(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019465
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】型締力調整方法
(51)【国際特許分類】
B22D 17/26 20060101AFI20230202BHJP
B29C 45/80 20060101ALI20230202BHJP
B29C 45/34 20060101ALI20230202BHJP
B29C 45/64 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
B22D17/26 J
B29C45/80
B29C45/34
B29C45/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124194
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昭男
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AM32
4F202AP06
4F202AR07
4F202CA11
4F202CB01
4F202CL42
4F202CP05
4F206AM32
4F206AP064
4F206AR074
4F206JA07
4F206JM02
4F206JN34
4F206JP13
4F206JP17
4F206JQ02
4F206JQ03
4F206JQ81
4F206JQ83
(57)【要約】
【課題】金型PL面からガス抜きを行う成形において、金型PL面の隙間を調整して、金型PL面に作用する型締力の偏差を補正し、金型PL面から成形材料の漏れ出やガス残り不良が生じない、横型締装置の型締力調整方法を提供することを目的とする。
【解決手段】成形金型の金型PL面の押付力を調整して、金型キャビティ内へ成形材料の射出充填中に、前記金型PL面からガス抜きを行う成形の型締力調整において、前記金型PL面の隙間の傾きを計測して、予め設定された許容範囲内に収まるように、前記隙間を調整し、前記成形金型は、固定盤と可動盤が水平方向に配置される横型締装置に支持され、前記押付力は、前記金型キャビティ内へ射出充填される成形材料の流動投影面積に基づいて、段階的に増大させる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形金型の金型PL面の押付力を調整して、金型キャビティ内へ成形材料の射出充填中に、前記金型PL面からガス抜きを行う成形の型締力調整方法において、
前記金型PL面の隙間の傾きを計測して、予め設定された許容範囲内に収まるように、前記隙間を調整する、ことを特徴とする型締力調整方法。
【請求項2】
前記成形金型は、固定盤と可動盤が水平方向に配置される横型締装置に支持される、請求項1記載の型締力調整方法。
【請求項3】
前記押付力は、前記金型キャビティ内へ射出充填される成形材料の流動投影面積に基づいて、段階的に増大させる、請求項1または2のいずれか1項に記載の型締力調整方法。
【請求項4】
前記押付力は、前記横型締装置に設定する型締力である、請求項1から3のいずれか1項に記載の型締力調整方法。
【請求項5】
前記金型キャビティは、射出充填される成形材料が下から上の鉛直方向に流動するように、ゲートを配置する、請求項1から4のいずれか1項に記載の型締力調整方法。
【請求項6】
前記押付力は、前記ゲート周囲において最も高い、請求項5記載の型締力調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平方向に配置された可動金型と固定金型を型締して金型キャビティを形成する横型締装置の型締力調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成形材料を金型キャビティ内に射出充填する成形方法において、金型キャビティを形成する固定金型と可動金型からなる成形金型は、型締装置に取り付けられる。固定金型を支持する固定盤と対向する位置に可動金型を支持する可動盤が配置され、可動盤は固定盤に対して進退方向に動作する(型開閉動作という)。また、可動盤を前後進させる型締駆動部が可動盤の後方側に配置され、型締駆動部は型締盤に支持される。つまり、固定盤、可動盤、型締駆動部、型締盤の順に、共通のマシンベース上に配置される。各部が水平方向に配置される型締装置を横型締装置といい、鉛直方向に配置される型締装置を竪型締装置という。また、アルミニウム合金等の溶湯を成形材料とする成形方法を鋳造成形といい、熱可塑性樹脂の溶融樹脂を成形材料とする成形方法を射出成形という。
