(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020021
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】冷媒輸送用ホース
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20230202BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20230202BHJP
C08K 5/372 20060101ALI20230202BHJP
C08K 5/3447 20060101ALI20230202BHJP
F16L 11/04 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L23/00
C08K5/372
C08K5/3447
F16L11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125148
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】岡久 正志
(72)【発明者】
【氏名】水谷 幸治
【テーマコード(参考)】
3H111
4J002
【Fターム(参考)】
3H111BA12
3H111BA15
3H111BA34
3H111CB03
3H111DB27
4J002AC062
4J002AC082
4J002BB032
4J002BB042
4J002BB122
4J002BB152
4J002BC052
4J002BC072
4J002BF032
4J002CL001
4J002CL011
4J002CL031
4J002EU107
4J002EV016
4J002EV347
4J002GM00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐冷媒透過性、柔軟性等に優れるとともに、ホース最内層の加水分解劣化の防止性能に優れる、冷媒輸送用ホースを提供する。
【解決手段】管状の最内層1と、前記最内層1外周に設けられたゴム層2とを備えた冷媒輸送用ホースであって、前記最内層1用のポリマーが、下記の(A-1)成分を主成分とする下記(A-1)成分および(A-2)成分からなるブレンドポリマー(A)であり、前記最内層1が、前記ブレンドポリマー(A)100質量部に対し、下記の(B)成分を特定の範囲で含有し、かつ下記(A-1)成分の海相内に下記(A-2)成分の島相が分散されたアロイからなる。
(A-1)ポリアミド樹脂。
(A-2)ポリオレフィン系エラストマー。
(B)ジフェニルスルフィド構造を一分子中に有する硫黄系化合物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の最内層と、前記最内層の外周に設けられたゴム層とを備えた冷媒輸送用ホースであって、
前記最内層用のポリマーが、下記の(A-1)成分を主成分とする下記(A-1)成分および(A-2)成分からなるブレンドポリマー(A)であり、
前記最内層が、前記ブレンドポリマー(A)100質量部に対し、下記の(B)成分を0.5~20質量部の範囲で含有し、かつ下記(A-1)成分の海相内に下記(A-2)成分の島相が分散されたアロイからなる、冷媒輸送用ホース。
(A-1)ポリアミド樹脂。
(A-2)ポリオレフィン系エラストマー。
(B)下記の式(1)に示す分子構造を一分子中に有する硫黄系化合物。
【化1】
【請求項2】
前記最内層における(A-1)成分が、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、およびポリアミド1010からなる群から選ばれた少なくとも一つの脂肪族ポリアミド樹脂である、請求項1記載の冷媒輸送用ホース。
【請求項3】
前記最内層において、(B)成分が、(A-1)成分の海相に偏在している、請求項1または2記載の冷媒輸送用ホース。
【請求項4】
さらに、前記最内層が下記の(C)成分を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の冷媒輸送用ホース。
(C)芳香族アミン化合物。
【請求項5】
前記(C)成分が、2-メルカプトベンゾイミダゾールである、請求項4記載の冷媒輸送用ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両用の冷媒を輸送するためのホースとして有用な、冷媒輸送用ホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オゾン層破壊ガスの蒸散規制強化に伴い、自動車等に使用される冷媒輸送用ホースの冷媒バリア性(耐冷媒透過性)に対する要求が厳しくなっている。このような状況のもと、従来、冷媒輸送用ホースの最内層の形成材料には、例えば、ポリアミド樹脂のような結晶性の高い樹脂が使用されている(例えば、特許文献1~4参照)。
【0003】
