(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019912
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シート、抗菌・抗ウイルス用組成物および抗菌・抗ウイルス性部材
(51)【国際特許分類】
A01N 59/14 20060101AFI20230202BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230202BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230202BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20230202BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
A01N59/14
A01P1/00
A01P3/00
A01N25/34 A
B01J35/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124983
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】宮内 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃
(72)【発明者】
【氏名】砂田 香矢乃
(72)【発明者】
【氏名】石黒 斉
(72)【発明者】
【氏名】永井 武
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛弘
【テーマコード(参考)】
4G169
4H011
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA04A
4G169BA48A
4G169BB01A
4G169BB01B
4G169BB04A
4G169BC60A
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD03A
4G169BD03B
4G169DA05
4G169EA08
4G169HA01
4G169HB01
4G169HB06
4G169HE07
4H011AA01
4H011AA03
4H011AA04
(57)【要約】
【課題】ウイルスや細菌に対して不活性化できる抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シート、この抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートを含有する抗菌・抗ウイルス用組成物、並びに抗菌・抗ウイルス性部材を提供する。
【解決手段】本発明に係る抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートは、(BH)
n(n≧4、但しnは整数)からなる二次元ネットワークを有する。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(BH)n(n≧4、但しnは整数)からなる二次元ネットワークを有する、抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シート。
【請求項2】
請求項1記載の抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートを含有する、抗菌・抗ウイルス用組成物。
【請求項3】
金属および金属酸化物の少なくとも一方からなる抗菌・抗ウイルス材を含むことを特徴とする請求項2に記載の抗菌・抗ウイルス用組成物。
【請求項4】
光励起によって電子-正孔対を生成することができる半導体および有機化合物の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の抗菌・抗ウイルス用組成物。
【請求項5】
樹脂を含有することを特徴とする請求項2~4のいずれかに記載の抗菌・抗ウイルス用組成物。
【請求項6】
溶媒を含有することを特徴とする請求項2~5のいずれかに記載の抗菌・抗ウイルス用組成物。
【請求項7】
部材と、
前記部材の少なくとも表面に定着された、請求項2~6のいずれかに記載の抗菌・抗ウイルス用組成物と、を備える抗菌・抗ウイルス性部材。
【請求項8】
前記部材に定着された抗菌・抗ウイルス用組成物の透過率が、可視光域で80%以上であることを特徴とする、請求項7に記載の抗菌・抗ウイルス性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートに関する。また、前記抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートを含有する抗菌・抗ウイルス用組成物、および抗菌・抗ウイルス性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行により、感染予防対策の必要性が以前にも増して高まっており、ウイルスや細菌に対して不活性化できる製品の開発が希求されている。抗菌・抗ウイルス材料として、例えば、特許文献1には、樹脂と、分散剤で被覆された一価の銅化合物微粒子からなる抗菌・抗ウイルス剤と、前記樹脂中に分散し、前記樹脂と相溶しない親水性化合物と、からなる抗菌・抗ウイルス性組成物が提案されている(特許文献1)。更に、非特許文献1には、MgB2を抗菌剤として用いる技術が開示されている。また、光励起が可能な半導体や有機化合物において、励起光照射下の光触媒作用によって抗菌・抗ウイルス効果を発揮することが報告されている(非特許文献2、3)。
【0003】
なお、抗菌・抗ウイルス用途ではないが、ホウ化水素含有シートについて、本発明者らは、先般、200℃以下の比較的低温の熱処理によって水素を取り出せる技術を提案した(非特許文献4,特許文献2)。また、ホウ化水素含有シートがもつ還元機能によって、該ホウ化水素含有シートの表面に金属粒子を析出できること報告した(非特許文献5、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/045110号
【特許文献2】国際公開第2018/074518号
【特許文献3】国際公開第2020/179779号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Badica P. et al., Antibacterial composite coatings of MgB2 powders embedded in PVP matrix, Scientific Reports, 11, 9591 (2021).
【非特許文献2】Sunada K., Kikuchi Y., Hashimoto K., Fujishima A., Bactericidal and detoxification effects of TiO2 thin film photocatalysts, Environmental Science and Technology, 32, 726 (1998).
