(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019886
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】検出キット及び検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20230202BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
G01N33/543 525E
G01N33/543 545N
G01N33/569 L
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124946
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】392036027
【氏名又は名称】西川計測株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 真佐也
(57)【要約】
【課題】捕捉用抗体によって検出対象を効率よく捕捉することができる検出キット及び検出方法を提供する。
【解決手段】検出キット10は、抗体のFc領域に結合する抗体結合ドメインを外側表面に有する脂質二重膜と、抗体結合ドメインにFc領域を介して保持される、検出対象に結合する捕捉用抗体と、脂質二重膜を表面に担持する微粒子4と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体のFc領域に結合する抗体結合ドメインを外側表面に有する脂質二重膜と、
前記抗体結合ドメインにFc領域を介して保持される、検出対象に結合する捕捉用抗体と、
前記脂質二重膜を表面に担持する微粒子と、
を備える、検出キット。
【請求項2】
前記脂質二重膜は、
粒子形成能を有するタンパク質を含み、ナノ粒子として前記微粒子に担持される、
請求項1に記載の検出キット。
【請求項3】
前記粒子形成能を有するタンパク質は、
B型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質である、
請求項2に記載の検出キット。
【請求項4】
前記抗体結合ドメインは、
Protein AのFc領域結合Zドメイン2量体である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の検出キット。
【請求項5】
前記捕捉用抗体とは抗原認識部位が異なる前記検出対象に結合する検出用抗体をさらに備える、
請求項1から4のいずれか一項に記載の検出キット。
【請求項6】
前記検出用抗体は、
酵素で標識された抗体であって、
前記酵素の発色基質をさらに備える、
請求項5に記載の検出キット。
【請求項7】
前記検出対象は、
SARS-CoV-2である、
請求項1から6のいずれか一項に記載の検出キット。
【請求項8】
検出対象に結合する検出用抗体と検体とを混合する混合ステップと、
抗体のFc領域に結合する抗体結合ドメインを外側表面に有する脂質二重膜における前記抗体結合ドメインにFc領域を介して保持された、前記検出用抗体とは抗原認識部位が異なる前記検出対象に結合する捕捉用抗体を、前記混合ステップで得られた混合物に暴露する暴露ステップと、
前記捕捉用抗体に結合した前記検体に含まれる前記検出対象を、前記検出用抗体によって検出する検出ステップと、
を含み、
前記脂質二重膜は、微粒子の表面に担持されている、
検出方法。
【請求項9】
前記検体は、
物を拭き取ることで採取される、
請求項8に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出キット及び検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ELISA(Enzyme Linked Immunosolvent Assay)とは、特異的な抗原抗体反応及び酵素反応を利用して、検体中の検出対象の有無、さらにはその存在量を求める実験手法である。ELISAには、直接法、間接法及びサンドイッチ法がある。
【0003】
