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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019426
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】光学レンズの製造方法及び光学レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/00 20060101AFI20230202BHJP
   B24B 13/00 20060101ALI20230202BHJP
   B24B 19/02 20060101ALI20230202BHJP
   B23B 5/36 20060101ALI20230202BHJP
   B23Q 3/08 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
G02B3/00
B24B13/00 A
B24B19/02
B23B5/36
B23Q3/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124131
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光佑
【テーマコード(参考)】
3C016
3C045
3C049
【Fターム(参考)】
3C016DA15
3C045CA18
3C045DA30
3C049AA02
3C049CA01
3C049CB01
(57)【要約】
【課題】 形状精度の高い光学レンズの製造方法及び光学レンズを提供する。
【解決手段】 第1の光学面11aと第2の光学面12aを有する光学レンズ10の製造方法であって、第1の主面11と第2の主面12を有するレンズ材料1を準備する工程、第1の主面11を切削又は研削し、第1の光学面11aを形成する工程、第1の光学面11aの周縁部13に溝部14を形成する工程、溝部14に接着剤2を塗布し、第1の主面11と治具3とを接着剤2を介して固定する工程、第2の主面12を切削又は研削し、第2の光学面12aを形成する工程、を備える、光学レンズ10の製造方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光学面と第2の光学面を有する光学レンズの製造方法であって、
第1の主面と第2の主面を有するレンズ材料を準備する工程、
前記第1の主面を切削又は研削し、前記第1の光学面を形成する工程、
前記第1の光学面の周縁部に溝部を形成する工程、
前記溝部に接着剤を塗布し、前記第1の主面と治具とを前記接着剤を介して固定する工程、
前記第2の主面を切削又は研削し、前記第2の光学面を形成する工程、
を備える、光学レンズの製造方法。
【請求項2】
第1の光学面と第2の光学面を有する光学レンズの製造方法であって、
第1の主面と第2の主面を有するレンズ材料を準備する工程、
前記第2の主面に溝部を形成する工程、
前記第2の主面の溝部に前記接着剤を塗布し、前記第2の主面と治具とを前記接着剤を介して固定する工程、
前記第1の主面を切削又は研削し、前記第1の光学面を形成する工程、
前記第1の光学面の周縁部に溝部を形成する工程、
前記第2の主面の溝部から前記接着剤を除去して前記レンズ材料を取り外す工程、
前記第1の主面の溝部に前記接着剤を塗布し、前記第1の主面と前記治具とを前記接着剤を介して固定する工程、
前記第2の主面を切削又は研削し、前記第2の光学面を形成する工程、
を備える、光学レンズの製造方法。
【請求項3】
第1の光学面と第2の光学面を有する光学レンズの製造方法であって、
第1の主面と第2の主面を有するレンズ材料を準備する工程、
溝部を有する治具を準備する工程、
前記溝部に接着剤を塗布し、前記第2の主面と前記治具とを前記接着剤を介して固定する工程、
前記第1の主面を切削又は研削し、前記第1の光学面を形成する工程、
前記溝部から前記接着剤を除去してレンズ材料を取り外す工程、
前記溝部に接着剤を塗布し、前記第1の主面と前記治具とを前記接着剤を介して固定する工程、
前記第2の主面を切削又は研削し、前記第2の光学面を形成する工程、
を備える、光学レンズの製造方法。
【請求項4】
前記溝部が前記周縁部の全周にわたって連続して形成されている、請求項1又は2に記載の光学レンズの製造方法。
【請求項5】
前記第1の光学面及び前記第2の光学面が非球面である、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学レンズの製造方法。
【請求項6】
前記光学レンズがヤング率50GPa以下の材料からなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の光学レンズの製造方法。
【請求項7】
前記光学レンズがカルコゲナイドガラスからなる、請求項6に記載の光学レンズの製造方法。
