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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019592
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】延伸ポリエチレンフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230202BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20230202BHJP
   B29C 55/04 20060101ALI20230202BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20230202BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20230202BHJP
   B29C 48/305 20190101ALI20230202BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C08J7/00 303
B29C55/04
B29C55/02
B29C48/08
B29C48/305
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124438
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 達也
(72)【発明者】
【氏名】緩詰 宏
【テーマコード(参考)】
4F071
4F073
4F207
4F210
【Fターム(参考)】
4F071AA16
4F071AA16X
4F071AA19X
4F071AA82
4F071AA82X
4F071AA88
4F071AA88X
4F071AA89
4F071AF04Y
4F071AF15
4F071AF20
4F071AF21
4F071AF61Y
4F071AG17
4F071AH04
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F073AA01
4F073BA07
4F073BB01
4F073CA21
4F207AA04
4F207AG01
4F207AH54
4F207KA01
4F207KA17
4F207KK64
4F207KL84
4F210AA04
4F210AG01
4F210AH54
4F210AR20
4F210QC02
4F210QC06
4F210QG01
(57)【要約】
【課題】ヒートシール性ポリエチレンフィルムを使用した積層体のモノマテリアル化に対応した基材フィルムにおいて、剛性、靭性、耐熱性等の性能に優れた延伸ポリエチレンフィルムを提供する。
【解決手段】密度0.940~0.970g/cm3、MFR0.1~10g/10minのエチレン単独重合体又はエチレンとオレフィンコモノマーとの共重合体成分のいずれか一方若しくは両方を20~90重量%と、密度0.860~0.926g/cm3、MFR1.0~30.0g/10minのエチレンとオレフィンコモノマーとの共重合成分を10~80重量%とからなるエチレン系樹脂組成物からなり、エチレン系樹脂組成物の密度は0.930~0.960g/cm3、MFRは0.5~10g/10min、融解熱量(ΔHtotal)が110.0~200.0J/g、分画温度124℃以上の融解熱量(ΔH124↑)が80.0~190.0J/gである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体の基材フィルムとして用いられ少なくとも一方向に延伸されてなる延伸ポリエチレンフィルムであって、
密度が0.940~0.970g/cm3、MFRが0.1~10g/10minであるエチレン単独重合体又はエチレンとオレフィンコモノマーとの共重合体成分のいずれか一方若しくは両方を20~90重量%と、密度が0.860~0.926g/cm3、MFRが1.0~30.0g/10minであるエチレンとオレフィンコモノマーとの共重合成分を10~80重量%とからなるエチレン系樹脂組成物(A)からなり、
前記エチレン系樹脂組成物(A)の密度は0.930~0.960g/cm3であり、MFRは0.5~10g/10minであって、
示査走査熱量計(DSC)で測定した融解熱量(ΔHtotal)が110.0~200.0J/gであるとともに、分画温度124℃以上の融解熱量(ΔH124↑)が80.0~190.0J/gである
ことを特徴とする延伸ポリエチレンフィルム。
【請求項2】
JIS K 7127(1999)に準拠して測定した引張破壊伸度が、縦方向又は横方向の少なくとも一方が40%以上である請求項1に記載の延伸ポリエチレンフィルム。
【請求項3】