サンドイッチ法では、検出対象を捕捉する捕捉用抗体と、捕捉用抗体に捕捉された検出対象を検出する検出用抗体を使用する。検出用抗体には酵素で標識した抗体が使用されるが、標識されていない検出用抗体を使用する場合には、検出用抗体に結合する二次抗体として、標識された抗体が用いられる。サンドイッチ法は、直接法及び間接法と比べて感度が高く、検出対象の捕捉と検出に2種類の抗体を使うため、特異性が高い。
【0004】
捕捉用抗体は、固相に固定されて使用される。捕捉用抗体は、静電相互作用、疎水的相互作用及び水素結合等を介して固相に保持される。特許文献1には、抗体を含む溶液に二糖類及び糖アルコール類を添加して抗原を固定化した担体を用いることで、検出感度を上昇させて測定対象を検出する免疫測定方法が開示されている。
【0005】
捕捉用抗体が固定化される固相として、反応効率を高めることを意図して微粒子が使用される。例えば、特許文献2には、抗体が固定されている微粒子と抗原物質とを相互作用させる検出方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-92517号公報
【特許文献2】特開2008-196927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
捕捉用抗体を微粒子に固定した場合、捕捉用抗体における抗原との結合部位の配向が不均一になる。抗原との結合部位が露出していないと、その捕捉用抗体は抗原の捕捉に寄与できず、感度が低下するおそれがある。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、捕捉用抗体によって検出対象を効率よく捕捉することができる検出キット及び検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点に係る検出キットは、
抗体のFc領域に結合する抗体結合ドメインを外側表面に有する脂質二重膜と、
前記抗体結合ドメインにFc領域を介して保持される、検出対象に結合する捕捉用抗体と、
前記脂質二重膜を表面に担持する微粒子と、
を備える。
【0010】
前記脂質二重膜は、
粒子形成能を有するタンパク質を含み、ナノ粒子として前記微粒子に担持される、
こととしてもよい。
【0011】
前記粒子形成能を有するタンパク質は、
B型肝炎ウイルス表面抗原タンパク質である、
こととしてもよい。
【0012】
前記抗体結合ドメインは、
Protein AのFc領域結合Zドメイン2量体である、
こととしてもよい。
【0013】
上記本発明の第1の観点に係る検出キットは、
前記捕捉用抗体とは抗原認識部位が異なる前記検出対象に結合する検出用抗体をさらに備える、
こととしてもよい。
【0014】
前記検出用抗体は、
酵素で標識された抗体であって、
上記本発明の第1の観点に係る検出キットは、
前記酵素の発色基質をさらに備える、
こととしてもよい。
【0015】
前記検出対象は、
SARS-CoV-2である、
こととしてもよい。
【0016】
本発明の第2の観点に係る検出方法は、
検出対象に結合する検出用抗体と検体とを混合する混合ステップと、
抗体のFc領域に結合する抗体結合ドメインを外側表面に有する脂質二重膜における前記抗体結合ドメインにFc領域を介して保持された、前記検出用抗体とは抗原認識部位が異なる前記検出対象に結合する捕捉用抗体を、前記混合ステップで得られた混合物に暴露する暴露ステップと、
前記捕捉用抗体に結合した前記検体に含まれる前記検出対象を、前記検出用抗体によって検出する検出ステップと、
を含み、
前記脂質二重膜は、微粒子の表面に担持されている。
【0017】
前記検体は、
物を拭き取ることで採取される、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、捕捉用抗体によって検出対象を効率よく捕捉することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態に係る検出キットの構成を示す図である。
【
図2】実施例1に係る検出対象であるスパイクタンパク質の濃度に対する吸光度を示す図である。
【