【0003】
また、金型キャビティ内に成形材料を射出充填する際に、金型キャビティ内の空気や成形材料から放出される揮発成分等のガス等を効率良く排出する(ガス抜きという)ことが望まれる。このガス抜きが良くない状態をガス抜き不良といい、金型キャビティにガスが残った状態をガス残りという。このガス抜き不良によって、例えば、鋳造成形においては、ボイド、ブリスター、湯ジワ、湯廻り不良、凹み等の鋳造不良となり、射出成形においては、樹脂焼け、製品ショート、ウエルド、フローマーク、ボイド混在等の成形不良となる。そのために、多くのガス抜き手段が提案されている。例えば、製品押出ピンの隙間を利用する、ガス残りが発生した固定金型と可動金型の金型キャビティ周囲の合わせ面(金型PL面という)にガス抜き溝を加工する、金型キャビティの一部に多孔質金属を用いる、強制的にガス抜きを行うガス抜き装置を金型に設置する等である。
【0004】
しかしながら、これらのガス抜き手段は、局所的であるために効率は良くなく、必ずしもガス残りの部位と一致するとは限らない。また、ガス抜き手段に成形材料が差し込んで閉鎖すると、成形を中断して清掃等の補修を必要とし、生産性の低下につながる。
【0005】
そこで、金型PL面の隙間または押付力を調整して、金型PL面からガス抜きを行う手段が多く提案されている。例えば、特許文献1は、鋳造成形に係る金型PL面からのガス抜き手段を示し、溶湯を通さない程度の隙間を金型PL面に設けた状態で溶湯の射出充填を行い、射出位置に基づいて型締力を増大させるとしている。また、特許文献2は、射出成形に係る金型PL面からのガス抜き手段を示し、型締工程の一部と射出工程の一部を同時に行い、型締工程と射出工程の動作時間に基づいて、射出工程開始から型締工程完了までのガス抜き時間を管理するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平3-56826号公報
【特許文献2】特開2015-199297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2は、いずれも横型締装置が示されている。ここで、横型締装置において、固定盤と型締盤は、複数のタイバーで連結され、固定盤と型締盤の間にある可動盤は、複数のタイバーが貫通する形となる。また、可動盤はマシンベース上を型開閉動作する。その際、複数のタイバーはガイド的な役割を担い、可動盤とタイバーとは適度な隙間が設定されている。最近では、可動盤に切り欠き部を設け、可動盤とタイバーは完全に離れている横型締装置が提案されている。そのため、成形金型を可動盤と固定盤に取り付けた際に、成形金型の重量によって可動盤と固定盤は傾いてしまう。特に、可動盤は固定盤方向に大きく傾くことになる。この傾きによって、金型PL面の隙間も傾き、金型PL面の押付力(型締力という)に偏差が生じる。その結果、型締力が過小な金型PL面から成形材料が漏れ出ることになり、逆に、型締力が過大な金型PL面からのガス抜きが阻害されガス抜き不良を誘引する。
【0008】
これに対して、特許文献1及び特許文献2は、成形金型の重量によって可動盤または固定盤が傾いて、金型PL面の隙間が傾いて、型締力に偏差が生じることに関して示唆されていない。つまり、特許文献1及び特許文献2に示す手段では、金型PL面から成形材料が漏れ出や、ガス抜きが上手く作用せずにガス残りが生じることが十分に考えられる。
【0009】
そこで本発明は、金型PL面からガス抜きを行う成形において、金型PL面の隙間を調整して、金型PL面に作用する型締力の偏差を補正し、金型PL面から成形材料の漏れ出やガス残り不良が生じない、横型締装置の型締力調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の型締力調整方法は、
成形金型の金型PL面の押付力を調整して、金型キャビティ内へ成形材料の射出充填中に、前記金型PL面からガス抜きを行う成形の型締力調整方法において、
