(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019839
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】電気音響変換器
(51)【国際特許分類】
H04R 7/22 20060101AFI20230202BHJP
H04R 9/02 20060101ALI20230202BHJP
H04R 7/20 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
H04R7/22
H04R9/02 102E
H04R9/02 103Z
H04R7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124875
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】平岡 英敏
【テーマコード(参考)】
5D012
5D016
【Fターム(参考)】
5D012BA06
5D012BB01
5D012BB03
5D012BB04
5D012BB08
5D012CA08
5D012FA03
5D016FA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】音響と電気信号との間の再現性を高める電気音響変換器を提供する。
【解決手段】電気音響変換器100は、振動板110と、振動板110の外周部を囲むように配置される筒状の第一摺動部材181と、振動板110の外周端に取り付けられ、第一摺動部材181の内周面に対し摺動する環状の第二摺動部材182と、第一摺動部材181の内周面と第二摺動部材182の外周面との間に介在配置される第一低摩擦膜170と、を備える。第一低摩擦膜170は、第一高分子鎖から側鎖として第二高分子鎖が複数分岐する被膨潤体と、第二高分子鎖の間に浸潤するグリースと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動により音を発生させる、または、音により振動する振動板と、
前記振動板の外周部を囲むように配置される筒状の第一摺動部材と、
前記振動板の外周端に取り付けられ、前記第一摺動部材の内周面に対し摺動する環状の第二摺動部材と、
前記第一摺動部材の内周面と前記第二摺動部材の外周面との間に介在配置される第一低摩擦膜とを備え、
前記第一低摩擦膜は、
第一高分子鎖から側鎖として第二高分子鎖が複数分岐する被膨潤体と、
前記第二高分子鎖の間に浸潤するグリースと、を備える
電気音響変換器。
【請求項2】
前記第二摺動部材は、
前記第一摺動部材の内周面に当接する環状の当接部と、
摺動方向において前記当接部の両側に隙間を隔てて配置され、前記第一摺動部材の内周面に向かって突出し、外周端部が前記内周面に当接、または近接する環状の突出部と、を備える
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項3】
前記第二摺動部材は、
前記第一摺動部材に向かって突出する突起部を周方向の少なくとも三箇所に備える
請求項1または2に記載の電気音響変換器。
【請求項4】
前記第一摺動部材は、金属で形成され、
前記第二摺動部材は、樹脂で形成される
請求項1から3のいずれか一項に記載の電気音響変換器。
【請求項5】
前記振動板、および前記第二摺動部材は一体に成形される
請求項1から4のいずれか一項に記載の電気音響変換器。
【請求項6】
前記振動板またはセンターキャップの内側に結合される第一部材と、
前記第一部材と摺動して前記第一部材をガイドする第二部材と、
前記第一部材の摺動面、および前記第二摺動部材の摺動面の少なくとも一方に設けられる第二低摩擦膜と、
を備える請求項1から5のいずれか一項に記載の電気音響変換器。
【請求項7】
前記第一低摩擦膜には、ちょう度が265以上、430以下の範囲から選定される前記グリースが用いられる
請求項1から6のいずれか一項に記載の電気音響変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スピーカなどの電気信号を音響に変換する装置、および、マイクロフォンなどの音響を電気信号に変換する装置を含む電気音響変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、振動板を電気的に振動させて音を発生させる電気音響変換器や音によって振動する振動板の振動を電気信号に変換する電気音響変換器等は、振動板が1軸に振動するようにガイドする摺動部を備えている。
【0003】