【非特許文献3】Jiang L., Gan C. R. R., Gao J., Loh X. J., A perspective on the trends and challenges facing porphyrin-based anti-microbial materials, Small, 12, 3609 (2016).
【非特許文献4】Kondo T., Miyauchi M. et al., Photoinduced hydrogen release from hydrogen boride sheets, Nature Communications, 10, 4880 (2019).
【非特許文献5】Ito S., Miyauchi M., Kondo T. et al., Hydrogen boride sheets as reductants and the formation of nanocomposites with metal nanoparticles, Chemistry Letters, 49, 789 (2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記背景に鑑みてなされたものであり、ウイルスや細菌に対して不活性化できる抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シート、この抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートを含有する抗菌・抗ウイルス用組成物および抗菌・抗ウイルス性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において、本発明の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
[1]: (BH)n(n≧4、但しnは整数)からなる二次元ネットワークを有する、抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シート。
[2]: [1]記載の抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートを含有する、抗菌・抗ウイルス用組成物。
[3]: 金属および金属酸化物の少なくとも一方からなる抗菌・抗ウイルス材を含むことを特徴とする[2]に記載の抗菌・抗ウイルス用組成物。
[4]:光励起によって電子-正孔対を生成することができる半導体および有機化合物の少なくとも一方を含むことを特徴とする[2]又は[3]に記載の抗菌・抗ウイルス用組成物。
[5]: 樹脂を含有することを特徴とする[2]~[4]のいずれかに記載の抗菌・抗ウイルス用組成物。
[6]: 溶媒を含有することを特徴とする[2]~[5]のいずれかに記載の抗菌・抗ウイルス用組成物。
[7]: 部材と、前記部材の少なくとも表面に定着された、[2]~[6]のいずれかに記載の抗菌・抗ウイルス用組成物と、を備える抗菌・抗ウイルス性部材。
[8]: 前記部材に定着された抗菌・抗ウイルス用組成物の透過率が、可視光域で80%以上であることを特徴とする、[7]に記載の抗菌・抗ウイルス性部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ウイルスや細菌に対して不活性化できる抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シート、この抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートを含有する抗菌・抗ウイルス用組成物および抗菌・抗ウイルス性部材を提供できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係るホウ化水素含有シートの(BH)
n(n≧4、但しnは整数)からなる二次元ネットワークの局所構造の模式図。
【
図2】本実施形態に係るホウ化水素含有シートの(BH)
n(n≧4、但しnは整数)からなる二次元ネットワークの局所構造を示す模式図。
【
図3】本実施形態に係るホウ化水素含有シートの(BH)
n(n≧4、但しnは整数)からなる二次元ネットワークの局所構造を示す模式図。
【
図5】実施例1の生成物のEELSの測定結果を示すグラフ。
【
図6】実施例1の生成物のFT-IRの測定結果を示すグラフ。
【
図7】ホウ化水素含有シートをガラス基板にコートしたサンプル表面のSEM像。
【
図8】ホウ化水素含有シートをガラス基板にコートしたサンプルのクラックが入った部分のSEM像。
【
図9】
図8中のクラックが入った部分を拡大して観察したときのSEM像。
【
図10】ホウ化水素含有シートをガラス基板にコートしたサンプルの破断面のSEM像(2次電子像)。
【
図12】
図10中のクラックに焦点を当てて観察したSEM像。
【
図13】ホウ化水素含有シートコート膜の透過率スペクトル。
【
図14】実施例1の抗菌・抗ウイルス用組成物のエンベロープを持つバクテリオファージφ6に対する抗ウイルス活性の経時的変化を示す図。
【
図15】実施例2の抗菌・抗ウイルス用組成物のエンベロープを持たないバクテリオファージQβに対する抗ウイルス活性の経時的変化を示す図。
