(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019809
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】アブソリュートロータリエンコーダ及びそれを備える装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/347 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
G01D5/347 110C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124802
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000104630
【氏名又は名称】キヤノンプレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【弁理士】
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【弁理士】
【氏名又は名称】水本 敦也
(72)【発明者】
【氏名】工藤 耕輔
(72)【発明者】
【氏名】今野 雄之
【テーマコード(参考)】
2F103
【Fターム(参考)】
2F103BA05
2F103CA03
2F103CA06
2F103DA08
2F103DA11
2F103DA13
2F103EA02
2F103EA12
2F103EB06
2F103EB16
2F103EB32
(57)【要約】
【課題】小型でかつ偏心量と偏心角度を予測した上で、偏心成分を補正するエンコーダを提供すること。
【解決手段】エンコーダは、異なる径で設けられた第1及び第2トラックを備えるスケールと、スケールに対して相対移動可能であり、第1及び第2トラックを読み取るセンサと、スケールとセンサのいずれかの絶対位置を示す絶対位置信号を取得する処理部とを有し、処理部は、センサが第1及び第2トラックを読み取ることで得られる信号に基づく第1及び第2周期信号を用いて位置信号を取得し、位置信号を取得する際に生じる第3周期信号を用いて偏心量と偏心角度を取得し、偏心量と偏心角度を用いて第1及び第2トラックに対応する第1及び第2偏心補正信号を取得し、第1周期信号と第1偏心補正信号に基づく第1偏心補正周期信号、及び第2周期信号と第2偏心補正信号に基づく第2偏心補正周期信号とを用いて絶対位置信号を取得する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる径で設けられた第1トラックと第2トラックとを備えるスケールと、
前記スケールに対して相対移動可能であり、前記第1トラックと前記第2トラックとを読み取るセンサと、
前記スケールと前記センサのいずれかの絶対位置を示す絶対位置信号を取得する処理部とを有し、
前記処理部は、
前記センサが前記第1トラックを読み取ることで得られる信号に基づく第1周期信号と前記センサが前記第2トラックを読み取ることで得られる信号に基づく第2周期信号とを用いて位置信号を取得し、
前記位置信号を取得する際に生じる第3周期信号を用いて、偏心量と偏心角度とを取得し、
前記偏心量と前記偏心角度とを用いて、前記第1トラックに対応する第1偏心補正信号と前記第2トラックに対応する第2偏心補正信号とを取得し、
前記第1周期信号と前記第1偏心補正信号とに基づく第1偏心補正周期信号、及び前記第2周期信号と前記第2偏心補正信号とに基づく第2偏心補正周期信号を用いて、前記絶対位置信号を取得することを特徴とするアブソリュートロータリエンコーダ。
【請求項2】
前記第1トラックは、互いに周期の異なる第1周期パターンと第2周期パターンとを含み、
前記第2トラックは、前記第1及び第2周期パターンと周期が異なる第3周期パターンと、前記第1から第3周期パターンと周期が異なる第4周期パターンとを含み、
前記処理部は、前記第1及び第2周期パターンのそれぞれに対応する信号を処理することで前記第1周期信号を取得し、前記第3及び第4周期パターンのそれぞれに対応する信号を処理することで前記第2周期信号を取得することを特徴とする請求項1に記載のアブソリュートロータリエンコーダ。
【請求項3】
前記センサは、互いに検出周期が異なる第1検出部と第2検出部とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のアブソリュートロータリエンコーダ。
【請求項4】
前記センサは、検出周期を切り替え可能であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のアブソリュートロータリエンコーダ。