一方で、オゾン層破壊ガスの蒸散規制強化に伴い、近年、自動車等に使用される冷媒の品質も改良されている。例えば、R-1234yf冷媒(HFO-1234yf冷媒)は、HFC-134a冷媒の代替冷媒として開発されたものであり、HFC-134aに比べオゾン破壊係数および地球温暖化係数が低く、地球環境に極めて優しい冷媒である。そのため、自動車等に使用される冷媒輸送用ホースも、R-1234yfに適した性能のものが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2012/115147号
【特許文献2】特許第5723520号公報
【特許文献3】特許第4811531号公報
【特許文献4】特許第6561217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、R-1234yf冷媒のような、二重結合を有するフッ素化合物と潤滑油(冷凍機油)とを含有する冷媒組成物を用いた場合、高温環境の下、前記フッ素化合物や潤滑油の分解によって、有機酸や無機酸が発生する。そして、前記有機酸および無機酸との接触によって、ホース最内層を構成するポリアミド樹脂が加水分解し、劣化するという問題がある。
【0006】
ここで、前記特許文献1に係るホースは、ポリアミド樹脂に2価、3価の金属化合物が配合された最内層を備えており、前記特許文献2に係るホースは、ポリアミド樹脂に有機系化合物のカルボジイミドが配合された最内層を備えており、前記特許文献3に係るホースは、ポリアミド樹脂にハイドロタルサイトが配合された最内層を備えている。
これらの手法により、加水分解防止性能(耐酸性)の向上は一応見られるが、例えば特許文献1に示されているように、金属化合物(無機系化合物)を添加した場合、ポリアミド樹脂の硬化が促進されて柔軟性が低下したり、ポリアミド樹脂の酸化劣化反応が促進されて耐熱性が著しく悪化したりするといった問題が生じる。
また、特許文献2に示されているように、有機系化合物のカルボジイミドを添加した場合、そのイミド基と、ポリアミド樹脂のカルボキシ基やヒドロキシ基とが反応して、ポリマー間で架橋反応して鎖延長効果が得られることにより、柔軟性の低下が起こるといった問題が生じる。
また、特許文献3に示されているように、ハイドロタルサイトを添加した場合、その添加量を多量にしないと加水分解防止性能(耐酸性)を向上させることができず、その多量添加に起因し、柔軟性の低下や、ポリアミド樹脂の二軸混練りや押出し等といった成形加工性の低下につながるといった問題が生じる。そのため、未だ改良の余地がある。
【0007】
また、前記のような問題を解決するうえで、本出願人は、特許文献4に示されているように、ポリアミド樹脂からなるホース最内層中に、一分子中に第二級アミノ基を二つ有する融点が100℃以上の芳香族第二級アミン化合物を含有させることにより、ポリアミド樹脂と反応する酸を安定的に封止する技術を、既に提案している。
本発明者らは、特許文献4に示すホースとは異なる材料構成についても研究を進めており、その結果、ホースの性能がより向上した改良型ホースの開発に至った。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、耐冷媒透過性、柔軟性等に優れるとともに、ホース最内層の加水分解劣化の防止性能に優れる、冷媒輸送用ホースの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、特許文献4に開示のホースと同じく、耐冷媒透過性、柔軟性等の観点から、ホース最内層を、ポリアミド樹脂にポリオレフィン系エラストマーが分散されたアロイからなる層とし、さらに、ホース強度、耐屈曲性、耐水性を高めるため、その最内層外周にゴム層を設けることを検討した。
そして、冷媒から発生する有機酸や無機酸に起因したポリアミド樹脂の加水分解を抑制するため、前記最内層中に種々の化合物を添加し、ポリアミド樹脂と反応する酸を安定的に封止することができないかについて研究を重ねた。
その結果、前記最内層中に、加水分解防止剤として機能する、分子中にジフェニルスルフィド結合を有する化合物を含有させたところ、その化合物の含有量が少量であっても、冷媒から発生する有機酸や無機酸の水素イオン(H+)とマイナスイオンとが、前記化合物のジフェニルスルフィド結合中のS原子(硫黄原子)に効果的に捕捉され、安定した塩を生成することができることを突き止めた。このようになる理由は、前記ジフェニルスルフィド結合中のS原子が電子リッチであり、さらに、そのS原子周辺に立体障害が発生しやすいことから、受酸に特化したことに起因すると考えられる。
そして、前記のように最内層を構成することにより、最内層材料であるポリアミド樹脂の加水分解が抑制されるため、耐冷媒透過性が向上し、さらに、特許文献4に開示のホースよりも、耐加水分解性、柔軟性等においてより高い性能改善が認められたことから、所期の目的が達成できることを見いだし、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、前記の目的を達成するために、以下の[1]~[5]を、その要旨とする。
