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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019916
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】アルコール飲料
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/06 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
C12G3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124988
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【弁理士】
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】大倉 龍起
(72)【発明者】
【氏名】吉弘 晃
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115MA03
4B115MA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の課題は、アルコールの刺激感が低減されたアルコール飲料を提供することである。
【解決手段】飲料中の(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの重量比(A/B)を35以上30000以下に調整し、シス-3-ヘキセン-1-オールの含有量を90000ppb以下に調整する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)が35以上30000以下であり、シス-3-ヘキセン-1-オールの含有量が90000ppb以下である、アルコール飲料。
【請求項2】
シス-3-ヘキセン-1-オールの含有量が10ppb以上50000ppb以下である、請求項1に記載のアルコール飲料。
【請求項3】
α-テルピネオールの含有量が0.1ppb以上100ppb以下である、請求項1または2に記載のアルコール飲料。
【請求項4】
ツバキ科植物由来のシス-3-ヘキセン-1-オールおよびα-テルピネオールが含まれる、請求項1~3のいずれか1項に記載のアルコール飲料。
【請求項5】
ツバキ科植物がチャノキ(Camellia sinensis)である、請求項4に記載のアルコール飲料。
【請求項6】
緑茶由来のシス-3-ヘキセン-1-オールおよびα-テルピネオールが含まれる、請求項1~3のいずれか1項に記載のアルコール飲料。
【請求項7】
アルコール度数が10v/v%以上であり、
シス-3-ヘキセン-1-オールの含有量が10ppb以上50000ppb以下であり、
α-テルピネオールの含有量が0.1ppb以上100ppb以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のアルコール飲料。
【請求項8】
アルコール度数が1.0v/v%以上10v/v%未満であり、
シス-3-ヘキセン-1-オールの含有量が10ppb以上50000ppb以下であり、α-テルピネオールの含有量が0.1ppb以上100ppb以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のアルコール飲料。
【請求項9】
炭酸ガスを含有しない、請求項1~8のいずれか1項に記載のアルコール飲料。
【請求項10】
下記工程を含む、アルコール飲料の製造方法。
(i)(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)を35以上30000以下に調整する工程、
(ii)シス-3-ヘキセン-1-オールの含有量を90000ppb以下に調整する工程、および、
(iii)飲料のアルコール度数を80v/v%未満に調整する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール飲料に関する。より詳しくは、アルコールの刺激感が低減されたアルコール飲料、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酒類の消費量が、特に若年層を中心として低下してきている。その原因として、酒類に対する消費者の嗜好が多様化し、飲酒スタイルが大きく変化してきていることが指摘されている。このような変化に対応すべく、酒類メーカー各社は、鋭意様々な新しいアルコール飲料製品を開発している。このような新しい製品開発を行うにあたって、従来は認識されていなかった種々の課題が明らかとなってきた。
【0003】
例えば、アルコール飲料においては、アルコールの軽やかな風味が好まれる一方で、アルコールの刺激感が欠点として指摘される場合がある。従来、このようなアルコールの刺激感を低減するための手段として、物理的装置や風味改善剤を用いる方法が知られている。
【0004】
物理的装置を用いる方法として、具体的には、アルコール飲料を超音波処理する方法(特許文献1)、アルコール飲料をセラミックと接触させる方法(特許文献2)、アルコール飲料製造時に磁力線を照射する方法(特許文献3)、アルコール飲料を超音波振動で撹拌する方法(特許文献4)、アルコール飲料を半導体素材と接触させる方法(特許文献5)等の方法が知られている。しかし、これらの方法は、アルコール飲料のアルコールの刺激感の改善が不十分であることや、大がかりな装置を必要とする等の欠点があった。