【請求項5】
前記処理部は、前記第3周期信号の最大値と最小値との差を用いて前記偏心量を取得することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のアブソリュートロータリエンコーダ。
【請求項6】
前記処理部は、前記第3周期信号の最大値と最小値との差が閾値より大きい場合、前記偏心量を第1の偏心量に設定し、前記差が前記閾値より小さい場合、前記偏心量を第2の偏心量に設定することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のアブソリュートロータリエンコーダ。
【請求項7】
前記処理部は、前記第3周期信号の値が最大となる前記位置信号を前記偏心角度として取得することを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載のアブソリュートロータリエンコーダ。
【請求項8】
前記処理部は、前記第3周期信号の値が最小となる前記位置信号を前記偏心角度として取得することを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載のアブソリュートロータリエンコーダ。
【請求項9】
前記処理部は、前記偏心量及び前記偏心角度を取得する際に、前記第3周期信号に移動平均処理を行うことを特徴とする請求項1乃至8の何れか一項に記載のアブソリュートロータリエンコーダ。
【請求項10】
前記スケールは、前記偏心量及び前記偏心角度を取得する場合、前記第3周期信号の最大値及び最小値の少なくとも一方が取得されるまで回転することを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載のアブソリュートロータリエンコーダ。
【請求項11】
回転する可動部と、
前記可動部の回転位置を検出可能な請求項1乃至10の何れか一項に記載のアブソリュートロータリエンコーダとを有することを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブソリュートロータリエンコーダ及びそれを備える装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スケールとセンサとの相対移動に応じて可動部材の位置を検出するアブソリュートロータリエンコーダにおいて、精度良く可動部材の位置を検出するためには、スケールの回転軸に対しスケールが偏心した際の偏心補正対策が必要となる。
【0003】
特許文献1には、2つのセンサをスケールの径方向において対向するように配置し、それぞれのセンサから得られた信号に基づいて取得された信号を平均化することで偏心成分を補正するアブソリュートロータリエンコーダが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、スケールの回転中心とスケールの所定の点との差による誤差成分を位置情報から減算することによって偏心成分を補正する位置検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-091104号公報
【特許文献2】特開2014-178227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のアブソリュートロータリエンコーダでは、2つのセンサをスケールの径方向において対向するように配置するため、センサの保持部材が大きくなり、装置の小型化が妨げられる。
【0007】
また、特許文献2の位置検出装置では、偏心補正は行えるが、どの程度偏心していているかを表す偏心量とどこの角度で偏心が発生しているかを表す偏心角度については判別できない。偏心量や偏心角度が判別可能である場合、手動で偏心成分を調整することも可能となる。
【0008】
本発明は、小型でかつ偏心量と偏心角度を予測した上で、偏心成分を補正するアブソリュートロータリエンコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面としてのアブソリュートロータリエンコーダは、互いに異なる径で設けられた第1トラックと第2トラックとを備えるスケールと、スケールに対して相対移動可能であり、第1トラックと第2トラックとを読み取るセンサと、スケールとセンサのいずれかの絶対位置を示す絶対位置信号を取得する処理部とを有し、処理部は、センサが第1トラックを読み取ることで得られる信号に基づく第1周期信号とセンサが第2トラックを読み取ることで得られる信号に基づく第2周期信号とを用いて位置信号を取得し、位置信号を取得する際に生じる第3周期信号を用いて、偏心量と