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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019622
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】紙製産業用ワイパー
(51)【国際特許分類】
   A47L 13/16 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
A47L13/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124507
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 創
【テーマコード(参考)】
3B074
【Fターム(参考)】
3B074AA04
3B074AB01
3B074AC02
(57)【要約】
【課題】吸水性(単位重量当たりの吸水量、吸水速度)、拭き取り性、触感の良さ及び丈夫さを兼ね備える紙製産業用ワイパーを提供する。
【解決手段】坪量が18.7g/m以上26.7g/m以下、紙厚が0.78mm/10プライ以上1.25mm/10プライ以下、クレープ高さが22.0μm以上41.5μm以下、クレープ数が15本/6mm以上32本/6mm以下、ティッシュソフトネス測定装置TSAによるD値が1.2mm/N以上2.8mm/N以下である原紙を、2プライ以上6プライ以下にプライアップし、エンボス加工を施して一体化したことを特徴とする、紙製産業用ワイパーを提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
坪量が18.7g/m以上26.7g/m以下、紙厚が0.78mm/10プライ以上1.25mm/10プライ以下、クレープ高さが22.0μm以上41.5μm以下、クレープ数が15本/6mm以上32本/6mm以下、ティッシュソフトネス測定装置TSAによるD値が1.2mm/N以上2.8mm/N以下である原紙を、2プライ以上6プライ以下にプライアップし、エンボス加工を施して一体化したことを特徴とする、紙製産業用ワイパー。
【請求項2】
プライ数が3プライ又は4プライであることを特徴とする、請求項1に記載の紙製産業用ワイパー。
【請求項3】
エンボスがピンエンボスであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の紙製産業用ワイパー。
【請求項4】
前記ピンエンボスが施された部分の高さが300μm以上850μm以下であることを特徴とする、請求項3に記載の紙製産業用ワイパー。
【請求項5】
ワイパーに施された前記ピンエンボスの面積率が0.42%以上1.40%以下であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の紙製産業用ワイパー。
【請求項6】
一番近いエンボス同士のピッチが1.0mm以上3.8mm以下であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の紙製産業用ワイパー。
【請求項7】
ワイパーの坪量が56.1g/m以上106.8g/m以下であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の紙製産業用ワイパー。
【請求項8】
ワイパーの紙厚が0.40mm/製品プライ数以上0.81mm/製品プライ数以下であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の紙製産業用ワイパー。
【請求項9】
ワイパーのJIS P 8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強度が31.4N/25mm以上73.2N/25mm以下、乾燥時の横方向の引張強度が7.8N/25mm以上26.2N/25mm以下であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の紙製産業用ワイパー。
【請求項10】
ワイパーの製品形態は四つ折りであることを特徴とする、請求項1から9のいずれか1項に記載の紙製産業用ワイパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボス加工が施された紙製産業用ワイパーに関する。
