(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020078
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】AIを用いた胎児機能の遠隔スクリーニング検査支援システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20230202BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
A61B5/00 102C
A61B5/00 102B
A61B5/0245 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125249
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100180758
【弁理士】
【氏名又は名称】荒木 利之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 好雄
(72)【発明者】
【氏名】折坂 誠
(72)【発明者】
【氏名】玉村 千代
(72)【発明者】
【氏名】荒木 睦大
(72)【発明者】
【氏名】浅井 竜哉
(72)【発明者】
【氏名】森 幹男
【テーマコード(参考)】
4C017
4C117
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AB05
4C017AC23
4C017BC11
4C017FF05
4C117XA02
4C117XA07
4C117XB02
4C117XB04
4C117XB09
4C117XB11
4C117XD24
4C117XE13
4C117XE17
4C117XE46
4C117XJ13
4C117XJ34
(57)【要約】 (修正有)
【課題】母親及び胎児の状態遷移から異常の可能性のある状態遷移を出力することによって、当該出力内容を医師に示して、医師によって正常か異常か判断させるようにして胎児の微小な異変を見逃さないようにする状態出力プログラム、学習プログラム、情報処理装置及び状態出力システムを提供する。
【解決手段】情報処理装置1は、母親4a及び胎児5aのそれぞれの心拍変動のうち、医師により予め定めた基準に基づき正常と判定された心拍変動から得られる指標を符号化し、各時刻の状態情報113bに変換する状態化手段102bと、各時刻の状態情報113bが、以降の時刻の各時刻の状態情報113bに影響するものとして、当該母親4a及び当該胎児5aのそれぞれの各時刻の状態情報113bから以降の時刻の状態情報113bに遷移する遷移確率を算出して学習結果を確率辞書情報114bとする遷移確率算出手段103bとを有する。
【選択図】
図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、
母親及び胎児のそれぞれの心拍情報のうち、医師により予め定めた基準に基づき正常と判定された心拍情報の時間成分又は周波数成分から得られる指標の時系列を符号化し、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に変換する状態化手段と、
当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報が、予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に影響するものとして、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報から前記予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に遷移する遷移確率を学習する学習手段として機能させる学習プログラム。
【請求項2】
前記学習手段は、前記胎児が複数の場合、前記母親及び前記複数の胎児のそれぞれの各時刻の状態情報が、前記予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該複数の胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に影響するものとして、当該母親及び当該複数の胎児のそれぞれの各時刻の状態情報から前記予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該複数の胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に遷移する遷移確率を学習する請求項1に記載の学習プログラム。
【請求項3】
前記学習手段は、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報から次の時刻の当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に遷移する遷移確率を、正常な母親及び正常な胎児の状態の変化に基づいて学習する請求項1又は2に記載の学習プログラム。
【請求項4】
前記学習手段は、複数の前記正常な母親及び正常な胎児の状態の変化について学習し、学習結果としての前記遷移確率の確率辞書が飽和した場合、学習動作を止める請求項1から3のいずれか1項に記載の学習プログラム。
【請求項5】
前記学習プログラムの学習結果に基づき、判定対象である母親及び胎児の状態情報の変化の遷移確率が異常な母親及び異常な胎児の状態情報の変化に該当するおそれがある場合にその旨出力する出力手段としてさらに機能させる請求項1から4のいずれか1項に記載の状態出力プログラム。
【請求項6】
前記出力手段は、出力対象となる時間範囲において、前記判定対象である母親及び胎児の状態情報の変化の遷移確率が異常な母親及び異常な胎児の状態情報の変化に該当するおそれがある部分の開始・終了位置、区間の長さ、前記胎児の状態と前記母親の状態との当該区間における相関性を補助情報として出力する請求項5に記載の状態出力プログラム。
【請求項7】
コンピュータを、
母親及び胎児のそれぞれの心拍情報のうち、医師により予め定めた基準に基づき正常と判定された心拍情報の時間成分又は周波数成分から得られる指標の時系列を符号化し、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に変換して、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報が、予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に影響するものとして、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報から前記予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に遷移する遷移確率を学習した学習結果に基づき、判定対象である母親及び胎児の状態情報の変化の遷移確率が異常な母親及び異常な胎児の状態情報の変化に該当するおそれがある場合にその旨出力する出力手段として機能させる状態出力プログラム。
【請求項8】
母親及び胎児のそれぞれの心拍情報のうち、医師により予め定めた基準に基づき正常と判定された心拍情報の時間成分又は周波数成分から得られる指標の時系列を符号化し、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に変換する状態化手段と、
当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報が、予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に影響するものとして、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報から前記予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に遷移する遷移確率を学習する学習手段とを有する情報処理装置。