【
図16】実施例3の抗菌・抗ウイルス用組成物のグラム陰性菌である大腸菌に対する抗菌活性の経時的変化を示す図。
【
図17】実施例4の抗菌・抗ウイルス用組成物のグラム陽性菌である黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性の経時的変化を示す図。
【
図18】実施例5の抗菌・抗ウイルス用組成物のグローブボックス内での飛沫試験結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれる。また、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、これに限定されるものではない。
【0011】
[抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シート]
本実施形態の抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シート(以下、単に抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートまたは本ホウ化水素含有シートともいう)は、(BH)n(n≧4、但しnは整数、以下、単に(BH)nと表記する)からなる二次元ネットワークを有する、シート状物質である。(BH)nからなる二次元ネットワークは、ホウ素原子(B)と水素原子(H)がモル比で1:1の割合で形成される(非特許文献1参照)。
【0012】
抗菌用とは菌に作用させ、菌の増殖を抑制させるために使用される用途を意図し、抗ウイルス用とはウイルスに作用させ、ウイルスの感染価を減少させるために使用される用途を意図する。本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートは、抗菌剤または/および抗ウイルス剤として利用することができる。
【0013】
抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートは、(BH)nからなる二次元ネットワークを有していればよく、(BH)nからなる二次元ネットワークを主骨格とする化合物(例えば、(BH)nからなる二次元ネットワークの一部にドーパントを導入した化合物、末端が酸化物、水酸化物、窒化物、炭化物、硫化物などにより封止されている化合物、および/または末端に有機基が結合された化合物)を含む。ここで主骨格とは、当該化合物中のホウ化水素含有シートが含有される割合が80%以上である物質をいう。
【0014】
前記ドーパントとしては、例えば、炭素、窒素、酸素、フッ素、リン、硫黄、塩素、ヒ素、セレン、臭素、アンチモン、テルル、ヨウ素などの元素や、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、インジウム、スズ、イットリウム、ニオブ、モリブデン、タングステン、タンタル、鉛などの金属元素、また、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、金、イリジウム、白金などの貴金属元素からなる群より選択される少なくとも一つの元素が例示できる。
【0015】
図1~
図3に、(BH)
nからなる二次元ネットワークの局所構造の模式図を示す。
図1に示すように、二次元ネットワークは、ホウ素原子が六角形のハニカム状に配列し(前記ホウ素原子によって形成される六角形が連接してなる網目状をなし)、前記ホウ素原子のうち隣接する2つが同一の水素原子と結合する部位を有する。ホウ素原子が蜂の巣状(ハニカム状)のシート状の六角形格子構造を取り、シート状の上方および下方それぞれにおいて、
図2,
図3に示すように、1つの水素原子が六角形格子構造のホウ素原子のうちの隣接する2つのホウ素原子に対してブリッジ状に結合している。また、シート状の六角形格子構造を介して、その上方および下方で2つの水素原子が互いに対向する配置を有している。なお、ホウ化水素中の水素の配置は、長距離秩序性は有していなくてもよい。また、
図2や
図3のZ方向に原子同士の結合が傾いていたり、シート自体が曲がったりしている構造を形成したりしていてもよい。また、全ての水素原子が必ずしもブリッジ上に結合していなくてもよい。
【0016】
本ホウ化水素含有シートは、薄膜状の物質であり、単層でも複層からなっていてもよい。本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートにおいて、上記の網目状の面構造を形成するホウ素原子(B)と水素原子(H)の総数は1000個以上である。
【0017】
隣り合う2つのホウ素原子(B)間の結合距離d1(
図1参照)は、例えば、0.155nm~0.190nmである。また、Z方向から視認した際に、1つの水素原子(H)を介して、隣り合う2つのホウ素原子(B)間の結合距離d2(
図2参照)は、例えば0.155nm~0.190nmである。また、隣り合うホウ素原子(B)と水素原子(H)間の結合距離d3(
図2参照)は、例えば0.12nm~0.15nmである。
【0018】
