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特開2023-20170導電性高分子およびその製造方法、導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント、導電性高分子製造用モノマー組成物、並びに電解コンデンサおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020170
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】導電性高分子およびその製造方法、導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント、導電性高分子製造用モノマー組成物、並びに電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20230202BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20230202BHJP
   C08G 61/12 20060101ALI20230202BHJP
   C08G 65/18 20060101ALI20230202BHJP
   H01G 9/028 20060101ALI20230202BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20230202BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C08L65/00
C08L71/00 Z
C08G61/12
C08G65/18
H01G9/028 G
H01G9/00 290H
H01G9/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125402
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000215800
【氏名又は名称】テイカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115901
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100078064
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 鐵雄
(72)【発明者】
【氏名】藤原 一都
(72)【発明者】
【氏名】関 恵実
【テーマコード(参考)】
4J002
4J005
4J032
【Fターム(参考)】
4J002CE001
4J002CH032
4J002EL057
4J002EV256
4J002FD202
4J002FD206
4J002FD207
4J002GQ02
4J005AA07
4J032BA03
4J032BA04
4J032BC32
4J032BD02
4J032CG01
(57)【要約】
【課題】 耐電圧性に優れた電解コンデンサおよびその製造方法、上記電解コンデンサを構成し得る導電性高分子およびその製造方法、並びに上記導電性高分子を製造するための酸化剤兼ドーパント溶液およびモノマー組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の導電性高分子は、有機スルホン酸をドーパントとして含む、チオフェンまたはその誘導体の重合体と、オキセタン化合物由来の成分またはオキセタン化合物の開環化合物由来の成分とを含有するものである。また、本発明の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液は、有機スルホン酸第二鉄と、水または低級アルコールと、オキセタン化合物またはその開環化合物とを含有するものであり、本発明のモノマー組成物は、チオフェンまたはその誘導体と、オキセタン化合物またはその開環化合物とを含有するものである。さらに、本発明の電解コンデンサは、本発明の導電性高分子を、固体電解質として有するものである。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機スルホン酸をドーパントとして含む、チオフェンまたはその誘導体の重合体と、オキセタン化合物由来の成分またはオキセタン化合物の開環化合物由来の成分とを含有することを特徴とする導電性高分子。
【請求項2】
導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパントである有機スルホン酸第二鉄と、溶媒である水または低級アルコールと、オキセタン化合物またはその開環化合物とを含有することを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液。
【請求項3】
導電性高分子製造用モノマーであるチオフェンまたはその誘導体と、オキセタン化合物またはその開環化合物とを含有することを特徴とする導電性高分子製造用モノマー組成物。
【請求項4】
有機スルホン酸第二鉄、およびオキセタン化合物またはその開環化合物の存在下で、チオフェンまたはその誘導体を化学酸化重合することを特徴とする導電性高分子の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液の存在下で、チオフェンまたはその誘導体を化学酸化重合する請求項4に記載の導電性高分子の製造方法。
【請求項6】
有機スルホン酸第二鉄の存在下で、請求項3に記載の導電性高分子製造用モノマー組成物を用いてチオフェンまたはその誘導体を化学酸化重合する請求項4に記載の導電性高分子の製造方法。
【請求項7】
固体電解質を含有する電解コンデンサであって、
請求項1に記載の導電性高分子を、上記固体電解質として有することを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項8】
固体電解質を含有する電解コンデンサを製造する方法であって、
請求項4に記載の導電性高分子の製造方法によって製造された導電性高分子を、上記固体電解質として用いることを特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐電圧性に優れた電解コンデンサおよびその製造方法、上記電解コンデンサを構成し得る導電性高分子およびその製造方法、並びに上記導電性高分子を製造するための酸化剤兼ドーパント溶液およびモノマー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、その高い導電性により、例えば、アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサなどの電解質(固体電解質)として用いられている。
