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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019752
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】演算装置、及び、モデル生成方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/00 20060101AFI20230202BHJP
   G01N 3/40 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
E02D1/00
G01N3/40 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124711
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】小林 泰三
(72)【発明者】
【氏名】寺本 昌太
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043AA01
2D043AB07
2D043AC03
2D043AC05
2D043BA10
(57)【要約】
【課題】容易に地盤の品質指標を得る演算装置を提供する。
【解決手段】演算装置1は、振動輪31による盛土の締固めの品質指標を求める演算装置であって、振動輪の挙動データを入力する第1の入力部と、品質指標を得るための演算を行う処理部と、を備え、処理部は、挙動データを含む入力値に対して品質指標を出力とするよう機械学習された品質判定モデルに対して、挙動データを入力することによって、品質判定モデルから品質指標を得る、ように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動輪による盛土の締固めの品質指標を求める演算装置であって、
前記振動輪の挙動データを入力する第1の入力部と、
前記品質指標を得るための演算を行う処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記挙動データを含む入力値に対して前記品質指標を出力とするよう機械学習された品質判定モデルに対して、前記挙動データを入力することによって、前記品質判定モデルから前記品質指標を得る、ように構成されている
演算装置。
【請求項2】
前記品質判定モデルは、前記挙動データに加えて前記締固めの際に得られる施工時パラメータを前記入力値として前記品質指標を出力とするよう機械学習されており、
前記施工時パラメータを入力する第2の入力部をさらに備え、
前記処理部は、前記品質判定モデルに前記挙動データ及び前記施工時パラメータを入力することによって、前記品質判定モデルから前記品質指標を得る、ように構成されている
請求項1に記載の演算装置。
【請求項3】
前記施工時パラメータは、土質条件、土質パラメータ、及び、施工条件パラメータのうちの少なくとも1つ含む
請求項2に記載の演算装置。
【請求項4】
通信部を有し、
前記通信部は前記第1の入力部を含み、他の装置と通信を行って前記他の装置から前記挙動データを受信する、ように構成されている
請求項1~3のいずれか一項に記載の演算装置。
【請求項5】
前記通信部は、前記品質指標を前記他の装置に送信する、ように構成されている
請求項4に記載の演算装置。
【請求項6】
前記処理部は、前記挙動データと、少なくとも、計測された前記品質指標とを用いて、前記品質判定モデルを再学習させるように構成されている
請求項1~5のいずれか一項に記載の演算装置。
【請求項7】
前記品質判定モデルを再学習させることは、前記挙動データと、前記品質指標に加えて前記締固めの際に得られる施工時パラメータとを用いて、前記品質判定モデルを再学習させることを含む
請求項6に記載の演算装置。
【請求項8】
前記品質指標は、地盤剛性に関するパラメータを含む
請求項1~7のいずれか一項に記載の演算装置。
【請求項9】
前記処理部は、さらに、前記品質指標を、前記挙動データに関連付けられた位置情報に対応付けてメモリに格納する、ように構成されている
請求項1~8のいずれか一項に記載の演算装置。
【請求項10】
盛土の締固めのために振動する振動輪の運動を振動モデルで等価に表現したシミュレーションモデルによって得られた前記振動輪の挙動データと、前記盛土から得られた品質指標と、を教師データとして用いて機械学習させることによって、前記挙動データを入力値として前記品質指標を出力とする品質判定モデルを生成する、ことを備えた