偏心角度とを取得し、偏心量と偏心角度とを用いて、第1トラックに対応する第1偏心補正信号と第2トラックに対応する第2偏心補正信号とを取得し、第1周期信号と第1偏心補正信号とに基づく第1偏心補正周期信号、及び第2周期信号と第2偏心補正信号とに基づく第2偏心補正周期信号とを用いて、絶対位置信号を取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小型でかつ偏心量と偏心角度を予測した上で、偏心成分を補正するアブソリュートロータリエンコーダを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1のエンコーダの構成を示す図である。
【
図2】実施例1のスケールの一部を拡大した図である。
【
図4】実施例1の検出周期の切り替えの説明図である。
【
図6】実施例1の絶対位置取得処理及び偏心補正処理を示すフローチャートである。
【
図7】絶対位置を正しく取得できている状態の丸め誤差を示す図である。
【
図8】絶対位置を正しく取得できていない可能性が高い状態の丸め誤差を示す図である。
【
図9】偏心が発生している状態の丸め誤差を示す図である。
【
図11】折り返し処理を示すフローチャートである。
【
図12】実施例2のエンコーダの構成を示す図である。
【
図13】実施例2のスケールの一部を拡大して図である。
【
図14】実施例2のセンサにおけるスケールの読み取り領域を示す図である。
【
図15】実施例2の絶対位置取得処理及び偏心補正処理を示すフローチャートである。
【
図16】実施例2の信号処理の一例を示す図である。
【
図17】実施例5のロボットアームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【実施例0013】
図1は、本実施例のエンコーダ1aの構成を示す図である。エンコーダ1aは、スケール10、センサ20、及び処理部30を有する反射型の光学式アブソリュートロータリエンコーダである。本実施例では、スケール10とセンサ20のいずれかの絶対位置を取得することで、可動部材の回転軸(不図示)の回転位置(回転角)を検出する場合について説明する。
【0014】
なお、本実施例では、エンコーダ1aの一例として反射型の光学式アブソリュートロータリエンコーダについて説明するが、本発明はこれに限定されない。本発明は、検出方式が異なるエンコーダ、例えば透過型の光学式アブソリュートロータリエンコーダ、磁気式アブソリュートロータリエンコーダ、及び電磁誘導式磁気式アブソリュートロータリエンコーダにも適用可能である。
【0015】
スケール10は、可動部材の回転軸に一体的に回転するように取り付けられている。センサ20は、固定部材(不図示)に取り付けられ、スケール10に対して相対移動可能である。なお、スケール10を固定部材に取り付け、センサ20を可動部材の回転軸に取り付けてもよい。
【0016】
図2は、スケール10の一部を拡大した図であり、スケール10にそれぞれが異なる径で設けられた複数(本実施例では2つ)のトラック(第1トラック)11及びトラック(第2トラック)12を示している。各トラックには、一定の周期(ピッチ)で交互に配置された反射部(図中、黒色部分)と非反射部(図中、白色部分)を含む周期パターンが設けられている。具体的には、トラック11にはピッチP1の周期パターンが設けられており、トラック12にはピッチQ1の周期パターンが設けられている。ピッチP1,Q1の周期パターンの格子数はそれぞれ、97,24である。なお、各周期パターンの反射部と非反射部とを反転させてもよい。
【0017】
図3は、センサ20の構成を示す図である。センサ20は、光源21及び複数(本実施例では2つ)の受光部22,23を備える。光源21、受光部(第1検出部)22、及び受光部(第2検出部)23は、同一平面上に配置されている。光源21は、LED等の発光素子により構成されている。受光部22は、光源21から射出されてトラック11の反射部で反射した光を光電変換する複数の光電変換素子(受光素子)により構成されている。受光部23は、光源21から射出されてトラック12の反射部で反射した光を光電変換する複数の光電変換素子(受光素子)により構成されている。スケール10とセンサ20が相対変位すると、その相対変位量に応じて受光部22,23における各受光素子が受光する反射光の強度(受光強度)が変化する。センサ20は、受光部22における受光強度の変化に応じた正弦波状の信号を出力すると共に、受光部23における受光強度の変化に応じた正弦波状の信号を出力する。
【0018】
次に、
図4を参照して、検出周期の切り替えについて説明する。
