(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019519
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】白金族元素の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/02 20060101AFI20230202BHJP
C22B 5/02 20060101ALI20230202BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C22B11/02
C22B5/02
C22B7/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124293
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】河崎 実
(72)【発明者】
【氏名】八ッ橋 広光
(72)【発明者】
【氏名】喜多 宣明
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA41
4K001BA22
4K001DA05
4K001HA01
4K001HA02
4K001JA01
4K001KA01
4K001KA02
4K001KA05
4K001KA06
(57)【要約】
【課題】使用済み排ガス浄化用触媒等の、白金族元素を含有する被処理原料から、乾式により高い効率で白金族元素を回収する。
【解決手段】白金族元素を含有する被処理原料と、金属銅または酸化銅の少なくとも1種からなる銅源材料とを、フラックス成分および還元剤と共に炉内で加熱溶融し、白金族元素を吸収したメタル溶湯とスラグ系酸化物とを比重差で分離した後、前記の白金族元素を吸収したメタル溶湯を酸化処理し、酸化銅を主成分とする酸化物層と白金族元素が濃縮された金属銅を主成分とするメタル溶湯とに比重差で分離する白金族元素の回収法であって、前記の加熱溶融により分離されたメタル溶湯中の銀の含有量を2000ppm以上8000ppm以下に調整することにより、高い効率で白金族元素が回収できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族元素を含有する被処理原料と、金属銅および酸化銅の一種以上からなる銅源材料とを、フラックス成分および還元剤と共に炉内で加熱溶融し、白金族元素を吸収したメタル溶湯とスラグ系酸化物とを比重差で分離した後、前記の白金族元素を吸収したメタル溶湯を酸化処理し、酸化銅を主成分とする酸化物層と白金族元素が濃縮された金属銅を主成分とするメタル溶湯とに比重差で分離する白金族元素の回収法であって、
前記の加熱溶融により分離されたメタル溶湯中の銀の含有量を2000ppm以上8000ppm以下に調整する、白金族元素の回収方法。
【請求項2】
前記の加熱溶融で分離されたメタル溶湯における白金族元素含有量に対する銀含有量の質量比Ag/PGMが0.2以上0.8以下である、請求項1に記載の白金族元素の回収方法。
【請求項3】
前記の酸化処理を、酸素濃度27体積%以上100体積%以下の酸素含有ガス、または、酸素を供給しながら行う、請求項1または2に記載の白金族元素の回収法。
【請求項4】
前記の白金族元素を含有する被処理原料は、炉内に挿入される前に粉砕し、最大粒径を400μm未満としたものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の白金族元素の回収方法。
【請求項5】
前記の銅源材料を、前記の白金族元素を含有する被処理原料に対し、質量比で0.3以上0.9以下添加する、請求項1~4のいずれか1項に記載の白金族元素の回収方法。
【請求項6】
