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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020125
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用セパレータおよび鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/463 20210101AFI20230202BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20230202BHJP
   H01M 50/429 20210101ALI20230202BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20230202BHJP
   H01M 50/466 20210101ALI20230202BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20230202BHJP
   H01M 10/12 20060101ALI20230202BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20230202BHJP
【FI】
H01M50/463 B
H01M50/417
H01M50/429
H01M50/414
H01M50/466
H01M50/46
H01M10/12 K
H01M50/489
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125320
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505458359
【氏名又は名称】ダラミック エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】趙 博
(72)【発明者】
【氏名】五島 寛文
(72)【発明者】
【氏名】マタナチャイ チャヤングーン
【テーマコード(参考)】
5H021
5H028
【Fターム(参考)】
5H021AA06
5H021CC05
5H021CC09
5H021CC18
5H021EE02
5H021EE03
5H021EE04
5H021EE09
5H021EE11
5H021EE15
5H021HH00
5H021HH01
5H021HH03
5H021HH10
5H028AA05
5H028CC07
5H028CC10
5H028EE06
5H028HH01
5H028HH05
5H028HH10
(57)【要約】
【課題】本発明は、良好な袋状の加工性及び高い電池安全性を有し得る鉛蓄電池用セパレータ、並びにそれを含む鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【解決手段】多孔質ベース部と、前記多孔質ベース部の少なくとも一表面に設けられた複数のリブとを有する液式型鉛蓄電池用セパレータであって、
前記多孔質ベース部が、
幅方向の両端に配置された側端部と、
前記側端部に挟まれた中央部とを有し、
前記側端部の厚みが、前記中央部の厚みより厚く、
前記ベース部の少なくとも一表面を、X線光電子分光にて測定した時の非金属元素分(S)の相対元素濃度が0.01atomic%以上、0.5atomic%以下である、液式型鉛蓄電池用セパレータが提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質ベース部と、
前記多孔質ベース部の少なくとも一表面に設けられた複数のリブと
を有する液式型鉛蓄電池用セパレータであって、
前記多孔質ベース部が、
幅方向の両端に配置された側端部と、
前記側端部に挟まれた中央部と
を有し、前記側端部の厚みが、前記中央部の厚みより厚く、かつ
前記多孔質ベース部の少なくとも一表面を、X線光電子分光にて測定した時の非金属元素分(硫黄S)の相対元素濃度が、0.01atomic%以上、0.5atomic%以下である、
液式型鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項2】
前記非金属元素分(S)の相対元素濃度と非金属元素分(炭素C)の相対元素濃度との比(S)/(C)が、1.0×10-4以上、1.0×10-2以下である、
請求項1に記載の液式型鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項3】
前記側端部と前記中央部の厚みの差は、0.06mm以上、0.15mm以下である、
請求項1または2に記載の液式型鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項4】
前記側端部は、120mΩ・cm2以下の電気抵抗を有する、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液式型鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項5】