前記金型PL面の隙間の傾きを計測して、予め設定された許容範囲内に収まるように、前記隙間を調整する、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の型締力調整方法において、
前記成形金型は、固定盤と可動盤が水平方向に配置される横型締装置に支持される、ことが好ましい。
【0012】
また、本発明の型締力調整方法において、
前記押付力は、前記金型キャビティ内へ射出充填される成形材料の流動投影面積に基づいて、段階的に増大させる、ことが好ましい。
【0013】
また、本発明の型締力調整方法において、
前記押付力は、前記横型締装置に設定する型締力である、ことが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の型締力調整方法において、
前記金型キャビティは、射出充填される成形材料が下から上の鉛直方向に流動するように、ゲートを配置する、ことが好ましく、前記押付力は、前記ゲート周囲において最も高い、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金型PL面からガス抜きを行う成形において、金型PL面の隙間を調整して、金型PL面に作用する型締力の偏差を補正し、金型PL面から成形材料の漏れ出やガス残り不良が生じない、横型締装置の型締力調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る横型締装置を備えた鋳造成形機を示す概念図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る横型締装置を備えた射出成形機を示す概念図である。
【
図3】金型キャビティとゲートと金型PL面の配置を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る型締力調整方法を示すフロー図である。
【
図5】横型締装置を用いた型締力調整方法の結果を示す図である。
【
図6】横型締装置を用いた型締力調整方法の実施例を示す図である。
【
図7】流動投影面積と適正型締力の関係を示す図である。
【
図8】従来技術の横型締装置を用いた可動盤の傾きを示す図である。
【
図9】従来技術の横型締装置を用いた型締力の偏差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが、各請求項に係る発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の尺度や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0018】
[横型締装置を備えた鋳造成形機]
先ず、本発明の実施形態に係る横型締装置を備えた鋳造成形機について、
図1を用いて説明する。
図1に示す鋳造成形機100は、射出装置10と、成形金型20と、横型締装置30、とを備える。
【0019】
射出装置10は、先端部が成形金型20と当接する円筒状の射出スリーブ11と、射出スリーブ11の後端部から挿入され、射出スリーブ11内を進退自在に摺動するプランジャ12と、プランジャ12が待機位置BEで待機している間に、図示しない給湯装置等を用いて射出スリーブ11内に所定量の成形材料を供給する注湯口14と、を備える。成形材料は、所定の組成に調整されたアルミニウム合金等の金属材料を製品用途に応じて適宜選択し、図示しない溶解炉で所定の温度に溶解させた溶湯を用いる。また、プランジャ12は、射出駆動部15とロッド13で連結され、射出制御部16の制御指令に基づいて射出駆動部15を操作して、プランジャ12が射出スリーブ11内を動作する。
【0020】
ここで、プランジャ12の動作について、成形金型20に近い方を前方F、遠い方を後方B、前方F側への動作を前進動作、後方B側への動作を後退動作と定義する。また、射出駆動部15は、例えば、油圧で駆動する油圧シリンダを用いたものとしても良く、回転動作を直線動作に変換するボールネジ機構と電動モータを組み合わせたものであっても良い。両者を組み合わせたものでも良い。また、射出スリーブ11およびプランジャ12には、必要に応じて、冷却水等の冷却媒体が流れる流路を含む図示しない冷却機構が設けられている。また、プランジャ12の摩耗損傷の防止や摺動状態の安定化及び溶湯残渣物の付着抑制等のため、射出スリーブ11とプランジャ12との摺動面に潤滑剤を塗布することが好ましい。