【請求項9】
母親及び胎児のそれぞれの心拍情報のうち、医師により予め定めた基準に基づき正常と判定された心拍情報の時間成分又は周波数成分から得られる指標の時系列を符号化し、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に変換して、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報が、予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に影響するものとして、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報から前記予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に遷移する遷移確率を学習した学習結果に基づき、判定対象である母親及び胎児の状態情報の変化の遷移確率が異常な母親及び異常な胎児の状態情報の変化に該当するおそれがある場合にその旨出力する出力手段を有する情報処理装置。
【請求項10】
母親及び胎児のそれぞれの心拍情報を検出するモニタと、
前記モニタが検出した前記母親及び前記胎児のそれぞれの前記心拍情報のうち、医師により予め定めた基準に基づき正常と判定された心拍情報の時間変動を受信し、当該心拍情報の時間変動の時間成分又は周波数成分から得られる指標の時系列を符号化し、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に変換する状態化手段と、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報が、予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に影響するものとして、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報から前記予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に遷移する遷移確率を学習する学習手段とを有する情報処理装置とを備えた状態出力システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は産科医療の分野で、病院の医師が遠隔地にいる胎児と母親の健康状態をスクリーニング検査する場合に、緊急入院・再検査の必要性等を判断支援するための検査補助情報を提供する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、産科医療の現場では、胎児心拍数の変動パターンを解析することで、胎児の健康状態(胎児機能)を評価する分娩監視装置が、広く用いられている。胎児の健康状態を診断する分娩監視装置は、産科臨床の現場に広く普及し、胎児の死亡率の減少に大きく寄与してきた。その診断基準は、日本産科婦人科学会により「産婦人科診療ガイドライン一産科編2017」の分娩監視法において明確に定められており、医師や看護師が胎児の健康状態を正確にレベル1(正常波形)からレベル5(異常波形・高度)の5段階で診断できる診療体制が確立されている。
【0003】
しかし、一方で遠隔地に居住する妊婦が産科施設へ頻回に通院することは、様々な負担を伴うものである。さらに、地方では産科施設の集約化・減少が進行し、子どもを産み育てる環境が徐々に失われており、人口減少の要因の一つになっている。
【0004】
そのため、自宅からでも母親及び胎児の健康状態の評価を受けられることが求められている。特に、母親が容易に扱える機器を用いて、自宅から胎児心拍数データを送信し、産科医がその波形データを解析することで、胎児の健康状態(胎児機能)をふるい分け(スクリーニング)検査し、妊婦がどのタイミングで受診すべきかアドバイスできる胎児機能の遠隔評価サポートシステムを構築することが望ましい。
【0005】
このような遠隔評価サポートシステムを構築する従来の技術としては、母親が遠隔地から電話回線を用いて直接胎児心拍数と子宮収縮の情報を送れる携帯用の小型胎児モニターが知られている(例えば、非特許文献1)。病院では、送られてきた情報を分娩監視装置により解析して胎児機能の評価が可能であるが、専用の小型胎児モニターが必要となる。
【0006】
ここで、医師の判断支援を人工的に実現するためには学習機能が必要となる。このような学習機能としては最近のディープラーニング(深層学習)があるが、胎児の健康状態をコンピュータに学習させるには正常なデータと異常なデータが同量程度必要であり、医学の分野で異常のデータを大量に入手して学習させることは個人情報保護の観点から一般に難しい。
【0007】
一方、従来の技術としてマルコフモデルを用いた統計的な学習機能が知られている。例えば、音声認識や言語処理に応用した例として、シャノンの情報理論に現れる英語文字列の出現分布を1重マルコフ連鎖モデルで定義したものや、それを日本語に適用したもの、また、隠れマルコフモデルを用いた音声認識研究等が知られている。特に、日本語音節のマルコフ連鎖モデルを日本語音声認識候補の絞り込みに応用したものとして、下記の研究が提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0008】
非特許文献2に開示された研究では、新聞記事70日分の音節連続特性を求め、これを用いて音節マトリックスで表された1000文節の文節音節候補を対象に音節候補の絞り込み効果を求めており、日本語の単語又は文節の音節数の特性から、音節の連鎖特性として0重、1重マルコフに比べて2重マルコフ連鎖のエントロピーが小さくなることを理由に、2重マルコフにより音声認識候補の絞り込みを効果的に行えることを示している。また、非特許文献3では、日本語文の誤り文字を、m重マルコフ連鎖化モデルを用いて、誤り位置、誤り長、誤り種別(誤字、誤挿入、脱落誤り)を検出する方法が述べられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】原量宏「胎児の健康状態管理のための胎児心拍数検出システム(分娩監視装置)開発の経緯」、2014年、百十四経済研究所調査月報、No.334、12,2-9
【非特許文献2】荒木哲郎、村上仁一、池原悟、「2重音節マルコフモデルによる日本語の文節音声認識候補の曖昧さの解消効果」、1989年4月、情報処理学会論文誌30巻4号,p167-177
【非特許文献3】荒木哲郎、池原悟、塚原信幸、小松康則、田川崇史:「m重マルコフ連鎖モデルを用いた日本語の誤字・脱落・誤挿入誤り文字列の検出と訂正法」2000年6月,電子情報通信学会論文誌,J83-D-II巻6号,p1516-1528
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献3によれば、日本語文において誤った文字列が存在する(誤字・脱落・挿入誤り)場合、前後の文字間の接続強度が低下することに着目して、正しい文字間の接続強度をマルコフ連鎖確率モデルによって学習することでこれらの誤りを高精度に検出できることが知られている。各文字を一つの状態に対応させ、正解文字を健康状態に、誤り文字を異常状態に対応させれば同一の方法で検出することが可能なように思われる。しかし、文字検出の場合には正解文字が何であるかを文脈(前後の文字間の接続関係)から明確に示すことが可能であるが、胎児の心拍変動データに対しては、不規則な微小な変動(ゆらぎ)幅が正常な域であるか否かを明確に判断することは一般に難しく、「健康状態」を正確に普遍的に定義できない点が大きく異なっている。最悪の場合は、専門産科医でも気づかないような胎児の微小な異変を見逃し、誤って正常と判断してしまう可能性も完全にゼロではない。その時には学習が正しく行えず、誤って異常な状態でも正常と判断される危険性があり、生命にかかわる重大なる事態を招くことになる。
【0011】