ポリオレフィン系樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ゴム、セルロース、及びセルロース誘導体の何れかまたは2種以上を含む、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液式型鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項6】
前記非金属元素分(S)の相対元素濃度が0.01atomic%以上0.5atomic%以下であることを満たす面が、前記多孔質ベース部の電極を収容する袋状に加工された時の内面である、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の液式型鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液式型鉛蓄電池用セパレータを備える液式鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な袋状セパレータの加工性及び高い電池安全性を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池の使用中に充放電を繰り返すと、電池性能は次第に低下する。電池性能が低下すると、電池の内圧が上昇することによって、正極板と負極板との間に大きな圧力が加わる場合がある。このとき、電極群は圧縮また変形を起こし易い。それによって、電極を収容した袋状のセパレータの接着部分が開いてしまうことがある。そうなると、電極板が動いて接触して短絡になる。これに対して、セパレータへのシーリング(セパレータを密封する力)を強めることで、袋状セパレータを開き難くする方法は一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-245901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
袋状セパレータを開き難くする一般的な方法に対して、特許文献1では、特定の熱融着性材料を密封型鉛蓄電池用セパレータに加えることで、シーリング強度を高めた。しかしながら、特許文献1に記載された熱融着性材料は、微細ガラス繊維不織布シートからなるセパレータにおいて有効な方法であるが、ポリオレフィンを主体とする液式鉛蓄電池用セパレータに適しない。
【0005】
本発明は、上記のような事情に基づいて完成されたものであって、良好な鉛蓄電池用袋状セパレータの加工性及び高い電池安全性を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書により開示される上記課題を解決する技術的手段を以下に例示する。
<1>
液式型鉛蓄電池用セパレータは、多孔質ベース部と、
前記多孔質ベース部の少なくとも一表面に設けられた複数のリブと
を有する液式型鉛蓄電池用セパレータであって、
前記多孔質ベース部が、
幅方向の両端に配置された側端部と、
前記側端部に挟まれた中央部と
を有し、前記側端部の厚みは、前記中央部の厚みより厚く、かつ
前記多孔質ベース部の少なくとも一表面を、X線光電子分光にて測定した時の非金属元素分(硫黄S)の相対元素濃度が0.01atomic%以上、0.5atomic%以下である、
液式型鉛蓄電池用セパレータ。
<2>
前記非金属元素分(S)の相対元素濃度と非金属元素分(炭素C)の相対元素濃度との比(S)/(C)が、1.0×10-4以上、1.0×10-2以下である、
項目<1>に記載の液式型鉛蓄電池用セパレータ。
<3>
前記側端部と前記中央部の厚みの差は、0.06mm以上、0.15mm以下である、
項目<1>または<2>に記載の液式型鉛蓄電池用セパレータ。
<4>
前記側端部は、120mΩ・cm2以下の電気抵抗を有する、
項目<1>乃至<3>のいずれか一項に記載の液式型鉛蓄電池用セパレータ。
<5>
ポリオレフィン系樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ゴム、セルロース、及びセルロース誘導体の何れかまたは2種以上を含む、
項目<1>乃至<4>のいずれか一項に記載の液式型鉛蓄電池用セパレータ。
<6>
前記非金属元素分(S)の相対元素濃度が0.01atomic%以上0.5atomic%以下であることを満たす面が、前記多孔質ベース部の電極を収容する袋状に加工された時の内面である、
項目<1>乃至<5>のいずれか一項に記載の液式型鉛蓄電池用セパレータ。
<7>
項目<1>乃至<6>のいずれか一項に記載の液式型鉛蓄電池用セパレータを備える液式鉛蓄電池。
【発明の効果】
【0007】
本明細書により開示される鉛蓄電池用セパレータによれば、袋状セパレータの加工性を保証し、かつ鉛蓄電池用セパレータを備える液式鉛蓄電池の安全性を確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本実施形態の概要)
初めに、本実施形態の鉛蓄電池用セパレータ(以下、「セパレータ」と略記することがある)の概要について説明する。本明細書により開示される液式型鉛蓄電池用セパレータは、多孔質ベース部と、前記多孔質ベース部の少なくとも一表面に設けられた複数のリブとを有し、前記多孔質ベース部が、幅方向の両端に配置された側端部と、前記側端部に挟まれた中央部とを有し、前記側端部の厚みは、前記中央部の厚みより厚く、前記多孔質ベース部の少なくとも一表面を、X線光電子分光にて測定した時の非金属元素分(S)の相対元素濃度が0.01atomic%以上、0.5atomic%以下である。
