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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020012
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/122 20060101AFI20230202BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230202BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 31/216 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 31/37 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 31/343 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20230202BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230202BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
A61K31/122
A61P3/10
A61P13/12
A61K31/19
A61K31/7048
A61K31/352
A61K31/216
A61K31/37
A61K31/405
A61K31/343
A61K31/137
A61K31/496
A23L33/10
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125122
(22)【出願日】2021-07-30
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石角 篤
(72)【発明者】
【氏名】原田 佳代
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD07
4B018MD08
4B018MD09
4B018MD18
4B018ME03
4B018MF01
4B117LC04
4B117LK06
4B117LK08
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA05
4C086BA08
4C086BC14
4C086BC50
4C086CA01
4C086EA11
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA16
4C086MA17
4C086MA23
4C086MA28
4C086MA31
4C086MA32
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA59
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZC35
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB29
4C206DA13
4C206DB20
4C206DB56
4C206FA14
4C206KA01
4C206KA05
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA33
4C206MA36
4C206MA37
4C206MA43
4C206MA48
4C206MA51
4C206MA52
4C206MA55
4C206MA57
4C206MA61
4C206MA63
4C206MA72
4C206MA79
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA81
4C206ZC35
(57)【要約】
【課題】糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物の提供。
【解決手段】オレアノール酸、ナリンギン、ルテオリン、フィセチン、リモニン、レイン、(-)-エピカテキン、没食子酸エピガロカテキン、クロロゲン酸、エラグ酸、フォルスコリン、インドール-3-酪酸、タンシノンI、バイカレイン、フィシオン、オクトパミン、フルボ酸、及びガチフロキサシンからなる群より選択される1種以上を含む、糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレアノール酸、ナリンギン、ルテオリン、フィセチン、リモニン、レイン、(-)-エピカテキン、没食子酸エピガロカテキン、クロロゲン酸、エラグ酸、フォルスコリン、インドール-3-酪酸、タンシノンI、バイカレイン、フィシオン、オクトパミン、フルボ酸、及びガチフロキサシンからなる群より選択される1種以上を含む、糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物。
【請求項2】
経口組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
飲食品組成物又は医薬組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
糖尿病患者用である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病性腎症とは、糖尿病の合併症の1つであり、高血糖状態が続くことによって、腎臓の機能が低下する疾患である。アルブミン等の尿蛋白の増加、尿細管の機能異常、メサンギウム領域の拡大、糸球体の重量増加や硬化等の症状が見られる。
【0003】
インスリンに類似した分子構造を持つホルモンである、インスリン様成長因子1(Insulin-like growth factor 1;IGF-1)は、糸球体細胞や尿細管細胞に対する分裂促進作用を持つことが示唆されており、糖尿病性腎症の初期段階において、IGF-1の発現が異常に制御されていることが確認されている。さらに多くの研究において、IGF-1の過剰発現は、腎組織の過形成、腎細胞の増殖、腎肥大、メサンギウム領域の拡大、炎症性サイトカインや細胞外マトリックスタンパク質(extracellular matrix;ECM)の発現増加など、多くの病理組織学的変化を引き起こすことが明らかにされている(非特許文献1)。
【0004】
また、これまでに、IGF-1及びインスリン様成長因子1受容体(insulin-like growth factor 1 receptor;IGF-1受容体)はERK経路の活性化作用(Erkのリン酸化)を有することが知られており、一方、インスリンはIGF-1及びIGF-1受容体によるERK経路の活性化作用を阻害することが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Drug Des Devel Ther.2018;12:2887-2896.
【非特許文献2】Kidney Int 2008 Dec;74(11):1434-43.
【非特許文献3】Diabetes 2020 Jun;69(Supplement1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これまでに、メサンギウム細胞でIGF-1受容体を欠損したマウスにおいて糖尿病を誘発すると、IGF-1受容体を欠損していないマウスと比較して、糸球体サイズの増加抑制、メサンギウム領域の拡大抑制、ECM関連遺伝子であるHas2の発現増加抑制等が確認されたこと;Erk阻害剤によってIGF-1によるHas2の発現増加が抑制されたこと(非特許文献3)等が知られている。本発明者らは、IGF-1がErkを活性化することによって、糖尿病性腎症の発症、進行等に関与していると考え、IGF-1によるErkのリン酸化を抑制し得る化合物の探索を行った。その結果、オレアノール酸等いくつかの化合物が、Erkのリン酸化を抑制する作用を有することを見出し、さらに改良を重ねた。
【0008】
本開示は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
オレアノール酸、ナリンギン、ルテオリン、フィセチン、リモニン、レイン、(-)-エピカテキン、没食子酸エピガロカテキン、クロロゲン酸、エラグ酸、フォルスコリン、インドール-3-酪酸、タンシノンI、バイカレイン、フィシオン、オクトパミン、フルボ酸、及びガチフロキサシンからなる群より選択される1種以上を含む、糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物。
項2.