120℃で測定された加熱収縮率において、縦方向の収縮率が15%以下であり、かつ縦方向及び横方向の収縮率の和が25%以下である請求項1又は2に記載の延伸ポリエチレンフィルム。
【請求項4】
Tダイ法により賦形されたシートが延伸されてなる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の延伸ポリエチレンフィルム。
【請求項5】
少なくとも一方の表面が表面処理されて、36mN/m以上のぬれ張力を備える請求項1ないし4のいずれか1項に記載の延伸ポリエチレンフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の基材フィルムとして用いられるポリエチレンフィルムに関し、特に少なくとも一方向に延伸されてなる延伸ポリエチレンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成樹脂フィルムからなる包装用資材は、印刷加工等が施された基材フィルムとシーラントフィルムとが接着剤等により張り合わされて積層(ラミネート加工)された積層体で構成される。積層体の基材フィルムには、耐熱性、剛性、耐ピンホール性等の性能が要求され、主にポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレンを成分とした二軸延伸フィルムが使用される。また、積層体のシーラントフィルムには、ポリプロピレン、ポリエチレンを成分とした無延伸フィルムが使用され、特に優れたヒートシール適正からポリエチレン系無延伸フィルムが好ましく用いられる。
【0003】
上記のように、合成樹脂製の包装資材では、複数種類の樹脂が積層され複合化される傾向がある。しかしながら、近年の環境問題への関心の高まりにより廃プラスチックのリサイクルが望まれていることから、複数種類の樹脂が積層されたフィルムでは各樹脂ごとに分けてリサイクルすることが困難であった。そこで、この種の合成樹脂製包装資材では、基材フィルムとシーラントフィルムとを単一素材(モノマテリアル)で構成することが求められる。
【0004】
基材フィルムとシーラントフィルムとを単一素材とした包装資材では、例えばシーラントフィルムとして好ましく採用されるポリエチレン系素材を基材フィルムに使用したポリエチレン系積層体が知られている(特許文献1参照)。このポリエチレン系積層体は、基材フィルムである延伸ポリエチレンフィルムと、シーラントフィルムであるヒートシール性ポリエチレンフィルムとを備え、環境負荷低減の観点から接着層が無溶剤型接着剤を含むように構成される。
【0005】
この種の包装資材である積層体では、剛性、靭性、耐熱性等の性能が基材フィルムの性能に左右される。そこで、積層体の基材フィルムにおいて、特にヒートシール性ポリエチレンフィルムを使用した積層体のモノマテリアル化に対応した延伸ポリエチレンフィルムを使用して剛性、靭性、耐熱性等の性能をより向上させることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-189333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記状況に鑑み提案されたものであり、ヒートシール性ポリエチレンフィルムを使用した積層体のモノマテリアル化に対応した基材フィルムにおいて、剛性、靭性、耐熱性等の性能に優れた延伸ポリエチレンフィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、請求項1の発明は、積層体の基材フィルムとして用いられ少なくとも一方向に延伸されてなる延伸ポリエチレンフィルムであって、密度が0.940~0.970g/cm3、MFRが0.1~10g/10minであるエチレン単独重合体又はエチレンとオレフィンコモノマーとの共重合体成分のいずれか一方若しくは両方を20~90重量%と、密度が0.860~0.926g/cm3、MFRが1.0~30.0g/10minであるエチレンとオレフィンコモノマーとの共重合成分を10~80重量%とからなるエチレン系樹脂組成物(A)からなり、前記エチレン系樹脂組成物(A)の密度は0.930~0.960g/cm3であり、MFRは0.5~10g/10minであって、示査走査熱量計(DSC)で測定した融解熱量(ΔHtotal)が110.0~200.0J/gであるとともに、分画温度124℃以上の融解熱量(ΔH124↑)が80.0~190.0J/gであることを特徴とする延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0009】
請求項2の発明は、JIS K 7127(1999)に準拠して測定した引張破壊伸度が、縦方向又は横方向の少なくとも一方が40%以上である請求項1に記載の延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0010】