本ホウ化水素含有シートの厚さは、例えば0.2nm~10nmである。ホウ化水素含有シートの少なくとも一方向の長さ(例えば、
図1においてX方向またはY方向の長さ)は、100nm以上であることが好ましい。少なくとも一方向の長さを100nm以上とすることにより、抗菌・抗ウイルス用途としてより有効に利用できる。本ホウ化水素含有シートの大きさ(面積)は、特に限定されず、任意の大きさに形成することができる。
【0019】
本ホウ化水素含有シートは、結晶構造を有する物質である。また、本ホウ化水素含有シートは、六角形の環を形成するホウ素原子(B)間、および、ホウ素原子(B)と水素原子(H)の間の結合力が強い。このため、本ホウ化水素含有シートは、製造時に複数積層されてなる結晶(凝集体)を形成していたとしても、グラファイトと同様に、結晶面に沿って容易に劈開し、単層の二次元シートとして分離(回収)することが可能である。
【0020】
本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートによれば、エンベロープを持つウイルスおよびエンベロープを持たないウイルスのいずれのウイルスに対しても抗ウイルス作用を示す(不活性化できる)新規材料を提供できる。また、本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートによれば、グラム陽性菌およびグラム陰性菌のいずれの菌に対しても抗菌作用を示す(不活性化できる)新規材料を提供できる。また、本ホウ化水素含有シートによれば、水素とホウ素から構成される(BH)nからなる二次元ネットワークを主骨格とするので、軽量性に非常に優れる。また、常温・常圧で使用することができるので安全性に優れる。なお、常温・常圧以外の状態での使用を排除するものではない。更に、本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートは透明性に優れるので、後述するように抗菌・抗ウイルス用コーティング剤などとしても好適に利用できる。
【0021】
(本ホウ化水素含有シートの製造方法)
本ホウ化水素含有シートの製造方法は特に限定されない。例えば、以下の方法により製造できる。具体的には、まず、MB2型構造の二ホウ化金属と、その二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオンを配位したイオン交換樹脂を極性有機溶媒中で混合する。前記Mは、Al、Mg、Ta、Zr、Re、Cr、TiおよびVからなる群から選択される少なくとも1種である。この混合工程は、窒素(N2)やアルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる不活性雰囲気下で行うことができる。
【0022】
MB2型構造の二ホウ化金属としては、六角形の環状の構造を有するものが用いられる。例えば、二ホウ化アルミニウム(AlB2)、二ホウ化マグネシウム(MgB2)、二ホウ化タンタル(TaB2)、二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)、二ホウ化レニウム(ReB2)、二ホウ化クロム(CrB2)、二ホウ化チタン(TiB2)、二ホウ化バナジウム(VB2)が用いられる。極性有機溶媒中にて、容易にイオン交換樹脂とのイオン交換を行うことができることから、二ホウ化マグネシウムを用いることが好ましい。
【0023】
二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオンを配位したイオン交換樹脂は特に限定されない。このようなイオン交換樹脂としては、例えば、二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオンを配位した官能基(以下、「官能基α」と言う。)を有するスチレンの重合体、官能基αを有するジビニルベンゼンの重合体、官能基αを有するスチレンと官能基αを有するジビニルベンゼンの共重合体が例示できる。官能基αとしては、例えば、スルホ基、カルボキシ基が挙げられる。これらの中でも、極性有機溶媒中にて、容易に二ホウ化金属を構成する金属イオンとのイオン交換を行うことができることから、スルホ基が好適である。
【0024】
混合工程において酸を更に添加してもよい。酸としては、例えば、酢酸、炭酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、プロピオン酸、ギ酸、コハク酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸、塩酸、硫酸、リン酸が例示できる。酸を添加することにより、極性溶媒中にて、容易に二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換樹脂のイオン交換する時間を大幅に短縮化できる。
【0025】
極性有機溶媒としては、特に限定されず、例えば、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノールが例示できる。
【0026】
混合工程において酸を用いた場合には、必要に応じて酸を除去する。酸の除去方法は特に限定されないが、加熱、減圧乾燥、沈殿回収法等が例示できる。
