(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019506
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】電気流体力学ポンプ
(51)【国際特許分類】
H02K 44/02 20060101AFI20230202BHJP
F04B 9/00 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
H02K44/02
F04B9/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124273
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】笹尾 智浩
【テーマコード(参考)】
3H075
【Fターム(参考)】
3H075AA01
3H075AA20
3H075CC10
3H075CC25
3H075CC34
3H075DB10
3H075DB49
(57)【要約】
【課題】容易に吐出特性を変更できる電気流体力学ポンプを提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る電気流体力学ポンプ1は、絶縁性を有する対象流体に電圧を印加することで前記対象流体に流れを生じさせる電気流体力学ポンプであって、前記対象流体に電圧を印加する作用流路111を画定する流路形成部材112及び前記作用流路111に電界を印加する一対の電極113,114をそれぞれ有し、直列に配置され、前記対象流体に電圧を印加する複数の作用部11と、前記複数の作用部11に個別に電圧を印加する駆動回路20と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性を有する対象流体に電圧を印加することで前記対象流体に流れを生じさせる電気流体力学ポンプであって、
前記対象流体に電圧を印加する作用流路を画定する流路形成部材及び前記作用流路に電界を印加する一対の電極をそれぞれ有し、直列に配置され、前記対象流体に電圧を印加する複数の作用部と、
前記複数の作用部に個別に電圧を印加する駆動回路と、
を備える、電気流体力学ポンプ。
【請求項2】
前記駆動回路は、前記複数の作用部に個別に一定の電圧を印加又は遮断する、請求項1に記載の電気流体力学ポンプ。
【請求項3】
前記作用部は、分離可能なモジュールにより構成される、請求項1又は2に記載の電気流体力学ポンプ。
【請求項4】
前記複数の作用部は、前記作用流路の形状が異なるものを含む、請求項1から3のいずれかに記載の電気流体力学ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気流体力学ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁性を有する流体に電圧を印加することで流体に流れが生じる電気流体力学効果が知られている。この電気流体力学効果を利用して流体を吐出する電気流体力学ポンプが提案されている。電気流体力学ポンプは、インペラのような可動部材を必要としないため、小型化が可能である。
【0003】
電気流体力学ポンプにおいて、吐出量及び吐出圧を大きくするためには、電圧を高くすることが有効であるが、電圧を高くすると回路が高価になると共に、周囲の金属の影響を受けやすくなるという不都合が生じ得る。電圧を抑制しながら吐出量及び吐出圧を大きくする方法として、流路に沿って複数の電極対を多段に配設し、複数の電極対によって流体を順番に加圧するよう構成した電気流体力学ポンプが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
求められる仕様に応じて電極対の数及び配置を設計変更すると電気流体力学ポンプがコスト高となってしまう。このため、本発明は、容易に吐出特性を変更できる電気流体力学ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る電気流体力学ポンプは、絶縁性を有する対象流体に電圧を印加することで前記対象流体に流れを生じさせる電気流体力学ポンプであって、前記対象流体に電圧を印加する作用流路を画定する流路形成部材及び前記作用流路に電界を印加する一対の電極をそれぞれ有し、直列に配置され、前記対象流体に電圧を印加する複数の作用部と、前記複数の作用部に個別に電圧を印加する駆動回路と、を備える。
【0007】