モデル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、演算装置、及び、モデル生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2003-193416号公報(以下、特許文献1)は、地盤の品質指標を得る手法として、締固めに伴う振動ローラの振動加速度の変化の周波数スペクトルから「乱れ率」を求め、乱れ率から地盤の剛性を求めることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-193416号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、特許文献1の手法では、振動ローラの振動加速度の周波数スペクトルの変化から地盤の剛性を求めるために、地盤剛性評価式を導くために用いた数値シミュレーションモデルを用いて「乱れ率」を求める必要がある。すなわち、この手法では、地盤の剛性を求めるため二段階の計算が必要であり、煩雑である。そこで、容易に地盤の品質指標を得る演算装置、及び、地盤品質指標を得るために好適に用いられるモデル生成方法を提供する。
【0005】
ある実施の形態に従うと、演算装置は、振動輪による盛土の締固めの品質指標を求める演算装置であって、振動輪の挙動データを入力する第1の入力部と、品質指標を得るための演算を行う処理部と、を備え、処理部は、挙動データを含む入力値に対して品質指標を出力とするよう機械学習された品質判定モデルに対して、挙動データを入力することによって、品質判定モデルから品質指標を得る、ように構成されている。
【0006】
ある実施の形態に従うと、モデル生成方法は、盛土の締固めのために振動する振動輪の運動を振動モデルで等価に表現したシミュレーションモデルによって得られた振動輪の挙動データと、盛土から得られた品質指標と、を教師データとして用いて機械学習させることによって、挙動データを入力値として品質指標を出力とする品質判定モデルを生成する、ことを備える。
【0007】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態に係る演算システムの構成の一例を表した概略図である。
図2図2は、実施の形態に係る演算装置の構成の一例を表した概略ブロック図である。
図3図3は、演算装置で用いる品質判定モデルの機械学習に用いられるシミュレーションモデルの一例を示す概略図である。
図4図4は、発明者らによる、シミュレーションモデルで得られた加速度変化と、実際に振動ローラで締固めを行った際に計測された振動輪の加速度変化との比較結果を表した図である。
図5図5は、発明者らによる、シミュレーションモデルで得られた加速度変化と、実際に振動ローラで締固めを行った際に計測された振動輪の加速度変化との比較結果を表した図である。
図6図6は、品質判定モデルの生成方法の概略を表した図である。
図7図7は、演算システムでの振動ローラによる盛土の転圧管理の流れの一例を表す図である。
図8図8は、演算装置での処理の流れの一例を表したフローチャートである。
図9図9は、品質判定モデルの再学習の方法の概略を表した図である。
図10図10は、演算装置で得られた地盤のばね係数を表した図である。
図11図11は、地盤の剛性の計測値を表した図である。
図12図12は、図10のばね係数を換算した地盤剛性と、図11の地盤剛性の計測値とを比較した結果を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<1.演算装置、及び、モデル生成方法の概要>
【0010】
(1)実施の形態に係る演算装置は、振動輪による盛土の締固めの品質指標を求める演算装置であって、振動輪の挙動データを入力する第1の入力部と、品質指標を得るための演算を行う処理部と、を備え、処理部は、挙動データを含む入力値に対して品質指標を出力とするよう機械学習された品質判定モデルに対して、挙動データを入力することによって、品質判定モデルから品質指標を得る、ように構成されている。
【0011】
振動輪による盛土の締固めとは、振動輪を有する振動ローラにおいて振動輪を振動させることによって地盤に圧力を加えて地盤を締固めることを指す。盛土の締固めの品質指標は、盛土の締固めの品質管理に用いられる、締固め後の地盤の状態を示す指標値である。
【0012】
この演算装置を用いることにより、振動ローラによる盛土の締固めの施工現場において品質指標を得るための試験を行うことなく、挙動データを用いて容易に品質指標を得ることができる。
