IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝キヤリア株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-圧縮機および冷凍サイクル装置 図1
  • 特開-圧縮機および冷凍サイクル装置 図2
  • 特開-圧縮機および冷凍サイクル装置 図3
  • 特開-圧縮機および冷凍サイクル装置 図4
  • 特開-圧縮機および冷凍サイクル装置 図5
  • 特開-圧縮機および冷凍サイクル装置 図6
  • 特開-圧縮機および冷凍サイクル装置 図7
  • 特開-圧縮機および冷凍サイクル装置 図8
  • 特開-圧縮機および冷凍サイクル装置 図9
  • 特開-圧縮機および冷凍サイクル装置 図10
  • 特開-圧縮機および冷凍サイクル装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020173
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】圧縮機および冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 29/00 20060101AFI20230202BHJP
   F04C 18/356 20060101ALI20230202BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
F04C29/00 U
F04C18/356 D
F04C18/356 P
F04C29/00 D
F04B39/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125409
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅利 峻
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 哲永
(72)【発明者】
【氏名】平山 卓也
【テーマコード(参考)】
3H003
3H129
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB04
3H003AC03
3H003AD03
3H003CB00
3H129AA04
3H129AA13
3H129AB03
3H129BB44
3H129CC05
3H129CC38
3H129CC39
(57)【要約】
【課題】 軽量化と信頼性を両立することが可能な圧縮機および当該圧縮機を備える冷凍サイクル装置を提供する。
【解決手段】 一実施形態に係る圧縮機は、冷媒を圧縮する圧縮機構部と、前記圧縮機構部を駆動する電動機部と、を備えている。前記圧縮機構部は、第1摺動面を有する第1部材と、前記電動機部による駆動時に前記第1摺動面と摺動する第2摺動面を有する第2部材と、を備えている。前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方は、樹脂材料で形成されている。前記第1摺動面および前記第2摺動面の少なくとも一方には、硬さを増加させる表面処理が施されている。さらに、前記樹脂材料の圧縮強度は、前記第1摺動面と前記第2摺動面の接触面圧以上である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機構部と、前記圧縮機構部を駆動する電動機部と、を備えた圧縮機であって、
前記圧縮機構部は、
第1摺動面を有する第1部材と、
前記電動機部による駆動時に前記第1摺動面と摺動する第2摺動面を有する第2部材と、
を備え、
前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方は、樹脂材料で形成され、
前記第1摺動面および前記第2摺動面の少なくとも一方には、硬さを増加させる表面処理が施され、
前記樹脂材料の圧縮強度は、前記第1摺動面と前記第2摺動面の接触面圧以上である、
圧縮機。
【請求項2】
前記圧縮機構部は、
シリンダ室を形成するシリンダと、
前記シリンダ室内に配置される偏心部を有する回転軸と、
前記偏心部に嵌められ、前記シリンダ室内で前記回転軸の回転中心に対して偏心回転する筒状のローラと、
前記ローラの外周面と摺動する先端面を有し、前記シリンダ室を吸込室と圧縮室とに区画するベーンと、
を備え、
前記第1部材は、前記ベーンであり、
前記第2部材は、前記ローラである、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記ローラが前記樹脂材料で形成され、
前記ベーンの前記先端面に前記表面処理が施されている、
請求項2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記接触面圧は、当該圧縮機または当該圧縮機を含む冷凍サイクルにおける前記冷媒の設計圧力と大気圧の差を最大値として、ヘルツの接触理論に基づき算出されるヘルツ接触面圧である、
請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記樹脂材料は、強化繊維を含む、
請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記樹脂材料は、熱硬化性樹脂である、
請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記樹脂材料は、フェノール樹脂である、
請求項6に記載の圧縮機。
【請求項8】
