(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019487
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】神経細胞変性抑用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/05 20060101AFI20230202BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230202BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230202BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20230202BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230202BHJP
【FI】
A61K31/05
A61P25/00
A61P25/16
A23L33/10
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124247
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】300067479
【氏名又は名称】株式会社佐藤園
(71)【出願人】
【識別番号】397010789
【氏名又は名称】萩原株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 寿之
(72)【発明者】
【氏名】武田 厚司
(72)【発明者】
【氏名】池田 大樹
【テーマコード(参考)】
4B018
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD08
4B018MD61
4B018ME14
4B018MF01
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA19
4C206KA05
4C206MA72
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA01
(57)【要約】
【課題】神経細胞変性を抑制する手段の開発。
【解決手段】エフソール及び/又はデヒドロエフソールを含有する、神経細胞変性抑制用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エフソール及び/又はデヒドロエフソールを含有する、神経細胞変性抑制用組成物。
【請求項2】
神経細胞がドパミン神経細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ドパミン神経細胞変性が生じている対象のために用いられる、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
神経細胞変性に起因する運動障害の改善用である、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
パーキンソン病治療用である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、神経細胞変性抑用組成物等に関する。なお、本明細書に記載される全ての文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
神経細胞の変性により運動障害が生じることが知られている。例えば、パーキンソン病は中脳黒質-線条体ドパミン作動性神経の変性を特徴とする進行性神経変性疾患であり、手足の震えや筋肉のこわばりなどの運動機能障害が生じる。しかし、その変性・脱落の原因は解明されていない。ドパミンは不安定で自動酸化により活性酸素を産生することから、活性酸素がドパミン作動性神経の変性と関係すると考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Singhuber J, Baburin L, Khom S et al. : GABAA receptor modulators from the Chinese herbal drug junci medulla-the pith of juncus effuses. Planta med 78: 455-458 (2012)
【非特許文献2】Wang YG, Wang YL, Zhai HF et al. : Phenanthrens from juncus effusus with anxiolytic and sedative activities. Nat Prod Res. 26: 1234-1239 (2012)
【非特許文献3】Liao YJ, Zhai HF, Zhang B et al. : Anxiolytic and sedative effects of dehydroeffusol from juncus effusus in mice. Planta med. 77: 416-420 (2011)
【非特許文献4】Haruna Tamano, Ryusuke Nishio, Hiroki Morioka, Atsushi Takeda: Mol. Neurobiol., 56, 435-443 (2019).
【非特許文献5】Haruna Tamano, Hiroki Morioka, Ryusuke Nishio, Azusa Takeuchi, Atsushi Takeda: Mol. Neurobiol., 56, 4539-4548 (2019).
【非特許文献6】Haruna Tamano, Ryusuke Nishio, Hiroki, Morioka, Ryo Furuhata, Yuuma Komata, Atsushi Takeda: Mol. Neurobiol., 56, 7789-7799 (2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、活性酸素(Reactive Oxygen Species;ROS)である過酸化水素の産生による細胞内Zn2+ホメオスタシスの破綻がドパミン神経変性の原因であるとの仮説を立て、ドパミン神経毒である6-ヒドロキシドパミン(6-hydroxydopamine:6-OHDA)をラットの片側黒質緻密部に投与したパーキンソン病モデルを用いて検証してきた。6-OHDAは黒質緻密部ドパミン作動性神経細胞内Zn2+レベルを過剰に増加させ、細胞死を誘導し、運動障害を引き起こすことを報告してきた(非特許文献4~6)。
【0005】
そこで、本発明者らは、神経細胞変性を抑制する手段を開発することで、当該神経細胞変性に起因する病状を治療できる可能性があると考え、そのような手段を開発することを目的に検討を重ねた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、エフソール及びデヒドロエフソールにより神経細胞変性抑制効果が奏され得ることを見いだし、さらに改良を重ねた。
【0007】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
エフソール及び/又はデヒドロエフソールを含有する、神経細胞変性抑制用組成物。
項2.
神経細胞がドパミン神経細胞である、請求項1に記載の組成物。
項3.
ドパミン神経細胞変性が生じている対象のために用いられる、請求項2に記載の組成物。
項4.
神経細胞変性に起因する運動障害の改善用である、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
項5.