特許文献1には、摺動部となる磁気ギャップを狭ギャップ化して振動板の振動を安定させるため、応力集中を緩和することのできるポリマーブラシを液体により膨潤させた低摩擦部材を摺動部に設ける技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の電気音響変換器が備える振動板は、外周部がいわゆるエッジと称される復元性を備えた環状の膜を介して固定されている。このエッジが振動板の振動に影響を与えるため、音響と電気信号との間の再現性が損なわれている。
【0006】
本開示は、発明者の知見に基づいてなされたものであり、音響と電気信号との間の再現性を高めることのできる電気音響変換器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る電気音響変換器は、振動により音を発生させる、または、音により振動する振動板と、前記振動板の外周部を囲むように配置される筒状の第一摺動部材と、前記振動板の外周端に取り付けられ、前記第一摺動部材の内周面に対し摺動する環状の第二摺動部材と、前記第一摺動部材の内周面と前記第二摺動部材の外周面との間に介在配置される第一低摩擦膜とを備え、前記第一低摩擦膜は、第一高分子鎖から側鎖として第二高分子鎖が複数分岐する被膨潤体と、前記第二高分子鎖の間に浸潤するグリースと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る電気音響変換器は、音響と電気信号との間の再現性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係るスピーカを示す断面図である。
【
図2】第一摺動部材と第二摺動部材との摺動部分を示す断面図である。
【
図3】当接部に設けられる突起部を示す断面図である。
【
図5】実施の形態に係るスピーカに基づく音圧周波数特性である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る電気音響変換器の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態は、本開示を説明するために一例を挙示するものであり、本開示を限定する主旨ではない。例えば、以下の実施の形態において示される形状、構造、材料、構成要素、相対的位置関係、接続状態、数値、数式、方法における各段階の内容、各段階の順序などは、一例であり、以下に記載されていない内容を含む場合がある。また、平行、直交などの幾何学的な表現を用いる場合があるが、これらの表現は、数学的な厳密さを示すものではなく、実質的に許容される誤差、ずれなどが含まれる。また、同時、同一などの表現も、実質的に許容される範囲を含んでいる。
【0011】
また、図面は、本開示を説明するために適宜強調、省略、または比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状、位置関係、および比率とは異なる。
【0012】
また、以下では複数の発明を一つの実施の形態として包括的に説明する場合がある。また、以下に記載する内容の一部は、本開示に関する任意の構成要素として説明している。
【0013】
また、「摺動」とは、異なる二つの部材がすりあわさって動くこと、を意味するが、本明細書、および、特許請求の範囲において「摺動」には、異なる二つの部材が直接的ばかりでなく間接的にすりあわさって動くことも含むものとしている。間接的にすりあわさるとは、例えば、二つの部材の間に、第一低摩擦膜などの別部材が介在した状態で一方の部材が他方の部材に沿って動くこと、を意味している。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る電気音響変換器であるスピーカを示す断面図である。電気音響変換器100は、電気信号を音に変換するスピーカであって、振動板110と、第一摺動部材181と、第二摺動部材182と、第一低摩擦膜170と、を備えている。本実施の形態の場合、電気音響変換器100は、磁気回路120と、基礎部材130と、ダンパー132と、ボイスコイル体140と、を備えている。なお、電気音響変換器100において、電気音響変換器100から音が放出される方向を前方(図中Z+方向)とし、その反対方向を後方(図中Z-方向)とする。
【0015】
振動板110は、振動により音を発生させる部材である。本実施形態の場合、振動板110は、ボイスコイル体140が結合される部材であり、ボイスコイル体140の振動に基づいて中立位置を基準として前後方向(図中Z軸方向)に変位することにより空気を振動させて音を発生させる。振動板110の形状は、前側(図中Z軸正側)から後側に向かって徐々に径が小さくなるいわゆるコーン型である。