【0005】
また、アルコールの刺激感をマスキングする方法として、脂肪族エステルをマスキング剤として使用する方法(特許文献6)、スターアニスシードオイル、アニスオイル、フェンネルオイル、キャラウェー油、スペアミント油、ジル油、クロモジ油、ペニーロイヤル油、レモン油、ショウノウ油、橙皮油、フェンネル油をアルコール刺激感のマスキング剤として使用する方法(特許文献7)、スクラロースを添加する方法(特許文献8)、パラディチョムパプリカ果実からなる呈味改善剤をアルコール刺激感のマスキング剤として使用する方法(特許文献9)、酵母抽出物をアルコール刺激感のマスキング剤として使用する方法(特許文献10)等が知られている。しかし、これらの方法は、特定のアルコール飲料にしか使用できないことや、マスキング剤自体の味や色がアルコール飲料の風味や色調に影響しやすい、という欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54-119098号公報
【特許文献2】特開昭63-12273号公報
【特許文献3】特開平6-30758号公報
【特許文献4】特開平11-9257号公報
【特許文献5】特開2000-224979号公報
【特許文献6】特開平8-187277号公報
【特許文献7】特開平8-188791号公報
【特許文献8】特開平8-224075号公報
【特許文献9】特開平10-313849号公報
【特許文献10】特開2002-253199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、健康指向の高まりから、様々なアルコール飲料が製造・販売されている。しかし、前述のアルコールの刺激感という課題の解決が必ずしも十分に達成できていない。このような事情に鑑み、本発明の課題は、アルコールの刺激感が低減されたアルコール飲料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アルコールの刺激感を緩和しつつ、消費者の要求を満足させられるアルコール飲料の開発を行った。その結果、アルコール飲料中の(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)を35以上30000以下に調整し、かつ、前記飲料中のシス-3-ヘキセン-1-オールの含有量を90000ppb以下に調整することによって、アルコール飲料におけるアルコールの刺激感が低減されることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、これに限定されるものではないが、以下の態様の発明を包含する。
(1)(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)が35以上30000以下であり、シス-3-ヘキセン-1-オールの含有量が90000ppb以下である、アルコール飲料。
(2)シス-3-ヘキセン-1-オールの含有量が10ppb以上50000ppb以下である、(1)に記載のアルコール飲料。
(3)α-テルピネオールの含有量が0.1ppb以上100ppb以下である、(1)または(2)に記載のアルコール飲料。
(4)ツバキ科植物由来のシス-3-ヘキセン-1-オールおよびα-テルピネオールが含まれる、(1)~(3)のいずれかに記載のアルコール飲料。
(5)ツバキ科植物がチャノキ(Camellia sinensis)である、(4)に記載のアルコール飲料。
(6)緑茶由来のシス-3-ヘキセン-1-オールおよびα-テルピネオールが含まれる、(1)~(3)のいずれかに記載のアルコール飲料。
(7)アルコール度数が10v/v%以上であり、
シス-3-ヘキセン-1-オールの含有量が10ppb以上50000ppb以下であり、
α-テルピネオールの含有量が0.1ppb以上100ppb以下である、(1)~(6)のいずれかに記載のアルコール飲料。
(8)アルコール度数が1.0v/v%以上10v/v%未満であり、
シス-3-ヘキセン-1-オールの含有量が10ppb以上50000ppb以下であり、α-テルピネオールの含有量が0.1ppb以上100ppb以下である、(1)~(6)のいずれかに記載のアルコール飲料。
(9)炭酸ガスを含有しない、(1)~(8)のいずれかに記載のアルコール飲料。
(10)下記工程を含む、アルコール飲料の製造方法。
(i)(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)を35以上30000以下に調整する工程、
(ii)シス-3-ヘキセン-1-オールの含有量を90000ppb以下に調整する工程、および、
(iii)飲料のアルコール度数を80v/v%未満に調整する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、アルコールの刺激感が低減された、飲みやすいアルコール飲料を提供することができる。このようなアルコール飲料は、消費者の嗜好を満足する優れた品質のものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.アルコール飲料