パーキンソン病治療用である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
本開示に包含される組成物や方法等により、神経細胞変性を抑制することができる。これにより、神経細胞変性に起因する病状(例えば運動障害)の回復が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】パーキンソン病モデル作成に使用される6-OHDAを、エフソールまたはデヒドロエフソールとともにラットの片側黒質緻密部に投与したときの、細胞内活性酸素(ROS)量を蛍光試薬により測定した結果を示す。
【
図2】パーキンソン病モデル作成に使用される6-OHDAを、エフソールまたはデヒドロエフソールとともにラットの片側黒質緻密部に投与したときの、細胞内過酸化水素量を蛍光試薬により測定した結果を示す。
【
図3】パーキンソン病モデル作成に使用される6-OHDAを、エフソールまたはデヒドロエフソールとともにラットの片側黒質緻密部に投与したときの、細胞内Zn
2+量を蛍光試薬により測定した結果を示す。
【
図4】パーキンソン病モデル作成に使用される6-OHDAを、エフソールまたはデヒドロエフソールとともにラットの片側黒質緻密部に投与したときの、変性した神経細胞量をチロシンヒドロキシラーゼ(TH)免疫染色により測定した結果を示す。
【
図5】イ草全草50%エタノール水溶液抽出液又はイ草芯50%エタノール水溶液抽出液をHPLC解析して得たクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、神経細胞変性抑制用組成物等を好ましく包含するが、これに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0011】
本開示に包含される神経細胞変性抑制組成物は、エフソールおよびデヒドロエフソールからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有する。当該組成物を本開示の組成物ということがある。
【0012】
エフソールは、以下の構造式で表される化合物である。
【0013】
【0014】
本開示の組成物に用いるエフソールは、合成品であっても、自然界に存在するものを抽出及び精製したものであってもよい。公知の方法又は公知の方法より容易に想到できる方法により合成して得ることができる。また、市販品を購入して用いることもできる。自然界から得る場合には、例えばエフソールはイ草(灯心草)に存在していることが知られており、イ草から抽出及び必要に応じて精製して得ることができる。例えば、水、メタノール、エタノール、又はこれらの少なくとも2種の混合液等により抽出し、必要に応じて精製して、得ることができる。当該抽出液としては、特に制限はされないが、メタノール、又は40~60%エタノール水溶液が好ましい。また、必要に応じてさらに得られた抽出液をさらに分画及び/又は精製してもよい。分画は、例えば液液分配抽出により行うことが出来る。当該分配は、例えば水、n-ヘキサン、及び酢酸エチル等を用いて行うことができる。また、精製は、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィー及び/又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行うことができる。より詳細には、例えば、イ草のメタノール抽出液を減圧濃縮し、水とn-ヘキサンとで液液分配抽出を行い、得られた水層にさらに酢酸エチルを加えて液液分配抽出を行い、酢酸エチル層をクロマトグラフィー(シリカゲルカラムクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィー)で精製する、という方法が挙げられる。なお、抽出に供するイ草の部分も特に制限はされず、例えばイ草の全草を抽出に供してもよいし、イ草の芯を抽出に供してもよい。
【0015】
また、デヒドロエフソールは、以下の構造式で表される化合物である。
【0016】
【0017】
本開示の組成物に用いるデヒドロエフソールは、合成品であっても、自然界に存在するものを抽出及び精製したものであってもよい。公知の方法又は公知の方法より容易に想到できる方法により合成して得ることができる。自然界から得る場合には、例えばデヒドロエフソールはイ草(灯心草)に存在していることが知られており、イ草から抽出(及び必要に応じて精製)して得ることができる。より詳細には、例えばイ草から水、エタノール、又はこれらの混合液により抽出を行って得ることができる。当該抽出液としては、特に40~60%エタノール水溶液が好ましく、特に50%エタノール水溶液が好ましい。また、必要に応じてさらに得られた抽出液をさらに分画及び/又は精製してもよい。分画は、例えば液液分配抽出により行うことが出来る。当該分配は、例えば水と酢酸エチルを用いて行うことができる。また、精製は、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行うことができる。また、抽出に供するイ草の部分も特に制限はされず、例えばイ草の全草を抽出に供してもよいし、イ草の芯を抽出に供してもよい。イ草の芯には、多くのデヒドロエフソールが存在しているため、イ草の芯を用いることが特に好ましい。
