(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019687
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】空間浮遊映像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 30/56 20200101AFI20230202BHJP
【FI】
G02B30/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124616
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391019681
【氏名又は名称】株式会社コムテック
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 宏明
(72)【発明者】
【氏名】平田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】尾澤 康行
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 崇人
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 睦己
【テーマコード(参考)】
2H199
【Fターム(参考)】
2H199BA32
2H199BB10
2H199BB12
2H199BB15
2H199BB20
2H199BB52
(57)【要約】
【課題】車両内での使用に好適で、視認性の高い空間浮遊映像を表示できる技術を提供する。本発明によれば、持続可能な開発目標の「3すべての人に健康と福祉を」、「9産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献する。
【解決手段】空間浮遊映像表示装置は、車両内の天井またはバックミラーの近傍の位置に取り付け可能である、映像表示装置1が収納された筐体106を備える。筐体106の外側には、所定の角度で配置された、偏光分離部材101と、λ/4板21が設けられた再帰反射部材2とを備える。映像表示装置1からの特定偏波の映像光は、偏光分離部材101で反射され、再帰反射部材2で再帰反射され、λ/4板21の通過によって偏光変換され、偏光変換後の映像光は、偏光分離部材101を透過し、所定の位置に、空間浮遊映像3を表示する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間浮遊映像を表示する空間浮遊映像表示装置であって、
映像制御部が収納された第1筐体と、
前記第1筐体と有線または無線で接続され、車両内の天井またはバックミラーの近傍の位置に取り付け可能である、映像表示装置が収納された第2筐体と、
前記第2筐体の外側で、前記映像表示装置に対し所定の角度で斜めに配置された偏光分離部材と、
前記第2筐体の外側で、前記偏光分離部材に対し所定の角度で斜めに配置され、再帰反射面にλ/4板が設けられた再帰反射部材と、
を備え、
前記映像表示装置は、光源装置と、映像源としての液晶表示パネルとを有し、
前記液晶表示パネルから出射する特定偏波の映像光は、前記偏光分離部材で反射され、前記再帰反射部材に入射して再帰反射され、前記λ/4板の通過によって偏光変換されることで他方の偏波の映像光となり、前記他方の偏波の映像光は、前記偏光分離部材を透過し、透過した映像光に基づいて、所定の位置に、実像である空間浮遊映像を表示する、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項2】
請求項1記載の空間浮遊映像表示装置において、
前記再帰反射部材は、前記偏光分離部材からの映像光の入射角度が、0度から10度までの範囲内から選択された角度となるように配置されている、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項3】
請求項2記載の空間浮遊映像表示装置において、
前記再帰反射部材は、前記偏光分離部材からの映像光の入射角度が0度となるように配置されている、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項4】
請求項2記載の空間浮遊映像表示装置において、
前記再帰反射部材は、前記偏光分離部材からの映像光の入射角度が10度となるように、前記映像表示装置に対し垂直に配置されている、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項5】
請求項1に記載の空間浮遊映像表示装置において、
前記第2筐体から下側に、前記偏光分離部材および前記再帰反射部材が吊り下げられている、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項6】
請求項1記載の空間浮遊映像表示装置において、
前記偏光分離部材および前記再帰反射部材は、前記第2筐体に対し、支柱によって支持されている、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項7】
請求項6記載の空間浮遊映像表示装置において、
前記支柱の表面は、外光反射防止のための遮光性を有する、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項8】
請求項6に記載の空間浮遊映像表示装置において、
前記支柱は、透明部材を用いて構成されている、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項9】
請求項1に記載の空間浮遊映像表示装置において、
前記偏光分離部材は、反射型偏光板、あるいは特定偏波を反射させる金属多層膜から形成されている、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項10】
請求項1に記載の空間浮遊映像表示装置において、
前記映像表示装置は、前記液晶表示パネルの映像光出射側に設けられた吸収型偏光板を有する、または、前記液晶表示パネルの映像表示面に反射防止膜が設けられている、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項11】
請求項1記載の空間浮遊映像表示装置において、
前記再帰反射部材の再帰反射面の面粗さは、前記空間浮遊映像のボケ量と前記映像表示装置の画素サイズとの比率が40%以下となるように設定されており、
前記光源装置は、
点状または面状の光源と、
前記光源からの光の発散角を低減する光学素子部と、
前記光源からの光を特定方向の偏光に揃える偏光変換部と、
前記光源からの光を前記液晶表示パネルに伝搬する反射面を有する導光体と、
を備え、
前記反射面の形状と面粗さによって前記液晶表示パネルからの映像光の映像光束を制御する、
空間浮遊映像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間浮遊映像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空間浮遊映像表示装置の一例として、特許文献1は「情報処理装置のCPUは、空気中に形成される像へのユーザの接近方向を検知する接近方向検知部と、入力が検知された座標を検知する入力座標検知部と、操作の受け付けを処理する操作受付部と、受け付けた操作に応じて操作画面を更新する操作画面更新部とを備える。CPUは、ユーザが予め定めた方向から像に接近する場合、ユーザの動きを操作として受け付け、操作に応じた処理を実行する。」とする記載を開示している(要約抜粋)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1の空間浮遊映像表示装置は、空間浮遊映像の操作性を向上させることはできても、空間浮遊映像の見た目の解像度やコントラストの向上については考慮されておらず、更なる映像品質の向上が求められているという実情がある。
【0005】
空間浮遊映像表示装置の用途は幅広く、サイネージ(広告用看板)として用いれば、従来の平面ディスプレイには無い「空間に映像が浮かんで表示される」という珍しさから、多くの人の関心を引き寄せるという効果がある。また、特許文献1にも記載されたように、空間浮遊映像を何等かの操作を行うためのヒューマン・インタフェースとして用いれば、その無接触という特徴から、押しボタン等の接触部分を媒介としたウイルス感染を防止する効果を得ることができる。
【0006】
