(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002006
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】板ガラスの製造方法、板ガラスの製造装置、及び板ガラス
(51)【国際特許分類】
C03B 33/02 20060101AFI20221227BHJP
B28D 5/00 20060101ALI20221227BHJP
B26F 3/00 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C03B33/02
B28D5/00 Z
B26F3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021102975
(22)【出願日】2021-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥 隼人
【テーマコード(参考)】
3C060
3C069
4G015
【Fターム(参考)】
3C060AA08
3C060CB03
3C060CB14
3C060CB15
3C069AA03
3C069BA01
3C069BB01
3C069BC01
3C069CA11
3C069CB01
3C069EA01
4G015FA03
4G015FA04
4G015FB01
4G015FC01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】折割の品質を向上させた板ガラスの製造方法、製造装置および板ガラスを提供する。
【解決手段】縦姿勢の板ガラスGをスクライブ線Sに沿って折り割る折割工程を備えた板ガラスの製造方法であって、板ガラスGには、第一領域G1と第二領域G2とが幅方向に隣接して配列され、スクライブ線Sは、第一領域G1と第二領域G2との境界部且つ板ガラスGの表面G1a、G2a側に形成され、折割工程では、第一領域G1を板ガラスの裏面G1b側から裏面支持部材3で接触支持しながら第二領域G2を裏面G2b側から吸着機構6により吸着保持させた状態で、第二領域G2に裏面G2b側に向かう力を作用させることで、第二領域G2を切り出すと共に、スクライブ線Sの端部を起点として、クラックを伸展させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦姿勢の板ガラスをスクライブ線に沿って折り割る折割工程を備えた板ガラスの製造方法であって、
前記板ガラスには、第一領域と第二領域とが幅方向に隣接して配列され、
前記スクライブ線は、前記第一領域と前記第二領域との境界部且つ前記板ガラスの表面側に形成され、
前記折割工程では、前記第一領域を前記板ガラスの裏面側から裏面支持部材で接触支持しながら前記第二領域を前記裏面側から吸着機構により吸着保持した状態で、前記第二領域に前記裏面側に向かう力を作用させることで、前記第二領域を切り出すと共に、
前記スクライブ線の端部を起点として、クラックを伸展させることを特徴とする板ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記吸着機構は、前記スクライブ線に沿って並べて配置された複数の吸着部材を備え、
前記折割工程では、前記第二領域を前記裏面側から前記吸着部材により吸着保持することで、前記第二領域のうちの前記起点とする高さ位置を前記表面側に突出させることを特徴とする請求項1に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記板ガラスは、把持機構により上端部を保持され、
前記スクライブ線は、上下方向に伸び、
複数の前記吸着部材のうち、上側に位置する前記吸着部材から順に吸着を開始することを特徴とする請求項2に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項4】
複数の前記吸着部材のうち、前記表面側に突出する前記端部側の前記吸着部材の吸着圧力が他の前記吸着部材より低いことを特徴とする請求項2又は3に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記折割工程では、前記第一領域と前記裏面支持部材とを接触させることで、前記第一領域のうちの前記起点とする高さ位置を前記表面側に突出させることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の板ガラスの製造方法。
【請求項6】
縦姿勢の板ガラスをスクライブ線に沿って折り割る折割装置を備える板ガラスの製造装置であって、
前記板ガラスには、第一領域と第二領域とが幅方向に隣接して配列され、
前記スクライブ線は、前記第一領域と前記第二領域との境界部且つ前記板ガラスの表面側に形成され、
前記折割装置は、前記第一領域を前記板ガラスの裏面側から接触支持する裏面支持部材と、前記第二領域を前記裏面側から吸着保持する吸着機構と、前記第二領域に前記裏面側に向かう力を作用させる押込部材とを備え、
前記折割装置は、前記スクライブ線の端部を起点として、クラックを伸展させるように構成されていることを特徴とする板ガラスの製造装置。
【請求項7】
板引き方向に延びる2つの第一端面と、板引き方向に交差する幅方向に延びる2つの第二端面を有する矩形状の板ガラスであって、
少なくとも1つの前記第一端面は、折り割りによって形成された切断面であり、スクライブ線痕を有し、
折り割りの起点が前記スクライブ線痕の端部に位置することを特徴とする板ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板ガラスの製造方法、板ガラスの製造装置、及び板ガラスの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、板ガラスは、ディスプレイ(例えば液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等)及び有機EL照明において、基板やカバーとして利用されている。この種の板ガラスを製造する際には、ガラスリボンから所定長さの板ガラスを順々に切り出す工程や、板ガラスの辺に沿う不要領域を除去する工程等が実行される。これらの工程では、ガラスリボンや板ガラスにスクライブ線を形成した後、それらをスクライブ線に沿って折り割る。