【0013】
(2)好ましくは、品質判定モデルは、挙動データに加えて締固めの際に得られる施工時パラメータを入力値として品質指標を出力とするよう機械学習されており、施工時パラメータを入力する第2の入力部をさらに備え、処理部は、品質判定モデルに挙動データ及び施工時パラメータを入力することによって、品質判定モデルから品質指標を得る、ように構成されている。これにより、品質判定モデルからより高精度な品質指標が得られるようになる。
【0014】
(3)好ましくは、施工時パラメータは、土質条件、土質パラメータ、及び、施工条件パラメータのうちの少なくとも1つ含む。これにより、挙動データと、土質条件、土質パラメータ、及び、施工条件パラメータのうちの少なくとも1つとを品質判定モデルに入力することによって、品質判定モデルからより高精度な品質指標が得られるようになる。
【0015】
(4)好ましくは、演算装置は通信部を有し、通信部は第1の入力部を含み、他の装置と通信を行って他の装置から挙動データを受信する、ように構成されている。これにより、挙動データを得る装置と異なる装置を演算装置として機能させることができる。そのため、遠隔で品質指標を得ることも可能になる。
【0016】
(5)好ましくは、通信部は、品質指標を他の装置に送信する、ように構成されている。これにより、他の装置で品質指標を得ることができる。
【0017】
(6)好ましくは、処理部は、挙動データと、少なくとも、計測された品質指標とを用いて、品質判定モデルを再学習させるように構成されている。これにより、品質判定モデルの精度を向上させることができる。
【0018】
(7)好ましくは、品質判定モデルを再学習させることは、挙動データと、品質指標に加えて締固めの際に得られる施工時パラメータとを用いて、品質判定モデルを再学習させることを含む。これにより、品質判定モデルの精度を向上させることができる。
【0019】
(8)好ましくは、品質指標は、地盤剛性に関するパラメータを含む。これにより、容易な演算によって地盤剛性に関する品質指標が得られる。
【0020】
(9)好ましくは、処理部は、さらに、品質指標を、挙動データに関連付けられた位置情報に対応付けてメモリに格納する、ように構成されている。これにより、挙動データの得られた位置に対応した品質指標がメモリから得られる。
【0021】
(10)実施の形態に係るモデル生成方法は、盛土の締固めのために振動する振動輪の運動を振動モデルで等価に表現したシミュレーションモデルによって得られた振動輪の挙動データと、施工後の盛土で実測された品質指標と、を教師データとして用いて機械学習させることによって、挙動データを入力値として品質指標を出力とする品質判定モデルを生成する、ことを備える。このようにして生成されたモデルを用いることにより、振動輪による盛土の締固めの施工現場において品質指標を得るための試験を行うことなく、挙動データを用いて容易に品質指標を得ることができる。
【0022】
<2.演算装置、及び、モデル生成方法の例>
【0023】
図1は、本実施の形態に係る演算システム100の構成の一例を表した概略図である。演算システム100は、演算装置1を含み、振動ローラ3による盛土の転圧管理のための演算を行う。振動ローラ3は振動輪31を有し、振動輪31を振動させることによって盛土施工した地盤に圧力を加えて地盤Gを締め固める(転圧する)。演算システム100は、振動ローラ3による転圧後の地盤Gの品質管理のための演算を行う。
【0024】
品質管理のための演算を行うことは、盛土の締固めの品質指標を求めることを含む。品質指標は、盛土の締固めの品質管理に用いられる、締固め後の地盤Gの状態を示すパラメータである。品質指標は、一例として、地盤Gの剛性である。以下の説明では、品質指標を剛性パラメータである地盤Gの地盤反力係数とする。品質指標は、他の例として、地盤Gの密度や強度を表す指標であってもよい。
【0025】
図1を参照して、振動ローラ3は、車体30の前部にフレーム32が接続されており、このフレーム32に、振動輪31が接続されている。詳しくは、図1のA部分の拡大図を参照して、振動輪31は防振ゴム33を介してフレーム32に接続されている。振動輪31の軸受けには、振動輪31の振動加速度を計測する加速度センサ34が取り付けられている。
【0026】
演算装置1は、振動ローラ3から、品質管理のための情報を得る。一例として、振動ローラ3には通信機能を有するタブレット5が搭載されている。演算装置1は、インターネットなどの通信網9を介してタブレット5と通信することによって、振動ローラ3から品質管理のための情報を得る。タブレット5は、振動ローラ3とは異なる装置であってもよいし、振動ローラ3に組み込まれて一体とされた部品であってもよい。