図3】実施例2に係る比較実験における吸光度を示す図である。
【
図4】実施例3に係る比較実験における吸光度を示す図である。
【
図5】実施例4に係る平板から回収した検体における吸光度を示す図である。
【
図6】実施例4に係るドアノブの取っ手から回収した検体における吸光度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は下記の実施の形態によって限定されるものではない。
【0021】
(実施の形態)
本実施の形態に係る検出キットは、抗体のFc領域に結合する抗体結合ドメインを外側表面に有する脂質二重膜と、検出対象に結合する捕捉用抗体と、脂質二重膜を表面に担持する微粒子と、を備える。
【0022】
抗体結合ドメインは、Fc領域に結合するものであれば任意のものが使用できる。抗体結合ドメインは、例えば、Protein Aの抗体結合ドメイン、Protein Gの抗体結合ドメイン及びProtein Lの抗体結合ドメイン等である。好ましくは、抗体結合ドメインは、Protein AのIgG-Fc結合ドメインである。好適には、抗体結合ドメインは、Protein AのFc領域結合Zドメイン2量体である。
【0023】
脂質二重膜とは、細胞膜の基本構造となるリン脂質の膜である。脂質二重膜では、リン脂質が疎水性部分を内側に向け、親水性部分を外側に向けた状態で、二重の層を形成している。脂質膜を形成する脂質としては、例えば、リン脂質、糖脂質、ステロール、飽和又は不飽和の脂肪酸等が挙げられる。
【0024】
リン脂質としては、例えば、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン及びジラウロイルホスファチジルコリン等のホスファチジルコリン;ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール及びジラウロイルホスファチジルグリセロール等のホスファチジルグリセロール;ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン及びジラウロイルホスファチジルエタノールアミン等のホスファチジルエタノールアミン;ジオレオイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン及びジラウロイルホスファチジルセリン等のホスファチジルセリン;ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、並びにこれらの水素添加物等が挙げられる。
【0025】
糖脂質としては、例えば、スルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド及びジガラクトシルジグリセリド等のグリセロ糖脂質;並びにガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド及びガングリオシド等のスフィンゴ糖脂質等が挙げられる。
【0026】
ステロールとしては、例えば、コレステロール、コレステロールコハク酸及びラノステロール等の動物由来のステロール;スチグマステロール、シトステロール及びカンペステロール等の植物由来のステロール;並びにチモステロール及びエルゴステロール等の微生物由来のステロールが挙げられる。
【0027】
飽和又は不飽和の脂肪酸としては、例えば、パルミチン酸、オレイン酸及びステアリン酸等の炭素数12~20の飽和又は不飽和の脂肪酸が挙げられる。
【0028】
脂質二重膜には、タンパク質を膜タンパク質として埋め込むことができる。例えば、膜タンパク質の一部に抗体結合ドメインを組み込むことで、抗体結合ドメインを外側表面に有する脂質二重膜が得られる。
【0029】
好ましくは、脂質二重膜は、粒子形成能を有するタンパク質を含み、ナノ粒子を形成する。この場合、脂質二重膜はナノ粒子として微粒子に担持されてもよい。ナノ粒子は、粒子形成能を有するタンパク質を含むことで形成されたナノサイズで中空の粒子である。粒子形成能を有するタンパク質としては、例えば、種々のウイルスから得られるサブウイルス粒子を利用することができる。好ましくは、粒子形成能を有するタンパク質は、B型肝炎ウイルス(HepatitisB Virus;HBV)表面抗原タンパク質である。中でもタンパク質としてHBVの表面抗原Lタンパク質が好適である。HBVのLタンパク質は(389アミノ酸)、N末端側よりPre-S1領域(108アミノ酸)、Pre-S2領域(55アミノ酸)及びS領域(226アミノ酸)から構成される。