【0003】
この用途における導電性高分子としては、例えば、チオフェンまたはその誘導体などを化学酸化重合または電解酸化重合することによって得られたものが用いられている。
【0004】
また、近年になって、電解コンデンサには大容量化が求められているが、これを達成するには、例えば、電解コンデンサの耐電圧性を高めることが好ましい。
【0005】
電解コンデンサの耐電圧性を高める技術として、本出願人は、3,4-エチレンジオキシチオフェンとアルキル化エチレンジオキシチオフェンとを混合した導電性高分子製造用モノマーを使用する方法や、グリシジル基を有する化合物またはその開環化合物を添加した導電性高分子用酸化剤兼ドーパント溶液を用いて導電性高分子を重合する方法を提案している(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2011/068026号
【特許文献2】国際公開第2012/023221号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特許文献1、2とは異なる手法によって耐電圧性に優れた電解コンデンサおよびその製造方法を提供すると共に、上記電解コンデンサを構成し得る導電性高分子およびその製造方法、並びに上記導電性高分子を製造するための酸化剤兼ドーパント溶液およびモノマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の導電性高分子は、有機スルホン酸をドーパントとして含む、チオフェンまたはその誘導体の重合体と、オキセタン化合物由来の成分またはオキセタン化合物の開環化合物由来の成分とを含有することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液(以下、「酸化剤兼ドーパント溶液」という場合がある)は、導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント(以下、「酸化剤兼ドーパント」という場合がある)である有機スルホン酸第二鉄と、溶媒である水または低級アルコールと、オキセタン化合物またはその開環化合物とを含有することを特徴とするものである。
【0010】
さらに、本発明の導電性高分子製造用モノマー組成物(以下、「モノマー組成物」という場合がある)は、導電性高分子製造用モノマー(以下、「モノマー」という場合がある)であるチオフェンまたはその誘導体と、オキセタン化合物またはその開環化合物とを含有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の導電性高分子は、有機スルホン酸第二鉄、およびオキセタン化合物またはその開環化合物の存在下で、チオフェンまたはその誘導体を化学酸化重合する本発明の製造方法によって製造することができる。
【0012】
また、本発明の電解コンデンサは、本発明の導電性高分子を固体電解質として有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の電解コンデンサは、本発明の導電性高分子の製造方法によって製造された導電性高分子を固体電解質として用いる本発明の製造方法によって製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐電圧性に優れた電解コンデンサおよびその製造方法、上記電解コンデンサを構成し得る導電性高分子およびその製造方法、並びに上記導電性高分子を製造するための酸化剤兼ドーパント溶液およびモノマー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<導電性高分子>
本発明の導電性高分子は、有機スルホン酸をドーパントとして含む、チオフェンまたはその誘導体の重合体と、オキセタン化合物由来の成分またはオキセタン化合物の開環化合物由来の成分とを含有する。
【0016】
上記導電性高分子は、オキセタン化合物由来の成分またはオキセタン化合物の開環化合物由来の成分の作用によって、優れた耐電圧性を有している。よって、上記導電性高分子を固体電解質に使用することで、耐電圧性に優れた電解コンデンサを得ることができる。
【0017】
導電性高分子を構成するチオフェンまたはその誘導体の重合体のモノマーであるチオフェンまたはその誘導体におけるチオフェンの誘導体としては、例えば、3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)、3-アルキルチオフェン、3-アルコキシチオフェン、3-アルキル-4-アルコキシチオフェン、3,4-アルキルチオフェン、3,4-アルコキシチオフェンや、上記の3,4-エチレンジオキシチオフェンをアルキル基で修飾したアルキル化エチレンジオキシチオフェン(アルキル化EDOT)などが挙げられ、そのアルキル基やアルコキシ基の炭素数としては、1以上であることが好ましく、また、16以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましい。
【0018】
上記のEDOTをアルキル基で修飾したアルキル化EDOTについて詳しく説明すると、EDOTやアルキル化EDOTは、下記の一般式(1)で表される化合物に該当する。
【0019】
【化1】
【0020】
一般式(1)中、Rは水素または炭素数1~10のアルキル基である。
【0021】
そして、上記一般式(1)中のRが水素の化合物がEDOTであり、これをIUPAC名称で表示すると、「2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2,3-Dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、この化合物は、IUPAC名称で表示されるよりも、一般名称の「3,4-エチレンジオキシチオフェン」で表示されることが多いので、本明細書では、この「2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン」を「3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)」と表示している。そして、上記一般式(1)中のRがアルキル基の場合、このアルキル基としては、炭素数が1~10のものが好ましく、特に炭素数が1~4のものが好ましい。つまり、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が特に好ましく、それらを具体的に例示すると、一般式(1)中のRがメチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2-メチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2-Methyl-2,3-dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本明細書では、以下、これを簡略化して「メチル化エチレンジオキシチオフェン(メチル化EDOT)」と表示する。一般式(1)の中のRがエチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2-エチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2-Ethyl-2,3-dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本明細書では、これを簡略化して「エチル化エチレンジオキシチオフェン(エチル化EDOT)」と表示する。
