(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019943
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】バイオマスナノファイバー添加剤及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08J 5/06 20060101AFI20230202BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20230202BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20230202BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C08J5/06 CEP
C08J5/06 CES
C08J5/06 CFG
C08L23/00
C08L77/00
C08L1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125029
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100116159
【弁理士】
【氏名又は名称】玉城 信一
(72)【発明者】
【氏名】永田 員也
(72)【発明者】
【氏名】真田 和昭
(72)【発明者】
【氏名】森本 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】小倉 孝太
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA08
4F072AB03
4F072AC02
4F072AD04
4F072AD44
4F072AD53
4F072AG05
4F072AH04
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4J002AB054
4J002AD034
4J002BB051
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4J002BB081
4J002BB121
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4J002FD036
4J002FD176
4J002GM00
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4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】ポリオレフィンとポリアミドとを含む樹脂組成物に添加した際に、引張強度、耐衝撃性、線膨張といった物性を良好にすることができるバイオマスナノファイバー添加剤、及びこれを含む樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリオレフィンとポリアミドとを含む樹脂組成物用のバイオマスナノファイバー添加剤であって、前記バイオマスナノファイバー添加剤を構成するバイオマスナノファイバーの含水率が8質量%以下であるバイオマスナノファイバー添加剤、及び、これを含む樹脂組成物である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンとポリアミドとを含む樹脂組成物用のバイオマスナノファイバー添加剤であって、
前記バイオマスナノファイバー添加剤を構成するバイオマスナノファイバーの含水率が8質量%以下であるバイオマスナノファイバー添加剤。
【請求項2】
前記バイオマスナノファイバーが機械解繊バイオマスナノファイバーである請求項1に記載のバイオマスナノファイバー添加剤。
【請求項3】
ポリオレフィンと、ポリアミドと、請求項1又は2に記載のバイオマスナノファイバー添加剤とを含む樹脂組成物であって、
前記バイオマスナノファイバー添加剤を0.01~5質量%含み、前記ポリアミドを1~35質量%含む樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスナノファイバー添加剤及び樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量で、優れた加工特性の観点から、ポリアミドやポリプロピレンといった熱可塑性樹脂は、自動車用部材、電気電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されている。しかし、樹脂単体では、機械特性、寸法安定性等が不十分である場合が多いため、樹脂と各種添加剤を混合した樹脂組成物が用いられるのが一般的である。
【0003】
熱可塑性樹脂とともに混合される添加剤としては、ガラス繊維及び炭素繊維のような繊維、タルク及びクレイのような無機充填剤等が挙げられるが、軽量化を目的とする用途に対しては必ずしも適切ではない。すなわち、これらは比重が高いため、得られる成形体の重量が大きくなってしまい、軽量化を図れない問題があった。