【0030】
粒子形成能を有するタンパク質を含むナノ粒子は、真核細胞で当該タンパク質を発現させることにより得られるものであってもよい。真核細胞で粒子形成能を有するタンパク質を発現させると、当該タンパク質は、小胞体膜上に膜タンパク質として発現し、蓄積され、粒子として放出される。真核細胞としては、酵母及び昆虫細胞等が使用できる。出芽酵母内でHBVのLタンパク質を過剰発現させて得られるナノ粒子はバイオナノカプセル(BNC)として知られ、3回膜貫通型のLタンパク質約110分子が酵母小胞体膜由来リポソームに埋め込まれたプロテオリポソームである。
【0031】
上記の脂質二重膜で形成されるナノ粒子は、抗体のFc領域に結合する抗体結合ドメインを外側表面に有する。抗体結合ドメインを外側表面に有するナノ粒子は、例えば、一部が抗体結合ドメインに置換されたHBVのLタンパク質を真核細胞で過剰発現させることで得られる。具体的には、Pre-S1領域及びPre-S2領域の一部(N末端から51~159番目)を、Protein AのFc領域結合Zドメイン(2量体(127アミノ酸))に置換したZZ-タンパク質を出芽酵母内で発現させることで、抗体結合ドメインを外側表面に有するナノ粒子が得られる。このような抗体結合ドメインを外側表面に有するナノ粒子は市販されており、例えば、バイオナノカプセル-ZZ(BNC-ZZ、ビークル社製)等が使用できる。なお、当該ナノ粒子を破砕して得られる脂質二重膜を微粒子の表面に担持させてもよい。
【0032】
ナノ粒子の粒子径は、ナノサイズ(1~1000nm)であれば特に限定されないが、例えば1~500nm、10~300nm、12~200nm、15~100nm又は20~80nmである。好ましくは、ナノ粒子の粒径は30nmである。ナノ粒子の平均粒子径は、例えば動的散乱法では40~50nmであってもよく、電子顕微鏡による測定で15~25nmであってもよい。
【0033】
捕捉用抗体は、検出対象に結合する抗体であれば特に限定されない。捕捉用抗体は、検出対象の特定の領域内にエピトープを有し、当該エピトープを認識して検出対象又は当該特定の領域を含むその断片に結合する。捕捉用抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。捕捉用抗体として、検出対象に応じて市販の抗体を用いてもよい。捕捉用抗体は、公知の方法に従って、例えば、検出対象を抗原として動物に免疫して作製してもよい。
【0034】
捕捉用抗体は、抗体結合ドメインにFc領域を介して保持される。脂質二重膜で形成されるナノ粒子の場合、当該ナノ粒子の表面に抗体結合ドメインにFc領域を介して保持される。捕捉用抗体を抗体結合ドメインに保持させるには、例えば、抗体結合ドメインを外側表面に有する脂質二重膜、例えば脂質二重膜で形成されるナノ粒子を含む懸濁液に捕捉用抗体を加え、室温で静置すればよい。
【0035】
検出対象は、抗体で認識できるものであれば特に限定されないが、好ましくはタンパク質を有するものである。検出対象は、例えば、原虫、原生動物、細菌及びウイルス等の病原体である。検出対象としては、大腸菌、サルモネラ菌、コレラ菌、百日咳菌、結核菌、黄色ブドウ球菌、レンサ球菌、ヘリコバクターピロリ、インフルエンザウイルス、日本脳炎ウイルス、ヘルペスウイルス、コロナウイルス、HIV及びエボラ出血熱ウイルス等が挙げられる。好適には、検出対象はSARS-CoV-2であって、捕捉用抗体は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に特異的に結合する抗体である。
【0036】