【0003】
折割により板ガラスを得る方法の具体例としては、特許文献1に開示された方法が挙げられる。同文献に開示の方法は、板ガラスの幅方向に隣接して配列された第一領域と第二領域との境界部且つ板ガラスの表面側にスクライブ線を形成する。そして、第一領域を裏面側から裏面支持部材により接触支持させた状態で、第二領域を転動体で裏面側に押し込む。これにより、板ガラスに曲げ応力を作用させ、スクライブ線に沿って折り割り、第二領域を切り出す。この時の折割は、板ガラスを縦姿勢で支持して行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法で板ガラスに曲げ応力を作用させる際に、スクライブ線には不均一な曲げ応力が作用する。板ガラスには、縦断面の形状において反りが不可避的に発生し、この反りの形状や大きさは板ガラス1枚毎に変化する。この反りは、板ガラスの厚みが500μm以下であると特に顕著となる。このような板ガラスを特許文献1に記載の方法で折り割ると、板ガラスの反りの形状の変化に起因して折割時に伸展するクラックの起点の位置が変化し、スクライブ線の中間部からクラックが伸展する場合がある。この場合、折割位置がずれたり、板ガラスが破損したり、チッピング(折割端面の不当な欠け)が発生したり、ガラス粉が過剰に発生したりし、折割の品質が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、板ガラスの折割の品質を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく創案された本発明は、縦姿勢の板ガラスをスクライブ線に沿って折り割る折割工程を備えた板ガラスの製造方法であって、前記板ガラスには、第一領域と第二領域とが幅方向に隣接して配列され、前記スクライブ線は、前記第一領域と前記第二領域との境界部且つ前記板ガラスの表面側に形成され、前記折割工程では、前記第一領域を前記板ガラスの裏面側から裏面支持部材で接触支持しながら前記第二領域を前記裏面側から吸着機構により吸着保持した状態で、前記第二領域に前記裏面側に向かう力を作用させることで、前記第二領域を切り出すと共に、前記スクライブ線の端部を起点として、クラックを伸展させることを特徴とする。スクライブ線の端部のクラックを起点としてクラックを伸展させることにより、板ガラスの破損やチッピング、ガラス粉の過剰な発生等を抑制でき、折割の品質を向上できる。
【0008】
上記の構成において、前記吸着機構は、前記スクライブ線に沿って並べて配置された複数の吸着部材を備え、前記折割工程では、前記第二領域を前記裏面側から前記吸着部材により吸着保持することで、前記第二領域のうちの前記起点とする高さ位置を前記表面側に突出させることが好ましい。本発明に係る折割工程では、板ガラスの表面側に突出したスクライブ線の端部に大きな曲げ応力が作用するので、スクライブ線の端部を起点に確実にクラックが伸展し、折割の品質を確実に向上できる。
【0009】
上記の構成において、記板ガラスは、把持機構により上端部を保持され、前記スクライブ線は、上下方向に伸び、複数の前記吸着部材のうち、上側に位置する前記吸着部材から順に吸着を開始することが好ましい。反りを有する板ガラスを複数の吸着部材で同時に吸着すると、反りを含んだ状態で板ガラスが吸着保持され、吸着保持された板ガラスの縦断面形状がばらつきやすい。一方、上側に位置する吸着部材から順に吸着を開始すると、吸着の過程で反りが矯正され、吸着保持された板ガラスの断面形状が安定する。このため、折割の品質をより確実に向上できる。
【0010】
上記の構成において、複数の前記吸着部材のうち、前記表面側に突出する前記端部側の前記吸着部材の吸着圧力が他の前記吸着部材より低いことが好ましい。ここで、吸着圧力は、大気圧から吸着部材内部の圧力を減算したものである。吸着部材(例えば吸着パッド)は、可撓性を有しているため、板ガラスを吸着する際に吸着部材の方向へ引き込むように変形する。吸着圧力が低い吸着部材は、吸着圧力が高い吸着部材よりも吸着部材側に引き込む量が少なく、板ガラスが表面側へ突出する。従って、上側又は下側に位置する吸着部材の吸着圧力を低くすることで、スクライブ線の端部を表面側に突出させることができる。
【0011】
上記の構成において、前記折割工程では、前記第一領域と前記裏面支持部材とを接触させることで、前記第一領域のうちの前記起点とする高さ位置を前記表面側に突出させることが好ましい。このような構成によれば、スクライブ線の端部のクラックを起点としてクラックを伸展させることにより、板ガラスの破損やチッピング、ガラス粉の過剰な発生等を抑制でき、折割の品質を向上できる。
【0012】
また、本発明に係る板ガラスの製造装置は、縦姿勢の板ガラスをスクライブ線に沿って折り割る折割装置を備える板ガラスの製造装置であって、前記板ガラスには、第一領域と第二領域とが幅方向に隣接して配列され、前記スクライブ線は、前記第一領域と前記第二領域との境界部且つ前記板ガラスの表面側に形成され、前記折割装置は、前記第一領域を前記板ガラスの裏面側から接触支持する裏面支持部材と、前記第二領域を前記裏面側から吸着保持する吸着機構と、前記第二領域に前記裏面側に向かう力を作用させる押込部材とを備えると共に、前記スクライブ線の端部を起点として、クラックを伸展させるように構成されていることを特徴とする。このような構成によれば、この製造装置と実質的に構成が同一である既述の製造方法と同一の作用効果を得ることができる。
【0013】
また、本発明に係る板ガラスは、板引き方向に延びる2つの第一端面と、板引き方向に交差する幅方向に延びる2つの第二端面を有する矩形状の板ガラスであって、少なくとも1つの前記第一端面は、折割によって形成された切断面であり、スクライブ線痕を有し、折割の起点が前記スクライブ線痕の端部に位置することを特徴とする。
【0014】