[1] 管状の最内層と、前記最内層の外周に設けられたゴム層とを備えた冷媒輸送用ホースであって、
前記最内層用のポリマーが、下記の(A-1)成分を主成分とする下記(A-1)成分および(A-2)成分からなるブレンドポリマー(A)であり、
前記最内層が、前記ブレンドポリマー(A)100質量部に対し、下記の(B)成分を0.5~20質量部の範囲で含有し、かつ下記(A-1)成分の海相内に下記(A-2)成分の島相が分散されたアロイからなる、冷媒輸送用ホース。
(A-1)ポリアミド樹脂。
(A-2)ポリオレフィン系エラストマー。
(B)下記の式(1)に示す分子構造を一分子中に有する硫黄系化合物。
【化1】
[2] 前記最内層における(A-1)成分が、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、およびポリアミド1010からなる群から選ばれた少なくとも一つの脂肪族ポリアミド樹脂である、[1]に記載の冷媒輸送用ホース。
[3] 前記最内層において、(B)成分が、(A-1)成分の海相に偏在している、[1]または[2]に記載の冷媒輸送用ホース。
[4] さらに、前記最内層が下記の(C)成分を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の冷媒輸送用ホース。
(C)芳香族アミン化合物。
[5] 前記(C)成分が、2-メルカプトベンゾイミダゾールである、[4]に記載の冷媒輸送用ホース。
【発明の効果】
【0011】
本発明の冷媒輸送用ホースは、管状の最内層と、前記最内層の外周に設けられたゴム層とを備えており、前記最内層が、ポリアミド樹脂にポリオレフィン系エラストマーが分散されたアロイからなり、その最内層中に、前記式(1)に示す分子構造を一分子中に有する硫黄系化合物(一分子中にジフェニルスルフィド結合を有する化合物)が特定の割合で含有する。そのため、耐冷媒透過性、柔軟性等に優れるとともに、ホース最内層の加水分解劣化の防止性能に優れており、結果、従来の冷媒や水はもとより、R-1234yf冷媒のように酸性を帯びやすい冷媒に対しても良好に用いることができる。また、本発明の冷媒輸送用ホースは、前記最内層外周に設けられたゴム層により、耐屈曲性、耐水性、ホース強度等にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の冷媒輸送用ホースの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の一実施形態である冷媒輸送用ホース(以下、「本冷媒輸送用ホース」という)について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0014】
本冷媒輸送用ホースは、
図1に示すように、管状の最内層1と、前記最内層1の外周に設けられたゴム層2とを備えており、前記最内層1用のポリマーが、下記の(A-1)成分を主成分とする下記(A-1)成分および(A-2)成分からなるブレンドポリマー(A)である。ここで、前記ポリマーの「主成分」とは、ポリマー全体の50質量%以上であることを意味する。
そして、前記最内層1は、前記ブレンドポリマー(A)100質量部に対し、下記の(B)成分を0.5~20質量部の範囲で含有し、かつ下記(A-1)成分の海相内に下記(A-2)成分の島相が分散されたアロイからなる。
(A-1)ポリアミド樹脂。
(A-2)ポリオレフィン系エラストマー。
(B)下記の式(1)に示す分子構造を一分子中に有する硫黄系化合物。
【化2】
【0015】
前記最内層1用のポリマーとして用いられるポリアミド樹脂(A-1)としては、例えば、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド1010(PA1010)等の脂肪族ポリアミド樹脂や、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリアミド10T(PA10T)等の芳香族ポリアミド樹脂等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。なかでも、柔軟性、耐冷媒透過性により優れることから、脂肪族ポリアミド樹脂が好ましく、より好ましくは、PA46、PA6、PA66、PA610、PA612、PA1010が用いられ、さらに好ましくは、PA6、PA66が用いられる。
【0016】
前記最内層1用のポリマーには、前記ポリアミド樹脂(A-1)ととともに、ポリオレフィン系エラストマー(A-2)がブレンドされる。
そして、前記のように、ポリアミド樹脂(特に脂肪族ポリアミド樹脂)(A-1)の海相(マトリクス)内にポリオレフィン系エラストマー(A-2)の島相(ドメイン)が分散する、微細なアロイ構造をとるようにしている。そのため、ポリアミド樹脂による耐冷媒透過性が損なわれることなく、柔軟性、耐久性等の更なる向上効果が得られることとなる。
なお、このようなアロイ構造は、例えば、最内層1を走査電子顕微鏡(SEM)で観察することにより、確認することができる。