微粒子は、脂質二重膜又はナノ粒子より粒子径が大きい粒子、特には、マイクロサイズの粒子である。微粒子の粒子径は、例えば、10~500μm、12~300μm、15~200μm、18~100μm又は20~60μmである。好ましくは、微粒子の粒子径は20~30μmである。なお、上記のナノ粒子及び微粒子の粒子径は、ふるい分け法、沈降法、顕微鏡法、光散乱法、レーザー回折・散乱法、電気的抵抗試験、透過型電子顕微鏡による観察、及び走査型電子顕微鏡による観察等で測定できる。粒子径は公知の粒度分布計で測定してもよい。粒子径は、測定方法に応じて、ストーク相当径、円相当径、球相当径で表すことができる。また、粒子径は、複数の粒子を測定対象として、平均で表した平均粒子径、体積平均粒子径及び面積平均粒子径等であってもよい。
【0037】
微粒子は、表面にタンパク質を保持できるものであれば特に限定されない。微粒子は、公知のポリマーで形成されたものが使用でき、例えば、ポリスチレン系のラテックス粒子が好ましい。微粒子の表面には公知の方法で脂質二重膜を担持させればよい。例えば、微粒子と脂質二重膜とを共存させることで物理吸着により微粒子の表面に脂質二重膜を担持させることができる。また、微粒子の表面のアミノ基、カルボキシル基、メルカプト基、ヒドロキシル基、アルデヒド基及びエポキシ基等の官能基を介した共有結合により脂質二重膜を微粒子に担持させてもよい。
【0038】
脂質二重膜に対する微粒子の量は、検出感度を考慮して適宜設定される。脂質二重膜で形成されるナノ粒子及び微粒子として、それぞれBNC-ZZ及び粒子径が25μmのラテックス微粒子を採用する場合、ナノ粒子と微粒子の質量比は、1:300~15000、1:500~10000、1:1000~5000又は1:2000~4000であって、好ましくは1:3000である。
【0039】
続いて、本実施の形態に係る検出キットを使用した検出方法について説明する。検出方法は、混合ステップと、暴露ステップと、検出ステップと、を含む。混合ステップでは、検出対象に結合する検出用抗体と検体とを混合する。より具体的には、検体は抗体を含む溶液と混合される。検体は公知の方法で採取される。例えば検出対象がSARS-CoV-2の場合、検体はスワブ(綿棒)等で採取した鼻腔ぬぐい液である。なお、検体はヒト等の動物由来の検体に限らず、物、例えば検出対象が付着しているおそれがあるドアノブ、レバー、洋式便器の便座、携帯端末及び医療機器等を構成する基材等の表面を拭き取ることで採取されてもよい。基材の種類は、特に限定されず、金属、天然樹脂、合成樹脂、ガラス及びゴム等の任意である。
【0040】
検出用抗体は、蛍光物質、酵素又はビオチン等で標識された抗体である。蛍光物質としては、FITC(Fluorescein Isothiocyanate)、Alexa Fluor(商標)色素及びCy色素等の蛍光色素、並びにPE(Phycoerythrin)及びAPC(Allophycocyanin)等の蛍光タンパク質が挙げられる。酵素は発色基質の発色を触媒する酵素であれば任意で、例えば、HRP(Horseradish peroxidase)及びAP(Alkaline phosphatase)等である。HRPの発色基質はDAB及びTMB等で、APの発色基質は、BCIP/NBT及びpPNPP等である。
【0041】
検出用抗体と捕捉用抗体とは、抗原認識部位が異なる。検出用抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
【0042】
暴露ステップでは、上記脂質二重膜における抗体結合ドメインにFc領域を介して保持された捕捉用抗体を、混合ステップで得られた混合物に暴露する。脂質二重膜は微粒子の表面に担持されているため、微粒子に混合物を接触させることで、捕捉用抗体を混合物に暴露することができる。
【0043】
暴露ステップの後に、洗浄ステップによって、捕捉用抗体に補足された検出対象以外の物質を除去してもよい。洗浄ステップでは、例えばバッファー又はPBS(リン酸緩衝生理食塩水)等で微粒子をすすげばよい。必要に応じて、洗浄ステップを複数回行ってもよい。また、洗浄後の微粒子は、遠心分離法を利用して沈殿として回収することもできる。
【0044】