【0009】
本発明者らは、袋状セパレータの接着部分の接着向上の原因を特定しようと試みて、接着部分にセパレータの基材である熱可塑性樹脂(たとえば、ポリオレフィン系樹脂)がより多く、かつ均一に存在させることで、接着力が改善されることを突き止めた。具体的には、セパレータには熱可塑性樹脂、充填材および可塑剤は主原料として使用されており、仮に接着部分に充填材若しくは可塑剤が多く存在する場合、またはそれらの塊ができてしまう場合には、十分な熱可塑性樹脂がなく、しっかりした熱可塑性樹脂同士の接着部分が減ってしまう。一方、熱可塑性樹脂を多く、かつ均一に存在させると、熱可塑性樹脂同士の接触確率または接触面積が大幅に増え、接着力向上に繋ぐことを突き止めた。これにより、例えばギアを通すシール等のメカニカルシールにおいて、セパレータへのシーリングを維持しても開き難い電極の収容袋を作製できる。ただし、単に熱可塑性樹脂を増やすと、セパレータの電気抵抗が悪化し、次第に電気容量が低下してしまう。本発明の特徴として、本発明者らは、セパレータ中央部の厚みを変えないことで、電池全体の抵抗が著しく悪化しないことを突き止めたため、本発明への着想に至った。
【0010】
以上から、本発明者らは、接着部の熱可塑性樹脂をより厚くすることで、袋状に成型するにあたって十分な熱可塑性樹脂が接着できるようになった。更にセパレータに存在する非金属元素分(硫黄S)、例えば界面活性剤由来の非金属元素分(S)等の相対元素濃度を制御することによって、界面活性剤で可塑剤が熱可塑性樹脂全体を覆うように分散し、次第に熱可塑性樹脂が表面に均一に存在し、熱可塑性樹脂同士の接着確率を上げられた。非金属元素分(S)の相対元素濃度の制御方法として、たとえば、(i)セパレータの主原料と共に攪拌する際、添加量を調整するか、かつ/または(ii)成型したセパレータの表面にコーティングする際に、コーティング量を調整する方法等が考えられ、制御方法(i)と(ii)の両方を行なうことが好ましい。その結果、本発明で得られたセパレータは、接着部分の密封性を評価する剥離強度を著しく改善することができただけでなく、側端部の機械強度も高められた。更に、本発明によれば、中央部の厚みが維持されたままであるため、良好な電気抵抗を得つつ、側端部の接着部での開裂を防ぐことができ、実用上のセパレータ接着部の破損による電池寿命への影響が極限に減らすことができた。
【0011】
(本実施形態の詳細な説明)
本実施形態に係る液式型鉛蓄電池用セパレータは、多孔質ベース部と、前記多孔質ベース部の少なくとも一表面に設けられた複数のリブとを有し、前記多孔質ベース部が、幅方向の両端に配置された側端部と、前記側端部に挟まれた中央部とを有し、前記側端部の厚みは、前記中央部の厚みより厚く、前記多孔質ベース部の少なくとも一表面を、X線光電子分光にて測定した時の非金属元素分(硫黄S)の相対元素濃度が0.01atomic%以上、0.5atomic%以下である。
【0012】
前記非金属元素分(S)の相対元素濃度が0.01atomic%以上であるようにすることで、界面活性剤により可塑剤が熱可塑性樹脂全体を覆うように分散させることができ、その結果、本実施形態に係るセパレータは、接着部分の密封性が改善された。一方、非金属元素分(S)を過剰に添加すると、電池内で副反応を起こしてしまう恐れがあるため、前記非金属元素分(S)の相対元素濃度が0.5atomic%以下であるとよい。前記非金属元素分(S)の相対元素濃度が0.015atomic%以上、0.45atomic%以下であると好ましい。前記非金属元素分(S)の相対元素濃度が0.02atomic%以上、0.4atomic%以下であるとより好ましい。前記非金属元素分(S)の相対元素濃度が0.025atomic%以上、0.35atomic%以下であると更に好ましい。前記非金属元素分(S)の相対元素濃度が0.03atomic%以上、0.3atomic%以下であると最も好ましい。
【0013】
X線光電子分光測定において非金属元素分(S)の相対元素濃度が上記の数値範囲を満たす多孔質ベース部面は、袋状セパレータの加工性と液式型鉛蓄電池の安全性の両立のために、多孔質ベース部が電極を収容する袋状に加工された時の内面であることが好ましい。
【0014】
前記セパレータは、前記非金属元素分(S)の相対元素濃度は前記非金属元素分(C)の相対元素濃度との比(S)/(C)が1.0×10-4以上、1.0×10-2以下である。前記非金属元素分(S)の相対元素濃度は前記非金属元素分(C)の相対元素濃度との比(S)/(C)が1.0×10-4以上であるようにすることで、充填材または可塑剤の塊ができ難くなることが判明された。一方、非金属元素分(S)を過剰に添加すると、電池内で副反応を起こしてしまう恐れがあるため、前記相対元素濃度との比(S)/(C)が1.0×10-2以下であるとよい。前記相対元素濃度比(S)/(C)が2.0×10-4以上、7.0×10-3以下であると好ましい。前記相対元素濃度比(S)/(C)が3.0×10-4以上、5.0×10-3以下であるとより好ましい。