【0016】
振動板110の中央部には、ボイスコイル体140が挿入される貫通孔が設けられており、貫通孔よりも前側であって、貫通孔を塞ぐように振動板110の中央部分には、ドーム状のセンターキャップ160が取り付けられている。振動板110に取り付けられたセンターキャップ160は、振動板110と同様の作用を発揮する。
【0017】
なお、振動板110の形状などは、特に限定されるものでは無く、円錐形、楕円錐形、角錐形を例示することができ、また、円板、楕円板、平板など平らな形状でもかまわない。振動板110を構成する材料は、特に限定されるものではないが、例えば、紙、樹脂などを挙示することができる。
【0018】
第一摺動部材181は、振動板110の外周部を囲むように配置される筒状の部材である。第一摺動部材181は、振動板110の外周部を前後方向に案内する。本実施の形態の場合、第一摺動部材181は、第一低摩擦膜170を内周面に保持している。第一摺動部材181の内周面は、振動板110の外周部の形状に対応した断面の筒状であり、管軸は前後方向(図中Z軸方向)に延在している。第一摺動部材181の内周面は、前後方向において断面形状に変化がなく、第二摺動部材182をスムーズに案内することができるものとなっている。
【0019】
第一摺動部材181を構成する材料は、特に限定されるものではないが、第一低摩擦膜170を強固に取り付けることができる材料が好ましい。例えば、第一低摩擦膜が、100℃以上、250℃以下の高温の範囲で良好に第一摺動部材181に取り付けることができる場合、第一摺動部材181を構成する材料は、この温度に材質的、構造的に耐えることができるものが好ましい。この場合、第一摺動部材181を構成する材料としては、アルミニウムなどの金属を例示することができる。
【0020】
第二摺動部材182は、振動板110の外周端に取り付けられ、第一摺動部材181の内周面に対し第一低摩擦膜170を介して摺動する環状の部材である。
図2は、第一摺動部材181と第二摺動部材182との摺動部分を示す断面図である。第二摺動部材182の形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、第二摺動部材182は、第一摺動部材181の内周面に当接する環状の当接部183と、摺動方向(前後方向)において当接部183の両側に隙間を隔てて配置され、第一摺動部材181の内周面に向かって当接部183の摺動方向における側方から突出し、外周端部が第一摺動部材181の内周面に当接、または近接する環状の突出部184と、を備えている。
【0021】
第二摺動部材182を構成する材料は、特に限定されるものではないが、第一低摩擦膜170との間の摩擦抵抗が少ない材料が好ましい。例えば、ポリアセタールなどの樹脂を例示することができる。また、第二摺動部材182を構成する材料は、振動板110を構成する材料と同材料でも、異なる材料でもかまわない。本実施の形態の場合、第二摺動部材182は、振動板110と異なる材料で構成されており、振動板110の外周部に接着により取り付けられている。
【0022】
当接部183の第一摺動部材181に対向する面の断面形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、摺動方向の中央部が第一摺動部材181に向かって突出するように湾曲しており、全体視樽型を呈している。この形状により、第一摺動部材181と第二摺動部材182との接触面積を抑制でき、摺動時に発生する動摩擦を軽減することができる。
【0023】
また、
図3に示すように、第二摺動部材182の当接部183には、第一摺動部材181に向かって突出する突起部185を周方向の少なくとも三箇所に備えてもかまわない。この突起部185により、第一摺動部材181に対する第二摺動部材182の片当たりを抑制し、摺動方向(前後方向)に摺動する際の第二摺動部材182の歪を抑制することが期待できる。突起部185は、周方向において均等に配置してもよく、これにより効果を高めることが期待できる。突起部185の形状は、特に限定されるものではないが、摺動方向の中央部が第一摺動部材181に向かって突出するように滑らかに湾曲するものを例示できる。例えばドーム状の突起部185を例示することができる。
【0024】