【0027】
他の例として、演算装置1は、タブレット5に含まれていてもよい。すなわち、演算装置1の行う演算は、タブレット5によって実現されてもよい。
【0028】
品質管理のための情報は、振動輪31の挙動データを含む。振動輪31の挙動データは、地盤Gの品質指標の推定に用いられる振動輪31の振動を表すデータであって、一例として、加速度センサ34による振動加速度の計測値であってよい。挙動データは、他の例として、計測時刻ごとの加速度の計測値である数値データであってもよいし、加速度の計測値の時間変化であってもよいし、加速度に対して高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)などの演算を行って得られたスペクトル波形であってもよいし、振動輪31の加速度データに基づいて演算される振動輪31の速度データや変位データであってもよいし、それらのうちの少なくとも2つの組み合わせであってもよい。また、挙動データは、数値データであってもよいし、波形などを表す画像データであってもよい。
【0029】
好ましくは、品質管理のための情報は、振動ローラ3の位置情報を有する。すなわち、振動輪31の挙動データは、振動ローラ3の位置情報に対応付けられていてもよい。位置情報は、一例として、振動ローラ3に搭載されている受信機35がGNSS(Global Navigation Satellite System)衛星SAと通信することによって得られるものであってもよい。
【0030】
加速度センサ34による振動加速度の計測値は、加速度センサ34からタブレット5に無線通信によって送信されてもよいし、ユーザ操作によってタブレット5に入力されてもよい。振動ローラ3の位置情報も、受信機35からタブレット5に無線通信によって送信されてもよいし、ユーザ操作によってタブレット5に入力されてもよい。これにより、タブレット5から演算装置1に品質管理のための情報が送信される。
【0031】
図2は、演算装置1の構成の一例を表した概略ブロック図である。図1を参照して、演算装置1は、プロセッサ11とメモリ12とを有するコンピュータで構成される。プロセッサ11は、例えば、CPUである。メモリ12は、フラッシュメモリ、EEPROM、ROM、RAMなどを含む。または、メモリ12は、一次記憶装置であってもよいし、二次記憶装置であってもよい。
【0032】
メモリ12は、プロセッサ11で実行されるコンピュータプログラム121を記憶している。プロセッサ11は、コンピュータプログラム121を実行することによって品質管理のための演算を行う。
【0033】
メモリ12は、挙動データ記憶部122を有する。挙動データ記憶部122は、タブレット5から受信した振動輪31の挙動データを記憶するための領域である。
【0034】
メモリ12は、施工時パラメータ記憶部123を有する。施工時パラメータ記憶部123は、施工時パラメータを記憶するための記憶領域である。施工時パラメータは、振動ローラ3による地盤Gの締固めの際に得られるパラメータであって、地盤Gに対する試験や計測、地盤Gから作られた試料に対する試験や計測、振動ローラ3の必要箇所の計測、などによって得られる。施工時パラメータは、締固めの際の地盤Gの土質条件、締固めの際の地盤Gの土質パラメータ、締固め後の地盤Gから計測された品質指標、及び、締固めの施工条件パラメータのうちの少なくとも1つ含む。
【0035】
締固めの際の地盤Gの土質条件は盛土の条件を指し、例えば、まき出し厚さと呼ばれる、1回の施工で転圧する盛土の厚さ、などを含む。締固めの際の地盤Gの土質パラメータは、締固め後の地盤Gの土質を表すパラメータであって、締固め後の地盤Gから計測され、土質区分、密度、含水比、粒度のうちの少なくとも1つを含む。締固めの施工条件パラメータは、振動ローラ3による締固めの施工時の条件を表すパラメータであって、振動輪31の質量、及び、振動輪31の振動数などである。
【0036】
好ましくは、施工時パラメータは、挙動データと対応付けて記憶される。対応する施工時パラメータ及び挙動データは、地盤Gのある位置で計測された振動輪31の挙動データ、及び、その際に得られた施工時パラメータである。
【0037】
施工時パラメータと挙動データとを対応付けることは、例えば、対応する施工時パラメータと挙動データとに共通する識別情報を付与することであってもよい。これにより、識別情報で抽出することで、メモリ12から対応する施工時パラメータと挙動データとが得られる。他の例として、施工時パラメータと挙動データとそれぞれに計測時刻を示すデータを付与することであってもよい。これにより、計測時刻の近いものを抽出することで、メモリ12から対応する施工時パラメータと挙動データとが得られる。