【0021】
成形金型20は、固定金型21と可動金型22と、を備え、固定金型21と可動金型22とが型締されて金型キャビティ23を形成する。また、金型キャビティ23には、成形材料を射出充填するゲート24を設けており、ゲート24は射出スリーブ11の先端部と連結される。射出スリーブ11内に供給された成形材料は、プランジャ12の前進動作により、ゲート24を経由して金型キャビティ23内に射出充填される。
【0022】
横型締装置30は、固定金型21を支持する固定盤31と、可動金型22を支持する可動盤32と、型開閉駆動手段35を支持する型締盤33が、マシンベースMB上に水平配置される。また、可動盤32は、型締制御部50の制御指令に基づいて型締駆動部40を操作して、型開閉駆動手段35によりマシンベースMB上を進退自在に摺動される。また、複数のタイバー34は、可動盤32を貫通して固定盤31と型締盤33を連結する。可動盤32は複数のタイバー34にガイドされてマシンベースMB上を摺動する。そのため、タイバー34と可動盤32とは、適度な隙間が設定される。
【0023】
ここで、可動盤32の動作について、固定盤31に近づく動作を型閉動作、固定盤31から離れる動作を型開動作と定義する。また、固定金型21と可動金型22が接触した状態を金型タッチ点、金型タッチ点からの前進動作を昇圧動作(または型締動作)、昇圧動作の完了位置を昇圧完了位置(または型締限)、昇圧完了位置から金型タッチ点に向かう型開動作を降圧動作と定義する。つまり、金型タッチ点から昇圧完了位置までの範囲において、固定金型21と可動金型22が型締されて金型キャビティ23が形成され、金型キャビティ23の周囲に金型PL面28が形成される。金型PL面28の押付力(型締力)は、金型タッチ点ではゼロに近く、昇圧完了位置で最大値となり、昇圧動作あるいは降圧動作を途中停止させることで、型締力を任意に調整して保持することができる。
【0024】
また、
図1に示す横型締装置30の型開閉駆動手段35は、油圧で駆動する油圧シリンダを用いたものとしたが、これに限定されることなく、例えば、回転動作を直線動作に変換するボールネジ機構と電動モータを組み合わせたものであっても良く、両者を組み合わせたものでも良い。また、複数のトグルリンク機構を組み合わせたトグル式型締手段であっても良い。あるいは、型開閉動作は油圧駆動手段や電動駆動手段を用い、昇圧動作及び降圧動作は、例えば、タイバー34の先端部に油圧駆動の油圧シリンダ等を組み込んだ駆動手段で行うハイブリット式型締手段であっても良い。なお、いずれの駆動手段であっても、可動盤32はマシンベースMB上を水平方向に移動する。
【0025】
[横型締装置を備えた射出成形機]
次に、本発明の実施形態に係る横型締装置を備えた射出成形機について、
図2を用いて説明する。
図2に示す射出成形機200は、射出装置70と、成形金型80と、横型締装置30と、を備える。なお、横型締装置30は、
図1と重複しているので説明を割愛し、ここでは、
図1と異なる射出装置70と成形金型80について詳細に説明する。
【0026】
射出装置70は、先端のノズル77が成形金型80と当接する円筒状の射出シリンダ71と、射出シリンダ71内に配置されたスクリュ72と、射出シリンダ71内に成形材料を供給するホッパ73と、を備える。スクリュ72と射出駆動部75は連結されており、射出制御部76の制御指令に基づいて、射出駆動部75を操作してスクリュ72の動作を行う。ここで、スクリュ72の動作について、成形金型80に近い方を前方F、遠い方を後方B、前方F側への動作を前進動作、後方B側への動作を後退動作と定義する。また、スクリュ72の連続した螺旋状のフライトによって、射出シリンダ内に供給した成形材料が前方F側に輸送される方向にスクリュ72が回転動作する(計量回転という)。
【0027】