図4は、検出周期の切り替えの説明図である。検出周期の切り替えは、信号A(+),B(+),A(-),B(-)を出力する受光素子の配置を変更することで行われる。
【0019】
受光部22では、
図4(A)に示されるように、受光素子20a,20b,20c、20dが位置検出方向に沿って循環的に配置されている。受光素子20a,20b,20c,20dの出力はそれぞれ、信号A(+),B(+),A(-),B(-)として扱われる。受光部22の検出周期は、常に一定で、ピッチP1に一致又は十分に近い(略一致する)検出周期P1に設定されている。
【0020】
受光部23では、
図4(B)に示されるように、位置検出方向に沿って16個配置された受光素子のうち隣り合う4つの受光素子を1組とし、各組の受光素子20a,20b,20c,20dの出力が1つになるように構成されている。各組の出力はそれぞれ、信号A(+),B(+),A(-),B(-)として扱われる。受光部23の検出周期は、常に一定で、ピッチQ1に一致又は十分に近い(略一致する)検出周期4×P1に設定されている。
【0021】
信号A(+),B(+),A(-),B(-)に対してA=A(+)-A(-)及びB=B(+)-B(-)の式で表される処理を行うことで、互いに位相が異なる2相の疑似正弦波信号A,Bが取得される。
【0022】
図4(C)は、センサ20におけるスケール10の読み取り領域を示している。受光部22は、検出周期がP1に設定されると、ピッチP1の周期パターン11aを読み取る。この場合、ピッチP1に対応する互いに約90度の位相差を持つ2相の疑似正弦波信号(P1の2相信号)が出力される。受光部23は、検出周期が4×P1に設定されると、ピッチQ1の周期パターン12aを読み取る。この場合、ピッチQ1に対応する約90度位相が異なる2相の疑似正弦波信号(Q1の2相信号)が出力される。
【0023】
受光部22によるトラック上での読み取り領域120及び受光部23によるトラック上での読み取り領域130は、各受光部が光源21から照射され、各周期パターンで反射された光を受光する範囲である。
【0024】
なお、本実施例ではセンサから約90度位相が異なる2相信号が出力される場合について説明したが、位相を検出可能な信号であれば3相信号や三角波信号等が出力されてもよい。
【0025】
また、本実施例では複数の周期パターンを検出するために、検出周期を切り替え可能な同一のセンサ素子を用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、検出周期が異なる別々のセンサ素子を用いてもよい。
【0026】
図5は、処理部30の構成を示す図である。処理部30は、ADコンバータ31、位相演算部32、絶対位置演算部33、及び偏心補正部34を備える。ADコンバータ31は、センサ20の受光部22,23から出力される2相信号(P1の2相信号とQ1の2相信号)をデジタル信号に変換する。位相演算部32は、CPU等の素子や、FPGAやASIC等の回路から構成され、ADコンバータ31によりデジタル信号に変換された2相信号を用いて位相を取得する。絶対位置演算部33は、CPU等の素子や、FPGAやASIC等の回路から構成され、位相演算部32により取得された位相を用いて絶対位置を取得する。偏心補正部34は、CPU等の素子や、FPGAやASIC等の回路から構成され、回転軸に対するスケール10の偏心量を取得する。なお、センサ20が回転軸に取り付けられている場合、回転軸に対するセンサ20の偏心量が取得される。
【0027】
図6は、本実施例の絶対位置取得処理及び偏心補正処理を示すフローチャートである。
【0028】
ステップS101では、ADコンバータ31は、センサ20の受光部22,23から出力される2相信号(P1の2相信号とQ1の2相信号)をデジタル信号に変換する。
【0029】
ステップS102では、位相演算部32は、ステップS101でデジタル信号に変換された2相信号を用いて位相を取得する。前述したように、2相信号は約90度位相が異なる信号であるため、arctan演算を行うことで位相が取得される。以降、P1の2相信号から取得された位相(第1周期信号)をθP97、Q1の2相信号から取得された位相(第2周期信号)をθQ24とする。前述したように、ピッチP1,Q1の周期パターンの格子数はそれぞれ、97,24である。そのため、位相θP97,θQ24はそれぞれ、97周期の信号と24周期の信号となる。また、位相θP97の1周期内の精度は高く、位相θQ24の1周期内の精度は低い。なお、本実施例ではarctan演算によって位相を取得するが、特定の範囲内での位置を表すものであれば位相以外のパラメータを取得してもよい。
【0030】