【0038】
メモリ12は、管理データ記憶部124を有する。管理データ記憶部124は、管理データを記憶するための領域である。管理データは、プロセッサ11の処理によって得られた品質パラメータを含む、品質管理用のデータである。管理データは、一例として、品質パラメータと位置情報との組み合わせであってよい。
【0039】
演算装置1は、通信部13を有する。通信部13は、例えば、無線通信モジュールなどを含み、インターネットなどの通信網9を介して他の装置と通信する機能を有する。通信部13は、タブレット5から受信したデータをメモリ12に入力する。
【0040】
通信部13は、タブレット5からの振動輪31の挙動データをプロセッサ11に入力する、第1の入力部の一例である。入力された挙動データはメモリ12に渡されて、挙動データ記憶部122に記憶される。また、通信部13は、タブレット5から施工時パラメータをプロセッサ11に入力する、第2の入力部の一例である。入力された施工時パラメータはメモリ12に渡されて、施工時パラメータ記憶部123に記憶される。プロセッサ11がメモリ12からデータを読み出すことによって、これらデータがプロセッサ11に入力される。また、通信部13は、得られた品質指標を他の装置に送信する、品質指標の出力部の一例であってもよい。
【0041】
演算装置1は、入力装置15を有していてもよい。入力装置15はキーボードやメディアの読み込み装置などであって、データの入力を受け付ける機能を有する。入力装置15は、第1の入力部の他の例であってもよいし、第2の入力部の他の例であってもよい。
【0042】
演算装置1は、ディスプレイ14を有していてもよい。ディスプレイ14は、プロセッサ11の制御に従って、得られた品質パラメータに基づく表示を行うことができる。ディスプレイ14は、品質パラメータの出力部の他の例であってもよい。
【0043】
プロセッサ11の実行する地盤Gの品質管理のための演算は、判定処理111を含む。判定処理111は、品質指標を得ることを含み、具体例として、品質判定モデル112を用いて地盤Gの剛性を得ることを含む。
【0044】
品質判定モデル112は、挙動データを含む入力値に対して品質指標を出力値とするよう機械学習されたモデルである。具体例として、品質判定モデル112は、挙動データを入力することによって地盤Gの剛性を出力するよう機械学習されている。機械学習は、例えば、ディープラーニングである。機械学習は、他の学習方法であってもよい。判定処理111は、品質判定モデル112に対して、挙動データを入力することによって、品質判定モデル112から地盤Gの剛性を得ることを含む。
【0045】
品質判定モデル112は、シミュレーションモデルによって得られた振動輪の挙動データと、施工後の盛土で実測された品質指標と、を教師データとして用いて機械学習させることによって生成されたモデルである。ミュレーションモデルは、一例として、盛土の締固めのために振動する振動輪の運動を振動モデルで等価に表現したモデルである。
【0046】
図3は、演算装置1で用いる品質判定モデル112の機械学習に用いられるシミュレーションモデル7の一例を示す概略図である。図3のシミュレーションモデル7は、藤山哲雄、建山和由による「振動ローラの加速度応答を利用した転圧地盤の剛性評価手法」(藤山・建山土木学会論文,No. 652 /III-51,115-123,2000)において提案された地盤-締固め機械系の相互作用モデルを用いて振動輪の加速度応答波形を再現したものである。
【0047】
詳しくは、図3を参照して、シミュレーションモデル7は、振動ローラのフレーム部分71、フレームと振動輪との接続部(防振ゴム)部分72、振動輪部分73、及び地盤部分74を等価に表している。好ましくは、品質指標を得るための品質判定モデル112に用いるシミュレーションモデル7は、振動ローラ3のフレーム32部分71、防振ゴム33部分72、振動輪31部分73、及び地盤G部分74を等価に表したモデルである。
【0048】
具体的に、シミュレーションモデル7は、フレーム32の質量m1、振動輪31の質量m2、防振ゴム33のバネ係数kr、防振ゴム33の粘性減衰係数cr、地盤Gの剛性ks、及び、地盤Gの粘性減衰係数csを用いて、振動輪から地盤までの区間、および振動輪からフレームまでの区間をそれぞれフォークトモデルで単純化し、それらを直列に結合してなるものである。シミュレーションモデル7において、フレーム32に関する運動方程式は式(1)で表される。振動輪31に関する運動方程式は式(2)で表される。
