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  • 特開-長繊維強化樹脂の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001961
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】長繊維強化樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 15/14 20060101AFI20221227BHJP
   B29B 9/14 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
B29B15/14
B29B9/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021102901
(22)【出願日】2021-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】石沢 宏康
【テーマコード(参考)】
4F072
4F201
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB09
4F072AB22
4F072AD44
4F072AG05
4F072AH04
4F072AH46
4F201AD16
4F201BA02
4F201BC01
4F201BC12
4F201BL06
4F201BL44
(57)【要約】
【課題】酸化した熱可塑性樹脂の混入が抑制された長繊維強化樹脂を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】本開示の長繊維強化樹脂の製造方法は、連続した繊維束を、下記工程1~3に、この順に付して長繊維強化樹脂を得る方法である。
工程1:繊維束の入口開口と出口開口を備えたチャンバー内に不活性ガスを導入し、繊維束に前記チャンバー内を通過させて、繊維束が包含する空気を不活性ガスに置換する。
工程2:繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を付着及び/又は含浸させる。
工程3:繊維束に付着及び/又は含浸した熱可塑性樹脂を固化させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した繊維束を、下記工程1~3に、この順に付して長繊維強化樹脂を得る、長繊維強化樹脂の製造方法。
工程1:繊維束の入口開口と出口開口を備えたチャンバー内に不活性ガスを導入し、繊維束に前記チャンバー内を通過させて、繊維束が包含する空気を不活性ガスに置換する。
工程2:繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を付着及び/又は含浸させる。
工程3:繊維束に付着及び/又は含浸した熱可塑性樹脂を固化させる。
【請求項2】
前記工程1において、繊維束が包含するガス全量に占める酸素の割合を5%以下とする、請求項1に記載の長繊維強化樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記工程1において、チャンバー内の、繊維束が通過する直線上の点であって、入口開口と出口開口から等距離の点における酸素濃度が2%以下になるよう不活性ガスを導入する、請求項1又は2に記載の長繊維強化樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記工程1において、チャンバー内滞在時間が0.01~10秒となる速度で繊維束を通過させる、請求項1~3の何れか1項に記載の長繊維強化樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記工程1において、チャンバー内の温度が25~300℃である、請求項1~4の何れか1項に記載の長繊維強化樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、長繊維強化樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長繊維強化樹脂は、例えば、連続繊維束の入口、出口、及び樹脂供給口を備えるダイボックスに、可塑化装置にて溶融混練された熱可塑性樹脂を樹脂供給口から供給し、入口から引き込んだ連続繊維束に前記熱可塑性樹脂を含浸させて出口から引き出し、その後、冷却槽にて水冷する工程を経て製造することができる。
【0003】