折割によって形成された切断面は、折割の起点に近いほどリブマークの間隔が狭い。リブマークは、クラックの進行方向に垂直に形成された円弧状の波模様であり、リブマークが多数存在する領域に引張応力が作用すると、リブマークを起点としてクラックが進展し、板ガラスが破損することがある。
【0015】
板ガラスを用いてディスプレイ及び有機EL照明の基板やカバーを製造する際に、板ガラスを縦姿勢で搬送することがある。詳述すると、搬送装置のチャック機構によって、縦姿勢の板ガラスの上部を挟持し、板ガラスを吊り下げた状態で搬送する。このように搬送する場合、板ガラスは空気抵抗や慣性力等の影響を受けて振り子のように揺れ易い。揺れが大きくなると、揺れにより湾曲した部位に引張応力が作用し、板ガラスが破損する虞がある。
【0016】
縦姿勢で搬送される板ガラスのうち、スクライブ線痕の上端部と同じ高さの領域は、チャック機構によって挟持されているため、板ガラスが揺れても湾曲しにくい。また、縦姿勢で搬送される板ガラスのうち、スクライブ線痕の下端部と同じ高さの領域は、挟持されず自由な状態であるため、板ガラスが揺れても湾曲しにくい。このため、折割の起点がスクライブ線痕の端部にあることで、折割の起点を含む領域は湾曲しにくく、引張応力が掛かりにくい。従って、このような構成を有する板ガラスは、縦姿勢で搬送する際に破損しにくい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スクライブ線の端部を起点にクラックを伸展させることにより、折割の品質を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の第一の実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる折割装置を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の第一の実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる折割装置の作用を示す斜視図である。
【
図5】
図5(a)、(b)、(c)は、本発明の第一の実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる折割装置を用いて板ガラスを折り割る手順を示す上面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第一の実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる折割装置を示す上面図である。
【
図7】
図7は、本発明の第二の実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる折割装置の作用を示す斜視図である。
【
図9】
図9(a)、(b)、(c)は、本発明の第二の実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる折割装置を用いて板ガラスを折り割る手順を示す上面図である。
【
図10】
図10は、本発明の第三の実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる折割装置の作用を示す斜視図である。
【
図13】
図13(a)、(b)、(c)は、本発明の第三の実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる折割装置を用いて板ガラスを折り割る手順を示す上面図である。
【
図14】
図14は、本発明の第四の実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる折割装置の作用を示す斜視図である。
【
図17】
図17(a)、(b)、(c)は、本発明の第四の実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる折割装置を用いて板ガラスを折り割る手順を示す上面図である。
【
図18】
図18は、本発明の一実施形態に係る板ガラスを示す斜視図である。
【
図19】
図19は、本発明の一実施形態に係る板ガラスの端面を示す斜視図である。
【
図20】
図20は、本発明の一実施形態に係る板ガラスの端面を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に従って、本発明に係る板ガラスの製造方法、板ガラスの製造装置、及び板ガラスの一実施形態について説明する。
【0020】
(第一実施形態)
図1に、本実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる折割装置1及び板ガラスGを示す。板ガラスGは、幅方向に隣接して配列された第一領域G1と第二領域G2とを有する。第一領域G1は、板ガラスGの製品になる領域であり、全域にわたって板厚が均等である。第二領域G2は、板ガラスGから切り出されて廃棄される領域であり、幅方向の先端部(図例では左側の先端部)に第一領域G1よりも板厚が厚い耳部Geを有する。第一領域G1と第二領域G2との境界部には、スクライブ線Sが表面G1a、G2a側に形成されている。図例では、スクライブ線Sは、板ガラスGの上端面及び下端面に到達していない。なお、スクライブ線Sは、板ガラスGの上端面及び下端面に到達していてもよい。以下の説明では、便宜上、第一領域G1を有効領域といい、第二領域G2を不要領域という。
【0021】
板ガラスGは、スクライブ線Sが上下方向を向くように縦姿勢で吊り下げ支持されている。板ガラスGの厚み(耳部Geを除く領域の板厚)は、例えば50~2000μmである。板ガラスGが可撓性に富むと共に縦断面における反りが顕著となり、本発明の効果が増大することから、板ガラスGの厚みは、好ましくは50~500μmであり、より好ましくは50~400μmである。反りの具体的な形状は、板ガラスGの表面G1a、G2aにおけるスクライブ線S及びこれと平行な任意の仮想直線が湾曲する形状である。また、この反りの形状は一様でなく、製造装置や製造条件、時間経過によって変化する。
【0022】
板ガラスGは、例えば、以下の手順によって得ることができる。
(1)オーバーフローダウンドロー法によってガラスリボンを成形する。