【0004】
そこで、軽量化の観点から、バイオマスナノファイバー(BNF)の1つであるセルロースナノファイバー(CNF)が注目されている。CNFは、軽量である以外に、高強度、低熱膨張、高比表面積等の優れた特性を有している。
【0005】
一方で、CNFの実用化に向けた大きな課題として、高い親水性に起因するハンドリングの低さがある。CNFは、一般的に、水分散体で供給されている。そして、親水性が高いことから、そのままの状態で疎水性の樹脂と複合化しようすると、樹脂中でCNFが疑集したり、樹脂とCNFとの界面の接着不良を起こしたりするため、高分散状態での均―な複合化は困難である。
【0006】
上記のような問題に鑑みて、特許文献1、2では、樹脂への分散性の高いCNFとして、CNF乾燥体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-131772号公報
【特許文献2】特開2019-131774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に係るCNF乾燥体は、ポリプロピレンへの添加については検討されているが、ポリアミドに対しての検討はなされていない。高温下で水が存在するとポリアミドは熱分解することがあり、添加剤についての水分量の管理が非常に重要となる。また、ポリプロピレンとポリアミドとが共存するような系でCNFのようなBNFが本来の機能を発揮できるかどうかについても不明であった。
【0009】
また、ポリオレフィンとポリアミドとが共存するような系では、これらがそれぞれ単独の系の場合に比べて、CNFの分散挙動が予想しにくい。そして、これらの樹脂が共存する樹脂組成物中でのCNFの分散性が充分ではないと、成形体の部位による機械的強度の違いが生じてしまう。その結果、部分的に強度欠陥を生じてしまい、実製品としての信頼性を大幅に毀損してしまうこととなる。
【0010】
以上から、本発明は上記に鑑みなされたものであり、ポリオレフィンとポリアミドとを含む樹脂組成物に添加した際に、引張強度、耐衝撃性、線膨張といった物性を良好にすることができるバイオマスナノファイバー添加剤、及びこれを含む樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、ポリオレフィンとポリアミドとを含む樹脂組成物用として、含水率を8質量%以下としたバイオマスナノファイバー添加剤により当該課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は下記のとおりである。
[1] ポリオレフィンとポリアミドとを含む樹脂組成物用のバイオマスナノファイバー添加剤であって、前記バイオマスナノファイバー添加剤を構成するバイオマスナノファイバーの含水率が8質量%以下であるバイオマスナノファイバー添加剤。
[2] 前記バイオマスナノファイバーが機械解繊バイオマスナノファイバーである[1]に記載のバイオマスナノファイバー添加剤。
[3] ポリオレフィンと、ポリアミドと、[1]又は[2]に記載のバイオマスナノファイバー添加剤とを含む樹脂組成物であって、前記バイオマスナノファイバー添加剤を0.01~5質量%含み、前記ポリアミドを1~35質量%含む樹脂組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリオレフィンとポリアミドとを含む樹脂組成物に添加した際に、引張強度、耐衝撃性、線膨張といった物性を良好にすることができるバイオマスナノファイバー添加剤、及びこれを含む樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】想定される本発明の樹脂組成物の相分離構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1.バイオマスナノファイバー添加剤]
本発明のバイオマスナノファイバー添加剤の一実施形態(本実施形態)について以下詳細に説明する。
【0016】
本実施形態のバイオマスナノファイバー添加剤は、ポリオレフィンとポリアミドとを含む樹脂組成物用のバイオマスナノファイバー添加剤であって、バイオマスナノファイバー添加剤を構成するバイオマスナノファイバーの含水率が8質量%以下である。バイオマスナノファイバーの含水率が8質量%を超えると、ポリオレフィンとポリアミドとを含む樹脂組成物に添加した際に、バイオマスナノファイバー中の水分に起因するポリアミドの分解が生じやすくなり、引張強度、耐衝撃性、線膨張といった物性を良好することができなくなる。
【0017】
含水率は、7質量%以下であることが好ましく、6質量%以下であることがより好ましい。バイオマスナノファイバーの含水率は、実施例に記載の方法にて測定することができる。含水率は低いほうが好ましいが実際上の下限は2質量%程度である。
【0018】