【0015】
本実施形態では、セパレータの多孔質ベース部が、幅方向の両端に配置された側端部と、側端部に挟まれた中央部とを有し、かつ多孔質ベース部において側端部が中央部より厚いことにより、セパレータを袋状にするときにシール強度を向上させて優れた加工性を確保することができる。
【0016】
前記側端部と前記中央部の厚みの差は0.06mm以上、0.15mm以下であると好ましい。前記側端部と前記中央部の厚みの差は0.06mm以上であるようにすることで、本発明の液式鉛蓄電池用セパレータを袋状にしたとき、優れた加工性を示している。一方、厚みの差が0.16mm以上になると、シーリングするにあたって十分な密封力を伝え難くなる傾向が見られるため、0.15mm以下であるとよい。前記側端部と前記中央部の厚みの差は0.07mm以上、0.13mm以下であるとより好ましい。前記側端部と前記中央部の厚みの差は0.08mm以上、0.11mm以下であると更に好ましい。
【0017】
前記側端部は、鉛蓄電池の始動性能を評価するCCA値を維持するため120mΩ・cm2以下の電気抵抗を有することが好ましく、110mΩ・cm2以下であるとより好ましい。
【0018】
本実施形態に係るセパレータは、好ましくは、ポリオレフィン系樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ゴム、合成木材パルプ(SWP)、ガラス繊維、セルロース系材料(例えば、セルロース、又はセルロース誘導体等から構成され、繊維の形態でよい)、またはそれらの組合せなどの天然または合成材料を含むことが好ましい。これにより、セパレータ全体に均一かつ微細で複雑に入り組んだ複雑な経路を有する無数の連通孔が形成された微多孔質フィルムが得られる。セパレータ全体における均一かつ微細な連通孔が形成の観点から、セパレータは、ポリオレフィン系樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ゴム、セルロース、及びセルロース誘導体の何れかまたは2種以上を含むことが、より好ましい。
【0019】
(鉛蓄電池用セパレータの製造方法)
本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータの具体的な製造方法の一例を以下に示す。
所定量のポリオレフィン樹脂、充填材、可塑剤に、各種添加剤(界面活性剤、酸化防止剤等)を加えた原材料を混合機により攪拌・混合し、原料混合物を得る。次に、この混合物を二軸押出機を用いて加熱溶融・混練しながらシート状に押し出す。この押出シートは少なくとも一方のロールに所定の溝を刻設した一対の成形ロール間を通すことで、平板状シートの少なくとも片面に所定形状のリブを一体に成形したフィルム状物を得る。次に、このフィルム状物を、適当な溶剤中に浸漬し、可塑剤の所定量を抽出除去し乾燥する。最後に添加剤をコーティングすれば、目的の微多孔質フィルムが得られる。
【0020】
前記ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等の単独重合体または共重合体およびこれらの混合物が使用できる。中でも、成形性や経済性の面で、ポリエチレンを主体とすることが好ましい。更に超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)がより好ましい。実施形態によっては、1以上の超高分子量ポリエチレンが利用される。超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は、シリカとの混合性が良好で、微多孔質フィルムにあってシリカ微粉の骨格を接着機能材料として結合させながら強度を維持するとともに、化学的に安定であり安全性が高い。
【0021】
セパレータを得る方法においては、好ましくは、上記ポリオレフィン系樹脂、フェノール樹脂、PVC、ゴム、合成木材パルプ(SWP)、ガラス繊維、セルロース系繊維、またはそれらの組合せなどの天然または合成材料に、充填材と可塑剤を添加して主体とする原料組成物を溶融混練して製膜後可塑剤の一部または全部を除去する。これにより、セパレータ全体に均一かつ微細で複雑に入り組んだ複雑な経路を有する無数の連通孔が形成された微多孔質フィルムが得られる。
【0022】
前記充填材は、シリカ、雲母、モンモリロナイト、カオリナイト、アスベスト、タルク、ケイソウ土、バーミキュライト、天然及び合成ゼオライト、セメント、ケイ酸カルシウム、クレー、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウムナトリウム、アルミニウムポリシリケート、アルミナシリカゲル、ガラス粒子、カーボンブラック、活性炭、炭素繊維、炭、黒鉛、酸化チタン、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化鉛、タングステン、酸化アンチモン、ジルコニア、マグネシア、アルミナ、二硫化モリブデン、硫化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、など、またはそれらの組合せなど使用できる。中でも、シリカが好ましく、粒子径、比表面積等の各種粉体特性の選択範囲が広く、比較的安価で入手し易く、不純物が少ない。
【0023】