前記冷媒は、R1234yf単体、または、R1234yfを主成分とし少なくともR32を含む冷媒である、
請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項9】
請求項1乃至8のうちいずれか1項に記載の圧縮機と、
前記圧縮機に接続された凝縮器と、
前記凝縮器に接続された膨張装置と、
前記膨張装置に接続された蒸発器と、
を備える冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、圧縮機および冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、冷凍サイクルで使用される冷媒の低GWP(地球温暖化係数)化の要求が高まっている。GWPが低い冷媒の多くは体積流量あたりの能力が低いため、このような冷媒を用いる場合には、圧縮機における排除容積を大きくするか、あるいは圧縮機の回転数を増加させる必要が生じる。
【0003】
小型の空気調和機の多くや、一部の大型の空気調和機で用いられるロータリ式の圧縮機においては、回転軸に嵌められたローラがシリンダ室で偏心回転する。そのため、排除容積を大きくする場合には、偏心量の増加による回転軸の剛性不足、振動の悪化、さらにはロータに設けられるバランサの大型化による製造コストの増加などの種々の課題が生じ得る。これら課題の解決策の一つとして、圧縮機構部を構成する部材を軽量化することが挙げられる。
【0004】
従来、圧縮機において駆動時に摺動する部材は金属で形成されている。例えばロータリ式の圧縮機において、ローラおよびローラの外周面と摺動するベーンは、主としてモニクロ鋳鉄(モリブデン、ニッケル、クロムを含有する鋳鉄)などの鋳鉄や高速工具鋼のような鉄系材料で形成されている。
【0005】
近年では、例えば特許文献1のように、ローラおよびベーンなどの部材を軽量化すべく、これら部材をAl-Si(アルミニウム-シリコン)合金鋳物で成形することも提案されている。しかしながら、Al-Si合金鋳物の比重は一般に2.6~3.0程度であり、従来の鉄系材料に比べれば軽量化され得るが、さらなる軽量化は難しい。すなわち、軽量化のためには例えば比重が1.0以下のSi添加量を増加させる必要があるが、Siを多量に添加すると初晶Siのサイズが大きくなることで分散量も増加し、結果として応力集中による高温強度低下等を招く(例えば特許文献2を参照)。実用上は、19wt%のSi添加量が限界である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6028832号公報
【特許文献2】特開平8-134578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、軽量化と信頼性を両立することが可能な圧縮機および当該圧縮機を備える冷凍サイクル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係る圧縮機は、冷媒を圧縮する圧縮機構部と、前記圧縮機構部を駆動する電動機部と、を備えている。前記圧縮機構部は、第1摺動面を有する第1部材と、前記電動機部による駆動時に前記第1摺動面と摺動する第2摺動面を有する第2部材と、を備えている。前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方は、樹脂材料で形成されている。前記第1摺動面および前記第2摺動面の少なくとも一方には、硬さを増加させる表面処理が施されている。さらに、前記樹脂材料の圧縮強度は、前記第1摺動面と前記第2摺動面の接触面圧以上である。
【0009】
一実施形態に係る冷凍サイクル装置は、前記圧縮機と、前記圧縮機に接続された凝縮器と、前記凝縮器に接続された膨張装置と、前記膨張装置に接続された蒸発器と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態に係る圧縮機および冷凍サイクル装置の概略的な構成を示す図である。
図2図2は、一実施形態に係る圧縮機が備える圧縮機構部の概略的な横断面図である。
図3図3は、ブロック・オン・リング評価試験の概要を示す図である。
図4図4は、ブロック・オン・リング評価試験において想定した冷凍サイクルの温度条件を示す表である。
図5図5は、ブロック・オン・リング評価試験において用いたブロック材、リング材および冷媒の組み合わせを示す表である。
図6図6は、図5に示した各サンプルにおけるブロック材およびリング材の摩耗量を測定した結果を示すグラフである。
図7図7は、接触面圧の算出に用いるパラメータを説明するための図である。
図8図8は、複数の冷媒の吐出圧力、吸入圧力、吐出飽和温度、吸入飽和温度、ブロック面圧の差圧、ブロック面圧の増加率および接触面圧の増加率を示す表である。
図9図9は、図8に示す接触面圧の増加率等に基づき各冷媒の組み合わせにおける摩耗量を予測した結果を示すグラフである。
図10図10は、図8に示す接触面圧の増加率等に基づき各冷媒の組み合わせにおける摩耗量を予測した他の結果を示すグラフである。
図11図11は、変形例に係る圧縮機構部の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一実施形態につき図面を参照しながら説明する。
本実施形態においては、圧縮機の一例であるロータリ式の圧縮機と、この圧縮機を備える冷凍サイクル装置とを開示する。ただし、本発明に係る構成は、他種の圧縮機にも適用することが可能である。冷凍サイクル装置は、一例では空気調和機であるが、他種の装置であってもよい。
【0012】