突出部184は、径方向(例えばX軸方向、Y軸方向)において当接部183の内側部分から突出し、先端に向かって徐々に当接部183から遠ざかるように配置された環状、薄板状の部分である。突出部184は、当接部183との間に形成される環状の隙間に一定量のグリース(後述)を溜め込み、第一摺動部材181と第二摺動部材182との間にグリースを供給する貯留部186を形成する。当該貯留部186により、摺動部に一定量のグリースを保持させることができ、第一低摩擦膜170の膨潤状態を維持し、第一摺動部材181と第二摺動部材182との間の摩擦を低減することが可能となる。
【0025】
第一低摩擦膜170は、第一摺動部材181の内周面と第二摺動部材182の外周面との間に介在配置され、第一摺動部材181と第二摺動部材182との間の摩擦力を低減する膜である。
図4は、第一低摩擦膜170を模式的に示す斜視図である。第一低摩擦膜170は、第一高分子鎖151、および第一高分子鎖151から側鎖として分岐する複数の第二高分子鎖152と、を備えた被膨潤体105と、第一高分子鎖151、および第二高分子鎖152の間に浸潤して被膨潤体105を膨潤させるグリース153とを備えている。
【0026】
第一高分子鎖151は、特に限定されるものではないが、例えば加熱条件下において同種の基同士で反応して共有結合を形成することができる基である架橋性基154を有するアクリル鎖を例示することができる。架橋性基154は、特に限定されるものではないが、カルボン酸を例示できる。
【0027】
第一低摩擦膜170が第一摺動部材181の内周面に設けられた状態において、第一高分子鎖151は、
図4に示すように、架橋性基154を接続点として一次元的に接続され、第二高分子鎖152を挟んで層状に配置されている。なお、
図4は、被膨潤体105の一部を簡略的に一次元的に示したものであり、第一高分子鎖151は、紙面に交差する方向にも接続された二次元的な網の目構造を呈してもよく、さらに紙面に沿う方向に接続された三次元的な網の目構造を呈しても構わない。
【0028】
第二高分子鎖152は、シロキサン結合を有するシリコーン鎖である。具体的に第二高分子鎖152としては、ジメチルシリコーン鎖を例示することができる。
【0029】
グリース153は、第二高分子鎖152の間に浸潤し、いかなる姿勢においても自重により第二高分子鎖152から落下しないちょう度のものが好ましい。ちょう度とはグリースの硬さを表す物性値である。本実施の形態の場合、グリース153は、単体において自重で流動しないちょう度のものを採用し、第一高分子鎖151、および第二高分子鎖152との親和性が高いシリコーングリースを採用している。シリコーンとしては、ポリジメチルシロキサンを例示することができる。具体的には、ちょう度が265以上、430以下の範囲から選定されるグリース153を採用している。ちょう度が265未満のグリース153を採用すると、振動板110の振動の抵抗となって音圧が低下し、ちょう度が430より大きいと、第一低摩擦膜170にグリース153を維持し続けることが困難となり、効果が持続しない。グリース153のちょう度の調整方法は、特に限定されるものではないが、例えば、シリコーングリースに動粘度が200cst程度のジメチルシリコーンを投入して混ぜることにより、所望のちょう度のグリース153を得ることができる。この場合、重量比においてジメチルシリコーンがシリコーングリースを上回る場合もある。
【0030】
以上の様に、被膨潤体105をメタクリル主鎖のシリコーングラフトポリマーとすることにより、シリコーンを有するグリース153を被膨潤体105の体積が2倍以上に膨らむまで膨潤させることができ、摺動部における摩擦を低減し、摩擦などによって発生する異音を抑制することができる。
【0031】
第一低摩擦膜170を第一摺動部材181と第二摺動部材182との間に形成する方法は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、被膨潤体モノマーを分散状態で含み、架橋剤が添加された分散液を摺動部に塗布し、前記分散液に熱などのエネルギーを付与することにより摺動部の少なくとも一方の表面に被膨潤体105の膜を形成する。揮発などにより分散液を除去した後に膨潤用のグリースを被膨潤体105に含浸させ、膨潤状態の第一低摩擦膜170を形成する。
【0032】
被膨潤体モノマーとは、架橋性基を有する比較的短い(例えばナノオーダーの長さの)第一高分子鎖151と、第一高分子鎖151から複数分岐している第二高分子鎖152と、を備えた物質である。被膨潤体モノマーは、架橋により第一高分子鎖151が連結して巨大な(例えば膜厚がミクロンオーダーの)膜状の構造体に変化する。
【0033】
架橋剤は、特に限定されるものではなく、第一高分子鎖151が備える架橋性基154の種類に応じて適宜選定される。例えば架橋性基154がカルボン酸の場合、多官能イソシアネートを架橋剤として例示できる。