前記可塑剤としては、再利用がし易い点で鉱物オイルが好ましい。可塑剤はポリマー、充填材、可塑剤の混合物から最も取り除き易い成分であるため、セパレータに多孔度を付与するのに役立つ。微多孔質フィルム製セパレータ中の可塑剤の含有量はゼロであっても構わないが、液式鉛蓄電池用セパレータにおいては、鉱物オイルのような可塑剤を適量含有させておくことで、耐酸化性の向上に寄与させることができる。このような場合、セパレータ中の可塑剤の含有量は5~30重量%とすることが好ましい。但し、可塑剤の含有量を多くすると、微多孔質フィルムの空隙率が低下し、微多孔質フィルム製セパレータの電気抵抗が悪化するため、このような観点からは、可塑剤の含有量は20重量%以下であることがより好ましい。
【0024】
前記可塑剤を抽出除去するために用いる溶剤としては、有機塩素化合物、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の飽和炭化水素系の有機溶剤を使用することができる。
【0025】
前記原料組成物または前記微多孔質フィルムには界面活性剤(親水化剤)、または必要に応じて、酸化防止剤、滑剤、抗菌剤、着色剤等の添加剤を添加または含有させてもよい。
【0026】
前記界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、アルキルアリールスルホネート塩、アルキルフェノール-アルキレンオキシド付加生成物、せっけん、アルキルナフタレンスルホン酸塩、スルホコハク酸塩のジアルキルエステル、第四級アミン、エチレンオキシド及び酸化プロピレンのブロック共重合体、及びモノ及びジアルキルホスフェートエステルの塩等の界面活性剤を含む。添加剤は、ポリオール脂肪酸エステル、ポリエトキシル化エステル、ポリエトキシル化脂肪アルコール、アルキルポリグリコシド及びそのブレンド等のアルキル多糖類、アミンエトキシレート、ソルビタン脂肪酸エステルエトキシレート、オルガノシリコーン系界面活性剤、エチレンビニルアセテートターポリマー、エトキシル化アルキルアリールリン酸エステル及びショ糖脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤を使用することができる。
【0027】
(セパレータの形態及び寸法)
前記セパレータは、直径5μm未満、好ましくは1μm未満の平均細孔サイズを有する。好ましくは、細孔の50%より多くは、直径0.5μm以下である。細孔の少なくとも90%は0.9μm未満の径を有するのが好ましい。場合によっては、セパレータは、0.01~0.3μmの範囲内の平均細孔サイズを有するのが好ましい。
【0028】
細孔サイズは、場合によっては、リッター、H.L.、及びドレイク、L.C.、産業・技術化学分析17版、787(1945)に記載の水銀圧入方法を使用して測定される。当該方法によれば、ポロシメーター(ポロシメーターモデル2000、カルロ・エルバ社)を用いて水銀にかかる圧力を変化させることにより、水銀を異なるサイズの細孔へ入れる。細孔サイズは、ポロシメーターを用いる水銀圧入方法により測定するが、細孔分布は、MILESTONE200ソフトウェアでの未分析データの評価により決定されてもよい。
【0029】
前記セパレータの中央部総厚は、好ましくは0.1mmより大きく、5.0mm以下である。セパレータの中央部総厚は、0.15~2.5mm、0.25~2.25mm、0.5~2.0mm、0.5~1.5mm、又は0.75~1.5mmの範囲内とすることができる。中央部総厚は、中央部ベース厚だけでなく、リブ高さも含むものとし、中央部ベース厚とリブ高さが最も大きくなる中央部において測定するものとする。場合によっては、セパレータは、約0.8mm又は1.1mmの厚さであり得る。
【0030】
前記セパレータの中央部ベースの厚さとしては、約0.05mm~約0.500mm(例えば、特定の実施形態においては、約0.20mm)が好ましい。
【0031】
本発明の側端部の厚さは、成型ロールの設計に準じて決めることができる。
【0032】
前記セパレータのリブ形状として、少なくとも片面に、必要に応じて、縦または横の連続また不連続の直線リブ、セレーテッドリブ、ディンプルリブ、突起など、またはそれらの組合せなど設けられることができる。中でも好ましくは、0.008mm~1mmの高さで、0.001mm~20mm離れて置かれる。実施形態によっては、リブは相互の関係が0~90度である。
【0033】
他方、セパレータの負極面(例えば負極接触面または負極対向面など)にリブ(裏リブまたは負極リブと呼ばれることがある)を設けて機械強度を高める方法があるが、実施形態によっては、負極リブを設けると熱可塑性樹脂同士の接着面積が減り、次第に剥離強度が低下する。それによって、袋状に成型した後には、接着部位の開裂を起きてしまうことがある。本発明者らは、正極面(例えばセパレータの正極接触面または正極対向面など)のリブ形状の実施形態によっては、負極面にリブを設けなくても良好な電池性能を得られることを解明している。
【0034】
(液式鉛蓄電池)
本発明のセパレータを用いた液式鉛蓄電池の実施態様として、以下の構成が好ましい。前記セパレータが、袋状をしており、必要に応じて前記正極板または負極板を収容している。
【0035】