成形材料は、例えば、ポリプロピレン(PP)樹脂やナイロン(PA)樹脂等の熱可塑性樹脂に、製品用途に応じて着色剤や核剤及び難燃剤等の添加剤を混合して、ホッパ73から射出シリンダ71内に供給される。供給された成形材料は、射出シリンダ71に配置されるヒータ74からの熱量と、スクリュ72の回転運動に伴う発熱量と、前方F側に向かってせん断力が作用するように設計されたスクリュ72のせん断発熱量により、溶融し混錬されながら前方F側に輸送され、スクリュ72の前方F側の射出シリンダ71内に可塑化溶融樹脂として貯蔵される。可塑化溶融樹脂の貯蔵に伴い、スクリュ72は後方B側に後退動作する。この後退動作に制限をかけて、可塑化溶融樹脂の混錬性と溶融温度を調整する。この一連の動作を可塑化計量工程という。
【0028】
成形金型80は、固定盤31に支持される固定金型81と、可動盤32に支持される可動金型82と、を備える。固定金型81と可動金型82を型締して、金型キャビティ83と金型PL面88が形成される。成形材料を射出充填するゲート84を金型キャビティ83に設ける。射出装置70のスクリュ72の前進動作により、スクリュ72の前方F側の射出シリンダ71内に貯蔵した可塑化溶融樹脂はノズル77、ホットランナ回路HR、ゲート84を経由して金型キャビティ83内に射出充填される。
【0029】
[金型キャビティとゲートと金型PL面の配置]
次に、
図1および
図2に示す横型締装置30で型開閉動作する成形金型(20、80)の、金型キャビティ(23、83)とゲート(24、84)と金型PL面(28、88)の関係を、
図3を用いて説明する。
図3は可動金型(22、82)の平面図である。
【0030】
可動盤32の4隅に開口リング34Bが嵌め込まれており、開口リング34B内をタイバー34が貫通している。タイバー34は、可動盤32の型開閉動作時のガイド的な役割を担い、適度な隙間Sが設定される。なお、
図3においては、開口リング34Bを用いてタイバー34を貫通する構成としたが、これに限定されることなく、例えば、可動盤32の4隅にタイバー34と干渉しない切り欠き部を設け、可動盤32とタイバー34は全く干渉しない構成としても良い。いずれにしても、タイバー34は、可動盤32の傾きを支える構成ではない。仮に、可動盤32とタイバー34を隙間なく貫通させる構成とすると、マシンベースMBと合わせて、隙間の無い勘合部が複数存在し、全てを精度良くバランスさせる必要がある。例えば、その内の1つでも干渉してバランスが崩れると、可動盤32の型開閉動作に抵抗が負荷し、可動盤32が正常に動かなくなる異常状態となる。そのために、可動盤32の型開閉動作は、マシンベースMBと整合させ、開口リング34Bとタイバー34とは適度な隙間Sを設定することが正しい。
【0031】
この隙間Sによって、成形金型(20、80)を固定盤31と可動盤32に取付けた際に、成形金型(20、80)の重量によって、固定盤31あるいは可動盤32は傾くことがある。この傾きは、隙間Sのある可動盤32が大きい。固定盤31あるいは可動盤32の傾きについて、
図8と
図9を用いて詳しく説明する。
図8は従来技術の横型締装置に成形金型を取付けた状態を示し、
図8(a)は可動盤MPの傾きの程度を示し、
図8(b)は金型タッチ点での金型PL面の隙間を示す。また、
図9は従来技術の横型締装置の型締力の偏差の程度を示す。
【0032】
先ず、
図8(a)に示すように、固定盤SPに固定金型SK、可動盤MPに可動金型MKをそれぞれ取付けると、成形金型の重みで、隙間のある可動盤MPが固定盤SP側に大きく傾く(前傾という)。この前傾によって、固定金型SKと可動金型MKの金型PL面は、上側の隙間L1が狭く下側の隙間L2が広くなるように傾く(L1<L2)。なお、固定盤SPの傾きを加味すれば、金型PL面の傾きは更に大きくなる。次に、
図8(b)に示すように、金型PL面が傾いたまま金型タッチ点まで型閉動作させる。そうすると、金型PL面は、上側が接触して隙間が無くなり、下側は隙間L3が残り、金型PL面は傾いたままで金型タッチ点の状態となる。
【0033】
この金型PL面が傾いたままで昇圧動作を行うと、
図9に示す状態となる。
図9(a)に示すように、金型PL面は全て閉じており、金型キャビティKCとゲートKGが形成される。しかしながら、