【0049】
シミュレーションモデル7について、発明者らは、シミュレーションモデル7で得られた加速度変化を、実際に振動ローラ3で締固めを行った際に計測された振動輪31の加速度変化と比較した。発明者らは、シミュレーションモデル7で得られた加速度変化を、シミュレーションモデル7でのシミュレーションに対応した締固めの回数のときに計測された振動輪31の加速度変化と比較した。シミュレーションに対応した締固めの回数とは、計測された地盤Gの地盤反力係数が、シミュレーションモデル7に与える地盤Gの剛性ksと対応した数値となる締固めの回数を指す。
【0050】
図4は、シミュレーションモデル7に与える地盤Gの剛性ksが40.5MN/mであるときの加速度変化と、地盤Gの地盤反力係数が40.5MN/mの剛性ksに対応する81.0MN/m3となった2回目の締固め時の振動輪31の加速度変化と、の比較結果である。図5は、シミュレーションモデル7に与える地盤Gの剛性ksが91.6MN/mであるときの加速度変化と、地盤Gの地盤反力係数が1.6MN/mの剛性ksに対応する183.1MN/m3となった16回目の締固め時の振動輪31の加速度変化と、の比較結果である。図4及び図5において、波形(A)はシミュレーションモデル7で得られた加速度変化を表し、波形(B)はその加速度変化を高速フーリエ変換して得られたスペクトル波形を表している。波形(C)は振動輪31から計測された加速度変化を表し、波形(D)は、その加速度変化を高速フーリエ変換して得られたスペクトル波形を表している。
【0051】
図4において波形(A)と波形(C)とを比較すると、概ね似たような加速度波形であることが分かる。波形(B)と波形(D)とも同様に似たスペクトル波形であると言える。図5においても、同様に、波形(A)と波形(C)とは概ね似たような加速度波形であり、波形(B)と波形(D)とは概ね似たようなスペクトル波形であると言える。これにより、シミュレーションモデル7によって、実際に振動ローラ3で締固めを行った際に計測された振動輪31の加速度変化と近い加速度変化が得られることが検証された。
【0052】
また、図4図5とを比較すると、図4の波形(A)及び波形(C)では規則正しい正弦波挙動を示しているのに対して、図5の波形(A)及び波形(C)では振幅に段違いが発生するなど波形に乱れが生じていることが分かる。図4の波形(B)及び波形(D)から卓越する振動数が一つであることが分かるのに対して、図5の波形(B)及び波形(D)から振動には複数の振動数が含まれていることが分かる。これは、振動輪31の振動が地盤の剛性の影響を受けて変化することを表している。
【0053】
図6は、品質判定モデル112の生成方法の概略を表した図である。図6に示されたように、品質判定モデル112は、一例としてシミュレーションモデル7を用い、様々な剛性ksと、それらをシミュレーションモデル7に与えたときにそれぞれ得られる加速度波形とを、加速度波形を入力値、剛性ksを出力値とする対の教師データT1,T2,…として用いて機械学習させて生成される。入力値は、加速度波形に替えて、加速度波形を高速フーリエ変換して得られたスペクトル波形であってもよい。このようにして生成された品質判定モデル112は、判定処理111において、挙動データが入力値として与えられることによって品質指標としての地盤Gの剛性ksを出力する。
【0054】
地盤Gの品質管理のための演算は、格納処理113を含む。格納処理113は、得られた品質パラメータを管理データとしてメモリに格納することを含む。具体例として、格納処理113は、得られた剛性ksを含むデータを管理データとしてメモリに格納することを含む。
【0055】
メモリは、一例としてメモリ12の管理データ記憶部124である。これにより、演算装置1に得られた品質指標が管理データとして格納される。メモリは、他の例として、タブレット5などの他の装置のメモリであってもよいし、記憶媒体であってもよい。この場合、格納処理113は、剛性ksを通信部13に渡し、タブレット5などの格納先に送信させることを含む。これにより、必要なメモリに品質指標が格納される。
【0056】
好ましくは、格納処理113は、品質指標を、位置情報と対応付けてメモリに格納することを含む。位置情報は、挙動データと対応付けて入力されたものであって、挙動データが得られた位置を表す情報である。品質指標を挙動データが得られた位置を表す位置情報と対応付けてメモリに格納することにより、地盤Gの位置ごとの品質指標がメモリに格納されるようになる。
【0057】