液式鉛蓄電池の正極板、負極板、電解液、蓋、及び電槽としては、本技術分野において既知の構造を有するものを使用してよい。例えば、電解液の入った電槽に正負極板が挿入されて蓋がされたベント型鉛蓄電池に、本実施形態に係る液式型鉛蓄電池用セパレータを組み込んでよい。
【0036】
正極板を収容するセパレータに正極リブを設け、実施態様によっては負極板を収容するセパレータに負極リブを設けてもよい。
【実施例0037】
次に、本発明の実施例について、比較例とともに詳細に説明する。
【0038】
(実施例1)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量が250万の超高分子量ポリエチレン樹脂粉体30質量%と、シリカ粉体70質量%と、可塑剤としてパラフィン系鉱物オイルをミキサーにて混合してから、界面活性剤を外割で2質量%添加し、この原料組成物を先端にTダイを取り付けた二軸押出機を用い加熱溶融混練しながらシート状に押し出す。この押出シートは一方のロールに極板当接用主リブのための所定の溝を刻設した一対の成形ロールの間を通し、平板状シートの一方の面に所定形状の極板当接用主リブを一体に成形加工したフィルム状物を得た。次に、このフィルム状物をトリクロロエチレン中に浸漬し、パラフィン系鉱物オイルの所定量を抽出除去し、乾燥させて、界面活性剤の溶液をコーティング・乾燥して、中央部のベース厚さが0.20mmの微多孔質フィルムを得た。これを実施例1の液式鉛蓄電池用セパレータとした。
【0039】
(実施例2)
側端部の厚みと界面化成剤の量を調整した以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0040】
(実施例3)
側端部の厚みと界面化成剤の量を調整した以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0041】
(実施例4)
側端部の厚みと界面化成剤の量を調整した以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0042】
(実施例5)
側端部の厚みと界面化成剤の量を調整した以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0043】
(実施例6)
側端部の厚みを調整した以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0044】
(比較例1)
側端部の厚みと界面化成剤の量を調整した以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0045】
(比較例2)
側端部の厚みを調整した以外は、比較例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0046】
(比較例3)
側端部の厚み、界面化成剤とポリエチレン樹脂と鉱物オイルの比例を調整した以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0047】
(比較例4)
側端部の厚みと界面化成剤の量を調整した以外は、比較例3と同様にしてセパレータを作製した。
【0048】
(比較例5)
原料に添加した界面化成剤の量を調整し、セパレータの表面に界面活性剤をコーティングしないこと以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0049】
(比較例6)
コーティングした界面化成剤の量を調整し、原料に界面活性剤を添加しないこと以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0050】
次に、上記にて得られた実施例1から6、および比較例1から6の各セパレータについて、以下の方法により、各種特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0051】
<剥離強度>
微多孔質フィルムから、MDおよびCMD(Cross Machine Direction)方向に、80mm×150mmの長方形サイズに裁断し試験片とする。試験片はMD方向にて二折りした後に、シール試験機にて片方の側端部をシールする。次に、開口側より、MDおよびCMD方向に、30mm×150mmの長方形サイズに裁断し引張試験片とする。
Instron引張試験機を用い、試験機のつかみの間隔を約80mmとし、2層の試験片長手の両側を取り付け、毎分300mmの引張速さで引張試験を行い、試験片が切断した時の引張荷重(b)、距離(c)を読む。剥離強度は、引張荷重(b)を試験片の断面積で除して算出する。
【0052】
剥離強度は17N以上を◎、16N以上を○、16N未満を×、として袋状にしたときの開き抑止効果を評価した。16N以上の剥離強度を有していれば、電極の変形による袋破損の抑制効果が期待できる。
【0053】
<X線光電子分光>
微多孔質フィルムから、5mmの小片を切り出し、1mm×2mmのスロット型マスクを被せて測定を実施した。測定条件は以下に示す。
機械:サーモフィッシャー ESCALAB250
励起源:mono.AlK α 15kV × 10mA
分析サイズ:約1mm(形状は精円)
光電子取出角:0° (試料面に対して垂直)
【0054】
【表1】