前記の分離された酸化銅を主成分とする酸化物を、前記の銅源材料として再利用する、請求項1~5のいずれか1項に記載の白金族元素の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族元素を含有する物質、たとえば使用済みの石油化学系触媒、自動車排ガス浄化用廃触媒、使用済みの電子基板やリードフレーム等から白金族元素(Platinum Group Metals、以下、PGMと略記する場合がある。)や金を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、使用済み自動車触媒等の白金族元素を含有する物質から白金族元素を回収する方法として、湿式法や乾式法が知られているが、湿式法は回収率やコストの点で問題があり、実用的ではなかった。
一方、本出願人は、湿式法に変えて、白金族元素を含有する自動車排ガス浄化用廃触媒等を金属銅とともに酸化処理し、廃触媒の担体等をスラグ系の酸化物として分離し、白金族元素を溶融銅に吸収させることにより白金族元素を濃縮する、高収率で低コストの白金族元素の回収方法を提案している(特許文献1)。
しかし、特許文献1に開示されている白金族元素の回収方法の場合、酸化処理により生成するスラグ系酸化物の性状によっては、当該スラグ系酸化物中に白金族元素が一部移行する場合があった。その問題に対して本出願人は、メタル溶湯とスラグ系酸化物を適正な温度で十分に炉内に静置させることにより、スラグ系酸化物に移行する白金族元素の量を低減することが可能であることを見出した。
【0003】
しかし、酸化処理後のメタル溶湯とスラグ系酸化物の静置時間を長くしても、場合によってはスラグ系酸化物に移行する白金族元素の量が低減しない場合もあった。出願人の検討によると、その原因は、酸化処理に供する白金族元を素含有する被処理原料の組成がロットにより大きく変動するためであり、電気炉での加熱処理で高粘性のスラグが生成すると白金族元素がメタル溶湯中に吸収され難くなることが判明した。
そのため、出願人は白金族元を素含有する被処理原料中のスラグ形成成分の内、少なくともAl、SiおよびFeの酸化物の含有量を予め分析して把握しておき、それらの酸化物の含有量に応じて炉内に投入するフラックス成分の組成を調整することにより、スラグ系酸化物に移行する白金族元素の量が安定的に低減することが可能であることを見出した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-248322号公報
【特許文献2】特開2004-277792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に記載した改良を行った場合でも、生成するスラグ系酸化物の性状によっては、スラグ系酸化物中に移行する白金族元素の量が無視できない程度に多くなることがあった。その点につき、本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、白金族元を素含有する被処理原料を加熱溶融して得られるメタル溶湯中の成分と、スラグ系酸化物中へ移行する白金族元素量との間には相関関係があり、特に、スラグ系酸化物中に移行する白金族元素の量は、当該メタル溶湯中に含まれる銀の含有量の影響を受けることが判明した。
【0006】
本発明は、白金族元素を含有する被処理原料を、金属銅または酸化銅の少なくとも1種からなる銅源材料、フラックス成分および還元剤と共に加熱処理して白金族元素を回収する方法において、スラグ系酸化物中への白金族元素の移行を抑制することにより、白金族元素の回収率をさらに高めた白金族元素の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記の白金族元素の回収方法において、メタル溶湯中の銀濃度を制御することにより、スラグ系酸化物中への白金族元素の移行を抑制することが可能であるとの知見を得たことにより、以下に述べる本発明を完成させた。
すなわち、上述の課題を達成するために本発明においては、
[1]白金族元素を含有する被処理原料と、金属銅または酸化銅の少なくとも1種からなる銅源材料とを、フラックス成分および還元剤と共に炉内で加熱溶融し、白金族元素を吸収したメタル溶湯とスラグ系酸化物とを比重差で分離した後、前記の白金族元素を吸収したメタル溶湯を酸化処理し、酸化銅を主成分とする酸化物層と白金族元素が濃縮された金属銅を主成分とするメタル溶湯とに比重差で分離する白金族元素の回収法であって、前記の加熱溶融により分離されたメタル溶湯中の銀の含有量を2000ppm以上8000ppm以下に調整する、白金族元素の回収方法が提供される。