一方、空間浮遊映像装置を自動車等の車両内に手軽に設置することができれば、空間浮遊映像として表示される人の映像(以下、コンシェルジュ)が、例えば、道案内やPOI(Point Of Interest)情報を運転者(ドライバ)に伝えることができる。また逆に、運転者が、上記コンシェルジュに対して、エアコンの温度設定や音楽の選曲などを音声等による手段で指示し、それに対して、上記コンシェルジュが音声で応答することができれば、通常のボタン操作による指示よりも、見た目にも楽しく、より安全で快適な運転支援が可能となる。上記コンシェルジュによる音声の発声や、運転者の音声認識や応答は、すでに車両に備えられた公知の技術を用いて、実現することができる。
【0007】
本発明の目的は、特に、車両内での使用に好適で、視認性の高い空間浮遊映像を表示することができる空間浮遊映像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、以下の通りである。空間浮遊映像を表示する空間浮遊映像表示装置であって、映像制御部が収納された第1筐体と、前記第1筐体と有線または無線で接続され、車両内の天井またはバックミラーの近傍の位置に取り付け可能である、映像表示装置が収納された第2筐体と、前記第2筐体の外側で、前記映像表示装置に対し所定の角度で斜めに配置された偏光分離部材と、前記第2筐体の外側で、前記偏光分離部材に対し所定の角度で斜めに配置され、再帰反射面にλ/4板が設けられた再帰反射部材と、を備え、前記映像表示装置は、光源装置と、映像源としての液晶表示パネルとを有し、前記液晶表示パネルから出射する特定偏波の映像光は、前記偏光分離部材で反射され、前記再帰反射部材に入射して再帰反射され、前記λ/4板の通過によって偏光変換されることで他方の偏波の映像光となり、前記他方の偏波の映像光は、前記偏光分離部材を透過し、透過した映像光に基づいて、所定の位置に、実像である空間浮遊映像を表示する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特に車両内で使用するのに好適で、車両内に設置しやすく、視認性の高い空間浮遊映像を表示することができる空間浮遊映像表示装置を実現できる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施例に係る空間浮遊映像表示装置の使用形態の一例を示す図である。
【
図2】本発明の一実施例に係る空間浮遊映像表示装置の主要部構成の一例としてV型の構成を示す図である。
【
図3】本発明の一実施例に係る空間浮遊映像表示装置の主要部構成の一例としてZ型の構成を示す図である。
【
図5】再帰反射部材の表面粗さと再帰反射像(空間浮遊映像)のボケ量の関係を表す特性図である。
【
図7】本発明の一実施例に係る空間浮遊映像表示装置の外観を示す配置図である。
【
図8A】本発明の一実施例(第1実施例)に係る空間浮遊映像表示装置の構造を示す図である。
【
図8B】本発明の一実施例(第2実施例)に係る空間浮遊映像表示装置の構造を示す図である。
【
図9】本発明の一実施例に係る車載用空間浮遊映像表示装置の車両内部への設置例(第1設置例)を示す図である。
【
図10】本発明の一実施例に係る空間浮遊映像表示装置の車両内部への他の設置例(第2設置例)を示す図である。
【
図11】本発明の一実施例に係る空間浮遊映像表示装置における、支柱に関する構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。図面において、同一部には原則として同一符号を付し、繰り返しの説明を省略する。図面において、各構成要素の表現は、発明の理解を容易にするために、実際の位置、大きさ、形状、および範囲等を表していない場合がある。説明上、プログラムによる処理について説明する場合に、プログラムや機能や処理部等を主体として説明する場合があるが、それらについてのハードウェアとしての主体は、プロセッサ、あるいはそのプロセッサ等で構成されるコントローラ、装置、計算機、システム等である。計算機は、プロセッサによって、適宜にメモリや通信インタフェース等の資源を用いながら、メモリ上に読み出されたプログラムに従った処理を実行する。これにより、所定の機能や処理部等が実現される。プロセッサは、例えばCPUやGPU等の半導体デバイス等で構成される。プロセッサは、所定の演算が可能な装置や回路で構成される。処理は、ソフトウェアプログラム処理に限らず、専用回路でも実装可能である。専用回路は、FPGA、ASIC、CPLD等が適用可能である。プログラムは、対象計算機に予めデータとしてインストールされていてもよいし、プログラムソースから対象計算機にデータとして配布されてインストールされてもよい。プログラムソースは、通信網上のプログラム配布サーバでもよいし、非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体(メモリカード等)等でもよい。プログラムは、複数のモジュールから構成されてもよい。コンピュータシステムは、複数台の装置によって構成されてもよい。コンピュータシステムは、クライアントサーバシステム、クラウドコンピューティングシステム等で構成されてもよい。各種のデータや情報は、例えばテーブルやリスト等の構造で構成されるが、これに限定されない。識別情報、識別子、ID、名、番号等の表現は互いに置換可能である。
【0012】
<実施の形態>
実施の形態の空間浮遊映像表示装置は、映像源である映像表示装置を含み、映像表示装置は、空間浮遊映像を形成する特定偏波の映像光(例えばS偏光)を発する映像表示素子である液晶表示パネルと、液晶表示パネルにバックライト(言い換えると光源光)を発生する光源装置と、偏光分離部材(言い換えるとビームスプリッタ)と、再帰反射面上に位相差板(言い換えるとλ/4板)が設けられた再帰反射部材とを備える。S偏光(直交偏光)は、入射面に対して垂直方向に偏光していること(ここで、Sはドイツ語のSenkrechtの略)を指す。
【0013】
映像表示装置における光源装置からのバックライトに基づいて液晶表示パネルから発せられた特定偏波(例えばS偏光)の映像光は、まずビームスプリッタ(言い換えると偏光分離部材)に向かう。ビームスプリッタは、液晶表示パネルからの特定偏波の映像光を反射する。ビームスプリッタにより反射された映像光は、再帰反射部材に向かう。再帰反射部材には、再帰反射面である表面に位相差板(λ/4板)が設置されている。液晶表示パネルからの特定偏波の映像光に基づいてビームスプリッタで反射された映像光は、再帰反射部材の表面で再帰反射される。この特定偏波の映像光は、再帰反射部材への入光時と再帰反射部材からの反射時との計2回、位相差板(λ/4板)を通過することで、偏光変換される。即ち、その特定偏波の映像光は、他方の偏波(例えばP偏光)に変換される。P偏光(平行偏光)は、入射面に対して水平方向に偏光していることを指す(ここで、PはParallelの略)。
【0014】
再帰反射部材で反射された、偏光変換後の他方の偏波の映像光は、ビームスプリッタへ向かう。ビームスプリッタは、他方の偏波の映像光を透過させる。ビームスプリッタを透過した他方の偏波の映像光は、ビームスプリッタを挟んで再帰反射部材とは反対側の所定の位置に、実像である空間浮遊映像を形成・表示する。
【0015】
実施の形態での映像表示装置は、空間浮遊映像のコントラスト性能を改善するために、光源装置からの光源光を特定方向の偏光に揃える偏光変換部を設けてもよい。例えば、光源装置は、点状または面状の光源と、光源からの光の発散角を低減する光学素子部と、光源からの光を特定方向の偏光に揃える偏光変換部と、光源からの光を液晶表示パネルに伝搬する反射面を有する導光体とを備え、反射面の形状と面粗さによって液晶表示パネルからの映像光の映像光束を制御する。
【0016】
実施の形態の空間浮遊映像表示装置は、限定しないが、特に車両内での使用を考慮し、車両内の天井またはバックミラーの近傍に設置可能な、空間浮遊映像表示部と、その空間浮遊映像表示部とは分けて設けられた映像制御部とを有する。映像制御部は、第1筐体に実装・収納される。第1筐体の映像制御部は、第2筐体の映像表示装置に対し供給すべき映像信号や制御信号を生成する映像信号処理回路、映像素材を蓄積したメモリ、車両のバッテリーから供給された電圧を所定の電圧に変換するための電源回路等を含む。第1筐体と第2筐体とは、有線または無線で接続される。第1筐体は、車両のダッシュボード上に設置されてもよいし、運転者や同乗者からは見えない場所(例えばグローブボックス内)に設置されてもよい。
【0017】