(2)成形されたガラスリボンを徐冷する。
(3)徐冷されたガラスリボンを幅方向に折り割り、切断することにより、ガラスリボンから板ガラスGを切り出す。
【0023】
上記のようにオーバーフローダウンドロー法で成形されたガラスリボンから板ガラスGを得ると、表面G1a、G2a及び裏面G1b、G2bがいずれも火造り面となり、表面性状に優れる。この場合、図示を省略するが、上下方向(板引き方向)に伸びる筋状の縞模様が板ガラスGの表面G1a、G2a及び裏面G1b、G2bに形成されている。また、板ガラスGの上端面及び下端面は、いずれも折割によって形成された切断面となる。
【0024】
折割後の板ガラスGのサイズは、例えば1800mm×2000mm以上であり、好ましくは2200mm×2500mm以上であり、より好ましくは2600mm×3000mm以上、さらに好ましくは2900mm×3300mm以上である。
【0025】
板ガラスGの組成としては、例えば無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス(ソーダライムガラス)、高シリカガラス、その他の酸化ケイ素を主な成分とする酸化物系ガラス等が挙げられる。板ガラスGは化学強化用ガラスであってもよく、この場合、アルミノシリケートガラスを用いることができる。
【0026】
折割装置1は、不要領域G2を除去するために板ガラスGをスクライブ線Sに沿って折り割る。詳述すると、折割装置1は、有効領域G1の上端部を把持する把持機構2と、有効領域G1の裏面G1b側に配置された裏面支持部材3と、有効領域G1の表面G1a側で裏面支持部材3と対向して配置された押え部材4と、不要領域G2の裏面G2b側に配置された吸着機構6と、不要領域G2の表面G2a側で吸着機構6と対向して配置された押込部材5とを備える。
【0027】
把持機構2は、一対の把持片21と、この一対の把持片21を互いに接近及び離反させる駆動部22とを有する。駆動部22の構成は、図示例のものに限定されない。一対の把持片21は、互いに接近して閉状態になることで有効領域G1の上端部を把持し、互いに離反して開状態になることで有効領域G1の上端部の把持を解除する。
【0028】
把持機構2は、板ガラスGの上方で幅方向に沿って延びるレール(図示略)にスライド可能に保持され、板ガラスGを折割位置に搬入及び搬出する役割を果たす。折割位置で板ガラスGを折り割る際には、把持機構2は、有効領域G1の上端部を把持したままで停止した状態になる。この場合、板ガラスGの下端部は、保持されずに自由な状態である。なお、把持機構2は、有効領域G1の上端部における幅方向の複数箇所(この実施形態では二箇所(一箇所は図示略))を把持している。
【0029】
裏面支持部材3は、板ガラスGの折割時に有効領域G1を裏面G1b側から接触支持する。裏面支持部材3は、エアシリンダ等の流体圧シリンダやボールねじ機構或いはロボットアーム等の駆動手段(図示略)の動作によって、有効領域G1の裏面G1bに対して接近移動及び離反移動する。裏面支持部材3は、上下方向に長尺な柱状体又は板状体である。裏面支持部材3は、スクライブ線Sに沿って配置され、裏面支持部材3とスクライブ線Sとの幅方向の離間距離(裏面支持部材3が有効領域G1に接触した場合の離間距離)は、好ましくは10~30mmであり、より好ましくは10~20mmである。図例では、裏面支持部材3は、有効領域G1の上端面及び下端面から延び出しているが、有効領域G1の上端面及び下端面から延び出していなくてもよい。
【0030】
押え部材4は、板ガラスGの折割時に有効領域G1を裏面支持部材3に押し付ける。押え部材4は、エアシリンダ等の流体圧シリンダやボールねじ機構或いはロボットアーム等の駆動手段(図示略)の動作によって、有効領域G1の表面G1aに対して接近移動及び離反移動する。この実施形態では、押え部材4は、上下方向に長尺な柱状体又は板状体である。図例では、押え部材4は、有効領域G1の上端面及び下端面から延び出しているが、有効領域G1の上端面及び下端面から延び出していなくてもよい。
【0031】
図2は、
図1のB―B位置の断面図である。吸着機構6は、上下方向に長尺な保持基体61と、保持基体61に取り付けられた複数の吸着部材62とを備える。保持基体61は、ロボットアーム等の駆動手段(図示略)の動作によって回転しながら移動(例えば
図1に示す矢印A方向に回転しながら移動)する。吸着部材62は、例えば不要領域G2の裏面G2bを負圧により吸着保持する吸着パッドであり、ゴムや樹脂等の弾性部材で形成されている。吸着部材62は、上下方向に沿って並べて保持基体61に取り付けられている。本実施形態では、3つの吸着部材62が取り付けられているが、これに限定されない。2つ又は4つ以上の吸着部材62を使用しても良い。
【0032】
押込部材5は、不要領域G2の表面G2aに接触する平面部51を有しており、この実施形態では上下方向に長尺な板状をなす。押込部材5は、ロボットアーム等の駆動手段(図示略)の動作によって回転しながら移動(例えば
図1に示す矢印A方向に回転しながら移動)することで、不要領域G2に裏面G2b側に向かう押込み力を作用させる。図例では、押込部材5は、不要領域G2の上端面及び下端面から延び出しているが、不要領域G2の上端面及び下端面から延び出していなくてもよい。
【0033】
次に、第一実施形態に係る製造装置を用いた板ガラスの製造方法を説明する。
【0034】
まず、
図1に示す位置よりも上流側の工程において、板ガラスGを把持機構2により吊り下げ支持した状態で、ホイールカッターによる押圧やレーザーの照射等により、板ガラスGの表面G1a、G2a側にスクライブ線Sを形成する。詳しくは、板ガラスGの有効領域G1と不要領域G2との境界部にスクライブ線Sを形成する。次に、スクライブ線Sが形成された板ガラスGを把持機構2により吊り下げ支持した状態のまま幅方向に搬送することで、板ガラスGを
図1に示す折割位置に到達させる。この時点では、押え部材4及び裏面支持部材3は、有効領域G1の表面G1a及び裏面G1bからそれぞれ離れており、押込部材5及び吸着機構6も、不要領域G2の表面G2a及び裏面G2bからそれぞれ離れている。この状態の下では、板ガラスGに縦断面の形状において反りが発生している。