[2]前記[1]項の白金族元素の回収方法において、加熱溶融で分離されたメタル溶湯中の白金族元素含有量に対する銀含有量の質量比をAg/PGMと表すとき、Ag/PGMは0.2以上0.8以下であることが好ましい。
[3]前記[1]項または[2]項の白金族元素の回収方法において、前記の酸化処理は、酸素濃度27体積%以上100体積%以下の酸素含有ガス、または、酸素を供給しながら行うことが好ましい。
[4]前記[1]項乃至[3]項の白金族元素の回収方法において、前記の白金族元素を含有する被処理原料は、炉内に挿入される前に粉砕し、最大粒径を400μm未満としたものであることが好ましい。
[5]前記[1]項乃至[4]項の白金族元素の回収方法において、前記の銅源材料を、前記の白金族元素を含有する被処理原料に対し、質量比で0.3以上0.9以下添加することが好ましい。
[6]前記[1]項乃至[4]項の白金族元素の回収方法においては、前記の分離された酸化銅を主成分とする酸化物を、前記の銅源材料として再利用することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、白金族元素を含有する被処理原料を加熱処理して得られるメタル溶湯の銀含有量を調整することにより、スラグ系酸化物中への白金族元素の移行を抑制し、白金族元素の回収率を更に高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[被処理原料]
白金族元素(PGM)とは、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)および白金(Pt)の6元素を指すが、PGMと表記した場合には、それらの金属元素単体のみならず、二種以上の金属の組み合わせを示すこともある。本発明は、PGMの回収方法であるが、PGM以外に、金(Au)の回収にも適用することが可能である。
本発明の白金族元素の回収方法において、PGMを含有する被処理原料としては、例えばプラチナ,パラジウム等を含有する使用済み石油化学系触媒,プラチナ,パラジウムさらにはロジウム等を含有する使用済みの自動車排ガス浄化用触媒が挙げられるが、それらの触媒の製造工程から得られるロットアウト品やスクラップなど、さらにはパラジウム等を含有する使用済みの電子基板,デジタル部品,リードフレーム等を使用することも可能である。
前記の白金族元素を含有する被処理原料は、電気炉内で加熱溶融処理を施されるのだが、加熱溶融処理の際に起こる反応の速度を高めるために、電気炉挿入前に破砕・粉砕・混合し、細粒状物にしておくことが好ましい。なお、電気炉投入の際に原料を細粒状物としておくと、反応速度が速くなるとともに、PGMがメタル溶湯中に吸収され易くなる。その場合、細粒状物の最大粒径を50mm程度にすることが好ましい。被処理原料を破砕するには、例えば一次破砕機としてジョウクラッシャー、二次破砕機としてダブルロールクラッシャーを用いることができる。原料中に鉄屑等の異物がある場合には磁力選別器を破砕前後に配置してもよい。
また、後述するように、被処理原料を細粒状物にした後、当該細粒状物の平均的な銀含有量を事前に測定しておくことが好ましいが、その場合、分析に供する細粒状物の最大粒径は、パルベライザー等でさらに微粉化し、400μm以下とすることが好ましく、最大粒径が350μm以下に粉砕したものを用いることがより好ましい。
その場合、分析に供する細粒状物は、振動ミル等でさらに微粉化し、平均粒径10μm以下とすることが好ましく、平均粒径が5μm以下に粉砕したものを用いることがより好ましい。なお、振動ミル等で微粉化する場合、粉砕時間を長くするなどして平均粒径を1μm未満にしても分析結果に違いは見られない為、平均粒径は1μm以上とする。
【0010】
[銅源材料]
