(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019771
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】無機酸化物中空粒子
(51)【国際特許分類】
C01B 33/26 20060101AFI20230202BHJP
C01B 35/12 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C01B33/26
C01B35/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124744
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 広樹
(72)【発明者】
【氏名】徳田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
(72)【発明者】
【氏名】末松 諒一
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA02
4G073BA10
4G073BA56
4G073BA57
4G073BA63
4G073BA69
4G073BA75
4G073BB04
4G073BB40
4G073BB58
4G073BD03
4G073BD06
4G073BD21
4G073BD23
4G073CE06
4G073FA30
4G073FB11
4G073FB21
4G073FB41
4G073FB42
4G073FC08
4G073FD22
4G073FD24
4G073GA01
4G073GA11
4G073GA12
4G073GA16
4G073GA40
4G073UA08
4G073UA20
4G073UB06
(57)【要約】
【課題】嵩密度が低く、かつ圧縮率が高い無機酸化物中空粒子を提供すること。
【解決手段】無機酸化物として、60質量%以上のケイ素酸化物と、20質量%以下のホウ素酸化物と、12質量%以下のマグネシウム酸化物と、15質量%以上のアルミニウム酸化物を含む、無機酸化物中空粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物として、60質量%以上のケイ素酸化物と、20質量%以下のホウ素酸化物と、12質量%以下のマグネシウム酸化物と、15質量%以上のアルミニウム酸化物を含む、無機酸化物中空粒子。
【請求項2】
嵩密度が0.015g/cm3以下であり、かつ圧縮率が85%以上である、請求項1記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項3】
円形度が0.70以下である、請求項1又は2記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項4】
安息角が50°以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の無機酸化物中空粒子。
【請求項5】
円形度が0.5以下である粒子の個数割合が全粒子中に10%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の無機酸化物中空粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸化物中空粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
無機酸化物中空粒子は、断熱材料、遮熱材料、防音・吸音材料、触媒担体、建築材料、電子材料の分野で使用されている。例えば、外径が7~20mm、中空径が3~12mm、皮の厚さが2mm以上、静破壊強度が2000N以上、かつ、衝撃破壊強度が40N以上であるセラミックス厚皮中空粒子は、人工構造物に配合する骨材でありながら、構造物自体に熱遮断効果を安定して付与できることが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無機酸化物中空粒子は、外殻に包囲された空洞を有するため、非中空粒子に比べて軽量である。無機酸化物中空粒子をより軽量化するには嵩密度が低いことが有利である。しかし、無機酸化物中空粒子の嵩密度が低くなると、体積が大きくなるため、輸送する際に手間やコストが増大する。この場合、無機酸化物中空粒子を破損せずに圧縮できれば、体積を小さくできるため、輸送する際の負荷を軽減することができる。
本発明の課題は、嵩密度が低く、かつ圧縮率が高い無機酸化物中空粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み検討したところ、無機酸化物として特定化合物を特定量含む無機酸化物中空粒子が、従来よりも嵩密度を低く、かつ圧縮率を高くできることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔4〕を提供するものである。
〔1〕無機酸化物として、60質量%以上のケイ素酸化物と、20質量%以下のホウ素酸化物と、12質量%以下のマグネシウム酸化物と、15質量%以上のアルミニウム酸化物を含む、無機酸化物中空粒子。
〔2〕嵩密度が0.015g/cm3以下であり、かつ圧縮率が85%以上である、前記〔1〕記載の無機酸化物中空粒子。