地盤Gの品質管理のための演算は、出力処理114を含む。出力処理114は、管理データ記憶部124に記憶されている管理データを出力することを含む。出力先は、一例として、タブレット5である。この場合、出力処理114は、品質指標を含む管理データを通信部13に渡し、タブレット5に送信させることを含む。これにより、タブレット5のディスプレイ51に、剛性ksなどの品質指標に基づく表示を行わせることができる。
【0058】
管理データが、位置情報に対応付けられた品質指標を含む場合、タブレット5などの出力先では、位置情報を用いて品質指標に基づく表示を行わせることができる。位置情報を用いた品質指標の表示は、例えば、地盤Gを表す地図上の対応する位置を剛性ksに応じた色とする表示であってよい。これにより、地盤Gにおける品質指標を視認しやすくなる。
【0059】
図7は、演算システム100での振動ローラ3による盛土の転圧管理の流れの一例を表す図である。図7の図の左半分は振動ローラ3による盛土の締固めの施工現場での動作を表し、右半分は通信網9を介して送信された、クラウド上にある演算装置1での処理を表している。
【0060】
図7を参照して、締固めの施工現場において、加速度センサ34によって計測された振動輪31の振動加速度がタブレット5に入力されることによって(ステップS1)、タブレット5から演算装置1に振動輪31の振動加速度を示す挙動データD1が送信される(ステップS2)。これにより、演算装置1に挙動データが入力される。
【0061】
また、締固めの施工現場において計測された施工時パラメータがタブレット5に入力されることによって(ステップS3)、タブレット5から演算装置1に施工時パラメータを示すデータD2が送信される(ステップS4)。これにより、演算装置1に施工時パラメータが入力される。
【0062】
演算装置1は判定処理111を実行し、地盤Gの剛性ksを得る(ステップS5)。そして、演算装置1は格納処理113を実行し、得られた剛性ksをメモリ12に格納する(ステップS6)。演算装置1は、得られた剛性ksを含むデータD3をタブレット5に送信する(ステップS7)。
【0063】
詳しくは、図8は、演算装置1での処理の流れの一例を表したフローチャートである。図8を参照して、演算装置1のプロセッサ11は、メモリ12から挙動データを読み出すことによって、挙動データをプロセッサ11に入力する(ステップS101)。また、プロセッサ11は、メモリ12から施工時パラメータを読み出すことによって、施工時パラメータをプロセッサ11に入力する(ステップS103)。
【0064】
プロセッサ11は、挙動データを品質判定モデル112に入力することによって(ステップS105)、剛性ks(品質パラメータ)を得る(ステップS107)。プロセッサ11は、取得した剛性ksを含む管理データをメモリに格納する(ステップS109)。また、プロセッサ11は、取得した剛性ksをタブレット5に送信する(ステップS111)。
【0065】
タブレット5は、演算装置1から送信されたデータD3を受信し、剛性ksに基づく表示を行う(ステップS8)。ステップS8で、演算装置1から受信した剛性ksに位置情報が対応付けられている場合、タブレット5は、例えば地図で表示するなど、位置に応じて剛性ksを表示する。これにより、振動ローラ3による盛土の締固めの施工において、タブレット5を用いて剛性ksを知ることができる。すなわち、演算装置1が挙動データを用いて剛性ksを得ることによって、地盤Gの試験を行うことなく剛性ksが得られるようになる。
【0066】
また、振動ローラ3による盛土の締固めの施工において、リアルタイムに剛性ksが得られる。これにより、タブレット5が振動ローラ3に搭載されている場合、剛性ksを確認しながら締固めを行うことができる。そのため、例えば、剛性ksが不足している位置を追加で締固めたり、剛性ksが十分である位置の締固めを終わらせたり、得られた剛性ksを施工の要否の判断に用いることができる。
【0067】
好ましくは、地盤Gの品質管理のための演算は、再学習処理115を含む。再学習処理115は、タブレット5から得られた振動輪31の挙動データと、振動ローラ3による締固めの後に地盤Gから計測された剛性ksなどの品質指標と、を用いて、品質判定モデル112を再学習させることを含む。これにより、品質判定モデル112の精度を向上させることができる。
【0068】
好ましくは、再学習処理115は、振動輪31の挙動データと、振動ローラ3による締固めの後に地盤Gから計測された剛性ksなどの品質指標と、さらに、振動ローラ3による締固めの際の施工時パラメータとを用いて、品質判定モデルを再学習させることを含む。再学習処理115においてプロセッサ11は、メモリ12から対応する施工時パラメータと挙動データとを抽出して品質判定モデル112の再学習に用いる。