請求項3の発明は、120℃で測定された加熱収縮率において、縦方向の収縮率が15%以下であり、かつ縦方向及び横方向の収縮率の和が25%以下である請求項1又は2に記載の延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0011】
請求項4の発明は、Tダイ法により賦形されたシートが延伸されてなる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【0012】
請求項5の発明は、少なくとも一方の表面が表面処理されて、36mN/m以上のぬれ張力を備える請求項1ないし4のいずれか1項に記載の延伸ポリエチレンフィルムに係る。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明に係る延伸ポリエチレンフィルムによると、積層体の基材フィルムとして用いられ少なくとも一方向に延伸されてなる延伸ポリエチレンフィルムであって、密度が0.940~0.970g/cm3、MFRが0.1~10g/10minであるエチレン単独重合体又はエチレンとオレフィンコモノマーとの共重合体成分のいずれか一方若しくは両方を20~90重量%と、密度が0.860~0.926g/cm3、MFRが1.0~30.0g/10minであるエチレンとオレフィンコモノマーとの共重合成分を10~80重量%とからなるエチレン系樹脂組成物(A)からなり、前記エチレン系樹脂組成物(A)の密度は0.930~0.960g/cm3であり、MFRは0.5~10g/10minであって、示査走査熱量計(DSC)で測定した融解熱量(ΔHtotal)が110.0~200.0J/gであるとともに、分画温度124℃以上の融解熱量(ΔH124↑)が80.0~190.0J/gであるため、剛性、靭性、耐熱性等の性能に優れており、ヒートシール性ポリエチレンフィルムを使用した積層体のモノマテリアル化に対応した基材フィルムとして好適に使用することができる。
【0014】
請求項2の発明に係る延伸ポリエチレンフィルムによると、請求項1の発明において、JIS K 7127(1999)に準拠して測定した引張破壊伸度が、縦方向又は横方向の少なくとも一方が40%以上であるため、良好な加工適正が得られ、基材フィルムとしての利用範囲が広がる。
【0015】
請求項3の発明に係る延伸ポリエチレンフィルムによると、請求項1又は2の発明において、120℃で測定された加熱収縮率において、縦方向の収縮率が15%以下であり、かつ縦方向及び横方向の収縮率の和が25%以下であるため、基材フィルムとして求められる高温下での高い寸法精度が得られる。
【0016】
請求項4の発明に係る延伸ポリエチレンフィルムによると、請求項1ないし3の発明において、Tダイ法により賦形されたシートが延伸されてなるため、基材フィルムとして求められる高い厚薄精度が得られる。
【0017】
請求項5の発明に係る延伸ポリエチレンフィルムによると、請求項1ないし4の発明において、少なくとも一方の表面が表面処理されて、36mN/m以上のぬれ張力を備えるため、包装資材に加工するために求められる良好な印刷加工適正やラミネート加工適正が得られ、基材フィルムとしての利用範囲が広がる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る延伸ポリエチレンフィルムは、積層体の基材フィルムとして用いられ少なくとも一方向に延伸されてなるフィルムである。積層体は、ポリエチレン系樹脂の単一素材(モノマテリアル)で構成する基材フィルムとシーラントフィルムとを含み、例えば食品、日用品、部品等の種々の物品の包装用資材として好適に使用される。
【0019】
延伸ポリエチレンフィルムは、密度が0.940~0.970g/cm3、MFRが0.1~10g/10minであるエチレン単独重合体又はエチレンとオレフィンコモノマーとの共重合体成分のいずれか一方若しくは両方からなる第1成分を20~90重量%と、密度が0.860~0.926g/cm3、MFRが1.0~30.0g/10minであるエチレンとオレフィンコモノマーとの共重合成分からなる第2成分を10~80重量%とからなるエチレン系樹脂組成物(A)からなる。エチレン単独重合体とは、エチレンモノマーから重合されたものを指し、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンが選択可能であり、密度範囲内で選択される。エチレンとオレフィンコモノマーとの共重合体とは、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンから選択可能であり、密度範囲内で選択される。
【0020】
エチレン系樹脂組成物(A)は、ポリエチレンの密度やMFRが異なる第1成分と第2成分とを前記の配合割合で混合して、エチレン系樹脂組成物(A)全体として密度が0.930~0.960g/cm3、MFRが0.5~10g/10minとなるように構成される。