また、耐加水分解性向上の観点から、前記(A-1)の海相(マトリクス)に前記特定の硫黄系化合物(B)が偏在していることが好ましい。このように偏在していることは、例えば、エネルギー分散型X線分光法により、確認することができる。
【0017】
前記ポリオレフィン系エラストマー(A-2)としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、エチレン・ブテン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、イソプレンゴム(IR)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)、変性エチレン・ブテン共重合体、エチレン-エチルアクリルレート共重合体(EEA)、変性EEA、変性EPR、変性EPDM、アイオノマー、α-オレフィン共重合体、変性IR、変性SEBS、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合体、エチレン-アクリル酸変性体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体の酸変性物、ならびにそれらを主成分とする混合物等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0018】
そして、前記のような、ポリアミド樹脂(A-1)とポリオレフィン系エラストマー(A-2)とのブレンドポリマー(A)における、ポリアミド樹脂(A-1)とポリオレフィン系エラストマー(A-2)との含有割合は、質量比で、通常、(A-1)/(A-2)=50/50~99/1の範囲であり、(A-1)/(A-2)=50/50~90/10の範囲であることが、柔軟性、耐久性等の観点から好ましく、同様の観点から、より好ましくは、(A-1)/(A-2)=60/40~90/10の範囲であり、さらに好ましくは、(A-1)/(A-2)=60/40~80/20の範囲である。
【0019】
また、前記最内層1には、前記ブレンドポリマー(A)100質量部に対し、下記の(B)成分が0.5~20質量部の割合で含有している。前記ブレンドポリマー(A)100質量部に対する下記の(B)成分の割合は、好ましくは0.5~10質量部の範囲であり、より好ましくは0.5~7.0質量部の範囲である。このような範囲で下記の(B)成分を含有すると、ブレンドポリマー中に(B)成分が十分に分散され、かつ成形加工性を損なうことがないため、良好な加水分解防止効果(耐加水分解性)を得ることができるからである。
(B)下記の式(1)に示す分子構造を一分子中に有する硫黄系化合物。
【0020】
【0021】
前記硫黄系化合物(B)は、前記の式(1)に示す分子構造を一分子中に有する化合物であれば、特に限定されるものではないが、加水分解防止作用等を良好に発現させる観点から、その融点が、30~350℃であることが好ましく、90~320℃であることがより好ましく、110~300℃であることがさらに好ましい。
【0022】
また、前記硫黄系化合物(B)は、加水分解防止作用等を良好に発現させる観点から、前記の式(1)に示す分子構造のベンゼン環に、水素原子の他、官能基のみが結合された構造の化合物であることが好ましい。前記官能基としては、ヒドロキシ基、炭素数1~18のアルキル基(好ましくは炭素数1~12のアルキル基、より好ましくは炭素数1~9のアルキル基)等があげられる。
【0023】
前記硫黄系化合物(B)は、具体的には、下記の化学式(2)に示すもの(4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール))が、好ましく用いられる。
【0024】
【0025】
前記のような硫黄系化合物(B)として、市販のものでは、大内新興化学工業社製のノクラック300が好ましいものとして用いることができる。
【0026】
なお、前記最内層1の形成材料には、前記硫黄系化合物(B)とともに、必要に応じて、芳香族アミン化合物(C)を配合することができる。このように、前記硫黄系化合物(B)とともに芳香族アミン化合物(C)を併用することにより、π-πスタッキング相互作用によって二次的な酸捕捉剤として働き、より良好な受酸効果が得られ、それによって加水分解防止効果等をより高めることができるようになる。
【0027】
前記芳香族アミン化合物(C)は、加水分解防止作用等を良好に発現させる観点から、その融点が、30~350℃であることが好ましく、90~320℃であることがより好ましく、110~300℃であることがさらに好ましい。
【0028】