従って、本発明の目的は、音声認識候補の絞り込みをはじめ、日本語文の誤り文字の検出等の様々な分野に応用可能なマルコフモデルを母親及び胎児の状態遷移に適用し、母親及び胎児の状態遷移から異常の可能性のある状態遷移を出力することによって、当該出力内容を医師に示して、医師によって正常か異常か判断させるようにして胎児の微小な異変を見逃さないようにするべく、以下の状態出力プログラム、学習プログラム、情報処理装置及び状態出力システムを提供するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、上記目的を達成するため、以下の状態出力プログラム、学習プログラム、情報処理装置及び状態出力システムを提供する。
【0013】
[1]コンピュータを、
母親及び胎児のそれぞれの心拍情報のうち、医師により予め定めた基準に基づき正常と判定された心拍情報の時間成分又は周波数成分から得られる指標の時系列を符号化し、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に変換する状態化手段と、
当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報が、予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に影響するものとして、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報から前記予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に遷移する遷移確率を学習する学習手段として機能させる学習プログラム。
[2]前記学習手段は、前記胎児が複数の場合、前記母親及び前記複数の胎児のそれぞれの各時刻の状態情報が、前記予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該複数の胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に影響するものとして、当該母親及び当該複数の胎児のそれぞれの各時刻の状態情報から前記予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該複数の胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に遷移する遷移確率を学習する前記[1]に記載の学習プログラム。
[3]前記学習手段は、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報から次の時刻の当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に遷移する遷移確率を、正常な母親及び正常な胎児の状態の変化に基づいて学習する前記[1]又は[2]に記載の学習プログラム。
[4]前記学習手段は、複数の前記正常な母親及び正常な胎児の状態の変化について学習し、学習結果としての前記遷移確率の確率辞書が飽和した場合、学習動作を止める前記[1]から[3]のいずれかに記載の学習プログラム。
[5]前記学習プログラムの学習結果に基づき、判定対象である母親及び胎児の状態情報の変化の遷移確率が異常な母親及び異常な胎児の状態情報の変化に該当するおそれがある場合にその旨出力する出力手段としてさらに機能させる前記[1]から[4]のいずれかに記載の状態出力プログラム。
[6]前記出力手段は、出力対象となる時間範囲において、前記判定対象である母親及び胎児の状態情報の変化の遷移確率が異常な母親及び異常な胎児の状態情報の変化に該当するおそれがある部分の開始・終了位置、区間の長さ、前記胎児の状態と前記母親の状態との当該区間における相関性を補助情報として出力する前記[5]に記載の状態出力プログラム。
[7]コンピュータを、
母親及び胎児のそれぞれの心拍情報のうち、医師により予め定めた基準に基づき正常と判定された心拍情報の時間成分又は周波数成分から得られる指標の時系列を符号化し、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に変換して、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報が、予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に影響するものとして、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報から前記予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に遷移する遷移確率を学習した学習結果に基づき、判定対象である母親及び胎児の状態情報の変化の遷移確率が異常な母親及び異常な胎児の状態情報の変化に該当するおそれがある場合にその旨出力する出力手段として機能させる状態出力プログラム。
[8]母親及び胎児のそれぞれの心拍情報のうち、医師により予め定めた基準に基づき正常と判定された心拍情報の時間成分又は周波数成分から得られる指標の時系列を符号化し、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に変換する状態化手段と、
当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報が、予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に影響するものとして、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報から前記予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に遷移する遷移確率を学習する学習手段とを有する情報処理装置。
[9]母親及び胎児のそれぞれの心拍情報のうち、医師により予め定めた基準に基づき正常と判定された心拍情報の時間成分又は周波数成分から得られる指標の時系列を符号化し、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に変換して、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報が、予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に影響するものとして、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報から前記予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に遷移する遷移確率を学習した学習結果に基づき、判定対象である母親及び胎児の状態情報の変化の遷移確率が異常な母親及び異常な胎児の状態情報の変化に該当するおそれがある場合にその旨出力する出力手段を有する情報処理装置。
[10]母親及び胎児のそれぞれの心拍情報を検出するモニタと、
前記モニタが検出した前記母親及び前記胎児のそれぞれの前記心拍情報のうち、医師により予め定めた基準に基づき正常と判定された心拍情報の時間変動を受信し、当該心拍情報又は当該陣痛情報の時間変動の時間成分又は周波数成分から得られる指標の時系列を符号化し、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に変換する状態化手段と、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報が、予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に影響するものとして、当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報から前記予め定めた先の時刻までの当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に遷移する遷移確率を学習する学習手段とを有する情報処理装置とを備えた状態出力システム。
【発明の効果】
【0014】