検出ステップでは、捕捉用抗体に結合した検体に含まれる検出対象を、検出用抗体によって検出する。例えば、検出用抗体として酵素で標識された抗体を使用する場合、検出ステップでは、当該酵素と当該酵素の発色基質とを反応させればよい。続いて、吸光度を測定して呈色反応を測定することで、検出対象の有無を判定又は検出対象の量を測定することができる。なお、予めいくつかの濃度の測定対象について測定し、検量線を作成することで、検出対象の量を定量することができる。また、発色基質の呈色反応で検出する場合、検出ステップでは、遠心分離法を利用して微粒子を沈殿として除去しておき、上澄み液について吸光度を測定してもよい。
【0045】
ここで、
図1を参照して、本実施の形態に係る検出キットの一態様である検出キット10を例示する。検出キット10は、シリンジ1と、フィルター2と、ピストン3と、を備える。検出キット10では、脂質二重膜で形成された上記ナノ粒子を使用するものとする。シリンジ1は中空で、下側の先端と上側の末端とは開口している。捕捉用抗体を保持するナノ粒子を担持する微粒子4がシリンジ1の内部に配置される。
【0046】
フィルター2はシリンジ1の先端に接続される。フィルター2の内部には微粒子4の粒径より目の細かい濾過器が配置されている。フィルター2によって微粒子4はシリンジ1の内部に保持される。試薬、試料及びバッファー等はシリンジ1の末端開口部から微粒子4に供給することができる。
【0047】
ピストン3は、シリンジ1の末端開口部から挿入される。ピストン3をシリンジ1の先端方向に押し込むことで、シリンジ1の内部に押圧がかかる。必要に応じて、ピストン3による押圧によって、微粒子4に保持されていない、例えば未反応の残余物等をシリンジ1の先端開口部から排出することができる。
【0048】
検出キット10を使用する場合、暴露ステップの前に、シリンジ1、フィルター2及び捕捉用抗体を保持するナノ粒子を担持する微粒子4は、検出対象のシリンジ1の壁面への非特異的な吸着及び捕捉用抗体への非特異的な結合等を抑制するために、公知の方法でブロッキングされてもよい。
【0049】
暴露ステップでは、微粒子4に混合物を注いで反応させる。反応後、ピストン3による押圧で液体をシリンジ1から排出させる。PBS等で微粒子4を洗浄し、液体をシリンジ1から排出した後、発色基質を微粒子4に注ぐ。静置して反応させた後、発色基質を含む液体を排出して回収する。回収した液体の吸光度を測定することで検出対象の有無等を判定できる。
【0050】
本実施の形態に係る検出方法によれば、捕捉用抗体を保持する脂質二重膜が比表面積の大きい微粒子の表面に担持されているため、捕捉用抗体と検出対象との反応効率を高めことができる。さらに、脂質二重膜の外側表面の抗体結合ドメインにFc領域を介して捕捉用抗体が保持されているため、捕捉用抗体における検出対象との結合部位であるFab領域で効率よく検出対象を捕捉できる。この結果、高い感度が得られる。
【0051】
なお、本実施の形態に係る検出キットは、検出用抗体をさらに備えてもよい。検出用抗体が酵素で標識された抗体である場合、検出キットは酵素の発色基質をさらに備えてもよい。また、検出キットは、バッファー及びブロッキングバッファー等の試薬をさらに備えてもよい。
【0052】
本実施の形態に係る検出キット10は、捕捉用抗体を保持するナノ粒子(脂質二重膜)を担持する微粒子4がシリンジ1の内部に配置された状態で提供されてもよいし、ナノ粒子(脂質二重膜)、捕捉用抗体及び微粒子4等が、シリンジ1とは独立した状態で提供されて、検出キット10の使用前に、シリンジ1の内部で、微粒子4にナノ粒子を担持させ、続いてナノ粒子に捕捉用抗体を保持させるようにしてもよい。
【実施例0053】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
(シリンジとフィルターのブロッキング)
先端にフィルター(ジーエルサイエンス社製、GLクロマトディスク、4A、0.45μm、水系未滅菌)を接続した状態のシリンジ(NORM-JECT、Luer Lock Sterile Syringes、3mL)にブロッキングバッファー(ブロッキング試薬N102(2×、日油社製)とブロックエース(5%、ケー・エー・シー社製とを混合)2mLを注いだ。シリンジにピストンを挿入しフィルター側を上にしてフィルターを外し、ピストンを押してシリンジ内の空気を抜いた。フィルターをシリンジの先端に取り付け、強く振ってシリンジ先端部をブロッキングバッファーで満たした。フィルター側を下にして室温で60分以上、静置した。使用する直前に、ブロッキングバッファーを捨てて1mLのPBSでシリンジとフィルターとを3回洗浄した。
