射によってパッチを作製することにより、厚さが均一で、空隙などを含まない、気孔が30%未満のパッチを確実に作製することができる。
【0026】
パッチは、工場内などで予め作製しておいてもよい。
例えば、上記のように管部品の外周に配置されるパッチは、同径の管部品の外周面を型面として多数形成することが可能である。但し、被補修部に接触させるパッチの接合面を酸化させないことが必要である。
また、被補修部が特殊な形状である場合には、被補修部から型取りして型を作製してもよく、これにより、被補修部の形状に完全に適合するパッチを作製することができる。
【0027】
<下地処理工程>
この工程は、被補修部を下地処理することにより、被補修部の表面における酸化膜や腐食部などを除去する工程である。
下地処理方法としては、グラインダ掛け、ショットブラストなど従来公知の処理方法を採用することができる。
【0028】
<被補修部予熱工程>
この工程は、下地処理された被補修部を予熱する工程である。
予熱方法としては特に限定されるものではなく、ガスバーナーなどで被補修部の表面を焙って加熱(予熱)する方法を挙げることができる。
予熱温度としては、通常600℃以上とされ、好ましくは700~900℃、好適な一例を示せば800℃である。
被補修部を予熱することにより、パッチの接合面側の溶融を促進して好適な加熱接合を行うことができる。
【0029】
<パッチ配置工程>
この工程は、被補修部にパッチを接触させた状態で配置する工程であり、一例を示せば、予熱された管部品の外周面に部分円管状(樋状)のパッチを配置する。
この工程は、被補修部予熱工程の終了後直ちに行われる。配置するパッチは予熱されていてもよい。
【0030】
<接合工程>
この工程は被補修部にパッチを加熱接合して補修皮膜を形成する工程である。接合工程の一例を示せば、管部品の外周面(被補修部)に配置した部分円管状のパッチをその外周面からガスバーナーで焙って加熱する。
ここに、加熱温度としては、通常1000℃以上とされ、好ましくは1020~1080℃、好適な一例を示せば1050℃である。
これにより、管部品の外周面と接触しているパッチが当該管部品に加熱接合され、これにより、接合されたパッチによる補修皮膜が管部品の外周面に形成される。
このとき、溶射皮膜からなるパッチは再溶融されるので、その気孔率が減少して、更に緻密な補修皮膜となる。
ここに、再溶融後の補修皮膜の気孔率は通常15%未満とされ、好ましくは10%未満、更に好ましくは5%未満とされる。
気孔率が15%未満の補修皮膜は緻密に優れ、自溶合金皮膜に要求される耐摩耗性や耐腐食性などの性能を十分に発揮することができる。
【実施例0031】
<実施例>
(1)補修対象物品の準備:
外径63.5mm,肉厚6.5mmのボイラ・熱交換器用炭素鋼鋼管(JIS G 3461,STB410相当)の外周面に、JIS H 8303に記載の自溶合金(SFNi4相当)を溶射して、厚さ2000μm、断面を光学顕微鏡によって観察し、画像解析により測定した気孔率が0.1~1%の自溶合金皮膜を形成することによりボイラチューブを製造した。
得られたボイラチューブに形成された自溶合金皮膜の一部をグラインダを用いて除去し、略矩形状に基材表面(鋼管の外周面)を露出させた。露出させた基材表面のサイズ(鋼管の円周方向長さ×鋼管の軸方向長さ)は、約60mm×約20mmである。
【0032】
(2)パッチ作製工程:
上記(1)で使用したものと同一形状のボイラ・熱交換器用炭素鋼鋼管の外周面を型面として、下記のようにして補修用のパッチを作製した。
鋼管の外周面(型面)にマスキングテープを枠状に貼り付けた。ここに、マスキングテープに囲まれた型面のサイズ(鋼管の円周方向長さ×鋼管の軸方向長さ)は、80mm×30mmである。
マスキングテープに囲まれた型面に、自溶合金皮膜と同一組成の自溶合金(SFNi4相当)を溶射した後、マスキングテープを除去するとともに、形成された溶射皮膜を型面から剥離することで、補修用のパッチ(80mm×30mm×2.5mm)を得た。