ここで、バイオマスナノファイバーとしては、生物由来の高分子で水に難溶性のナノファイバーで、例えば、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、シルクナノファイバー等が挙げられる。なかでも、化学的安定性、熱的安定性、コストの観点からセルロースナノファイバー(CNF)が好ましい。
バイオマスナノファイバーの平均繊維径は、10~100nmであることが好ましく、10~40nmであることがより好ましく、10~25nmであることがさらに好ましい。
バイオマスナノファイバーの平均長さは、0.5~100μmであることが好ましく、1~30μmであることがより好ましい。
バイオマスナノファイバーの平均繊維径や平均長さは、適切な倍率で撮影された電子顕微鏡写真や原子間力顕微鏡像に基づいて測定した繊維径や長さ(n=20程度)から算出することができる。
【0019】
バイオマスナノファイバーには種々の製造方法から製造されたものがあるが、なかでも機械解繊で製造された機械解繊バイオマスナノファイバーであることが好ましい。機械解繊バイオマスナノファイバーは、原料バイオマスをビーターやリファイナーで所定の長さとして、高圧ホモジナイザー、グラインダー、衝撃粉砕機、ビーズミル等を用いて、フィブリル化または微細化(機械粉砕)して得られる。
【0020】
他方、化学修飾バイオマスナノファイバーでは、原料バイオマスを化学的処理により微細化しやすくし、その後、機械解繊で微細化して得られる。よって化学修飾バイオマスナノファイバーは、化学修飾される。例えば、TEMPO酸化CNFのような化学修飾CNFを用いると塩に含まれる金属イオンが不純物として働く可能性がある。金属イオンは、例えば、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀である。しかし、機械解繊バイオマスナノファイバーは微細化の際に化学修飾等を行わず、媒体として水性媒体だけを用いるので、無機粒子に何らかの影響を及ぼしやすい化合物が存在せず、化学的にも熱的にも安定である。なお、高圧ホモジナイザーで処理しても、機械解繊バイオマスナノファイバーは重合度の低下が起きにくい。
【0021】
ここで、機械解繊バイオマスナノファイバーは、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀のいずれか1つ(好ましくは、いずれか2つのそれぞれ、より好ましくはいずれか3つのそれぞれ)の含有率が0.1質量%以下となっており、0.01質量%以下となっていることが好ましい。
また、当該含有率は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法、蛍光X線分析法の元素解析により測定して求めることができるが、上記の少なくともいずれかで含有率が0.1質量%以下となっており、0.01質量%以下となっていることが好ましい。
【0022】
また、機械解繊バイオマスナノファイバーがセルロースナノファイバー(機械解繊セルロースナノファイバー)である場合、その重合度は好ましくは200~1000であり、より好ましくは、600~800である。重合度が200~1000であることで、均一に微細化した乾燥粉体を得ることができる。重合度は、セルロースの最小構成単位であるグルコース単位の連結数であり、銅エチレンジアミン溶液を用いた粘度法によって求められる。
【0023】
本実施形態のバイオマスナノファイバー添加剤は、BNF分散体の調製を行った後、BNFの乾燥等を行って製造することができる。
【0024】
(BNF分散体の調製)
まず、バイオマス分散流体となる、水に分散させたバイオマスナノファイバーのスラリーを調製する。例えば、本実施形態に係るBNFがCNFである場合は、セルロースを機械粉砕して得られる繊維であり、セルロースとしては、結晶形がI型のセルロース(セルロースI型)である木材パルプや、コットン、リンター、麻、バクテリアセルロース、柔細胞繊維などの非木系パルプ、結晶形がII型のセルロース(セルロースII型)である溶解剤としてN一メチルモルホリンN-オキシド/水溶媒、銅アンモニア錯体、水酸化ナトリウム/二硫化炭素を用いた再生セルロース繊維等が用いられる。セルロースII型は、分子量および結晶化度が低下しているため、セルロースI型よりも繊維が切断されやすく、また、耐熱性も低いので、好ましい材料としては、セルロースI型である。原料セルロースを機械粉砕する方法としては、パルプをビーターやリファイナーで所定の長さとして、高圧ホモジナイザー、グラインダー、衝撃粉砕機、ビーズミルなどを用いて、フィブリル化または微細化することで機械粉砕する方法が知られている。
【0025】
BNFは、バイオマス分散流体を直径0.1~0.8mmの噴射ノズルを介して、100~245MPaの高圧噴射処理により、衝突用硬質体に衝突させて解繊することで得られたものであることが好ましい。
【0026】