図9(b)に示すように、隙間L3が残った下側の型締力が低く、隙間の無かった上側の型締力が高い、偏差を有した型締力パターンNGとなる。ここで、金型中心付近の型締力KMを設定型締力に相当するとして、成形材料の射出充填を行うと下記に示す成形異常となる。例えば、ゲートKG周辺の型締力KLは、過小であるので(KL<KM)、成形材料が金型PL面から漏れ出る成形異常となる。また、金型キャビティKC内の成形材料の最終充填部付近の型締力KHは、過大であるので(KH>KM)、金型PL面からのガス抜きが阻害される成形異常となる。また、型締力KHの過大により、金型PL面は変形等の損傷を受けやすく、成形金型の寿命低下を招くことになる。なお、型締力KLの過小による成形材料の漏れ出は、例えば、高温の溶湯を射出充填する鋳造成形においては、フラッシュと呼ばれる事故となりかねない。つまり、金型の重みによる金型PL面の隙間の傾きは、全ての面において好ましいものではない。
【0034】
図3の説明に戻る。金型キャビティ(23、83)の下方にゲート(24、84)が配置される。成形材料は、ゲート(24、84)から射出充填され、金型キャビティ(23、83)内を下から上に向かって流動し、金型キャビティ(23、83)の上側が最終充填部となる。成形材料よりも比重の軽い金型キャビティ(23、83)内のガスは、金型キャビティ(23、83)の上側に集まるので、金型PL面からのガス抜きには好都合である。ここで、金型PL面を、下方部(28L、88L)、中央部(28M、88M)、上方部(28H、88H)の3つのエリアに分けると、以下に示す型締力パターンが好ましい。例えば、中央部(28M、88M)の型締力を設定型締力相当とし、下方部(28L、88L)は設定型締力よりも高い型締力とする。これにより、成形材料の射出充填時の圧力が最も高い、ゲート(24、84)からの成形材料の漏れ出を確実に防止することができる。また、上方部(28H、88H)は、設定型締力よりも低い型締力とする。これにより、金型PL面からのガス抜きを確実なものとする。なお、金型キャビティ(23、83)の上側は最終充填部であるので、成形材料の射出充填時の圧力は低く、金型PL面からの成形材料の漏れ出は抑制できる。
【0035】
[型締力調整方法]
次に、本発明の実施形態に係る型締力調整方法について、
図4と
図5と
図6を用いて説明する。
図4は
図1および
図2に示す横型締装置を用いた型締力調整方法のフロー図を示し、
図5は型締力調整方法の結果の型締力パターンを示す。また、
図6は型締力調整方法の実施例を示す。
【0036】
先ず、
図4に示すように、横型締装置30に成形金型(20、80)を取付けた後に、型締力調整を開始する。所定の位置まで型閉動作させて、金型PL面の隙間の傾き(傾斜角度)を計測する。傾斜角度の計測値と予め設定した許容値とを比較する。ここで、許容値とは、横型締装置の型式や大きさ、成形金型(20、80)の大きさや金型剛性および横型締装置への取付け位置、金型キャビティ(23,83)の形状や配置、ゲート(24、84)の配置、金型PL面(28、88)の形状、成形材料の種類、射出充填時間や成形材料の溶融温度等の成形条件、製品の品質管理基準、CAE等の流動解析データ、および経験値等から、最適な型締力パターンが得られる傾斜角度の許容範囲である。
【0037】
傾斜角度の計測値が許容値に入るように、傾斜角度を補正する(傾斜角度補正)。傾斜角補正は、例えば、
図6に示すような傾斜角度補正手段90を用いる。
図6(a)は、可動盤32とマシンベースMBの間に傾斜角度補正手段90を配置する。スライドベース(92L、92U)を上下に2分割し、ジャッキアップボルト(91F、91B)で可動盤32の傾きを補正することで、傾斜角度が補正される。例えば、可動盤32が固定盤31の方向に前傾している場合は、固定盤31側のジャッキアップボルト91Fで、可動盤32を支持するスライドベース92Uを持ち上げて、可動盤32の前傾の程度を補正する。また、型締盤33側のジャッキアップボルト91Bで、スライドベース92Uを下げることでも、傾斜角度を補正することができる。
【0038】
また、
図6(b)に示すように、固定盤31の上側に、例えば、油圧駆動の油圧シリンダや電動ボールネジ駆動の電動モータ等の傾斜角度補正手段90を配置して、可動盤32を押圧することで可動盤32の傾きを補正することができ、傾斜角度補正を可能とする。なお、可動盤32に傾斜角度補正手段90を配置して、固定盤31を押圧して可動盤32の傾きを補正するとしても良い。また、
図6(c)は、
図6(b)と同様な傾斜角度補正手段90を固定金型(21、81)に配置して、可動金型(22、82)を直接押圧して傾斜角度の補正を行っても良い。なお、可動金型(22、82)側に傾斜角度補正手段90を配置しても良い。