【0018】
本開示の組成物は、神経細胞(特に脳神経細胞)の変性を抑制するために用いられる。なかでも、ドパミン神経細胞の変性を抑制するために好ましく用いられる。また、神経細胞の変性とは、神経細胞が障害を負う場合全般を包含し、例えば神経細胞の脱落や神経細胞死などを包含する。
【0019】
また、上記の通り、神経細胞の変性により運動機能障害が生じることから、本開示の組成物により神経細胞変性が抑制されることにより、運動機能障害が改善することも期待できる。このため、本開示の組成物は、神経細胞変性に起因する運動障害の改善用としても用いることができる。特に、パーキンソン病の治療のために好ましく用いることができる。
【0020】
なお、本開示の組成物の使用対象は、神経細胞(特にドパミン神経細胞)変性が生じている対象が好ましく、さらに運動機能障害が生じている対象がより好ましい。また、使用対象は、ヒトに限定されない。例えば、非ヒト哺乳動物にも用いることができる。特にペット及び家畜として飼育される哺乳動物が好ましい。具体的には、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、リャマ等が例示できる。
【0021】
生体抽出物(好ましくはイ草抽出物)そのものも本開示の組成物に含まれる。つまり、エフソール及び/又はデヒドロエフソールを含有する生体抽出物(及び必要に応じて精製されたもの、若しくは必要に応じてさらに他の成分が配合されたもの)も、効果が奏される限り、本開示の組成物に含まれる。
【0022】
また、本開示の組成物は、特に制限されるわけではないが、経口組成物または注射組成物であることが好ましい。注射組成物である場合、その投与方法としては、経血管投与(例えば経静脈投与若しくは経動脈投与)又は直接脳若しくは脊髄に投与する方法が例示できる。また、経口組成物である場合、例えば下述するように経口医薬組成物または食品組成物として用いることができる。
【0023】
なお、エフソール及びデヒドロエフソールは、フェナントレン骨格を有する化合物であるところ、フェナントレン骨格を有する化合物であるモルヒネは血液脳関門を通過し、またデヒドロエフソールも血液脳関門を追加する可能性が報告されている(上記非特許文献3)。さらに、エフソールは水には溶けない脂溶性成分であるところ、その脂溶性は脂肪酸ほど高くはなく、血液脳関門を通過するために好適な脂溶性ということができる。以上のことから、エフソール及び/又はデヒドロエフソールは例えば経口投与又は経血管投与によっても、脳に到達して効果を発揮し得ると考えられる。
【0024】
本開示の組成物は医薬組成物又は食品組成物として好ましく用いることができる。医薬組成物として用いる場合、当該組成物(「本開示に係る医薬品組成物」と表記することがある)には、エフソール及び/又はデヒドロエフソール(あるいはエフソール及び/又はデヒドロエフソール含有生体抽出物)に、必要に応じて薬学的に許容される基剤、担体、添加剤(例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶剤、甘味剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、界面活性剤、保湿剤、保存剤、pH調整剤、粘稠化剤等)等が配合され得る。このような基材、担体、添加剤等は、例えば医薬品添加物辞典2016(株式会社薬事日報社)等に具体的に記載されており、例えばこれに記載されるものを用いることができる。また製剤形態も特に制限されず、常法により有効成分及びその他の成分を混合し、例えば錠剤、被覆錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゼリー剤、チュアブル剤、ソフト錠剤等の製剤に調製することができる。例えば、錠剤の製造は打錠法により行い得る。混合した原料をそのまま打錠する直接打錠法、混合した原料を顆粒にしてから打錠する顆粒打錠法、のいずれも用い得る。また例えば、カプセル剤の場合はソフトカプセル及びハードカプセルのいずれであってもよい。
【0025】
本開示に係る医薬組成物におけるエフソール及び/又はデヒドロエフソールの配合量は、記憶障害予防又は改善効果が発揮される限り特に制限されず、対象に応じて適宜設定できる。好ましくは0.0005~100質量%、より好ましくは0.005~90質量%、さらに好ましくは0.05~80質量%である。なお、下限は10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、又は80質量%程度であってもよい。
【0026】
本開示に係る医薬組成物の投与時期は特に限定されず、例えば製剤形態、投与対象の年齢、投与対象の症状の程度等を考慮して適宜投与時期を選択することが可能である。なお、投与形態は特に制限されないが、経口投与及び経血管投与(経静脈投与、経動脈投与)が好ましい。
【0027】