図1は、本実施形態に係る圧縮機1および冷凍サイクル装置100の概略的な構成を示す図である。圧縮機1は、圧縮機本体2と、アキュムレータ3と、これら圧縮機本体2およびアキュムレータ3を接続する一対の吸込管4とを備えている。
【0013】
冷凍サイクル装置100は、圧縮機1に加え、第1熱交換器101(放熱器)と、第2熱交換器102(吸熱器)と、膨張装置103とを備えている。第1熱交換器101は、圧縮機本体2の吐出口と配管で接続されている。第2熱交換器102は、アキュムレータ3と配管で接続されている。膨張装置103は、第1熱交換器101および第2熱交換器102と配管で接続されている。
【0014】
このように構成された冷凍サイクル装置100の冷凍サイクルには、冷媒が循環する。この冷媒は、例えばR1234yf単体、またはR1234yfを主成分とする冷媒である。R1234yfを主成分とする冷媒としては、R1234yfとR32の混合冷媒が挙げられる。なお、冷媒の「主成分」とは、質量比で最も多く当該冷媒に含まれる成分を意味する。
【0015】
圧縮機1に供給される冷媒は、アキュムレータ3において気液分離され、そのガス冷媒が各吸込管4を介して圧縮機本体2に導かれる。圧縮機本体2は、ガス冷媒を圧縮する。圧縮された高圧のガス冷媒は、第1熱交換器101にて凝縮される。その後、冷媒は膨張装置103にて減圧され、第2熱交換器102にて蒸発し、再びアキュムレータ3に供給される。
【0016】
なお、冷凍サイクル装置100の構成は図示したものに限られない。例えば、冷凍サイクル装置100は、圧縮機1から吐出される冷媒の供給先を第1熱交換器101と第2熱交換器102の間で切り替えるとともに、アキュムレータ3への冷媒の供給元を第1熱交換器101と第2熱交換器102の間で切り替える四方弁をさらに備えてもよい。
【0017】
圧縮機本体2は、円筒状に形成された密閉容器5を有している。密閉容器5内の下部には、冷凍機油が貯留されている。さらに、密閉容器5内には、上部側に位置する電動機部6と、下部側に位置する圧縮機構部7とが収容されている。電動機部6および圧縮機構部7は、回転軸8を介して連結されている。
【0018】
電動機部6は、回転軸8に固定された回転子60と、回転子60を囲む固定子61とを備えている。回転子60には永久磁石が設けられ、固定子61にはコイルが巻かれている。固定子61は、密閉容器5に固定されている。回転子60の回転に伴い、回転軸8が中心線AXを中心に回転する。以下、中心線AXと平行な方向を軸方向DXと呼ぶ。
【0019】
圧縮機構部7は、回転軸8に沿って並ぶ第1シリンダ11および第2シリンダ12と、これらシリンダ11,12の間に配置された仕切板13とを備えている。第1シリンダ11は、軸方向DXにおいて第2シリンダ12と電動機部6の間に位置している。図1の例において、仕切板13は、軸方向DXに並ぶ第1仕切板131および第2仕切板132により構成されている。ただし、仕切板13は、1つの連続した部材により構成されてもよい。
【0020】
第1シリンダ11の上端面には、回転軸8を回転可能に保持する第1軸受14(主軸受)が固定されている。第2シリンダ12の下端面には、回転軸8を回転可能に保持する第2軸受15(副軸受)が固定されている。
【0021】
回転軸8は、第1シリンダ11、第2シリンダ12および仕切板13を貫通している。回転軸8は、180°の位相差で設けられた第1偏心部81および第2偏心部82を有している。第1偏心部81は、円筒状の第1ローラ16に嵌められている。第2偏心部82は、円筒状の第2ローラ17に嵌められている。
【0022】
第1シリンダ11の内部には、第1シリンダ室R1が形成されている。第1シリンダ室R1は、第1シリンダ11の内周面、第1軸受14の下面、第1仕切板131の上面により囲われた空間に相当する。第1偏心部81および第1ローラ16は、第1シリンダ室R1に位置している。
【0023】
第2シリンダ12の内部には、第2シリンダ室R2が形成されている。第2シリンダ室R2は、第2シリンダ12の内周面、第2軸受15の上面、第2仕切板132の下面により囲われた空間に相当する。第2偏心部82および第2ローラ17は、第2シリンダ室R2に位置している。
【0024】
回転軸8が回転すると、第1シリンダ室R1において、第1ローラ16の外周面と第1シリンダ11の内周面とが線接触した状態で、第1ローラ16が中心線AXに対し偏心回転する。同様に、回転軸8が回転すると、第2シリンダ室R2において、第2ローラ17の外周面と第2シリンダ12の内周面とが線接触した状態で、第2ローラ17が中心線AXに対し偏心回転する。
【0025】
第1軸受14には、第1吐出弁機構18が設けられている。例えば、第1吐出弁機構18は、第1軸受14に形成された吐出ポートと、吐出ポートを開閉するリード弁と、リード弁の最大開度を規制するストッパとを有している。第1吐出弁機構18は、第1軸受14に取付けられた第1マフラ19により覆われている。第1マフラ19には開口が設けられており、この開口を通じて第1マフラ19の内外が連通している。
【0026】
第2軸受15には、第2吐出弁機構20が設けられている。例えば、第2吐出弁機構20は、第2軸受15に形成された吐出ポートと、吐出ポートを開閉するリード弁と、リード弁の最大開度を規制するストッパとを有している。第2吐出弁機構20は、第2軸受15に取付けられた第2マフラ21により覆われている。図1の断面には表れていないが、第2マフラ21内の空間と第1マフラ19内の空間とは、第2軸受15、第2シリンダ12、仕切板13、第1シリンダ11および第1軸受14を順に貫通する冷媒通路を通じて連通している。