経口組成物である、項1に記載の組成物。
項3.
飲食品組成物又は医薬組成物である、項1又は2に記載の組成物。
項4.
糖尿病患者用である、項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物等が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。
本開示に包含される糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物は、オレアノール酸、フィシオン、ナリンギン、リモニン、フォルスコリン、タンシノンI、レイン、フィセチン、ガチフロキサシン、フルボ酸、没食子酸エピガロカテキン、ルテオリン、バイカレイン、エラグ酸、オクトパミン、(-)-エピカテキン、インドール-3-酪酸、又はクロロゲン酸を含むことが好ましい。本明細書において、当該組成物を「本開示の糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物」と表記することがある。これらの成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
中でも、オレアノール酸、フィシオン、ナリンギン、リモニン、フォルスコリン、タンシノンI、レイン、フィセチン、ガチフロキサシン、フルボ酸、又は没食子酸エピガロカテキンを含むことが好ましい。中でもオレアノール酸がより好ましい。
【0011】
オクトパミン(Octopamine)は、無脊椎動物において神経伝達物質として機能する、生体アミンの1種である。
【0012】
フィシオン(Physcion)は、大黄等に含まれるアントラキノン類の1種である。フィシオンは、パリエチン(Parietin)とも称される。
【0013】
レイン(Rhein)は、大黄等に含まれるアントラキノン類の1種である。
【0014】
インドール-3-酪酸(Indole-3-butyric acid)は、植物ホルモンであるオーキシンに含まれる、複素環式化合物の1種である。
【0015】
(-)-エピカテキン((-)-Epicatechin)は、緑茶等に含まれるカテキン(ポリフェノール)類の1種である。
【0016】
没食子酸エピガロカテキン((-)-Epigallocatechin gallate)は、緑茶等に含まれるカテキン(ポリフェノール)類の1種である。
【0017】
クロロゲン酸(Chlorogenic acid)は、コーヒー豆等に含まれるポリフェノール類の1種である。クロロゲン酸は、3-カフェオイルキナ酸(3-caffeoylquinic acid)とも称される。
【0018】
フォルスコリン(Forskolin)は、コレウス・フォルスコリ(シソ科)等に含まれるジテルペンの1種である。
【0019】
タンシノンI(Tanshinone I)は、丹参に含まれる主成分の1種である。
【0020】
オレアノール酸(Oleanolic acid)は、ブドウ果皮やオリーブ等に含まれるトリテルペンの1種である。
【0021】
ガチフロキサシン(Gatifloxacin)は、ニューキノロン系合成抗菌薬である。
【0022】
エラグ酸(Ellagic acid)は、イチゴ、ラズベリー、クランベリー、ブドウ等の野菜や果物等に含まれるフェノール類の1種である。
【0023】
リモニン(Limonin)は、オレンジ、レモン等のミカン属植物の果実等に含まれるフラノラクトンの1種である。
【0024】
ナリンギン(Naringin)は、グレープフルーツ、はっさく等の柑橘類の果皮等に含まれるフラバノンの1種である。
【0025】
ルテオリン(Luteolin)は、菊の花等に含まれるポリフェノール類の1種である。
【0026】
フィセチン(Fisetin)は、イチゴ等の植物等に含まれるフラボノイド類の1種である。
【0027】
バイカレイン(Baicalein)は、オウゴン等に含まれるフラボン類の1種である。
【0028】
フルボ酸(fulvic acid)は、土壌中等に含まれるポリマーの1種である。
【0029】
前述した成分は、例えば、天然物であっても合成物であってもよく、天然物から精製したものや商業的に入手可能なもの等、特に限定されず用いることができる。前述した成分が合成物である場合には、公知の方法、又は公知の方法から容易に想到できる方法によって合成することができる。
【0030】
前述した成分は、例えば、塩の形態、溶媒和物(例えば、水和物、アルコール和物等)の形態等であってもよい。塩の形態としては、具体的には、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属;アンモニウム塩などの有機塩基との塩;塩酸、リン酸などの無機酸;酢酸、クエン酸、コハク酸などの有機酸などとの塩が挙げられる。
例えば、オクトパミンの塩の形態としては、オクトパミン塩酸塩((+/-)-Octopamine hydrochloride)等が挙げられる。
【0031】
本開示の糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物中、前述した成分の含有量は、100質量%を限度として適宜設定することができる。
【0032】