本発明の白金族元素の回収方法においては、銅源材料として、金属銅または酸化銅の一種または二種を用いる。これらの銅源材料は、特に高純度である必要はない。白金族元素を含有する被処理原料、フラックス成分および還元剤と共に炉内で加熱溶融すると、金属銅が溶解するとともに。酸化銅の一部または全てが還元して金属銅として溶融し、白金族元素を溶かし込んだメタル溶湯を形成する。また、得られたメタル溶湯に後述する酸化処理を施すと、メタル溶湯を構成する金属銅の一部が酸化されて酸化銅になるが、その酸化銅を回収し、銅源材料として再利用することが可能である。なお、銅源材料は、その径が0.1mm以上10mm未満であることが好ましい。
電気炉に投入する前記の銅源材料の添加量は、金属銅、酸化銅またはこれらの双方を、被処理原料との質量比で0.3以上とすることが好ましい。更に好ましくは0.5以上添加する。ここで、酸化銅を多く添加することにより、メタル溶湯内におけるPGMと銅源材料との接触機会が増えるため、スラグ系酸化物へのPGMの移行を低下させることができる。また、酸化銅を多く添加することにより、還元炉内でのメタル溶湯中のPGMの含有量が低下するので、相対的にスラグ系酸化物中へのPGMの移行量が減少しやすくなる。銅源材料添加の上限値は、被処理原料との重量比で0.9以下とすることが好ましい。添加量をそれ以上増加させても、スラグ系酸化物中へのPGMの移行量は低下せず、工程内の銅循環量が増えて不経済となりやすい。
【0011】
[フラックス成分]
本発明の白金族元素の回収方法においては、フラックス成分として、A2O3、SiO2、CaO、CaCO3およびFeOの群から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。フラックスの添加量は、PGMを含有する被処理原料に含まれる、少なくともAl、SiおよびFeの量を予め測定しておき、反応により生成するスラグ系酸化物の組成を以下の範囲になるように調節することが好ましい。
スラグ系酸化物の成分組成がAl2O3:20~30mass%、SiO2:25~40mass%、CaO:20~35mass%、FeO:0~35mass%(0%を含む)の場合、スラグ系酸化物は適当な粘度と良好な分散性、流動性を有するので、比重分離の過程で、被処理原料中に混在していた白金族元素が溶融金属銅に吸収され易くなる。その場合、メタル溶湯と分離されたスラグ系酸化物は、Al:10~22mass%、Si:10~16mass%、Ca:14~22mass%、Fe:27mass%以下(0%を含む)、Pt:10ppm以下を含み、残部は実質的に酸素からなる成分組成のものとすることができる。
電気炉で生成するスラグ系酸化物が前記の範囲を外れると、例えばAl2O3が30mass%を超えると、スラグの粘度が極端に増大し、その結果、酸化銅から還元された溶融金属銅とPGMとの接触速度が遅くなり、PGMを吸収した溶融金属銅がスラグ中に浮遊しやすくなり、PGMのメタル溶湯への吸収率が低下する。
【0012】
[還元剤]
本発明の白金族元素の回収方法においては、還元剤は酸化銅を金属銅に還元することを主目的として使用される。還元剤としては代表的にはコークスやSiCを使用するが、金や白金族元素を含有する卑金属類を使用することも可能であり,この場合には,卑金属中の金や白金族元素も同時に回収することができる。電子基板に用いられる樹脂、活性炭なども還元剤として使用可能である。
【0013】
[銀成分]
本発明の白金族元素の回収方法における最大の技術的特徴は、上述のPGMを含有する被処理原料、銅源材料、フラックス成分および還元剤を混合して加熱炉内で加熱溶融し、PGMを吸収したメタル溶湯とスラグ系酸化物を分離する際に、メタル溶湯中の銀(Ag)の含有量を制御することである。
メタル溶湯中のAg含有量を増加することにより、スラグ系酸化物中に移行するPGMの量が減少する理由は現時点で必ずしも明確ではないが、本発明者等はその機構を以下のように考えている。
すなわち、メタル溶湯中のAg含有量が増加することにより、Fe、Ni、Pbなどのスラグへの分配率が低下し、これらと親和性の高いPGMもスラグへの分配率が低下すると考えられる。
本発明の白金族元素の回収方法においては、前記の加熱溶融処理により、スラグ系酸化物とメタル溶湯とを比重差で分離する際に、メタル溶湯中のAg含有量を2000ppm以上8000ppm以下に調整する。メタル溶湯中のAg含有量が2000ppm未満では、スラグ系酸化物中に移行するPGMの量を抑制する効果が少ない。また、Ag含有量が8000ppmを超えると、スラグ系酸化物中に移行するPGMの量を抑制する効果が飽和するとともに、製造コストが増大するので好ましくない。