【背景技術】
【0002】
パルプや古紙(セルロースのみで、不織布は含まない)を原料とする、産業用ワイパー(以下、紙製産業用ワイパーとも称する)が知られている。
【0003】
市場に出回っているものは2~6プライの物が多く、エンボスの形状(マッチドエンボス、ピンエンボス等)や商品形態(ポップアップ式、四つ折り、ハンディタイプ等)は様々である。
【0004】
紙製産業用ワイパーに求められる品質として、吸水性(水の吸収量が多い、吸水速度が速い)、丈夫さ、拭き取り性、触感の良さ等が重要となる。
【0005】
そのような紙製産業用ワイパーの先行技術文献として、例えば、特許文献1には、構成繊維がパルプ100%であり、そのパルプ中にNBKP(針葉樹クラフトパルプ)を70~100重量部含み、構成繊維100質量部に対して、湿潤紙力増強剤を0.125~1.25質量部、柔軟剤を0.01~0.5質量部添加して抄紙され、キャレンダー処理が施され、ソフトネス(ハンドルオメーター法:JIS L 1096Eに準ずる)の値が3.0~12.0g、各面のMMDの値が7.0~20.0の範囲にあるものが、使用単位毎に切り離された状態で収納され、それら切り離して収納される各紙ワイプが、ワイプ表面の摩擦係数の平均偏差(MMD)の値が大きい方の面を中にして二つ折りにされ、中に折り込まれた面同士が接するように互いに噛み合わさるように重ねられて、使用時にポップアップにより取出される、ことを特徴とする産業用紙ワイプが開示されている。
また、特許文献2には、紙シートの積層数が4以上8以下である積層体を含み、積層体の表面層の少なくとも一方の紙シートは、坪量が14.0gsm~19.0gsmであり、紙シートの開口率が2.1パーセント~7.5パーセントであり、積層体の吸水量が、300g/m~760g/mであることを特徴とする産業用拭き取りシートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5366596号公報
【特許文献2】特許第5978100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、紙製産業用ワイパーは1プライの原紙の坪量が高くなると、パルプ間の水素結合が多くなる、紙力剤の歩留まりが良くなる等の理由から強度が高く(丈夫に)なり、かつ、水分をふき取る際の吸水速度が速くなる等のメリットがある一方で、原紙の密度が高くなることで単位重量当たりの吸水量(以下、T.W.A.とも称する)が少なくなる、坪量が高く強度が高い紙は、加工機でのエンボスが入りづらく、それによりエンボスの高さが低くなった紙は単位重量当たりの吸水量が少なくなる、紙に弾力がなくなり拭き取り性が悪くなる、強度が高い紙はゴワゴワしやすいため触感が悪くなる、というデメリットがあった。
【0008】
そのため、産業用ワイパーに求められる、吸水性(単位重量当たりの吸水量、吸水速度)、拭き取り性、触感の良さ及び丈夫さを、バランスよく両立する事は難しかった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、吸水性(単位重量当たりの吸水量、吸水速度)、拭き取り性、触感の良さ及び丈夫さを兼ね備える紙製産業用ワイパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は鋭意検討を行い、原紙の坪量、紙厚、クレープ高さ、クレープ数及びティッシュソフトネス測定装置TSAによるD値を適切な数値範囲に調整し、該原紙を所定の枚数プライアップし、エンボス加工を施して一体化することで、吸水性(単位重量当たりの吸水量、吸水速度)、拭き取り性、触感の良さ及び丈夫さを兼ね備える紙製産業用ワイパーとすることができ、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
【0011】
(1)本発明の第1の態様は、坪量が18.7g/m以上26.7g/m以下、紙厚が0.78mm/10プライ以上1.25mm/10プライ以下、クレープ高さが22.0μm以上41.5μm以下、クレープ数が15本/6mm以上32本/6mm以下、ティッシュソフトネス測定装置TSAによるD値が1.2mm/N以上2.8mm/N以下である原紙を、2プライ以上6プライ以下にプライアップし、エンボス加工を施して一体化したことを特徴とする、紙製産業用ワイパーである。
【0012】
(2)本発明の第2の態様は、(1)に記載の紙製産業用ワイパーであって、プライ数が3プライ又は4プライであることを特徴とするものである。