【請求項8】
第1の光学面と第2の光学面を有する光学レンズの製造方法であって、
第1の主面と第2の主面を有し、前記第1の主面に前記第1の光学面が形成されたレンズ材料を準備する工程、
前記第1の光学面の周縁部に溝部を形成する工程、
前記溝部に接着剤を塗布し、前記第1の主面と治具とを前記接着剤を介して固定する工程、
前記第2の主面を切削又は研削し、前記第2の光学面を形成する工程、
を備える、光学レンズの製造方法。
【請求項9】
第1の光学面と第2の光学面を有する光学レンズの製造方法であって、
第1の主面と第2の主面を有し、前記第1の主面に前記第1の光学面が形成されたレンズ材料を準備する工程、
溝部を有する治具を準備する工程、
前記溝部に接着剤を塗布し、前記第1の主面と前記治具とを前記接着剤を介して固定する工程、
前記第2の主面を切削又は研削し、前記第2の光学面を形成する工程、
を備える、光学レンズの製造方法。
【請求項10】
第1の光学面と第2の光学面を有する光学レンズであって、
前記第1の光学面の周縁部に溝部を有する、光学レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学レンズの製造方法及び光学レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
光学レンズ等の光学部品を製造する方法として、切削加工や研削加工が知られている。切削加工では、ダイヤモンドバイト等の切削工具を用いてレンズ材料の表面を切削し、所定の光学面を形成する。研削加工では、砥石等の研削工具をレンズ材料表面に押し当てることにより、所定の光学面を形成する(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平04-087701号公報
【特許文献2】特開2005-001028号公報
【特許文献3】特開2010-042485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光学レンズを切削加工や研削加工により製造する場合、レンズ材料の一方の主面をワックス等の接着剤で治具に固定した状態で、もう一方の主面に光学面を形成する。このとき、主面と治具とが傾いた状態で固定されていると、得られる光学レンズの形状精度が低くなりやすく、所望の光学特性が得られない恐れがある。
【0005】
以上に鑑み、本発明は形状精度の高い光学レンズの製造方法及び光学レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光学レンズの製造方法は、第1の光学面と第2の光学面を有する光学レンズの製造方法であって、第1の主面と第2の主面を有するレンズ材料を準備する工程、第1の主面を切削又は研削し、第1の光学面を形成する工程、第1の光学面の周縁部に溝部を形成する工程、溝部に接着剤を塗布し、第1の主面と治具とを接着剤を介して固定する工程、第2の主面を切削又は研削し、第2の光学面を形成する工程、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の光学レンズの製造方法は、第1の光学面と第2の光学面を有する光学レンズの製造方法であって、第1の主面と第2の主面を有するレンズ材料を準備する工程、第2の主面に溝部を形成する工程、第2の主面の溝部に接着剤を塗布し、第2の主面と治具とを接着剤を介して固定する工程、第1の主面を切削又は研削し、第1の光学面を形成する工程、第1の光学面の周縁部に溝部を形成する工程、第2の主面の溝部から接着剤を除去してレンズ材料を取り外す工程、第1の主面の溝部に接着剤を塗布し、第1の主面と治具とを接着剤を介して固定する工程、第2の主面を切削又は研削し、第2の光学面を形成する工程、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の光学レンズの製造方法は、第1の光学面と第2の光学面を有する光学レンズの製造方法であって、第1の主面と第2の主面を有するレンズ材料を準備する工程、溝部を有する治具を準備する工程、溝部に接着剤を塗布し、第2の主面と治具とを接着剤を介して固定する工程、第1の主面を切削又は研削し、第1の光学面を形成する工程、溝部から接着剤を除去してレンズ材料を取り外す工程、溝部に接着剤を塗布し、第1の主面と治具とを接着剤を介して固定する工程、第2の主面を切削又は研削し、第2の光学面を形成する工程、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の光学レンズの製造方法は、溝部が周縁部の全周にわたって連続して形成されていることが好ましい。
【0010】
本発明の光学レンズの製造方法は、第1の光学面及び第2の光学面が非球面であることが好ましい。
【0011】
本発明の光学レンズの製造方法は、光学レンズがヤング率50GPa以下の材料からなることが好ましい。