【0069】
図9は、品質判定モデル112の再学習の方法の概略を表した図である。図9を参照して、再学習処理115においてプロセッサ11は、振動輪31の挙動データ及び施工時パラメータを入力値、地盤Gから計測された剛性ksなどの品質指標を出力値する教師データT3を用いて品質判定モデル112を再学習する。
【0070】
再学習処理115は、図7の盛土の転圧管理と関連したタイミングで行われてもよいし、独立したタイミングで行われてもよい。独立したタイミングは、例えば、演算装置1に対して再学習処理115の実行を指示するユーザ操作が行われたタイミングなどである。
【0071】
さらに施工時パラメータを用いて再学習させることによって、品質判定モデル112を、挙動データと施工時パラメータとを入力することで品質指標を出力するモデルに更新させることができる。このようなモデルとすることによって、より高精度な品質指標が得られるようになる。
【0072】
発明者らは、演算装置1で得られる品質指標と、締固め後の地盤Gから得られる品質指標とを比較することで、演算装置1の精度を検証した。図10は、演算装置1で得られた地盤Gのばね係数を表した図である。
【0073】
検証に用いた品質判定モデル112は、シミュレーションモデル7によって得られた加速度応答波形を用いて機械学習されたモデルであって、教師データとして加速度波形の画像を5000枚、用いたものである。発明者は、締固め時の振動ローラ3から実際に計測された振動輪31の加速度波形を品質判定モデル112に入力することで、その出力値としてばね係数を得た。図10は、品質判定モデル112に入力した加速度波形が得られたときの振動ローラ3での締固めの回数と、得られたばね係数との関係を示している。
【0074】
図11は、図10の結果との比較に用いた、地盤Gの地盤反力係数の計測値を表した図である。地盤反力係数は、一例として、簡易支持力測定器と呼ばれる計測装置で計測された衝撃加速度の最大値を換算することで得られる。図11は、計測時の振動ローラ3での締固めの回数と、簡易支持力測定器の計測値から換算された地盤反力係数との関係を示している。
【0075】
図10図11と比較すると、いずれも、締固めの回数が10回程度までは増加し、その後、増加具合が収束して締固めが完了していることが分かった。つまり、図10図11と同様の傾向を示していることが分かった。
【0076】
図12は、図10のばね係数を換算して得られた地盤反力係数と、図11の地盤反力係数の計測値とを比較した結果を表した図であって、縦軸に演算装置1によって得られた地盤反力係数、横軸に地盤反力係数の計測値、を表している。演算装置1によって得られた地盤反力係数が実測値に近いほど、プロットが直線上となる。
【0077】
図12の結果より、演算装置1によって得られた地盤反力係数と地盤反力係数の計測値との間に相関係数が0.556であり、これらの間に相関性があることが確認された。プロットの多少のばらつきは、簡易支持力測定器を用いた地盤反力係数の計測自体のばらつきも含んでいると考えられる。そのため、演算装置1により、概ね精度よい品質パラメータが得られると言える。
【0078】
<3.付記>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 :演算装置
3 :振動ローラ
5 :タブレット
7 :シミュレーションモデル
9 :通信網
11 :プロセッサ
12 :メモリ
13 :通信部
14 :ディスプレイ
15 :入力装置
30 :車体
31 :振動輪
32 :フレーム
33 :防振ゴム
34 :加速度センサ
35 :受信機
51 :ディスプレイ
71 :フレーム部分
72 :部分
73 :振動輪部分
74 :地盤部分
100 :演算システム
111 :判定処理
112 :品質判定モデル
113 :格納処理
114 :出力処理
115 :再学習処理
121 :コンピュータプログラム
122 :挙動データ記憶部
123 :施工時パラメータ記憶部
124 :管理データ記憶部
D1 :挙動データ
D2 :データ
D3 :データ
G :地盤
SA :衛星
T1 :教師データ
T2 :教師データ
T3 :教師データ
cr :粘性減衰係数
cs :粘性減衰係数
kr :バネ係数
ks :剛性
m1 :質量
m2 :質量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12