請求項1、8、10に係る発明によれば、母親及び胎児のそれぞれの心拍情報のうち、医師により予め定めた基準に基づき正常と判定された心拍情報を用いて学習することにより、母親及び胎児の状態遷移から異常の可能性のある状態遷移を出力するための確率辞書情報を生成することができる。
請求項5、7、9に係る発明によれば、母親及び胎児の状態遷移から異常の可能性のある状態遷移を出力することによって、当該出力内容を医師に示して、医師によって正常か異常か判断させるようにして胎児の微小な異変を見逃さないようにすることができる。
請求項2に係る発明によれば、胎児が複数の場合にも、母親及び胎児のそれぞれの心拍情報のうち、医師により予め定めた基準に基づき正常と判定された心拍情報を用いて学習することにより、母親及び胎児の状態遷移から異常の可能性のある状態遷移を出力するための確率辞書情報を生成することができる。
請求項3に係る発明によれば、母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報から次の時刻の当該母親及び当該胎児のそれぞれの各時刻の状態情報に遷移する遷移確率を学習することができる。
請求項4に係る発明によれば、複数の正常な母親及び正常な胎児の状態の変化について学習し、学習結果としての遷移確率の確率辞書が飽和した場合、学習動作を止めることができる。
請求項6に係る発明によれば、出力対象となる時間範囲において、判定対象である母親及び胎児の状態情報の変化の遷移確率が異常な母親及び異常な胎児の状態情報の変化に該当するおそれがある部分の開始・終了位置、区間の長さ、胎児の状態と母親の状態との当該区間における相関性を補助情報として出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る状態出力システムの構成の一例を示す概略図である。
【
図2B】
図2Bは、フェーズ2における、実施の形態に係る情報処理技術機構によるマルコフ学習辞書の構築プログラムとそれを実行する情報処理装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2C】
図2Cは、実施の形態に係る情報処理装置1dの構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図3(a)~(d)は、それぞれ母親の交感神経活動指標、母親の副交感神経指標、胎児の交感神経活動指標、胎児の副交感神経指標の時間変化を示すグラフ図である
【
図4】
図4(a)~(d)は、それぞれ母親の交感神経活動指標、母親の副交感神経指標、胎児の交感神経活動指標、胎児の副交感神経指標の出現頻度を示すグラフ図である。
【
図5】
図5は、母親の心拍システムと胎児の心拍システムとの関係を示す概略図及び当該関係を反映した数式である。
【
図6】
図6(a)~(d)は、それぞれ1重マルコフ連鎖確率辞書の遷移確率を示すグラフ図である。
【
図7】
図7は、情報処理装置の出力動作を説明するためのグラフ図である。
【
図8】
図8は、出力動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図9】
図9は、RR変動を説明するための心電図のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施の形態]
本発明では、医師が安全に胎児の健康状態を確認でき、医師の検査労力・負担を軽減化するための標準品質保証のマルコフ連鎖確率学習辞書の構築法とその辞書を用いた遠隔スクリーニング検査支援システムの構築から運用に至るまでの工程を次の4フェーズに区分し(後述する
図1参照。)、各々の担当機関、担務を明記する。即ち、
(1) (フェーズ1):「医師による健康状態の診断と正常データの振るい分け過程」、産科医療現場において、病院の設備を用いて検査し、医師が被験者に説明と協力要請する。産科ガイドラインに従って医師が胎児の健康状態を5段階評価(レベル1~レベル5)する。
・ 胎児の健康状態を深く診断するために、「特許心拍状態解析装置」(特許第6403331号)の考えに基づき、胎児と母親の心拍変動(ゆらぎ)を同時に計測して相関性を調べる。
・
図5に示すように、胎児(一般に複数胎児も可)と母親の心拍循環システムの動作を、「多変数多重度マルコフ連鎖モデル」(ここで、多変数とは複数の胎児と母親の心拍変動を扱い、また多重度とはm個前の時刻の多変数の状態が現在の胎児の状態にどこまで影響するかを調べるもので、母親と胎児間の相互相関の連鎖確率を定義している。
(2) (フェーズ2):「多変数多重度マルコフ連鎖確率モデルを用いた正常データの辞書構築過程」、健康状態がレベル1又はレベル2と診断された胎児と母親の心拍データを用いて学習しマルコフ連鎖確率辞書を作成する。この作業は情報処理技術機構が担務し、ユーザに簡易なインタフェースで要望に応じた多様な辞書アクセスを可能した汎用で高性能な辞書を提供する。
(a)足切り法(出現頻度少ない遷移確率を削除、例えば、1~3回程度の出現頻度の遷移確率要素を削除など)。確率値を計算する際に、出現頻度数が小さいマルコフ連鎖確率値を強制的にゼロにする。例えば、出現頻度数が1回である状態のマルコフ連鎖確率値をすべてゼロにする(足きりを行う。)。即ち、マルコフ連鎖確率値が非ゼロの状態は、すべて出現頻度が2回以上ということになる。このような足切りを行うことで、出現頻度数が大きい状態のマルコフ連鎖確率だけを用いることは、信頼度が高い正常状態だけを採用することになり、正常と異常状態の判定精度の向上につながることが期待される。
(b)胎児と母親の心拍変動の計測時に、個々の被験者に対して夫々の項目、「年齢、季節、時間帯、妊娠数、国別など」毎に記録を残し、多様な被験者に応じた最適な多変数多重度マルコフ連鎖確率辞書構築が選択できるように切り出し可能な辞書を提供する。
(c)各時刻の状態遷移が学習した連鎖確率辞書内に存在するか否かを調べ、存在しない場合は確率値Pをゼロにすることによって、(i)胎児の異常値(確率値Pがゼロ)が出現する位置(開始時刻と終了時 刻)、(ii)異常値の継続時間(バースト的か否か)、(iii)異常の要因候補(胎児自身によるものか母親の影響によるものか)などの解析情報を付けて医師の総合判断の支援に供する。
(d)また、正常状態と異常状態の学習・判定精度の向上を図るもう一つの方法は被試験者の特性や計測する時期、時間帯などを考慮して検査を行う方法である。即ち、マルコフ連鎖確率の学習を行う際に、生成されるマルコフ連鎖確率辞書をそれぞれ下記の項目ごとに区別して、独立に辞書構築を行う。正常と異常状態の判定検査の時、それらの項目に学習を行って辞書構築を行い、試験者の特性(妊娠週期、母親の年齢、出生地など)や試験時期(季節、時間帯など)を試験時に指定すると、これらの試験対象者に合致した最適なマルコフ連鎖確率辞書を選択でき、スクリーニング検査を実施できることになる。(1)計測の時間帯(朝、昼、夜)、(2)季節(春、夏、秋、冬)、(3)年齢(20代、30代、40代…)、(4)出生地(日本人、外国人等)
(3) (フェーズ3):医療現場でふるい分けられた正常な胎児と母親の心拍変動データを用いて、標準化された指標状態付与、状態遷移解析を行って学習辞書を構築する。擬似的な異常データを作成してマルコフ辞書の品質検査を行う。
(a)簡易版品質試験:正常なデータの値を、擬似的に乱数を用いて異常な値に変更して異常データを生成し、3000件以上の擬似的異常データに対して95%以上の精度で検出する品質レベル。
この種の品質試験では、胎児の心拍変動計測者による計測器具の操作のミス等の原因で、マルコフ連鎖確率辞書に保存されている正常な胎児や母親の心拍変動の状態遷移から大きく外れていること(確率値がゼロとなる状態遷移)を正しく検出できることを確認するものである。遠隔地の胎児の心拍数計測は、医療従事者ではない素人(母親)が心音計を用いて一人で計測することになるために、このような品質試験は有効であると考えられる。また、マルコフ連鎖モデルを用いた言語処理の研究ではよく用いられる方法で、詳細は[非特許文献3]を参照のこと。
