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特開2023-19893スプレッド用又は注入用の油脂組成物、それを塗布又は注入したベーカリー製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019893
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】スプレッド用又は注入用の油脂組成物、それを塗布又は注入したベーカリー製品
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/005 20060101AFI20230202BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20230202BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20230202BHJP
   A21D 13/32 20170101ALI20230202BHJP
   A21D 13/38 20170101ALI20230202BHJP
   A21D 17/00 20060101ALI20230202BHJP
   A23D 9/007 20060101ALI20230202BHJP
   A23D 7/04 20060101ALI20230202BHJP
   A23D 9/04 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
A23D7/005
A23D7/00 506
A23D9/00 502
A21D13/32
A21D13/38
A21D17/00
A23D9/007
A23D7/04
A23D9/04
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124957
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 泉
(72)【発明者】
【氏名】堀山 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】飯岡 宏之
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DC03
4B026DG20
4B026DL09
4B026DP01
4B026DX01
4B026DX04
4B032DB01
4B032DG02
4B032DK18
4B032DK51
4B032DP66
4B032DP80
(57)【要約】
【課題】焼成後流通するベーカリー製品において、流通段階では食感が変化しないが、再加熱することによって、喫食時にフレンチトーストのように柔らかくジューシーな食感でありながら、数日間の常温保管に耐えうる品質のベーカリー製品を提供すること。すなわち、焼成後流通するベーカリー製品において、焼成後、再加熱前には食感が変化しないが、再加熱することによって、喫食時にフレンチトーストのように柔らかくジューシーな食感でありながら、数日間の常温保管に耐えうる品質のベーカリー製品を提供すること。
【解決手段】連続相が油脂であり、糖分解酵素及びタンパク質分解酵素からなる群から選択される1以上の酵素を含有するスプレッド用又は注入用の油脂組成物を、ベーカリー焼成品に塗布又は注入する。連続相が油脂である可塑性の油脂組成物中で酵素は作用しないが、再焼成することにより溶融すると、酵素がベーカリー焼成品と直接接触することにより、ベーカリー焼成品の表面を改質することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続相が油脂であり、糖分解酵素及びタンパク質分解酵素からなる群から選択される1以上の酵素を含有する、スプレッド用又は注入用の油脂組成物。
【請求項2】
ベーカリー焼成品に前記油脂組成物を塗布又は注入したベーカリー製品を再加熱することにより油脂組成物を溶融させ、糖分解酵素及びタンパク質分解酵素からなる群から選択される1以上の酵素をベーカリー焼成品に作用させるための請求項1記載の油脂組成物。
【請求項3】
糖分解酵素がアミラーゼ及びヘミセルラーゼからなる群から選択される1以上の酵素であることを特徴とする請求項1又は2記載の油脂組成物。
【請求項4】
ベーカリー焼成品に請求項1~3のいずれかに記載の油脂組成物が塗布又は注入されていることを特徴とするベーカリー製品。
【請求項5】