空間浮遊映像表示部は、薄型である第2筐体に実装・収納された映像表示装置と、第2筐体の外側に配置された光学系として、偏光分離部材(ビームスプリッタ)、および、λ/4板が設けられた再帰反射部材を有する。第2筐体内には、視認性の高い空間浮遊映像を生成するための映像表示装置が内蔵されている。映像表示装置からは映像光を第2筐体の開口部を通じて下方のビームスプリッタへ向けて出射する。第2筐体の外に配置された光学系は、筐体で覆わずに、第2筐体の下側に支柱を介して吊り下げられるようにして配置されている。
【0018】
第2筐体の下側には、ビームスプリッタが所定の角度で斜めに傾いて配置されている。ビームスプリッタの後側には、再帰反射部材が配置されている。ビームスプリッタで反射された映像光は、再帰反射部材に向けて、やや斜め上方向に進む。再帰反射部材は、ビームスプリッタからの映像光の入射角度が0度から10度程度の範囲内の所定の角度となるように配置されている。再帰反射部材で反射された映像光は、ビームスプリッタに向けて戻るようにやや斜め下方向に進む。その映像光は、そのままビームスプリッタを透過してやや斜め下方向に進んで、所定の距離の位置に、空間浮遊映像を形成する。
【0019】
[空間浮遊映像表示装置]
以下の実施例は、例えば、大面積な映像発光源からの映像光による映像を、ショーウィンドのガラス等の空間を仕切る透明部材を介して透過して、店舗の空間の内部または外部に空間浮遊映像として表示可能な空間浮遊映像表示装置に関する。また、以下の別の実施例は、上記実施例とは別に、小面積(例えば、2~5インチ程度)の映像発光源からの映像光による映像を、後述するビームスプリッタおよび再帰反射板等で構成された光学系を用いた、車両内での空間浮遊映像の表示に供せられる空間浮遊映像表示装置に関する。
【0020】
なお、以下の実施例の説明では、空間に浮遊する映像を「空間浮遊映像」という用語で表現している。この用語の代わりに、「空中像」、「空中浮遊映像」、「表示映像の空間浮遊光学像」、「表示映像の空中浮遊光学像」等と表現しても構わない。実施例の説明で用いる「空間浮遊映像」との用語は、これらの用語の代表例として用いている。
【0021】
以下の実施例によれば、例えば、ショーウィンドのガラス面や光透過性の板材上に高解像度な映像情報を空間浮遊した状態で表示可能となる。また、実施例の空間浮遊映像表示装置は、車両内部のような限られた空間においても設置可能であり、車両外部からの太陽光等の強い光が差し込む状態にあっても、従来の液晶表示パネル等のように外光反射によって視認性が著しく低下するようなことが無い空間浮遊映像を、運転者等の人に対して提示可能となる。
【0022】
従来技術例の空間浮遊映像表示装置では、高解像度なカラー表示映像源としての有機ELパネルや液晶表示パネルを、再帰反射部材と組み合わせて用いている。従来技術例の空間浮遊映像表示装置では、映像光が広角で拡散するため、以下のような課題があった。
【0023】
図4に示すように、再帰反射部材2(再帰反射板、あるいは再帰反射シートと記載する場合もある)において、再帰反射素子である再帰反射部2aが6面体である。そのために、再帰反射部材2で正規に反射する反射光によって形成される正規像の他に、再帰反射部材2に斜めから入射する映像光よってゴースト像が発生し、空間浮遊映像の画質を損ねるという課題があった。
【0024】
また、
図5に示すように、映像源である映像表示装置からの映像光を再帰反射部材2で反射させて得られた空間浮遊映像は、上述したゴースト像の他に、液晶表示パネルの画素ごとにボケが生じるという課題もあった。
【0025】
図1は、本発明の一実施例に係る空間浮遊映像表示装置の使用形態の一例と構成例を示す。
図1の(A)は、本実施例に係る空間浮遊映像表示装置の全体構成を示す。例えば、店舗等においては、ガラス等の透光性の部材(透明部材)であるショーウィンド(ウィンドガラス105)により空間が仕切られている。本実施例の空間浮遊情報表示装置によれば、かかる透明部材を透過して、空間浮遊映像を店舗の空間の外部に対して一方向に表示することが可能である。
【0026】
具体的には、映像表示装置1から狭角な指向特性でかつ特定偏波の光が、映像光束として出射し、再帰反射部材2に一旦入射し、再帰反射してウィンドガラス105を透過して、店舗の空間の外側に、実像である空中像として空間浮遊映像3を形成する。
図1では、ウィンドガラス105の内側(例えば店舗内)を奥行方向にしてウィンドガラス105の外側(例えば歩道)が手前になるように示している。他方、ウィンドガラス105に特定偏波を反射する手段を設けることで、その手段によって映像光束を反射させ、店舗内の所望の位置に空中像を形成することもできる。
【0027】
図1の(B)は、上述した映像表示装置1の構成例を示すブロック図である。映像表示装置1は、空中像の原画像を表示する映像表示部1aと、入力された映像をパネルの解像度に合わせて変換する映像制御部1bと、映像信号を受信する映像信号受信部1cと、受信アンテナ1dとを含んでいる。映像信号受信部1cは、USB(Universal Serial Bus:登録商標)入力やHDMI(High-Definition Multimedia Interface:登録商標)入力等の有線での入力信号への対応と、Wi-Fi(Wireless Fidelity:登録商標)等の無線入力信号への対応とを行い、映像受信・表示装置として単独で機能するものでもあり、タブレットやスマートフォン等からの映像情報を表示することもできる。更に、ステックPC等を接続すれば、計算処理や映像解析処理等の能力を持たせることもできる。
【0028】
[空間浮遊映像表示装置 V型]
図2は、一実施例に係る空間浮遊映像表示装置の主要部の構成例を示す。
図2の実施例は、映像表示装置1と、再帰反射部材(言い換えると再帰反射板)2とが、略V字型に配置されている構成(以下、V型と記載)を示す。
図2に示すように、V型の構成では、ガラス等の透明部材100(本例では水平方向に配置されている)に対する斜め方向(光軸A1に対応する方向)には、特定偏波の映像光を発生する映像表示装置1を備える。また、透明部材100に対する他の斜め方向(光軸A2に対応する方向)には、再帰反射部材2を備える。映像表示装置1は、光源装置13、液晶表示素子である液晶表示パネル11、吸収型偏光板12等で構成されている。透明部材100には、設けられた特定偏波の映像光を選択的に反射する膜を有するビームスプリッタ101(偏光分離部材)が設けられている。本例では、ビームスプリッタ101は、シート状に形成されて、透明部材100の下面に粘着されている。
【0029】
図2で、映像表示装置1の液晶表示パネル11から発する特定偏波の映像光は、光軸A1上を進んで、透明部材100に設けられたビームスプリッタ101(偏光分離部材)で反射され、光軸A2上を進んで、再帰反射部材2に入射する。再帰反射部材2の映像光入射面(言い換えると再帰反射面)には、λ/4板21が設けられている。λ/4板21は、言い換えると、偏光変換素子、位相差板、四分の一波長板である。
【0030】
ビームスプリッタ101からの光軸A2上の特定偏波の映像光は、再帰反射部材2への入射の際と出射の際との計2回、λ/4板21を通過させられることで、特定偏波(一方の偏波)から他方の偏波へ偏光変換される。ここで、特定偏波の映像光を選択的に反射するビームスプリッタ101は、偏光変換後の他方の偏波の映像光については透過する性質を有する。よって、偏光変換後の他方の偏波の映像光は、光軸A2上を進んで、ビームスプリッタ101を透過する。ビームスプリッタ101を透過した映像光は、光軸A2に対応する光軸A3の方向で、透明部材100の外側の所定の位置に、実像である空間浮遊映像3を形成・表示する。
【0031】
なお、空間浮遊映像3を形成する光は、再帰反射部材2から空間浮遊映像3の光学像へ収束する光線の集合であり、これらの光線は、空間浮遊映像3の光学像を通過後も直進する。よって、
図2の構成では、光軸A3に対応した、矢印で示す方向Aから、ユーザが視認する場合には、空間浮遊映像3は明るい映像として視認される。しかし、例えば矢印で示す方向Bから他の人が視認する場合には、空間浮遊映像3は映像として一切視認できない。このような特性は、高いセキュリティが求められる映像や、ユーザに正対する人物には秘匿したい秘匿性の高い映像を表示するシステム等に採用する場合に、非常に好適である。
【0032】