【0013】
(3)本発明の第3の態様は、(1)又は(2)に記載の紙製産業用ワイパーであって、エンボスがピンエンボスであることを特徴とするものである。
【0014】
(4)本発明の第4の態様は、(3)に記載の紙製産業用ワイパーであって、上記ピンエンボスが施された部分の高さが300μm以上850μm以下であることを特徴とするものである。
【0015】
(5)本発明の第5の態様は、(3)又は(4)に記載の紙製産業用ワイパーであって、ワイパーに施された上記ピンエンボスの面積率が0.42%以上1.40%以下であることを特徴とするものである。
【0016】
(6)本発明の第6の態様は、(1)から(5)のいずれかに記載の紙製産業用ワイパーであって、一番近いエンボス同士のピッチが1.0mm以上3.8mm以下であることを特徴とするものである。
【0017】
(7)本発明の第7の態様は、(1)から(6)のいずれかに記載の紙製産業用ワイパーであって、ワイパーの坪量が56.1g/m以上106.8g/m以下であることを特徴とするものである。
【0018】
(8)本発明の第8の態様は、(1)から(7)のいずれかに記載の紙製産業用ワイパーであって、ワイパーの紙厚が0.40mm/製品プライ数以上0.81mm/製品プライ数以下であることを特徴とするものである。
【0019】
(9)本発明の第9の態様は、(1)から(8)のいずれかに記載の紙製産業用ワイパーであって、ワイパーのJIS P 8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強度が31.4N/25mm以上73.2N/25mm以下、乾燥時の横方向の引張強度が7.8N/25mm以上26.2N/25mm以下であることを特徴とするものである。
【0020】
(10)本発明の第10の態様は、(1)から(9)のいずれかに記載の紙製産業用ワイパーであって、ワイパーの製品形態は四つ折りであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、吸水性(単位重量当たりの吸水量、吸水速度)、拭き取り性、触感の良さ及び丈夫さを兼ね備える紙製産業用ワイパーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態に係る紙製産業用ワイパーのエンボス加工部分における断面図である。
図2】本実施形態に係る紙製産業用ワイパーのエンボス加工部分を表面から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0024】
なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0025】
<紙製産業用ワイパー>
本実施形態に係る紙製産業用ワイパー1は、図1の断面図に示すように、原紙10を、2プライ以上6プライ以下にプライアップ(積層)し、エンボス加工を施して(エンボス20を付与して)一体化したものである。このとき、プライアップするプライ数は3プライ又は4プライであることが好ましい。3プライ又は4プライであることにより、紙ワイパーとしての強度及び吸水速度に優れ、かつ、エンボス加工がしやすく、単位重量当たりの吸水量にも優れる紙製産業用ワイパー1とすることができる。
なお、紙製産業用ワイパー1の長手方向の寸法は330mm以上390mm以下であることが好ましく、幅方向の寸法は310mm以上350mm以下であることが好ましい。また、紙製産業用ワイパー1の製品形態はポップアップ式、四つ折り、ハンディタイプ等の通常の産業用ワイパー製品に用いられる形態であれば特に制限されないが、中でも四つ折りであることが好ましい。四つ折り状態であれば対象物の水分を拭き取る用途で使用した際、吸水速度が特に良好となる。
【0026】
紙製産業用ワイパー1の坪量は、56.1g/m以上106.8g/m以下であることが好ましく、60.0g/m以上101.2g/m以下であることがより好ましい。坪量を上記の数値範囲内とすることで、吸水性(単位重量当たりの吸水量、吸水速度)と丈夫さを兼ね備える紙製産業用ワイパー1とすることができる。なお、坪量は、JIS P 8124に準拠して測定される。
【0027】
また、紙製産業用ワイパー1の紙厚は0.40mm/製品プライ数以上0.81mm/製品プライ数以下であることが好ましく、0.47mm/製品プライ数以上0.74mm/製品プライ数以下であることがより好ましい。紙厚を上記の数値範囲内とすることで、吸水性(単位重量当たりの吸水量、吸水速度)と丈夫さを兼ね備える紙製産業用ワイパー1とすることができる。