再加熱することにより塗布又は注入されている油脂組成物を溶融させ、酵素をベーカリー焼成品に作用させるための請求項4に記載のベーカリー製品。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のベーカリー製品を再加熱することにより油脂組成物を溶融させ、酵素をベーカリー生地に作用させることを特徴とする再加熱ベーカリー製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続相が油脂であり、酵素を含有するスプレッド用又は注入用の油脂組成物やそれをベーカリー焼成品に塗布又は注入したベーカリー製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酵素を含む油脂組成物は知られており、例えば、製菓製パン類のソフト感と口どけ感を改善し、且つ保形成に優れ、ケービング(腰折れ)を改善する、αアミラーゼ、マルトース生成αアミラーゼ、及びエステル化度が23%以上75%未満であるアルギン酸エステルを含む油脂組成物(特許文献1)や、経時的な口溶けの低下が改善されたパンが得られるパン生地並びに、好ましくは焼成後時間が経過しても口溶けとソフトさを兼ね備えたパンが得られるパン生地として、構成脂肪酸としてC12~22の脂肪酸からなる脂肪酸AとC1~10の脂肪酸からなる脂肪酸Bを1:2のモル比で含むABB型トリグリセリドと、構成脂肪酸として脂肪酸Aと脂肪酸Bを2:1のモル比で含むAAB型トリグリセリドと、を含み、前記ABB型トリグリセリドの含量/前記AAB型トリグリセリドの含量(重量比)が0.02~2.0であり、パン生地に含まれる穀粉100重量部に対する前記ABB型トリグリセリドの含量が0.003~4.8重量部であり、更に乳化剤、アミラーゼを含有する可塑性油脂組成物を含有するパン生地(特許文献2)が知られている。
【0003】
また、経時的な老化現象が抑制されたベーカリー製品、及びソフトな食感と歯切れ・口溶けとが両立されたベーカリー製品のための、4糖生成アミラーゼを含有するベーカリー用油脂組成物(特許文献3)や、ソフトでしっとりとした食感を有するベーカリー食品を、べとつき等の生地物性の悪化を引き起こすことなく、安定して得ることができる、ヘミセルラーゼを含有するベーカリー用油中水型乳化油脂組成物(特許文献4)や、ソフトな食感と弾力感に優れ、かつ、付着感が抑制されたベーカリー類が得られる、油脂及び糖分解酵素を含有するベーカリー用の油脂組成物(特許文献5)や、生食の際にソフトな食感と、歯切れ・口溶けが両立されており、かつ再加熱された場合にも、望ましい食感であるベーカリー製品用の酸性プロテアーゼ、及びマルトオリゴ糖生成アミラーゼを含有する油脂組成物(特許文献6)が知られている。
【0004】
他方、フレンチトーストは、溶いた鶏卵と牛乳などの混合液をパンに染み込ませたものを、バターや植物油をフライパンなどに熱して焼いたパン料理で、パンがしっとりとした食感となり好まれている。しかし、いわゆるフレンチトーストは水分が多いため、2~4日の日持ちを前提に流通するホールセールのパンと同様の扱いはできない。そこで、水分を極力減らすためにマーガリン等の油脂組成物を焼成済みのパンに塗り、再加熱することで、油脂を多く含む成分をパンに染み込ませ、やわらかくしっとり感を持たせたベーカリー製品が販売されている。しかし、フレンチトーストのような滑らかさや口溶けとは異なっており、改良の余地があった。
【0005】
また、食パンの断面にマーガリン等の油中水型乳化油脂組成物を塗ったり、ロールパンなどに油中水型乳化油脂組成物を注入したベーカリー製品も販売されており、これらを喫食前にトースターなどで加熱して、すでに塗布や注入がなされている油中水型乳化油脂組成物をパンに染み込ませ、やわらかくしっとりとした食感を楽しむことも従来からなされていた。こうした場合にも、さらに異なる食感を持たせることで、さらなる価値を付与することが求められている。
【0006】
【特許文献1】特開2016-054680号公報
【特許文献2】特開2016-189724号公報
【特許文献3】特開2019-071872号公報
【特許文献4】特開2019-149982号公報
【特許文献5】特開2020-178549号公報
【特許文献6】特開2021-036865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、焼成後流通するベーカリー製品において、焼成後、再加熱前には食感が変化しないが、再加熱することによって、喫食時にフレンチトーストのように柔らかくジューシーな食感が得られるベーカリー製品を提供することにある。また再加熱することによって、柔らかくジューシーな食感でありながら、数日間の常温保管に耐えうる品質のベーカリー製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討し、ベーカリー焼成品に塗布又は注入された、連続相が油脂である可塑性の油脂組成物中に存在する酵素はベーカリー焼成品に作用しないが、再加熱することにより可塑性の油脂組成物を溶融すると、酵素がベーカリー焼成品と直接接触することにより、接触面を改質しうることを確認し、本発明を完成するに至った。なお、上記特許文献1~6は、酵素を含有する、油脂を連続相とする油脂組成物でベーカリー製品に用いるものの、焼成前のベーカリー生地に練り込む、又は折り込んで使用するものであり、ベーカリー焼成品に適用する本発明とは技術思想を全く異にするものである。