(4) (フェーズ4):「本システムの構築法と運用の基本方針」、各産科病院において、品櫃試験に合格した標準マルコフ辞書を購入して、検査対象の入力でデータを状態解析して標準辞書にアクセスする判定機能を実現して「遠隔からのスクリーニング検査支援システム」を構築する。標準辞書にあるか無いかを調べ、異常の場合は「NGメッセージ」を警告出力する。「OK(合格)」は検査対象の遷移動作が標準辞書の遷移動作に近いこと(確率的に)を、また、「NG(失敗)」は検査対象の遷移動作が標準辞書の遷移動作とかけ離れていることを示すものである。
(5) 運用方法として、「遠隔で胎児の心拍数計測において計測操作ミス等によって正常な胎児が誤って異常な心拍データが表示された場合に、システムがNG(不具合)の出力結果を表示することを推奨する。医師はNGメッセージを参考に、病院での再検査の必要性を調べ、来院のタイミングを総合的に判断すること」を推奨する。また、医師は「NG」の警告時だけ再検査を検討すればよく、作業の効率化が望める。
【0017】
図1は、実施の形態に係る胎児機能の遠隔スクリーニング検査支援システムの構成をフェーズ1からフェーズ4に分けて示す概略図である。
【0018】
(フェーズ1の構成)
また、
図2Aは、フェーズ1の詳細を示す概略図である。
【0019】
フェーズ1において、産科医療現場(病院9)に通院している妊娠女性である母親4aに対して、事前に本実験の概要説明(目的、内容、無侵襲な検査、母体の影響など)を行い、被験者としての協力依頼、募集を行う(S10)。賛同を得られた方に対して、病院で通常使用している分娩監視装置(心拍モニタ2a)などを用いて、胎児と母親の心拍変動データを30分程度収集する(心拍情報111a、S11)。所定の産科ガイドライン(
図2A下段参照。)に従って、医師は心拍情報111aの心拍変動を診断し、レベル1~5段階で健康状態を判定(ラベル付け)する(S12)。心拍情報111aは、判定によりレベル1から5の心拍情報111a
1~111a
5に分けられる。なお、病院の検査では、通常2種類のトランスジューサを用いて、一方を心拍数の計測に、他方を、子宮収縮を計測する陣痛圧の計測用に用いて二つの変動データを同時に計測する。医師は両方の変動データを見ながら健康状態を判断している。本実施の形態では心拍情報111aをレベル1から5に分ける場合を説明する。
【0020】
本実施の形態では、一例として、レベル1及びレベル2の心拍情報111a1及び心拍情報111a2が「正常」な心拍情報として扱われ、心拍情報111a1及び心拍情報111a2は、フェーズ2において学習用心拍情報111bとして用いられる。なお、母親4a及び胎児5aの正常、異常の判定において危険のない範囲で、異なるレベルの心拍情報を「正常」として扱ってもよい。
【0021】
(フェーズ2の構成)
図2Bは、フェーズ2における、実施の形態に係る情報処理技術機構によるマルコフ学習辞書の構築プログラムとそれを実行する情報処理装置の構成例を示すブロック図である。
【0022】
情報処理装置1bは、CPU等から構成され、各部を制御するとともに、各種のプログラムを実行する制御部10bと、フラッシュメモリ等の記憶媒体から構成され情報を記憶する記憶部11bと、ネットワークを介して外部と通信する通信部12bとを備える。
【0023】
制御部10bは、後述する学習プログラム110bを実行することで、心拍情報受付手段100b、指標算出手段101b、状態化手段102b、遷移確率算出手段103b等として機能する。
【0024】
心拍情報受付手段100bは、フェーズ1において得られた心拍情報111a1及び心拍情報111a2を学習用心拍情報111bとして記憶部11bに格納する。
【0025】
指標算出手段101bは、学習用心拍情報111bから母親4a及び胎児5aの心拍変動のパワースペクトルを算出し、低域周波数(LF)と広域周波数(HF)の振幅値を算出して、交感神経活動指標(nLF)と副交感神経指標(nHF)の時系列を算出して指標情報112bとして記憶部11に格納する。ここで、交感神経活動指標(nLF)は、LF帯域(0.04~0.15Hz)以上の総パワー値に対するLFパワー値の比である。また、副交換神経指標(nHF)は、LF帯域以上の総パワー値に対するHF帯域(0.15~0.4Hz)のパワー値の比である。
【0026】
状態化手段102bは、指標情報112bを予め定めた条件に基づいて符号化して、符号値を組み合わせて母親4a及び胎児5aの状態の情報にそれぞれ変換し、状態情報113bとして記憶部11bに格納する。
【0027】
遷移確率算出手段103bは、学習動作において学習手段として動作し、正常な母親4a及び胎児5aの状態情報113bから時刻tと時刻t+1の母親4a及び胎児5aの状態遷移確率を算出し、確率辞書情報114bとして記憶部11bに格納する。なお、時刻tと時刻t+1、…、t+mの母親4及び胎児5の状態遷移確率を算出するものであってもよい(m重マルコフ)。
【0028】
記憶部11bは、制御部10bを上述した各手段100b-103bとして動作させる学習プログラム110b、学習用心拍情報111b、指標情報112b、状態情報113b、確率辞書情報114b等を記憶する。
【0029】
フェーズ2の上記構成における詳しい動作手順は後述する。
【0030】
(フェーズ3の構成)
次に、フェーズ2で作成された「多変数多重度マルコフ連鎖確率学習辞書」(確率辞書情報114b)を、品質試験を行う情報処理技術者に渡し、情報処理装置1cにおいて、夫々のレベルで評価して合格か否かを判定する。今回は、一例として、計測ミスなどによる異常データを対象に即ち、本物の異常データを用いない品質検査で、「低レベル品質認定試験」を検査対象として述べる。同図の情報処理装置上の記憶装置に保存されている、低レベル品質試験用データ(擬似的に生成された異常データ3000件)に対して、95%以上の精度で異常性を堅守できるか、また、その異常データ区間の位置(開始位置と終了位置)、異常データ区間持続時間(長さ)及び胎児と母親の相互関係(影響の度合い)を評価して合格か否かを判定する。また、合格した確率辞書情報を確率辞書情報114cとし、フェーズ4で用いる情報処理装置1dに渡す。
【0031】
なお、擬似異常データの生成法は、学習フェーズで使用した正常データとは別に収集した正常な心拍変動データを用いて、夫々のデータの区間を1か所又は複数個所に擬似的に異常データに挿入するなどして全体で3000件程度の異常データを生成する。異常データの開始位置と終了位置(長さを適宜選び)を乱数で選び、その振幅の大きさを正常の範囲外の値から乱数で選ぶ(詳しくは、非特許文献2を参照。)。
【0032】
(フェーズ4の構成)
(胎児機能の遠隔スクリーニング検査支援システムの構成)
【0033】
フェーズ4の遠隔スクリーニング検査支援システムは、情報処理装置1dと、端末6と、データサーバ7とをそれぞれネットワーク3a、3bによって互いに通信可能に接続することで構成される。妊婦である母親4d、胎児5d(及び端末6、心拍計20、21)は病院9Bから離れた自宅9Aにいるものとし、医師8d(及び情報処理装置1d)は病院9Bにいるものとする。情報処理装置1dは医師8等の医療関係者によって操作され、端末6は母親4dによって操作される。心拍計20のトランスデューサ20aは母親4の心拍をモニタするため母親4の心臓の外側近傍に取り付けられ、心拍計21のトランスデューサ21aは胎児5の心拍をモニタするため胎児5の心臓の外側近傍に取り付けられる。心拍計20及び心拍計21は検出した心拍数を表示部に表示し、端末6によって表示部に表示される心拍数の時間変動が動画等によって撮影され、撮影された結果生成された動画情報はデータサーバ7にネットワーク3aを介して送信される(アップロードされる。)。
【0034】
情報処理装置1dは、PC(Personal Computer)の情報処理装置であり、医師8dの操作に応じて動作するものであって、本体内に情報を処理するための機能を有するCPU(Central Processing Unit)やフラッシュメモリ等の電子部品を備える。情報処理装置1dは、医師8dの操作に応じてデータサーバ7から動画情報を受信して(ダウンロードして)、当該情報を処理する。
【0035】