【0055】
(検出キットの作製)
1検体に使用する検出キットを次のように作製した。よく振り混ぜたビーズ(Polysciences社製、Polybead Polystyrene Microspheres(2.5%(w/v) Solids-Latex)、粒子径:25.0μm)原液12μLをチューブに加えた。チューブを遠心分離し(約1900×g、10秒程度、以下同様)、上澄みを除去した。ビーズをエタノールで3回洗浄した。なお、1回の洗浄で、エタノール(50μL)をチューブに加え、ビーズをすすぎ、遠心分離し(約1900×g、10秒程度)、上澄みを除去した。続いて超純水及びPBSを用いて、同様の洗浄を各々3回行った。
【0056】
BNC-ZZ(ビークル社製)のPBS溶液(1μg/mL、100μL)を、ビーズを含む上記チューブに注ぎ、ビーズを液中に分散して、室温で30分間、静置した。遠心分離後、上澄みを除去し、PBSでの洗浄を3回行った。ブロッキングバッファー(100μL)をチューブに加え、ビーズを液中に分散して、室温で60分間以上、静置した。遠心分離後、上澄みを除去し、PBSでの洗浄を3回行った。
【0057】
捕捉用抗体(R&D Systems社製、SARS-CoV-2 Spike S1 Subunit Antibody(Monoclonal Mouse IgG1 Clone #1035206)のPBS溶液(5μg/mL、100μL)を上記チューブに加え、ビーズを液中に分散して、室温で30分間、静置した。遠心分離後、上澄みを除去し、PBSでの洗浄を3回行った。次に、ブロッキングバッファー(100μL)をチューブに加え、ビーズを液中に分散して、室温で60分間以上、静置した。遠心分離後、上澄みを除去し、PBSで3回洗浄した。
【0058】
PBS(50μL)をチューブに加え、ビーズを液中によく分散した。ブロッキング済みのフィルターを装着したシリンジの先端部にビーズ分散液50μLを直接加え、ピストンによる押圧でPBSのみをシリンジから排出した。フィルターをシリンジから外し、乾燥を防ぐためにPBS10μLをビーズに注いでから再度接続し、フィルターの出口側をパラフィルムで塞いだ。
【0059】
(SARS-CoV-2 スパイクタンパク質の検出)
スパイクタンパク質(R&D Systems,Recombinant SARS-CoV-2 Spike His-tag)のブロッキングバッファー溶液(1500ng/mL)と、HRPで標識した検出用抗体(R&D Systems社製、SARS-CoV-1/2 Spike RBD Llamabody(商標) Antibody(Recombinant Monoclonal Human IgG1 Clone #VHH72)のブロッキングバッファー溶液(150ng/mL)とを、体積比1:1で混合し、室温で30分間、静置した(溶液1)。なお、検出用抗体のHRPでの標識には、Peroxidase Labeling Kit-NH2(Dojindo社製、LK11)を用いた。ブロッキングバッファーで溶液1を希釈して所定のスパイクタンパク質濃度の溶液を調製した。
【0060】
呈色試薬(Seracare Life Sciences社製、KPL、TMB Microwell Peroxidase Substrate System(2-Component System))のA液及びB液(各60μL)を混合した。
【0061】
上記の作製済みの検出キットのビーズに各スパイクタンパク質濃度の溶液100μLを加え、室温で15分間、静置した。反応後、ピストンによる押圧で溶液をシリンジから排出した。PBSでビーズを3回洗浄し、混合した呈色試薬(120μL)を加え、室温で5分間以上、静置した。続いて、反応した呈色試薬を排出して回収した。呈色試薬の吸光度(620nm)を測定した。
【0062】
(結果)