なお、再帰反射部材2の性能によっては、反射後の映像光の偏光軸が不揃いになることがある。この場合、偏光軸が不揃いになった一部の映像光は、上述したビームスプリッタ101で反射されて映像表示装置1の方に戻る。この戻った光が、映像表示装置1を構成する液晶表示パネル11の映像表示面で再反射することで、ゴースト像を発生させ、空間浮遊映像3の画質を低下させる可能性がある。そこで、本実施例では、映像表示装置1の映像表示面には吸収型偏光板12が設けられている。映像表示装置1から出射する映像光については吸収型偏光板12を透過させ、ビームスプリッタ101から戻ってくる反射光については吸収型偏光板12で吸収させる。これにより、上記再反射を抑制でき、空間浮遊映像3のゴースト像による画質低下を防止することができる。
【0033】
上述したビームスプリッタ(偏光分離部材)101は、例えば反射型偏光板や特定偏波を反射させる金属多層膜などで形成すればよい。
【0034】
[空間浮遊映像表示装置 Z型]
図3は、
図2の実施例とは異なる、一実施例に係る空間浮遊映像表示装置の主要部の構成例を示す。
図3の実施例は、映像表示装置1と再帰反射部材2(再帰反射板)とが対向して配置され、それらを結ぶ空間に、ビームスプリッタ101が、映像表示装置1と再帰反射部材2に対し互いに45度程度の角度を為して、概略的にZ字型(または、逆Z字型)に配置されている構成(以下、Z型と記載)を示している。このZ型の構成では、ガラス板等の透明部材100および吸収型偏光板112に対しては、映像表示装置1および再帰反射部材2が、90度程度の角度を為して配置されており、ビームスプリッタ101が、45度程度の角度を為して配置されている。本例では、ビームスプリッタ101は水平方向に配置されている。
【0035】
[再帰反射部材]
図4の(A)には、代表的な再帰反射部材2として、今回の検討に用いた日本カ-バイト工業株式会社製の再帰反射部材2(再帰反射板)の表面形状を示す。
図4の(A)は上面図、
図4の(B)は側面図を示す。再帰反射部材2の表面において、規則的に配列された6角柱から成る再帰反射部2aを有する。再帰反射部2aの内部に入射した光線は、6角柱の壁面と底面で反射されて、再帰反射光として、入射光に対応した方向に出射する。この出射した光は、例えば
図2や
図3に示す構成で、正規な反射像である正規像として空間浮遊映像3を形成する。一方、
図4の(B)に示したように、映像表示装置1からの映像光のうちで再帰反射部材2に対し斜めに入射した映像光によっては、正規像とは別の位置に、図示しないゴースト像が形成される。このゴースト像が空間浮遊映像3の視認性を低下させる。
【0036】
そこで、本実施例(
図3)では、映像表示装置1に表示した映像に基づき、ゴースト像を形成すること無く、実像である空間浮遊映像3を表示する。この空間浮遊映像3の解像度は、液晶表示パネル11の解像度の他に、
図4の(A)で示す再帰反射部材2の再帰反射部2aの外径DとピッチPに大きく依存する。例えば、7インチのWUXGA(1920×1200画素)の液晶表示パネル11を用いる場合には、1画素(1トリプレット)が約80μmであっても、例えば再帰反射部2aの直径Dが240μmでピッチPが300μmであれば、空間浮遊映像3の1画素は300μm相当となる。このため、空間浮遊映像3の実効的な解像度は1/3程度に低下する。そこで、空間浮遊映像3の解像度を映像表示装置1の解像度と同等にするためには、再帰反射部2aの直径DとピッチPを、液晶表示パネルの1画素に近づけることが望まれる。他方、再帰反射部材2と液晶表示パネル11の画素によるモアレの発生を抑えるためには、それぞれのピッチ比を1画素の整数倍から外して設計するとよい。また、形状は、再帰反射部2aのいずれの一辺も液晶表示パネル11の1画素のいずれの一辺と重ならないように配置した形状とするとよい。
【0037】
本発明者は、視認性を向上するために許容できる空間浮遊映像3の像のボケ量l(スモールL)と画素サイズL(ラージL)との関係を、画素ピッチ40μmの液晶表示パネル11と本実施例の狭発散角(発散角15°)の光源装置13とを組み合わせた映像表示装置1を作成して実験により求めた。
図5に、その実験結果を示す。視認性が悪化するボケ量lは、画素サイズの40%以下が望ましく、15%以下であれば殆ど目立たないことが分かった。このボケ量lが許容量となる反射面の面粗さは、測定距離40μmの範囲において平均粗さが160nm以下であり、より目立たないボケ量lとなるには、反射面の面粗さは120nm以下が望ましいことが分かった。このため、前述した再帰反射部材2の表面粗さを軽減するとともに、反射面を形成する反射膜とその保護膜を含めた面粗さを、上述した値以下とすることが望まれる。
【0038】
一方、再帰反射部材2を低価格で製造するためには、ロールプレス法を用いて成形するとよい。具体的には、再帰反射部2aを整列させてフィルム上に賦形する方法である。この方法では、賦形する形状の逆形状をロール表面に形成し、固定用のベース材の上に紫外線硬化樹脂を塗布し、ロール間を通過させることで、必要な形状を賦形し、紫外線を照射して硬化させ、所望形状の再帰反射部材2を得る。
【0039】
本実施例の映像表示装置1は、液晶表示パネル11と、特定偏波の光を生成する光源としての光源装置13(詳しくは
図6)とにより、上述した再帰反射部材2に対して斜めから映像光が入射する可能性が小さくなる。その結果、ゴースト像の発生を抑え、たとえゴースト像が発生したとしてもそのゴースト像の輝度が低いという、構造的に優れたシステムとなる。
【0040】
一方、
図3に示すZ型の空間浮遊映像表示装置の構成では、液晶表示パネル11と吸収型偏光板12と光源装置13とを有して構成された映像表示装置1は、所定の角度(例えば水平面のビームスプリッタ101に対して45度程度の角度)をもって配置されている。映像表示装置1からの映像光は、光軸B1の方向(ビームスプリッタ101に対する斜め方向)で、ビームスプリッタ101を通過し、光軸B1に対応した光軸B2の方向で、再帰反射部材2に向かって進む。
【0041】
ここで、映像表示装置1からの映像光は、特定偏波の光として、例えば、P偏光(平行偏光)の特性を有する映像光である。また、ビームスプリッタ101は、反射型偏光板のような偏光分離部材であって、映像表示装置1からのP偏光の映像光については透過するが、逆にS偏光(直交偏光)については反射する性質を有している。このビームスプリッタ101は、反射型偏光板や特定偏波を反射させる金属多層膜から形成される。
【0042】
一方、再帰反射部材2の光入射面である再帰反射面には、λ/4板21が設けられている。映像表示装置1からのビームスプリッタ101を透過したP偏光の映像光は、再帰反射部材2に対する入射と出射の際にλ/4板21を計2度通過させられることで、P偏光からS偏光に偏光変換される。この結果、再帰反射部材2からの偏光変換後のS偏光の映像光は、ビームスプリッタ101で反射され、透明部材100等に向かって進む。反射後の光軸B3に対応する方向(ビームスプリッタ101に対する斜め方向)を進んだS偏光の映像光は、ガラス板等による透明部材100および吸収型偏光板112を透過し、透明部材100等の外側の所定の位置に、実像である空間浮遊映像3を生成・表示する。
【0043】
ここで、映像表示装置1や再帰反射部材2やビームスプリッタ101等の光学部品により構成される光学系に対して、太陽光や照明光が入射することによる画質低下を軽減するためには、透明部材100の外表面に吸収型偏光板112を設けるとよい。再帰反射部材2で光が再帰反射することで偏光軸が不揃いになる場合があるため、ビームスプリッタ101では一部の映像光が反射して映像表示装置1の方に戻る場合がある。この戻った光が、再度、映像表示装置1を構成する液晶表示パネル11の映像表示面で反射することで、ゴースト像を発生させ、空間浮遊映像3の画質を著しく低下させる。
【0044】
そこで、
図2および
図3に示すいずれの実施例においても、映像表示装置1の映像表示面には吸収型偏光板12が設けられている。もしくは、映像表示装置1の表面に設けた吸収型偏光板12の映像出射側面に、図示しない反射防止膜を設けてもよい。これにより、ゴースト像を発生させる原因となる光を、吸収型偏光板12で吸収させることで、空間浮遊映像3のゴースト像による画質低下を防止する。
【0045】
さらに、
図3のZ型の構成では、再帰反射部材2に外光が直接入射すると、強力なゴースト像を発生させる。そのため、このゴースト像の発生を抑制・防止するために、この実施例では、再帰反射部材2を外光の入射方向に対して下向きに傾けることで、外光の入射を妨げる構成とする。具体的には、外光の主な入射方向を、矢印で示す方向C(ユーザが空間浮遊映像3を正面から視認する方向)に対応する方向(光軸B3のような斜め方向)とする。その場合に、再帰反射部材2は、光軸B2が、その方向C(光軸B3)に対し、例えば90度程度の関係となるように配置されている。言い換えると、再帰反射部材2の主面が、透明部材100等の主面に対し、例えば90度程度の関係となるように配置されている。これにより、方向Cで入射した場合の外光は、再帰反射部材2の主面(再帰反射面)に直接的に入射することが無いので、ゴースト像の発生が防止される。