【0022】
一般式(1)の中のRがプロピル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2-プロピル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2-Propyl-2,3-dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本明細書では、これを簡略化して「プロピル化エチレンジオキシチオフェン(プロピル化EDOT)」と表示する。そして、一般式(1)の中のRがブチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2-ブチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2-Butyl-2,3-dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本明細書では、これを簡略化して「ブチル化エチレンジオキシチオフェン(ブチル化EDOT)」と表示する。また、「2-アルキル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン」を、本明細書では、簡略化して「アルキル化エチレンジオキシチオフェン(アルキル化EDOT)」と表示する。そして、それらのアルキル化EDOTの中でも、メチル化EDOT、エチル化EDOT、プロピル化EDOT、ブチル化EDOTが好ましい。
【0023】
そして、EDOT(すなわち、2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)とアルキル化EDOT(すなわち、2-アルキル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)とは混合して用いることが好ましく、その混合比は、モル比で0.05:1~1:0.1であることが好ましく、0.1:1~1:0.1であることがより好ましく、0.2:1~1:0.2であることがさらに好ましく、0.3:1~1:0.3であることが特に好ましい。
【0024】
導電性高分子が含有するドーパントである有機スルホン酸としては、例えば、ベンゼンスルホン酸またはその誘導体、ナフタレンスルホン酸またはその誘導体、アントラキノンスルホン酸またはその誘導体などの芳香族系スルホン酸;ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂、スチレンスルホン酸と非スルホン酸系モノマー(メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、不飽和炭化水素含有アルコキシシラン化合物またはその加水分解物など)との共重合体などの高分子スルホン酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸などの鎖状スルホン酸;などが挙げられる。
【0025】
これらの中でも、特に芳香族系スルホン酸は、よりESR(等価直列抵抗)が低く、かつ静電容量が大きいなど、コンデンサ特性の優れた電解コンデンサを製造しやすい上に、単独で用いることができることなどから好ましい。そして、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸などの鎖状スルホン酸は、芳香族系スルホン酸より酸性度が高いことから、単独で用いるより、上記芳香族系スルホン酸と併用することが好ましい。つまり、芳香族系スルホン酸は、低湿度(湿度約35%以下)下では反応が適正に進行して特性の良好な導電性高分子が得られやすいものの、高湿度(湿度約50%以上)下では反応が進み難いという性質を有している。そこで、それを鎖状スルホン酸の強い酸性度で改善して反応を適正に進行させることができるからである。
【0026】
また、ベンゼンスルホン酸またはその誘導体におけるベンゼンスルホン酸誘導体としては、例えば、トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、プロピルベンゼンスルホン酸、ブチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、メトキシベンゼンスルホン酸、エトキシベンゼンスルホン酸、プロポキシベンゼンスルホン酸、ブトキシベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸などが挙げられる。さらに、ナフタレンスルホン酸またはその誘導体におけるナフタレンスルホン酸誘導体としては、例えば、ナフタレンジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、エチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸などが挙げられる。また、アントラキノンスルホン酸またはその誘導体におけるアントラキノンスルホン酸誘導体としては、例えば、アントラキノンジスルホン酸、アントラキノントリスルホン酸などが挙げられる。これらの芳香族系スルホン酸の中でも、トルエンスルホン酸、メトキシベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸などが好ましく、パラトルエンスルホン酸、メトキシベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸がより好ましく、パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸がさらに好ましい。
【0027】