【0021】
エチレン系樹脂組成物(A)の密度が0.930g/cm3未満の場合、基材フィルムとしての耐熱性が劣って、加工時にフィルムの縮みや溶け等が発生するおそれがある。密度が0.960g/cm3より大きい場合、基材フィルムとしての靭性が低下するおそれがある。エチレン系樹脂組成物(A)のMFRが0.5~10g/10minの範囲から外れる場合、押出適性、延伸性(耐破断性)、厚薄特性(厚み均一性)等の性能が低下して、成形性が悪化するおそれがある。
【0022】
また、エチレン系樹脂組成物(A)は、示査走査熱量計(DSC)で測定した融解熱量(ΔHtotal)が110.0~200.0J/gであるとともに、分画温度124℃以上の融解熱量(ΔH124↑)が80.0~190.0J/gである。
【0023】
融解熱量(ΔHtotal)とは、示査走査熱量計を使用し、Polymer Bulletin 39, 465-472(1997)に記載のSSA(Successive Self-Nucleation/Annealing)法を用いて、Self-seeding and annealing温度(Ts)を139℃から59℃まで、5℃刻みに設定して測定し、得られた融解吸熱ピークから求められた150℃以下における全融解熱量である。全融解熱量は、150℃を起点とし水平方向へベースラインを取る事で算出した。
【0024】
分画温度124℃以上の融解熱量(ΔH124↑)とは、示査走査熱量計を使用し、Polymer Bulletin 39, 465-472(1997)に記載のSSA(Successive Self-Nucleation/Annealing)法を用いて、Self-seeding and annealing温度(Ts)を139℃から59℃まで、5℃刻みに設定して測定し、得られた融解吸熱ピークから求められた150℃以下における全融解熱量の内、124℃で分画した際の124℃~150℃における融解熱量である。全融解熱量は、150℃を起点とし水平方向へベースラインを取る事で算出し、分画温度124℃以上の融解熱量(ΔH124↑)についても同じベースラインを使用した。
【0025】
エチレン系樹脂組成物(A)では、融解熱量(ΔHtotal)が110.0J/g未満の場合、又は分画温度124℃以上の融解熱量(ΔH124↑)が80.0J/g未満の場合、耐熱性及び基材フィルとしての剛性が低下する。融解熱量(ΔHtotal)が200.0J/gより大きい場合、又は分画温度124℃以上の融解熱量(ΔH124↑)が190.0J/gより大きい場合、基材フィルムとしての靭性が低下する。
【0026】
本発明の延伸ポリエチレンフィルムでは、少なくとも一方向に延伸されることにより優れた耐熱性が付与される。その際、JIS K 7127(1999)に準拠して測定した引張破壊伸度が、縦方向又は横方向の少なくとも一方が40%以上であることで、良好な加工適正が得られ、基材フィルムとしての利用範囲が広がるため好ましい。引張破壊伸度は、引張試験機を使用し、JIS K 7127(1999)に従って、引張速度200mm/min、試験片サンプル巾15mmにて測定した際の破断点伸度を測定した値である。引張破壊伸度が40%未満の場合、フィルム自体が脆くなり、加工適正の低下及び基材フィルムとした場合の裂け・破れ等、不具合の発生が危惧される。
【0027】
この延伸ポリエチレンフィルムは、適宜のフィルムの成形方法により得ることが可能であるが、Tダイ法により賦形されたシートを延伸して得ることが好ましい。Tダイ法によるフィルムの成形では、基材フィルムとして求められる高い厚薄精度を得ることができる。
【0028】
また、本発明の延伸ポリエチレンフィルムでは、基材フィルムとして求められる高温下での高い寸法精度を得るために、120℃で測定された加熱収縮率において、縦方向の収縮率が15%以下であり、かつ縦方向及び横方向の収縮率の和が25%以下であることが好ましい。加熱収縮率は、例えば、フィルムの試験片を120℃で所定時間加熱した後、室温まで冷却する等の徐冷をし、加熱後の試験片の寸法を測定して、あらかじめ測定した加熱前の試験片の寸法と対比して求められる変化率等で表される。この加熱収縮率が上記の値を上回ると、基材フィルムに要求される高温下での寸法精度が得られないおそれがある。
【0029】
さらに、本発明の延伸ポリエチレンフィルムでは、基材フィルムとしての利用範囲を広げるために、少なくとも一方の表面が表面処理されて、36mN/m以上のぬれ張力を備えることが好ましい。表面処理としては、例えば、大気圧プラズマ処理、火炎処理、コロナ放電処理等が挙げられる。また、ぬれ張力は、JIS K 6768(1999)に準拠したぬれ張力試験方法により測定される。ぬれ張力が36mN/m未満の場合、印刷不良やラミネート不良の原因となるため、好ましくない。
【実施例0030】