上述の電気流体力学ポンプにおいて、前記駆動回路は、前記複数の作用部に個別に一定の電圧を印加又は遮断してもよい。
【0008】
上述の電気流体力学ポンプにおいて、前記作用部は、分離可能なモジュールにより構成されてもよい。
【0009】
上述の電気流体力学ポンプにおいて、前記複数の作用部は、前記作用流路の形状が異なるものを含んでもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、容易に仕様を変更できる電気流体力学ポンプを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施系形態に係る電気流体力学ポンプの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明をする。
図1は、本発明の一実施系形態に係る電気流体力学ポンプ1の構成を示す模式図である。
【0013】
図1の電気流体力学ポンプ1は、絶縁性を有する対象流体に電圧を印加することで対象流体に流れを生じさせるポンプである。電気流体力学ポンプ1は、ポンプ本体10と、駆動回路20と、を備える。
【0014】
ポンプ本体10は、直列に配置され、それぞれ対象流体に電圧を印加する複数の作用部11と、隣接し合う作用部11同士をそれぞれ接続する複数の接続部材12と、を備える。つまり、本実施形態において、各作用部11は分離可能なモジュールにより構成される。ポンプ本体10が直列に配置される複数の作用部11を有することによって対象流体を段階的に加圧することができるので、電気流体力学ポンプ1の吐出圧力を大きくすることができる。なお、図示するポンプ本体10は、3つの作用部11を有するが、作用部11の数は特に限定されない。また、電気流体力学ポンプ1は、ポンプ本体10を構成する作用部11の数を調整することによって、吐出特性を容易に変更することができるので、多様な仕様の電気流体力学ポンプ1を比較的安価に供給できる。
【0015】
作用部11は、絶縁材料で形成され、対象流体に電圧を印加する作用流路111を画定する流路形成部材112と、作用流路111に電界を印加する一対の電極(第1電極113及び第2電極114)と、絶縁材料で形成され、流路形成部材112を収容する筒状のケーシング部115と、ケーシング部115の両端に一体に設けられ、接続部材12に保持される一対の固定構造部116と、を有する。
【0016】
電気流体力学ポンプ1において、各作用部11のケーシング部115及び固定構造部116は、すべて同一の形状を有することが好ましいが、流路形成部材112(特に作用流路111)及び電極113,114は、作用部11ごとに異なる形状を有してもよい。つまり、ポンプ本体10は、作用流路111の形状が異なる作用部11を組み合わせて形成され得る。ポンプ本体10の特性は、作用部11の組み合わせによって異なるものとなる。したがって、比較的少数の異なる仕様の作用部11を用意し、その組み合わせを選択するだけで、多様な電気流体力学ポンプ1を実現することができる。
【0017】
図1のポンプ本体10では、上流側から数えて第1の作用部11と第3の作用部11とはすべての構成要素が同一の形状を有する。しかし、第2の作用部11は、第1及び第3の作用部11のものと同じ形状を有する第1電極113、第2電極114、ケーシング部115及び固定構造部116を有するが、第1及び第3の作用部11のものとは異なる形状を有する流路形成部材112(特に作用流路111)を有する。より詳しくは、第1及び第3の作用部11の作用流路111は径が一定の円筒状の流路であるが、第2の作用部11の作用流路111は、下流側に向かって径が一定の割合で減少する円錐台状の流路である。なお図示する例では、全ての作用部11の第1電極113及び第2電極114は、同じものであるが、第1電極113及び第2電極114のいずれか又は両方の形状が作用流路111に対応して異なっていてもよい。
【0018】
作用流路111が一定の断面積を有する場合、流路抵抗が小さく、且つ対象流体に均等に電圧を作用させられるので、比較的大きい吐出流量を得ることができる。一方、作用流路111の断面積が下流側に向かって減少する場合、作用流路111内で対象流体の圧力を増大して吐出圧力をより大きくすることができる。このような作用流路111の形状が異なる作用部11を組み合わせることによって、所望の吐出特性を有するポンプ本体10が得られる。
【0019】