【0034】
被膨潤体モノマーが分散される液体としては、ジメチルエーテルを例示することができる。
【0035】
磁気回路120は、ボイスコイル体140により電気信号に基づいて変化する磁束に作用する定常的な磁束を発生させる部品である。磁気回路120は、振動板110の後方に位置するように基礎部材130に固定され、振動板110に対向する環状の磁気ギャップ121を備えている。磁気ギャップ121は、ボイスコイル体140に発生する磁束と交差する方向に定常的な磁束を発生させる空隙である。本実施の形態の場合、磁気ギャップ121のギャップ長は、磁気ギャップ121に挿入されるボイスコイル体140の部分の厚さの1倍より長く、3倍以下である。また、磁気ギャップと磁気ギャップに挿入されるボイスコイル体の部分とのクリアランスは0.01μm以上、200μm未満である。
【0036】
本実施の形態の場合、磁気回路120は、外磁型であり、前後方向に着磁された円筒状のマグネット122と、マグネット122の振動板110側の面に配置される円環状のトッププレート123と、マグネット122に対しトッププレート123と反対側に配置される円板状のベースプレート124と、ベースプレート124の中央部からトッププレート123の貫通孔に挿入され、トッププレート123との間で磁気ギャップ121を形成するセンターポール125と、を備えている。また、ベースプレート124とセンターポール125とは一体に形成されている。
【0037】
トッププレート123、ベースプレート124、センターポール125とは、磁性体材料によって構成されている。マグネット122は、高い磁気エネルギーを有する例えばネオジム系マグネットなどを使用するのが好ましい。これにより、マグネット122の厚みを薄くでき、電気音響変換器100全体の厚みを薄くすることができる。さらに、軽量化も実現させることができる。
【0038】
なお、電気音響変換器100が備える磁気回路120の形式は特に限定されるものでは無く、内磁型の磁気回路120を採用してもかまわない。
【0039】
マグネット122は、円形板状で中央にセンターポール125が挿通される貫通孔が形成されている永久磁石である。マグネット122は、厚み方向(前後方向)の一端がN極であり、他端がS極である。マグネット122の一方の極側の面には、トッププレート123が固定されており、他方極側の面には、ベースプレート124が固定されている。トッププレート123、マグネット122、ベースプレート124の固定方法は特に限定されるものでは無いが、本実施の形態の場合、接着剤により固定されている。なお、ネジ、リベットなどの締結部材を用いて固定されていてもよい。
【0040】
ボイスコイル体140は、後側端部(図中Z-側端部)が磁気回路120の磁気ギャップ121内に配置され、前側端部(図中Z+側端部)が振動板110に結合される部品であり、入力される電気信号に基づき磁束を発生させ、磁気回路120との相互作用により前後方向に振動する部品である。
【0041】
ボイスコイル体140の巻き軸(中心軸)は、振動板110の振動(振幅)の方向(図中Z軸方向)に配置され、磁気ギャップ121内の磁束の方向と直交している。ボイスコイル体140の巻軸は、第一摺動部材181の管軸、および第二摺動部材182の管軸と一致しており、ボイスコイル体140が前後方向に振動することにより、振動板110、および第二摺動部材182も前後方向に振動する。
【0042】
本実施の形態の場合、ボイスコイル体140は、金属性の線材が複数回環状(円筒形状)に巻回されることにより構成されるコイルとコイルが巻き付けられるボビンと、を備えている。ボビンはアルミニウムや樹脂等の材料から構成される筒状の部材であり、前側端部が振動板110に結合され後側端部は磁気ギャップ121内に配置されている。なお、電気音響変換器100が備えるボイスコイル体140は、上記に限定されるものでは無く、例えば、マイクロスピーカに使用されるようなボビンを備えないボイスコイル体140を用いてもかまわない。
【0043】
基礎部材130は、電気音響変換器100の構造的基礎となるいわゆるフレームであり、磁気回路120、および、振動板110を所定の位置に配置されるように保持している。基礎部材130は、例えば、金属、樹脂などにより構成される。本実施形の形態の場合、基礎部材130は、樹脂で形成されており、アルミニウム製の第一摺動部材181が取り付けられている。具体的には、基礎部材130は、第一摺動部材181の外周面と当接し、当該当接部よりも外側に第一摺動部材181が備える突出部183がはめ込まれる凹部131を備えている。これにより、基礎部材130と第一摺動部材181との取付強度を向上させ、基礎部材130と第一摺動部材181との相対的な位置関係を高い精度で決定している。