【0039】
傾斜角度補正手段90で傾斜角度補正を行い、傾斜角度の計測値が許容値に入ると傾斜角度補正を終え、
図5に示すような型締力パターンを得る。
図5(a)は、傾斜角度補正手段90による傾斜角度の補正状態を示す。例えば、下側の金型PL面の隙間L5に対して、上側の隙間L4を所定量広く設定する(L4>L5)。その結果、
図5(b)に示すように、金型PL面の上方部(28H、88H)の型締力が低く、下方部(28L、88L)の型締力が高い型締力パターンG2を示す。この型締力パターンG2と
図3を重ねると、ゲート(24、84)近傍の金型PL面の下方部(28L、88L)の型締力は高く、成形材料の漏れ出の防止と一致する。また、最終充填部近傍の金型PL面の上方部(28H、88H)の型締力は低く、金型PL面からのガス抜きと一致する。金型PL面の中央部(28M、88M)は、設定型締力が確保されている。また、型締力パターンG1は、全ての金型PL面に均等に型締力が作用するように補正した事例である。このように、傾斜角度補正手段90を用いて傾斜角度を補正する型締力調整方法によって、金型PL面に作用する型締力パターンを自由に調整することができる。
【0040】
図4の説明に戻る。金型PL面の傾斜角度補正手段の後は、昇圧完了位置の最大型締力Pmaxの設定を行う。近年では、型締力設定の精度を高めるために、型締力センサ等を用いて成形金型(20、80)の金型PL面に作用する型締力を実測できる横型締装置が多い。この場合は、許容範囲を設定した基準値と実測値を比較して誤差調整を行う。この誤差調整は、型開閉駆動手段35によって異なる。例えば、油圧駆動の油圧シリンダでは、油圧の供給圧力の調整となり、ボールネジ機構と電動モータの組合せでは、電動モータの出力トルク調整となる。また、トグル式型締手段では、タイバー34の延伸量の回復力が型締力となるので、タイバー34の延伸量を調整するダイハイト調整動作で行う。実測値と基準値が一致すると型締力設定を終える。
【0041】
最後に、金型PL面からのガス抜き成形のための型締力の分割設定を、
図7に示す適正型締力理論に基づいて行う。
図7(a)は、成形材料の射出充填開始から充填完了までの金型キャビティ内の成形材料の流動投影面積を横軸に、流動投影面積に基づいた型締力を縦軸としたグラフである。ここで、流動投影面積とは、金型キャビティ内を流動する成形材料の流動面積を、型開閉方向の投影面積で表した指数である。成形材料の射出充填開始の流動投影面積はゼロであって、射出充填の進行とともに流動投影面積は増大し、射出充填完了で流動投影面積は最大となる。この流動投影面積に成形材料の成形圧力を乗じた数値を適正型締力GPという。つまり、この適正型締力GPをキープできれば、金型PL面の押付力の適正化が確保でき、金型PL面からはガスのみが効率良く排出され、成形材料の漏れ出を防止できるものであり、これを適正型締力理論という。実際には余裕代を有した設定となる(領域A)。なお、成形圧力は、成形材料の種類や金型キャビティの大きさおよび製品の肉厚等の形状等により適宜設定され、代表的なものは文献やメーカカタログ等に記載されているものを用いても良い。
【0042】
一般的に、型締力は製品投影面積に成形圧力を乗じた数値(最大型締力Pmax)が広く採用されている。この製品投影面積とは射出充填完了時の流動投影面積に相当する。つまり、成形材料の射出充填完了までの大半は、最大型締力Pmaxでは過大であり、金型PL面からのガス抜きは全く期待できない(領域B)。また、適正型締力GPよりも過小な型締力では、金型PL面から成形材料が漏れ出るので使用できない(領域Z)。
【0043】
先ず、成形材料の射出充填開始から射出充填完了までの流動投影面積を適当に分割する。例えば、