【0009】
すなわち、本発明は、特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものである。
[1]連続相が油脂であり、糖分解酵素及びタンパク質分解酵素からなる群から選択される1以上の酵素を含有する、スプレッド用又は注入用の油脂組成物。
[2]ベーカリー焼成品に前記油脂組成物を塗布又は注入したベーカリー製品を再加熱することにより油脂組成物を溶融させ、糖分解酵素及びタンパク質分解酵素からなる群から選択される1以上の酵素をベーカリー焼成品に作用させるための上記[1]記載の油脂組成物。
[3]糖分解酵素がアミラーゼ及びヘミセルラーゼからなる群から選択される1以上の酵素であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載の油脂組成物。
[4]ベーカリー焼成品に上記[1]~[3]のいずれかに記載の油脂組成物が塗布又は注入されていることを特徴とするベーカリー製品。
[5]再加熱することにより塗布又は注入されている油脂組成物を溶融させ、酵素をベーカリー焼成品に作用させるための上記[4]に記載のベーカリー製品。
[6]上記[4]又は[5]に記載のベーカリー製品を再加熱することにより油脂組成物を溶融させ、酵素をベーカリー生地に作用させることを特徴とする再加熱ベーカリー製品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
連続相が油脂であり、酵素を含有する本発明の油脂組成物を、パン工場等において、焼成後流通するベーカリー焼成品にあらかじめ塗布又は注入しておくと、再加熱前には酵素が作用せず、食感が変化しないが、パン工場や販売店、家庭内において再加熱することによって、油脂組成物が溶融し、酵素がベーカリー焼成品に作用することにより、喫食時にフレンチトーストのように柔らかくジューシーな食感でありながら、数日間の常温保管に耐えうる品質のベーカリー製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の油脂組成物としては、連続相が油脂であり、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ等の糖分解酵素、及びタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)からなる群から選択される1以上の酵素を含有する、スプレッド用又は注入用という用途が特定されている油脂組成物であれば特に制限されず、ここで「スプレッド用」とは、ベーカリー焼成品に塗布するためのものをいい、また「注入用」とは、ベーカリー焼成品に注入するためのものをいう。本発明の油脂組成物は、ベーカリー焼成品に当該油脂組成物を塗布又は注入したベーカリー製品を再加熱することにより油脂組成物を溶融させ、酵素をベーカリー焼成品に作用させるためという用途が特定されるものが特に好ましい。
【0012】
また本発明のベーカリー製品としては、ベーカリー焼成品に本発明の油脂組成物が塗布又は注入されていれば特に制限されず、ベーカリー焼成品に本発明の油脂組成物が塗布又は注入された状態で、包装、流通、店頭で陳列されている状態の製品を具体的に例示することができる。そしてこのベーカリー製品は「再加熱することにより塗布又は注入されている油脂組成物を溶融させ、酵素をベーカリー焼成品に作用させるため」という用途を有するものが好ましい。
【0013】
本発明に使用される連続相が油脂である油脂組成物としては、油相のみであるショートニングや油中水型であるマーガリン、ファットスプレッド等の可塑性油脂組成物を挙げることができる。可塑性油脂組成物の油脂含量は、例えば50~95質量%、50~100質量%、60~95質量%、60~100質量%、70~95質量%、70~100質量%、80~95質量%、80~100質量%であることが好ましい。
【0014】
本発明に使用される連続相が油脂である油脂組成物に使用される油脂としては、通常のマーガリン、ショートニング等に使用される食用油脂であれば特に制限されず、例えば、大豆油、菜種油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂、サル脂、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、鯨油等の各種の植物油脂及び動物油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別及びエステル交換から選択された一又は二以上の処理を施した加工油脂や、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の合成油脂を挙げることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0015】