本開示に係る医薬組成物の投与量は、投与対象の年齢、投与対象の症状の程度、その他の条件等に応じて適宜選択され得る。特に含まれるエフソール及び/又はデヒドロエフソール量を基準として、効果が損なわれない範囲で適宜設定することができる。特に制限はされないが、例えば、成人一日あたりに投与されるエフソール及び/又はデヒドロエフソールの量は、0.5~100mg程度が好ましく、1~50mg程度がより好ましく、5~30mg程度、6~24mg程度、10~24mg程度、又は12~24mg程度がさらに好ましい。なお、1日1回又は複数回(好ましくは2~3回)に分けて投与することができる。非ヒト哺乳動物の場合も、当該人の場合を参考として適宜投与量を設定できる。
【0028】
本開示の組成物を食品組成物(例えば飲食品や食品添加物)として用いる場合、当該組成物(以下「本開示に係る食品組成物」と記載することがある)には、エフソール及び/又はデヒドロエフソール(あるいはエフソール及び/又はデヒドロエフソールを含有する生体抽出物)、及び食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤、その他飲食品として利用され得る成分・材料等が配合され得る。例えば、エフソール及び/又はデヒドロエフソールを含む、記憶障害予防又は改善用の加工食品、飲料、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能性食品、機能性表示食品、又は病者用食品(病院食、病人食又は介護食等)等の食品組成物が例示できる。特に制限はされないが、当該食品組成物に配合されるエフソール及び/又はデヒドロエフソールが生体抽出物(好ましくはイ草抽出物)である場合は、例えば当該抽出物が配合された加工食品、健康食品、栄養機能食品、特定保健用食品、サプリメント、病者用食品等であってもよい。また、エフソール及び/又はデヒドロエフソールを例えば粉末状にする等して、飲料類(ジュース等)、菓子類、パン類、スープ類(粉末スープ等を含む)、加工食品等の各種飲食品に含有させたものであってもよい。なお、病院食とは病院に入院した際に供される食事であり、病人食は病人用の食事であり、介護食とは被介護者用の食事である。本開示に係る食品組成物は、特に入院、自宅療養等されている患者、あるいは介護を受けられている患者であって記憶障害を感じている対象者用の病院食、病人食又は介護食として好ましく用いることができる。
【0029】
健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメントとして、本開示に係る食品組成物を調製する場合は、継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒、カプセル、錠剤(チュアブル剤等を含む)、飲料(ドリンク剤)等の形態に調製することが好ましく、なかでもカプセル、タブレット、錠剤の形態が摂取の簡便さの点からは好ましい。ただし、特にこれらに限定されるものではない。顆粒、カプセル、錠剤等の形態の、本開示に係る食品組成物は、薬学的及び/又は食品衛生学的に許容される担体等を用いて、常法に従って適宜調製することができる。また、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0030】
本開示に係る食品組成物におけるエフソール及び/又はデヒドロエフソールの配合量は、効果が発揮され得る限り特に制限されない。好ましくは0.0005~100質量%、より好ましくは0.005~90質量%、さらに好ましくは0.05~80質量%である。なお、下限は10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、又は80質量%程度であってもよい。
【0031】
本開示に係る食品組成物の、摂取量、摂取対象等は、例えば上述した本開示に係る医薬組成物と同様であることが好ましい。
【0032】
本開示は、エフソール及び/又はデヒドロエフソールを配合する工程を含む、神経細胞変性抑制用組成物の製造方法、並びに、エフソール及び/又はデヒドロエフソール(好ましくは上述のエフソール及び/又はデヒドロエフソールを含有する神経細胞変性抑制用組成物)を投与することにより、神経細胞(中でも脳神経細胞、特にドパミン神経細胞)の変性を抑制する方法、ひいては運動機能障害を改善する方法、等も包含する。これらの方法における各種条件は、上述したとおりである。
【0033】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件の任意の組み合わせを全て包含する。
【0034】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0035】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。なお、ラットは、日本エスエルシー株式会社から Wistar系ラットを購入して用いた。
【0036】
(i)6-ヒドロキシドパミン(6-OHDA;SIGMA-ALDRICHから購入)を800μM含む生理食塩水、(ii)6-OHDAを800μM及びエフソールを200μM含む生理食塩水、あるいは(iii)6-OHDAを800μM及びデヒドロエフソールを200μM含む生理食塩水、を調製して、以下の検討に用いた。