図7(b)では、流動投影面積の変化を射出装置(10、70)の射出位置に置き替え、射出位置で9分割(S0~SE)とした。なお、分割数は、射出装置(10、70)や横型締装置30の性能、金型キャビティ(23、83)の大きさ、成形材料の種類等から適宜選択される。次に、分割した射出位置に相当する適正型締力GP相当の分割型締力(P0~P7)を設定する。射出充填完了の射出位置の分割型締力は、最大型締力Pmaxとする。また、射出充填開始の射出位置の分割型締力P0は、例えば、安定運転が確保できる横型締装置の最低型締力とする。あるいは、金型メーカが金型PL面の仕上げ調整に用いる調整用型締力としても良い。また、金型PL面から成形材料の漏れ出が心配される場合は、射出充填完了の射出位置よりも手前の射出位置で最大型締力Pmaxを設定しても良い。なお、金型PL面からのガス抜きの効果が弱まるので、成形材料の漏れ出とガス抜きの兼ね合いを確認しながら、分割型締力の設定の微調整を行うことが好ましい。分割型締力の設定まで終えると、型締力調整を完了し、実際の成形運転に進む。
【0044】
[効果]
このように、横型締装置に成形金型を取付けた際に、成形金型の重みによって固定盤あるいは可動盤が傾く状態を、金型PL面の隙間の傾き(傾斜角度)を計測し、予め設定した許容範囲内に収まるように、傾斜角度補正手段を用いて、固定盤あるいは可動盤の傾きを補正し、傾斜角度を補正する型締力調整方法によって、金型PL面に作用する型締力(押付力)パターンを最適なものに調整できる。その結果、金型PL面からのガス抜き効率が高まり、例えば、鋳造成形においては、ボイド、ブリスター、湯ジワ、湯廻り不良、凹み等の鋳造不良が防止でき、また射出成形においては、樹脂焼け、製品ショート、ウエルド、フローマーク、ボイド混在等の成形不良が確実に防止できる。また、金型PL面からの成形材料の漏れ出も確実に防止できる。さらに、金型PL面への過大な型締力の負荷を防止でき、金型等の機械部品の寿命アップと、成形中断を回避して生産性アップの効果も得る。
【0045】
また、金型キャビティ内を下側から上側に向かって成形材料が流動するようにゲート位置を設定する型締力調整方法によって、成形材料と金型キャビティ内のガスの比重差を利用して、金型キャビティ内からガスのみを優先的に排出することができ、金型PL面からのガス抜き効果を助長することができる。
【0046】
さらに、適正型締力理論に基づいた、金型キャビティ内の成形材料の流動投影面積の増大に合わせて、型締力を段階的に増大させる型締力調整方法において、金型PL面からのガス抜き成形を確実なものとすることができる。
【0047】
また、金型キャビティ内に滞留するガスは、金型キャビティ内の成形材料の流動を阻害し、成形材料の流動抵抗となっていた。上述した型締力調整方法により、流動抵抗となる滞留ガスは存在しないので、成形圧力を下げることができ、その結果、型締力クラスダウンの効果を得ることができる。また、金型キャビティ内に成形材料を高速で射出充填しても、滞留ガスが存在しないのでガス焼け等の成形異常は発生しない。これによって、薄肉成形や大物成形あるいはハイサイクル成形を可能とする。型締力クラスダウンの効果と相乗して、省エネ効果や生産コスト低減等の生産性改善効果も得ることができる。
【0048】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に記載された範囲には限定されない。上記の実施形態には多様な変更または改良を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
100 鋳造成形機
200 射出成形機
10、70 射出装置
11 射出スリーブ
12 プランジャ
13 ロッド13
14 注湯口
15 射出駆動部
16 射出制御部
BE 待機位置
F 前方
B 後方
20、80 成形金型
21、81 固定金型
22、82 可動金型
23、83、KC 金型キャビティ
24、84、KG ゲート
28、88 金型PL面
28L、88L 下方部
28M、88M 中央部
28H、88H 上方部
30 横型締装置
31 固定盤
32 可動盤
33 型締盤
34 タイバー
34B 開口リング
35 型開閉駆動手段
40 型締駆動部
50 型締制御部
MB マシンベース
S 隙間
71 射出シリンダ
72 スクリュ
73 ホッパ
74 ヒータ
75 射出駆動部
76 射出制御部
77 ノズル
HR ホットランナ回路
90 傾斜角度補正手段
91F、91B ジャッキアップボルト
92L、92U スライドベース
L1~L5 隙間
G1、G2、NG 型締力パターン
GP 適正型締力
Pmax 最大型締力
P0~P7 分割型締力
A、B、Z 領域
S0~SE 分割
MP 可動盤
MK 可動金型
SP 固定盤
SK 固定金型
KL、KM、KH 型締力