【0027】
第1シリンダ11および第2シリンダ12は、密閉容器5に固定されている。第1シリンダ11、第2シリンダ12、仕切板13、第1軸受14、第2軸受15、第1マフラ19および第2マフラ21は、例えば軸方向DXに長尺な複数のボルトBT(図1においては1つのみ示す)によって連結されている。
【0028】
アキュムレータ3は、ケース30を有している。第2熱交換器102で気化されたガス冷媒は、液冷媒とともに配管を通じてケース30内に流入する。各吸込管4の一端がケース30内の上部に位置しており、これら一端を通じてケース30内のガス冷媒が吸込管4に流入する。各吸込管4の他端は、ケース30の下端側から延出し、第1シリンダ11および第2シリンダ12にそれぞれ接続されている。
【0029】
図2は、第1シリンダ11の位置における圧縮機構部7の概略的な横断面図である。この図の例では、第1シリンダ室R1に連通するベーンスロット110が第1シリンダ11に形成されている。ベーンスロット110は、第1シリンダ室R1の径方向に延びている。
【0030】
ベーンスロット110には、第1シリンダ室R1の径方向に沿って移動可能にベーン22が挿入されている。ベーン22は、例えばコイルスプリングである付勢部材23によって常に第1シリンダ室R1に向けて付勢されている。ベーン22は、図2に示す断面形状で軸方向DXに延びている。ベーン22の先端面SFaは、第1ローラ16の外周面SFbに摺動可能に接触している。
【0031】
第1シリンダ室R1は、ベーン22により吸入室Raと圧縮室Rbに区画されている。第1シリンダ11には、吸入室Raに通じる吸入路111が形成されている。吸入路111からは、上述の吸込管4を通じてガス冷媒が供給される。回転軸8が回転すると、第1偏心部81および第1ローラ16の偏心回転に伴い、吸入室Raと圧縮室Rbの容積が変化する。これにより、ガス冷媒が圧縮される。圧縮されたガス冷媒は、上述の第1吐出弁機構18を介して圧縮室Rbから第1マフラ19により囲われた空間に吐出される。
【0032】
図2においては、上述のボルトBTを通すための複数のボルト孔Hが第1シリンダ11に設けられている。図2においては省略していが、第1シリンダ11は、第2マフラ21内の空間と第1マフラ19内の空間とを連通する上述の冷媒通路を構成する連通孔も有し得る。
【0033】
第2シリンダ12の位置における圧縮機構部7の断面構造は、図2に示したものと同様である。すなわち、第2シリンダ12にもベーンスロット110および吸入路111が設けられ、ベーンスロット110にベーン22と付勢部材23が収容されている。そして、吸込管4から吸入されたガス冷媒が吸入路111を通じて吸入室Raに供給され、第2偏心部82および第2ローラ17の偏心回転に伴って圧縮される。圧縮されたガス冷媒は、上述の第2吐出弁機構20を介して圧縮室Rbから第2マフラ21により囲われた空間に吐出される。
【0034】
一般的なロータリ式の圧縮機において、ローラとベーンは、例えばマルテンサイト系ステンレスであるSUS440C、高速度工具鋼であるSKH51、あるいはNi-Cr-Mo(ニッケル、クロム、モリブデン)系の片状黒鉛鋳鉄であるモニクロ鋳鉄などの金属材料で形成されている。
【0035】
これに対し、本実施形態に係る圧縮機1においては、第1ローラ16、第2ローラ17およびこれらローラ16,17と摺動する各ベーン22の少なくとも1つが樹脂材料で形成されている。具体的には、第1ローラ16および第2ローラ17が樹脂材料で形成され、各ベーン22が金属材料で形成されている。
【0036】
第1ローラ16および第2ローラ17を形成する樹脂材料は、これらローラ16,17の外周面SFbとベーン22の先端面SFaの接触面圧以上の圧縮強度を有している。さらに、少なくとも各ベーン22の先端面SFaには、硬さを増加させる表面処理が施されている。
【0037】
一例では、上記接触面圧は、圧縮機1または当該圧縮機1を含む冷凍サイクルにおける冷媒の設計圧力(例えば基準凝縮温度65℃時の圧力)と大気圧の差を最大値として、ヘルツの接触理論に基づき算出されるヘルツ接触面圧である。
ここで、設計圧力とは、例えば冷凍保安規則関係例示基準に則したものである。
【0038】
第1ローラ16および第2ローラ17を形成する樹脂材料としては、熱硬化性の樹脂材料を用いることが好ましく、中でもフェノール樹脂が適している。フェノール樹脂などの熱硬化性の樹脂材料は、PEEKやPBTなどの熱可塑性の樹脂材料に比べて高いガラス転移温度を有しており、密閉容器5の内部が高温となった場合でも良好な機械的特性を発揮する。
【0039】
各ベーン22を形成する金属材料としては、例えばSUS440CまたはSKH51を用いることができる。これらの金属材料に対して施される表面処理としては、例えば金属表面に硬質炭素膜を形成するDLC(ダイヤモンドライクカーボン)処理や窒化処理を用いることができる。
【0040】
第1ローラ16および第2ローラ17を形成する樹脂材料は、ガラスファイバやカーボンファイバなどの強化繊維を含むことが好ましい。これにより、当該樹脂材料の圧縮強度を高めることができる。さらに、当該樹脂材料の線膨張係数を小さくでき、密閉容器5の内部が高温となった場合であっても第1ローラ16および第2ローラ17の変形を抑制できる。
【0041】
以下に、樹脂材料を用いた圧縮機1の評価試験、樹脂材料の圧縮強度、冷媒の適用範囲について説明する。
【0042】
[評価試験]
第1ローラ16および第2ローラ17の材料と、ベーン22の材料との複数の組み合わせに対し、ブロック・オン・リング評価試験を行うことで摩耗量を評価した。