【0012】
本発明の光学レンズの製造方法は、光学レンズがカルコゲナイドガラスからなることが好ましい。
【0013】
本発明の光学レンズの製造方法は、第1の光学面と第2の光学面を有する光学レンズの製造方法であって、第1の主面と第2の主面を有し、第1の主面に第1の光学面が形成されたレンズ材料を準備する工程、第1の光学面の周縁部に溝部を形成する工程、溝部に接着剤を塗布し、第1の主面と治具とを接着剤を介して固定する工程、第2の主面を切削又は研削し、第2の光学面を形成する工程、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の光学レンズの製造方法は、第1の光学面と第2の光学面を有する光学レンズの製造方法であって、第1の主面と第2の主面を有し、第1の主面に第1の光学面が形成されたレンズ材料を準備する工程、溝部を有する治具を準備する工程、溝部に接着剤を塗布し、第1の主面と治具とを接着剤を介して固定する工程、第2の主面を切削又は研削し、第2の光学面を形成する工程、を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の光学レンズは、第1の光学面と第2の光学面を有する光学レンズであって、
前記第1の光学面の周縁部に溝部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、形状精度の高い光学レンズの製造方法及び光学レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施態様に係る光学レンズの模式的断面図である。
図2】(a)は本発明の第1の実施態様における、第2の主面と治具とを固定する工程、(b)は第1の光学面を形成する工程、(c)は第1の光学面の周縁部に溝部を形成する工程、をそれぞれ説明する模式的断面図である。
図3】(d)は本発明の第1の実施態様における、第1の主面と治具とを固定する工程、(e)は第2の光学面を形成する工程、をそれぞれ説明するための模式的断面図である。
図4】本発明の第1の実施態様の変形例に係る光学レンズの模式的断面図である。
図5】(a)は本発明の第1の実施態様の変形例における、第2の主面と治具とを固定する工程、(b)は第1の光学面を形成する工程、(c)は第1の光学面の周縁部に溝部を形成する工程、の変形例をそれぞれ説明するための模式的断面図である。
図6】(d)は本発明の第1の実施態様の変形例における、第1の主面と治具とを固定する工程、(e)は第2の光学面を形成する工程、をそれぞれ説明するための模式的断面図である。
図7】(a)は本発明の第2の実施態様における、第2の主面と治具とを固定する工程、(b)は第1の光学面を形成する工程、をそれぞれ説明するための模式的断面図である。
図8】(c)は、本発明の第2の実施態様における、第1の主面と治具とを固定する工程、(d)は第2の光学面を形成する工程、をそれぞれ説明するための模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好ましい実施態様について説明する。ただし、以下の実施態様は単なる例示であり、本発明は以下の実施態様に限定されるものではない。また、図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0019】
(第1の実施態様)
(光学レンズ)
図1は本発明の第1の実施態様に係る光学レンズの模式的断面図である。光学レンズ10は、第1の主面11上に第1の光学面11aを有する。第2の主面12上に第2の光学面12aを有する。第1の光学面11a及び第2の光学面12a以外の領域(フランジ部)は周縁部13である。本実施態様では、第1の主面11上の周縁部131に溝部14を有する。
【0020】
(光学レンズの製造方法)
図2及び図3は、本発明の第1の実施態様に係る光学レンズの製造方法を示している。以下、工程ごとに説明する。
【0021】
はじめに、図2(a)に示すように、第1の主面11と第2の主面12を有するレンズ材料1を準備する。続いて、レンズ材料1を、第2の主面12上に均一に塗布された接着剤2を介して治具3と固定する。本実施態様において、レンズ材料1は円板状であり、第1の主面11と第2の主面12は互いに平行な水平面である。
【0022】
次に、図2(b)に示すように、第1の主面11を切削又は研削し、第1の光学面11aを形成する。第1の主面11上の第1の光学面11a以外の領域は、周縁部131として残る。本実施態様において、第1の光学面11aは凹面である。
【0023】
次に、図2(c)に示すように、周縁部131に溝部14を形成する。溝部14は、第1の光学面11aと同様に、切削又は研削により形成することができる。本実施態様において、溝部14は周縁部131の全周にわたって連続して形成されたV字溝である。
【0024】