なお、紙厚の単位の「製品プライ数」とは、紙製産業用ワイパー1の製品(原紙10ではなく、加工済みの紙製産業用ワイパー1)のプライを増減せずに紙厚を測定することを指す。紙厚は、JIS P 8111の条件下(23±1℃、50±2%相対湿度)でシックネスゲージ(例えば、尾崎製作所製、ダイヤルシックネスゲージ「PEACOCK」)を用い、測定荷重3.7kPa、測定子直径3mmの測定条件下に、測定子と測定台との間に試料(紙製産業用ワイパー1)を置き、測定子を1秒間に1mm以下の速度で下ろしたときのゲージを読み取ることで測定できる。
【0028】
さらに、紙製産業用ワイパー1のJIS P 8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強度は31.4N/25mm以上73.2N/25mm以下であることが好ましく、35.2N/25mm以上68.0N/25mm以下であることがより好ましい。また、紙製産業用ワイパー1のJIS P 8113に基づく乾燥時の横方向の引張強度が7.8N/25mm以上26.2N/25mm以下であることが好ましく、9.8N/25mm以上20.9N/25mm以下であることがより好ましい。乾燥時の各々の方向の引張強度がいずれも上記の数値範囲内であることにより、強度が高い(丈夫な)紙製産業用ワイパー1とすることができる。なお、乾燥時の各々の方向の引張強度は、いずれもJIS P 8113に準拠して測定される。
【0029】
(エンボス)
本実施形態に係る紙製産業用ワイパー1に施されるエンボス加工(付与されるエンボス20)は、マッチドエンボス、ピンエンボス等の通常の紙製品に用いられるエンボスであれば特に制限されないが、中でもピンエンボスであることが好ましい。
ピンエンボスである場合の、紙製産業用ワイパー1におけるピンエンボスが施された部分の高さ、すなわち図1に示すエンボス20の高さ(エンボス高さH)は300μm以上850μm以下であることが好ましく、420μm以上700μm以下であることがより好ましい。エンボス高さHが上記の数値範囲内であることにより、吸水性(単位重量当たりの吸水量、吸水速度)に優れる紙製産業用ワイパー1とすることができる。なお、エンボス高さHは紙製産業用ワイパー1のエンボス20の高さを3D顕微鏡VR-3000(株式会社キーエンス製)で測定し、測定した30点の平均値として求める。
【0030】
また、図2に示す紙製産業用ワイパー1のエンボス加工部分を表面(すなわち、エンボス20の凹側)から見た平面図において、一番近いエンボス20同士のピッチ(エンボスピッチD)が1.0mm以上3.8mm以下であることが好ましく、1.5mm以上3.2mm以下であることがより好ましい。エンボスピッチDが上記の数値範囲内であることにより、吸水性(単位重量当たりの吸水量、吸水速度)に優れる紙製産業用ワイパー1とすることができる。なお、エンボスピッチDは紙製産業用ワイパー1のエンボス20同士の距離を顕微鏡VHX-6000(株式会社キーエンス製)で測定し、測定した30点の距離の平均値として求める。
【0031】
さらに、紙製産業用ワイパー1に施されたエンボス20(ピンエンボス)の面積率が0.42%以上1.40%以下であることが好ましく、0.57%以上1.05%以下であることがより好ましい。面積率が上記の数値範囲内であることにより、吸水性(単位重量当たりの吸水量、吸水速度)に優れる紙製産業用ワイパー1とすることができる。なお、面積率は紙製産業用ワイパー1の表面の穴(エンボス20)の一番上部(表面に近い部分)を顕微鏡VHX-6000(株式会社キーエンス製)で面積計測し、計測した30点の平均値を、単位面積当たりの割合(面積率)に換算することで求める。
【0032】
(原紙)
紙製産業用ワイパー1の製造に用いる(プライアップする前の)原紙10は、原料に用いるパルプが晒パルプ(白)、未晒パルプ(茶色)のいずれであっても問題ないが、吸水速度の観点から晒パルプ(白)を用いることが好ましい。
また、原料配合は針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプ、ミルクカートンから再生したパルプ(MSF)等を用いる事ができるが、吸水性の観点からバージンパルプ100%とすることが好ましい。また、最終的な紙製産業用ワイパー1の強度の観点から、針葉樹クラフトパルプ80%以上とすることがより好ましく、100%とすることが更に好ましい。