【0027】
その後、混合溶液を濾過する。例えば、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過等の方法が用いられる。濾過により沈殿物と分離されて回収された生成物を含む溶液を、自然乾燥するか、減圧乾燥、加熱等により乾燥する工程を経て、(BH)nからなる二次元ネットワークを有するホウ化水素含有シートが得られる。
【0028】
本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートは、それ自身を抗菌剤または/および抗ウイルス剤として利用できる。例えば、菌やウイルスを含む飛沫が付着する恐れのある場所に、粉体を置くことができる。既存の抗菌シートやコーティング技術と併用する場合、隙間などの従来の技術ではうまくコーティングできない部分を埋める粉末としても利用できる。また、空気清浄機内に粉体状の本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートを配置することで、空間除菌・除ウイルスされた清浄な空気を送風するようにすることができる。また、粉体状の本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートを、洗濯槽に直接投入したりすることもできる。
【0029】
本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートは、紫外線を吸収し、それによって本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シート自身に電子-正孔対を生成させることができる。このため、本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートに、紫外線照射を併用することで抗菌・抗ウイルス機能を高めることができる。
【0030】
また、本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートは、既存の消毒液、ウエットティッシュ、フィルム、繊維、ゴム、洗剤等に練り込んで、或いは混合して用いることができる。例えば、自動車等の加飾フィルムに本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートを練り込むことにより、本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シート入りの加飾フィルムとして用いることができる。また、スマートフォンのハードコート層に本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートを練り込むことにより、本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シート入りのハードコート層を提供することができる。また、床のワックス剤、壁や家具、或いは調理器具のコーティング剤等に、本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートを練り込むことにより、本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シート入りのワックス剤、コーティング剤を提供することができる。
【0031】
また、医療用、化粧品用等のクリーム、軟膏、硬膏、ジェル、ワックスなどに本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートを含有させてもよい。また、手洗い石けん、ハンドソープ、各種洗剤に含有させることができる。
【0032】
[抗菌・抗ウイルス用組成物]
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス用組成物(以下、本組成物ともいう)は、本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートを含有するものである。本組成物は、抗菌・抗ウイルス作用を有し、本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートを含有するものであればよく、任意の材料との組成物とすることができる。
【0033】
本組成物には、更に、金属および金属酸化物の少なくとも一方からなる抗菌・抗ウイルス材を含めることができる。金属および金属酸化物の少なくとも一方からなる抗菌・抗ウイルス材を含めることで、抗菌・抗ウイルス機能をより高めることができる。このような金属および金属酸化物として、銀(Ag)、酸化銀(Ag2O)、銅(Cu)、酸化銅(CuO,Cu2O)、亜鉛(Zn)、酸化亜鉛(ZnO)、ニッケル(Ni)、酸化ニッケル(NiO)、コバルト(Co)、酸化コバルト(CoO,Co2O3,Co3O4)などが例示できる。
【0034】
また、本組成物には、光励起によって電子-正孔対を生成することができる半導体および有機化合物の少なくとも一方を含有させることができる。このような半導体および有機化合物を含めることで、光照射時の抗菌・抗ウイルス性能を高めることができる。励起光としては、紫外線、可視光線が例示できる。