〔3〕円形度が0.70以下である、前記〔1〕又は〔2〕記載の無機酸化物中空粒子。
〔4〕安息角が50°以上である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の無機酸化物中空粒子。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、嵩密度が低く、かつ圧縮率が高い無機酸化物中空粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において「中空粒子」とは、内部に空洞(中空構造)を有する粒子のことをいう。空洞は、外殻に包囲されており、1又は2以上有していてもよい。したがって、中空粒子は、粒子の表面から内部へ延びる複数の細孔を有する多孔質粒子と異なる。なお、中空粒子は、走査型電子顕微鏡(SEM)像により多孔質粒子と明確に区別することができる。
【0009】
本発明の無機酸化物中空粒子は、外殻が特定の無機酸化物によって構成されている。具体的には、外殻を構成する無機酸化物として、ケイ素酸化物、ホウ素酸化物、マグネシウム酸化物及びアルミニウム酸化物を含む。これにより、従来よりも嵩密度を低く、かつ圧縮率を高くすることができる。
【0010】
ケイ素酸化物としては、低嵩密度、高圧縮率の観点から、SiO2が好ましい。
ホウ素酸化物としては、低嵩密度、高圧縮率の観点から、B2O3が好ましい。
マグネシウム酸化物としては、低嵩密度、高圧縮率の観点から、MgOが好ましい。
アルミニウム酸化物としては、低嵩密度、高圧縮率の観点から、Al2O3が好ましい。
【0011】
本発明の無機酸化物中空粒子を構成する無機酸化物の各含有量は、以下のとおりである。なお、本明細書において、無機酸化物の各含有量は、蛍光X線分析法にて酸化物換算で測定し化学成分を算出した値である。そして、分析対象である元素の酸化物の合計値が100%となるよう、下記式により補正することで、各々の化学成分を算出する。なお、蛍光X線分析装置として、例えば、ZSX primus II(リガク社製)を用いることができる。
【0012】
化学組成(補正後)(%)=化学組成(補正前)×100/(100-不純物(%))
〔式中、不純物(%)は、100から上述した酸化物の化学組成の合計値を差し引いたものである。〕
【0013】
ケイ素酸化物の含有量は60質量%以上であるが、低嵩密度、高圧縮率の観点から、61質量%以上が好ましく、63質量%以上がより好ましく、65質量%以上が更に好ましく、そして80質量%以下が好ましく、79質量%以下がより好ましく、78質量%以下が更に好ましい。
ホウ素酸化物の含有量は20質量%以下であるが、低嵩密度、高圧縮率の観点から、19質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、12質量%以下が更に好ましい。なお、ホウ素酸化物の含有量の下限値は特に限定されず、0質量%であっても構わないが、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上とすることができる。
マグネシウム酸化物の含有量は12質量%以下であるが、低嵩密度、高圧縮率の観点から、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、6質量%以下が更に好ましい。なお、マグネシウム酸化物の含有量の下限値は特に限定されず、0質量%であっても構わないが、低嵩密度、高圧縮率の観点から、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上が更に好ましい。
アルミニウム酸化物の含有量は12質量%以上であるが、低嵩密度、高圧縮率の観点から、13質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、17質量%以上が更に好ましく、そして25質量%以下が好ましく、23質量%以下がより好ましく、21質量%以下が更に好ましい。
【0014】
本発明の無機酸化物中空粒子は、外殻を構成する無機酸化物として上記4種以外の無機酸化物を更に含んでいてもよい。例えば、第1族元素酸化物、マグネシウム酸化物以外の第2族元素酸化物、第4族元素酸化物を挙げることができる。
第1族元素酸化物酸化物としては、例えば、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2Oを挙げることができる。マグネシウム酸化物以外の第2族元素酸化物としては、例えば、CaO、SrO、BaO、RaOを挙げることができる。また、第4族元素酸化物としては、例えば、TiO2、ZrO2、HfO2を挙げることができる。
なお、上記4種以外の無機酸化物の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲内で適宜選択することができるが、低嵩密度、高圧縮率の観点から、10質量%以下であることが好ましく5質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、上記4種以外の無機酸化物を含まないことがより更に好ましい。
【0015】