本発明ではオーブンや電子レンジ、蒸し器等の再加熱時に溶融し、酵素がベーカリー焼成品に接することで効果が得られることから、本発明の油脂組成物に使用される油脂の融点は、45℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましく、38℃以下がさらに好ましい。
【0016】
また、再焼成前には、酵素が連続相である油脂によって保持されており、ベーカリー焼成品に作用しないことが好ましいことから、本発明の油脂組成物に使用される油脂の融点は、25℃以上が好ましく、28℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましい。融点は、基準油脂分析試験法「2.2.4.2-1996 融点(上昇融点)」に準じて測定することができる。
【0017】
本発明の油脂組成物には、本発明の効果を損なわない限り、油脂以外の他原材料を含有させることができる。かかる他原材料の例としては、水、乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β-カロテン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、香料、脱脂粉乳やホエイパウダー等の乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、果実、果汁、香辛料、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物を挙げることができる。
【0018】
本発明に用いられる糖分解酵素としては、その由来は特に制限されず、例えば、アミラーゼ、アミログルコシダーゼ、プルラナーゼ、へミセルラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ等を挙げることができるが、アミラーゼ及びヘミセルラーゼからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。これら糖分解酵素としては、その由来は特に制限されないが、市販の製パン用糖分解酵素や耐熱性糖分解酵素が好ましい。
【0019】
アミラーゼとしては、例えば、α-アミラーゼやβ-アミラーゼを挙げることができる。α-アミラーゼは、デンプンのα-1,4結合をランダムに切断するエンド型の酵素で、例えば、Bacillus subtilis由来のスミチームA-10、Bacillus sp.由来の耐熱性スミチームAH、Aspergillus niger由来のスミチームAS、Aspergillus oryzae由来のスミチームL(以上、新日本化学工業社製)、細菌由来の耐熱性のスピターゼXP-404V2、細菌由来の耐熱性のスピターゼHK/R(以上、ナガセケムテックスジャパン社製)、Bacillus sp.由来のクライスターゼT10S、Aspergillus属由来のビオザイムA(天野エンザイム社製)、Bacillus sp.由来のオプティケーキ フレッシュ50BG、Bacillus sp.由来のノバミル10000 BG、Bacillus sp.由来のノバミル 3D BG、Aspergillus属由来のファンガミル2500SG(以上、ノボザイムズ ジャパン社製)、Aspergillus oryzae由来のコクラーゼ(三菱ケミカルフーズ社製)、Aspergillus oryzae由来のベイクザイムP500、Bacillus amyloliquefaciens由来のベイクザイムAN301(以上、DSM社製)などが商業的に入手できる。
【0020】
また、β-アミラーゼは、澱粉のα-1,4グルコシド結合を非還元末端からエキソ型に二糖単位で加水分解してマルトースを生成する酵素で、例えば、大豆由来のβ-アミラーゼ#1500S(ナガセケムテックスジャパン社製)、Bacillus属由来のβ-アミラーゼF「アマノ」(天野エンザイム社製)などが商業的に入手できる。
【0021】
その他、澱粉を非還元性末端からグルコース(β型)単位で逐次分解を行うエキソ型酵素であるグルコアミラーゼは、例えば、Aspergillus niger由来のベイクザイムAG800(DSM社製)、Aspergillus属由来のAMG1100BG(ノボザイムズ ジャパン社製)などが商業的に入手できる。また、β-1,4-グルカン(例えば、セルロース)のグリコシド結合を加水分解する酵素であるセルラーゼは、例えば、セルクラストBG(ノボザイムズ ジャパン社製)、Trichoderma reesei由来のベイクザイムX-CELL(DSM社製)などが商業的に入手できる。
【0022】