本発明は、一態様では、(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)が35以上30000以下であり、シス-3-ヘキセン-1-オールの含有量が90000ppb以下である、アルコール飲料である。
【0012】
本発明は、アルコール飲料に関する。また、ある態様では、本発明は、緑茶やウーロン茶等の抽出液を配合した、茶の風味を有する茶系アルコール飲料に関する。本発明のアルコール飲料において使用されるアルコールは特に制限されず、蒸留酒、果実酒、清酒(日本酒)といった通常酒類に用いられるものを使用することができるが、例えば、醸造用アルコール、スピリッツ類(ラム、ウォッカ、ジン等)、ウイスキー、ブランデー、焼酎等をそれぞれ単独または組み合わせて用いることができる。中でも、アルコール含有物を連続式蒸留機で蒸留して得られる連続式蒸留アルコールを使用することが好ましい。このような連続式蒸留アルコールとしては、例えば、醸造用アルコール、原料用アルコール、連続式蒸留焼酎(いわゆる甲類焼酎)やグレーンウイスキー等を挙げることができる。
【0013】
本発明においてアルコールとは、特に断りがない限りエチルアルコール(エタノール)のことをいう。また、アルコール度数とは、飲料中における容量%(v/v%)のことをいう。本発明のアルコール飲料においてアルコール度数の上限値は、飲料中の(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)が35以上30000以下であれば特に制限されないが、典型的には、80v/v%未満である。また、本発明のアルコール飲料におけるアルコール度数の下限値も特に制限されないが、典型的には、1.0v/v%以上である。
【0014】
本発明のアルコール飲料には、そのまま飲用することを想定した低濃度アルコール飲料に加えて、必要に応じて希釈して飲用される高濃度アルコール飲料も含まれる。低濃度アルコール飲料のアルコール度数は、飲料中の(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)が35以上30000以下であれば特に制限されないが、典型的には、上限値が10v/v%以下、9.0v/v%以下、8.0v/v%以下、7.0v/v%以下、6.0v/v%以下、または5.0v/v%以下であり、下限値が1.0v/v%以上、2.0v/v%以上、3.0v/v%以上、または4.0v/v%以上である。
【0015】
前述の通り、本発明のアルコール飲料には、必要に応じて希釈して飲用される高濃度アルコール飲料も含まれる。高濃度アルコール飲料のアルコール度数も、飲料中の(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)が35以上30000以下であれば特に制限されないが、典型的には、上限値が80v/v%未満、70v/v%以下、60v/v%以下、50v/v%以下、40%v/v以下、30v/v%以下、または20v/v以下であり、下限値が5.0v/v%以上、7.0v/v%以上、9.0v/v%以上、10v/v%以上、15v/v%以上、または20v/v以上である。
【0016】
アルコール含有量の調整方法は、添加するアルコール成分の量の調整等の、公知のいずれの方法を用いてもよい。
【0017】
本明細書において、アルコール飲料のアルコール度数は公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、アルコール飲料から濾過または超音波によって炭酸ガスを抜いて試料を調製し、調製した試料を直火蒸留し、得られた留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19年国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)および比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。
【0018】
本発明のアルコール飲料には、青葉アルコールとも称される不飽和アルコールの一種である(A)シス-3-ヘキセン-1-オールが含まれる。シス-3-ヘキセン-1-オールは緑茶の香り成分として発見・命名された常温で無色の液体である。本発明のアルコール飲料におけるシス-3-ヘキセン-1-オールの含有量の上限値は90000ppb以下であり、好ましくは70000ppb以下、50000ppb以下、30000ppb以下、10000ppb以下、5000ppb以下または1000ppb以下である。また、本発明のアルコール飲料におけるシス-3-ヘキセン-1-オールの含有量の下限値は特に限定されないが、典型的には10ppb以上、100ppb以上、200ppb以上または1000ppb以上である。アルコール飲料におけるシス-3-ヘキセン-1-オールの含有量が90000ppbを超えると、シス-3-ヘキセン-1-オールに起因する刺激感が増大し、アルコールの刺激感とは異なる刺激感が感じられるようになる。
【0019】