[延伸ポリエチレンフィルムの作製]
後述の各材料を第1成分又は第2成分として配合して溶融、混練して、Tダイ法により単層(中間層のみ)又は複数層(中間層と中間層の両面の表層の3層)に押出し、一軸延伸又は二軸延伸して製膜して、コロナ放電処理によりぬれ張力が36mN/mとなるように表面処理を施して試作例1~7の延伸ポリエチレンフィルム(基材フィルム)を得た。なお、各試作例1~7において、樹脂の配合割合は、中間層又は表層の各層ごとに100重量%となるように配合した。
【0031】
[使用材料]
・樹脂1:高密度ポリエチレン(京葉ポリエチレン株式会社製;E8080)、密度0.958g/cm3、MFR(190℃/2.16kg):1.0g/10min
・樹脂2:高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製;HY430)、密度0.956g/cm3、MFR(190℃/2.16kg):0.8g/10min
・樹脂3:高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製;HY340)、密度0.952g/cm3、MFR(190℃/2.16kg):1.4g/10min
・樹脂4:高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製;HF562)、密度0.960g/cm3、MFR(190℃/2.16kg):7.5g/10min
・樹脂5:超低密度ポリエチレン(住友化学株式会社製;FX307)、密度0.890g/cm3、MFR(190℃/2.16kg):3.2g/10min
・樹脂6:直鎖状低密度ポリエチレン(ダウ・ケミカル製;TF80)、密度0.926g/cm3、MFR(190℃/2.16kg):1.7g/10min
・樹脂7:直鎖状低密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製;SP2040)、密度0.918g/cm3、MFR(190℃/2.16kg):4.0g/10min
【0032】
[試作例1]
試作例1は、厚さ25μmの中間層のみの単層からなるエチレン系樹脂組成物が押出成形されて縦方向(MD)の一軸延伸により製膜されたものであって、中間層が、樹脂1を71.2重量%と樹脂2を10.4重量%とを混合した第1成分と、樹脂5を18.4重量%とした第2成分とで構成される。試作例1のエチレン系樹脂組成物の密度は0.944g/cm3、MFR(190℃/2.16kg):1.2g/10minである。
【0033】
[試作例2]
試作例2は、厚さ18μmの中間層と、中間層の一側に厚さ1μmの第1表層と、中間層の他側に厚さ1μmの第2表層の3層(厚さ20μm)からなるエチレン系樹脂組成物が押出成形されて縦方向(MD)と幅方向(TD)の二軸延伸により製膜されたものであって、中間層が、樹脂2を30.0重量%とした第1成分と、樹脂6を70.0重量%とした第2成分とで構成され、各表層が、樹脂2を30.0重量%とした第1成分と、樹脂6を70.0重量%とした第2成分とで構成される。試作例2のエチレン系樹脂組成物の密度は0.934g/cm3、MFR(190℃/2.16kg):1.4g/10minである。
【0034】
[試作例3]
試作例3は、厚さ18μmの中間層と、中間層の一側に厚さ1μmの第1表層と、中間層の他側に厚さ1μmの第2表層の3層(厚さ20μm)からなるエチレン系樹脂組成物が押出成形されて縦方向(MD)と幅方向(TD)の二軸延伸により製膜されたものであって、中間層が、樹脂2を20.0重量%とした第1成分と、樹脂6を80.0重量%とした第2成分とで構成され、各表層が、樹脂2を30.0重量%とした第1成分と、樹脂6を70.0重量%とした第2成分とで構成される。試作例3のエチレン系樹脂組成物の密度は0.932g/cm3、MFR(190℃/2.16kg):1.5g/10minである。
【0035】
[試作例4]
試作例4は、厚さ18μmの中間層と、中間層の一側に厚さ1μmの第1表層と、中間層の他側に厚さ1μmの第2表層の3層(厚さ20μm)からなるエチレン系樹脂組成物が押出成形されて縦方向(MD)と幅方向(TD)の二軸延伸により製膜されたものであって、中間層が、樹脂4を20.0重量%とした第1成分と、樹脂6を80.0重量%とした第2成分とで構成され、各表層が、樹脂2を20.0重量%とした第1成分と、樹脂6を80.0重量%とした第2成分とで構成される。試作例4のエチレン系樹脂組成物の密度は0.932g/cm3、MFR(190℃/2.16kg):2.2g/10minである。
【0036】
[試作例5]
試作例5は、厚さ50μmの中間層のみの単層からなるエチレン系樹脂組成物が押出成形されて縦方向(MD)の一軸延伸により製膜されたものであって、中間層が、樹脂2を6.0重量%と樹脂3を94.0重量%とを混合した第1成分で構成される。試作例5のエチレン系樹脂組成物の密度は0.952g/cm3、MFR(190℃/2.16kg):1.4g/10minである。