前記ダイボックスは連続繊維束の入口、出口、及び樹脂供給口を備え、空気が入り込み易い構造を有する。また、前記ダイボックス内は熱可塑性樹脂の溶融状体を保持するため高温に設定されている。そのため、ダイボックス内において熱可塑性樹脂が酸化されやすいことが問題であった。熱可塑性樹脂は酸化されると、変色したりゲル化することがあり、長繊維強化樹脂が酸化された熱可塑性樹脂を含むと、最終製品の外観が悪化したり、機械的特性が低下したりするためである。
【0004】
前記課題を解決する方法として、ダイボックス内の空気を不活性ガスで置換する方法や、溶融混練された熱可塑性樹脂に不活性ガスを含有させたものをダイボックスに供給することで、熱可塑性樹脂に同伴して酸素がダイボックス内に供給されることを防止する方法が知られている(特許文献1、2)。しかし、前記方法では、長繊維強化樹脂に酸化した熱可塑性樹脂が混入するのを抑制する効果は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-243241号公報
【特許文献2】特開2004-162024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本開示の目的は、酸化した熱可塑性樹脂の混入が抑制された長繊維強化樹脂を効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、連続繊維束に包含され、連続繊維束をダイボックス内に引き込む際に同伴して入り込む空気が、ダイボックス内において熱可塑性樹脂を酸化させ、長繊維強化樹脂の品質低下を引き起こすこと、そして、連続繊維束に包含される空気を不活性ガスに置換してから、ダイボックス内に引き込むと、ダイボックス内における熱可塑性樹脂の酸化を抑制することができることを見いだした。本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本開示は、連続した繊維束を、下記工程1~3に、この順に付して長繊維強化樹脂を得る、長繊維強化樹脂の製造方法を提供する。
工程1:繊維束の入口開口と出口開口を備えたチャンバー内に不活性ガスを導入し、繊維束に前記チャンバー内を通過させて、繊維束が包含する空気を不活性ガスに置換する。
工程2:繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を付着及び/又は含浸させる。
工程3:繊維束に付着及び/又は含浸した熱可塑性樹脂を固化させる。
【0009】
本開示は、また、前記工程1において、繊維束が包含するガス全量に占める酸素の割合を5%以下とする前記長繊維強化樹脂の製造方法を提供する。
【0010】
本開示は、また、前記工程1において、チャンバー内の、繊維束が通過する直線上の点であって、入口開口と出口開口から等距離の点における酸素濃度が2%以下になるよう不活性ガスを導入する前記長繊維強化樹脂の製造方法を提供する。
【0011】
本開示は、また、前記工程1において、チャンバー内滞在時間が0.01~10秒となる速度で繊維束を通過させる前記長繊維強化樹脂の製造方法を提供する。
【0012】
本開示は、また、前記工程1において、チャンバー内の温度が25~300℃である前記長繊維強化樹脂の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本開示の長繊維強化樹脂の製造方法によれば、連続繊維束が包含する空気を不活性ガスに置換してから、ダイボックス内に引き込むため、連続繊維束に包含される空気中の酸素によって、ダイボックス内の熱可塑性樹脂が酸化するのを防止することができる。これにより、長繊維強化樹脂に、酸化した熱可塑性樹脂が混入するのを抑制することができ、熱可塑性樹脂が酸化されることによる品質の低下が抑制された、高品質の長繊維強化樹脂を効率よく製造することができる。
【0014】
また、ダイボックス内で熱可塑性樹脂が酸化した場合は、長繊維強化樹脂の製造レーンを一時停止してこれを取り除くことが必要であるが、本開示の方法では、熱可塑性樹脂が酸化するのを抑制することができるので、酸化した熱可塑性樹脂をダイボックスから除去する作業の頻度を低減させることができ、長繊維強化樹脂の連続生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示におけるチャンバーの一例を示す模式図(繊維束の進行方向に直交する方向から見た図)である。
図2】本開示の長繊維強化樹脂の製造フローの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[長繊維強化樹脂の製造方法]
本開示は、連続した繊維束を、下記工程1~3に、この順に付して長繊維強化樹脂を製造する方法である。前記製造方法は、更に他の工程を含んでいてもよい。
工程1:繊維束の入口開口と出口開口を備えたチャンバー内に不活性ガスを導入し、繊維束に前記チャンバー内を通過させて、繊維束が包含する空気を不活性ガスに置換する。