図2にスパイクタンパク質の濃度に対する吸光度を示す。本実施例に係る検出キットで測定された吸光度は、スパイクタンパク質の濃度とよく相関していた。
【0063】
[実施例2]
本実施例では、本発明に係る検出方法とBNC-ZZを使用しない場合とで検出感度を比較した。特に指示がない限り、材料は実施例1と同じである。
【0064】
実施例1と同様にBNC-ZZを介して捕捉用抗体を担持させたビーズ分散液50μLをシリンジに加えずに、0.2mLチューブに加え、遠心分離し、上澄みを除去した。上記の溶液1をブロッキングバッファーで希釈して150ng/mLのスパイクタンパク質溶液を調製した。チューブ内でビーズとスパイクタンパク質溶液(100μL)を混合し、ビーズを液中に分散して、室温で15分間、静置した。チューブを遠心分離し、上澄みを除去し、PBSで3回洗浄した。ビーズに混合した呈色試薬(120μL)を注ぎ、ビーズを液中に分散して、室温で5分間以上、静置した。遠心分離し、上澄みの吸光度を測定した。
【0065】
BNC-ZZを使用しない場合は、洗浄後のビーズとBNC-ZZとの混合及びブロッキングを行わずに捕捉用抗体を担持させたビーズ分散液を用いる点を除いて同様に行った。
【0066】
(結果)
BNC-ZZを使用した場合と使用しなかった場合の吸光度を
図3に示す。BNC-ZZを使用しないとほとんど検出できない試料であっても、BNC-ZZを使用することで検出できた。
【0067】
[実施例3]
本実施例では、スパイクタンパク質を捕捉用抗体と反応させる前に検出用抗体と混合する本発明に係る検出方法(前標識)の検出感度を、スパイクタンパク質と捕捉用抗体との反応後に検出用抗体を加える後標識(サンドイッチ法)と比較した。特に指示がない限り、材料は実施例1と同じである。
【0068】
前標識については、実施例2におけるBNC-ZZを使用した場合と同様とした。後標識では、実施例1と同様にBNC-ZZを介して捕捉用抗体を担持させたビーズ分散液50μLをシリンジに加えずに、0.2mLチューブに加え、遠心分離し、上澄みを除去した。150ng/mLのスパイクタンパク質のブロッキングバッファー溶液(100μL)をチューブ内でビーズと混合し、ビーズを液中に分散して、室温で30分間以上、静置した。遠心分離し、上澄みを除去し、PBSで3回洗浄した。
【0069】
150ng/mLの標識抗体のブロッキングバッファー溶液(100μL)をチューブ内でビーズと混合し、ビーズを液中に分散して、室温で30分間以上、静置した。遠心分離し、上澄みを除去し、PBSで3回洗浄した。ビーズに混合した呈色試薬(120μL)を注ぎ、ビーズを液中に分散して、室温で5分間以上、静置した。遠心分離し、上澄みの吸光度を測定した。
【0070】
(結果)
図4に示すように、前標識は、後標識と同様に、スパイクタンパク質を検出できることが示された。なお、試料に含まれるスパイクタンパク質の質量は両者で同じである。
【0071】
[実施例4]
5cm角の平板の表面にスパイクタンパク質150ngを塗布し乾固させた。平板の表面において、緩衝液(TBS(Tris-Buffered Saline)-T等)で湿潤させた綿棒を隙間無く縦横に往復させ、それぞれ一回ずつ拭った。綿棒を実施例1と同じHRPで標識した検出用抗体のブロッキングバッファー溶液に浸漬させて検体を溶液に回収した。実施例1で使用した検査キットを用いて、検体について実施例1と同様に測定した。対照として、150ngのスパイクタンパク質を含むブロッキングバッファー溶液と、HRPで標識した検出用抗体のブロッキングバッファー溶液とを混合した試料を用いた。
【0072】
平板をドアノブの取っ手、レバーの取っ手又は洋式便器の便座上の部分(5cm角程度)に代えて得られた検体について実施例1と同様に測定した。
【0073】
(結果)
平板から回収した検体及びドアノブの取っ手から回収した検体の結果をそれぞれ
図5及び
図6に示す。両方の検体は対照とほぼ同等の吸光度を示した。レバーの取っ手及び洋式便器の便座でも
図5と同様の結果が得られた。
【0074】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。