本発明の無機酸化物中空粒子は、低嵩密度、高圧縮率の観点から、ケイ素酸化物及びアルミニウム酸化物の合計含有量が、70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、85質量%以上がより更に好ましい。そして、残部がホウ素酸化物及びマグネシウム酸化物から選択される1以上であればよく、少なくともマグネシウム酸化物を含有することが好ましい。
また、本発明の無機酸化物中空粒子は、低嵩密度、高圧縮率の観点から、ケイ素酸化物とアルミニウム酸化物との質量比(アルミニウム酸化物/ケイ素酸化物)が、0.2~3であることが好ましく、0.21~0.28がより好ましく、0.23~0.26が更に好ましい。
【0016】
本発明の無機酸化物中空粒子は、従来よりも嵩密度が低いことを特徴とする。具体的には、本発明の無機酸化物中空粒子の嵩密度は、0.015g/cm3以下が好ましく、0.013g/cm3以下がより好ましく、0.012g/cm3以下が更に好ましい。なお、かかる嵩密度の下限値は特に限定されないが、十分な強度を確保する観点から、0.0001g/cm3以上が好ましく、0.0005g/cm3以上がより好ましく、0.001g/cm3以上が更に好ましい。なお、本明細書において「嵩密度」とは「ゆるめ嵩密度」を意味し、JIS R 1628-1997に準拠して測定するものとする。
【0017】
本発明の無機酸化物中空粒子は、従来よりも圧縮率が高いことを特徴とする。具体的には、本発明の無機酸化物中空粒子の圧縮率は、85%以上が好ましく、86%以上がより好ましく、87%以上が更に好ましい。なお、かかる圧縮度の上限値は、十分な強度を確保する観点から、97%以下が好ましく、95%以下がより好ましく、93%以下が更に好ましい。ここで、本明細書において「圧縮率」とは、下記式(1)により算出される値をいい、下記式(1)における「かため嵩密度」は、JIS R 1628-1997に準拠して測定するものとする。なお、ゆるめ嵩密度及びかため嵩密度の測定には、例えば、タップ密度計JV200i(COPLEY社製)を用いることができる。
【0018】
圧縮率c(%)=(ρp-ρA)/ρp×100 (1)
〔式中、ρAは、ゆるめ嵩密度を示し、ρpは、かため嵩密度を示す。〕
【0019】
本発明の無機酸化物中空粒子の形状は、非球状であることが好ましい。非球状とすることで、嵩密度が小さくとも、体積の増大を抑えることができるため、輸送する際に手間やコストを軽減することができる。
【0020】
本発明の無機酸化物中空粒子の粒子形状が非球状であることは、円形度から判断することができる。本発明の無機酸化物中空粒子の円形度は、0.70以下が好ましく、0.67以下がより好ましく、0.65以下が更に好ましい。なお、円形度が0.85以上であると、通常略球状と判断される。ここで、本明細書において「円形度」とは、次の方法により算出される値をいう。即ち、走査型電子顕微鏡写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定し、周囲長(PM)に対する真円の面積を(B)とすると、その粒子の円形度はA/Bとして表される。ここで、試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円の周囲長及び面積は、それぞれPM=2πr、B=πr2であるから、B=π×(PM/2π)2となり、この粒子の円形度は、円形度=A/B=A×4π/(PM)2として算出される。そして、100個の粒子について円形度を測定し、その平均値をもって無機酸化物中空粒子の「円形度」とする。
また、本発明の無機酸化物中空粒子は、粒子形状が非球状であること、つまり円形度が低い粒子の割合が特定の割合であることが好ましい。円形度が低い粒子の割合が特定の割合にあることで、圧縮率が向上する。具体的には、上記の100個の粒子の円形度を測定した際に、円形度が0.5以下である粒子の個数割合が、全粒子中に、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。なお、かかる割合は、全粒子中に100%であっても構わない。
【0021】
本発明の無機酸化物中空粒子は、安息角が50°以上であることが好ましく、52°以上がより好ましく、54°以上が更に好ましい。なお、かかる安息角の上限値は特に限定されないが、ハンドリング性向上の観点から、70°以下が好ましく、65°以下がより好ましく、60°以下が更に好ましい。本明細書において「安息角」は、ISO 902に準拠して測定するものとする。安息角の測定には、例えば、パウダーテスターPT-D型(細川粉体研究所社製)を用いることができる。
【0022】
本発明の無機酸化物中空粒子は、15m2/g以上が好ましく、20m2/g以上がより好ましく、25m2/g以上が更に好ましい。かかるBET比表面積の上限値は特に限定されないが、表面細孔量が増加し、粒子強度が低下する観点から、45m2/g以下が好ましく、40m2/g以下がより好ましく、35m2/g以下が更に好ましい。なお、本明細書において「BET比表面積」とは、BET法(ガス分子の吸着を利用して表面積を測定する手法)により測定された表面積を意味し、例えば、流動式比表面積自動測定装置(FrowSorb III 2305、島津製作所製)を用いて測定することができる。
【0023】