【0035】
紫外線で電子-正孔対を生成できる半導体として、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化スズ、酸化タンタル、酸化セリウムなどが挙げられる。本組成物にこのような半導体を添加することにより、紫外線照射下で光触媒効果を発揮し、抗菌・抗ウイルス性能を高めることができる。また、可視光で電子-正孔対を生成できる半導体として、酸化タングステン、酸化ビスマス、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、バナジン酸ビスマス、カルシウム鉄フェライトなどの酸化物、窒化タンタルなどの窒化物、硫化カドミウム、硫化亜鉛、硫化インジウム、硫化スズ、硫化鉛などの硫化物、セレン化物、テルル化物、リン化物が例示できる。本組成物にこのような半導体を添加することにより、可視光環境下で光触媒効果を発揮させ、抗菌・抗ウイルス性能をより効果的に高めることができる。
【0036】
光励起によって電子-正孔対を生成することができる有機化合物として、シス-ジ(チオシアナト)-ビス(2,2’-ビピリジル-4,4’-ジカルボン酸)ルテニウム(II)(以下、「N3」ともいう)、シス-ジ(チオシアナト)-ビス(2,2’-ビピリジル-4,4’-ジカルボン酸)ルテニウム(II)のビス-TBA塩(以下、「N719」ともいう)、シス-ジ(チオシアナト)-ビス(2,2’-ビピリジル-4,4’-ジカルボン酸)ルテニウム(II)のテトラ-TBA塩(以下、「N712」ともいう)、トリ(チオシアナト)-(4,4’,4’’-トリカルボキシ-2,2’:6’,2’’-ターピリジン)ルテニウムのトリス-テトラブチルアンモニウム塩(以下、「N749」ともいう)、シス-ジ(チオシアナト)-(2,2’-ビピリジル-4,4’-ジカルボン酸)(4,4’-ビス(5’-ヘクチルチオ-5-(2,2’-ビチエニル))ビピリジル)ルテニウム(II)のモノ-テトラブチルアンモニウム塩(以下、「ブラックダイ」ともいう)、C106等のルテニウム系増感色素;トリス(2-ピリジルフェニル)イリジウム(III)等のイリジウム系増感色素が例示できる。更に、クマリン系、ポリエン系、シアニン系、ヘミシアニン系、チオフェン系、インドリン系、キサンテン系、カルバゾール系、ペリレン系、ポルフィリン系、フタロシアニン系、メロシアニン系、カテコール系、アゾ系、アジン系、及びスクアリリウム系等の各種有機増感色素も好適である。また、これらの増感色素を組み合わせたドナー-アクセプター複合増感色素等を用いてもよい。色素は、一種単独または二種以上を併用できる。色素は、N3、N719、N712、C106の少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0037】
(液状の抗菌・抗ウイルス用組成物)
本組成物は、溶媒を含有させて、溶液、分散液またはスラリー状とすることができる。溶媒は、水系溶媒でも有機溶媒系溶剤でもよく、これらを混合して用いてもよい。溶媒は一種または二種以上を混合して用いることができる。
溶媒の具体例としては、前述したアセトニトリル、メタノール、N,N-ジメチルホルムアミドの他、各種溶媒を利用できる。例えば、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノールなどのアルコール系溶媒、アセトニトリル、イソブチロニトリル、プロピロニトリル等のニトリル系溶媒、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸tert-ブチルなどのエステル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶媒およびこれらのエステル化物が挙げられ、エステル化物としては主にアセテート化したものが選ばれ、例えばエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどが挙げられる。
【0038】
本組成物には、分散剤を含有させてもよい。分散剤は、高分子化合物でも低分子化合物でもよい。分散剤としては界面活性剤が好適である。また、親水化剤、疎水化剤を用いてもよい。そのほか、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤などの各種添加剤を適宜添加できる。また、熱伝導性フィラーなどの有機・無機フィラーを添加してもよい。
【0039】
更に、本組成物には、本ホウ化水素含有シート以外の抗菌成分または/および抗ウイルス成分を配合することができる。人の健康を害しないという条件を満たし、あらゆる菌・ウイルスに万能な抗菌剤、抗ウイルス剤というものは存在せず、それぞれの菌・ウイルスに有効な抗菌剤・抗ウイルス剤が存在する。本ホウ化水素含有シートによれば、グラム陰性菌およびグラム陽性菌に対して抗菌効果が認められる他、エンベロープを持つウイルスおよびエンベロープを持たないウイルスに対して抗ウイルス効果が認められるので抗菌・抗ウイルス剤として優れているが、更に、他の抗菌成分または/および抗ウイルス成分と併用することにより、抗菌/および抗ウイルス対象を増やすことが可能となる。