次に、第2の主面12から接着剤2を除去して、レンズ材料1を治具3から取り外す。続いて、図3(d)に示すように、溝部14に接着剤2を塗布し、第1の主面11と治具3とを接着剤2を介して固定する。このとき、接着剤2は溝部14内に収まるように塗布される。言い換えると、周縁部131と治具3とは接触しており、両者の間には接着剤2が存在しない。そのため、レンズ材料1の第1の主面11は、治具3に対して傾きにくい状態で固定される。
【0025】
なお、接着剤2は、切削又は研削に通常用いられる接着剤を使用することができる。例えば、ホットメルト系ワックス等の熱可塑性接着剤を用いることができる。熱可塑性接着剤は、熱により軟化させて粘度を調節する。すなわち、熱可塑性接着剤を加熱することにより、第2の主面12上の接着剤2を軟化させて、レンズ材料1を治具3から取り外すことができる。また、接着剤の種類によっては、例えば、温水、有機溶媒、オイル等で洗浄することにより、レンズ材料1を治具3から取り外すことができる。
【0026】
次に、図3(e)に示すように、第2の主面12を切削又は研削し、第2の光学面12aを形成する。第2の主面12上の第2の光学面12a以外の領域は、周縁部132として残る。本実施態様において、第2の光学面12aは凸面である。
【0027】
最後に、溝部14から接着剤2を除去して、治具3からレンズ材料1を取り外す。これにより、光学レンズ10を得ることができる。
【0028】
本実施態様によれば、第1の光学面11aを形成した後、第1の主面11と治具3とを固定する際に、接着剤2が溝部14に塗布される。そのため、接着剤2が溝部14内からはみ出しにくくなり、周縁部131と治具3との間に接着剤2が存在しない状態、すなわち周縁部131と治具3とが直接接触した状態で固定可能となる。その結果、レンズ材料1が傾いた状態で治具3に固定されにくくなる。この状態で第2の光学面12aを形成すると、第1の光学面11aと第2の光学面12aとの光軸ずれ(チルト、ディセンタ)を抑制しやすくなる。よって、形状精度の高い光学レンズ10を製造することができる。
【0029】
なお、本実施態様では、第1の光学面11aを形成する工程を含むが、あらかじめ第1の主面11に第1の光学面11aが形成されたレンズ材料1を用いてもよい。このようなレンズ材料1を用いた場合でも、同様に、第1の光学面11aと第2の光学面12aとの光軸ずれ(チルト、ディセンタ)を抑制しやすくなる。すなわち、形状精度の高い光学レンズ10を製造することができる。
【0030】
また、光軸ずれのうち、光軸の傾きによるずれ(チルト)は、対向する2つの光学面の両方が非球面である場合に、その影響が顕著に生じやすい。上述したように、本実施態様によれば、第1の光学面11aと第2の光学面12aとの光軸ずれを抑制しやすい。そのため、本発明は、第1の光学面11a及び第2の光学面12aがいずれも非球面である光学レンズ10の製造に特に好適である。
【0031】
光学レンズ10は、例えば、ガラス、樹脂、結晶材料からなることが好ましい。ガラスとしては、酸化物ガラス、カルコゲナイドガラスなどを用いることができる。樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル樹脂などを用いることができる。結晶材料としては、ゲルマニウム、シリコン、ZnS、ZnSeなどを用いることができる。
【0032】
光学レンズ10は、ヤング率が50GPa以下、40GPa以下、特に30GPa以下の材料からなることが好ましい。上記特性を満たす材料として、例えば、カルコゲナイドガラスが挙げられる。カルコゲナイドガラスは、切削や研削による加工が行いやすいため、本発明により好適に光学レンズ10を製造することができる。ヤング率の下限は特に限定されないが、例えば2GPa以上とすることができる。
【0033】
光学レンズ10は、例えば、平凸レンズ、両凸レンズ、平凹レンズ、両凹レンズ、メニスカスレンズ、であってもよく、曲面定義式は単純球面、偶数次非球面、あるいは、軸非対称なトロイダル面、を組み合わせた構造とすることができる。また、フレネルレンズ等の形状を採用してもよい。
【0034】
溝部14はV字状に限定されず、凹状であればよい。また、溝部14は周縁部131の全周にわたって連続して形成されていることが好ましい。これにより、レンズ材料1を治具3に固定しやすくなる。なお、必ずしも溝部14が周縁部131の全周にわたって連続して形成されていなくともよい。溝部14は周縁部131の一部に形成されていてもよく、また断続的に形成されていてもよい。
【0035】
第1の主面11を光軸方向から見た場合に、溝部14が形成されている領域は、平面視で周縁部131の面積の10%以上、20%以上、特に30%以上であることが好ましい。溝部14が形成されている領域が少なすぎると、溝部14に塗布される接着剤2が少なくなり、レンズ材料1と治具3との固定が不十分になりやすい。一方、溝部14が形成される領域が多すぎると、周縁部131の水平面が少なくなりすぎて、周縁部131と第2の主面12の平行を保ちにくくなる。そのため、溝部14が形成されている領域は、平面視で周縁部131の面積の95%以下、特に90%以下であることが好ましい。