ステップS103では、絶対位置演算部33は、以下の式(1)を用いて位相θP97,θQ24を整数倍して絶対位置信号x1を取得する。ただし、MOD(x,y)はxを被除数とし、yを除数としたときの剰余を表す。
【0031】
【0032】
ステップS104では、絶対位置演算部33は、絶対位置信号x1を処理することで、精度の良い絶対位置信号x97_1を取得する。具体的には、絶対位置演算部33は、以下の式(2),(3)を用いて、絶対位置信号x1と位相θP97を合成する。これにより、位相θP97の周期数m97及び位相θP97の精度を持つ絶対位置信号x97_1が取得される。ただし、ROUND(x)は、xの小数第1位を四捨五入した整数値を表す。
【0033】
【0034】
以下、本実施例における偏心量取得処理及び偏心補正処理について説明する。まず、偏心補正処理に使用される絶対位置の信頼性を表す丸め誤差dについて説明する。
【0035】
丸め誤差とは、周期数を求める際に丸め処理における丸め前後の値の差分である。前述した式(2)を例に挙げると、位相θP97の周期数m97を、ROUND(x)を用いて取得する。すなわち、四捨五入して丸めた値が周期数m97となっているため、周期数m97から四捨五入する前(丸める前)の値を引くと式(2)での丸め誤差を取得することができる。丸め誤差は±0.5の範囲内で表され、+0.5又は-0.5に近ければ丸め処理が正しく行われていないといえる。すなわち、周期数がずれ、絶対位置を正しく取得できていない可能性が高いということになる。
【0036】
図7は、絶対位置を正しく取得できている状態の丸め誤差を示す図である。
図8は、絶対位置を正しく取得できていない可能性が高い状態の丸め誤差を示す図である。
図7及び
図8において、(A)~(C)はそれぞれ、丸めた後の周期数、丸める前の周期数、丸めた後の周期数と丸める前の周期数の差分(丸め誤差)を示している。
【0037】
丸め誤差は、回転軸に対してスケール10が偏心している場合、
図9に示されるように、1周期の信号が出力される。なお、
図9(A)-
図9(C)はそれぞれ、スケール10が100μm,200μm,300μmだけ偏心している場合の丸め誤差を示している。本実施例の偏心補正処理では、丸め誤差を用いて偏心補正を行う。
【0038】
ステップS105では、偏心補正部34は、丸め誤差dを用いて、回転軸中心とスケール中心とのずれ量を表す偏心量Aを取得する。本実施例では、
図9に示されるように、偏心量が大きくなると丸め誤差の最大値と最小値との差(ピークピーク値)dp_pが増加する特徴を用いて偏心量を取得する。偏心補正部34はまず、スケール10を1回転させ、スケール10の全周の丸め誤差を取得する。次に、偏心補正部34は、丸め誤差は±0.5の表記となっているため、これを±50で表記されるように100倍する。その後、偏心補正部34は、丸め誤差のピークピーク値dp_pを取得し、以下の式(4)を用いて偏心量Aを取得する。
【0039】
【0040】
式(4)は、実測にて取得した近似式であるが、環境に合わせて偏心量Aと丸め誤差dのピークピーク値dp_pとの関係を用いて適宜変更されることが望ましい。
【0041】
なお、丸め誤差の表記を±50とするために100倍したが、これは処理する際に扱いやすくするために実施したものであり、必須の処理ではない。
【0042】
また、ここではスケール10を1回転させ丸め誤差dを取得したが、移動平均処理を実行し、移動平均値の最大値と最小値との差から丸め誤差のピークピーク値dp_pを取得してもよい。移動平均処理を実行することで、ノイズ等の影響を減らし、より正確に偏心量Aを求めることができる。
【0043】
ステップS106では、偏心補正部34はまず、丸め誤差dを用いて丸め誤差dが最大となる場合の絶対位置信号(角度)である偏心角度θを取得する。次に、偏心補正部34は、偏心成分と逆相の信号となる偏心補正信号を取得し、偏心補正信号が最小値となる角度と偏心角度θとの差分である位相ずれ量Δθを以下の式(5)を用いて取得する。
【0044】
【0045】
本実施例では、偏心補正信号が最小値となる角度は180度である。
【0046】
偏心量Aが大きくなると丸め誤差dが
図10(A)に示されるように、折り返すような波形となる場合がある。この場合、±0.5表記では、ピークピーク値dp_pの最大値が1となり、正確な偏心量Aを求めることができない。また、丸め誤差dの最大値、偏心角度θ、及び位相ずれ量Δθも正確に求めることができない。そのため、丸め誤差の表記を±0.5以上で表現する必要がある。以後、±0.5以上で表現するために行う処理のことを折り返し処理と呼ぶ。
【0047】
図11は、折り返し処理を示すフローチャートである。
【0048】