【0014】
メタル溶湯中のAg含有量を上記の範囲に調製するために、前記のPGMを含有する被処理原料中のPGM含有量に対するAg含有量の質量比(Ag/PGM)を0.2以上0.8以下になるように調整することが好ましい。
その調整を行うことにより、メタル溶湯中のAg含有量を上述した所望の範囲に調製することができる。Ag/PGMが0.2未満では、Ag中に固溶するPGMの量が減少し、PGMの回収率が低下するので好ましくない。また、Ag/PGMが0.8を超えると、スラグ酸化物中に移行するPGMの減少分よりも、Agのコストが上回ってしまうことがある。
前記のPGMを含有する被処理原料中のAg含有量の調製は、以下のように行うことができる。従来の排ガス浄化用触媒等には少量のAgを含むものがあるが、それを用いて得られるメタル溶湯中のAg含有量は最大でも1600ppm以下であった。したがって、本発明の白金族元素の回収方法においては、前記のPGMを含有する被処理原料にさらにAgを追加する必要がある。Agとしては、Ag地金を粉砕して添加することも可能であるが、製造コスト低減の観点から、前記のPGMを含有する被処理原料を粉砕混合する際に、Agを多く含む廃電子基板やAg含有のスクラップ品、スラッジ等を被処理原料に加えて粉砕処理することが好ましい。その場合、Ag含有廃電子基板のAg含有量を予め測定しておき、PGMを含有する被処理原料中のAg含有量を電気炉への投入前に調製しておくことが好ましい。
【0015】
[加熱溶融処理]
本発明の白金族元素の回収方法においては、PGMを含有する被処理原料に、銅源材料と、フラックス成分および還元剤とを加え、炉内で加熱溶融してPGMを吸収したメタル溶湯とスラグ系酸化物とを比重差で分離する加熱溶融処理を施す。その際、加熱炉に投入する前に、PGMを含有する被処理原料、銅源材料を事前に粉砕し、粉粒状のフラックス成分および還元剤と混合しておくことが好ましい。加熱炉としては通常の電気炉を用いれば良く、加熱の雰囲気は大気雰囲気で構わない。加熱溶融処理を行うと、PGMを含有する被処理原料に含まれていたクロム(Cr)やアルミニウム(Al)等の易酸化性の金属の一部が酸化され、被処理原料に元々含まれていた酸化物およびフラックス成分とともにガラス状の溶融スラグ系酸化物を形成し、比重の小さなスラグ系酸化物はメタル溶湯の上に浮上する。一方、酸化銅は還元されて金属銅になり、溶融した金属銅は比重差により溶融スラグ系酸化物中を沈降し、溶融スラグ系酸化物層の下層にメタル溶湯を形成する。その結果として、投入原料は、主として銅からなり、PGM、AgおよびAu等の貴金属を含むメタル溶湯とスラグ系酸化物に分離することになる。
【0016】
前記の混合した投入原料を加熱溶融(メルトダウン)する温度は1100℃以上1600℃以下とすることが好ましい。メルトダウンの温度が1100℃未満では、生成するスラグ系酸化物の溶融が不完全となり易く、溶融スラグの粘度も高くなるために、PGMの回収率が低下するので好ましくない。メルトダウンの温度が1600℃を超えると、エネルギーコストが増大する上、電気炉の炉体の破損を招く要因となるので好ましくない。メルトダウンの温度は、より好ましくは1200℃~1500℃である。加熱溶融処理においては、投入原料が溶融した後、少なくとも5時間以上、好ましくは10時間以内保持する静置工程を設けることが好ましい。
前記の加熱溶融および静置の後、メタル溶湯の上に浮上したスラグ系酸化物を、傾動操作等により排滓し、PGMを吸収したメタル溶湯を出湯して次工程の酸化処理に供する。
【0017】
[酸化処理]
発明の白金族元素の回収方法においては、前記の加熱溶融処理の工程により得られたPGMを吸収したメタル溶湯に酸化処理を施し、酸化銅を主成分とする酸化物層と、PGMがさらに濃縮された金属銅を主成分とするメタル溶湯とに比重差で分離することにより、メタル溶湯中に溶け込んでいるPGMの濃縮を行う。酸化処理を行うと、メタル溶湯中の銅が酸化されて酸化銅になるとともに、メタル溶湯中に微量含まれている鉄(Fe)やニッケル(Ni)等も酸化されて酸化物層を形成し、メタル溶湯は純粋に近い銅の溶湯に濃縮されたPGM、AgおよびAu等の貴金属を含むものになる。なお、当然のことながら、酸化処理を施すことによりメタル溶湯の量は減少するが、銅の全量が酸化する前に処理を終了する。