作用部11における差圧を大きくする場合、作用流路111の入口の径(円相当径)の出口の径に対する比を5以上20以下とすることが好ましく、8以上15以下とすることがより好ましい。作用流路111の径の流路長さに対する比としては、例えば1以上10以下、好ましくは2以上8以下とすることができる。このような範囲内において、作用流路111の流路長さ当たりの径の減少率を大きくすることによって、作用部11における差圧を効率よく大きくできる。
【0020】
流路形成部材112は、ケーシング部115の内部を区分するよう配設され、ケーシング部115の上流側の空間と下流側の空間とを連通するよう、作用流路111が貫通して形成される。また、流路形成部材112は、作用流路111の両側に、第1電極113及び第2電極114をそれぞれ保持する保持構造を有することが好ましい。
【0021】
流路形成部材112は、対象流体が作用流路111のみを通過可能とするよう、ケーシング部115との間に隙間を生じないよう配設されることが好ましい。このため、流路形成部材112は、ケーシング部115と一体に、例えば削り出し等の方法で形成され得る。また、多様な形状の作用流路111の形成を容易にするために、流路形成部材112は、独立して形成された後、例えば圧入等の方法でケーシング部115の内部に固定されてもよい。
【0022】
第1電極113と第2電極114との間には、第1電極113を負とする電圧が印加される。第1電極113及び第2電極114は、作用流路111の入口及び出口を覆い、対象流体が通過できる開口又は隙間を有する形状を有し、好ましくは対象流体との接触面積が大きいメッシュ状とされる。具体的には、第1電極113及び第2電極114は、金属金網、好ましくは比較的強度が大きいステンレス金網によって形成することができる。第1電極113と第2電極114とは並行且つ対象流体の流れ方向に略垂直に配置されることが好ましい。
【0023】
第1電極113及び第2電極114の開口率としては、15%以上80%以下が好ましく、20%以上65%以下がより好ましく、25%以上50%以下さらに好ましい。これによって、第1電極113による流路抵抗の増大を抑制しつつ、第1電極113と対象流体との接触面積を確保して、対象流体に差圧を付与することができる。また、第1電極113及び第2電極114は、対象流体を流れやすくするために、部分的に大きい開口又は隙間を有してもよい。具体例として、第1電極113は、メッシュ状の材料に開口を形成したものであってもよい。なお、第1電極113と第2電極114とは開口率等が異なってもよい。
【0024】
第1電極113及び第2電極114と接続部材12との流路方向の隔離距離としては、第1電極113及び第2電極114に印加される電圧にもよるが、例えば第1電極113と第2電極114との距離の2倍以上、具体的には10mm以上とされ得る。
【0025】
ケーシング部115は、流路方向前後に延び、金属を含み得る接続部材12と第1電極113及び第2電極114との距離を確保することによって、接続部材12の影響を受けずに第1電極113及び第2電極114により作用流路111内に理想的な電界を形成することを可能にする。このため、ケーシング部115は、作用流路111の前後に、作用流路111と比べて断面積が大きく流路抵抗が小さい流路を画定する。
【0026】
ケーシング部115は、第1電極113及び第2電極114を駆動回路20に接続するための配線部材が貫通する配線孔を有する。この配線孔は、対象流体の漏出を防止するために、封止材等を用いて封止されてもよく、配線部材又は流路形成部材112に封止構造を設けることによって対象流体の漏出が防止されてもよい。
【0027】
固定構造部116は、作用流路111内に形成される電界に影響を与えないよう、絶縁材料から形成されることが好ましい。また、固定構造部116は、作用部11の長さをできるだけ小さくするために、ケーシング部115と一体に形成されることが好ましい。これにより、所望の特性を有するポンプ本体10を、比較的小型に構成することができる。
【0028】
固定構造部116は、接続部材12と共に、管継手、つまり配管を接続するための継手構造と同様の構造を構成することが好ましい。これにより、接続部材12等の作用部11を接続するための部材を安価且つ容易に入手することが可能となるとともに、特別な知識がなくても作用部11を接続できる。
【0029】