【0043】
図3は、ブロック・オン・リング評価試験の概要を示す図である。このブロック・オン・リング評価試験においては、ベーン22を模したブロック材BLと、第1ローラ16および第2ローラ17を模したリング材RNとを使用した。リング材RNは、軸AX0を中心として回転する。図3中の(a)はブロック材BLとリング材RNを軸AX0と平行な方向に見た平面図であり、図3中の(b)はブロック材BLとリング材RNの側面図である。
【0044】
評価試験に際しては、ブロック材BLの背面から荷重Wを加え、ブロック材BLの摺動面SF1をリング材RNの摺動面SF2(外周面)に押し当てた。この状態を所定時間保持することにより、ブロック材BLおよびリング材RNの摩耗量を測定した。
【0045】
なお、試験中はブロック材BLおよびリング材RNが配置された評価試験機内に冷凍機油と冷媒を充填し、適当な試験温度に加熱した。冷凍機油としてはエステル油を用いた。冷媒としてはR410AおよびR1234yfを用いた。
【0046】
図4は、当該評価試験において想定した冷凍サイクルの温度条件を示す表である。冷媒としてR410AおよびR1234yfを用いる場合のいずれにおいても、凝縮温度が50℃、蒸発温度が0℃、加熱度(SH)が5K、過冷却量(SC)が8K、断熱圧縮効率が70%である。
【0047】
圧縮機1の吐出温度は、R410Aの場合には89℃であり、R1234yfの場合には60℃である。試験温度は、これら吐出温度に約10Kを加算して、R410Aは100℃、R1234yfは70℃とした。
【0048】
ロータリ式の圧縮機1においては、ベーン22の背圧が高圧(吐出圧力)であり、圧縮室Rbの内部が低圧(吸入圧力)である。これら吐出圧力と吸入圧力の圧力差により、第1ローラ16および第2ローラ17にそれぞれベーン22が押し付けられ、これらローラ16,17と各ベーン22が密着する。
【0049】
このような構造においては、ローラ16,17と各ベーン22の接触部における接触面圧は、冷媒の圧力に依存する。そこで、ブロック・オン・リング評価試験の荷重W[N](ブロック面圧)は、冷媒としてR410Aを用いる想定の場合には650Nとし、冷媒としてR1234yfを用いる想定の場合には280Nとした。
【0050】
図5は、ブロック・オン・リング評価試験において用いたブロック材BL、リング材RNおよび冷媒の組み合わせを示す表である。当該評価試験は、9つのサンプルSP1~SP9について実施した。
【0051】
サンプルSP1,SP2は本実施形態との比較例に相当し、いずれにおいても冷媒としてR410Aを用いる場合を想定している。サンプルSP1において、ブロック材BLは表面処理として窒化処理が施されたSUS440Cで形成され、リング材RNはモニクロ鋳鉄で形成されている。サンプルSP2において、ブロック材BLは表面処理としてDLC処理が施されたSKH51で形成され、リング材RNはモニクロ鋳鉄で形成されている。
【0052】
サンプルSP3~SP9においては、冷媒としてR1234yfを用いる場合を想定し、ブロック材BLおよびリング材RNの一方を非金属材料で形成した。サンプルSP3において、ブロック材BLは樹脂Aで形成され、リング材RNはモニクロ鋳鉄で形成されている。樹脂Aは、強化繊維としてガラスファイバを含むフェノール樹脂である。
【0053】
サンプルSP4において、ブロック材BLは窒化処理が施されたSUS440Cで形成され、リング材RNは樹脂Aで形成されている。サンプルSP5において、ブロック材BLはDLC処理が施されたSKH51で形成され、リング材RNは樹脂Aで形成されている。
【0054】
サンプルSP6において、ブロック材BLは窒化処理が施されたSUS440Cで形成され、リング材RNは樹脂Bで形成されている。サンプルSP7において、ブロック材BLはDLC処理が施されたSKH51で形成され、リング材RNは樹脂Bで形成されている。樹脂Bは、強化繊維としてカーボンファイバを含むフェノール樹脂である。
【0055】
サンプルSP8において、ブロック材BLは窒化処理が施されたSUS440Cで形成され、リング材RNはカーボンで形成されている。サンプルSP9において、ブロック材BLはDLC処理が施されたSKH51で形成され、リング材RNはカーボンで形成されている。これらのカーボンは、炭素黒鉛質材料を加工して成形されている。
【0056】
図6は、サンプルSP1~SP9におけるブロック材BLおよびリング材RNの摩耗量[μm]を測定した結果を示すグラフである。サンプルSP1,SP2は、従来から使用されているローラおよびベーンの材料と冷媒(R410A)の組み合わせである。すなわち、サンプルSP1,SP2が摩耗量の基準となる。測定結果における基準となる摩耗量は、ブロック材BLが約0.7~0.9μm程度、リング材RNが0.4~0.6μm程度である。
【0057】
サンプルSP3においては、ブロック材BLの摩耗量がサンプルSP1,SP2に比べて5倍以上と著しく増加している。したがって、第1ローラ16および第2ローラ17をモニクロ鋳鉄で形成する場合には、ベーン22を樹脂Aで形成すべきでないことが分かる。
【0058】
リング材RNを樹脂Aで形成したサンプルSP4,SP5においては、サンプルSP3に比べてブロック材BLの摩耗量が抑制されている。ただし、サンプルSP4においては、サンプルSP3ほどではないものの、ブロック材BLの摩耗量がサンプルSP1,SP2に比べて3倍程度増加している。サンプルSP4においては、リング材RNの摩耗量がブロック材BLの摩耗量よりも小さい。サンプルSP5においては、ブロック材BLの摩耗量がサンプルSP1,SP2に比べて小さく、リング材RNの摩耗量もサンプルSP1,SP2と同等である。