導電性高分子は、オキセタン化合物由来の成分、またはオキセタン化合物の開環化合物由来の成分を含有する。本発明の導電性高分子は、オキセタン化合物またはその開環化合物の共存下でチオフェンまたはその誘導体を化学酸化重合することで製造できるが、この重合の際にオキセタン化合物またはその開環化合物が反応して別の化合物となっている可能性がある。しかしながら、オキセタン化合物またはその開環化合物が、チオフェンまたはその誘導体の化学酸化重合後に、どのような構造で存在しているかを把握することは困難であるため、本発明では、オキセタン化合物由来の成分、またはオキセタン化合物の開環化合物由来の成分として特定する。導電性高分子が含有するオキセタン化合物由来の成分およびオキセタン化合物の開環化合物由来の成分には、オキセタン化合物やその開環化合物のほか、これらの分子同士の反応物や、これらとチオフェンまたはその誘導体の重合物との反応物などが含まれる。
【0028】
導電性高分子の製造に使用するオキセタン化合物としては、例えば、下記一般式(2)や下記一般式(3)で表されるものが挙げられる。
【0029】
【化2】
【0030】
上記一般式(2)中、RおよびRは、それぞれ、水素原子、または炭素数が1~4で、酸素を含んでもよい炭化水素基である。
【0031】
【化3】
【0032】
上記一般式(3)中、Rは1つまたは2つのベンゼン環と、前記ベンゼン環を構成しない2つの炭素とを含み、かつ酸素を含んでもよい炭化水素基で、nは1~3の整数であり、RおよびRは、それぞれ、水素原子、または炭素数が1~4で、酸素を含んでもよい炭化水素基である。
【0033】
導電性高分子の製造に使用するオキセタン化合物の開環化合物としては、上記一般式(2)で表されるオキセタン化合物の環が開いた化合物(開環化合物)や、上記一般式(3)で表されるオキセタン化合物の環が開いた化合物(開環化合物)などが挙げられる。
【0034】
上記一般式(2)で表されるオキセタン化合物およびその開環化合物の具体例としては、3-メチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチルメタクリレート、3-エチル-3-(4-ヒドロキシブチルオキシメチル)オキセタン;これらの開環化合物;などが挙げられる。
【0035】
また、上記一般式(3)で表されるオキセタン化合物およびその開環化合物の具体例としては、4,4’-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メチル]イソフタレート;これらの開環化合物;などが挙げられる。
【0036】
導電性高分子の製造時には、上記例示のオキセタン化合物およびその開環化合物のうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
導電性高分子における有機スルホン酸の量は、後述する導電性高分子の製造方法において記載する有機スルホン酸第二鉄とモノマーとの好適比率を満たして得られる導電性高分子が含有する量であればよい。また、導電性高分子におけるオキセタン化合物由来の成分またはオキセタン化合物の開環化合物由来の成分の含有量は、後述する導電性高分子の製造方法において記載する有機スルホン酸第二鉄に対するオキセタン化合物またはその開環化合物の好適比率を満たして得られる導電性高分子が含有する量であればよい。
【0038】
本発明の導電性高分子は、有機スルホン酸第二鉄、およびオキセタン化合物またはその開環化合物の存在下で、チオフェンまたはその誘導体を化学酸化重合することによって製造することができる。
【0039】
有機スルホン酸第二鉄は、導電性高分子製造用の酸化剤兼ドーパントとして機能する。有機スルホン酸第二鉄を構成する有機スルホン酸としては、導電性高分子用のドーパントとして先に例示した各種有機スルホン酸が挙げられる。
【0040】
有機スルホン酸第二鉄は、その鉄に対する有機スルホン酸のモル比が1:3より有機スルホン酸が少ないものが好ましい。これは鉄に対する有機スルホン酸のモル比を、その化学量論的モル比である1:3より有機スルホン酸を少なくすることによって、その有機スルホン酸第二鉄の反応速度を若干低減できるからであり、鉄に対する有機スルホン酸のモル比が、1:2程度のものまでが好ましく、1:2.2程度、特に1:2.4程度のものまでがより好ましく、1:2.75程度のものまでがさらに好ましい。
【0041】
導電性高分子は、(a)モノマーであるチオフェンまたはその誘導体、有機スルホン酸第二鉄、およびオキセタン化合物またはその開環化合物を含有する重合溶液を調製してモノマーを化学酸化重合する方法;(b)基材(電解コンデンサのコンデンサ素子など)を上記重合溶液に浸漬し、引き上げた後にモノマーを化学酸化重合する方法;(c)モノマーを溶媒で希釈しておき、そのモノマー溶液に基材を浸漬し、引き上げて乾燥してから、その基材を酸化剤兼ドーパント溶液(後述する)に浸漬し、引き上げた後にモノマーを化学酸化重合する方法;(d)基材を酸化剤兼ドーパント溶液に浸漬し、引き上げて乾燥してから、その基材をモノマー(またはモノマー溶液)に浸漬し、引き上げた後にモノマーを化学酸化重合する方法;(e)基材をモノマー組成物(後述する)に浸漬し、引き上げて乾燥してから、その基材を有機スルホン酸第二鉄と溶媒(水または低級アルコール)とを含む溶液に浸漬し、引き上げた後にモノマーを化学酸化重合する方法;(f)基材を有機スルホン酸第二鉄と溶媒(水または低級アルコール)とを含む溶液に浸漬し、引き上げて乾燥してから、その基材をモノマー組成物(後述する)に浸漬し、引き上げた後にモノマーを化学酸化重合する方法;などによって製造することができる。化学酸化重合は、例えば、5~95℃で、1~72時間の条件で行われる。
【0042】
導電性高分子を製造するにあたっては、有機スルホン酸第二鉄とモノマーとのモル比が、有機スルホン酸第二鉄:モノマー=2:1~15:1であることが好ましい。また、重合溶液におけるモノマーの含有量は、例えば、20~40質量%であることが好ましい。さらに、重合溶液における有機スルホン酸第二鉄の含有量は、例えば、20~50質量%であることが好ましい。
【0043】
さらに、重合溶液においては、導電性高分子の耐電圧性をより高める観点から、オキセタン化合物およびその開環化合物の含有量(濃度)が、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。なお、重合溶液中のオキセタン化合物およびその開環化合物の量が多すぎると、初期特性が低下する虞があることから、重合溶液におけるオキセタン化合物およびその開環化合物の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
また、導電性高分子を製造するにあたっては、有機スルホン酸第二鉄100質量部に対するオキセタン化合物およびその開環化合物の比率が、0.2~50質量部であることが好ましい。
【0045】