この解繊手法は、市販されている高圧ホモジナイザーのように、バイオマス分散流体を高圧低速で狭い流路を通過させ、解放時に均質化させるせん断力だけではなく、衝突用硬質体に衝突させることによる衝突力や、キャビテーションを利用した、高圧での連続処理が可能である。これらウォータージェット(WJ)のせん断力、衝突力、キャビテーションを利用した解繊手法をWJ法と定義する。また、衝突処理を1回行うことを1パスとして、均一なナノファイバーを得るには、好ましくは1~30パス、さらに好ましくは5~20パスの繰り返し衝突を行う必要がある。
【0027】
また、上記方法は酸やアルカリを使用する必要がないため、例えばセルロースの分子鎖へのダメージが少なく、結晶化度の高いCNFが得られる。なお、セルロースの場合、未処理に対する各パス回数(衝突回数)における結晶化度は、40~83%となる。また、キチンの結晶化度は、48~73%となる。ボールミルやディスクミルなどの他の物理的粉砕法では、結晶化度が低下していくのに対して、WJ法では、結晶化度が低下し難いことが大きな特長である。
【0028】
さらに、WJ法では、最大で30質量%の高濃度のバイオマス分散流体を直径0.1~0.8mmの噴射ノズルを介して、100~245MPaの高圧噴射処理により、衝突用硬質体に衝突させて解繊することができ、一般的に行われている1~2質量%のナノファイバー化の工程に比べ、固形分当たりの処理量が飛躍的に向上することから、低コスト・環境低負荷・高効率でのBNF分散体を得ることができる。
【0029】
(BNFの乾燥)
BNFの乾燥は、BNF分散体、あるいはこれに適宜有機成分を混合撹拌等したものを、乾燥装置内で予熱期間経過後に進行する恒率乾燥期間(食品などを一定の加熱条件で乾燥する過程で時間に対して含水率が一定の割合で減少していく乾燥過程の期間)において、その乾燥速度が0.0002~0.5[kg/m2・s]の条件で行うことが好ましい。
【0030】
このとき、乾燥前の湿り材料の質量をms[kg]の時間θ[s]に対する変化について、減少速度をrm[kg/s]として表すとrm=-dms/dθで表され、乾き材料の質量をm[kg]、水分の質量をmw[kg]とすると、ms=m+mwであり、乾燥工程中ではmは不変であり、rm=-d(m+mw)/dθ=-dmw/dθと示され、さらに、乾燥速度Rは、蒸発が起こる面積A[m2]を基準として、R=-1/A・dmw/dθ=rm/A[kg/m2・s]と表される。
【0031】
WJ法によって製造したBNFを乾燥させる乾燥速度について、上記0.0002~0.5[kg/m2・s]の範囲に含まれる場合は、乾燥時に強固な凝集を起こすことなく、樹脂への分散性を高くすることができる。一方で、乾燥速度が0.0002[kg/m2・s]を下回ると極端に分散性が低下する場合がある。乾燥速度0.0002~0.5[kg/m2・s]の範囲に含まれる条件の乾燥方法としては、所望の乾燥速度が得られる乾燥装置であれば、限定されず、種々の市販された乾燥装置を用いることができる。例えば、噴霧乾燥法を利用した噴霧乾燥装置だけでなく、真空乾燥法を利用した乾燥装置、気流乾燥法を利用した気流式乾燥装置、流動層乾燥法を利用した流動層乾燥装置などが想定できる。
【0032】
噴霧乾燥は、液体や、液体と固体との混合物(スラリー)を気体中に噴霧して急速に乾燥させ、乾燥粉体を製造する手法である。噴霧乾燥は、スプレードライやスプレードライングとも呼ばれ、食品や医薬品といった熱で傷みやすい材料を乾燥させるのが好ましく、乾燥体が安定した粒度分布となるので、触媒のような製品の乾燥に用いられる。
【0033】
真空乾燥は、真空または減圧下で乾燥させる手法である。気圧が下がると空気中の水蒸気分圧が下がり、水分の沸点が低下し蒸発速度が加速されるので、対象物の乾燥を早めることができる。
【0034】
気流乾燥は、粉状、湿潤状、泥状、または塊状の材料を300~600℃の高速熱気流中で浮遊させ、輸送しつつ数秒単位で急速に乾燥させる手法である。熱風が気流乾燥管内を一般に10~30m/s程度で流れるので伝熱効率がよい。
【0035】
流動層乾燥は、乾燥ガスを吹き込むことで粉体を流動化させ、乾燥させる手法であり、流動層の優れた混合性、ガス接触性、伝熱性を乾燥に利用したものである。被乾燥物は流動室の一端から投入されて浮遊流動しながら出口より排出される。被乾燥物の移動速度、流動状態などを適宜調節したり、仕切板を入れる場合もある。
【0036】
噴霧乾燥を行うスプレードライヤー及びその条件等としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載のものを採用することが可能で、これによりバイオマスナノファイバーの含水率が10質量%以下であるバイオマスナノファイバー添加剤が製造される。
なお、乾燥速度を0.0002~0.5[kg/m2・s]の範囲に調整することで、バイオマスナノファイバーの含水率を10質量%以下とすることできる。
【0037】
上述した製造方法で得られたバイオマスナノファイバー添加剤の保存温度は、4~40℃が好ましく、4~30℃がさらに好ましい。圧力は、常圧で保管することが好ましい。湿度は、70%以下が好ましく、60%以下がさらに好ましい。