【0046】
また、映像表示装置1についても、外光の入射方向(方向C)とは異なる向きに配置されている。具体的には、映像表示装置1の主面(映像光出射面)は、再帰反射部材2の主面と同じ向き(言い換えると平行)に配置されており、映像表示装置1の光軸B1が外光の入射方向(方向C)に対応する光軸B3に対して90度程度の関係で配置されている。また、開口部として機能する透明部材100の主面に対し方向Cで外光が入射する場合の光束の範囲を考えた場合に、その範囲の外側にやや離れた位置に映像表示装置1が配置されている。これらにより、映像表示装置1での再反射を原因とするゴースト像の発生が軽減される。
【0047】
[映像表示装置]
図6は、
図2や
図3の実施例に適用可能である映像表示装置1の構成例を示す。この映像表示装置1は、光源装置13、液晶表示パネル11、光方向変換パネル54等を有して構成されている。液晶表示パネル11の映像出射面側には、前述の吸収型偏光板12が設けられてもよい。光源装置13は、光源を構成する半導体光源(固体光源)である複数のLED素子201(LED:Light Emitting Diode)、および導光体203等を有して構成されている。
図6では、光源装置13の上に液晶表示パネル11と光方向変換パネル54が配置された状態を展開斜視図として示している。
【0048】
光源装置13は、例えば、プラスチック等のケース(図示しない)により形成され、内部にLED素子201、および導光体203を収納して構成されている。導光体203の端面には、それぞれのLED素子201からの発散光を略平行光束に変換するために、受光端面203aが設けられている。受光端面203aは、受光部に対して対面に向かって徐々に断面積が大きくなる形状を有し、内部を伝搬する際に複数回全反射することで発散角が徐々に小さくなるような作用を有するレンズ形状が設けられている。
【0049】
さらに、導光体203の上面には、導光体203に対して略平行に配置された液晶表示パネル11が取り付けられている。また、光源装置13のケースの1つの側面(
図6では下側の側面)には、複数のLED素子201が取り付けられている。複数のLED素子201からの光は、導光体203の受光端面203aの形状によって、略コリメート光(略平行光)に変換される。このため、受光端面203aの受光部とLED素子201とは、所定の位置関係を保って取り付けられている。
【0050】
光源装置13は、導光体203の端面に設けられた受光部である受光端面203aに、光源であるLED素子201が複数並べられた光源ユニットを取り付けて構成されている。LED素子201からの発散光束は、導光体203の受光端面203aのレンズ形状によって、略コリメート光とされる。この略コリメート光は、導光体203の内部を矢印で示す方向Aに導光する。方向Aは、液晶表示パネル11に対して略平行な方向(図面では下から上への方向)である。方向Aに導光した光は、導光体203に備える光束方向変換部204によって光束方向が変換されて、導光体203に対し略平行な液晶表示パネル11に向かって、矢印で示す方向Bに出射する。方向Bは、液晶表示パネル11の表示面に対して略垂直な方向である。
【0051】
導光体203は、導光体203内部または表面の形状によって、光束方向変換部204の分布(言い換えると密度)が最適化されている構成を有する。これにより、方向Bで示す光源装置13からの出射光束であって液晶表示パネル11への入射光束である光の均一性を制御することができる。
【0052】
さらに、光源装置13と液晶表示パネル11とを含んで構成される映像表示装置1において、方向Bで示す光源装置13からの出射光束の利用効率を向上させ、消費電力を大幅に低減するために、光源装置13からの方向Bの光の指向性を制御することもできる。より具体的には、光源装置13として、狭角な発散角を有する光源を構成することができる。この結果、映像表示装置1からの映像光は、レーザ光のように観察者に対して高い指向性(言い換えると直進性)で効率良く届くこととなり、高品位な空間浮遊映像を高解像度で表示できる。それとともに、光源装置13のLED素子201を含む映像表示装置1による消費電力を著しく低減可能となる。
【0053】
また、光源装置13の図示しないケースの上面に取り付けられる液晶表示パネル11の図示しないフレームには、当該フレームに取り付けられた液晶表示パネル11と、当該液晶表示パネル11に電気的に接続された図示しないフレキシブル配線基板(FPC:Flexible Printed Circuits)等とが取り付けられて構成されている。液晶表示素子である液晶表示パネル11は、LED素子201と共に、電子装置を構成する図示しない制御回路からの制御信号に基づいて、透過光の強度を変調することによって、表示映像を生成する。
【0054】
<車載用空間浮遊映像表示装置(V型)>
次に、
図7以降を用いて、実施例に係る車載用の空間浮遊映像表示装置について説明する。以降に示す各実施例の空間浮遊映像表示装置は、基本構成としては前述の
図2のV型の構成に該当する。空間浮遊映像3を形成する機能のために、空間浮遊映像表示装置の各構成要素(映像表示装置1、ビームスプリッタ101、再帰反射部材2等)は、所定の位置関係を有して相互に固定されている。
【0055】
[空間浮遊映像表示装置の外観例]
図7は、一実施例に係る、特に、車載用として好適な空間浮遊映像表示装置の外観の一例を示す。
図7の実施例の車載用の空間浮遊映像表示装置は、大別して、映像制御部300と、空間浮遊映像表示部400とを備える。
図7では、空間浮遊映像表示部400を装置正面に対して側面(図示のX方向)から見た場合の外観を示している。なお、説明上、座標系および方向として、図示の(X,Y,Z)を用いる場合がある。X方向は装置の左右方向であり、Y方向は装置の前後方向であり、Z方向は装置の上下方向である。X方向およびY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0056】
ユーザは、概略的にY方向で、空間浮遊映像表示部400によって形成される空間浮遊映像3(破線枠で示す)を視認する。装置正面は、ユーザが概略的にY方向で空間浮遊映像表示部400を視認する場合に対応した面である。詳しくは後述するが、ユーザは、装置正面に対し、視点からY方向でやや斜め上への視線方向(図示の方向Eと対応する)で、空間浮遊映像表示部400による空間浮遊映像3を好適に視認する。なお、
図7の実施例の構成のうちの特に再帰反射部材2の配置は、詳しくは、後述の
図8Bの構成(第2実施例)と対応した例を図示している。
【0057】
映像制御部300は、第1筐体である筐体107(言い換えると映像制御部収納部)に実装・収納されている。映像制御部300は、
図1の(B)の映像制御部1bおよび映像信号受信部1c等を実装した部分である。筐体107内には、映像制御部1bおよび映像信号受信部1c等の実装物である回路基板等が収納されている。映像制御部300は、前述のように映像表示装置1に対し映像信号や制御信号等を生成して供給する映像信号処理回路や、映像素材などのデータや情報を蓄積するメモリや、車両のバッテリーから供給された電圧を所定の電圧に変換するための電源回路等を含む。
【0058】
空間浮遊映像表示部400のうち、映像表示装置1(概略的に図示)は、第2筐体である筐体106(映像表示装置収納部)に実装・収納されている。筐体106内には、映像表示装置1を構成する、前述(
図2と同様)の光源装置13、液晶表示パネル11、吸収型偏光板12等が収納・固定されている。筐体107と筐体106とは、有線のケーブル105で接続されている。ケーブル105は、制御信号線や電源供給線等より成る。なお、変形例では、筐体107と筐体106とが、無線(例えばWi-Fi等の近距離無線通信インタフェース)で接続されてもよい。
【0059】
空間浮遊映像表示部400は、
図1の(B)の映像表示部1aを実装した部分であり、映像表示装置1を収納した筐体106と、筐体106の外の下側に配置された、ビームスプリッタ101、λ/4板21が設けられた再帰反射部材2、および支柱108等を有して構成されている。
図2と同様に、再帰反射部材2の再帰反射面にはλ/4板21が設けられている。例えば再帰反射部材2の表面にλ/4板21が貼り付けられている。筐体106の下面には開口部1061を有し、筐体106内の映像表示装置1からの映像光がその開口部1061を経由して下側(Z方向、