【0059】
なお、サンプルSP4の摩耗量がサンプルSP5よりも大きくなった理由としては、ブロック材BLとリング材RNの摺動によってリング材RNの摺動面SF2にガラスファイバが露出し、このガラスファイバがブロック材BLの摺動面SF1を傷つけたことが考えられる。また、窒化処理されたSUS440Cの硬さが約1000HV0.1であるのに対し、DLC処理されたSKH51の硬さが約2000HV0.1であり、この硬さの相違に起因してサンプルSP5の結果が優れていたとも考えられる。
【0060】
リング材RNを樹脂Bで形成したサンプルSP6,7においては、ブロック材BLの材質に関わらず、ブロック材BLの摩耗量およびリング材RNの摩耗量の双方において良好な結果が得られた。ただし、時間経過とともにリング材RNの摺動面SF2にカーボンファイバが露出してブロック材BLの摺動面SF1を傷つける可能性がある。この観点からは、DLC処理された高強度のSKH51でブロック材BLが形成されることが好ましい。
【0061】
サンプルSP8,SP9のいずれにおいても、リング材RNの摩耗量がサンプルSP1,SP2に比べて大幅に増加した。カーボン単体ではリング材RNの強度が不足している可能性があるため、カーボン単体で第1ローラ16および第2ローラ17を形成すべきでないことが分かる。
【0062】
以上のブロック・オン・リング評価試験の結果から、ブロック材BLとリング材RNの一方、すなわちベーン22とローラ16,17の一方を樹脂で形成し、かつベーン22の先端面SFaまたはローラ16,17の外周面SFbに硬さを増す表面処理が施されていれば、摩耗量を抑制して圧縮機1の信頼性を確保可能であることが分かる。特に、サンプルSP5,SP7の結果に基づけば、表面処理としてはDLC処理が施されていることが好ましい。
【0063】
なお、ガラスファイバを含む樹脂Aは高い等方性を有するのに対し、カーボンファイバを含む樹脂Bは樹脂Aに比べて異方性が大きい。このような樹脂A,Bの機械的性質を考慮した場合、樹脂Bよりも樹脂Aを用いる方が好ましい。
【0064】
[樹脂材料の圧縮強度]
上述の通り、第1ローラ16および第2ローラ17を形成する樹脂材料は、ベーン22の先端面SFaとこれらローラ16,17の外周面SFbの接触面圧以上の圧縮強度(圧縮強さ)を有している。これにより、圧縮機1の信頼性を一層高めることができる。なお、上述の樹脂A,Bは、いずれも300MPa以上の圧縮強度を有している。
【0065】
ロータリ式の圧縮機1においては、ベーン22の先端面SFaと、円筒面であるローラ16,17の外周面SFbとが接触するため、ヘルツの接触理論に基づきこれらの接触面圧を求めることができる。
【0066】
図7は、接触面圧の算出に用いるパラメータを説明するための図である。ここでは、ブロック・オン・リング評価試験で用いたブロック材BLとリング材RNをそれぞれベーン22とローラ16,17のモデルとして各パラメータを例示している。図7中の(a)はリング材RNの回転の軸(上述のAX0)と平行に見たブロック材BLおよびリング材RNの断面の一部を示しており、(b)は当該軸と平行なブロック材BLおよびリング材RNの断面を示している。
【0067】
図7中の(a)に示す“D”はブロック材BLの幅であり、“2b”は摺動面SF1,SF2の接触幅[m]であり、“W”はブロック材BLの背面に作用する荷重[N]である。図7中の(b)に示す“L”はリング材RNの軸と平行な方向における摺動面SF1,SF2の接触長さ[m]である。
【0068】
接触幅の半値b[m]は、等価曲率半径Rと等価ヤング率E’を用いて以下の式で表すことができる。
【数1】
【0069】
等価曲率半径Rは、摺動面SF1の曲率半径Rと摺動面SF2の曲率半径Rを用いて次式で与えられる。
【数2】
【0070】
等価ヤング率E’の逆数は次式で与えられる。
【数3】

ここで、Eはブロック材BLのヤング率[Pa]であり、Eはリング材RNのヤング率[Pa]であり、νはブロック材BLのポアソン比であり、νはリング材RNのポアソン比である。
【0071】
摺動面SF1,SF2の接触面圧の最大値Pmax[N/m=Pa]と平均接触面圧Pmean[N/m=Pa]は、次式で与えられる。
【数4】
【0072】
上式を整理すると、次式が得られる。
【数5】

ここで、荷重Wは、冷媒の圧力に基づき算出される。例えばロータリ式の圧縮機1の場合、荷重Wは吐出圧力と吸入圧力の差圧と考えることができ、圧縮機1の運転中に最も高くなる圧力と最も低くなる圧力とに基づき算出することが可能である。具体的には、荷重Wは、圧縮機1または当該圧縮機1を含む冷凍サイクルにおける冷媒の設計圧力と大気圧の差として算出すれば最も大きい値が得られる。
【0073】
上記の通り求まるヘルツ接触面圧(Pmax)よりも大きい圧縮強度を有するように、リング材RNの樹脂材料、すなわち第1ローラ16や第2ローラ17に用いる樹脂材料が選定される。樹脂材料は、上記接触面圧に所定の係数(例えば2)を掛けた値よりも大きい圧縮強度を有するように選定されてもよい。また、樹脂材料の強度には温度依存性があるため、温度に応じた圧縮強度(例えば140℃時の圧縮強度)が上記接触面圧よりも大きくなるように樹脂材料が選定されてもよい。
【0074】