【0033】
上記のように原料配合して製造した原紙10の坪量は18.7g/m以上26.7g/m以下であり、20.0g/m以上25.3g/m以下であることが好ましい。原紙10の坪量を上記の数値範囲内とすることで、吸水性(単位重量当たりの吸水量、吸水速度)と丈夫さを兼ね備える紙製産業用ワイパー1とすることができる。
【0034】
また、原紙10の紙厚が0.78mm/10プライ以上1.25mm/10プライ以下であり、0.89mm/10プライ以上1.13mm/10プライ以下であることが好ましい。原紙10の紙厚を上記の数値範囲内とすることで、吸水性(単位重量当たりの吸水量、吸水速度)と丈夫さを兼ね備える紙製産業用ワイパー1とすることができる。
【0035】
さらに、原紙10のクレープ高さが22.0μm以上41.5μm以下であり、27.2μm以上36.7μm以下であることが好ましい。また、原紙10のクレープ数が15本/6mm以上32本/6mm以下であり、20本/6mm以上29本/6mm以下であることが好ましい。原紙10のクレープ高さ及びクレープ本数をいずれも上記の数値範囲内とすることで、原紙10の紙厚や紙のコシ等が適切な範囲となり、プライアップ後に適切な大きさ、深さのエンボスを施すことができ、吸水性(単位重量当たりの吸水量、吸水速度)、触感の良好さ及び丈夫さを兼ね備える紙製産業用ワイパー1とすることができる。
クレープとは原紙10の製造工程において、抄紙機によって原紙10が長手方向に機械的に圧縮されることにより形成される波状の皺であり、原紙10の嵩(バルク感)、柔らかさ、吸水性、表面の滑らかさ、美観(クレープの形状)、伸び等を一層向上させることができる。クレープ高さ及びクレープ本数の測定は、例えば、特開2019-051028号公報に記載されている測定方法を用いて測定することができる。
【0036】
また、原紙10のティッシュソフトネス測定装置TSAによるD値が1.2mm/N以上2.8mm/N以下であり、1.5mm/N以上2.5mm/N以下であることが好ましい。原紙10のD値を上記の数値範囲内とすることで、原紙10の紙厚や紙のコシ等が適切な範囲となり、プライアップ後に適切な大きさ、深さのエンボスを施すことができ、吸水性(単位重量当たりの吸水量、吸水速度)、拭き取り性及び丈夫さを兼ね備える紙製産業用ワイパー1とすることができる。
【0037】
このときのD値とは、ティッシュソフトネス測定装置TSA(emtec社製;Tissue Softness Analyzer)により、試料台に設置した原紙10のサンプルに対し、ブレード付きロータを回転させずに100mNと600mNの押し込み圧力でそれぞれ上から押し込んだとき、それぞれ押し込み圧力100mNと600mNの間での上記サンプルの上下方向の変形変位量で表される、原紙10の剛性(クッション性)を示す数値である。
なお、ティッシュソフトネス測定装置TSAを使用したD値の測定方法や、これに用いられる測定装置については、例えば、特開2013-236904号公報に詳細に記載されている。ティッシュソフトネス測定装置TSAを使用した各種測定方法については、上記の特許文献を参照されたい。
【0038】
原紙10の段階で強度の調整をする場合は、DDR(ダブルディスクリファイナ)での叩解、湿潤紙力剤や乾燥紙力剤の添加等の方法を適宜選択することができるが、DDRでの叩解を強めると紙が引き締まり(クッション性が低下し)、エンボス20の入りが悪くなることから、湿潤紙力剤、乾燥紙力剤を添加することで強度を出す方法が好ましい。
【0039】
湿潤紙力剤としては特に限定されないが、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン系のものが好ましい。また、乾燥紙力剤を併用しても良く、乾燥紙力剤はPAM系が好ましい。また、湿潤紙力剤は、その助剤を含有してもよく、湿潤紙力剤の助剤としては、アニオン性ポリアクリルアミド系樹脂が好ましい。吸水速度の観点から、紙力剤及び助剤の添加率は、絶乾パルプ重量に対して1.0%以下であることが好ましい。薬剤の添加量が多いと、吸水速度に劣る場合がある。
【0040】
以上説明したとおり、本実施形態によれば、吸水性(単位重量当たりの吸水量、吸水速度)、拭き取り性、触感の良さ及び丈夫さを兼ね備える紙製産業用ワイパー1を提供することができる。
【実施例0041】