図7中の太い矢印の向き)に出射する。本実施例では、映像表示装置1から出射される特定偏波の映像光は、S偏光である。
【0060】
図7の実施例で、ビームスプリッタ101と映像表示装置1と再帰反射部材2との配置関係は、
図2と同様に、V型の構成となっている。
図7の構成要素(ビームスプリッタ101と映像表示装置1と再帰反射部材2)を図面内で回転させた場合、
図2の構成要素の配置関係と同様となる。即ち、V型の構成での配置関係は、ビームスプリッタ101に対し、映像表示装置1が45度程度で一方の斜めに配置され、再帰反射部材2が45度程度で他方の斜め(映像表示装置1に対しては90度程度)に配置されている。
図7の配置関係では、映像表示装置1(特に液晶表示パネル11)の主面が水平方向(Y方向)に配置され、映像表示装置1に対し、再帰反射部材2が90度程度に配置されている。そして、ビームスプリッタ101が映像表示装置1および再帰反射部材2に対しそれぞれ45度程度に斜め(ビームスプリッタ101の主面がY方向で後ろから前に斜め上)に配置されている。
【0061】
映像表示装置1からZ方向の下に出射したS偏光の映像光は、ビームスプリッタ101で反射されて、再帰反射部材2に向かう。ビームスプリッタ101で反射されたS偏光の映像光は、再帰反射部材2で再帰反射され、λ/板21を計2回通過することで、他方の偏波の映像光であるP偏光に偏光変換されて、ビームスプリッタ101に戻る。偏光変換後のP偏光の映像光は、ビームスプリッタ101を透過し、Y方向で前の所定の位置に、空間浮遊映像3(破線で示す)を形成・表示する。
【0062】
筐体106は「薄型筐体」と称する場合がある。ここで、薄型とは、筐体106の厚さが、鉛直方向(幅や奥行きの寸法)に対して比較的小さく抑えられていることを指す。本実施例では、図示のように、空間浮遊映像表示部400は、映像制御部300の筐体107と分けられるとともに、筐体106の外側に、ビームスプリッタ101および再帰反射部材2等を、筐体で覆わずに露出して配置した構成としている。そのため、筐体106は比較的小型(コンパクト)で、上述したように筐体の厚さが小さく抑えられた薄型となっている。
【0063】
本実施例では、液晶表示パネル11として、略3インチの液晶表示装置を採用する。これに対応して、本実施例では、薄型である筐体106の寸法・形状は、空間浮遊映像3側(Y方向)から見た場合に、幅55mm、奥行き90mm、厚さ23mmとしている。後述するが、本実施例の空間浮遊映像表示装置は、筐体106の上面部が車両室内の天井部に対し固定される。そのため、筐体106は、運転者や他の乗員から見て存在がなるべく気にならない程度に薄型形状であることが望ましい。また、筐体106には、光源装置13および液晶表示パネル11を備える映像表示装置1を収納し、さらに、光源装置13から発せられる熱を放熱するための空間も確保する必要がある。それらを考慮して、本実施例では、筐体106の厚さを23mmとした。
【0064】
[支柱について]
図7に示すように、映像表示装置1を収納した筐体106からは、下側に支柱108によって保持される形で、ビームスプリッタ101と、λ/4板21が形成された再帰反射部材2とから成る光学系(詳しくは
図8B)が、配置・固定されている。本実施例では、ビームスプリッタ101は主面が長方形であり、また、再帰反射部材2も同様に主面が長方形である。これに対応して、支柱108は、ビームスプリッタ101の縁部(少なくとも左右辺)、および再帰反射部材2の縁部(少なくとも左右辺)を支える形状となっている。この構成により、映像表示装置1、ビームスプリッタ101、および再帰反射部材2は、
図7の位置関係が保たれている。
【0065】
支柱108は、柱形状、あるいは棒状や細長い長板形状などを有する支持部、支持物、支持器具であり、言い換えると、固定部やつり下げ部である。支柱108は、筐体106に対し下側にビームスプリッタ101や再帰反射部材2をつり下げるようにして支持・固定するための物、器具、機械的機構である。
【0066】
支柱108の素材としては、アルミや鉄などの金属や、樹脂等を用いることができる。ユーザが空間浮遊映像3を視認する際に、空間浮遊映像3の空中浮遊感を際立たせ、空間浮遊映像3以外の構成要素がなるべく目立たない方が好ましい。よって、支柱108は、ビームスプリッタ101等を覆う筐体ではなく、支持のための剛性・強度を確保した上で、例えば柱状として、体積を最小限としている。
【0067】
図7での支柱108の構成例は以下の通りである。支柱108は、詳しくは、支柱108a、支柱108b、支柱108cを有し、それらがつながっている。支柱108aは、筐体106の下面でY方向に前側の左右の角部から下に、ビームスプリッタ101の前側の左右の角部付近まで延在する支柱部分である。支柱108bは、ビームスプリッタ101の前側の左右の角部付近から、ビームスプリッタ101の縁部に沿って斜め下後方に、ビームスプリッタ101の後側の左右の角部付近(言い換えると再帰反射部材2の下端付近)まで延在する支柱部分である。支柱108cは、ビームスプリッタ101の後側の左右の角部付近から、再帰反射部材2の縁部に沿って鉛直上方に、再帰反射部材2の上端の左右の角部付近まで延在する支柱部分である。支柱108cの上端では、再帰反射部材2の上辺に沿って接続する支柱部分を有してもよい。
【0068】
ここで、支柱108の材質について説明する。支柱108は、軽量であり、かつ振動に強い材質であるとよい。支柱108の材質は、例えば、アルミニウムのような金属でもよく、また、プラスチックのような樹脂材であってもよい。いすれの場合も、車両の内部に差し込む太陽光などの外光に対してなるべく反射しないように、支柱108の表面は、外光反射防止のための遮光性を有することが望ましい。
【0069】
また、空間浮遊映像3の空中浮遊感(空中に映像だけが浮かび上がっているように見える感覚)をより際立たせるためには、支柱108は、ユーザから見た場合に、より目立たないことが望ましい。その場合、支柱108は、透明に近い性質(光透過性)を持つ素材、例えば光透過性樹脂により構成してもよい。
【0070】
筐体106から下に伸びる支柱108が透明部材で構成される場合、ユーザの視点から、即ち装置正面方向(方向E)から空間浮遊映像3を見る場合、ユーザの視界に入る筐体は、薄型である筐体106のみとなる。そのため、本実施例は、ユーザの視界を遮る物が少なく、空間浮遊映像3の空中浮遊感を高めることができ、利用に好適である。
【0071】
[空間浮遊映像表示の構造例]
次に、
図8Aや
図8Bを用いて、
図7の実施例における空間浮遊映像表示の光学系などの構造例について、より詳しく説明する。
図8Aは、
図7の空間浮遊映像表示部400の構造に関するある実施例(第1実施例とする)を示し、
図8Bは、
図7の空間浮遊映像表示部400の構造に関する別の実施例(第2実施例とする)を示す。
【0072】
[第1実施例]
まず、
図8Aは、第1実施例での空間浮遊映像表示装置の空間浮遊映像表示部400を側面(X方向)から見た場合の構造を示す。
図8Aにおいて、破線枠で示す空間浮遊映像表示部400は、筐体106が、後述の
図9または
図10のように、車両内の上部である天井部に固定される。筐体106内に収納されている映像表示装置1は、図示の断面において、上から順に概略的に、光源装置13、液晶表示パネル11、および吸収型偏光板12が配置されている。この映像表示装置1は、前述の
図6を同様に適用できる。
【0073】
映像表示装置1からの映像光は、鉛直方向(Z方向)の真下、ビームスプリッタ101に向けて出射される。この映像光の方向を、一点鎖線の光軸C1で示し、それに対し両側の破線は光束の範囲を示す。液晶表示パネル11より出射された映像光は、例えば、S偏光(直交偏光)を有する映像光である。このS偏光の映像光は、光軸C1上、入射角度αで斜めに配置されたビームスプリッタ101に入射し反射される。
図8Aの第1実施例での入射角度αは、40度である。光軸C1とビームスプリッタ101の主面とが為す角度βは、50度である。
【0074】
ビームスプリッタ101で反射されたS偏光の映像光は、Y方向で後側に、光軸C2で示すやや斜め上方向に、再帰反射部材2等に向かって進む。光軸C2の方向は、光軸C1に対し80度の方向であり、水平方向に対して10度の斜め上方向である。再帰反射部材2の光入射面にはλ/4板21が設けられている。映像表示装置1からのS偏光の映像光に基づいてビームスプリッタ101で反射された映像光は、光軸C2上で、再帰反射部材2での入射(反射前)と出射(反射後)の際に、計2度、λ/4板21を通過することで、偏光変換される。具体的には、S偏光(直交偏光)がP偏光(平行偏光)に変換される。この結果、再帰反射部材2で反射後のP偏光の映像光は、光軸C2上をビームスプリッタ101の方へ戻り、ビームスプリッタ101を透過し、透過後の光軸C2に対応した光軸C3上を進む。そして、