なお、ヘルツ接触面圧の計算に用いた各パラメータは、圧縮機1の構成要素のパラメータとして当てはめることができる。すなわち、“D”はベーン22の幅に相当し、“2b”は先端面SFaと外周面SFbとの接触幅に相当し、“W”はベーン22の背面に作用する荷重に相当し、“L”は軸方向DXにおける先端面SFaと外周面SFbの接触長さに相当し、“R”は先端面SFaの曲率半径に相当し、“R”は外周面SFbの曲率半径に相当し、“E”はベーン22のヤング率に相当し、“E”はローラ16,17のヤング率に相当し、“ν”はベーン22のポアソン比に相当し、“ν”はローラ16,17のポアソン比に相当し、“Pmax”は先端面SFaと外周面SFbの接触面圧の最大値に相当し、“Pmean”は先端面SFaと外周面SFbの平均接触面圧に相当する。
【0075】
[冷媒の適用範囲]
上述のブロック・オン・リング評価試験においては冷媒としてR410AまたはR1234yfが単体で用いられる場合を想定した。R1234yfは、一般的にR32と混合された状態で、主に空気調和機、チリングユニット、あるいは冷凍機用の冷媒として使用されることがある。R1234yfは低圧であり、R32は高圧となるため、これらの混合冷媒の圧力はR1234yfとR32の間の範囲内となる。これらの混合比率によってはローラ16,17やベーン22の摩耗量があまり増加しないため、本実施形態に係る圧縮機1の冷媒として用い得る。
【0076】
冷媒を変更した場合の摩耗量を予測する方法について以下に説明する。
一般に、摩耗量は、比摩耗量を用いることで算出できる。摩耗量の単位は[mm]であり、比摩耗量の単位は[mm/(N・m)]である。そのため次式で示すように、接触面圧P[N/mm]、摺動速度V[m/S]、摺動時間T[S]を比摩耗量Kに対し乗じることで摩耗量X[mm]が算出される。
【数6】
【0077】
ブロック・オン・リング評価試験において、比摩耗量K、接触面圧P、摺動速度Vおよび摺動時間Tは、既知の値である。比摩耗量Kは、冷媒としてR1234yfを想定した上述の評価試験の結果から算出することができ、その値は固定値として扱うことが可能である。また、摺動速度Vおよび摺動時間Tは、ブロック・オン・リング評価試験における試験パラメータであり、固定値である。
【0078】
すなわち、冷媒を変更した場合の摩耗量は、この冷媒変更に伴う接触面圧Pの変化率を算出することで予測できる。具体的には、R1234yfおよびR32の混合冷媒の組成比が変化したときの摩耗量Xは、ブロック・オン・リング評価試験におけるブロック材BLおよびリング材RNの接触面圧Pの増加率を計算することで簡易的に予測可能である。
【0079】
上述の通り、接触面圧の最大値Pmaxと平均接触面圧Pmeanは次式で与えられる。
【数7】
【0080】
等価曲率半径R、ヤング率E,E、ポアソン比ν,νおよび接触長さLは、ブロック・オン・リング評価試験における試験パラメータまたは材料固有のパラメータであり、固定値である。つまり、ブロック材BLとリング材RNの接触面圧Pを求める場合、荷重W以外は冷媒の種類によらずに固定値として扱うことができる。
【0081】
荷重Wは、ブロック材BLの背面に加わる面負荷であり、次式で与えられる。
【数8】

ここで、dPはブロック材BLに加わるブロック面圧[N/m=Pa]である。接触面圧Pの増加率は、冷媒の種類による荷重Wの変化率を求め、その平方根を求めることで算出される。この増加率に基づけば、上述の通り各冷媒のR1234yfに対する摩耗量増加率を予測することができる。
【0082】
図8は、複数の冷媒の吐出圧力、吸入圧力、吐出飽和温度、吸入飽和温度、ブロック面圧の差圧、ブロック面圧の増加率および接触面圧の増加率を示す表である。ここでは冷媒として、R1234yf、R454C、R454A、R454BおよびR32を例示する。R454C、R454A、R454BおよびR32のブロック面圧の増加率は、R1234yfを基準としている。
【0083】
R454C、R454A、R454BおよびR32の吐出飽和温度および吸入飽和温度がR1234yfと同等となるように、これら冷媒の吐出圧力および吸入圧力が定められている。具体的には、冷媒を混合する場合には温度グライドが生じるため、吐出飽和温度および吸入飽和温度のそれぞれにつき、乾き度1と乾き度0の飽和温度の平均値がR1234yfと同等になるように各冷媒の吐出圧力および吸入圧力が定められている。
【0084】
なお、R1234yfの吐出圧力(設計圧力)1.73MPa_Gは、R410A用の圧縮機で一般的に用いられる設計圧力4.17MPa_Gに対応する飽和温度である64.9℃と同じ飽和温度が得られるときの圧力である。
【0085】
R434C、R454AおよびR454Bは、いずれもR1234yfとR32の混合冷媒である。ただし、これら混合冷媒の組成比が異なるため、GWPおよび圧力もそれぞれ異なる。
【0086】
図9は、図8に示す接触面圧の増加率等に基づき、上述のサンプルSP5と各冷媒の組み合わせにおける摩耗量を予測した結果を示すグラフである。図10は、図8に示す接触面圧の増加率等に基づき、上述のサンプルSP7と各冷媒の組み合わせにおける摩耗量を予測した結果を示すグラフである。
【0087】
なお、図9および図10における基準1は、サンプルSP1と同じく冷媒としてR410Aを用いるとともに、ブロック材BLに窒化処理を施し、リング材RNをモニクロ鋳鉄で形成した場合の摩耗量である。また、基準2は、サンプルSP2と同じく冷媒としてR410Aを用いるとともに、ブロック材BLにDLC処理を施し、リング材RNをモニクロ鋳鉄で形成した場合の摩耗量である。
摩耗量を予測した結果、基準1,2のブロック材BLの摩耗量は0.7~0.9μm程度、リング材RNの摩耗量は約0.5μm程度である。
【0088】