【0036】
(光学レンズの変形例)
図4は本発明の第1の実施態様の変形例に係る光学レンズの模式的断面図である。図4に示すように、光学レンズ20は、第1の主面11上の周縁部131に第1の溝部141を有する。また、第2の主面12上の周縁部132に第2の溝部142を有する。本実施態様において、溝部141、142は周縁部131、132の全周にわたって連続して形成されたV字溝である。
【0037】
(光学レンズの製造方法の変形例)
図5及び図6は、本発明の第1の実施態様の変形例に係る光学レンズの製造方法を示している。以下、工程ごとに説明する。
【0038】
はじめに、図5(a)に示すように、第1の主面11と第2の主面12を有するレンズ材料1を準備する。本変形例において、レンズ材料1は、第2の主面12に溝部142を有する。溝部142は、周縁部132の全周にわたって連続して形成されたV字溝である。
【0039】
溝部142は、あらかじめ第2の主面12の第2の光学面を形成しない位置(すなわち、周縁部132)に形成される。すなわち、本変形例では、第1の光学面11aを形成する工程の前に、第2の主面12に溝部142を形成する工程、溝部142に接着剤2を塗布し、第2の主面12と治具3とを接着剤2を介して固定する工程、を備える。このとき、接着剤2は溝部142内に収まるように塗布される。言い換えると、溝部142を除く第2の主面12と治具3とは接触しており、両者の間には接着剤2が存在しない。そのため、レンズ材料1の第2の主面12は、治具3に対して傾きにくい状態で固定される。
【0040】
次に、図5(b)に示すように、第1の主面11を切削又は研削し、第1の光学面11aを形成する。第1の主面11上の第1の光学面11a以外の領域は、周縁部131として残る。本変形例において、第1の光学面11aは凸面である。
【0041】
次に、図5(c)に示すように、周縁部131に溝部141を形成する。溝部141は、第1の光学面11aと同様に、切削又は研削により形成することができる。本変形例において、溝部141は周縁部131の全周にわたって連続して形成されたV字溝である。
【0042】
次に、溝部142から接着剤2を除去して、レンズ材料1を治具3から取り外す。続いて、図6(d)に示すように、溝部141に接着剤2を塗布し、第1の主面11と治具31とを接着剤2を介して固定する。図5(a)と同様に、接着剤2は溝部141内に収まるように塗布される。言い換えると、周縁部131と治具31とは接触しており、両者の間には接着剤2が存在しない。そのため、レンズ材料1の第1の主面11は治具31に対して傾きにくい状態で固定される。
【0043】
なお、本変形例において、治具31は凹部4を有する。これにより、第1の光学面11aが凸面であっても切削や研削を行うことができる。
【0044】
次に、図6(e)に示すように、第2の主面12を切削又は研削し、第2の光学面12aを形成する。第2の主面12上の第2の光学面12a以外の領域は、周縁部132及び溝部142として残る。本変形例において、第2の光学面12aは凹面である。
【0045】
最後に、溝部141から接着剤2を除去して、治具31からレンズ材料1を取り外す。これにより、光学レンズ20を得ることができる。
【0046】
本変形例によれば、第2の主面12と治具3とを固定する工程、及び第1の主面11と治具31とを固定する工程のそれぞれにおいて、接着剤2が溝部141、142に塗布される。そのため、第1の光学面11a及び第2の光学面12aのいずれを形成する場合においても、接着剤2が溝部141、142内からはみ出しにくくなり、周縁部131、132と治具3あるいは治具31とが直接接触した状態で固定可能となる。そのため、第1の実施態様と同様に、第2の光学面12aを形成する際に、第1の光学面11aと第2の光学面12aとの光軸ずれ(チルト、ディセンタ)を抑制しやすくなる。すなわち、形状精度の高い光学レンズ20を製造することができる。
【0047】
また、本変形例では、第1の光学面11aを形成する際にも、レンズ材料1が傾いた状態で治具3に固定されにくい。そのため、例えば、レンズ端面が各主面に対してあらかじめ所定の角度(例えば直角)となるよう加工されたレンズ材料1を用いて光学レンズ20を製造する場合に、特に好適に適用することができる。このようなレンズ材料1は、第1の光学面11a及び第2の光学面12aを形成する際に、各光学面と端面との傾きが変化しないように製造する必要がある。そのため、本変形例を適用することにより、形状精度の高い光学レンズ20を製造することができる。
【0048】
(第2の実施態様)