工程2:繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を付着及び/又は含浸させる。
工程3:繊維束に付着及び/又は含浸した熱可塑性樹脂を固化させる。
【0017】
(工程1)
工程1は、連続した繊維束が包含する空気を不活性ガスに置換する工程である。不活性ガスへの置換は、前記繊維束を、不活性ガスを導入したチャンバーを通過させることにより行う。
【0018】
前記連続した繊維束とは、連続した繊維(若しくは、長繊維)が集まって束になった状態のものであり、以後、「連続繊維束」と称する場合がある。連続繊維束は、繊維束パッケージから引取機で引き出され、周知慣用の方法で開繊されたものであってもよい。
【0019】
前記連続繊維束を構成する繊維としては、特に制限が無く、例えば、セルロース繊維、綿、絹、麻、毛、レーヨン、ポリエステル、アクリル、ナイロン、アラミド繊維等の有機繊維;カーボン繊維、ガラス繊維、ステンレス繊維等の無機繊維が挙げられる。また、前記繊維は、表面処理(例えば、収束剤等による表面処理)がなされていてもよい。
【0020】
前記不活性ガスとは、化学的に不活性なガスであり、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
前記チャンバーの形状は、連続繊維束が繊維間に包含する空気を不活性ガスに置換することができる形状であれば、特に制限されない。前記チャンバーの一例を図1に示す。図1において、チャンバー1は連続繊維束の入口開口2と出口開口3を備える箱形の構造物である。連続繊維束は、図1中の矢印7で示すように、入口開口2からチャンバー内に引き入れられ、出口開口3から引き出される。
【0022】
チャンバー1のサイズは、繊維束の入口開口3から出口開口3までの距離が例えば50~500mm、高さが例えば50~500mmである。チャンバー1の容量は、例えば0.5~10Lである。前記容量の下限値は、チャンバー1の酸素濃度を低下させ易い点において、好ましくは1L、特に好ましくは1.5L、最も好ましくは2Lである。
【0023】
チャンバー1の入口開口2と出口開口3は、空気の流入を抑制し、供給された不活性ガスの拡散を防ぐために、連続繊維束の通過に支障が無い範囲において小さく形成することが好ましい。
【0024】
チャンバー1は不活性ガス供給口4を備え、前記不活性ガス供給口4からチャンバー内に不活性ガスを供給することができる。
【0025】
不活性ガス供給口4は、例えば、フルコーンエアーノズルやフラットエアーノズルである。
【0026】
不活性ガス供給口4を設ける位置は、チャンバー1の天井部5に限定されることがなく、チャンバー内の酸素濃度を十分に低減させることができる位置であればよいが、なかでも、繊維束に向かって不活性ガスを吹き付けることが可能な位置に設けることが、連続繊維束が包含する空気を効率よく不活性ガスに置換することができる点において好ましい。図1では、不活性ガス供給口4は、チャンバー1の天井部5に設けられている。不活性ガス供給口4をチャンバー1の天井部5に備える場合、不活性ガス供給口4の配置は、チャンバー1の幅方向に一列に配置されていても良いし、千鳥配列に配置されていてもよいし、ランダムに配置されていてもよい。
【0027】
チャンバー1にも受けられる不活性ガス供給口4の数は、形状チャンバー内の酸素濃度を十分に低減させることができる範囲において特に限定されず、例えば1~10個の範囲である。不活性ガス供給口4の数は、不活性ガス供給口4の形状や、不活性ガス供給口4の設置位置、若しくは不活性ガス供給口4と連続繊維束の距離に応じて適宜調整することができる。
【0028】
不活性ガス供給口4からの不活性ガスの供給量は、連続繊維束がチャンバー内を通過する速度に応じて風速、風量を適宜選択するのが好ましく、風速は、例えば5~120m/minの範囲内である。また、風量は、例えば10~500L/minの範囲内である。風量の上限値は、好ましくは200L/min、特に好ましくは100L/min、最も好ましくは95L/minである。風量の下限値は、好ましくは30L/min、特に好ましくは50L/minである。連続繊維束の通過速度を上昇させた場合は、連続繊維束をチャンバー内に引き込む際に同伴して入り込む空気量が増加するため、不活性ガスの供給量(風速及び/又は風量)を前記範囲の中で高めに設定することが、チャンバー内の酸素濃度を十分に低減させる点において好ましい。
【0029】
本開示においては、不活性ガス供給により、チャンバー内の酸素濃度を、例えば2%以下にまで低減することが好ましく、より好ましくは1.5%以下、特に好ましくは1%以下である。尚、前記酸素濃度は、チャンバー内の繊維束が通過する直線上の点であって、入口開口と出口開口から等距離の点において測定する。
【0030】