【0037】
[試作例6]
試作例6は、厚さ50μmの中間層のみの単層からなるエチレン系樹脂組成物が押出成形されて縦方向(MD)の一軸延伸により製膜されたものであって、中間層が、樹脂7を100.0重量%とした第2成分で構成される。試作例6のエチレン系樹脂組成物の密度は0.918g/cm3、MFR(190℃/2.16kg):4.0g/10minである。
【0038】
[試作例7]
試作例7は、厚さ18μmの中間層と、中間層の一側に厚さ1μmの第1表層と、中間層の他側に厚さ1μmの第2表層の3層(厚さ20μm)からなるエチレン系樹脂組成物が押出成形されて縦方向(MD)と幅方向(TD)の二軸延伸により製膜されたものであって、中間層が、樹脂2を10.0重量%とした第1成分と、樹脂6を90.0重量%とした第2成分とで構成され、各表層が、樹脂2を30.0重量%とした第1成分と、樹脂6を70.0重量%とした第2成分とで構成される。試作例7のエチレン系樹脂組成物の密度は0.929g/cm3、MFR(190℃/2.16kg):1.6g/10minである。
【0039】
試作例1~7の延伸ポリエチレンフィルムの性能評価として、融解熱量(ΔHtotal)、分画温度124℃以上の融解熱量(ΔH124↑)、引張破壊強度、引張破壊伸度、引張弾性率、120℃の加熱収縮率について測定した。
【0040】
[全融解熱量の測定]
全融解熱量(ΔHtotal;単位J/g)の測定では、示査走査熱量計(NETZSCH製 DSC 214 Polyma)を使用し、Polymer Bulletin 39, 465-472(1997)に記載のSSA(Successive Self-Nucleation/Annealing)法を用いて、Self-seeding and annealing温度(Ts)を139℃から59℃まで、5℃刻みに設定して測定した。測定結果が110.0~200.0J/gを良品とした。
【0041】
[分画温度124℃以上の融解熱量の測定]
融解熱量(ΔH124↑;単位J/g)は、融解熱量(ΔHtotal;単位J/g)の測定で得られた150℃以下における全融解熱量の内、分画温度124℃以上の融解熱量を求めた。測定結果が80.0~190.0J/gを良品とした。
【0042】
[引張破壊強度の測定]
引張破壊強度(MPa)の測定は、引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ;RTF-1310)を使用し、JIS K 7127に準拠する引張特性の試験方法を用いて、幅15mmの試験片に対して引張速度200mm/minで引張し、破断した際の応力から求めた。縦方向(MD)の測定結果が少なくとも50MPa以上となるものを良品とした。
【0043】
[引張破壊伸度の測定]
引張破壊伸度(%)の測定は、引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ製;RTF-1310)を使用し、JIS K 7127に準拠する引張特性の試験方法を用いて、幅15mmの試験片に対して引張速度200mm/minで引張し、破断点における試験片寸法から変位量を算出し、初期長からの変位割合として引張破断伸度を求めた。縦方向(MD)又は横方向(TD)の少なくとも一方の測定結果が初期長の40%以上となるものを良品とした。
【0044】
[引張弾性率の測定]
引張弾性率(GPa)の測定は、引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ;RTF-1310)を使用し、JIS K 7127に準拠する引張特性の試験方法を用いて、幅15mmの試験片に対して引張速度200mm/minで引張し求めた。縦方向(MD)の測定結果が少なくとも0.5GPa以上となるものを良品とした。
【0045】
[加熱収縮率の測定]
加熱収縮率(%)の測定では、試験片の隣り合う2辺がそれぞれ縦方向(MD)もしくは横方向(TD)となる様切り出された正方形(100mm角)の試験サンプルを準備し、縦方向(MD)及び横方向(TD)それぞれの向かい合う2辺の中点同士の距離を測定する事で縦方向(MD)及び横方向(TD)それぞれの加熱前の試験サンプル寸法とした。ついで所定温度(120℃)の精密恒温器(ヤマト科学株式会社製 DF610)内に15分間静置後、精密恒温器から取り出し、室温まで冷却した試験片の向い合う2辺の中点同士の距離を測定し、加熱後の試験片の寸法とし、加熱前後の試験片の寸法の変化率を加熱収縮率(%)とした。縦方向(MD)の収縮率が15%以下であり、かつ縦方向(MD)及び横方向(TD)の収縮率の和(MD+TD)が25%以下となるものを良品とした。
【0046】