心拍計20、21は、例えば、超音波心拍計であり、トランスデューサ20a、21aから超音波を送信し、母親4dの心臓、胎児5dの心臓の心壁に反射させ、反射超音波を受信するものである。拡張期で心壁がトランスデューサ20a、21aに近づき、収縮期で遠ざかることからドップラー効果により反射波の周波数の増減が生じるため、心拍計20、21は、送信超音波と反射超音波を混合させたものを心拍計20、21のスピーカから出力することで、うなりを生じた音を利用者である母親4dにモニタさせる。母親4dは当該音をモニタしながらうなり音がよりはっきりと聞こえる位置にトランスデューサ20a、21aを合わせる。また、心拍計20、21は、当該うなり(送信超音波と反射超音波の周波数差)から心拍数を算出し、表示部に表示する。一例として、心拍モニタ2としてyewell社製のFD-220Aを使用する。また、心拍だけでなく、陣痛圧をモニタしてもよく、その場合は歪みゲージを備えた陣痛モニタを母親4dの腹部に当てて計測する。
【0036】
端末6は、スマートフォン等の情報処理装置であって、本体内に情報を処理するための機能を有するCPUやフラッシュメモリ等の電子部品を備える。
【0037】
端末6、データサーバ7、情報処理装置1dを通信可能に接続するネットワークは、それぞれ高速通信が可能な通信ネットワークであり、例えば、イントラネットやLAN(Local Area Network)等の有線又は無線の通信網である。データサーバ7は、例えば、ネットワークを通じてデータを書き込み/読み出し可能に記憶、保管するクラウドサービスである。
【0038】
情報処理装置1dは、上記構成において一例として、出力フェーズであるフェーズ4として、データサーバ7から動画情報を受信して当該動画情報から心拍変動情報を生成し、当該心拍変動情報について判定対象としての母親4d及び胎児5dの状態に異常の可能性がある場合に学習結果に基づいて出力し、出力結果を表示部に表示する。医師8は、出力結果を確認し、これを参考にして、母親4及び胎児5の状態が病院9Bで精密検査が必要か否かを総合的に判断する。なお、出力方法の詳細は後述する。
【0039】
(情報処理装置の構成)
図2Cは、実施の形態に係る情報処理装置1dの構成例を示すブロック図である。
【0040】
情報処理装置1dは、各医療機関による遠隔からのスクリーニング検査支援プログラムとそれを実行する。ここで用いられるマルコフ辞書(確率辞書情報114d)は、フェーズ3の品質試験に合格した多変数多重度マルコフ連鎖確率辞書(確率辞書情報114c)を用いて、異常部分を検出する。
【0041】
情報処理装置1dは、CPU等から構成され、各部を制御するとともに、各種のプログラムを実行する制御部10dと、フラッシュメモリ等の記憶媒体から構成され情報を記憶する記憶部11dと、ネットワークを介して外部と通信する通信部12dとを備える。
【0042】
制御部10dは、後述する状態出力プログラム110dを実行することで、心拍情報受付手段100d、指標算出手段101d、状態化手段102d、遷移確率算出手段103d及び出力手段104d等として機能する。
【0043】
心拍情報受付手段100dは、心拍計20、21を撮影した動画情報をデータサーバ7から取得し、当該動画情報から母親4d及び胎児5dの心拍変動を抽出して心拍情報111dとして記憶部11dに格納する。
【0044】
指標算出手段101dは、心拍情報111dから母親4d及び胎児5dの心拍変動のパワースペクトルを算出し、低域周波数(LF)と広域周波数(HF)の振幅値を算出して、交感神経活動指標(nLF)と副交感神経指標(nHF)の時系列を算出して指標情報112dとして記憶部11dに格納する。ここで、交感神経活動指標(nLF)は、LF帯域(0.04~0.15Hz)以上の総パワー値に対するLFパワー値の比である。また、副交換神経指標(nHF)は、LF帯域以上の総パワー値に対するHF帯域(0.15~0.4Hz)のパワー値の比である。
【0045】
状態化手段102dは、指標情報112dを予め定めた条件に基づいて符号化して、符号値を組み合わせて母親4d及び胎児5dの状態の情報にそれぞれ変換し、状態情報113dとして記憶部11dに格納する。
【0046】
遷移確率算出手段103dは、監視中の母親4d及び胎児5dの状態情報113dから時刻t’の母親4d及び胎児5dの状態から時刻t’+1の状態への状態遷移確率を算出し、出力手段104dに出力する。なお、時刻tと時刻t+1、…、t+mの母親4d及び胎児5dの状態遷移確率を算出するものであってもよい(m重マルコフ)。
【0047】
出力手段104dは、遷移確率算出手段103dから入力された監視中の母親4d及び胎児5dの状態遷移確率が異常か否かを確率辞書情報114dに基づいて出力し、結果を情報処理装置1dの表示部に出力する。また、出力手段104dは、検査対象としての心拍情報111dに含まれる異常部分の開始・終了位置、異常区間の長さ、胎児と母親の異常区間の相関性等についての支援補助情報を出力してもよい。
【0048】
記憶部11dは、制御部10dを上述した各手段100d-104dとして動作させる状態出力プログラム110d、心拍情報111d、指標情報112d、状態情報113d、確率辞書情報114d等を記憶する。
【0049】
(情報処理装置の動作)
次に、本実施の形態の作用を、(1)フェーズ1、(2)フェーズ2、(3)フェーズ3、(4)フェーズ4に分けて説明する。
【0050】
(1)フェーズ1
まず、フェーズ1において、医師8aは、産科医療現場(病院9)に通院している妊娠女性である母親4aに対して、事前に本実験の概要説明(目的、内容、無侵襲な検査、母体の影響など)を行い、被験者としての協力依頼、募集を行う(S10)。
【0051】
次に、医師8aは、賛同を得られた母親4aに対して、病院で通常使用している分娩監視装置(心拍モニタ2a)などを用いて、胎児と母親の心拍変動データを30分程度収集し、情報処理装置1aに心拍情報111aとして格納する(S11)。
【0052】
次に、医師8aは、所定の産科ガイドライン(
図2A下段参照。)に従って、心拍情報111aの心拍変動を診断し、レベル1~5段階で健康状態を判定(ラベル付け)し(S12)、心拍情報111aをレベル1から5の心拍情報111a
1~111a
5に分ける。
【0053】
心拍情報111a1及び心拍情報111a2は、フェーズ2において学習用心拍情報111bとして用いられる。
【0054】
(2)フェーズ2(学習動作)
図8は、学習動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【0055】
まず、学習動作において、情報処理装置1bの指標算出手段101bは、学習用心拍情報111bから母親4a及び胎児5aの心拍変動のパワースペクトルを算出し(S1)、低域周波数域(LF)と広域周波数域(HF)の振幅値を算出して、交感神経活動指標(nLF)と副交感神経指標(nHF)の時系列を算出して指標情報112bとして記憶部11bに格納する(S2)。
【0056】
図3(a)~(d)は、それぞれ母親の交感神経活動指標、母親の副交感神経指標、胎児の交感神経活動指標、胎児の副交感神経指標の時間変化を示すグラフ図である。また、
図4(a)~(d)は、それぞれ母親の交感神経活動指標、母親の副交感神経指標、胎児の交感神経活動指標、胎児の副交感神経指標の出現頻度を示すグラフ図である。
【0057】
次に、状態化手段102bは、指標情報112bを、例えば、0.05刻みで符号化して、符号値を組み合わせて母親4a及び胎児5aの状態に変換し、状態情報113bとして記憶部11bに格納する(S3)。
【0058】
なお、符号化の際のnLF、nHFの分割数は刻み幅を小さくしてさらに増やしてもよいし、刻み幅を大きくして減らしてもよい。分割数(状態数)を少なくすると、きめ細かい遷移動作を学習できないために、学習結果として正常と異常の判定能力が低下すると考えられるが、後述する学習の飽和に必要な教師データ数が減少すると考えられる。また、分割数(状態数)を多くすると、きめ細かい遷移動作の学習が可能となるために、学習結果として判定能力が向上すると考えられるが、学習の飽和に必要な教師データ数が増加すると考えられる。
【0059】