モノマーとなるチオフェンやその誘導体は常温で液状なので、重合にあたって、そのまま用いることができるが、重合反応をよりスムーズに進行させるために、重合溶液に水または低級アルコールを溶媒として用いてもよい。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールといった炭素数が1~4のアルコールが挙げられる。重合溶液の溶媒には、上記例示の各種溶媒のうちの1種のみを使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0046】
導電性高分子の製造に際しては、酸化剤兼ドーパントである有機スルホン酸第二鉄と、溶媒である水または低級アルコールと、オキセタン化合物またはその開環化合物とを含有する本発明の酸化剤兼ドーパント溶液を使用することができる。
【0047】
酸化剤兼ドーパント溶液の溶媒には、水または低級アルコール(重合溶液と同じもの)が使用できる。
【0048】
酸化剤兼ドーパント溶液においては、導電性高分子の耐電圧性をより高める観点から、オキセタン化合物およびその開環化合物の含有量(濃度)が、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。なお、酸化剤兼ドーパント溶液中のオキセタン化合物およびその開環化合物の量が多すぎると、初期特性が低下する虞があることから、酸化剤兼ドーパント溶液におけるオキセタン化合物およびその開環化合物の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
さらに、酸化剤兼ドーパント溶液における有機スルホン酸第二鉄の含有量は、導電性高分子の合成の際の酸化剤としての機能が良好に発揮できるようにすると共に、ドーパントとしての十分に作用できる量が合成される導電性高分子中に含まれ得るようにする観点から、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。ただし、酸化剤兼ドーパント溶液中の有機スルホン酸第二鉄の量が多すぎると、有機スルホン酸第二鉄を溶液中に良好に溶解させることが困難になる虞がある。よって、酸化剤兼ドーパント溶液における有機スルホン酸第二鉄の含有量は、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
酸化剤兼ドーパント溶液を用いて導電性高分子を製造する場合には、上記(c)または(d)の方法が採用できるほか、酸化剤兼ドーパント溶液に、チオフェンまたはその誘導体をそのまま添加するか、チオフェンまたはその誘導体を水または低級アルコールで希釈した溶液を添加して、重合溶液を調製し、これを上記(a)または(b)の方法に供してもよい。
【0051】
また、導電性高分子の製造に際しては、モノマーであるチオフェンまたはその誘導体と、オキセタン化合物またはその開環化合物とを含有する本発明のモノマー組成物を使用することもできる。
【0052】
モノマー組成物は、チオフェンまたはその誘導体、およびオキセタン化合物またはその開環化合物のみで構成することもできるが、さらに溶媒として水または低級アルコール(重合溶液と同じもの)を使用することもできる。
【0053】
モノマー組成物においては、導電性高分子の耐電圧性をより高める観点から、オキセタン化合物およびその開環化合物の含有量(濃度)が、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。なお、モノマー組成物中のオキセタン化合物およびその開環化合物の量が多すぎると、初期特性が低下する虞があることから、モノマー組成物におけるオキセタン化合物およびその開環化合物の含有量は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0054】
また、モノマー組成物におけるチオフェンまたはその誘導体の含有量は、例えば、10~80質量%であることが好ましい。
【0055】
モノマー組成物を用いて導電性高分子を製造する場合には、上記(e)または(f)の方法が採用できるほか、モノマー組成物に、有機スルホン酸第二鉄をそのまま添加するか、有機スルホン酸第二鉄を水または低級アルコールで希釈した溶液を添加して、重合溶液を調製し、これを上記(a)または(b)の方法に供してもよい。
【0056】
上記(e)または(f)の方法で使用する有機スルホン酸第二鉄と水または低級アルコールとを含む溶液においては、有機スルホン酸第二鉄の濃度が30~65質量%であることが好ましい。
【0057】
また、重合溶液、酸化剤兼ドーパント溶液およびモノマー組成物には、上記の各成分以外にも、必要に応じて他の添加剤を加えてもよい。このような添加剤としては、例えば、グリシジル基(エポキシ基)を有する化合物またはその開環化合物;シランカップリング剤などの高分子化化合物;ポリシロキサン、アルコール可溶性樹脂、ポリエチレングリコールなどの高分子;などが挙げられる。
【0058】
グリシジル基を有する化合物またはその開環化合物としては、以下に示すモノグリシジル化合物、以下に示すジグリシジル化合物、グリセリンジグリシジルエーテル、ジグリセリンテトラグリシジルエーテル、アルコール可溶性エポキシ樹脂、アルコール可溶性ポリグリセリンポリグリシジルやそれらの開環化合物、エポキシポリシロキサン(上記の「ポリシロキサン」とは「シロキサン結合が2つ以上のもの」をいう)またはその開環化合物などが好適なものとして挙げられる。
【0059】
上記モノグリシジル化合物としては、エポキシプロパノール(つまり、グリシドール)、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、エポキシブタン(つまり、グリシジルメタン)、エポキシペンタン(つまり、グリシジルエタン)、エポキシヘキサン(つまり、グリシジルプロパン)、エポキシヘプタン(つまり、グリシジルブタン)、エポキシオクタン(つまり、グリシジルペンタン)、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、メタクリル酸グリシジルなどが挙げられる。
【0060】
また、上記ジグリシジル化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブチレングリコールジグリシジルエーテル、ペンチレングリコールジグリシジルエーテル、ヘキシレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0061】
導電性高分子を製造するにあたって使用するグリシジル基を有する化合物またはその開環化合物の量は、有機スルホン酸第二鉄の量を100質量部としたとき、5~100質量部とすることが好ましい。
【0062】