試作例1~7の延伸ポリエチレンフィルムの試験結果について、表1に示した。また表1において、総合評価では、各試験の判定がすべて良品の場合を「良(〇)」とし、良品判定が1つでも欠けた場合を「不可(×)」とした。
【0047】
【表1】
【0048】
[結果と考察]
表1に示すように、フィルム性能の総合評価が「良(〇)」となったのは試作例1~4であり、総合評価が「不可(×)」となったのは試作例5~7であった。試作例1~4(良品)及び試作例5~7(不良品)から理解されるように、延伸ポリエチレンフィルム(エチレン系樹脂組成物)は、第1成分と第2成分の双方を含むことが好ましく、その好ましい配合割合は第1成分20~90重量%、第2成分10~80重量%程度であると考えられるまた、延伸ポリエチレンフィルムの密度は、0.930~0.960g/cm3程度であり、MFRは0.5~10.0g/10min、より好ましくは1.0~2.5g/10min程度である。
【0049】
試作例1~4の延伸ポリエチレンフィルムにおいて、フィルムの剛性や靭性の指標となる融解熱量としては、全融解熱量(ΔHtotal)が110.0~200.0J/g、より好ましくは140.0~190.0J/gであり、分画温度124℃以上の融解熱量(ΔH124↑)が80.0~190.0J/g、より好ましくは90.0~180.0J/gである。
【0050】
縦方向(MD)の引張破壊強度に関し、少なくとも50MPa以上、より好ましくは60MPa以上、さらに好ましくは70MPa以上が求められる。試作例1~7の延伸ポリエチレンフィルムは、縦方向(MD)の引張破壊強度がいずれも50MPa以上であり、引張破壊強度に優れていた。
【0051】
引張破壊伸度はフィルムの取り扱い性の指標となるものであって、好ましい条件としては縦方向又は横方向の少なくとも一方が40%以上、より好ましくは100%以上、さらに好ましくは150%以上が求められる。試作例5では、引張破壊伸度が縦方向と横方向ともに40%を下回っていた。縦方向と横方向ともに引張破壊伸度が40%未満となると、フィルム自体が脆く、また、単体使用や、シーラントフィルムと比べ、印刷、ラミネート、製袋、保管、流通等、最終消費までに多くの工程を経る基材フィルムの場合、不具合の発生が危惧される。試作例5は、良品の試作例1と比較して、中間層が第1成分で構成されている(第2成分を含んでいない)点で相違していることから、中間層に第2成分が所定の配合割合で含有されていないとフィルムの取り扱い性が低下すると考えられる。
【0052】
また、引張弾性率は剛性の指標となるものであって、好ましい条件としては、0.5GPa以上、より好ましくは0.6GPa以上、さらに好ましくは0.7GPa以上が求められる。試作例6では、縦方向(MD)の弾性率が0.5MPaを下回っていた。縦方向(MD)の弾性率が0.5MPa未満の場合、フィルムの剛性が低く基材フィルムとして不適である。試作例6は、良品の試作例1と比較して、中間層が第2成分で構成されている(第1成分を含んでいない)点で相違していることから、中間層に第1成分が所定の配合割合で含有されていないとフィルムの剛性が低下すると考えられる。
【0053】
加熱収縮率はフィルムの高温下での寸法精度の指標となるものであって、好ましい条件としては、120℃での測定において縦方向(MD)が15%以下、かつ縦方向(MD)及び横方向(TD)の収縮率の和(MD+TD)が25%以下が求められる。試作例6では、フィルムの溶融により測定不能であった。また、試作例7では、縦方向(MD)の加熱収縮率が15%を上回るとともに、縦方向(MD)及び横方向(TD)の収縮率の和(MD+TD)が25%を上回っていた。加熱収縮率の値が要求物性よりも大きい場合、高温下での加工において不具合の発生が想定される。試作例6は、前記のように、良品の試作例1と比較して中間層が第2成分で構成されている(第1成分を含んでいない)点で相違しており、試作例7は、良品の試作例2,3と比較して中間層の第2成分の配合割合が過剰な点で相違している。これらのことから、中間層の第2成分の配合割合が過剰であると高温下での適切な寸法精度が得られなくなると考えられ、特に中間層が第2成分のみで構成されるとフィルムが溶融するおそれがある。
【0054】
以上説明したように、本発明の延伸ポリエチレンフィルムは、剛性、靭性、耐熱性等の性能が極めて良好である。また、このフィルムはエチレン系樹脂組成物からなるため、包装資材等に使用される積層体の基材フィルムとして好適であり、特にシーラントフィルムに多用されるヒートシール性ポリエチレンフィルムを使用した積層体のモノマテリアル化に対応した基材フィルムに最適である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のとおり、本発明の延伸ポリエチレンフィルムは、剛性、靭性、耐熱性等の性能に優れており、ヒートシール性ポリエチレンフィルムを使用した積層体のモノマテリアル化に対応した基材フィルムとして好適に使用することができる。