図8Aに示すように、そのP偏光の映像光は、光軸C3上、ビームスプリッタ101よりも前側の所定の距離の位置に、実像である空間浮遊映像3を形成・表示する。空間浮遊映像3が形成される位置は、映像表示装置1や光学系の設計に応じて決まる。
【0075】
ここで、
図8Aの第1実施例では、λ/4板21を備えた再帰反射部材2は、図示の位置Aに配置されている。位置Aは、ビームスプリッタ101からの映像光の光軸C2に対し、入射角度θが0度となるように、再帰反射部材2の主面が垂直(光軸C2と再帰反射部材2の主面とが為す角度φ=90度)に配置される位置である。再帰反射部材2は、位置Aにおいて、主面がやや斜め下に傾くように配置されている。再帰反射部材2の光軸C2(言い換えると空間浮遊映像3を形成する映像光の光軸)は、水平方向(Y方向)に対して為す角度をvとすると、角度vは、v=10度である。
【0076】
図8Aのように、空間浮遊映像3は、再帰反射部材2に対し、角度v=10度のやや斜め下方向の光軸C2,C3上で、ビームスプリッタ101よりも前側でやや下側の位置に生成される。言い換えると、第1実施例での空間浮遊映像3は、水平線よりも角度vで図示の右下に傾いた方向に生成される。この結果、ユーザが装置正面からこの空間浮遊映像3を視認する場合、ユーザの視線は、方向Eに対応した視線方向で示すように、やや下側から見上げる向きとなる。後述(
図9や
図10)するように、ユーザとして車両内の運転者は、車両の上部のバックミラー付近を見上げた時に、ごく自然な方向に、空間浮遊映像3を視認することができる。
【0077】
図7~
図8Bの実施例では、車載の用途(
図9や
図10)において、空間浮遊映像3の空中浮遊感をより高めるために、空間浮遊映像3の出射・形成のための光軸C2,C3の方向を、水平方向に対しやや斜め下の方向としており、具体的には角度vを10度としている。例えば後述の
図9のように、運転者の視点からやや斜め上方向に空間浮遊映像表示部400による空間浮遊映像3を視認する。その際には、筐体106および再帰反射部材2に対し、前側でやや下側にずれた位置に空間浮遊映像3が視認できる。よって、このような実施例によれば、空間浮遊映像3を水平方向の光軸上に出射・形成する形態の場合と比べて、空間浮遊映像3の空中浮遊感をより高めることができる。
【0078】
ここで、ユーザが空間浮遊映像3を視認する場合の視線の方向(方向E)および角度(角度v)は、主に、映像光に対するビームスプリッタ101の配置の角度(角度α,β)との関係で決定される。
図8Aの第1実施例では、v=10度とするために、α=40度、β=50度として、ビームスプリッタ101の配置が決定されている。
【0079】
なお、
図7~
図8Bのような構造で、角度v=10度として、空間浮遊映像3の形成の方向およびユーザの視線の方向をやや斜めとして構成できる。それとは別に、図示しないが、ボールジョイント等の取り付け器具を用いて、筐体106の上面部を車両の天井部に対し固定して設置することができる。これにより、筐体106や光学系を含む空間浮遊映像表示部400の向きを可変として、空間浮遊映像3を視認するユーザの視点位置・視線方向に合わせるように調整することも可能である。
【0080】
[再帰反射部材への入射角度に関する検討]
次に、再帰反射部材2の配置の向き等について検討する。再帰反射部材2は、実装にも依るが、光入射方向がどの方向であっても基本的には再帰反射が可能であり、入射映像光に対する入射角度が、ある程度の範囲内であれば、再帰反射が可能である。
図8Aの第1実施例では、ビームスプリッタ101からの光軸C2上の映像光に対して再帰反射部材2の主面が為す角度φは、φ=90度であり、即ち入射映像光に対し再帰反射面が垂直である。実装にも依るが、再帰反射部材2に対する映像光の入射角度θが、垂直(0度)である場合には、再帰反射が最も効率的に可能であり、前述のゴースト像の発生が最も少なく、空間浮遊映像3の明るさを大きくできる。このような効果を考慮して、
図8Aの第1実施例では、再帰反射部材2の配置を、位置Aとしている。
【0081】
ところが、
図8Aの第1実施例での位置Aのように、再帰反射部材2に対する入射角度θを0度とした場合には、別の課題が生じ得る。これについて以下に説明する。
図8Aの構成では、実装にもよるが、再帰反射部材2に対する映像光の入射に対し、再帰反射部材2の表面に貼り付けられたλ/4板21の面で、鏡面反射が生じる場合がある。このλ/4板21上による鏡面反射による像(鏡面反射像)が、Y方向でユーザから見て空間浮遊映像3の後ろ側に視認される可能性がある。その場合、ユーザから見て鏡面反射像が気になり、空間浮遊映像3の視認性が低下する恐れがある。
【0082】
そこで、
図8Aの第1実施例に対し、再帰反射部材2の配置に関する工夫を加えた実施例が
図8Bの第2実施例である。第2実施例は、位置Bに再帰反射部材2を配置することで、上記のようなλ/4板21の鏡面反射像による視認性の低下を防止・抑制する効果を得た構成である。
【0083】
[第2実施例]
図8Bの第2実施例では、再帰反射部材2は、映像表示装置1に対して垂直に、鉛直方向(Z方向)に立つように位置Bに配置されている。位置Bは、ビームスプリッタ101からのやや斜め上の光軸C2上の入射映像光に対し、垂直ではなく、入射角度θが10度(=角度v)となるように、再帰反射部材2の主面が鉛直方向(Z方向)に立つように配置される位置であり、映像表示装置1に対しては再帰反射部材2が90度となる配置位置である。なお、
図8Bで、入射角度θは、水平方向に対しZ方向で下回りに角度を増加する方向を、角度の正方向としている(後述の鏡面反射光を斜め上方向とするため)。
【0084】
位置Bの配置の結果、ビームスプリッタ101で反射された光軸C2上の映像光の、再帰反射部材2への入射角度θは、
図8Aの位置Aの場合のような垂直(θ=0度)ではなくなり、θ=10度となる。位置Bの場合では、光軸C2上の映像光に対して再帰反射部材2の主面が為す角度φは、80度となっている(θ+φ=90度)。この角度φ=80度は、
図8Aの場合の角度φ=90度に対し、θ=v=10度だけ異なる。
【0085】
図8Bの第2実施例のように、再帰反射部材2への入射角度θを10度とした場合、再帰反射部材2によるゴースト像の発生はごくわずかに認められるものの、そのゴースト像による空間浮遊映像3の品質劣化はほぼゼロに等しい。一方、その入射角度θを所定の範囲内でなるべく大きくした方が、λ/4板21による鏡面反射像の発生が防止できる。再帰反射部材2およびλ/4板21の実装例に対応した特性では、入射角度θを10度までとすることが望ましい。
【0086】
上記検討の結果、第2実施例では、λ/4板21による鏡面反射像が視認されることを防止し、かつ、再帰反射部材2によるゴースト像の影響も殆ど気にならないように、効果のバランスを採った設計として、再帰反射部材2への入射角度θを10度(=v)とし、角度φ=80度とした。
【0087】
言い換えると、第2実施例では、再帰反射部材2により生じ得るゴースト像による空間浮遊映像3の視認性の低下および明るさの低下の悪影響と、λ/4板21により生じ得る鏡面反射像による視認性の低下との両方を考慮して、それらの総合的な悪影響が最小となり、空間浮遊映像3の視認性を高めることができるように、再帰反射部材2を位置Bの構成とした。
【0088】
図8Bの第2実施例では、ビームスプリッタ101からの光軸C2上の入射映像光に対するλ/4板21からの鏡面反射光の方向を、二点鎖線の矢印で図示している。このように、第2実施例における光学系は、λ/4板21からの鏡面反射光が生じたとしても、その鏡面反射光の方向は、図示のようにY方向で斜め上方向となり、空間浮遊映像3の範囲から外れ、ユーザの視点の方向には向かわない。よって、第2実施例では、ユーザが空間浮遊映像3の背後にその鏡面反射光を視認することは防止され、空間浮遊映像3の品質を高くできる。
【0089】
上記第1実施例や第2実施例に限らず、再帰反射部材2の配置は、ビームスプリッタ101からの入射映像光に対する入射角度θを、0度から10度程度の角度範囲内から選択した角度とすればよい。第2実施例でのθ=10度の構成は、仮にθ=5度とした場合の構成と比べても、λ/4板21の鏡面反射像による悪影響をより低減することができる。
【0090】