ステップS201では、偏心補正部34は、スケール10の全周の丸め誤差を一定間隔で取得する。
【0049】
ステップS202では、偏心補正部34は、取得した丸め誤差と前回取得した丸め誤差との差の絶対値が0.5を超えるかどうかを判定する。絶対値が0.5を超えると判定された場合、すなわち折り返しが発生していると判定された場合、ステップS203に進み、そうでないと判定された場合、ステップS204に進む。
【0050】
ステップS203では、偏心補正部34は、取得した丸め誤差に対し1を加算、又は1を減算し、
図10(B)に示されるように±1.5の範囲で丸め誤差を取得する。例えば、前回取得した丸め誤差を
図10(A)の回転角30度での丸め誤差d1、取得した丸め誤差を
図10(A)の回転角60度での丸め誤差d2とすると、絶対値|d2-d1|は0.5を超える。そのため、回転角60度では折り返しが発生していると判定され、丸め誤差d2に1が加算される。このような処理を行うことで、
図10(B)に示される波形を取得することができる。
【0051】
ステップS204では、偏心補正部34は、取得した丸め誤差dがオフセットしていることがあるため、式(6)を用いて丸め誤差dの平均値daveを取得すると共に、式(7)を用いて丸め誤差dを補正し、補正後の丸め誤差d’を取得する。なお、Average(x)は、xの平均値を表す。
【0052】
【0053】
補正後の丸め誤差d’は、
図10(c)に示される波形となる。
【0054】
以上説明したように、丸め誤差dを±0.5以上で表現し、オフセットを補正することで、偏心量が大きく丸め誤差dが折り返しても、偏心量に応じたピークピーク値dp_p、偏心角度θ、及び位相ずれ量Δθを正確に取得することが可能となる。
【0055】
ステップS107では、偏心補正部34は、偏心量A及び位相ずれ量Δθを用いて、トラック11に対応する第1偏心補正信号(第1偏心補正周期信号)Msigとトラック12に対応する第2偏心補正信号(第2偏心補正周期信号)Ssigを取得する。
【0056】
以下、第1偏心補正信号Msigを取得する方法について説明する。まず、偏心補正部34は、受光部22が配置されている位置Mposを、以下の式(8)を用いて求める。なお、rはスケール10の半径であり、D1は光源21と受光部22との間の距離である。
【0057】
【0058】
次に、偏心補正部34は、以下の式(9)を用いて、偏心補正信号の角度angleを取得する。
【0059】
【0060】
次に、偏心補正部34は、以下の式(10)を用いて第1偏心補正信号Msigを取得する。
【0061】
【0062】
以下、第2偏心補正信号Ssigを取得する方法について説明する。まず、偏心補正部34は、受光部23が配置されている位置Sposを、以下の式(11)を用いて求める。なお、rはスケール10の半径であり、D2は光源21と受光部23との間の距離である。
【0063】
【0064】
偏心補正信号の角度angleについては、第1偏心補正信号Msigを取得したときに取得したものを使用する。
【0065】
次に、偏心補正部34は、以下の式(12)を用いて第2偏心補正信号Ssigを取得する。
【0066】
【0067】
なお、本実施例では、スケール10の半径と、トラック11とトラック12との境界は一致している。
【0068】
ステップS108では、絶対位置演算部33は、以下の式(13)に示されるように、位相θP97に第1偏心補正信号Msigを加え、偏心成分が除去された位相θP97’を取得する。また、絶対位置演算部33は、以下の式(14)に示されるように、位相θQ24に第2偏心補正信号Ssigを加え、偏心成分が除去された位相θQ24’を取得する。
【0069】
【0070】
なお、本実施例では、偏心成分と逆相の信号である偏心補正信号を偏心成分に加算することにより偏心成分を軽減するが、偏心成分と同相の信号となる偏心補正信号を偏心成分から減算することにより偏心成分を軽減してもよい。
【0071】
ステップS109では、絶対位置演算部33は、以下の式(15)を用いて絶対位置信号x1’を取得する。
【0072】
【0073】
ステップS110では、絶対位置演算部33は、以下の式(16),(17)を用いて、絶対位置信号x1’及び位相θP97’を合成することで、位相θP97’の周期数m97’及び位相θP97’の精度を持つ絶対位置信号x97_1’を取得する。
【0074】
【0075】
以上説明したように、本実施例によれば、小型でかつ偏心量と偏心角度を予測した上で、偏心成分を補正するアブソリュートロータリエンコーダを提供することが可能である。
【0076】