図5は、母親の心拍システムと胎児の心拍システムとの関係を示す概略図及び当該関係を反映した数式である。
【0060】
胎盤4bを介して、母親4の心拍システム4aと胎児の心拍システム5aが繋がっており、互いに影響しあっているとすると、時刻t+1における母親4及び胎児5の状態(Xt+1,Yt+1)は、状態遷移関数F(局所関数f11,f12,f21,f22からなる行列)と時刻tにおける母親4及び胎児5の状態(Xt,Yt)の積で表現される。つまり、Xt+1=f11(Xt)+f12(Yt)、Yt+1=f21(Xt)+f22(Yt)である。
【0061】
遷移確率算出手段103bは、まずt=1とし(S4)、正常な母親4a及び胎児5aの状態情報113bから時刻tと時刻t+1の母親4a及び胎児5aの状態を取得して、上記数式から状態遷移確率P11,P12,P21,P22を算出し(S5)、すべての時刻について算出し(S6;No、S7)、すべての時刻について算出した後(S6;Yes)、当該状態遷移確率を学習結果である確率辞書情報114bとして記憶部11bに格納する(S8)。なお、P11は母親4aの状態から母親4aの状態への遷移確率、P12は母親4aの状態から胎児5aの状態への遷移確率、P21は胎児5aの状態から母親4aの状態への遷移確率、P22は胎児5aの状態から胎児5aの状態への遷移確率である。
【0062】
なお、上記間隔は、以下に説明するように定められる。パワースペクトルを求める方法として、例えば、各周波数成分の時間変化を検出することが可能なウェーブレット変換による方法を用い(荒木睦大他,「AIの深層学習による胎児と母親の心拍変動解析パターン対の動的識別法」電子情報通信学会,2020年2月,信学技法 US2019-105、p.35―40参照。)、本実施の形態では、一例として、サンプリング周波数を10Hzとし、LF成分、HF成分の周波数帯である0.04Hzから0.5Hzまでを0.005の間隔で指定したが、間隔は適宜変更可能である。
【0063】
時刻tの状態が次の時刻t+1の状態に影響し、その先には影響しない場合(1重マルコフモデル)について、遷移確率算出手段103が算出した状態遷移確率を以下の
図6(a)~(b)に示す。
【0064】
図6(a)~(d)は、それぞれ1重マルコフ連鎖確率確書の遷移確率を示すグラフ図である。
【0065】
図6(a)は、母親4aの状態が後の母親4aの状態に遷移する確率である。また、
図6(b)は、胎児5aの状態が後の母親4aの状態に遷移する確率である。また、
図6(c)は、母親4aの状態が後の胎児5aの状態に遷移する確率である。また、
図6(d)は、胎児5aの状態が後の胎児5aの状態に遷移する確率である。
【0066】
マルコフ連鎖確率辞書が飽和したかどうかの目安を調べるために、辞書の中に存在するゼロでない要素の数(「異なりパターン数」と呼ぶ。)が、頻度数が1回、2回,3回,5回,10回の場合について、学習に使用するサンプル数の増加(横軸)に対して飽和していく(傾きが鈍角になってくる)様子を調べると、一般的にサンプル数が同じ場合、2重マルコフモデルは、1重マルコフモデルに対して飽和に必要なサンプル数が増加する傾向にある。
【0067】
(3)フェーズ3
次に、フェーズ2で作成された「多変数多重度マルコフ連鎖確率学習辞書」(確率辞書情報114b)を、品質試験を行う情報処理技術者に渡し、情報処理装置1cは、記憶部に格納された確率辞書情報114bを評価して合格か否かを判定する。
【0068】
情報処理装置1cは、確率辞書情報114bの評価方法として、記憶部に保存されている低レベル品質試験用データ(擬似的に生成された異常データ3000件)に対して、95%以上の精度で異常性を堅守できるか、また、その異常データ区間の位置(開始位置と終了位置)、異常データ区間持続時間(長さ)及び胎児と母親の相互関係(影響の度合い)を評価して合格か否かを判定する。また、合格した確率辞書情報を確率書情報114cとし、フェーズ4で用いる情報処理装置1dに渡す。情報処理装置1dは、当該確率辞書情報114cを記憶部11dに確率辞書情報114dとして格納する。
【0069】
なお、擬似異常データの生成法は、学習フェーズで使用した正常データとは別に収集した正常な心拍変動データを用いて、夫々のデータの区間を1か所又は複数個所に擬似的に異常データに挿入するなどして全体で3000件程度の異常データを生成する。異常データの開始位置と終了位置(長さを適宜選び)を乱数で選び、その振幅の大きさを正常の範囲外の値から乱数で選ぶ(詳しくは、非特許文献2を参照。)。
【0070】
(4)フェーズ4(出力動作)
次に、母親4dは、自宅9Aにおいて、母親4d及び胎児5dの心拍情報を取得するため、トランスデューサ20dを母親4dの心拍をモニタするため母親4dの心臓の外側近傍に取り付け、トランスデューサ21dを胎児5dの心拍をモニタするため胎児5dの心臓の外側近傍に取り付ける。
【0071】
母親4dは当該音をモニタしながらうなり音がよりはっきりと聞こえる位置にトランスデューサ20d、21dを合わせる。また、心拍計20、21は、当該うなり(送信超音波と反射超音波の周波数差)から心拍数を算出し、表示部に表示する。表示部に表示された心拍数の時間変動は、端末6によって撮影され、撮影された結果生成された動画情報はデータサーバ7にネットワークを介して送信される。
【0072】
次に、病院9Bの医師8dは、情報処理装置1dを操作し、ネットワークを介してデータサーバ7から動画情報をダウンロードして受信する。
【0073】
情報処理装置1dの心拍情報受付手段100dは、心拍計20、21を撮影した動画情報をデータサーバ7から取得し、当該動画情報から母親4d及び胎児5dの心拍変動を抽出して心拍情報111dとして記憶部11dに格納する。
【0074】
情報処理装置1dが抽出した心拍情報111dは、異常の疑いのある心拍変動を検出する対象となる母親4d及び胎児5dから得られた心拍情報である。
【0075】
次に、品質試験の行われた確率辞書情報114dを用いて、判定対象となる母親4d及び胎児5dの状態に異常のおそれがあるか否かを出力する動作について説明する。出力動作において、
図8のステップS1、S2、S3が共通するため以下に引用する。
【0076】
まず、「(2)フェーズ2」のステップS1及びS2と同様に、指標算出手段101dは、心拍情報111dから判定対象である母親4d及び胎児5dの心拍変動のパワースペクトルを算出し、低域周波数(LF)と広域周波数(HF)の振幅値を算出して、交感神経活動指標(nLF)と副交感神経指標(nHF)の時系列を算出して指標情報112dとして記憶部11dに格納する。
【0077】
次に、状態化手段102dは、ステップS3と同様に指標情報112dを予め定めた条件に基づいて符号化して、符号値を組み合わせて母親4d及び胎児5dの状態に変換し、状態情報113dとして記憶部11dに格納する。
【0078】
次に、遷移確率算出手段103dは、判定対象である母親4d及び胎児5dの状態情報113dから時刻t’と時刻t’+1の母親4d及び胎児5dの状態を取得して、上述した数式から状態遷移確率(P
11,P
12,P
21,P
22)を算出し、出力手段104dに出力する(
図7の説明参照。)。
【0079】
図7は、情報処理装置1の出力動作を説明するためのグラフ図である。
【0080】
出力手段104dは、各時刻での状態遷移の確率値P(
図7ではコスト値を示す-logP)を決定するために、該当する状態遷移をキーとして1重マルコフ連鎖確率辞書引きを行う。その際、胎児のその時刻の状態遷移の確率値が、確率辞書にあればその値P(-logP)を返し、辞書に存在しなければゼロ(-logP=∞)の値を返す。後者の場合には、
図7に現れているように、真っすぐグラフ上限まで到達する(値が∞に相当)。
図7の横軸は時間、縦軸は-logP(コスト値)を示す。即ち、各時刻で辞書引きした時のコスト値(これを瞬時値と呼ぶ。)を表す。同図の上側と下側のグラフは健康な同一の胎児について、時間をおいて異なる時間で計測・解析したものである。同図で上側が下側に比べて辞書に存在しない状態遷移(確率値がゼロ、またはコスト値が∞を示す)が多いことがわかる。これは擬似的に挿入された異常値が混入したためで、原因として計測上のミス等よるものが考えられる。また、下側にも所々確率値ゼロ、または無限大のコスト値が出現しているが、これはまだマルコフ連鎖確率辞書の学習が完成していない状況で実験を行ったものによると考えられる。