【0035】
この後、裏面支持部材3が有効領域G1に向かって移動すると共に、押え部材4も有効領域G1に向かって移動する。
図3に示すように、裏面支持部材3及び押え部材4の移動が完了した時点で、有効領域G1は裏面支持部材3及び押え部材4によって挟まれた状態で、裏面支持部材3に支持される。また、吸着機構6が不要領域G2に向かって移動し、吸着部材62が不要領域G2の裏面G2bに接触する。
【0036】
図4に示すように、吸着部材62が不要領域G2に接触すると、最上部に位置する吸着部材621が吸着を開始する。所定時間が経過した後、上から二番目に位置する吸着部材622が吸着を開始する。さらに所定時間が経過した後、上から三番目に位置する吸着部材623が吸着を開始する。ここで、反りを有する板ガラスGを複数の吸着部材621~623で同時に吸着すると、吸着された板ガラスGの縦断面形状に反りを含み、吸着保持された板ガラスGの縦断面形状がばらつきやすい。一方、上述のように吸着部材621~623で上から順に吸着すると、吸着の過程で反りが矯正され、吸着保持された板ガラスGの断面形状が安定する。本実施形態では、3つの吸着部材62を使用したが、2つ又は4つ以上の吸着部材62を使用した場合でも、上側に位置する吸着部材62から順に吸着を行うことで、同様の効果が得られる。
【0037】
吸着部材62が板ガラスGを吸着する際の吸着圧力は、吸着部材62が板ガラスGの縦方向上側に位置するほど低く設定されている。ここで、吸着圧力は、大気圧から吸着部材62内部の圧力を減算したものである。これにより、不要領域G2は、高さ位置がスクライブ線Sの上端部と同じである領域(以下、「不要領域G2の上端領域G2U」ともいう)が、高さ位置がスクライブ線Sの中間部又は下端部と同じである領域よりも、表面G2a側に突出する。不要領域G2の上端領域G2Uの突出量D2Uは、例えば10~300mmであり、好ましくは30~100mmである。これにより、スクライブ線Sの上端部を確実に折割の起点とすることができると共に、折割時の板ガラスGの破損を確実に防止できる。
【0038】
図5(a)、(b)、(c)は、この後に板ガラスGを折り割る手順を示す折割装置の上面図である。
図5(a)は、折割工程の初期段階における態様を示し、不要領域G2は、上端領域G2Uが表面G2a側に突出する形状とされている。この状態から、押込部材5を移動させることにより、
図5(a)に示すように押込部材5が不要領域G2に接触する。押込部材5の移動を継続すると、
図5(b)に示すように、不要領域G2は、裏面支持部材3を支点として裏面G2b側に曲げられていく。その際、押込部材5の移動に伴って押込部材5が回転する。これに応じて吸着機構6は矢印A方向に移動しながら回転する。なお、吸着機構6は、不要領域G2に裏面G2b側に向かう引き込み力を実質的に作用させない。この過程で、スクライブ線Sを中心に幅方向の湾曲変形が生じ、これに起因してスクライブ線Sに曲げ応力が作用する。また、不要領域G2の上端領域G2Uが表面G2a側に突出しているため、スクライブ線Sの上端部に最も大きな曲げ応力が作用する。この後、押込部材5のさらなる移動に伴い、スクライブ線Sの上端部に作用する曲げ応力が十分に大きくなった時点で、スクライブ線Sの上端部を起点にクラックが厚み方向及びスクライブ線Sの方向に伸展する。このようにしてスクライブ線S全体でクラックが伸展することで、
図5(c)に示すように、板ガラスGがスクライブ線Sに沿って折り割られる。板ガラスGが折り割られて不要領域G2が切り出された後は、不要領域G2は吸着機構6により把持された状態で退避位置まで搬送され、その後、吸着機構6による把持が解除されて落下回収される。
【0039】
以上の折割装置1及び折割工程では、板ガラスGの幅方向一端部の不要領域G2を対象にして説明したが、不要領域G2は、板ガラスGの幅方向両端部にそれぞれ形成されるのが通例である。この板ガラスGに対して不要領域G2を除去するための折割を行うには、以下に示すような構成が採用される。すなわち、
図6に示すように、この板ガラスGは、幅方向中央側領域が有効領域G1で且つその幅方向両側が不要領域G2である。有効領域G1と各不要領域G2との二つの境界部には、スクライブ線Sがそれぞれ形成されている。この二本のスクライブ線Sに沿う板ガラスGの折割は、各不要領域G2にそれぞれ対応して配置された折割装置1によって行われる。この二つの折割装置1は、いずれも、有効領域G1の表面G1a側及び裏面G1b側にそれぞれ配置される押え部材4及び裏面支持部材3と、不要領域G2の表面G2a側及び裏面G2b側にそれぞれ配置される押込部材5及び吸着機構6とを有する。押込部材5及び吸着機構6は、二箇所のいずれもが、矢印A方向に回転及び移動する構成とされる。二つの折割装置1の詳細な構成は、既述の折割装置1と同一である。この場合、二つの折割装置1による折割は同時に行われてもよく、或いは一方の折割装置1による折割が完了した後に他方の折割装置1による折割が行われてもよい。また、これとは別に、一方の折割装置1と他方の折割装置1とを、板ガラスGの幅方向の長さよりも長い距離を隔てて配置し、一方の不要領域G2を一方の折割装置1により折り割って除去した後、板ガラスGを幅方向に移動させ、然る後、他方の不要領域G2を他方の折割装置1により折り割って除去するようにしてもよい。さらに、これとは別に、折割装置1を一つとして、一方の不要領域G2を当該折割装置1により折り割って除去した後、板ガラスGを平面視で180度回転させ、然る後、他方の不要領域G2を当該折割装置1により折り割って除去するようにしてもよい。
【0040】
(第二実施形態)
以下、本発明の第二実施形態に係る板ガラスの製造方法について説明する。なお、第二実施形態の説明では、上記の第一実施形態で説明済みの構成と実質的に同一の構成については、同一の符号を付すことで重複する説明を省略し、第一実施形態と相違する構成についてのみ説明する。
【0041】
第二実施形態に係る製造装置は、第一実施形態に係る製造装置と同一の構成を有するが、吸着部材62が板ガラスGを吸着する際の吸着圧力は、吸着部材62が板ガラスGの縦方向下側に位置するほど低く設定されている。これにより、第二実施形態では、スクライブ線Sの下端部を起点にクラックを伸展させる。