本発明の無機酸化物中空粒子の中空率は、29%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、31%以上が更に好ましい。なお、かかる中空率の上限値は、十分な強度を確保する観点から、95%以下が好ましく、90%以下が更に好ましい。ここで、本明細書において「中空率」は、乾式自動密度計を使用して粒子の粒子密度と真密度とを測定し、その値から下記式により算出される値である。なお、個々の粒子について計測することが難しいため、粒子群としての空洞割合である。また、「真密度」は、空洞部分を取り除くために、箱型電気炉にて融点以上で6時間加熱した後、冷却して乾式自動密度計で測定するものとする。乾式自動密度計として、例えば、アキュピック(島津製作所)を使用することができる。
【0024】
中空率(%)=1-(粒子密度/真密度)×100
【0025】
本発明の無機酸化物中空粒子は、微小な粒子である。より具体的には、粒度分布において下記の特性を具備することができる。ここで、本明細書において「粒度分布」とは、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」に準拠して測定される、体積基準の粒度分布をいう。そして、粒度分布は、横軸を粒子径(μm)、縦軸を体積基準の頻度(%)とする分布曲線により表される。なお、レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定装置として、例えば、マイクロトラック(日機装株式会社製)を用いることができる。
【0026】
例えば、体積基準の粒度分布における累積10%粒子径(D10)は、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.3μm以上が更に好ましく、そして3.0μm以下が好ましく、2.5μm以下がより好ましく、2.0μm以下が更に好ましい。
体積基準の粒度分布における累積50%粒子径(D50)は、1.0μm以上が好ましく、1.5μm以上がより好ましく、2.0μm以上が更に好ましく、そして7.0μm以下が好ましく、6.0μm以下がより好ましく、5.0μm以下が更に好ましい。
体積基準の粒度分布における累積90%粒子径(D90)は、5.0μm以上が好ましく、7.0μm以上がより好ましく、9.0μm以上が更に好ましく、そして20.0μm以下が好ましく、15.0μm以下がより好ましく、10.0μm以下が更に好ましい。
【0027】
本発明のアルミノシリケート中空粒子は、非晶質であることが好ましい。なお、非晶質であることは、X線回折装置によって得られたX線回折パターンを解析すれば確認できる。X線回折装置として、例えば、Bruker D8 advance(ブルカー・エイエックスエス株式会社製)を用いることができる。
【0028】
本発明の無機酸化物中空粒子は、上記において説明した特性を具備するため、様々な用途へ適用することができる。例えば、断熱材料、遮熱材料、防音・吸音材料、触媒担体、建築材料、電子材料等の分野に適用することが可能であるが、嵩密度が小さく、かつ圧縮率が高いことから、断熱材料、遮熱材料、防音・吸音材料、建築材料、電子材料等のフィラーとして有用である。
【0029】
本発明の無機酸化物中空粒子の製造方法は、上記構成を有する無機酸化物中空粒子を得ることができれば特に限定されないが、例えば、原料化合物を含む被噴霧液体を、噴霧熱分解装置内に装着された噴霧装置から噴霧し、噴霧された液滴(ミスト)を熱分解する方法を挙げることができる。
【0030】
原料化合物としては、酸化物を構成する元素としてケイ素、ホウ素、マグネシウム及びアルミニウムから選択される1又は2以上の元素を含有する化合物を挙げることができる。かかる化合物としては、水に溶解する化合物であれば特に限定されないが、例えば、無機塩、有機塩、アルコキシドを挙げられ、1又は2以上を含有することができる。無機塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物を挙げられる。有機塩としては、例えば、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩を挙げることができる。
【0031】
ケイ素含有化合物としては、例えば、ケイ酸アルコキシドを挙げることができる。ケイ酸アルコキシドとしては、例えば、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトラプロピル(TPOS)、テトラブトキシシランを挙げることができる。また、ケイ素酸化物を溶媒に分散した溶液、ケイ素酸化物のゾル溶液も原料化合物溶液として用いることができる。
ホウ素含有化合物としては、例えば、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等のメタホウ酸塩、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム等の四ホウ酸塩、五ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸カリウム等の五ホウ酸塩等のホウ酸塩、ホウ酸を挙げることができる。
マグネシウム含有化合物としては、例えば、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、燐酸マグネシウム、水酸化マグネシウムを挙げることができる。