本開示の糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物は、前述した成分を含み、さらに他の成分を含むことができる。当該他の成分としては、薬学的、若しくは食品衛生学的に許容される基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、抗酸化剤、保存剤、コーティング剤、着色料、胃粘膜保護剤などのその他の薬剤、及び/又はその他食品、若しくは飼料として利用され得る成分・材料等が例示される。これらの成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
本開示の糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物の剤形は、特に限定されず、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、トローチ剤、ゼリー剤、注射剤、硬膏剤、エキス剤、坐剤、懸濁剤、チンキ剤、軟膏剤、パップ剤、点鼻剤、吸入剤、リニメント剤、ローション剤、エアゾール剤等が例示される。
【0034】
本開示の糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物は、上述した成分と、必要に応じて他の成分とを組み合わせて常法により調製することができる。
【0035】
本開示の糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物の投与(摂取)量は、特に限定されず、投与する対象の年齢、体重、性別、症状の程度、投与方法等により決定される。
【0036】
本開示の糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物は、1日1回投与するものであってもよく、1日複数回(例えば2~5回程度)に分けて投与するものであってもよい。
【0037】
本開示の糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物を投与される対象としては、哺乳動物が好ましい。ヒトのみならず、非ヒト哺乳動物であってもよい。
対象となるヒトとしては、例えば、慢性腎臓病患者、慢性腎臓病が疑われるヒト;、糖尿病性腎症患者、糖尿病性腎症が疑われるヒト;糖尿病患者、糖尿病が疑われるヒト;尿アルブミン値が30mg/gCr以上、尿蛋白値が150mg/gCr以上、又は糸球体濾過量(GFR)が60ml/分/1.73m未満等の腎機能障害を有するヒト、腎機能障害が疑われるヒト;あるいはこれらの特徴を2種以上併せ持つヒトなどが挙げられる。
また、非ヒト哺乳動物としては、例えばペット、家畜、実験動物等として飼育される哺乳動物などが例示される。このような非ヒト哺乳動物としては、例えば、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、リャマ等が挙げられる。
【0038】
投与方法としては、例えば、経口投与、及び非経口(例えば静脈、動脈、筋肉、皮下、腹腔、直腸、経皮、局所など)投与等が挙げられる。中でも、経口投与が好ましい。
【0039】
本開示の糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物は、経口組成物であることが好ましい。より好ましくは、飲食品組成物又は医薬組成物である。本開示の糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物は、例えば、慢性腎臓病患者用、糖尿病性腎症患者用、糖尿病患者用、腎機能障害者用等であってもよい。
【0040】
本開示の糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物は、後述する実施例に示すとおり、IGF-1によるErkのリン酸化を抑制する。前述したとおり、メサンギウム細胞で、IGF-1受容体を欠損したマウスにおいて糖尿病を誘発すると、IGF-1受容体を欠損していないマウスと比較して、糸球体サイズの増加抑制、メサンギウム領域の拡大抑制、ECM関連遺伝子であるHas2の発現増加抑制等が確認されたこと;Erk阻害剤によってIGF-1によるHas2の発現増加が抑制されたこと等が知られていることから、IGF-1はErkを活性化(リン酸化)することによって、糖尿病性腎症の発症、進行等に関与していると考えられるため、IGF-1によるErkのリン酸化を抑制する本開示の糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物は、糖尿病性腎症の予防又は改善に好適に用いることができる。
【0041】
本開示の糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物は、後述する実施例に示すとおり、Aktのリン酸化抑制作用を有しない、Aktのリン酸化抑制作用が低い、又はAktのリン酸化促進作用を有する。
これまでにインスリンによりAktが活性化(リン酸化)されることが確認されている(非特許文献2、及び3)。糖尿病においては、インスリン分泌量の低下、インスリン抵抗性等の状態であることが予測されることから、Aktのリン酸化抑制作用を有しない、Aktのリン酸化抑制作用が低い、又はAktのリン酸化促進作用を有する本開示の糖尿病性腎症の予防又は改善用組成物は、糖尿病性腎症の予防又は改善に好適に用いることができる。