【0044】
ダンパー132は、振動板110、およびボイスコイル体140を磁気回路120、および基礎部材130に対して中立位置に支持する部材である。ダンパー132は、振動板110、およびボイスコイル体140の振動による伸縮を許容する柔軟性を備え、振動板110、およびボイスコイル体140が振動しない際はこれらを中立位置に維持する復元性を備えている。これにより、第二摺動部材182が第一摺動部材181の端部から脱落することを防止している。ダンパー132の形状は、特に限定されるものではないが、本実施形態の場合、基礎部材130とボイスコイル体140とを連結する波紋状に湾曲した円環状の部材である。
【0045】
次に、上記実施の形態の電気音響変換器100についてその動作を説明する。ボイスコイル体140に電気信号が入力されると、ボイスコイル体140に電気信号に対応した磁束が発生し、磁気ギャップ121に定常的に存在している磁束との相互作用によりボイスコイル体140が、前後方向に振動する。ボイスコイル体140に連結される振動板110も第二摺動部材182とともに前後方向に振動する。
【0046】
ここで、ボイスコイル体140は、第二低摩擦膜150を介してセンターポール125に接触しているためガイド機構として機能し、センターポール125の延在方向である前後方向にのみ振動する。また、ボイスコイル体140の巻軸と同軸上に配置される第一摺動部材181にガイドされて第二摺動部材182も前後方向にのみ振動する。これにより、ボイスコイル体140、および振動板110は、よれや横揺れが抑制された状態で前後方向に振動する。第一摺動部材181と第二摺動部材、およびボイスコイル体140とセンターポール125とがそれぞれ摺動するが、第一低摩擦膜170、および第二低摩擦膜150は低摩擦であり、摩擦力がボイスコイル体140および振動板110の振動にほとんど影響を及ぼさない。従って、ボイスコイル体140のコイルに入力される電気信号に正確に対応した振動を振動板110に伝えることができ、原音に忠実な音を発生させることが可能となる。
【0047】
また、摺動によりボイスコイル体140、および振動板110の振動をガイドしているためダンパーを用いてボイスコイル体140、および振動板110の振動の直進性を維持する必要がなく、ダンパーによる損失を低減することが可能となる。
【0048】
また、第一摺動部材181と第二摺動部材182とは第一低摩擦膜170を介して隙間がない状態で摺動しているため、振動板110の前側と後側にそれぞれ発生する逆位相の空気の振動が合流することがなく、打ち消し合わないため効率的に音を発生させることができる。
【0049】
また、センターポール125、および管軸が同軸上に配置される第一摺動部材181に従ってボイスコイル体140、および振動板110が1軸方向にのみ振動するため、磁気ギャップ121のギャップ長を、非常に短く(狭く)することができる。従って、磁気ギャップ121に発生する磁束の漏れを抑制して、磁束密度を高めることができるため、高い音圧の発生が可能な電気音響変換器100とすることができる。
【0050】
また、振動板110の小型化、マグネット122の小型化などをした場合でも所望の音圧を発生させる電気音響変換器100を提供することができ、電気音響変換器100の小型化を図ることが可能となる。
【0051】
図5は、振動板110の外周部の直径が9cm程度の本開示に係る電気音響変換器100による音圧周波数特性を示すグラフである。同図に示すように、比較的小型のスピーカでありながら、従来の振動板の直径が16cm程度でエッジにより振動板が支えられているスピーカに比べ、中高音域は同程度であって、低音域がより効率よく出力できている。以上のように、本開示に係るスピーカは、比較的小型でありながら低音域まで広くカバーできるフルレンジタイプのスピーカとして採用することが可能となる。
【0052】
なお、本開示は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本開示の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本開示の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本開示に含まれる。
【0053】
例えば