得られたパッチの断面を光学顕微鏡によって観察し、画像解析により測定した気孔率は5~15%であった。
【0033】
(3)下地処理工程:
上記(1)で露出させた基材表面およびその周囲(自溶合金皮膜の少なくとも一部が欠損している被補修部)を、グラインダ掛けして下地処理を行った。
【0034】
(4)被補修部予熱工程:
上記(3)で下地処理を行った被補修部をガスバーナで焙って略800℃に予熱した。
【0035】
(5)パッチ配置工程:
上記(2)で作製されたパッチを、露出している基材表面が完全に覆われるように、予熱された被補修部に接触させた状態で配置した。
【0036】
(6)接合工程:
被補修部に配置されたパッチの外周面をガスパーナーで焙って略1050℃に加熱することにより、被補修部にパッチを接合(溶着)させて、補修皮膜を形成した。
【0037】
(7)補修部の観察:
図1は、この実施例による補修部(基材表面に形成された補修皮膜)の外観を示す写真である。
図1に示すように、補修皮膜の外表面に凹凸や割れは認められず、表面の円滑性に優れていた。また、補修皮膜は、ボイラチューブと一体化していた。
【0038】
図2は、この実施例による補修部(基材表面に形成された補修皮膜)の断面状態を示す顕微鏡写真であり、ボイラチューブの軸方向に直交する方向に切断したとき補修部の断面をJIS G 0553に記載の硝酸エタノール法でエッチングして、光学顕微鏡により撮影した写真である。
図2に示すように、補修皮膜と基材との界面は平滑で、両者間に部分的な剥離も認められず、基材表面に対する補修皮膜の密着性が優れているといえる。また、補修皮膜内に大きな空隙(巣)や亀裂は認められない。
また、この補修皮膜の断面を光学顕微鏡によって観察し、画像解析により測定した気孔率は0.3~3%であって、緻密な皮膜であった。
【0039】
<比較例>
(1)補修対象物品の準備:
実施例(1)と同様にして補修対象物品(基材表面が露出した被補修部を有するボイラチューブ)を準備した。
【0040】
(2)スラリー状組成物の調製工程:
自溶合金粉末(SFNi4相当)62.50質量%と、結着樹脂(PVB)0.60質量%と、可塑剤(DBP)0.75質量%と、溶剤(エタノール)31.23質量%と、その他成分4.92質量%とを混合してスラリー状の組成物を調製した。
【0041】
(3)下地処理工程:
上記(1)で露出させた基材表面およびその周囲(自溶合金皮膜の少なくとも一部が欠損している被補修部)を、グラインダ掛けして下地処理を行った。
【0042】
(4)スラリー状組成物の塗布・乾燥工程:
上記(3)で下地処理を行った被補修部に上記(2)で調製されたスラリー状組成物をエアブラシによって塗布して塗膜を形成した後、補修対象物品であるボイラチューブを、温度20℃、相対湿度60%の環境下に6時間静置することにより溶剤を除去して、厚さ2.5mmの乾燥塗膜を形成した。
【0043】
(5)補修皮膜の形成工程:
上記(4)で形成した乾燥塗膜をガスバーナーで焙って約800℃に加熱した後、加熱温度を約1050℃に上昇させて、乾燥塗膜を焼結して補修皮膜(自溶合金層)を形成した。
【0044】
(6)補修部の観察:
図3は、この比較例による補修部(基材表面に形成された補修皮膜)の外観を示す写真である。
図3に示すように、補修皮膜の外表面には凹凸が顕著に認められ、部分的な割れも確認された。
【0045】
図4は、この比較例による補修部(基材表面に形成された補修皮膜)の断面状態を示す顕微鏡写真である。
図4に示すように、補修皮膜と基材との界面は平滑ではなく、両者間に部分的な剥離が認められ、基材表面に対する補修皮膜の密着性が劣るものであるといえる。また、補修皮膜内には大きな空隙(巣)や亀裂が認められた。
また、この補修皮膜の断面を光学顕微鏡によって観察し、画像解析により測定した気孔率は20~40%であり、緻密性を欠く皮膜であった。