チャンバー1は、酸素濃度計6を備えていてもよい。酸素濃度計6を備えることで、チャンバー内の酸素濃度を良好にコントロールすることができる。酸素濃度計6の設置位置は、チャンバー内の、繊維束が通過する直線上の点であって、入口開口と出口開口から等距離の点における酸素濃度が前記範囲であることを確認できる位置であれば、特に制限されない。
【0031】
チャンバー1は、また、不活性ガス供給口2にヒーター(図示せず)を備えていても良い。ヒーターを備えることで、加温された(例えば、室温を超え、300℃以下の温度に加熱された)不活性ガスを供給することができ、連続繊維束が包含する空気を加温された不活性ガスで置換することができる。チャンバー内を通過した連続繊維束は、続く工程2へ付されるが、連続繊維束が包含する不活性ガスの温度が低いと、工程2において、熱可塑性樹脂の流動性が低下、或いは固化して連続繊維束への付着・含浸が不良となる場合がある。
【0032】
チャンバー1内の温度は、室温(25℃)以上である。チャンバー1は、チャンバー内を加温するためのヒーター(図示せず)を備えていても良い。ヒーターでチャンバー内を加温(例えば、室温を超え、300℃以下の温度に加温)することで連続繊維束を加温することができ、続く工程2において、熱可塑性樹脂の流動性が低下、或いは固化して連続繊維束への付着・含浸が不良となるのを防止することが可能となる。チャンバー内の温度は、例えば25~300℃、好ましくは50~300℃である。
【0033】
連続繊維束がチャンバー1を通過するのに要する時間、すなわち、連続繊維束の一点がチャンバー内に滞在する時間は、チャンバー内の酸素濃度によって適宜調整することができるが、生産効率を維持しつつ、連続繊維束が包含する酸素濃度の低減する観点から、例えば0.01~10秒程度、好ましくは0.01~4秒、特に好ましくは0.05~2秒である。チャンバー内の酸素濃度が高めの場合には、連続繊維束のチャンバー滞在時間を長めに設定することが、連続繊維束が包含する空気を不活性ガスに置換することにより、連続繊維束が包含する酸素濃度をより低くすることができ、樹脂が酸化するのを抑制する効果を高めることができる点において好ましい。前記連続繊維束のチャンバー滞在時間は、例えば、前記連続繊維束の引き取り速度を調整することでコントロールすることができる。
【0034】
工程1を経ることで、酸素濃度が抑制された連続繊維束が得られる。工程1を経た連続繊維束が包含するガス全量に占める酸素の割合は、例えば5%以下、好ましくは2%以下、特に好ましくは1.5%以下である。
【0035】
(工程2)
工程2は、包含する空気が不活性ガスに置換され、酸素濃度が抑制された連続繊維束に、溶融した熱可塑性樹脂を付着及び/又は含浸させる工程である。
【0036】
連続繊維束に、溶融した熱可塑性樹脂を付着及び/又は含浸させる方法としては、特に制限されることはないが、例えば、繊維束の入口、出口、及び樹脂供給口を備え、且つヒーターを備えるダイボックスの、樹脂供給口からダイボックス内に溶融した熱可塑性樹脂を供給し、ダイボックスの入口から連続繊維束を引き込んで、連続繊維束に前記熱可塑性樹脂を付着及び/又は含浸させ、その後、出口から熱可塑性樹脂が付着及び/又は含浸した連続繊維束を引き出す方法が挙げられる。
【0037】
ダイボックス内は、前記ヒーターにより200~500℃の範囲内の特定の温度に加温することが、熱可塑性樹脂の流動性が低下、或いは固化して連続繊維束への付着・含浸が不良となるのを防止する点で好ましい。
【0038】
また、ダイボックスに不活性ガスを供給して、ダイボックス内の空気を不活性ガスで置換することが、ダイボックス内の酸素濃度を低減させることができ、これにより熱可塑性樹脂が酸化するのを防止することができる点において好ましい。
【0039】
本工程では、連続繊維束の中心部にまで溶融した熱可塑性樹脂を含浸させてもよいし、溶融した熱可塑性樹脂が連続繊維束の表面の少なくとも一部を被覆するだけでもよい。更には、これらの中間であってもよい。すなわち、溶融した熱可塑性樹脂が連続繊維束の表面の少なくとも一部を被覆し、且つ連続繊維束の表面近傍に含浸していてもよい。
【0040】
連続繊維束に付着及び/又は含浸させる熱可塑性樹脂の量は、用途に応じて適宜変更することができる。
【0041】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂等が挙げられる。
【0042】
前記ポリオレフィン系樹脂には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ-1-ブテン、ポリイソブチレン、エチレンとプロピレンの共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体、ポリメチルペンテン、エチレン又はプロピレン(50モル%以上)と他の共重合モノマー(例えば、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニル等)とのランダム、ブロック、若しくはグラフト共重合体が含まれる。