【0042】
図7及び
図8に示すように、不要領域G2は、高さ位置がスクライブ線Sの下端部と同じである領域(以下、「不要領域G2の下端領域G2L」ともいう)が、高さ位置がスクライブ線Sの中間部又は上端部と同じである領域よりも、表面G2a側に突出する。有効領域G2の下端領域G2Lの突出量D2Lは、好ましくは10~300mmであり、より好ましくは10~100mmである。
【0043】
図9(a)、(b)、(c)は、この後に板ガラスGを折り割る手順を示す折割装置の上面図である。
図9(a)は、折割工程の初期段階における態様を示し、不要領域G2は、下端領域G2Lが表面G2a側に突出する形状とされている。この状態から、押込部材5を移動させることにより、
図9(b)に示すように、不要領域G2は、裏面支持部材3を支点として裏面G2b側に曲げられていく。この過程で、スクライブ線Sを中心に幅方向の湾曲変形が生じ、これに起因してスクライブ線Sに曲げ応力が作用する。また、不要領域G2の下端領域G2Lが表面G2a側に突出しているため、スクライブ線Sの下端部に最も大きな曲げ応力が作用する。この後、押込部材5のさらなる移動に伴い、スクライブ線Sの下端部に作用する曲げ応力が十分に大きくなった時点で、スクライブ線Sの下端部を起点にクラックが厚み方向及びスクライブ線Sの方向に伸展する。このようにしてスクライブ線S全体でクラックが伸展することで、
図9(c)に示すように、板ガラスGがスクライブ線Sに沿って折り割られる。
【0044】
(第三実施形態)
以下、本発明の第三実施形態に係る板ガラスの製造方法、及び板ガラスの製造装置について説明する。なお、第三実施形態の説明では、上記の第一実施形態及び第二実施形態で説明済みの構成と実質的に同一の構成については、同一の符号を付すことで重複する説明を省略し、第一実施形態及び第二実施形態と相違する構成についてのみ説明する。
【0045】
図10は、第三実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる折割装置1を示す。第三実施形態に係る折割装置1は、第一実施形態に係る折割装置1と比べ、裏面支持部材3及び押え部材4の構成と、吸着部材62の吸着圧力の設定が相違する。
【0046】
図11は、
図10のE―E線に沿って切断した断面図である。押え部材4は、板ガラスG(有効領域G1)の表面G1aと対向する対向部位42の下端部に下側凸部43を有する。詳述すると、押え部材4は、柱状又は板状の支持基材41を有する。支持基材41の表面部には、表面が湾曲形状をなす下側凸部43が固設されている。下側凸部43の表面は、支持基材41から突出する長さが、下側から上側にかけて漸次短くなるように滑らかに湾曲している。なお、下側凸部43の表面は、傾斜面でもよい。
【0047】
下側凸部43は、有効領域G1の上端部を把持する把持片21と上下方向で重複しない位置に配設されている。すなわち、下側凸部43の上端43Uは、把持片21の下端21Lよりも下方に位置している。下側凸部43は、板ガラスG及び支持基材41よりも軟質で且つ弾力性又は緩衝性に優れており、例えば、プラスチック段ボールやパロニア(登録商標)に代表される多孔質樹脂又は発泡樹脂、FCナイロン(登録商標)等で形成されている。支持基材41及び下側凸部43の表面には、それらを覆う一枚の覆設シート44が貼り付けられている。この覆設シート44、下側凸部43よりも軟質であり、例えば、スポンジ或いは低反発スポンジに代表される多孔質樹脂又は発泡樹脂等で形成されている。
【0048】
裏面支持部材3は、板ガラスG(有効領域G1)の裏面G1bと対向する対向部位32の上端部に上側凸部33を有する。詳述すると、裏面支持部材3は、柱状又は板状の支持基材31を有する。支持基材31の表面部には、上側凸部33が固設されている。上側凸部33の表面は、支持基材31から突出する長さが、上側から下側にかけて漸次短くなるように滑らかに湾曲している。なお、支持基材31の表面部は、湾曲面でもよい。
【0049】
上側凸部33は、有効領域G1の上端部を把持している把持片21と上下方向で重複する位置に配設されている。すなわち、上側凸部33の上端33Uは、把持片21の上端21Uよりも上方に位置し、且つ、上側凸部33の下端33Lは、把持片21の下端21Lよりも下方に位置している。なお、上側凸部33は、把持片21と上下方向の一部のみで重複する位置に配設されていてもよい。この実施形態では、上側凸部33の上端33Uは、板ガラスGの上端から食み出しているが、食み出していなくてもよい。上側凸部33は、板ガラスG及び支持基材31よりも軟質で且つ弾力性又は緩衝性に優れており、例えば、プラスチック段ボールやパロニア(登録商標)に代表される多孔質樹脂又は発泡樹脂、FCナイロン(登録商標)等で形成されている。支持基材31及び上側凸部33の表面には、それらを覆う一枚の覆設シート34が貼り付けられている。この覆設シート34は、上側凸部33よりも軟質であり、例えば、スポンジ或いは低反発スポンジに代表される多孔質樹脂又は発泡樹脂等で形成されている。
【0050】
次に、第三実施形態に係る製造装置を用いた板ガラスの製造方法を説明する。
【0051】
第一実施形態と同様に、スクライブ線Sが形成された板ガラスGを折割位置に到達させた後、裏面支持部材3が有効領域G1に向かって移動すると共に、押え部材4も有効領域G1に向かって移動する。
図11に示すように、裏面支持部材3及び押え部材4の移動が完了した時点で、有効領域G1は裏面支持部材3及び押え部材4によって挟まれた状態で、裏面支持部材3に支持される。これにより、
図12に示すように有効領域G1は、高さ位置がスクライブ線Sの上端部と同じである領域(以下、「有効領域G1の上端領域G1U」ともいう)が、高さ位置がスクライブ線Sの中間部又は下端部と同じである領域よりも、表面G1a側に突出する。有効領域G1の上端領域G1Uの突出量D1Uは、好ましくは10~300mmであり、より好ましくは10~100mmである。また、吸着機構6が不要領域G2に向かって移動し、吸着部材62が不要領域G2の裏面G2bに接触する。