図6に示すように、電気音響変換器100は、第一摺動部材181と第二摺動部材182との間に第一低摩擦膜170を設ける他に、センターポール125の振動板110側の端部の外周表面に第二低摩擦膜150を形成してもかまわない。ボイスコイル体140は、第二低摩擦膜150を介してセンターポール125と接触した状態となっている。つまり、振動板110に結合されるボイスコイル体140が第一部材として機能し、センターポール125が基礎部材130に保持される第二部材として機能し、ボイスコイル体140とセンターポール125との間の摺動部に配置される第二低摩擦膜150により、振動板110の振動を前後方向(図中Z軸方向)の1軸方向にガイドするガイド機構を形成してもかまわない。
【0054】
第二低摩擦膜150は、第一低摩擦膜170と同種の膜でもよく、異なる膜でもかまわない。第二低摩擦膜150は、被膨潤体105については第一低摩擦膜170と同種のものを採用しているが、被膨潤体105を膨潤させる物質は、第二高分子鎖152の間に浸潤するシリコーンを有する液体である。シリコーンは、ポリジメチルシロキサンを例示することができる。
【0055】
また、
図7に示すように、電気音響変換器100は、センターキャップ160に一端部が結合され磁気回路120に向かって延在する丸棒状の第一部材161をボイスコイル体140とは別に備えてもかまわない。第一部材161は、センターキャップ160を介して振動板110に接続されている。また、第二部材としても機能する磁気回路120のセンターポール125には、第一部材161を1軸方向にガイドする貫通孔状の案内部162を備えている。そして第二低摩擦膜150は、第一部材161、および、案内部162の両方に対向状態で設けられてもかまわない。
【0056】
また、前記実施の形態では、電気信号を音に変換する電気音響変換器100を例示したが、電気音響変換器100は、音を電気信号に変換するマイクロフォンやセンサであってもかまわない。
【0057】
また、第一低摩擦膜170に用いられるグリース153のちょう度は、300以上、400以下の範囲から選定されることがより望ましい。
【0058】
また、振動板110、および第二摺動部材182が同じ材種であって一体に成形されるものでもかまわない。
【0059】
また、被膨潤体105の膜を形成する面に、被膨潤体105と結合力を高めるための表面処理を施してもかまわない。これにより、第一低摩擦膜170、第二低摩擦膜150を摺動部の表面により強固に固着させることができ、摺動部の寿命を向上させることが可能となる。表面処理としては、例えば二酸化ケイ素(シリカ)などのガラス粒子で表面をコーティングする処理を例示することができる。
【0060】
また、1本の第一部材161をセンターキャップ160の中央に結合させる場合を例示したが、センターキャップ160のない場合などは振動板110に第一部材161を直接結合させてもかまわない。また、振動板110、またはセンターキャップ160に複数の第一部材161を結合させてもかまわない。
【0061】
また、振動板110や磁気回路120、ボイスコイル体140の形状を平面視円形のものとして説明したが、これに限らず、平面視が楕円形状や、矩形状のものであってもかまわない。
【0062】
また、磁気回路120は、外磁型や内磁型の磁気回路120に限られず、内磁型と外磁型と、を組み合わせた構造でもよい。
【0063】
また、磁気回路120に用いられるマグネットは、サマリウム鉄系マグネット、フェライト系マグネット、ネオジムマグネットなど任意のマグネットを採用することができる。
【0064】
さらに、電気音響変換器としては、自動車用途やAV用途等に広く使用されるコーン型のスピーカを中心に説明したが、スマートフォンや携帯電話、パーソナルコンピュータ、ヘッドフォン、イヤフォン等に使用される小型平板のマイクロスピーカやレシーバ等に適用することもでき、同様の効果を発揮させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示は、高音圧のスピーカ、小型スピーカ、軽量スピーカ、高性能マイクロフォン、高性能なセンサなどとして有用である。
【符号の説明】
【0066】
100 電気音響変換器
105 被膨潤体
110 振動板
120 磁気回路
121 磁気ギャップ
122 マグネット
123 トッププレート
124 ベースプレート
125 センターポール
130 基礎部材
131 凹部
132 ダンパー
140 ボイスコイル体
150 第二低摩擦膜
151 第一高分子鎖
152 第二高分子鎖
153 グリース
154 架橋性基
160 センターキャップ
161 第一部材
162 案内部
170 第一低摩擦膜
181 第一摺動部材
182 第二摺動部材
183 当接部
184 突出部
185 突起部
186 貯留部