また、前述の通り、本発明のアルコール飲料には、低濃度アルコール飲料および高濃度アルコール飲料が含まれる。本発明の低濃度アルコール飲料におけるシス-3-ヘキセン-1-オールの含有量の上限値は90000ppb以下であり、好ましくは70000ppb以下、50000ppb以下、30000ppb以下、10000ppb以下、5000ppb以下または1000ppb以下である。また、本発明の低濃度アルコール飲料におけるシス-3-ヘキセン-1-オールの含有量の下限値は特に限定されないが、典型的には10ppb以上、100ppb以上、200ppb以上または1000ppb以上である。また、本発明の高濃度アルコール飲料におけるシス-3-ヘキセン-1-オールの含有量の上限値は90000ppb以下であり、好ましくは70000ppb以下、50000ppb以下、30000ppb以下、10000ppb以下、5000ppb以下または1000ppb以下である。また、本発明の高濃度アルコール飲料におけるシス-3-ヘキセン-1-オールの含有量の下限値は特に限定されないが、典型的には10ppb以上、100ppb以上、200ppb以上または1000ppb以上である。
【0020】
本発明のアルコール飲料には、モノテルペンアルコールの一種である(B)α-テルピネオールが含まれる。α-テルピネオールはライラック用の芳香を有する常温で無色の液体である。本発明のアルコール飲料において、飲料中の(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)が35以上30000以下である限り、α-テルピネオールの含有量は特に制限されないが、典型的には、α-テルピネオールの含有量の上限値は100ppb以下または10ppb以下であり、下限値は0.1ppb以上、1.0ppb以上または5.0ppb以上である。
【0021】
また、前述の通り、本発明のアルコール飲料には、低濃度アルコール飲料および高濃度アルコール飲料が含まれる。低濃度アルコール飲料において、飲料中の(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)が35以上30000以下である限り、α-テルピネオールの含有量は特に制限されないが、典型的には、α-テルピネオールの含有量の上限値は100ppb以下または10ppb以下であり、下限値は0.1ppb以上、1.0ppb以上または5.0ppb以上である。また、高濃度アルコール飲料においても、飲料中の(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)が35以上30000以下である限り、α-テルピネオールの含有量は特に制限されないが、典型的には、α-テルピネオールの含有量の上限値は100ppb以下または10ppb以下であり、下限値は0.1ppb以上、1.0ppb以上または5.0ppb以上である。
【0022】
本発明のアルコール飲料において、(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)は35以上30000以下である。アルコール飲料における(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)を35以上30000以下に調整することで、アルコールの刺激感を低減できる。また、本発明のアルコール飲料において、(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)は、好ましくは35以上、40以上、50以上、または100以上である。また、本発明のアルコール飲料において、(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)は、好ましくは30000以下、15000以下、10000以下、5000以下、2500以下、2000以下、1500以下、1000以下、または500以下である。アルコール飲料における前記A/B比が35を下回る、または30000を上回るとアルコールの刺激感が緩和されなくなる。
【0023】
本発明におけるアルコール飲料とは、ある態様では、茶系アルコール飲料であり、典型的には、ツバキ科植物を従来知られた方法で加工、抽出した抽出物を含むアルコール飲料をいう。また、一態様では、本発明のアルコール飲料に含まれるシス-3-ヘキセン-1-オールおよびα-テルピネオールは、ツバキ科植物に由来するものである。
【0024】
また、一態様では、本発明におけるアルコール飲料は、ツバキ科ツバキ属の常緑樹であるチャノキ(Camellia sinensis)の葉(本明細書においては「茶葉」ともいう)を従来知られた方法で加工、抽出した抽出物を含むアルコール飲料をいう。また、一態様では、本発明のアルコール飲料に含まれるシス-3-ヘキセン-1-オールおよびα-テルピネオールは、チャノキに由来するものである。
【0025】
茶は、茶葉の加工方法、特に発酵程度の違いによって得られる茶の種類が分類され、その茶抽出液の品質もそれぞれ異なる。例えば、緑茶は、摘み取った茶葉を加熱処理して酵素活性を失わせ、成分の酸化を防ぎ緑色を保たせた不発酵茶である。烏龍茶は、摘み取った茶葉をしおらせながら軽く刺激して茶葉成分のうち一部を酸化させたものを「釜炒り」するもので、緑茶と紅茶の中間の性質を持ち、半発酵茶と呼ばれる。紅茶は、摘み取った茶葉をしおらせてよく揉み、茶葉中の酸化酵素によって茶葉成分の酸化を進めて完全発酵させたものである。このほかに、茶葉を長時間堆積して微生物作用を受けさせ、十分に成分変化を行わせた後発酵茶もある。よって、一態様では、本発明のアルコール飲料に含まれるシス-3-ヘキセン-1-オールおよびα-テルピネオールは、緑茶、烏龍茶、紅茶、または後発酵茶に由来するものである。
【0026】