具体例として、固定構造部116は、例えばねじ、フランジ等であってもよいが、ISO2852に規定される形状を有するヘルールであることが好ましい。固定構造部116としてヘルールを用いることにより、作用部11の容易且つ確実な接続が可能となる。また、固定構造部116としてヘルールを用いることにより、固定構造部116が小型であると共に、接続部材12の第1電極113及び第2電極114側への突出量を小さくできるため、作用部11を小型化することができる。
【0030】
また、固定構造部116は、ポンプ本体10の両端において、ポンプ本体10を対象流体の流路に接続するためにも利用される。また、ポンプ本体10の固定構造部116と異なる継手を用いる流路に接続するために、一端に流路に用いられる継手を有し、他端に固定構造部116と同様の構造を有するアダプタ(不図示)を使用してもよい。このようなアダプタは、ケーシング部115の口径から流路の口径に変換するレデューサを有するものであってもよい。
【0031】
接続部材12は、対向して配置される2つの固定構造部116を保持することにより、隣接する2つの作用部11を接続する。接続部材12としては、固定構造部116に対応する部材が用いられる。また、接続部材12は、作用部11間を堅固に接続するために、金属によって形成され得る。例として、固定構造部116がヘルールである場合、接続部材12としては、ISO2852に規定されるヘルール用クランプバンドが用いられる。ヘルール用クランプバンドは、流路方向の幅が小さいため、作用流路111内に形成される電界に影響を与えにくい。また、固定構造部116がネジであれば接続部材12としてソケット又はユニオンが、固定構造部116がフランジであれば接続部材12として複数組のボルトナットが用いられ得る。
【0032】
接続部材12により接続される2つの作用部11の固定構造部116の間には、作用部11の隙間を封止するガスケット13が介設され得る。ガスケット13は、作用部11の隙間を封止する。ガスケット13も、固定構造部116に対応する部材が用いられる。また、ガスケット13は、固定構造部116及び接続部材12の構成によっては省略され得る。
【0033】
駆動回路20は、複数の作用部11に個別に電圧を印加する。図示する駆動回路20は、複数の作用部11に個別に一定の電圧を印加又は遮断する。具体的には、駆動回路20は、共通の電源21と、それぞれの作用部11を電源に接続する複数の配線部22と、を有し、各配線部22に、独立して制御され、作用部11を電源21から切り離すことができるスイッチ23が設けられる比較的簡単な構成とされ得る。作用部11ごとに電圧の印加の有無を選択可能とすることによって、必要以上に電力を消費することなく、対象流体を所望の流量及び圧力で吐出することができる。特に、複数の作用部11が異なる形状の作用流路111を有する場合、電圧を印加する作用部11の組み合わせにより多様な吐出流量及び吐出圧力を選択できるため、比較的簡単な構成の駆動回路20により、所望の出力特性を効率よく実現できる。
【0034】
駆動回路20は、それぞれの作用部11に印加される電圧を調整可能に構成されてもよい。例として、図示する回路において、スイッチ23を高速にオンオフし、そのデューティ(オンする時間の比率)を制御することによって、作用部11に印加される電圧の実効値を調整することができる。また、駆動回路20は、例えばオペアンプ等により連続して出力される電圧の値を調整可能に構成されてもよい。このように、作用部11に印加される電圧を調整可能とすることによって、無段階に吐出流量及び吐出圧力を選択することが可能となる。この場合であっても、駆動する作用部11を選択することにより、流量と圧力の関係を最適化したり、エネルギー効率を向上する効果が得られる。
【0035】
以上のように、電気流体力学ポンプ1は、複数の作用部11に個別に電圧を印加する駆動回路20を備えるため、電圧を印加する作用部11の選択によって容易に吐出特性を変更できる。
【0036】
以上、本発明の好ましい各実施形態につき説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0037】
本発明に係る電気流体力学ポンプにおいて、作用部は分離不能に構成されてもよい。また、本発明に係る電気流体力学ポンプは、2以上の作用部を有するモジュールを備えてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 電気流体力学ポンプ
10 ポンプ本体
11 作用部
111 作用流路
112 流路形成部材
113 第1電極
114 第2電極
115 ケーシング部
116 固定構造部
12 接続部材
13 ガスケット
20 駆動回路
21 電源
22 配線部
23 スイッチ