バイオマスナノファイバー添加剤を保存する場合は、例えば、アルミパウチなどの袋や密封できる容器に添加し、密封後、保存することが好ましい。また、アルミパウチや密封した容器は、そのままの形態で輸送することができる。
【0038】
[2.樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物の一実施形態(本実施形態)について以下詳細に説明する。
本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリオレフィンと、ポリアミドと、本発明のバイオマスナノファイバー添加剤とを含む。樹脂組成物中には当該バイオマスナノファイバー添加剤が0.01~5質量%含まれ、ポリアミドが1~35質量%含まれている。
【0039】
ポリアミドが1~35質量%含まれている状態で、本発明のバイオマスナノファイバー添加剤を0.01~5質量%の範囲で少量充てんすることで、ポリオレフィン中でネットワークを構成するBNFの分散構造体表面にポリアミド界面が形成され、BNF界面に形成されたポリアミド相のネットワーク構造が形成されると推察される。また、バイオマスナノファイバー添加剤が存在することで、平均分散粒子径が1μm程度以下の微細島状のポリアミド相が形成されると推察される。そして、これらポリアミドで界面形成したBNFネットワーク構造と微細島状のポリアミド相により、マトリックスを形成するポリオレフィンが補強され、引張強度、耐衝撃性、耐熱性線膨張といった物性が良好になると考えられる。
【0040】
バイオマスナノファイバー添加剤が0.01質量%未満では、既述のネットワークが形成されにくくなり期待する物性が得られず、5質量%を超えると耐衝撃性が低下する。バイオマスナノファイバー添加剤の含有量は、0.01~2.5質量%であることが好ましく、0.05~1.5質量%であることがより好ましく、0.1~1.2質量%であることがさらに好ましい。
【0041】
本実施形態に係るポリオレフィンは、オレフィン類(例えばα-オレフィン類)やアルケン類をモノマー単位として重合して得られる高分子である。ポリオレフィンの具体例としては、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどに例示されるエチレン系(共)重合体;ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などに例示されるポリプロピレン系(共)重合体;エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体などに代表されるエチレンなどα-オレフィンの共重合体;等が挙げられる。上記のなかでも、ポリプロピレン系(共)重合体が好ましく、ポリプロピレンより好ましい。
【0042】
本実施形態に係る樹脂組成物中のポリオレフィン(後述する酸変性ポリオレフィンを除く)の含有量は、複合材料の価格および耐水性の観点から、60~98.98質量%であることが好ましく、60~97.95質量%であることがより好ましく、72~94.9質量%であることがさらに好ましい。
【0043】
また、BNFとの親和性を高め、さらにポリアミドとポリプロピレンの相溶性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂(酸変性ポリオレフィン)も好適に使用可能である。この際の酸としては、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及び、これらの無水物、クエン酸等のポリカルボン酸から適宜選択可能である。これらの中でも、変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物が好ましい。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下若しくは非存在下で融点以上に加熱して溶融混練する方法が挙げられる。酸変性するポリオレフィン樹脂としては既述のポリオレフィンすべてに使用可能であるが、ポリプロピレンが中でも好適に使用可能である。酸変性されたポリプロピレン(特にマレイン酸変性ポリプロピレン:MAPP)は、単独で用いても構わないが、組成物としての変性率を調整するため、変性されていないポリプロピレンと混合して使用することがより好ましい。
【0044】
マレイン酸変性ポリプロピレン等の酸変性ポリプロピレンの含有量は、良好な相溶性を発揮させる観点から、0.01~15質量%であることが好ましく、0.05~10質量%であることがより好ましく、0.1~8質量%であることがより好ましい。
【0045】