アルミニウム含有化合物としては、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、燐酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム等の無機塩、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドを挙げることができる。また、アルミノケイ酸塩や、アルミニウム酸化物を溶媒に分散した溶液、アルミニウム酸化物のゾル溶液も原料化合物溶液として用いることができる。アルミノケイ酸塩としては、例えば、アルミノケイ酸ナトリウム、アルミノケイ酸カリウム、アルミノケイ酸カルシウムを挙げられる。
【0032】
本発明においては、原料化合物として、ケイ素、ホウ素、マグネシウム及びアルミニウム以外の元素を含有する化合物が更に含まれていてもよい。
このような化合物としては水に溶解する金属化合物であれば特に限定されないが、例えば、リチウム塩、カリウム塩、チタン塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、亜鉛塩、ジルコニウム塩、バリウム塩、セシウム塩及びイットリウム塩から選ばれる1又は2以上を挙げることができる。これら金属の塩としては、例えば、無機塩、有機塩、アルコキシドが挙げられる。なお、無機塩及び有機塩の具体例は上記において説明したとおりである。
【0033】
リチウム塩としては、例えば、塩化リチウム、硝酸リチウム、亜硝酸リチウムを挙げることができる。
カリウム塩としては、例えば、塩化カリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム等が挙げられる。
チタン塩としては、例えば、硝酸チタン、硫酸チタン、塩化チタンを挙げることができる。
カルシウム塩としては、例えば、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム等のカルシウム塩が挙げられる。
ストロンチウム塩としては、例えば、酢酸ストロンチウム、プロピオン酸ストロンチウムを挙げることができる。
亜鉛塩としては、例えば、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛が挙げられる。
ジルコニウム塩としては、例えば、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウムを挙げることができる。
バリウム塩としては、例えば、硝酸バリウム、塩化バリウム、水酸化バリウムが挙げられる。
セシウム塩としては、例えば、硝酸セシウム、硫酸セシウム、塩化セシウムを挙げることができる。
イットリウム塩としては、例えば、硝酸イットリウム、硫酸イットリウム、塩化イットリウムが挙げられる。
【0034】
これら原料化合物から得られる酸化物としては、例えば、酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化マグネシウム、アルミナが挙げられ、これら酸化物を組み合せた複合酸化物も挙げることができる。
【0035】
被噴霧液体は、原料化合物を、水又はエタノール等の有機溶媒と混合して調製できる。なお、原料化合物の配合割合は、上記した組成の無機酸化物中空粒子となるように、原料化合物の種類に応じて適宜調整すればよい。
【0036】
被噴霧液体中の原料化合物濃度は、各元素の総量として、0.01mol/L~2.0mol/Lが好ましく、0.1mol/L~1.0mol/Lがより好ましい。
【0037】
噴霧熱分解装置は、熱分解炉の形状が堅型円筒状であることが好ましく、熱分解炉の大きさは、製造スケールにより適宜選択することができる。
【0038】
噴霧装置としては、例えば、2流体ノズル、3流体ノズル、4流体ノズル等の流体ノズルを挙げることができる。ここで、流体ノズルの方式には、気体と原料溶液とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部で気体と原料溶液を混合する外部混合方式があるが、いずれも採用できる。ノズルに供給する気体としては、例えば、空気や、窒素、アルゴン等の不活性ガス等を使用することができる。中でも、経済性の観点から、空気が好ましい。なお、噴霧装置は、1基又は2基以上設置することができる。
【0039】
被噴霧液体の流量は、通常1~100L/hであり、好ましくは3~80L/hであり、更に好ましくは5~60L/hである。
【0040】
噴霧装置から噴霧された液滴は、熱分解炉内の加熱装置により加熱されて無機化合物を含む膜が形成され、それを起点に無機酸化物中空粒子が形成される。
液滴の噴出速度は、通常1~50m/sであり、好ましくは5~35m/sであり、更に好ましくは10~20m/sである。
【0041】
加熱装置は、例えば、燃焼バーナー、熱風ヒータ、電気ヒータ等を挙げることができる。加熱装置は、1基又は2基以上設置することが可能である。なお、燃焼バーナー、熱風ヒータ及び電気ヒータは、一般的に販売されているものあれば、いずれも使用することができる。