前記芳香族アミン化合物(C)として、具体的には、N,N’-ジ-ナフチル-ρ-フェニレンジアミン、2-メルカプトベンゾイミダゾール、4,4'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、2,4-ジアミノ-6-[2-(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]-1,3,5-トリアジン、2-ウンデシルイミダゾール、スチレン化ジフェニルアミン、4,4',4"-トリス(N,N-フェニル-m-トリルアミノ)トリフェニルアミン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4'-(1,3-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、α,α'-ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
なかでも、より良好な加水分解防止効果等を得る観点から、N,N’-ジ-ナフチル-ρ-フェニレンジアミン、2-メルカプトベンゾイミダゾール、4,4'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンが好ましく、とりわけ、N,N’-ジ-ナフチル-ρ-フェニレンジアミンが適している。また、柔軟性等の観点からは、2-メルカプトベンゾイミダゾールが適している。
【0029】
前記のような芳香族アミン化合物として、市販のものでは、大内新興化学工業社製のノクラックwhite、ノクラックCD、ノクラックMBを、好ましいものとして用いることができる。
【0030】
そして、最内層1には、前記ブレンドポリマー(A)100質量部に対し、前記芳香族アミン化合物(C)が、0.1~10質量部の割合で含有していることが好ましく、0.5~5質量部の割合で含有していることがより好ましく、1~5質量部の割合で含有していることがさらに好ましい。すなわち、このような範囲で前記芳香族アミン化合物(C)を含有すると、ブレンドポリマー中に(C)成分が十分に分散および成形加工性を損なうことなく、良好な加水分解防止効果を得ることができるからである。
【0031】
なお、前記最内層1の形成材料には、前記各材料の他、必要に応じて、充填剤、可塑剤、老化防止剤等の添加剤を適宜に配合することができる。
【0032】
前記最内層1外周に設けられたゴム層2を形成する材料としては、例えば、ブチルゴム(IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl-IIR),臭素化ブチルゴム(Br-IIR)等のハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、フッ素ゴム(FKM)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、アクリルゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム(CPE)、ウレタンゴム等のゴムが、単独であるいは二種以上併せて用いられる。また、前記ゴムの他、架橋剤(加硫剤)、カーボンブラック等が適宜に配合される。
【0033】
特に、前記ゴム層2が、過酸化物架橋剤を含有するゴム組成物からなることが、最内層1との層間接着性により優れるようになるため、好ましい。なお、前記最内層1とゴム層2との層間には、適宜に接着剤を塗布してもよい。
【0034】
前記ゴム層2は、
図1では単層構造であるが、二層以上の積層構造であってもよい。そして、前記ゴム層2を二層以上とする場合、各層を形成するゴム組成物は、同じであっても、異なっていてもよい。また、二層以上のゴム層の層間には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN),アラミド,ポリアミド(ナイロン),ポリビニルアルコール(ビニロン),レーヨン,金属ワイヤ等の補強糸を、スパイラル編組,ニット編組,ブレード編組等によって編組することにより形成される補強層を設けてもよい。
【0035】
ここで、前記
図1に示すような、本冷媒輸送用ホースは、例えばつぎのようにして作製することができる。すなわち、まず、先に述べた最内層1形成用の各材料を150℃~350℃で溶融混合し、最内層1形成用の樹脂組成物を調製する。また、ゴム層2用材料も準備する。つぎに、前記最内層1形成用の樹脂組成物とゴム層2用材料とをホース状に共押出成形する。この時、マンドレルを用いても差し支えない。また、先に最内層1形成用の樹脂組成物をホース状に押出成形した後、ゴム層2を押出成形してもよい。そして、これを所定の条件(好ましくは、170℃で30~60分)で加硫した後、マンドレルを抜き取る。このようにして、目的とする層構造の冷媒輸送用ホースを作製することができる。
【0036】
本冷媒輸送用ホースにおいて、ホース内径は5~40mmの範囲が好ましい。また、前記最内層1の厚みは、0.05~0.50mmの範囲が好ましく、特に好ましくは0.10~0.20mmの範囲である。すなわち、前記最内層1の厚みが薄すぎると、所望の耐冷媒透過性が得にくくなり、前記最内層1の厚みが厚すぎると、振動吸収性が悪化するおそれがあるからである。一方、前記ゴム層2の厚みは、耐圧性の観点から、通常1~39mmの範囲に設定される。
【0037】