【0052】
図10に示すように、吸着部材62が不要領域G2に接触すると、第一実施形態と同様に上側に位置する吸着部材62から順に吸着を行う。複数の吸着部材62の吸着圧力は、等しく設定されている。このため、不要領域G2の上端領域G2Uが突出することなく、不要領域G2の表面G2aは鉛直面と略平行となる。
【0053】
図13(a)、(b)、(c)は、この後に板ガラスGを折り割る手順を示す折割装置の上面図である。
図13(a)は、折割工程の初期段階における態様を示し、有効領域G1は、上端領域G1Uが表面G1a側に突出する形状とされている。この状態から、押込部材5を移動させることにより、
図13(b)に示すように、不要領域G2は、裏面支持部材3を支点として裏面G2b側に曲げられていく。この過程で、スクライブ線Sを中心に幅方向の湾曲変形が生じ、これに起因してスクライブ線Sに曲げ応力が作用する。また、有効領域G1の上端領域G1Uが表面G1a側に突出しているため、スクライブ線Sの上端部に最も大きな曲げ応力が作用する。この後、押込部材5のさらなる移動に伴い、スクライブ線Sの上端部に作用する曲げ応力が十分に大きくなった時点で、スクライブ線Sの上端部を起点にクラックが厚み方向及びスクライブ線Sの方向に伸展する。このようにしてスクライブ線S全体でクラックが伸展することで、
図13(c)に示すように、板ガラスGがスクライブ線Sに沿って折り割られる。
【0054】
(第四実施形態)
以下、本発明の第四実施形態に係る板ガラスの製造方法及び板ガラスの製造装置について説明する。なお、第四実施形態の説明では、上記の第一実施形態、第二実施形態、及び第三実施形態で説明済みの構成と実質的に同一の構成については、同一の符号を付すことで重複する説明を省略し、第一実施形態、第二実施形態、及び第三実施形態との相違する構成についてのみ説明する。
【0055】
図14は、第四実施形態に係る板ガラスの製造装置に含まれる折割装置1を示す。第四実施形態に係る折割装置1は、第三実施形態に係る折割装置1と比べ、裏面支持部材3及び押え部材4の構成が相違する。
【0056】
図15は、
図14のF―F線に沿って切断した断面図である。裏面支持部材3は、板ガラスG(有効領域G1)の裏面G1bと対向する対向部位32の下端部に下側凸部35を有する。詳述すると、裏面支持部材3は、柱状又は板状の支持基材31を有する。支持基材31の表面部には、表面が湾曲形状をなす下側凸部35が固設されている。下側凸部35は、第三実施形態における押え部材4の下側凸部43と同様の材質及び形状を有する。
【0057】
押え部材4は、板ガラスG(有効領域G1)の表面G1aと対向する対向部位42の上端部に上側凸部45を有する。詳述すると、押え部材4は、柱状又は板状の支持基材41を有する。支持基材41の表面部には、表面が湾曲形状をなす上側凸部45が固設されている。上側凸部45は、第三実施形態における裏面支持部材3の上側凸部33と同様の材質及び形状を有する。
【0058】
次に、第四実施形態に係る製造装置を用いた板ガラスの製造方法を説明する。
【0059】
第一実施形態と同様に、スクライブ線Sが形成された板ガラスGを折割位置に到達させた後、裏面支持部材3が有効領域G1に向かって移動すると共に、押え部材4も有効領域G1に向かって移動する。
図15に示すように、裏面支持部材3及び押え部材4の移動が完了した時点で、有効領域G1は裏面支持部材3及び押え部材4によって挟まれた状態で、裏面支持部材3に支持される。これにより、
図16に示すように、有効領域G1は、高さ位置がスクライブ線Sの下端部と同じである領域(以下、「有効領域G1の下端領域G1L」ともいう)が、高さ位置がスクライブ線Sの中間部又は上端部と同じである領域よりも、表面G1a側に突出する。有効領域G1の下端領域G1Lの突出量D1Lは、好ましくは10~300mmであり、より好ましくは10~100mmである。また、吸着機構6が不要領域G2に向かって移動し、吸着部材62が不要領域G2の裏面G2bに接触する。
【0060】
図14に示すように、吸着部材62が不要領域G2に接触すると、第三実施形態と同様に吸着を行う。
【0061】
図17(a)、(b)、(c)は、この後に板ガラスGを折り割る手順を示す折割装置の上面図である。
図17(a)は、折割工程の初期段階における態様を示し、有効領域G1は、下端領域G1Lが表面G1a側に突出する形状とされている。この状態から、押込部材5を移動させることにより、
図17(b)に示すように、不要領域G2は、裏面支持部材3を支点として裏面G2b側に曲げられていく。この過程で、スクライブ線Sを中心に幅方向の湾曲変形が生じ、これに起因してスクライブ線Sに曲げ応力が作用する。また、有効領域G1の下端領域G1Lが表面G1a側に突出しているため、スクライブ線Sの上端部に最も大きな曲げ応力が作用する。この後、押込部材5のさらなる移動に伴い、スクライブ線Sの上端部に作用する曲げ応力が十分に大きくなった時点で、スクライブ線Sの下端部を起点にクラックが厚み方向及びスクライブ線Sの方向に伸展する。このようにしてスクライブ線S全体でクラックが伸展することで、
図17(c)に示すように、板ガラスGがスクライブ線Sに沿って折り割られる。
【0062】
以上のような板ガラスの製造装置、及びこれを用いた板ガラスの製造方法によれば、板ガラスの折割時に、スクライブ線の端部を表側に突出させることができる。これにより、スクライブ線の端部を起点にクラックを伸展させることで、折割の品質を向上できる。また、上側に位置する吸着部材から順に吸着を開始することで、吸着の過程で反りが矯正され、吸着保持された板ガラスの断面形状を安定させることができる。
【0063】
本発明により、折割の品質を向上できる理由、より具体的には、板ガラスの破損やチッピング、ガラス粉の過剰な発生等を抑制できる理由は、明確でない。本発明者が、第一実施形態によってスクライブ線の上端部を起点にクラックを伸展させて100枚の板ガラスを折り割る試験を行った。その結果、板ガラスの破損、チッピング及びガラス粉の過剰な発生は、観察されなかった。なお、試験に用いた板ガラスのサイズは、3500mm×3500mmであり、その厚みが500μmであった。比較のため、吸着圧力を変更してスクライブ線の中央部を表側に突出させることにより、スクライブ線の中央部を起点にクラックを伸展させて100枚の板ガラスを折り割る試験を行った。その結果、4枚のガラス板が破損し、13枚のガラス板でチッピングが発生し、15枚のガラス板で過剰なガラス粉が発生した。