図7及び図8は、本発明の第2の実施態様に係る光学レンズの製造方法を示している。以下、工程ごとに説明する。
【0049】
はじめに、図7(a)に示すように、第1の主面11と第2の主面12を有するレンズ材料1を準備する。続いて、溝部143を有する治具32を準備する。本実施態様において、溝部143は、あらかじめ治具32の光学面の形成に影響を与えない位置(すなわち、周縁部133)に形成される。続いて、レンズ材料1を、溝部143に塗布された接着剤2を介して治具32と固定する。このとき、接着剤2は溝部143内に収まるように塗布される。言い換えると、溝部143を除く第2の主面12と治具32とは接触しており、両者の間には接着剤2が存在しない。
【0050】
次に、図7(b)に示すように、第1の主面11を切削又は研削し、第1の光学面11aを形成する。第1の主面11上の第1の光学面11a以外の領域は、周縁部131として残る。本実施態様において、第1の光学面11aは凹面である。
【0051】
次に、溝部143から接着剤2を除去して、レンズ材料1を治具32から取り外す。続いて、図8(c)に示すように、溝部143に接着剤2を再び塗布し、第1の主面11と治具32とを接着剤2を介して固定する。図7(a)と同様に、接着剤2は溝部143内に収まるように塗布される。言い換えると、第1の主面11と治具32とは接触しており、両者の間には接着剤2が存在しない。そのため、レンズ材料1の第1の主面11は、治具32に対し傾きにくい状態で固定される。
【0052】
なお、本実施態様においても、接着剤2は、切削又は研削に通常用いられる接着剤を使用することができる。例えば、ホットメルト系ワックス等の熱可塑性接着剤を用いることができる。熱可塑性接着剤は、熱により軟化させて粘度を調節する。すなわち、熱可塑性接着剤を加熱することにより、第2の主面12上の接着剤2を軟化させて、レンズ材料1を治具3から取り外すことができる。
【0053】
次に、図8(d)に示すように、第2の主面12を切削又は研削し、第2の光学面12aを形成する。第2の主面12上の第2の光学面12a以外の領域は、周縁部132として残る。本実施態様において、第2の光学面12aは凸面である。
【0054】
最後に、溝部143から接着剤2を除去して、治具32からレンズ材料1を取り外す。これにより、光学レンズを得ることができる。なお、本実施態様の光学レンズは溝部を有していない。
【0055】
本実施態様によれば、第2の主面12と治具32とを固定する工程、及び第1の主面11と治具32とを固定する工程のそれぞれにおいて、接着剤2を溝部143に塗布する。そのため、第1の光学面11a及び第2の光学面12aを形成するいずれの場合においても、接着剤2が溝部143内からはみ出しにくくなり、第1の主面11及び第2の主面12が、治具3と直接接触した状態で固定可能となる。そのため、第1の実施態様と同様に、第2の光学面12aを形成する際に、第1の光学面11aと第2の光学面12aとの光軸ずれ(チルト、ディセンタ)を抑制しやすくなる。すなわち、形状精度の高い光学レンズを製造することができる。
【0056】
また、本実施態様では、第1の実施態様の変形例と同様に、第1の光学面11aを形成する際にも、レンズ材料1が傾いた状態で治具3に固定されにくい。そのため、例えば、レンズ端面が各主面に対してあらかじめ所定の角度(例えば直角)となるよう加工されたレンズ材料1を用いて光学レンズを製造する場合に、特に好適に適用することができる。このようなレンズ材料1は、第1の光学面11a及び第2の光学面12aを形成する際に、各光学面と端面との傾きが変化しないように製造する必要がある。そのため、本実施態様を適用することにより、形状精度の高い光学レンズを製造することができる。さらに、本実施態様によれば、溝部を有さない光学レンズを製造することができる。
【0057】
なお、本実施態様では、第1の光学面11aを形成する工程を含むが、あらかじめ第1の主面11に第1の光学面11aが形成されたレンズ材料を用いてもよい。このようなレンズ材料1を用いた場合でも、同様に、各光学面間の光軸ずれ、及び各光学面と端面との傾きが発生することを抑制し、形状精度の高い所望の光学レンズを製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の光学レンズの製造方法によれは、赤外線センサー、赤外線カメラ等の赤外線デバイスに好適に用いることができる光学レンズを製造することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 レンズ材料
2 接着剤
3、31、32 治具
4 凹部
10、20 光学レンズ
11 第1の主面
12 第2の主面
11a 第1の光学面
12a 第2の光学面
13、131、132、133 周縁部
14、141、142、143 溝部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8