【0040】
液状またはスラリー状の本組成物は、例えば、手指消毒剤、ドアノブの抗菌・抗ウイルス用スプレーあるいは消毒液として好適に利用できる。また、衣服、絨毯、床材などに噴霧あるいは塗工するための抗菌・抗ウイルス用のスプレーあるいは消毒液として好適に利用できる。
【0041】
(塗膜状の抗菌・抗ウイルス用組成物)
本組成物は、塗膜状の抗菌・抗ウイルス用組成物として利用できる。塗膜とするために、適宜、バインダー樹脂を含めることができる。塗膜は、例えば、上述した液状の抗菌・抗ウイルス用組成物を塗工することにより得ることができる。
【0042】
バインダー樹脂は特に限定されないが、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、ポリエーテル(メタ)アクリレート樹脂、ジアリルフタレート樹脂、硝化綿樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、酢酸セルロース、セルロースアセチルプロピオネート、セルロースアセチルブチレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリアミド樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ケトン樹脂、ブチラール樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化エチレンビニルアセテート樹脂、エチレンビニルアセテート樹脂、エチレン-ビニルアルコール樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、カゼイン、アルキッド樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、ポリエーテル(メタ)アクリレート樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコン樹脂などが例示できる。
【0043】
本抗菌・抗ウイルス用組成物に、モノマーを含有させ、組成物の所望の製造工程においてバインダー樹脂を形成するようにしてもよい。また、架橋剤を用い、組成物中に架橋構造を形成してもよい。
【0044】
塗膜状の抗菌・抗ウイルス用組成物によれば、ホウ化水素含有シートの透明性が高いので、広範な用途に適用できる。例えば、各種容器(プラスチック、セラミックス、金属等)の表層のコーティング膜として利用できる。また、お弁当用等の抗菌シートとして利用できる。また、床材、壁材などの建材のコーティング膜として利用できる。
【0045】
(抗菌・抗ウイルス性繊維)
本実施形態の抗菌・抗ウイルス性繊維は、繊維に、抗菌・抗ウイルス用組成物が定着されている。ここで定着とは、付着、接着、粘着、含浸等の態様を包含する。定着方法は、公知の方法を利用できる。例えば、マスクに本抗菌・抗ウイルス用組成物もしくは本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートを定着させることにより、抗菌・抗ウイルス効果のあるマスクを提供できる。また、空気清浄機、冷暖房設備などの空調設備、掃除機などの電気製品のフィルター等にも本抗菌・抗ウイルス用組成物もしくは本抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シートを好適に適用できる。繊維の他、多孔質体などに定着させる用途にも好適である。
【0046】
(抗菌・抗ウイルス性部材)
本実施形態の抗菌・抗ウイルス性部材は、部材と、この部材の少なくとも表面に定着された、抗菌・抗ウイルス用組成物とを備える。例えば、本抗菌・抗ウイルス用組成物が定着された抗菌・抗ウイルス性繊維が例示できる。また、本抗菌・抗ウイルス用組成物が定着されたタッパー等の各種容器が例示できる。
【実施例0047】
(実施例1)
非特許文献1に基づき、(BH)nからなる二次元ネットワークを有するホウ化水素含有シートの合成を行った。具体的には、アセトニトリル中で、二ホウ化マグネシウム(シグマ・アルドリッチ社製)500mgと陽イオン交換樹脂(オルガノ社製)30mLを室温のもと3日間撹拌を行った。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過し、濾液を80℃下で減圧乾燥させることにより、黄色に呈した生成物(抗菌・抗ウイルス用ホウ化水素含有シート)を得た。
【0048】
実施例1で得た生成物の透過型電子顕微鏡写真を
図4に示す。同図に示すように、シート状の物質であることを確認した。また、この生成物の電子エネルギー損失分光(EELS)の結果は、
図5に示す通りであり、193eVと202eVに分割したピークが確認できた。前者はホウ素の1s軌道からπ*軌道への遷移で、後者は1s軌道からσ*軌道への遷移に帰属され、ホウ素が2次元状のsp2混成軌道からなるネットワークであることが示された。
図6に、生成物の赤外分光スペクトル(FT-IR)を示す。同図に示すように、2500cm
-1と1400cm
-1にそれぞれ、B-H振動、B-H-B振動が観測され、二次元ネットワークを有するホウ化水素含有シートであることが確認できた。