ヘミセルラーゼは、植物組織からアルカリ抽出される多糖類であるヘミセルロースを加水分解する酵素で、その由来は特に制限されない。基質となるヘミセルロースとしては、キシラン、アラビノキシラン、アラビナン、マンナン、ガラクタン、キシログルカン、グルコマンナン等を挙げることができる。これらヘミセルロースを加水分解する酵素が一般的にはヘミセルラーゼといわれており、例えば、Aspergillus niger由来のスミチームSNX、Trichoderma reesei由来のスミチームX(以上、新日本化学工業社製)、Aspergillus niger由来のセルロシン HC100、Trichoderma reesei由来のセルロシン TP25(以上、エイチビィアイ社製)、Aspergillus niger由来のベイクザイムHS2000、ベイクザイムARA10000、Bacillus subtilis由来のベイクザイムBXP5001(以上、DSM社製)、ペントパン500BG(ノボザイム社製)、ヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム社製)、スクラーゼTMX(三菱化学フーズ社製)などが商業的に入手できる。
【0023】
本発明に用いられるタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)としては、その由来は特に制限されないが、市販の製パン用プロテアーゼや耐熱性プロテアーゼが好ましい。かかるプロテアーゼとしては、Aspergillus oryzae由来の中性プロテアーゼであるスミチームLP、スミチームLPL、スミチームOP(以上、新日本化学工業社製)、耐熱性プロテアーゼであるプロテアーゼS「アマノ」(天野製薬株式会社製)、ニュートラーゼ1.5MG(ノボザイム社製)、超耐熱性セリンプロテアーゼ Pfu Protease S(タカラバイオ社製)、Aspergillus sp.由来のパンチダーゼP(ヤクルト薬品工業社製)、Bacillus amyloliquefaciens由来のベイクザイムB500、Aspergillus oryzae由来のベイクザイムPPU95.000(以上、DSM社製)などが商業的に入手できる。
【0024】
糖分解酵素やプロテアーゼの添加量は、酵素の力価や耐熱性、至適温度によって適宜選択することができ、適宜必要な量を使用することができる。例えば、油脂組成物中に0.005~2質量%、好ましくは0.01~1質量%、より好ましくは0.1質量%であり、これら酵素をマーガリンやショートニングに混ぜ込むことにより本発明のスプレッド用又は注入用の油脂組成物を得ることができる。
【0025】
ベーカリー焼成品に塗布する油脂組成物の厚みや、注入する油脂組成物の量や注入される空間の大きさ、再加熱の方法、条件等により、再加熱工程における温度履歴は異なる。糖分解酵素やプロテアーゼの種類や添加量は、実際の温度履歴の条件に合わせて適宜選択することができる。より詳細に述べれば、再加熱工程において本発明の油脂組成物中の連続相である油脂が溶融し始める温度から、再加熱工程における最も高い温度までの範囲に含まれる、いずれかの温度帯において酵素活性を有していることが好ましい。さらには油脂組成物の融点以上の温度から100℃までの範囲に含まれるいずれかの温度帯において活性を有することがより好ましく、該温度帯の下限が40℃であることがさらに好ましく、45℃であることが最も好ましい。また、該温度帯の上限が95℃であることがさらに好ましく、90℃であることが最も好ましい。
【0026】
例えば油脂組成物をベーカリー焼成品に塗布し、再加熱工程をオーブン等で行う場合には、塗布された面の温度は焼成前の温度から上昇し、最高で100~200℃程度までに達するが、その温度履歴の間に油脂が溶融し、酵素がベーカリー焼成品に作用することにより効果を発揮することができる。
【0027】
例えば、油脂組成物をベーカリー製品に注入し、再加熱工程をオーブン等で行う場合には、ベーカリー製品内部の温度が焼成前の温度から上昇し、40~80℃程度までに達するが、その温度履歴の間に油脂が溶融し、酵素がベーカリー製品に作用することにより効果を発揮することができる。また、油脂組成物をベーカリー製品に注入し、再加熱工程を電子レンジ等で行う場合には、ベーカリー製品内部の温度が焼成前の温度から上昇し、80~100℃程度までに達するが、その温度履歴の間に油脂が溶融し、酵素がベーカリー製品に作用することにより効果を発揮することができる。
【0028】
本発明の油脂組成物を製造する方法としては特に限定されないが、例えばショートニングやマーガリン、ファットスプレッドといった可塑性油脂組成物に酵素を混合し、可塑性油脂組成物中に分散させる方法や、酵素を水に分散させたものを可塑性油脂組成物中に分散又は乳化させる方法が挙げられる。また、融解した油脂に、酵素又は酵素を分散させた水相を、分散又は乳化させたものを、冷却、練りを加えて可塑性を有する油脂組成物を得る方法も挙げられる。あるいは、融解した油脂、又は融解した油脂に水相を加え乳化させたものを、冷却、練りを加えて可塑性を有する油脂組成物を得る工程のいずれかの時点において、酵素若しくは酵素を水に分散させたものを加えて混合する方法も挙げられる。具体的には、冷却をする前や、練りを加える前、練りを加えた後にラインから油脂組成物を取り出す前などに、酵素、もしくは酵素を油脂や水に分散させたものをライン中に注入しインラインミキサーで混合する方法が挙げられる。