【0064】
ここで、スクライブ線Sの端部とは、スクライブ線Sの先端からスクライブ線Sの長さの25%未満の範囲である。クラックの起点は、スクライブ線Sの端部のうちの先端側に位置すること、換言すると、スクライブ線Sの先端からスクライブ線Sの長さの12.5%未満の範囲に位置することがより好ましい。
【0065】
続いて、本発明の実施形態に係る板ガラスについて説明する。
【0066】
図18に示すように、本発明の実施形態に係る板ガラスの製造装置、及びこれを用いた製造方法によって製造された板ガラスGは、板引き方向Zに沿って延びる2つの第一端面G4と、板引き方向Zに交差する幅方向に延びる2つの第二端面G5とを有する矩形状である。
【0067】
板ガラスGの板引き方向Zは、例えば、暗室で板ガラスGの角度を調整しながら光源(例えばキセノンライト)から光を照射し、その透過光をスクリーンに投影することで、筋状の縞模様として観測できる。従って、成形後の板ガラスGの状態であっても、成形時の板引き方向Zを特定できる。
【0068】
少なくとも1つの第一端面G4は、折割によって形成された切断面であり、
図19及び
図20に示すように、スクライブ線痕S1とリブマークRMとを有する。リブマークRMは、クラックの進行方向に垂直に形成される円弧状の波模様であり、クラックの折割の伸展方向を示す。
図19は、スクライブ線痕S1の上端部に折割の起点となるクラックが発生し、下方向に折割が進展することで折り割られた板ガラスGを示している。
図20は、スクライブ線痕S1の下端部に折割の起点となるクラックが発生し、上方向に折割が進展することで折り割られた板ガラスGを示している。折割時に伸展するクラックの起点の位置に近いほど、隣り合うリブマークRMの間隔が狭くなっている。リブマークRMが多数存在する領域に引張応力が作用すると、リブマークRMを起点としてクラックが進展し、板ガラスGが破損することがある。
【0069】
板ガラスGを用いてディスプレイ及び有機EL照明の基板やカバーを製造する際に、板ガラスGを縦姿勢で搬送することがある。詳述すると、搬送装置のチャック機構(図示略)によって、縦姿勢の板ガラスGの上部を挟持し、板ガラスGを吊り下げた状態で搬送する。このように搬送する場合、板ガラスGは空気抵抗や慣性力等の影響を受けて振り子のように揺れ易い。揺れが大きくなると、揺れにより湾曲した部位に引張応力が作用し、板ガラスGが破損する虞がある。
【0070】
縦姿勢で搬送される板ガラスGのうち、スクライブ線痕S1の上端部と同じ高さの領域は、チャック機構によって挟持されているため、板ガラスGが揺れても湾曲しにくい。また、縦姿勢で搬送される板ガラスGのうち、スクライブ線痕S1の下端部と同じ高さの領域は、挟持されず自由な状態であるため、板ガラスGが揺れても湾曲しにくい。このため、折割の起点がスクライブ線痕S1の端部にあることで、折割の起点を含む領域は湾曲しにくく、引張応力が掛かりにくい。従って、縦姿勢で搬送する際に板ガラスGが破損しにくい効果が得られる。
【0071】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0072】
上記実施形態では、第一領域G1の上端部を、把持機構2の把持片21で保持するようにしたが、これに代えて、例えば吸盤等の他の保持部材で保持するようにしてもよい。
【0073】
上記実施形態では、第二領域G2を、耳部Geを有する不要領域としたが、第二領域G2は、耳部Geを有しない不要領域であってもよく或いは製品となる有効領域(第一領域G1と同じ板厚の有効領域)であってもよい。
【0074】
上記実施形態では、押込部材5と吸着機構6とを使用して、第二領域G2に裏面G2b側に向かう押し込み力を作用させるようにしたが、押込部材5を使用せず、吸着機構6によって第二領域G2に裏面G2b側に向かう引き込み力を作用させるようにしてもよい。また、押込部材5と吸着機構6とを使用して、第二領域G2に裏面G2b側に向かう押し込み力を作用させるようにしたが、押込部材に代えて、第二領域G2を引込部材によって裏面G2b側に引き込む部材を用いてもよい。またこれに代えて、第二領域G2の上端部及び下端部をそれぞれ把持片等の保持部材によって保持した状態で、保持部材を裏面2b側に移動させることで、第二領域G2に裏面G2b側に向かう力を作用させるようにしてもよい。
【0075】
上記第一実施形態では、不要領域G2を吸着部材62で吸着する際の吸着圧力を板ガラスGの縦方向上側に位置するほど低く設定することで上端領域G2Uを表面G2a側に突出させ、上記第三実施形態では、有効領域G1を裏面支持部材3の上側凸部33及び押え部材4の下側凸部43と接触させることで上端領域G1Uを表面G1a側に突出させたが、これに限定されない。第一実施形態と第三実施形態とを組み合わせ、上端領域G1U、G2Uを表面G1a、G2a側へ突出させても良い。
【0076】
上記第二実施形態では、不要領域G2を吸着部材62で吸着する際の吸着圧力を板ガラスGの縦方向下側に位置するほど低く設定することで下端領域G2Lを表面G2a側に突出させ、上記第四実施形態では、有効領域G1を裏面支持部材3の下側凸部35及び押え部材4の上側凸部45と接触させることで下端領域G1Lを表面G1a側に突出させたが、これに限定されない。第二実施形態と第四実施形態とを組み合わせ、下端領域G1L、G2Lを表面G1a、G2a側へ突出させても良い。
【符号の説明】
【0077】
1 折割装置
2 把持機構
3 裏面支持部材
6 吸着機構
62 吸着部材
G 板ガラス
G1 第一領域(有効領域)
G1a 第一領域の表面
G1b 第一領域の裏面
G2 第二領域(不要領域)
G2a 第二領域の表面
G2b 第二領域の裏面
S スクライブ線
G4 第一端面
G5 第二端面
S1 スクライブ線痕