(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019878
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】イシクラゲ防除用組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 65/36 20090101AFI20230202BHJP
A01P 13/00 20060101ALI20230202BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
A01N65/36
A01P13/00
A01N25/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124933
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】591100448
【氏名又は名称】パネフリ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永松 ゆきこ
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AB01
4H011BB22
4H011BC04
4H011DA13
4H011DD03
4H011DF04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】環境への影響が小さく、高い防除効果を示すイシクラゲ防除用組成物を提供する。
【解決手段】グレープフルーツ種子抽出物及び尿素を有効成分として含有するイシクラゲ防除用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グレープフルーツ種子抽出物及び尿素を有効成分として含有するイシクラゲ防除用組成物。
【請求項2】
グレープフルーツ種子抽出物と尿素の含有質量比が20:1~1:10である請求項1記載のイシクラゲ防除用組成物。
【請求項3】
グループフルーツ種子抽出物の含有量が0.1~20質量%である請求項1または2に記載のイシクラゲ防除用組成物。
【請求項4】
尿素の含有量が0.01~10質量%である請求項1~3のいずれかの項記載のイシクラゲ防除用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イシクラゲ防除用組成物に関し、さらに詳細には、環境に対する影響が小さく、イシクラゲに対し優れた防除効果を示す組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
イシクラゲ(学名:Nostoc commune)はネンジュモ属に属する陸棲藍藻の1種であり、庭先や公園、道端など様々な裸地の地表、芝生の中などに自生する。降雨後や常に湿った場所では緑色寒天状の群体として非常に目立つ。乾燥時には収縮し地面にへばりついた黒いかさぶたのようになって生存する。イシクラゲを誤って踏むと滑って危険であり、また外観が損なわれるため、近年、不快な植物として駆除要望が高まっている。
【0003】
イシクラゲ防除剤として、例えば、キャプタン、クロロタロニル、フサライドなどの有機塩素系殺菌剤とプロピネブ、マンコゼブ、マネブ、チウラム、ジラムなどのジチオカーバメート剤を併用した防除剤が提案されている(特許文献1)。しかし、上記したとおり、イシクラゲは庭先や公園など生活に密接した環境に生息しているため、このような場所に上記農薬を適用した場合には、人体やペット、植栽などへの影響が懸念される。
【0004】
そのため、より人体や環境への影響が小さく、安全性の高いイシクラゲ防除剤の開発が望まれているが、未だそのような安全性とイシクラゲに対する高い防除効果を兼ね備えた成分についての報告はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、環境への影響が小さく、高い防除効果を示すイシクラゲ防除用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、グレープフルーツ種子抽出物と尿素を併用することにより、イシクラゲに対し優れた防除効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、グレープフルーツ種子抽出物及び尿素を有効成分として含有するイシクラゲ防除用組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、尿素単独ではイシクラゲに対する防除効果を示さないが、尿素をグレープフルーツ種子抽出物と併用することにより相乗的な防除効果が得られるものであり、速やかにイシクラゲを枯死に至らしめ得るものである。また尿素とグレープフルーツ種子抽出物はいずれも人体や環境への影響が小さく、安全性にも優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のイシクラゲ防除用組成物は、グレープフルーツ種子抽出物と尿素を有効成分として併用するものである。グレープフルーツ種子抽出物とは、グレープフルーツの種子、特には未成熟果実の種子から水、エタノール等によって抽出された、脂肪酸、アスコルビン酸、フラボノイド等を成分とするものであり、溶媒(抽出溶媒、希釈溶媒)以外の成分の混合物をいう。グレープフルーツ種子抽出物は、既存添加物名簿収載品目リスト(日本食品添加物協会(最終改正令和2年2月26日))に掲載されており、ここではミカン科グレープフルーツ(CitrusparadisiMACF.)の種子より、水又はエタノールで抽出して得られたものであって、主成分は脂肪酸及びフラボノイドであることが記載されている。グレープフルーツ種子抽出物は水、グリセリン等の溶剤との混合物として市販されているもの(例えば「Desfan-100」(販売元:ミツバ貿易、INVETISA社製);「Desfan-10」(販売元:アデプト、松尾薬品産業)を使用してもよい。Desfan-100にはグリセリンが約60質量%(以下、単に「%」と表記する)、水が約5%、グレープフルーツ種子抽出物は約35%含まれる。Desfan-10にはグリセリンが約6.2%、水が約90.5%、グレープフルーツ種子抽出物は約3.3%含まれる。
【0011】
グレープフルーツ種子抽出物は、一般的には以下のように製造されるが、この方法に限定されるものではない。