図9および図10に基づけば、各混合冷媒(R454C、R454A、R454B)のいずれにおいても、R1234yfから大きくは摩耗量が増加しないことが分かる。このことから、本実施形態に係る圧縮機1のように第1ローラ16および第2ローラ17を樹脂材料で形成する構成は、R1234yf単体の冷媒だけでなく、R1234yfとR32の混合冷媒にも適用可能である。
【0089】
以上の本実施形態に係る圧縮機1においては、圧縮機構部7を構成する部材の一部が樹脂材料で形成されているため、圧縮機構部7が軽量化される。これにより、例えば第1ローラ16および第2ローラ17の偏心量を大きくした場合であっても、回転軸8の剛性不足や振動の悪化が生じにくい。
【0090】
仮に第1ローラ16および第2ローラ17を金属材料の中では軽量なAl-Si合金鋳物で形成した場合であっても、その比重は2.6~3.0程度である。これに対し、第1ローラ16および第2ローラ17を樹脂材料で形成する場合には、その比重を2.0以下に抑制することができる。
【0091】
さらに、本実施形態においては、ローラ16,17を形成する樹脂材料がベーン22との接触面圧以上の圧縮強度を有し、かつベーン22の先端面SFaにDLC処理や窒化処理等の表面処理が施されている。これにより、ローラ16,17およびベーン22の摩耗量を抑制し、圧縮機1の信頼性を高めることができる。
以上の他にも、本実施形態からは上述した種々の好適な効果を得ることができる。
【0092】
なお、本実施形態において、ベーン22は第1部材の一例であり、第1ローラ16および第2ローラ17は第2部材の一例である。ベーン22の先端面SFaは第1摺動面の一例であり、第1ローラ16および第2ローラ17の外周面SFbは第2摺動面の一例である。
【0093】
本実施形態においてはローラ16,17が樹脂材料で形成され、ベーン22が金属材料で形成される場合を例示した。他の例として、ローラ16,17が表面処理された金属材料で形成され、ベーン22が樹脂材料で形成されてもよい。この場合においては、第1ローラ16および第2ローラ17が第1部材の一例であり、ベーン22が第2部材の一例である。また、ローラ16,17およびベーン22の双方が樹脂材料で形成されてもよい。この場合において、ローラ16,17およびベーン22の少なくとも一方の表面にDLC処理等の表面処理が施されていれば、摺動時の熱によるローラ16,17およびベーン22の溶着を抑制できる。
【0094】
本実施形態においては、2つのシリンダ11,12を備えるロータリ式の圧縮機1を例示した。他の例として、圧縮機1は、シリンダを1つのみ、あるいは3つ以上備えてもよい。
【0095】
第1部材および第2部材を含む摺動機構は、ロータリ式の圧縮機1のローラ16,17とベーン22だけでなく、他種の圧縮機の摺動機構に適用することも可能である。他種の圧縮機としては、例えばスウィングロータリ式の圧縮機が挙げられる。
【0096】
図11は、スウィングロータリ式の圧縮機が備える圧縮機構部200(摺動機構)の一例を示す図である。この圧縮機構部200は、シリンダ210と、ピストン220とを備えている。
【0097】
シリンダ210は、シリンダ室Rmと、スロット211と、冷媒の吸入路212とを有している。シリンダ室Rmには、電動機部により駆動される回転軸の偏心部230が配置されている。
【0098】
ピストン220は、偏心部230が嵌められた円筒状のローラ221と、ローラ221から径方向に突出するブレード222とを有している。これらローラ221とブレード222は、一体的に形成されている。
【0099】
スロット211には、一対のブッシュ240が配置されている。ブレード222は、スロット211においてこれらブッシュ240の間に通されている。シリンダ室Rmは、ブレード222によって吸入室Raと圧縮室Rbに区画されている。
【0100】
このような構成の圧縮機構部200においては、偏心部230およびローラ221の偏心回転に伴い、ブレード222がスロット211から進退するとともに、吸入室Raと圧縮室Rbの容積が変化する。これにより、ガス冷媒が圧縮される。この圧縮動作においては、ブレード222とブッシュ240とが摺動する。
【0101】
圧縮機構部200において、例えばピストン220を上述の実施形態におけるローラ16,17と同様の樹脂材料で形成し、ブッシュ240を上述の実施形態におけるベーン22と同様の金属材料で形成してもよい。この場合、ブッシュ240は第1部材の一例であり、ピストン220は第2部材の一例であり、ブッシュ240の表面は第1摺動面の一例であり、ブレード222の表面は第2摺動面の一例である。
【0102】
また、例えばブッシュ240を上述の実施形態におけるローラ16,17と同様の樹脂材料で形成し、ピストン220を上述の実施形態におけるベーン22と同様の金属材料で形成してもよい。この場合、ピストン220は第1部材の一例であり、ブッシュ240は第2部材の一例であり、ブレード222の表面は第1摺動面の一例であり、ブッシュ240の表面は第2摺動面の一例である。
【0103】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0104】
1…圧縮機、5…密閉容器、6…電動機部、7…圧縮機構部、8…回転軸、11,12…シリンダ、13…仕切板、14…第1軸受、15…第2軸受、16,17…ローラ、22…ベーン、81,82…偏心部、100…冷凍サイクル装置、101…第1熱交換器、102…第2熱交換器、103…膨張装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11