【0043】
前記ポリオレフィン系樹脂には、マレイン酸変性ポリオレフィン(マレイン酸変性ポリプロピレン)、無水マレイン酸変性ポリオレフィン(無水マレイン酸変性ポリプロピレン)等の酸変性ポリオレフィンも含まれる。
【0044】
前記ポリアミド系樹脂には、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド69、ポリアミド610、ポリアミド1010、ポリアミド612、ポリアミド46、ポリアミド11、ポリアミド12等の脂肪族ポリアミド;ナイロンMXD、ナイロン6T(ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸)、ナイロン6I、ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロン10T等の芳香族ポリアミドが含まれる。
【0045】
熱可塑性樹脂には、最終製品の用途に応じて、1種又は2種以上の添加物を配合することができる。前記添加物としては、例えば、フィラー、消泡剤、シランカップリング剤、充填剤、可塑剤、レベリング剤、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、イオン吸着体、顔料、溶剤、熱安定剤、滑剤、アンチブロッキング剤、ウィスカー等が挙げられる。
【0046】
溶融した熱可塑性樹脂は、例えば前記熱可塑性樹脂を可塑化装置等に仕込み、前記樹脂の融点以上の温度(例えば、200~500℃)で加熱して溶融し、必要に応じて添加物を加え混練することで製造することができる。
【0047】
熱可塑性樹脂を溶融混錬する際には、不活性ガスを供給することが好ましい。これにより、熱可塑性樹脂の酸化を抑制することができる。その上、空気が熱可塑性樹脂に同伴してダイボックス内に入り込むのを抑制することもできる。
【0048】
本工程を経て、連続繊維束に溶融した熱可塑性樹脂が付着及び/又は含浸してなる部材が得られる。
【0049】
前記部材は、必要に応じて成形を施してもよい。成形方法としては特に制限がないが、例えば、長繊維強化樹脂として、円柱、角柱などの柱状の長繊維強化樹脂を所望する場合は、前記部材を、所望する太さ或いは形状の押出口を通過させる方法等が挙げられる。また、例えば、長繊維強化樹脂として、テープ状の長繊維強化樹脂を所望する場合は、前記部材を、所望するテープサイズ(厚み、幅)までローラー等で加圧して成形する方法が挙げられる。
【0050】
(工程3)
工程3は、工程2を経て得られた、連続繊維束に溶融した熱可塑性樹脂が付着及び/又は含浸してなる部材(当該部材は、上述の通り、成形された部材であってもよい。すなわち、連続繊維束に溶融した熱可塑性樹脂が付着及び/又は含浸してなる部材であって、所望の形状に成形されたものであってもよい)について、その溶融した熱可塑性樹脂を固化させる工程である。
【0051】
溶融した熱可塑性樹脂の固化は、熱可塑性樹脂の融点以下の温度で冷却することによって行うことができる。冷却方法としては、空冷、水冷等が挙げられる。
【0052】
水冷にて熱可塑性樹脂の固化を行う方法としては、例えば、前記部材を冷却槽に引き込み、水冷する方法が挙げられる。
【0053】
前記部材を冷却し、必要に応じて乾燥させることで、連続繊維強化樹脂(=長さ方向に揃えられた連続繊維束に固化した熱可塑性樹脂が付着して一体化した複合体)が得られる。
【0054】
このようにして得られた連続繊維強化樹脂は、必要に応じて、ペレタイザー等を使用して所望の長さ(例えば5~50mm)に裁断してもよい。前記裁断により、ペレット状の長繊維強化樹脂が得られる。
【0055】
上記工程を有する本開示の長繊維強化樹脂の製造フローの一例を図2に示す。
【0056】
本開示の方法では、繊維束が包含する空気を不活性ガスに置換した後で、ダイボックス内に引き入れて、溶融した熱可塑性樹脂を付着及び/又は含浸させるため、溶融した熱可塑性樹脂がダイボックス内で酸化してゲル化したり変色したりするのを防止することができる。そのため、劣化した熱可塑性樹脂をダイボックスから除去する作業の頻度を低下させることができる。従って、本開示の方法によれば、長繊維強化樹脂の連続生産性を飛躍的に向上させることができる。
【0057】
上記工程を経て得られる長繊維強化樹脂は、酸化した熱可塑性樹脂の混入が抑制される。そのため、変色が抑制或いは防止され、当該長繊維強化樹脂を使用して得られる最終製品は良好な外観を有する。また、熱可塑性樹脂の酸化による機械的特性の低下も抑制される。すなわち、前記長繊維強化樹脂は、熱可塑性樹脂が酸化されることによる品質の低下が抑制され、高品質である。