また、一般に、鏡面反射する部材に対しては、いわゆるARコート(Anti Reflection Coating)を施すことで、鏡面反射を防止・低減できることがよく知られている。しかしながら、例えば
図8Aの第1実施例の構成において、λ/4板21の表面にARコートを施す場合、鏡面反射が防止できるものの、逆に、λ/4板21上で映像光が発散してしまい、その結果、空間浮遊映像3にボケが生じて、映像品質が低下する可能性がある。特に、映像源である液晶表示パネル12の表示面のサイズが小さいほど、そのボケが生じやすい。そのため、上記第1実施例および第2実施例は、λ/4板21に対しARコートが施されていない構成とした。その上で、上述のように、特に第2実施例では、λ/4板21を備える再帰反射部材2の配置を入射角度θ=10度として工夫することで、空間浮遊映像3の総合的な品質を高める構成とした。
【0091】
付け加えると、
図8Bの第2実施例は、上述のように、ユーザの好適な視線方向(方向E)に対応させて空間浮遊映像3の光軸C2,C3の方向をやや斜め下となる角度v=10度とし、かつ、再帰反射部材2およびλ/4板21による作用を考慮して位置Bの配置(入射角度θ=10度、φ=80度)とし、これに対応させて、ビームスプリッタ101の斜めの配置の角度(α=40度,β=50度)も設計されている。
【0092】
上記の結果、第2実施例によれば、実用上、ゴースト像が殆ど無く、λ/4板21による鏡面反射の影響も殆ど無い、高品質で好適な空間浮遊映像3を得ることができた。
【0093】
[車両内への空間浮遊映像表示装置の設置例]
図9は、上述した車載用の空間浮遊映像表示装置の、車両内部への設置例(第1設置例とする)を示す。
図9では、右ハンドルの場合の運転者からみて、バックミラー(言い換えるとルームミラー)2102の右側に空間浮遊映像表示部400が配置され、その位置に空間浮遊映像表示部400による空間浮遊映像3が形成・表示される例を示している。この第1設置例では、映像表示装置1が収納されている筐体106が、車両内の天井部2103に固定されている。
【0094】
一方、映像制御部300が収納されている筐体107は、ダッシュボード2100上の、例えば、右ハンドルの運転者にとって邪魔にならない(目障りにならない)左隅の位置に配置されている。また、筐体106に収納された映像表示装置1と、筐体107に収納された映像制御部300とを接続するためのケーブル105は、
図9の点線で示すように、Aピラー2105内部と車両の天井部2103の内部を通すことにより、目立つことなく配線することが可能である。
【0095】
図10は、車載用の空間浮遊映像表示装置の、車両内部への他の設置例(第2設置例とする)を示す。
図10では、
図9と同様に、右ハンドルの運転者からみて、バックミラー2102の右側に配置された空間浮遊映像表示部400による空間浮遊映像3が表示される例を示している。この第2設置例では、映像制御部300が収納されている筐体107は、ダッシュボード2100上ではなく、車両内の天井部2013におけるバックミラー2102を取り付けるための取付部カバー2107の内部に収納されている。この第2設置例によれば、筐体106と筐体107の間のケーブル105の配線2108もより短くて済み、また、ダッシュボード2100上に筐体107が設置されないので、ダッシュボード2100上もすっきりとした見栄えとなる、という利点がある。
【0096】
[変形例-支柱]
図11は、空間浮遊映像表示部400の支柱108の構成に関する変形例を示す。
図11では、空間浮遊映像表示部400を概略的に装置正面(Y方向)で見た場合の模式的な構成図を示す。この変形例は、
図7での支柱108の構成例に対して異なる点としては、筐体106の下面と、再帰反射部材2および再帰反射部材2の縁部を支持する支柱108(108c)との間も、支柱108(特に支柱108d)によって接続されている点がある。
図11では、再帰反射部材2およびλ/4板21については実線の矩形で簡易的に図示し、ビームスプリッタ101については破線の矩形で簡易的に図示している。
【0097】
支柱108は、構成部分として、前述の支柱108a、支柱108b、支柱108cに加え、支柱108dを有する。支柱108dは、支柱108cの延長部分であり、再帰反射部材2の縁部を支持する支柱108cの上端(左右)から、Z方向の上に、筐体106の下面のY方向で後側の左右の角部まで延在している部分である。支柱108cと支柱108dで1本の支柱と捉えてもよい。
【0098】
このような支柱108の構成例に限らず、各種の構成が可能である。前側の支柱108aを無くした構成例も可能である。また例えば、ビームスプリッタ101の上下辺や再帰反射部材2等の上下辺が支柱108によって支持された構成でもよい。
【0099】
[効果等]
以上のように、実施例や変形例によれば、車両内での使用に好適で、視認性の高い空間浮遊映像を表示することができる空間浮遊映像表示装置を提供できる。
図7~
図8Bの実施例の空間浮遊映像表示装置は、
図9や
図10のように車両内に手軽に設置可能である。
【0100】
実施例では、空間浮遊映像表示装置を、
図9等のように車両内の天井部2103またはバックミラー2102の近傍に配置することを考慮して、2つの筐体(筐体107と筐体106)に分け、空間浮遊映像表示部400をコンパクト、軽量にした。また、空間浮遊映像表示部400による空間浮遊映像3をユーザから視認する際に、空間浮遊映像3の空中浮遊感を高める、言い換えるとより強調するために、映像表示装置1を収納した筐体106と、筐体などで覆わずに露出したビームスプリッタ101および再帰反射部材2とに分けることで、筐体106を薄型にした。
【0101】
筐体106の下側に、支柱108を介して、ビームスプリッタ101および再帰反射部材2等を吊り下げるように配置した。構成要素のうち相対的には映像表示装置1が一番重く、ビームスプリッタ101や再帰反射部材2等は軽いので、映像表示装置1を収納した筐体106を鉛直方向で一番上側に配置して天井部2103から吊り下げられる構成とした。また、ユーザから見て、支柱108等がなるべく目立たないように構成した。
【0102】
実施例の車載用の空間浮遊映像表示装置をユーザが利用する場合、空間浮遊映像3として例えばコンシェルジュの映像を表示し、コンシェルジュによって道案内やPOI情報などを運転者に伝えることができる。これにより、見た目にも楽しく、より安全で快適な運転支援などが可能となる。
【0103】
本実施例に係る技術では、空間浮遊映像を高解像度かつ高輝度な映像情報を空間浮遊した状態で表示することにより、例えば、ユーザは感染症の接触感染に対する不安を感じることなく操作することを可能にする。不特定多数のユーザが使用するシステムに本実施例に係る技術を用いれば、感染症の接触感染のリスクを低減し、不安を感じることなく使用できる非接触ユーザインタフェースを提供することを可能にする。これにより、国連の提唱する持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の「3すべての人に健康と福祉を」に貢献する。
【0104】
また、本実施例に係る技術では、出射する映像光の発散角を小さく、さらに特定の偏波に揃えることで、再帰反射部材に対して正規の反射光だけを効率良く反射させるため、光の利用効率が高く、明るく鮮明な空間浮遊映像を得ることを可能にする。本実施例に係る技術によれば、消費電力を大幅に低減することが可能な、利用性に優れた非接触ユーザインタフェースを提供することができる。これにより、国連の提唱する持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の「9産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献する。
【0105】
以上、本発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は前述の実施の形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。特に限定しない場合、各構成要素は、単数でも複数でもよい。各実施例の構成要素について、必須構成要素を除き、追加・削除・置換などが可能である。
【符号の説明】
【0106】
1…映像表示装置、2…再帰反射部材、3…空間浮遊映像、11…液晶表示パネル、12…吸収型偏光板、13…光源装置、21…λ/4板、101…ビームスプリッタ(偏光分離部材)、105…ケーブル、106…筐体(第2筐体)、107…筐体(第1筐体)、108…支柱、300…映像制御部、400…空間浮遊映像表示部。