前述の通り、本発明のアルコール飲料は、一態様では、茶の爽やかな風味を有する飲料である。茶の爽やかな風味を付与する方法は特に限定されないが、例えば、茶抽出物を配合することで付与することもできるし、茶の風味に寄与する成分を添加することで付与することもできる。また、茶抽出物を用いる場合、原料とされる茶葉の種類や加工方法に特に限定はなく、例えば、茶を水(熱湯)で抽出して得られる、水溶性固形分を含む水性抽出液を用いることができる。また、添加態様としては茶抽出液をそのままアルコール飲料に添加してもよいし、茶抽出液を濃縮、乾燥・粉末化したものを添加してもよい。
【0027】
また、本発明のアルコール飲料においては、本発明の効果を妨げない限り、糖類、酸類、香料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、酸味料、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤を配合することができる。
【0028】
本発明のアルコール飲料は、典型的には炭酸ガスを含有しない飲料であるが、必要に応じて炭酸ガス添加して炭酸飲料とすることもできる。炭酸ガスは、発酵により発生したものでも人為的に注入したものでもよい。
【0029】
さらに、本発明のアルコール飲料は、容器詰めとすることができる。容器の形態は何ら制限されず、プラスチックを主成分とする成形容器、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと積層されたラミネート紙容器、ガラス瓶等の通常の形態で提供することができる。
【0030】
2.アルコール飲料の製造方法
本発明は、一態様では、(i)(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの容量比(A/B)を35以上30000以下に調整する工程、(ii)シス-3-ヘキセン-1-オールの含有量を90000ppb以下に調整する工程、および、(iii)飲料のアルコール度数を80v/v%未満に調整する工程を含む、アルコール飲料の製造方法である。(A)シス-3-ヘキセン-1-オールおよび(B)α-テルピネオールの含有量の範囲や容量比(A/B)の範囲、アルコール度数の範囲等は、前述の「1.アルコール飲料」の項に記載した通りである。
【実施例0031】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に記載の具体的な態様に限定されるものではない。また、本明細書において、特に記載されない限り、その数値範囲は端点を含むものとして記載される。
【0032】
1.サンプル飲料の調製方法
原料用アルコール(サントリースピリッツ株式会社製)に緑茶濃縮エキスを加え、市販のシス-3-ヘキセン-1-オール(東京化成工業株式会社製)とα-テルピネオール(ナカライテスク株式会社製)を、飲料中の前記二成分が種々の含有量となるように添加して、サンプル飲料3~8を調製した。また、原料用アルコール(サントリースピリッツ株式会社製)に市販のシス-3-ヘキセン-1-オール(東京化成工業株式会社製)とα-テルピネオール(ナカライテスク株式会社製)を種々の含有量および比率となるように添加して、サンプル飲料9~16を調製した。サンプル飲料および市販品(市販のアルコール飲料)中のシス-3-ヘキセン-1-オールおよびα-テルピネオールの含有量濃度は、ガスクロマトグラフィー質量分析計を用いて以下の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0033】
<シス-3-ヘキセン-1-オールおよびα-テルピネオール定量>
(前処理)
Dynamic Head Space法
装置
HS:Gestel社製MPS
Tube:Tenax TA
(GC分析)
装置
GC:Agilent Technologies社製GC7890B
MS:Agilent Technologies社製5977A
カラム:HP-INNOWAX φ0.25mm×60m、膜厚0.25μm
移動ガス:ヘリウム1.5mL/min
温度条件:40℃(4min保持)→5℃/min昇温→260℃
イオン源温度:260℃
注入法:スプリットレス
検量線使用質量数:m/z 82(シス-3-ヘキセン-1-オール)、m/z 93(α-テルピネオール)
【0034】
2.官能評価
調製したサンプル飲料および市販品について、「アルコールの刺激感」の観点から、8人の評価者によって5段階(1~5点)で評価し、その平均値を求めた。各段階の基準は以下の通りである。結果を表1に示す。平均値が2.5以上の飲料ではアルコールの刺激感がやや感じられたため、平均値が2.4以下の飲料をアルコールの刺激感が低減されたものと判断した。
<評価点の基準>
5点:アルコールの刺激感が非常に強い
4点:アルコールの刺激感が強い
3点:アルコールの刺激感がやや強い
2点:アルコールの刺激感がほとんどない
1点:アルコールの刺激感が全くない
【0035】
【表1】
【0036】
表1の結果から、(A)シス-3-ヘキセン-1-オールと(B)α-テルピネオールとの比率(A/B)が本願発明の範囲にあるサンプル3、5~7、10~12、15は、他のものに比べて、アルコールの刺激感が低減されていることが示された。一方で、前記比率(A/B)が本願発明の範囲外であるサンプル4,8~9、13、14、16および市販品1~3では、アルコールの刺激感が強く感じられることも示された。このように、官能評価の結果が2.4点以下である飲料において、アルコールの刺激感が低減されることが明らかとなった。