【0058】
本開示の長繊維強化樹脂の製造方法で得られる長繊維強化樹脂は、長さ方向に揃えられた繊維束に固化した熱可塑性樹脂が付着して一体化した複合体であり、その長さは特に制限がない。すなわち、前記長繊維強化樹脂は、連続繊維強化樹脂(例えば、柱状或いはテープ状の連続繊維強化樹脂)であってもよいし、前記連続繊維強化樹脂を裁断して得られるペレット状の長繊維強化樹脂(長さは、例えば5~50mm)であってもよい。
【0059】
前記長繊維強化樹脂は予備成形体であり、最終製品である成形体の成型方法に応じて適宜選択して使用することができる。
【0060】
例えば、最終製品である成形体を射出成形により形成する場合には、ペレット状の長繊維強化樹脂が好ましく、最終製品である成形体をプレス成形やインサート成形により形成する場合には、テープ状の長繊維強化樹脂が好ましい。
【0061】
そして、前記長繊維強化樹脂は、前記長繊維強化樹脂と等しい長さの繊維束を、長さ方向に配列した状態で含む。そのため、前記長繊維強化樹脂を、溶融し成形して得られる成形体は、高い機械的強度を有し、金属代替品として好適に使用することができる。
【0062】
以上、本開示の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。
【実施例0063】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例により限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【0064】
実施例1
ガラス繊維60重量部を予熱して開繊した後、120℃に加温した窒素ガスを供給したチャンバー(酸素濃度:1%、チャンバー内温度:120℃)を通過させ(ガラス繊維のチャンバー内滞在時間:0.1秒)、その後、ダイボックスに引き込んだ。
ポリアミド66ホモポリマー(INVISTA U3600 NC01、インビスタジャパン合同会社)38重量部に銅系熱安定剤2重量部を添加したナイロン66樹脂を溶融混錬し、これを供給口からダイボックス内に供給して、ダイボックス内に引き込んだガラス繊維を引取速度35m/分で引き取りつつ、前記溶融混練したナイロン66樹脂を含浸させた。
その後、冷却槽にて水冷し、乾燥させたて、連続繊維強化樹脂を得た。続いて、得られた連続繊維強化樹脂を、ペレタイザーを使用して裁断して、ペレット状の長繊維強化樹脂(長さ:11mm)を得た。
【0065】
得られた長繊維強化樹脂1600~1800kgのうち800~900gを無作為に取り分けて目視で観察した。そして、黒茶色に変色した部分が長繊維強化樹脂表面の0.07mm2以上を占めるものを酸化物とし、これを計数して100g当たりの数値で表した。結果を表1に示す。
【0066】
実施例2、比較例1
チャンバー内に供給する窒素ガスの流量及び風速を表1に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
実験例
チャンバー内へ供給する窒素ガスの流量、チャンバー容量、及びガラス繊維の引取速度を下記表に記載の通り変更して、チャンバー内の酸素濃度(%)への影響を確認した。結果を表2に示す。尚、使用したチャンバーの繊維束の入口開口から出口開口までの距離は58mmであった。
【0069】
【表2】
【0070】
実施例3
繊維束パッケージから引取機で引き出されたガラス繊維の進行経路にチャンバーを設けた。
前記チャンバー内に窒素ガスを風量40L/分で供給し、チャンバー内において窒素ガスを120℃に加温した。チャンバー内の酸素濃度は3%であった。
前記の通りガス条件が調整されたチャンバーに、入口からガラス繊維を引き入れ、出口から引き出した(ガラス繊維のチャンバー内滞在時間:約0.1秒)。
ガラス繊維をチャンバー内に引き入れる際の同伴空気量は6.4L/分であった。また、チャンバー内に引き入れるガラス繊維が包含するガス全量に占める酸素の割合は21%であった。
チャンバーから引き出されたガラス繊維が包含するガス全量に占める酸素の割合は3%であった。
【0071】
実施例4
チャンバー内に供給する窒素ガスの風量を90L/分に変更した以外は実施例3と同様に行った。その結果、チャンバー内の酸素濃度は1%となり、チャンバーから引き出されたガラス繊維が包含するガス全量に占める酸素の割合は1%であった。
【符号の説明】
【0072】
1 チャンバー
2 入口開口
3 出口開口
4 不活性ガス供給口
5 チャンバーの天井部
6 酸素濃度計
7 繊維束の進行経路
10 繊維束パッケージ
11 開繊装置
12 ダイボックス
13 可塑化装置
14 賦形ダイ
15 冷却槽
16 引取機
17 裁断機
図1
図2