【0042】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件の任意の組み合わせを全て包含する。
【0043】
また、前述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0044】
本発明の内容を以下の実施例を用いて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また特に言及する場合を除いて、「%」は「容量%」を意味する。
【0045】
細胞培養
マウスメサンギウム細胞を、20%ウシ血清を添加したDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s medium)で培養した。継代数3~7のメサンギウム細胞を6-wellプレートでコンフルエントになるまで培養後、0.1%のウシ血清アルブミンを含有するDMEMに培地交換し、オーバーナイト、37℃、5%CO存在下でインキュベーションを行った。その後、最終濃度が20μMとなるように各種化合物(164種)を添加、1時間インキュベーションした後、最終濃度が10nMとなるようにインスリン様成長因子1(IGF-1)で細胞を10分間刺激した。なお、各種化合物を添加しない以外は同様に細胞を処理したものをコントロールとした。
【0046】
ウエスタンブロッティング法
上記メサンギウム細胞を冷PBS(-)で2回洗浄し、氷上でプロテアーゼ阻害剤(Thermo Scientific)、ホスファターゼ阻害剤(Thermo Scientific)を添加したM-PER緩衝液(Thermo Scientific)により細胞を回収した。回収した細胞を超音波処理(1分)した後、4℃で遠心分離(15000g、20分)を行い、上清を採取した。得られたタンパク抽出液の総タンパク質濃度をBCAアッセイ(Thermo Scientific)により測定した。それらのタンパク質濃度を一定に揃えた後、Laemmli Sample Buffer(BIO-RAD)を添加、煮沸することによってタンパク質を変性させた。その後、SDS-PAGEによってタンパク質の電気泳動を行い、分離したタンパク質をPVDF膜に転写した。タンパク質を転写した膜を、5%スキムミルク、および0.05%Tween-20を含有するPBSにてブロッキングし、次いで、定法に従い、1次抗体、2次抗体と反応させた後、基質としてSuperSignal West Dura Chemiluminescent Substrate、もしくは、SuperSignal West Pico Chemiluminescent Substrate(Thermo Scientific)を用いて膜を化学発光させ、LAS4000mini(GE Healthcare)システムにより発光強度を検出した。バンド強度の定量は、Image Jを用いて行った。
1次抗体として、anti-Erk antibody(Cell Signaling Technology)、anti-phospho-Erk antibody(Cell Signaling Technology)、anti-Akt antibody(Cell Signaling Technology)、anti-phospho-Akt antibody(Cell Signaling Technology)、2次抗体として、horseradish peroxidase(HRP)-linked anti-rabbit IgG antibody(Cell Signaling Technology)を使用した。
【0047】
コントロールの、Erkに対する、リン酸化Erkの比率(p-Erk/Erk)と、各種サンプルを添加した場合のErkに対する、リン酸化Erkの比率とを比較することによって、各種サンプルを添加したことによるErkのリン酸化の抑制率を算出した。
同様に、コントロールの、Aktに対する、リン酸化Aktの比率(p-Akt/Akt)と、各種サンプルを添加した場合のAktに対する、リン酸化Aktの比率とを比較することによって、各種サンプルを添加したことによるAktのリン酸化の抑制率を算出した。
結果を以下の表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
164種の化合物を試験した結果、オレアノール酸、フィシオン、ナリンギン、リモニン、フォルスコリン、タンシノンI、レイン、フィセチン、ガチフロキサシン、フルボ酸、没食子酸エピガロカテキン、ルテオリン、バイカレイン、エラグ酸、オクトパミン塩酸塩、(-)-エピカテキン、インドール-3-酪酸、又はクロロゲン酸は、Erkのリン酸化抑制率が25%以上であることが分かった。
中でも、オレアノール酸、フィシオン、ナリンギン、リモニン、フォルスコリン、タンシノンI、レイン、フィセチン、ガチフロキサシン、フルボ酸、又は没食子酸エピガロカテキンは、Erkのリン酸化抑制率が30%以上であることが分かった。
【0050】
また、オレアノール酸、フィシオン、ナリンギン、リモニン、フォルスコリン、タンシノンI、レイン、フィセチン、ガチフロキサシン、フルボ酸、没食子酸エピガロカテキン、ルテオリン、バイカレイン、エラグ酸、オクトパミン塩酸塩、(-)-エピカテキン、インドール-3-酪酸、又はクロロゲン酸は、Aktのリン酸化抑制率が30%未満であることが分かった。