本実施形態に係るポリアミドとしては、ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12や、1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1,6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、m-キシリレンジアミンなどのジアミン類と、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸、ベンゼン-1,4ジカルボン酸等、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸などのジカルボン酸類との共重合体として得られるポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C及び、これらがそれぞれ共重合された共重合体(ポリアミド6,T/6,I等の共重合体)が挙げられる。
【0046】
これらポリアミドの中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12といった脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,Cといった脂環式ポリアミドがより好ましい。
【0047】
本実施形態に係る樹脂組成物中のポリアミドの含有量は、引張破断伸びを維持し、かつポリアミド35質量%以上での強度、弾性率の向上率がそれ以下のポリアミド充てん量に比較して大きくないとの観点から、1~35質量%であり、2~30質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましい。
【0048】
本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリオレフィン、ポリアミド、及び本発明のバイオマスナノファイバー添加剤以外の成分を本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、1質量%以下)で含んでいてもよい。例えば、安定剤や滑剤等を含んでいてもよい。
【0049】
本実施形態の樹脂組成物の製法としては、例えば、以下の様な方法が挙げられる。
単軸若しくは二軸押出機を用いて、ポリオレフィン(酸変性されたポリプロピレンを含む場合あり。以下に製法の説明についても同様。)、ポリアミドと本発明のバイオマスナノファイバー添加剤との混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体として得る方法;単軸若しくは二軸押出機を用いて、ポリオレフィン、ポリアミドと本発明のバイオマスナノファイバー添加剤との混合物を溶融混練し、棒状又は筒状に押出し冷却して押出成形体として得る方法;単軸若しくは二軸押出機を用いて、ポリオレフィン、ポリアミドと本発明のバイオマスナノファイバー添加剤との混合物を溶融混練し、Tダイより押出しシート、又はフィルム状の成形体を得る方法;単軸若しくは二軸押出機を用いて、ポリオレフィン、ポリアミドと本発明のバイオマスナノファイバー添加剤との混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体として得る方法;等が挙げられる。
【0050】
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、樹脂ペレット状、シート状、繊維状、板状、棒状等が挙げられるが、樹脂ペレット形状が後加工の容易性や運搬の容易性からより好ましい。この際の好ましいペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型などが挙げられ、これらは押出加工時のカット方式により異なる。
【0051】
本実施形態の樹脂組成物は、種々の樹脂成形体として利用が可能である。樹脂成形体の製造方法に関しては特に制限はなく、種々の公知の製造方法で構わないが、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法、発泡成形法等が使用可能である。
【0052】
本実施形態の樹脂組成物は、優れた機械的特性、低線膨張性、及び耐衝撃性を有し、部分的な強度欠陥を実質的に含まない成形体を与えるため、種々の部品用途に好適に使用可能である。
【実施例0053】
次に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
(バイオマスナノファイバー添加剤の調製)
原料セルロースとしてパルプを用い、当該パルプを10質量%の濃度になるようにイオン交換水で分散液を調製し、湿式微粒化装置(スギノマシン社製スターバースト、WJ法)にて解繊処理を10回実施し繊維を解して、CNF水分散体を作製した。
【0054】
WJ法で得られた10質量%CNF水分散体にイオン交換水を加えて、終濃度が1質量%になるように調整し、スリーワンモーター撹拌機BLW3000(新東科学製)にて十分に撹拌混合させ、得られた1質量%CNF水分散体を噴霧乾燥装置により入口温度200℃、供給量15ml/minにて噴霧乾燥させCNF乾燥体としてのバイオマスナノファイバー添加剤を得た。噴霧乾燥による乾燥速度を計算したところ、0.00083(kg/m2・s)であった。
なお、バイオマスナノファイバー添加剤について、加熱乾燥式水分計(A&D製、製品名:MX-50)により含水率を測定したところ、4.5質量%であった。