重合溶液は、上記の通り、あらかじめ調製しておいた酸化剤兼ドーパント溶液にモノマーなどを混合して調製してもよく、また、あらかじめ調製しておいたモノマー組成物に有機スルホン酸第二鉄や溶媒などを混合して調製してもよい。さらに、モノマー、有機スルホン酸第二鉄およびオキセタン化合物またはその開環化合物、および溶媒などを混合して重合溶液を調製してもよい。
【0063】
<電解コンデンサ>
本発明の電解コンデンサは、本発明の導電性高分子を固体電解質として有するものである。
【0064】
本発明の電解コンデンサには、巻回型アルミニウム電解コンデンサ、積層型もしくは平板型アルミニウム電解コンデンサといったアルミニウム電解コンデンサ;タンタル電解コンデンサ;ニオブ電解コンデンサ;などが含まれる。
【0065】
例えば巻回型アルミニウム電解コンデンサの場合、そのコンデンサ素子としては、アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理して誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して作製したものを使用することが好ましい。
【0066】
そして、上記コンデンサ素子を用いての巻回型アルミニウム電解コンデンサの製造は、例えば、次のように行われる。
【0067】
上記コンデンサ素子の表面に、例えば上記(b)~(f)のいずれかの方法によって導電性高分子からなる固体電解質層を形成する。そして、固体電解質層を形成したコンデンサ素子を外装材で外装して、巻回型アルミニウム電解コンデンサを製造する。
【0068】
上記巻回型アルミニウム電解コンデンサ以外の電解コンデンサ、例えば、積層型もしくは平板型アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサなどの製造にあたっては、コンデンサ素子としてアルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁金属の多孔体からなる陽極と、それらの弁金属の酸化被膜からなる誘電体層を有するものを用い、そのコンデンサ素子を、上記巻回型アルミニウム電解コンデンサの場合と同様に、例えば上記(b)~(f)のいずれかの方法によって導電性高分子からなる固体電解質層を形成する。そして、固体電解質層を形成したコンデンサ素子にカーボンペースト、銀ペーストを付け、乾燥した後、外装することによって、積層型もしくは平板型アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサなどを製造する。
【0069】
コンデンサ素子の表面での導電性高分子の製造は、必要に応じて数回繰り返すことができる。
【0070】
また、電解コンデンサの製造にあたっては、上記のように、基材上に導電性高分子を製造した後、その導電性高分子上にπ共役系導電性高分子の分散液を用いて層を形成して、その両者で固体電解質を構成した電解コンデンサとしてもよい。
【0071】
上記のπ共役系導電性高分子としては、ポリマーアニオンをドーパントとして用いたπ共役系導電性高分子が用いられる。このポリマーアニオンは、主として高分子スルホン酸で構成されるが、その具体例としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエステル、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂、スチレンスルホン酸と非スルホン酸系モノマー(メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび不飽和炭化水素含有アルコキシシラン化合物またはその加水分解物など)との共重合体などが挙げられる。
【0072】
また、電解コンデンサの固体電解質には、沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤または沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤とヒドロキシル基またはカルボキシル基を少なくとも1つ有する芳香族系化合物とを含む導電性補助液を含ませることもできる。
【0073】
上記導電性補助液に使用可能な沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤としては、例えば、γ-ブチロラクトン(沸点:203℃)、ブタンジオール(沸点:230℃)、ジメチルスルホキシド(沸点:189℃)、スルホラン(沸点:285℃)、N-メチルピロリドン(沸点:202℃)、ジメチルスルホラン(沸点:233℃)、エチレングリコール(沸点:198℃)、ジエチレングリコール(沸点:244℃)、リン酸トリエチル(沸点:215℃)、リン酸トリブチル(289℃)、リン酸トリエチルヘキシル〔215℃(4mmHg)〕、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0074】
また、上記の、ヒドロキシル基(芳香環の構成炭素に結合するヒドロキシル基をいい、カルボキシル基中などの-OH部分を意味するものではない)またはカルボキシル基を少なくとも1つ有する芳香族系化合物としては、ベンゼン系のもの、ナフタレン系のもの、アントラセン系のもののいずれも用いることができ、その具体例としては、例えば、ヒドロキシベンゼンカルボン酸、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール、アミノニトロフェノール、ヒドロキシアニソール、ヒドロキシジニトロベンゼン、ジヒドロキシジニトロベンゼン、アルキルヒドロキシアニソール、ヒドロキシニトロアニソール、ヒドロキシニトロベンゼンカルボン酸(つまり、ヒドロキシニトロ安息香酸)、ジヒドロキシニトロベンゼンカルボン酸(つまり、ジヒドロキシニトロ安息香酸)、フェノール、ジヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシベンゼンカルボン酸、トリヒドロキシベンゼンカルボン酸、ヒドロキシベンゼンジカルボン酸、ジヒドロキシベンゼンジカルボン酸、ヒドロキシトルエンカルボン酸、ニトロナフトール、アミノナフトール、ジニトロナフトール、ヒドロキシナフタレンカルボン酸、ジヒドロキシナフタレンカルボン酸、トリヒドロキシナフタレンカルボン酸、ヒドロキシナフタレンジカルボン酸、ジヒドロキシナフタレンジカルボン酸、ヒドロキシアントラセン、ジヒドロキシアントラセン、トリヒドロキシアントラセン、テトラヒドロキシアントラセン、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシアントラセンジカルボン酸、ジヒドロキシアントラセンジカルボン酸、テトラヒドロキシアントラセンジオン、ベンゼンカルボン酸、ベンゼンジカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。
【0075】