【0029】
本発明において使用されるベーカリー焼成品は、穀粉類を主成分としたベーカリー生地を加熱処理(焼成、蒸し、フライ)することで得られ、例えばパン類、菓子類等を挙げることができ、具体的には、食パン、菓子パン、バラエティーブレッド、バターロール、ソフトロール、ハードロール、スイートロール、デニッシュ、ペストリー、フランスパン等のパン類の生地や、パイ、シュー、ドーナツ、バターケーキ、スポンジケーキ、カステラ、パンケーキ、蒸しケーキ、中華まん、饅頭、どら焼き、たい焼き、ハードビスケット、ワッフル、サブレ、ラングドシャ、スコーン等の菓子類などを挙げることができる。
【0030】
上記ベーカリー生地に用いる穀粉類としては、小麦粉(薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉など)をはじめ、小麦胚芽、全粒粉、小麦ふすま、デュラム粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、ライ麦全粒粉、大豆粉、ハトムギ粉の他、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉などの澱粉やそれらの化工澱粉等を挙げることができるが、これらの中でも、穀粉類中に小麦粉を、40質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上使用することが望ましい。また、かかるベーカリー生地においては、必要に応じて、従来知られたベーカリー生地に使用することのできるその他の原料を配合することもできる。
【0031】
ベーカリー焼成品に本発明の油脂組成物を塗布又は注入する方法は特に制限されず、常法により塗布又は注入を行うことができるが、ベーカリー焼成品の中心温度が50℃以下となった後で塗布又は注入を行うことが好ましい。また、ベーカリー焼成品に本発明の油脂組成物が塗布又は注入されているベーカリー製品を再加熱する方法としては特に制限されず、トースターで焼いたり、電子レンジで温めたり、フライパン、鉄板、又は焼き網で焼いたり、蒸したりする方法を挙げることができる。
【実施例0032】
〔酵素〕
<α-アミラーゼ>
・スミチームAH(新日本化学工業社製)
・スミチームA-10(新日本化学工業社製)
・スミチームAS(新日本化学工業社製)
・スミチームL(新日本化学工業社製)
・ノバミル 3D BG(ノボザイムズ ジャパン社製)
<ヘミセルラーゼ>
・スミチームSNX(新日本化学工業社製)
・ベイクザイムBXP5001(DSM社製)
<プロテアーゼ>
・スミチームOP(新日本化学工業社製)
【0033】
<スプレッド用又は注入用の油脂組成物>
おいしいソフトマーガリン(月島食品工業社製;融点34℃)に、α-アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びプロテアーゼをそれぞれ0.01質量%、0.1質量%、1.0質量%となるように混合して、スプレッド用又は注入用の油脂組成物を調製した。また、2種類のα-アミラーゼの併用は、合わせて0.1質量%となるように混合して、スプレッド用又は注入用の油脂組成物を調製した。
【0034】
<食感の官能評価>
上記のスプレッド用又は注入用の油脂組成物を、食パン(ベーカリー焼成品)1枚に15gスプレッドしたベーカリー製品(食パン)を、トースター(三洋電機製)を用いて1300Wで2分30秒焼成した。最終の表面温度は約150℃であった。このようにして得られたベーカリー製品は、溶いた鶏卵と牛乳などの混合液をパンに染み込ませたものを調理するいわゆるフレンチトーストとは異なる製造方法で得られたものであり、工場で再加熱され包装されて常温流通されることを想定している。また同様に、スプレッド用又は注入用の油脂組成物を、ロールパン(ベーカリー焼成品)1個に10g注入したベーカリー製品(ロールパン)を、トースター(三洋電機製)を用いて1300Wで2分焼成した。最終のロールパンの中心部分の温度は約68℃であった。得られた再加熱ベーカリー製品(食パン)及び再加熱ベーカリー製品(ロールパン)が冷めた後に4人のパネラーにより官能にて食感を合議で4段階で評価した。
3点;とても滑らかで口溶けがよい食感
2点;滑らかで口溶けがよい食感
1点;やや滑らかで口溶けがよい食感
0点;再加熱の前後で、滑らかさや口溶けの食感に変化なし
【0035】
<結果>
食感の官能評価と硬さの結果を[表1]に示す。その結果、連続相が油脂であり、酵素を含有する油脂組成物を、ベーカリー焼成品にあらかじめ塗布又は注入しておくと、再加熱することによって、柔らかくジューシーな食感のベーカリー製品が得られることがわかった。また、2種のα-アミラーゼを併用した場合、各酵素の単独使用の場合と同等の結果が得られることがわかった。
【0036】
【表1】