本冷媒輸送用ホースは、R-1234yf冷媒のように酸性を帯びやすい冷媒をはじめ、エアコン・ラジエター等に用いられる二酸化炭素,フロン,代替フロン,プロパン,水等の冷媒の輸送用ホースに好適に用いられる。そして、前記冷媒輸送用ホースは、自動車用のみならず、その他の輸送機械(飛行機,フォークリフト,ショベルカー,クレーン等の産業用輸送車両、鉄道車両等)や自動販売機等にも好ましく用いられる。
【実施例0038】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
まず、実施例および比較例に先立ち、最内層材料として、下記に示す材料を準備した。
【0040】
〔ポリアミド樹脂1〕
ポリアミド6(CM1017、東レ社製)
【0041】
〔ポリアミド樹脂2〕
ポリアミド66(レオナ1700S、旭化成社製)
【0042】
〔エラストマー〕
ポリオレフィン系エラストマー(タフマーMH7010、三井化学社製)
【0043】
〔硫黄系化合物1〕
4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール)(ノクラック300、融点:155℃、大内新興化学工業社製)
【0044】
〔硫黄系化合物2〕
2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](Irganox-1035、BASF社製)
【0045】
〔芳香族アミン化合物1〕
N,N’-ジ-ナフチル-ρ-フェニレンジアミン(ノクラックwhite、融点:225℃、大内新興化学工業社製)
【0046】
〔芳香族アミン化合物2〕
2-メルカプトベンゾイミダゾール(ノクラックMB、融点:285℃、大内新興化学工業社製)
【0047】
[実施例1~7、比較例1~4]
後記の表1に示す各材料(最内層材料)を、後記の表1に示す割合で、260℃で溶融混合し、最内層形成用のポリアミド樹脂組成物を調製した。つぎに、樹脂製のマンドレル(外径8mm)上に、最内層形成用のポリアミド樹脂組成物の溶融押出成形を行った。このようにして形成された最内層(厚み0.2mm)の外周面に、過酸化物架橋剤を含有するEPDMの押出成形を行い、熱架橋させて、ゴム層(厚み0.5mm)の形成を行った。そして、前記熱架橋後、この積層ホース体からマンドレルを抜き取り、長尺の成形品を切断することにより、目的とする冷媒輸送用ホースを作製した(
図1参照)。
【0048】
このようにして得られた、実施例および比較例の冷媒輸送用ホースに関して、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表1に併せて示した。
【0049】
<耐加水分解性>
オイル(ダフニーハーメチックオイル、出光興産社製)45gに450μlの水を加えた混合液(濃度10000ppm)中に、実施例および比較例の各ホースの最内層から採取した試験片(DIN 53504-S3Aダンベル)を投入した。続いて、前記試験片が投入された混合液中に、低温(-35℃)で30秒間真空引きを実施し、代替フロンガス(R-1234yf)60gを加えた後、前記試験片が投入された混合液を、140℃のオーブンに72時間静置した。その後、前記混合液から取り出した試験片に対し、JIS K 6251に準拠して、雰囲気温度23℃、引張速度200mm/分で引張試験を実施し、試験片が破断した時の引張伸び(%)を測定した。
そして、実施例1の引張伸び(%)を指数表記で100とし、各引張伸び(%)の値を指数に換算した。
耐加水分解性の評価として、下記の基準に沿って評価した。
○ 前記指数の値が70以上。
× 前記指数の値が70未満。
【0050】
<柔軟性>
実施例および比較例の各ホースの最内層材料の射出成形により、厚み6.4mm、幅1.27mm、長さ127mmの曲げ評価用テストピースを作製した。そのテストピースに対し、ASTM D790に準拠して、曲げ弾性率(MPa)の測定を行った。
そして、実施例1の曲げ弾性率を指数表記で100とし、各曲げ弾性率(MPa)の値を指数に換算した。
柔軟性の評価として、下記の基準に沿って評価した。
○ 前記指数の値が170以下。
× 前記指数の値が170超過。
【0051】
【0052】
前記表1の結果から、実施例のホースは、いずれも、耐加水分解性、柔軟性に優れていることがわかる。なお、実施例1~7のホースの最内層を走査電子顕微鏡(SEM)で観察すると、ポリアミド樹脂を海相(マトリクス)とし、エラストマーを島相(ドメイン)とするアロイからなるものであることが確認された。また、走査電子顕微鏡およびエネルギー分散型X線分光法により前記海相および島相を調べたところ、実施例1~7においては、前記海相に硫黄系化合物1が偏在していることが確認された。
【0053】
これに対し、比較例のホースは、耐加水分解性に劣る結果となった。
本発明の冷媒輸送用ホースは、R-1234yf冷媒のように酸性を帯びやすい冷媒をはじめ、エアコン・ラジエター等に用いられる二酸化炭素,フロン,代替フロン,プロパン,水等の冷媒の輸送用ホースに好適に用いられる。そして、前記冷媒輸送用ホースは、自動車用のみならず、その他の輸送機械(飛行機,フォークリフト,ショベルカー,クレーン等の産業用輸送車両、鉄道車両等)や自動販売機等にも好ましく用いられる。