前記の酸化処理は、炉内のメタル溶湯の温度を1100℃以上1600℃以下、好ましくは1200℃以上1500℃以下の温度に維持しながら、炉内に酸素ガスまたは酸素富化ガスを導入して行う。メタル溶湯の温度が1100℃未満では酸化速度が低下しやすく、逆に1600℃を超えると炉体の破損が生じやすいので好ましくない。
前工程で得られたメタル溶湯を、例えば酸化炉においては重油バーナーで加熱する場合、単に雰囲気を加熱するだけではメタル溶湯の温度が上昇し難い。また、酸化炉で最初に生成する鉄酸化物およびニッケル酸化物の含有量の高いスラグ系酸化物は融点が高く、メタル溶湯との分離性が悪いので、酸素富化ガスを用いて酸化処理を行い、メタル溶湯の温度を上昇させる。メタル溶湯の温度が上昇すると、鉄およびニッケル含有量の高いスラグ系酸化物の流動性が良くなり、スラグとメタル系酸化物との分離性が向上する。
前記の酸素富化ガスとしては、酸素濃度が27体積%以上100体積%以下のものを用いることが好ましい。なお、酸素濃度が100体積%とは、純酸素ガスである。酸素富化ガスの酸素濃度が27体積%未満では、大気利用時に比べて酸化速度などに大きな変化が見られないことがあるので好ましくない。
酸化処理には純酸素ガスを使用することも可能であるが、酸素濃度が40体積%を超えると、例えば酸化炉のランスの消耗が早くなり易いので、酸素濃度は27体積%以上40体積%以下とすることがより好ましい。このような酸素濃度にすることにより、酸化速度の向上及び酸化炉での白金族のスラグへの移行を低減することができる。
前記の酸素富化ガスの吹き込み量は、酸化処理前のメタル溶湯1トン当たりの吹き込み量(Nm3/Ton-metal)として、30Nm3/Ton-metal以上70Nm3/Ton-metal以下とすることができる。
【0018】
酸化処理が終了した後、酸化炉を傾動させ、上層の主として銅の酸化物により構成される酸化物層を炉外に流出させ、メタル溶湯と分離する。続いて、PGMが濃縮した下層のメタル溶湯を出湯し、本発明の範囲外である次工程のPGMの回収工程に供する。その際、一回の酸化処理で直ちにPGMの濃縮したメタル溶湯を出湯するのではなく、前記の加熱溶融処理の工程で得られたGMを吸収したメタル溶湯をさらに酸化炉内に投入し、酸化処理を繰り返すことにより、メタル溶湯中のPGMの含有量が10~75mass%になった時点でメタル溶湯を出湯し、次工程でPGMを回収することが好ましい。
酸化炉から流出させた酸化物層は、上述のように主として酸化銅により構成されているので、それを酸化炉から流出させて冷却固化した後、加熱溶融処理の銅源材料として再利用することができる。そのことにより、酸化物層に同伴していた微量のPGMも回収することができる。
なお、酸化物層を酸化炉から流出させる際に、溶融状態から急水冷して水砕化すると、主として酸化銅からなる酸化物を最大径0.1mm以上10mm以下の粒状物とすることができるので、加熱溶融処理の銅源材料として好適なものとすることができる。
【実施例0019】
[実施例1]
使用済の塊状のハニカム形自動車排ガス浄化用触媒(コンバータの破片)を、ロールミル、パルぺライザーの2つを順に用いて最大径400μm以下に粉砕し、投入用原料とした。投入用原料の一部は、振動ミルを用いて平均粒径5μmに粉砕して組成分析用の試料とし、蛍光X線分析装置(型番:Rigaku ZSX PrimusII)を用いて被処理原料の組成を予め測定した。また、Agを含有する廃電子基板についても、同様にその組成とAg含有量を測定した。前記の投入用原料の質量と前記の廃電子基板の質量の合計値が被処理原料の投入質量になる。