なお、本実施例ではスケール10を一定方向へ回転させるが、丸め誤差の最大値、又は最小値の近いほうに回転させ、より短い区間で偏心成分を予測してもよい。また、丸め誤差の最大値、又は最小値を測定せずに、丸め誤差の0クロス付近での傾きから最大値及び最小値を予測してもよい。
なお、本実施例では、エンコーダ1bの一例として反射型の光学式アブソリュートロータリエンコーダについて説明するが、本発明はこれに限定されない。本発明は、検出方式が異なるエンコーダ、例えば透過型の光学式アブソリュートロータリエンコーダ、磁気式アブソリュートロータリエンコーダ、および電磁誘導式磁気式アブソリュートロータリエンコーダにも適用できる。
受光部22によるトラック上での読み取り領域121及び受光部23によるトラック上での読み取り領域131は、各受光部が光源21から照射され、各周期パターンで反射された光を受光する範囲である。各読み取り領域は、トラックにおいてスケール幅方向に沿って交互に配置された2つの周期パターンの組み合わせを複数含むように設定されている。
なお、本実施例ではセンサから約90度位相が異なる2相信号が出力される場合について説明したが、位相を検出可能な信号であれば3相信号や三角波信号等が出力されてもよい。
ステップS301では、処理部300は、受光部22,23の検出周期をピッチT1,U1に切り替える。これにより、受光部22からT1の2相信号が出力され、受光部23からU1の2相信号が出力される。
ステップS303では、処理部300は、受光部22,23の検出周期をピッチT2,U2に切り替える。これにより、受光部22からT2の2相信号が出力され、受光部23からU2の2相信号が出力される。
ステップS305は、位相演算部32は、ADコンバータ31によりデジタル信号に変換された2組の2相信号から位相を取得する。前述したように、2相信号は約90度位相が異なる信号であるため、arctan演算を行うことで位相が取得される。以下の説明では、T1の2相信号から取得された位相をθT1、T2の2相信号から取得された位相をθT2、U1の2相信号から取得された位相をθU1、U2の2相信号から取得された位相をθU2とする。前述したように、ピッチT1,T2,U1,U2の周期パターンの格子数はそれぞれ、1649、388、1632、384である。そのため、位相θT1,θT2,θU1,θU2はそれぞれ、1649周期の信号、388周期の信号、1632周期の信号、384周期の信号となる。
ステップS306では、絶対位置演算部33は、以下の式(18)乃至式(20)を用いて97周期の位相θT97、388周期の位相θT388、及び1649周期の位相θT1649を取得する。
なお、位相θT1649の1周期内の精度が一番高く、位相θT97の1周期内の精度が一番低い。そこで、本実施例では、位相θT1649の精度を持つ97周期の位相を取得する。
ステップS307では、絶対位置演算部33は、以下の式(21),(22)を用いて位相θT388の周期数m200_4及び位相θT388の精度を持つ97周期の信号y388_97を取得する。
ステップS308では、絶対位置演算部33は、以下の式(23),(24)を用いて位相θT1649の周期数m200_17及び位相θT1649の精度を持つ97周期の信号y1649_97を取得する。
ステップS309では、絶対位置演算部33は、以下の式(25)乃至式(27)を用いて96周期の位相θU96、384周期の位相θU384、及び1632周期の位相θU1632を取得する。
ステップS310は、絶対位置演算部33は、以下の式(28),(29)を用いて位相θU384の周期数n200_4及び位相θU384の精度を持つ96周期の信号y384_96を取得する。
ステップS311では、絶対位置演算部33は、以下の式(30),(31)を用いて位相θU1632の周期数n200_17及び位相θU1632の精度を持つ96周期の信号y1632_96を取得する。
ステップS313は、絶対位置演算部33は、絶対位置信号y1を処理することで、精度の良い絶対位置信号y1649_1を取得する。具体的には、絶対位置演算部33は、以下の式(33),(34)を用いて、絶対位置信号y1及び信号y1649_97を合成する。これにより、信号y1649_97の周期数m200_97及び信号y1649_97の精度を持つ絶対位置信号y1649_1が取得される。
ステップS314では、偏心補正部34は、偏心補正を行い、偏心補正後の絶対位置信号を取得する。なお、偏心補正に使用する丸め誤差は、周期数m200_97を取得する際に取得できる丸め誤差を用いる。偏心補正後の処理は実施例1と同様のため具体的な説明は省略する。
以上説明したように、本実施例によれば、小型でかつ偏心量と偏心角度を予測した上で、偏心成分を補正するアブソリュートロータリエンコーダを提供することが可能である。