【0049】
実施例1で得られたホウ化水素含有シート50mgを2.5mLのアセトニトリルに分散させることにより実施例に係る抗菌・抗ウイルス用組成物を得た。そして、得られた抗菌・抗ウイルス用組成物を、25mm×25mmのガラスに2mgのホウ化水素含有シートが定着できるように粉体の分散液を0.1mLガラスの上に滴下し、室温、窒素中で乾燥させることにより、ホウ化水素含有シートをガラスにコートした。
【0050】
前記ホウ化水素含有シートをガラス基板にコートしたサンプル表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を
図7に示す。同図に示すように、基板表面にホウ化水素含有シートを均一にコートすることができた。
図8に、ホウ化水素含有シートをガラス基板にコートしたサンプルにおいて、膜の乾燥収縮時にクラックが入った部位の観察結果を示す。このクラックの部分を拡大して観察した結果を
図9に示す。この結果、表面から奥に向かって層状の構造が積み重なっている様子が観察された。このことからも、ホウ化水素含有シートが2次元ネットワークを有していることが示唆された。
ガラス基板上に前記ホウ化水素含有シートをコートして定着したサンプルの破断面の走査型電子顕微鏡像(2次電子像)を
図10に、同じ視野の反射電子像を
図11に示す。反射電子像では軽元素の方が暗く観察されるが、軽元素からなるホウ化水素含有シートがシリカからなるガラス基板上に、膜厚1.5μm程度で均一にコートされている様子が観察できた。膜断面のクラックに焦点を当てて観察した像を
図12に示したが、内部にシート状の構造が観察できた。このことからも、ホウ化水素含有シートが2次元ネットワークを有していることが示唆された。
【0051】
ガラス基板上に前記ホウ化水素含有シートをコートしたサンプルの透過率スペクトルを
図13に示す。リファレンスとして無コートガラス板を用いた。該ホウ化水素含有シートコート膜は500nm~800nmの可視光域で、ガラス基板の透過率を差し引いたホウ化水素含有シートの透過率が80%以上となり、高い透明性を示した。
【0052】
抗ウイルス評価は、JIS R 1756とISO 21702を参考に行った。
【0053】
図14に、実施例1に係る抗菌・抗ウイルス用組成物のバクテリオファージφ6に対する抗ウイルス活性を調べた結果を示す。同図には比較のために、スライドガラスに対して同様の測定を行った結果も示す。同図より、本実施例1の抗菌・抗ウイルス用組成物は、エンベロープ有りのバクテリオファージに対して抗ウイルス活性を示すことを確認した。
【0054】
(実施例2)
バクテリオファージφ6をバクテリオファージQβに変更した以外は実施例1と同様の方法によりサンプルを作製し、バクテリオファージQβの抗ウイルス効果を評価した。
【0055】
図15に、実施例2に係る抗菌・抗ウイルス用組成物のバクテリオファージQβに対する抗ウイルス活性を調べた結果を示す。同図には比較のために、スライドガラスに対して同様の測定を行った結果も示す。同図に示すように、実施例2の抗菌・抗ウイルス用組成物がエンベロープ無しのバクテリオファージに対して抗ウイルス活性を示すことが確認できた。
【0056】
(実施例3)
バクテリオファージφ6を大腸菌に変更した以外は実施例1と同様の方法によりサンプルを作製し、JIS Z 2801を参考に、大腸菌に対する抗菌作用について評価した。
図16に、実施例3に係る抗菌・抗ウイルス用組成物の大腸菌に対する抗菌活性を調べた結果を示す。同図には比較のために、スライドガラスに対して同様の測定を行った結果も示す。同図に示すように、大腸菌に対して抗菌活性を示すことを確認した。このことから、グラム陰性菌に対して抗菌活性を持つことが示唆された。
【0057】
(実施例4)
バクテリオファージφ6を黄色ブドウ球菌に変更した以外は実施例1と同様の方法によりサンプルを作製し、JIS Z 2801を参考に、黄色ブドウ球菌に対する抗菌作用を評価した。
図17に、実施例4に係る抗菌・抗ウイルス用組成物の黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を調べた結果を示す。同図には比較のために、スライドガラスに対して同様の測定を行った結果も示す。同図に示すように、黄色ブドウ球菌に対して抗菌活性を示すことが確認できた。このことから、グラム陽性菌に対して抗菌活性を持つことが示唆された。
【0058】
(実施例5)
約10%の湿度に調整したグローブボックス内に、2mgのホウ化水素含有シートをコートしたガラスを設置した。ネプライザーを使って10
9pfu/mLのバクテリオファージQβを1mL噴霧し、グローブボックス内のファンで空気を攪拌することにより、設置したホウ化水素含有シートをコートしたガラス上にバクテリオファージQβを付着させた。その後、そのガラスサンプルをグローブボックスから取り出し、ISO 21702と同様の25℃、湿度約90%の環境下に放置し、バクテリオファージQβの感染価を経過時間にそって測定した。
図18に示すように、ウイルスの飛沫を模した環境でも、抗菌・抗ウイルス用組成物がエンベロープ無しのバクテリオファージに対して抗ウイルス活性を示すことが確認できた。