まず、グレープフルーツの種子(好ましくは未成熟の種子。グレープフルーツはいずれの産地のものでも用いることができる)を粉砕し、粉砕した種子を、水、アルコール類、炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類またはハロゲン化炭化水素類、およびこれらの混合溶媒に浸漬して抽出するか、あるいは浸漬し加熱還流して抽出し、適宜濃縮または濃縮還元して得られる。水およびアルコールが抽出溶媒として好ましく使用される。アルコールとしては、一価アルコールおよび多価アルコールのいずれもが用いることができ、好ましくは、水、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、およびこれらの混合溶媒が挙げられ、さらに好ましくは水、エタノールおよびこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0012】
本発明に用いる尿素としては特に限定はなく、公知の合成法によって合成された尿素等を用いることができる。
【0013】
本発明のイシクラゲ防除用組成物において、グレープフルーツ種子抽出物と尿素の含有質量比は特に制限されるものではないが、イシクラゲに対する防除効果等の観点から、含有質量比(グレープフルーツ種子抽出物:尿素)が20:1~1:10であることが好ましく、10:1~1:1がより好ましい。
【0014】
本発明のイシクラゲ防除用組成物は、上記グレープフルーツ種子抽出物及び尿素をそのまま混合してもよいが、農薬的に許容される担体を用いて製剤化してもよい。剤型としても特に制限はなく、溶液剤、エマルション剤、水和剤、水性懸濁液剤、油性懸濁液剤等の液剤、可溶性粉末剤、可溶性顆粒剤等の固形剤等を例示することができるが、使用性等の観点から液剤が好適であり、水、エタノール等のアルコール類、グリセリン等の多価アルコール類などの液体担体を用いて公知の方法に従って製造することができる。液剤には、イシクラゲに対しそのまま適用するタイプの他、使用時に水などを用いて希釈してから適用する濃縮タイプのものが含まれる。
【0015】
本発明のイシクラゲ防除用組成物におけるグレープフルーツ種子抽出物の含有量は特に制限されるものではなく適宜設定することができるが、イシクラゲに対する防除効果等の観点から0.1~20%の範囲が好ましく、0.5~10%がより好ましく、1~8%がさらに好ましい。使用時に希釈して適用する濃縮タイプの場合には、希釈倍率に応じて希釈後のグレープフルーツ種子抽出物の含有量が上記範囲に含まれることが好ましい。
【0016】
本発明のイシクラゲ防除用組成物における尿素の含有量は特に制限されるものではなく、適宜設定することができるが、イシクラゲに対する防除効果等の観点等から0.01~10%が好ましく、0.05~5%がより好ましく、0.1~4%がさらに好ましい。使用時に希釈して適用する濃縮タイプの場合には、希釈倍率に応じて希釈後の尿素の含有量が上記範囲に含まれることが好ましい。
【0017】
本発明のイシクラゲ防除用組成物には、必要に応じて、農薬に用いられる公知の添加剤を配合することができる。このような添加剤として、例えば、防腐剤、酸化防止剤、界面活性剤、pH調整剤等が例示される。
【0018】
液剤とした場合の本発明のイシクラゲ防除用組成物のpHは特に制限されるものではないが、イシクラゲ防除効果等の観点から2~10が好ましく、4~9がより好ましく、6~8がさらに好ましい。このようなpHの範囲とするために、本発明のイシクラゲ防除用組成物には、酢酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸の含有量は0.3%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましく、含有しないことがさらに好ましい。
【0019】
本発明のイシクラゲ防除用組成物は、そのまま又は水等に希釈、溶解等したうえで、地表、芝生等に発生したイシクラゲに適用することができる。適用方法としては特に制限されないが、イシクラゲの表面に散布、噴霧、塗布等する方法が挙げられる。適用にあたっては、より防除効果を高め得るため、降雨後や予めイシクラゲに水を散布等して膨潤させたうえで本発明のイシクラゲ防除用組成物を適用することが好ましい。施用量は特に制限されないが、例えば、1m2あたり有効成分の合計量として0.01~100g施用することが好ましく、0.1~60gがより好ましく、1~30gがさらに好ましい。このようにして、本発明のイシクラゲ防除用組成物をイシクラゲに適用することにより、緑色~暗緑色のイシクラゲが褐色~黄緑色に変色し、さらには淡褐色~白色となって枯死に至らしめ、分解・消失させることができる。
【実施例0020】
以下に、実施例等を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0021】
製造例1:イシクラゲ防除用組成物の調製
下記表1に示す処方にて防除用組成物を調製した。グレープフルーツ種子抽出物(GSE)としてDesfan-100(グレープフルーツ種子抽出物35%含有;ミツバ貿易、INVETISA社)を用いた。また尿素は(関東化学社)を用いた。表中の数値は%を意味する。
【0022】
【0023】
試験例1:イシクラゲに対する防除試験
製造例1で調製した防除用組成物を用いてイシクラゲに対する防除効果を確認した。自生しているイシクラゲを屋外から採取し、水を与えて完全に膨潤させた。これを10gずつ屋外に設置し、各防除用組成物をイシクラゲ表面に均一に5mlスプレー噴霧し、そのまま放置した。噴霧処理後2日、7日、14日、25日後にイシクラゲの外観を観察し、以下の基準に従って5段階評価した。また市販農薬A(有効成分ACN[2-アミノ-3-クロロ-1,4-ナフトキノン]50倍希釈液)についても同様に試験を行った。結果を表2に示す。
【0024】
(基準)
0:変化なし(緑色~暗緑色で変色なし)
1:一部変色(一部が褐色~黄緑色に変色)
2:全体が変色(全体が褐色~黄緑色に変色)
3:一部枯死(一部が淡褐色~白色に変色)
4:全体が枯死(全体が淡褐色~白色に変色)
5:一部分解(明らかにイシクラゲが消失する)
【0025】
【0026】
表2に示すとおり、グレープフルーツ種子抽出物単独使用(比較例1)でもイシクラゲに対する防除効果は認められたものの全体の枯死に至るまで25日間を要した。また尿素単独使用(比較例2)では全く効果が認められなかった。市販農薬A(比較例3)についてもグレープフルーツ種子抽出物単独と同等の効果にとどまった。
これに対し、グレープフルーツ種子抽出物と尿素を併用した実施例では、処理の翌日から黄褐色になり、7日後には全体が枯死し、25日後には一部分解したことが認められた。
このことから、グレープフルーツ種子抽出物と尿素を併用することにより、尿素は単独では全くイシクラゲ防除効果を示さないにもかかわらず、グレープフルーツ種子抽出物の効果を顕著に増強し、全体枯死に至るまでの期間を大幅に短縮でき、即効性に優れることが確認された。