また、上記沸点が150℃以上の高沸点有機溶剤または導電性補助液にエポキシ化合物またはその加水分解物、シラン化合物またはその加水分解物およびポリアルコールよりなる群から選ばれる少なくとも1種の結合剤を含有させることもできる。
【0076】
本発明の電解コンデンサは、従来から知られている電解コンデンサと同じ用途に適用できるが、耐電圧性に優れており、またこれによって高容量とすることが可能であることから、こうした特性が求められる用途にも好ましく適用できる。また、本発明の導電性高分子は、電解コンデンサの固体電解質として好適である。さらに、本発明の導電性高分子製造用酸化剤兼ドーパント溶液および本発明の導電性高分子製造用モノマー組成物は、耐電圧性に優れた電解コンデンサの固体電解質を構成する導電性高分子の製造に適している。
【実施例0077】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0078】
〔酸化剤兼ドーパント溶液の調製〕
実施例1
濃度が60質量%となる量のパラトルエンスルホン酸第二鉄(PTS)と、濃度が0.5質量%となる量の3-メチル-3-ヒドロキシメチルオキセタンと、水とを混合して、酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0079】
実施例2
3-メチル-3-ヒドロキシメチルオキセタンの濃度を1質量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0080】
実施例3
濃度が40質量%となる量のPTSと、濃度が3質量%となる量の3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタンと、メタノールとを混合して、酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0081】
実施例4
3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタンに代えて濃度が10質量%となる量の(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチルメタクリレートを用い、メタノールに代えてエタノールを用いた以外は、実施例3と同様にして酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0082】
実施例5
濃度が40質量%となる量のナフタレンスルホン酸第二鉄(NS)と、濃度が10質量%となる量の4,4’-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニルと、エタノールとを混合して、酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0083】
実施例6
濃度が40質量%となる量のNSと、濃度が10質量%となる量の3-エチル-3-(4-ヒドロキシブチルオキシメチル)オキセタンと、ブタノールとを混合して、酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0084】
実施例7
濃度が40質量%となる量のNSと、濃度が20質量%となる量のビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メチル]イソフタレートと、ブタノールとを混合して、酸化剤兼ドーパント溶液を調製した。
【0085】
比較例1
濃度が40質量%となる量のPTSとエタノールとを混合して、酸化剤兼ドーパント溶液〔以下、「酸化剤兼ドーパント溶液(X)」という場合がある〕を調製した。
【0086】
実施例1~7および比較例1の酸化剤兼ドーパント溶液の構成を表1に示す。なお、表1のオキセタン化合物の欄における「有機スルホン酸第二鉄に対する比率」は、有機スルホン酸第二鉄100質量部に対するオキセタン化合物の比率(質量部)を意味している。また、表1におけるオキセタン化合物の欄の記載は、以下の通りである(後記の表3においても同様である)。
A : 3-メチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン
B : 3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン
C : (3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチルメタクリレート
D : 4,4’-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル
E : 3-エチル-3-(4-ヒドロキシブチルオキシメチル)オキセタン
F : ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メチル]イソフタレート
【0087】
【表1】
【0088】
〔電解コンデンサの作製〕
実施例8
表面をエッチング処理したアルミニウム箔を12質量%濃度のアジピン酸アンモニウム水溶液中に浸漬し、この状態でアルミニウム箔に70Vの電圧を印加してアルミニウム箔の表面に誘電体層を形成して陽極とし、この陽極にリード体を取り付けた。また、アルミニウム箔からなる陰極にリード体を取り付けた。これらの陽極と陰極とを、セパレータを介して重ね合わせて巻回して、巻回型アルミニウム電解コンデンサ用のコンデンサ素子を作製した。
【0089】
EDOTとブチル化EDOTとの1:1(質量比)の混合物(モノマー):20gにメタノール:80gを添加して調製したモノマー溶液に、上記コンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、50℃で10分間乾燥した。その後、実施例1の酸化剤兼ドーパント溶液に上記コンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、70℃で2時間加熱し、さらに180℃で1時間加熱することで、モノマーを重合させて、EDOTとブチル化EDOTとの共重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質層を、上記コンデンサ素子の表面に形成した。このコンデンサ素子を外装体で外装して、設定静電容量が35μF以上で、設定ESRが19mΩ以下の巻回型アルミニウム電解コンデンサを作製した。
【0090】
実施例9~14および比較例2
酸化剤兼ドーパント溶液を実施例2~7または比較例1のものに変更した以外は、実施例8と同様にして巻回型アルミニウム電解コンデンサを作製した。
【0091】
実施例8~14および比較例2の巻回型アルミニウム電解コンデンサについて、CAP(静電容量)、ESRおよびBDV(破壊電圧)を、それぞれ下記の方法で測定した。