前記の投入原料805kg、廃電子基板49kg(Ag含有量0.98kg)、フラックス成分としてCaO296kgを秤量し、還元剤としてコークス30kg、及び、酸化銅(0.1mm以上10mm以下の粉粒状物を約80mass%含有するもの)300kg秤量し、それらを電気炉に投入し、1350℃で加熱溶融した。メルトダウンさせた後、溶融物を1250~1300℃の温度で約5時間静置し、続いて上層のスラグ系酸化物を電気炉の側面より流出させ、冷却固化させた。
【0020】
電気炉内のPGMを吸収したメタル溶湯を電気炉下部から出湯し、これを加熱した酸化炉内に導いた。当該メタル溶湯中のAg含有量は2712ppmであった。また、当該メタル溶湯中の白金族元素(Pt、Pd、Rh)の全質量に対するAgの質量の比Ag/PGMは0.261であった。
続いて、酸化炉内のPGMを含有するメタル溶湯に対して、酸素濃度30.2体積%の酸素富化ガスを吹き込み、その後当該酸素富化ガスを溶湯表面に吹付けて酸化処理した。溶湯表面に生成する酸化物の層が約1cmの厚さとなったところで炉を傾けて当該酸化物を炉外に流出させ、流出させた酸化物を水槽内に投入し、大量の流水で水冷した。
酸化物層を除いて得られたメタル溶湯を全量酸化炉から出湯させ、冷却固化し、PGMの濃縮物として回収した。それを分析したところ、金属銅=5.3kgで あり、PGMの含有量は、Pt=18.5mass%、Pd=35.9mass%、Rh=4.9mass%であった。また、電気炉の上層から取り除いたスラグ系酸化物に含まれていたPGMは0.9ppmであった。その値は、例えば後述する比較例1の1.94ppmの半分以下であり、本発明の白金元素の回収方法を用いることにより、スラグ系酸化物中に移行するPGMの量を低減できることが判る。
表1に本実施例の操業条件および操業結果を示す。なお、表1には他の実施例および比較例の結果も併せて示している。
【0021】
【0022】
[実施例2]
廃触媒を817kgおよび廃電子基板37kg(Ag含有量0.74kg)を電気炉に投入し、実施例1と同じ操作を行ったところ、メタル溶湯中のAg含有量は2064ppmであり、メタル溶湯中のPGMの全質量に対するAgの質量の比Ag/PGMは0.200であった。当該メタル溶湯に実施例1と同じ条件で酸化処理を施したところ、PGMの濃縮物は金属銅=5.6kgであり、PGMの含有量は、Pt=19.9mass%、Pd=34.4mass%、Rh=4.5mass%であり、スラグ系酸化物に含まれていたPGMは1.3ppmであった。
【0023】
[比較例1]
廃触媒を829kgおよび廃電子基板25kg(Ag含有量0.50kg)を電気炉に投入して加熱溶融したところ、電気炉のメタル溶湯中のAg含有量が1547ppm、Ag/PGMが0.144となった。
当該メタル溶湯に実施例1と同じ条件で酸化処理を施したところ、金属銅=5.3Kgであり、PGMの含有量は、Pt=20.0mass%、Pd=34.2mass%、Rh=4.9mass%であった。また、電気炉の上層から取り除いたスラグ系酸化物に含まれているPGMの含有量は2.1ppmであり、実施例と比較して高い値であった。
【0024】
[比較例2]
酸化炉内のメタル溶湯に対して、初期には酸素濃度25.0体積%の酸素富化ガスを溶湯中に吹き込み、その後に溶湯表面に当該酸素富化ガスを吹き付けて酸化処理したこと以外は、比較例1と同様の操作を繰り返して、本比較例のPGMの濃縮物を回収した。それを分析したところ、金属銅=5.7Kgであり、PGMの含有量は、Pt=17.9mass%、Pd=37.1mass%、Rh=4.5mass%であった。また、電気炉の上層から取り除いたスラグ系酸化物に含まれていたPGMの含有量は4.9ppmであった。
【0025】
[比較例3]
銅源材料として酸化銅を227Kg用いたこと以外は、比較例1と同様の操作を繰り返して、本比較例のPGMの濃縮物を回収した。それを分析したところ、金属銅=4.8Kgであり、PGMの含有量は、Pt=20.8mass%、Pd=34.1mass%、Rh=4.8mass%であった。また、電気炉の上層から取り除いたスラグ系酸化物に含まれていたPGMの含有量は5.4ppmであった。
【0026】
以上の結果から明らかなように、本発明の白金族元素の回収方法を用いると、スラグ系酸化物中に移行して回収されない白金族元素の量を低減し、白金族元素の回収率を更に高めて回収することができる。