【0037】
(実験1)6-OHDA(800μM)をエフソール(200μM)あるいはデヒドロエフソール(200μM)とともにラットの脳の片側黒質緻密部に1μLを50分間で投与した。投与は、具体的には、麻酔したラットの頭蓋に穴を開け、インジェクションカニューラ(内径:0.15 mm、外径:0.35 mm)を黒質緻密部に挿入して、行った。投与終了から10分後に黒質細胞内ROSレベルをAPF(Aminophenyl Fluorescein)の蛍光で測定したところ、6-OHDA単独投与では生理食塩水(コントロール)投与と比べて細胞内ROS(活性酸素)レベルは有意に上昇し、その上昇はエフソールあるいはデヒドロエフソールの同時投与で抑制された(
図1)。なおAFPは活性酵素と反応することで強い蛍光を示す。また、
図1におけるグラフは、顕微鏡写真の白点線で囲まれた部分の蛍光毛強度(相対値)を数値化したものである。また、当該白点線で囲まれた部分が、「黒質緻密部」である。以下の図でも同様である。
【0038】
(実験1-2)実験1と同様に、6-OHDA(800μM)をエフソール(200μM)あるいはデヒドロエフソール(200μM)とともにラットの片側黒質緻密部に1μLを50分間で投与した。投与終了から10分後に黒質細胞内過酸化水素レベルをHYDROPの蛍光で測定したところ、6-OHDA単独投与では生食(コントロール)投与と比べて細胞内過酸化水素レベルは有意に上昇し、その上昇はエフソールあるいはデヒドロエフソールの同時投与で抑制された(
図2)。なお、HYDROPはH
2O
2(過酸化水素) を特異的に検出する蛍光プローブである。
【0039】
(実験2)過酸化水素誘発性の黒質細胞内Zn
2+レベルの上昇を測定した。実験1と同様に、6-OHDA(800μM)をエフソール(200μM)あるいはデヒドロエフソール(200μM)とともにラットの片側黒質緻密部に1μLを50分間で投与した。投与終了から10分後に、6-OHDA単独投与により黒質細胞内Zn
2+レベルは有意に上昇したが、その上昇はエフソールあるいはデヒドロエフソールの同時投与で完全に抑制された(
図3)。なお、亜鉛イオン検出用蛍光プローブであるZnAF-2DA(五稜化薬株式会社)を用いてZn
2+量を測定した。
【0040】
(実験2-2)さらに、エフソールあるいはデヒドロエフソールの神経細胞死に対する効果を、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)免疫染色によって検討した。実験1と同様に、6-OHDA(800μM)をエフソール(200μM)あるいはデヒドロエフソール(200μM)とともにラットの片側黒質緻密部に1μLを50分間で投与した。投与終了して二週間後、ラットを麻酔し、ice-cold 4% paraformaldehydeで灌流して脳を摘出した。固定した脳から-20°でスライスを作成し、スライスをanti-tyrosine hydroxylase antibody (Abcam)、Alexa Fluor 633 goat anti-rabbit secondary antibody (ThermoFisher) で処理して、ドパミン神経マーカーであるTyrosine hydroxylase (TH)の免疫染色をおこなった。6-OHDA単独投与により黒質緻密部にあるTH陽性細胞は約50%になり、約半数のドパミン神経変性が観察された。この神経変性はエフソールあるいはデヒドロエフソールの同時投与で完全に抑制された(
図4)。
【0041】
以上の結果から、運動障害が現れるような実験モデル動物に対しても、エフソール及びデヒドロエフソールは十分に効果がある(運動障害を改善できる)と推測された。
【0042】
なお、エフソール及びデヒドロエフソールは、イ草(全草又は芯)の50%エタノール水溶液抽出液を、さらに精製して得たものを用いた。
図5に、イ草全草50%エタノール水溶液抽出液又はイ草芯50%エタノール水溶液抽出液をHPLC解析して得たクロマトグラムを示す。イ草芯についての抽出、分画及び精製について次に詳説する。市販の灯心草(イグサ科イグサの茎の髄を乾燥したもの)5kgを20倍量の50%含水エタノール中で80℃加熱下、2時間還流抽出を2回行いろ過した。ろ液を減圧下濃縮し、濃縮液に1.3リットルの蒸留水を加えて懸濁させ、1.3リットルの酢酸エチルを加えて分液ロートで液液分配抽出を行った。これを3回繰り返し、水層と酢酸エチル層に分けた。酢酸エチルは減圧下溶媒留去し乾燥して酢酸エチルエキス26.2gを得た。この酢酸エチルエキスをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(510ミリリットル)でAからMの13個のフラクションに分画した(溶出液:2%メタノール含有クロロホルム~40%メタノール含有クロロホルム)。フラクションFおよびGを分取HPLCで精製し、化合物1(0.218グラム)、化合物2(1.725グラム)を得た。化合物1および2はNMRスペクトルを測定しそれぞれエフソールおよびデヒドロエフソールと同定した。