【0092】
(CAP)
HEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃の条件下で、120Hzで測定した。
【0093】
(ESR)
HEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃の条件下で、100kHzで測定した。
【0094】
(BDV)
松定プレシジョン社製の「PRK650-2.5」を用い、25℃の条件下で、電圧を1V/分の速度で上昇させることによって測定した。
【0095】
上記の測定は、各試料とも10個ずつについて行った。これらの結果を表2に示す。表2では、CAPおよびESRに関しては10個の測定値の小数点第2位で四捨五入した平均値を示し、BDVに関しては10個の測定値の小数点以下を四捨五入した平均値を示している。
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示す通り、有機スルホン酸第二鉄およびオキセタン化合物を添加した酸化剤兼ドーパント溶液を用いて得られ、オキセタン化合物由来の成分とドーパントである有機スルホン酸とを含む導電性高分子を固体電解質とした実施例8~14の巻回型アルミニウム電解コンデンサは、オキセタン化合物由来の成分を含有しない導電性高分子を固体電解質とした比較例2の電解コンデンサに比べて、BDVが高く、優れた耐電圧性を有していた。
【0098】
〔モノマー組成物の調製〕
実施例15
濃度が19.9質量%となる量のEDOTと、濃度が0.1質量%となる量の3-メチル-3-ヒドロキシメチルオキセタンと、メタノールとを混合して、モノマー組成物を調製した。
【0099】
実施例16
EDOTの濃度を19.8質量%に変更し、3-メチル-3-ヒドロキシメチルオキセタンの濃度を0.2質量%に変更した以外は、実施例15と同様にしてモノマー組成物を調製した。
【0100】
実施例17
濃度が19.4質量%となる量の、EDOTとエチル化EDOTとの1:1(質量比)の混合物と、濃度が0.6質量%となる量の3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタンと、メタノールとを混合して、モノマー組成物を調製した。
【0101】
実施例18
濃度が18質量%となる量の、EDOTとエチル化EDOTとの1:1(質量比)の混合物と、濃度が2質量%となる量の(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチルメタクリレートと、メタノールとを混合して、モノマー組成物を調製した。
【0102】
実施例19
濃度が18質量%となる量の、EDOTとプロピル化EDOTとの1:1(質量比)の混合物と、濃度が2質量%となる量の4,4’-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニルと、メタノールとを混合して、モノマー組成物を調製した。
【0103】
実施例20
濃度が16質量%となる量の、EDOTとプロピル化EDOTとの1:1(質量比)の混合物と、濃度が4質量%となる量の3-エチル-3-(4-ヒドロキシブチルオキシメチル)オキセタンと、メタノールとを混合して、モノマー組成物を調製した。
【0104】
実施例21
濃度が14質量%となる量の、EDOTとブチル化EDOTとの1:1(質量比)の混合物と、濃度が6質量%となる量のビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メチル]イソフタレートと、メタノールとを混合して、モノマー組成物を調製した。
【0105】
実施例15~21のモノマー組成物の構成を表3に示す。なお、表3における「EDOT/Et-EDOT」は、EDOTとエチル化EDOTとの混合物を、「EDOT/Pr-EDOT」は、EDOTとプロピル化EDOTとの混合物を、「EDOT/Bu-EDOT」は、EDOTとブチル化EDOTとの混合物を、それぞれ意味している。
【0106】
【表3】
【0107】
〔電解コンデンサの作製〕
実施例22
実施例8と同様にして作製したコンデンサ素子を、実施例15のモノマー組成物に浸漬し、引き上げた後、50℃で10分間乾燥した。その後、比較例1で調製したものと同じ酸化剤兼ドーパント溶液(X)に上記コンデンサ素子を浸漬し、引き上げた後、70℃で2時間加熱し、さらに180℃で1時間加熱することで、モノマーを重合させて、EDOTの重合体をポリマー骨格とする導電性高分子からなる固体電解質層を、上記コンデンサ素子の表面に形成した。このコンデンサ素子を外装体で外装して、設定静電容量が35μF以上で、設定ESRが19mΩ以下の巻回型アルミニウム電解コンデンサを作製した。
【0108】
実施例23~25
モノマー組成物を実施例16~18のものに変更した以外は、実施例22と同様にして巻回型アルミニウム電解コンデンサを作製した。
【0109】
実施例26
PTSをNSに変更した以外は比較例1と同様にして、酸化剤兼ドーパント溶液(Y)を調製した。そして、モノマー組成物を実施例19のものに変更し、酸化剤兼ドーパント溶液(X)を酸化剤兼ドーパント溶液(Y)に変更した以外は、実施例22と同様にして巻回型アルミニウム電解コンデンサを作製した。
【0110】
実施例27、28
モノマー組成物を実施例20、21のものに変更した以外は、実施例26と同様にして巻回型アルミニウム電解コンデンサを作製した。
【0111】
比較例3
酸化剤兼ドーパント溶液(X)に代えて酸化剤兼ドーパント溶液(Y)を用いた以外は、比較例2と同様にして巻回型アルミニウム電解コンデンサを作製した。
【0112】
実施例22~28および比較例3の巻回型アルミニウム電解コンデンサについて、実施例8の電解コンデンサなどと同様にして、CAP、ESRおよびBDVを測定した。これらの結果を表4に示す。表4における酸化剤兼ドーパント溶液の欄の「X」は酸化剤兼ドーパント溶液(X)を意味し、「Y」は酸化剤兼ドーパント溶液(Y)を意味している。また、表4の比較例3におけるモノマー組成物の欄の「-」はモノマー組成物を使用しなかったことを意味しているが、この比較例3では、上記の通り、オキセタン化合物を添加していないEDOTとブチル化EDOTとの混合物を、モノマー組成物に代えて使用した。
【0113】
【表4】
【0114】
表4に示す通り、オキセタン化合物を添加したモノマー組成物を用いて得られ、オキセタン化合物由来の成分とドーパントである有機スルホン酸とを含む導電性高分子を固体電解質とした実施例22~28の巻回型アルミニウム電解コンデンサは、オキセタン化合物由来の成分を含有しない導電性高分子を固体電解質とした比較例3の電解コンデンサに比べて、BDVが高く、優れた耐電圧性を有していた。