以下の実施例及び比較例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0042】
表1及び表2に示す各条件において、実施例1~16及び比較例1~13のそれぞれの紙製産業用ワイパー(製品)を作製し、以下の評価を行った。なお、下記の評価以外の各パラメーターは、上述した基準又は測定方法に従って行った。
【0043】
(水分をふき取る用途で使用した際の丈夫さ)
使用時の丈夫さに関する官能評価は、50名を対象にして行われ、各人が1点から5点で評価した。総合的な評価は下記の基準で行った。
「優◎」:特に破れづらく繰り返し使用できる。50名の評価の平均点が4.0点以上
「良○」:破れづらく問題なく使用できる。平均点が3.0点以上4.0点未満
「可△」:部分的にワイパーが破れることがあるものの、使用に大きな支障はない。平均点が2.0点以上3.0点未満
「不可×」:ワイパーが破れやすく、拭き取り作業に支障をきたす。平均点が2.0点未満
【0044】
(水分を拭き取る用途で使用した際の拭き取り性)
拭き取り性に関する官能評価は、50名を対象にして行われ、各人が1点から5点で評価した。総合的な評価は下記の基準で行った。
「優◎」:紙に適度な弾力があり、特にスムーズに拭き取ることができる。50名の評価の平均点が4.0点以上
「良○」:紙に弾力があり、スムーズに拭き取ることができる。平均点が2.0点以上4.0点未満
「不可×」:紙に弾力が足りず、スムーズに拭き取ることができない。平均点が2.0点未満
【0045】
(乾いた状態でワイパー表面を触った際の触感)
ワイパーの触感に関する官能評価は、50名を対象にして行われ、各人が1点から5点で評価した。総合的な評価は下記の基準で行った。
「優◎」:非常に滑らかであり、触感が特に良好であると感じる。50名の評価の平均点が4.0点以上
「良○」:滑らかであり、触感が良好であると感じる。平均点が3.0点以上4.0点未満
「可△」:適度な滑らかさがあり、触感が良いと感じる。平均点が2.0点以上3.0点未満
「不可×」:表面に滑らかさがなく、触感が悪いと感じる。平均点が2.0点未満
【0046】
(T.W.A.)
吸水性の評価のうち単位重量当たりの吸水量(T.W.A.)に関しては、以下の測定方法で測定したT.W.A.の数値について、下記の基準で行った。
3.2g/g以上:優◎→特に多くの水分を吸収することができる。
2.8g/g以上、3.2g/g未満:良○→多くの水分を吸収することができる。
2.4g/g以上、2.8g/g未満:可△→適量の水分を吸収することができる。
2.4g/g未満:不可×→水分吸収量が少なく、ワイパー用途としての使用に支障がある。
【0047】
単位重量当たりの吸水量(T.W.A.;Total Water Absorbency)は、まず、得られた紙製産業用ワイパーを76×76mmの正方形の試験片に切断し、乾燥質量(W1)を測定した。その後、この試験片を蒸留水中に2分間浸漬した後、試験片の1つの角部が上側の頂部となるようにし、この頂部と隣接する2つの角部とを支持して展伸した状態(RH100%)で吊るし、30分放置後の質量(W2)を測定した。そして、(W2-W1)の値を算出し、この値をサンプル1mあたりの保水量(g/m)に換算した後、製品の坪量(g/m)で割り返し、原料パルプ1g当たりの単位重量当たりの吸水量(T.W.A.)とした。
【0048】
(吸水速度)
吸水性の評価のうち吸水速度に関しては、0.1mlの水を滴下した際の吸収する(光の反射がなくなる)までの秒数(いわゆる点滴吸水度)について、下記の基準で行った。
1.5秒未満:優◎→水分を特に素早く吸収することができる。
1.5秒以上、2.0秒未満:良○→水分を素早く吸収することができる。
2.0秒以上、3.0秒未満:可△→適切な時間で水分を吸収することができる。
3.0秒以上:不可×→水分の吸収速度が遅く、ワイパー用途としての使用に支障がある。
【0049】
表1に、各実施例の条件及び評価結果を示し、表2に、各比較例の条件及び評価結果を示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
以上より、本実施例によれば吸水性(単位重量当たりの吸水量、吸水速度)、拭き取り性、触感の良さ及び丈夫さを兼ね備える紙製産業用ワイパーが得られることが少なくとも確認された。
【符号の説明】
【0053】
1 紙製産業用ワイパー
10 原紙
20 エンボス
D エンボスピッチ
H エンボス高さ
図1
図2