加熱装置の温度は、400~1800℃が好ましく、600~1500℃がより好ましく、700~1400℃が更に好ましく、800~1200℃がより更に好ましい。このような温度であれば、熱分解が十分となり、また粒子が熱分解炉外に排出されたときに粒子同士が凝集し難くなる。
【0042】
熱分解反応によって生じた無機酸化物中空粒子は、熱分解炉の下流側から回収される。無機酸化物中空粒子の回収は、高性能サイクロン粉体回収機やバグフィルターを用いた粉体回収装置を用いることができる。
【実施例0043】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0044】
1.化学組成の分析
無機酸化物中空粒子をプレス機で成型してブリケットを作製し、そのブリケットを蛍光X線分析装置(ZSX primus II、リガク社製)にて酸化物換算で測定し化学成分を算出した。分析対象である元素の酸化物(SiO2、Al2O3、MgO、B2O)の合計値が100%となるよう、下記式により補正することで、各々の化学成分を算出した。
【0045】
化学組成(補正後)(%)=化学組成(補正前)×100/(100-不純物(%))
〔式中、不純物(%)は、100から上述した酸化物の化学組成の合計値を差し引いたものである。〕
【0046】
2.嵩密度の測定
タップ密度計JV200i(COPLEY社製)を使用し、JIS R 1628-1997に準拠して測定した。
【0047】
3.圧縮率の測定
下記式(1)により圧縮率を算出した。
【0048】
圧縮率c(%)=(ρp-ρA)/ρp×100 (1)
〔式中、ρAは、ゆるめ嵩密度を示し、ρpは、かため嵩密度を示す。〕
【0049】
4.粒子密度、真密度、中空率の測定
乾式自動密度計としてアキュピック(島津製作所製)を使用し、粒子の粒子密度と真密度を測定し、下記式により算出した。なお、真密度は、中空部分を取り除くために、箱型電気炉にて融点以上で6時間加熱した後、冷却して乾式自動密度計で測定した。
【0050】
中空率(%)=(1-粒子密度/真密度)×100
【0051】
5.安息角の測定
パウダーテスターPT-D型(細川粉体研究所社製)を使用し、ISO 902に準拠して測定した。
【0052】
6.円形度の測定
走査型電子顕微鏡写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定し、周囲長(PM)に対する真円の面積を(B)とすると、その粒子の円形度はA/Bとして表される。ここで、試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円の周囲長及び面積は、それぞれPM=2πr、B=πr2であるから、B=π×(PM/2π)2となり、この粒子の円形度は、円形度=A/B=A×4π/(PM)2として算出される。そして、100個の粒子について円形度を測定し、その平均値をもって無機酸化物中空粒子の「円形度」とした。またその際、円形度が0.5以下である粒子の個数割合を求めた。なお、走査型電子顕微鏡として、JSM-7001F(日本電子社製)を使用した。
【0053】
7.結晶構造の分析
粉末X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、Bruker D8 advance)を用いて測定し、得られたX線回折パターンより結晶構造の解析を行った。
【0054】
8.粒度の測定
粒子径分布測定装置(MT3000II、マイクロトラックベル社製)を用い、JIS R 1629に準拠して体積基準の粒度分布を作成し、体積基準の粒度分布における累積10%粒子径(D10)と、体積基準の粒度分布における累積50%粒子径(D50)、体積基準の粒度分布における累積90%粒子径(D90)を求めた。
【0055】
9.BET比表面積の測定
流動式比表面積自動測定装置(FlowSorb III 2305、島津製作所社製)を用いてBET比表面積を測定した。測定には、窒素を30%含有する窒素・ヘリウム混合ガスを使用した。
【0056】
実施例1~3及び比較例1
原料化合物(コロイダルシリカ、オルトケイ酸テトラエチル、硝酸アルミニウム九水和物、硝酸マグネシウム六水和物、ホウ酸)を蒸留水30リットル中に、表1のモル濃度となるように溶解させ、原料化合物水溶液を溶液タンクに投入した。投入された水溶液を送液ポンプにより2流体ノズルに送液し、2流体ノズルからミスト状に噴霧し、炉内(1000℃)で加熱した。なお、2流体ノズルの運転条件は、ノズルエアー量を100L/min、送液量を67mL/minに設定した。そして、炉の反応ゾーン出口に設置した冷却機構にて急冷し、その後バグフィルターを用いて無機酸化物中空粒子を回収した。回収した無機酸化物中空粒子の物性について分析を行った。その結果を表2に示す。
【0057】
【0058】
【0059】
比較例1の無機酸化物中空粒子は、無機酸化物としてホウ素酸化物及びマグネシウム酸化物を高含有する一方で、ケイ素酸化物の含有量が低いため、嵩密度が高く、圧縮率が低くなった。また、比較例1の無機酸化物中空粒子は、略球状であり、安息角が低く、BET比表面積も低いことがわかる。
一方、実施例1~3の無機酸化物中空粒子は、無機酸化物として特定化合物を特定量含むため、嵩密度が低く、圧縮率が高くなった。また、実施例1~3の無機酸化物中空粒子は、非球状であり、安息角が高く、BET比表面積も高いことがわかる。