【0055】
(樹脂組成物の調製)
表1に示す割合で、バイオマスナノファイバー添加剤(CNF)、ポリアミド(PA6、ポリアミド6、東レ製CM1017)、ポリプロピレン(PP、サンアロマー製ポリプロピレンPX600N)、酸変性ポリプロピレン(MAPP、マレイン酸変性ポリプロピレン、三洋化成製ユーメックス1010)を混合し、ブレンダーを用いて8,000rpmで1分間撹拌混合した。その後、二軸混練機によって250℃、150rpm、混練時間10分で溶融混錬し、射出成形(成形温度250℃、金型温度40℃)により、長さ150mm、最大幅20mm、最小幅13mm、厚さ3.3のダンベル片(ASTM D638 standard TYPE-1)、及び、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmのシャルピー衝撃試験用試験片(JIS K7139 短冊状TYPE-B1)を得た。それぞれの試験片が樹脂組成物に該当する。
【0056】
(評価)
得られた樹脂組成物について下記の評価を行った。なお、各種の評価は室温(23℃)で行った。結果を下記表1に示す。
【0057】
・引張強度、引張弾性率、引張破断伸び
得られたダンベル片を7日間状態調整後、精密万能試験装置(島津製作所社製、製品名:オートグラフAG-Xplus)により引張り試験を行った。試験条件として、試験速度20mm/min、つかみ具間距離100mmに設定した。JIS K7161に準じて測定した。
【0058】
・線膨張係数
得られたダンベル片の中央部から、精密カットソーにて縦4mm、横4mm、長さ4mmの立方体サンプルを切り出し、熱変形温度測定装置(安田精機製HD-500)にて下記条件にて線膨張係数を求めた。
試験開始温度:50℃、昇温速度:120℃/h、最高試験温度:120℃、T1:50℃、T2:60℃、荷重:100gとした。
【0059】
・シャルピー衝撃値
作製したシャルピー衝撃試験用試験片を用いてシャルピー衝撃試験を行った。
シャルピー衝撃値は、ノッチ付シャルピー試験(ノッチ形状:タイプAノッチ(ノッチ半径0.25mm))を行い評価した。測定はJIS K7111に準拠し、測定装置はデジタル衝撃試験機(東洋精機製作所製のDG-UB))を用い、衝撃速度は2.9m/sとし、公称振り子エネルギーは2J又は4Jとし、試験片の数n=5、評価項目は吸収エネルギーとした。
【0060】
[実施例2~6、比較例1、参考例1,2]
表1に示す割合とした以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を作製した。そして、実施例1同様の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0061】
[比較例2]
実施例1のバイオマスナノファイバー添加剤について、含水率が10質量%となるまで室温で放置し、含水率が10質量%のバイオマスナノファイバー添加剤を作製した。
作製したバイオマスナノファイバー添加剤を用い、表1に示す割合とした以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を作製した。そして、実施例1同様の評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0062】
【0063】
表1の結果から、バイオマスナノファイバー添加剤を構成するバイオマスナノファイバーの含水率が8質量%以下であるバイオマスナノファイバー添加剤を用いた樹脂組成物であって、バイオマスナノファイバー添加剤を0.01~5質量%含み、ポリアミドを1~35質量%含む樹脂組成とすることで、引張強度、耐衝撃性、線膨張といった物性が良好になることがわかった。
【0064】
ここで、実施例3及び比較例1の樹脂組成物のTEM写真をそれぞれ
図1及び
図2に示す。
図1に示すように、比較例1と比較して、実施例3では少量のバイオマスナノファイバー添加剤により相分離構造の微細化が確認されたが、
図2に示すようにBNFを添加しないと大きな相分離構造となった。なお、BNF表面へのPA6の界面形成は界面厚みが10nm前後と薄いと考えられるためにTEMでは観察できなかった。
ここで、TEM測定は、FEI製のTecnai G2 F20を用いて、加速電圧200kVにて樹脂組成物の超薄片切片をリンタングステン酸で染色した試料を観察することにより行った。
図1及び
図2は同一倍率の写真である。
【0065】
以上の結果から、本実施例で得られた樹脂組成物は
図3の模式図に示すように、ポリプロピレン中でネットワークを構成するBNFの分散構造体表面にナイロン6界面が形成され、BNF界面に形成されたナイロン6相のネットワーク構造が形成されたと推察される。また、バイオマスナノファイバー添加剤が存在することで、平均分散粒子径が600nm以下の微細島状のナイロン6が形成されたと推察される。そして、これらネットワーク構造と微細島状のナイロン6相構造により引張強度、耐衝撃性、線膨張といった物性が良好になったと考えられる。