【0081】
学習が未完成なマルコフ連鎖確率辞書を用いて実験を行う場合でも、このような確率辞書に存在していない状態遷移が生じている箇所(発生時刻、終了時刻など)の情報を全て医師に出力・提示するだけで、医師はそれがいかなる原因であるかを追究することができるので、医師の負担削減を図るなど支援の役割を果たすことが期待できる。
【0082】
出力手段104dは、検査対象としての心拍情報111dに含まれる異常部分の開始・終了位置、異常区間の長さ、胎児と母親の異常区間の相関性等についての支援補助情報を出力してもよい。これにより、当該出力内容を確認した医師8dは、計測ミス等による異常データの有無等を判断することができるようになる。
【0083】
次に、端末1dは、出力手段104dが出力した内容を表示部に表示し、医師8dは表示内容を確認して母親4d及び胎児5dの状態に異常があるか否か判定する。
【0084】
(実施の形態の効果)
上記した実施の形態によれば、フェーズ4において、心拍計20、21で計測された心拍数を端末6で動画撮影してデータサーバ7へアップロードし、当該動画情報を情報処理装置1dでダウンロードして当該動画情報から心拍変動情報を生成し、当該心拍変動情報について判定対象としての母親4d及び胎児5dの状態が異常でないか学習結果に基づいて出力し、出力結果を表示部に表示するようにしたため、医師8は、出力結果を確認し、これを参考にして、母親4d及び胎児5dの状態が病院9Bで精密検査が必要か否かを総合的に判断することができる。ひいては、母親4dが容易に扱える機器を用いて、自宅からでも母親4d及び胎児5dの健康状態の評価を受けられる胎児機能の遠隔評価サポートシステムを実現できる。
【0085】
また、フェーズ1において、医師により心拍情報111aを産科ガイドラインに基づき心拍情報111a1~111a5に分けて、レベル1及びレベル2の心拍情報111a1及び心拍情報111a2を「正常」な心拍情報として扱い、フェーズ2の学習を行うようにしたため、医師の判断に基づいた学習を行うことができる。
【0086】
また、フェーズ2において、母親4a及び胎児5aのある時刻の状態がそれぞれ次の時刻の母親4a及び胎児5aの状態に影響することを前提とし、正常な状態にある母親4a及び胎児5aのある時刻の状態情報から次の時刻の状態情報への遷移確率を算出して学習結果として確率辞書情報114bを生成するようにしたため、正常な母親4及び胎児5の状態情報について学習することで確率辞書情報114bを生成することができる。
【0087】
また、フェーズ2において胎児の健康状態の判定精度を向上させるためには、異常データを用いて学習する方法も考えられるが、プライバシイ保護の面から通常の医療機関では学習データとして胎児の異常データを使用することは難しい。本特許では異常データを用いずに正常なデータだけを使用して学習することができる。
【0088】
また、フェーズ3において、(a)本物の胎児の心拍変動の異常データを使わない場合の低レベル品質試験(計測ミスによる異常データの検出精度、例えば、擬似的に計算機でランダムに選ばれた位置に、ランダムの長さの誤りを、乱数を用いて生成した異常データ3000件に対して95%以上の検出精度)に合格することにより、実際の医療現場で用いられる「フェーズ4の胎児機能のスクリーニング検査支援システムの信頼性向上と、医師の労力・負荷の軽減化が望める。
【0089】
また、フェーズ3の品質試験に合格した多変数多重度マルコフ連鎖確率辞書を用いて、フェーズ4のスクリーニング遠隔検査支援システムを構築することによって、判定処理により、(a)検査対象の胎児の健康状態が標準マルコフ辞書の胎児データとどの程度近いか否か(確率値)、(b)正常の中で異常が発生した位置(開始時刻、終了時刻)、(c)発生異常の継続時間(持続的か、突発的か、持続時間)、(d)異常発生が単発的か繰り返しかなどの解析データを示し、医師の判断支援に資する(信頼性の向上にし資する)ことができる。また、品質レベルが低レベル品質の場合は、NG(不合格)の警告メッセージを出力した場合だけ、医師は再検査の判断をすればよく、検査ミスによる診断は機械の判断に任せられる(負荷が軽減される)。
【0090】
[他の実施の形態]
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々な変形が可能である。
【0091】
例えば、上記実施の形態では周波数領域解析を行ったが、時間軸領域解析においても本発明を同様に適用できる。時間軸領域解析の場合は、母親4と胎児5から心電図を計測し、当該心電図から直流分を除いたRRインターバル変動を状態を表す量として計算し、RRインターバル変動を量子化して(状態の符号化)、時刻tと時刻(t-1)の間の遷移動作(1重マルコフの場合)を学習し、飽和した時点で学習を止めて学習結果とする。ここで、RRインターバル変動とは、以下に説明するRRインターバルの変動である。
【0092】
図9は、RR変動を説明するための心電図のグラフ図である。
【0093】
一般的に、
図9に示すように、心電図では心房、心室の動きに応じてP波、Q波、R波、S波、T波、U波が順に生じるが、R波の頂点から次のR波の頂点までの時間をRRインターバルと呼び、逆数が心拍数に比例する。時間軸領域解析において、一例として、当該RRインターバルの変動を用いる。
【0094】
【0095】
図10に示すように、心電図からRRインターバルの時系列が求められる(電気の言う直流分のデータを付加した交流分のデータ)。なお、以降の状態の符号化、m重マルコフ(mは単数又は複数)の状態遷移の学習動作については実施の形態と同様である。
【0096】
また、RRインターバル変動の他、時間領域解析として知られるRMSSD(隣接するRR時間間隔の差の二乗平均平方根:Root-Mean-Square of the Successive normal Sums RR Difference)の時系列を用いてもよい。
【0097】
また、周波数領域解析も上記の時間軸領域解析も、心電図で計測されたデータに対して行われたものであるが、この方法は通常の超音波による分娩監視装置で計測された心拍数変動に対しても同様に実施可能である。ただし、この場合には胎児5が子宮内で動くために、連続した心拍値が取れずに所々途切れた心拍計測になることが多い。そのために、適当な補間処理を行えばよい。
【0098】
例えば、母親4に対して胎児5が複数であってもよく、この場合、ある時刻の母親4及び複数の胎児5の状態が次の時刻の母親4及び複数の胎児5のそれぞれの状態に影響するものとして遷移確率を算出するものとする。
【0099】
上記実施の形態では制御部10bの各手段100b~103bの機能及び制御部10dの各手段100d~104dをプログラムで実現したが、各手段の全て又は一部をASIC等のハードウエアによって実現してもよい。また、上記実施の形態で用いたプログラムをCD-ROM等の記録媒体に記憶して提供することもできる。また、上記実施の形態で説明した上記ステップの入れ替え、削除、追加等は本発明の要旨を変更しない範囲内で可能である。
【符号の説明】
【0100】
1a~1d :情報処理装置
4a、4d :母親
5a、5d :胎児
6 :端末
7 :データサーバ
8a、8d :医師
9A :自宅
9、9B :病院
10b、10d :制御部
11b、11d :記憶部
12b、12d :通信部
20、21 :心拍計
100b、100d:心拍情報受付手段
101b、101d:指標算出手段
102b、102d:状態化手段
103b,103d:遷移確率算出手段
104d :状態出力手段
110a :学習プログラム
110d :状態出力プログラム
111a、111b、111d:心拍情報
112b、112d:指標情報
113b、113d:状態情報
114b、114c、114d:確率辞書情報