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特開2023-20178水性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた水性ボールペン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020178
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】水性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた水性ボールペン
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/18 20060101AFI20230202BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125418
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 太郎
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350NA01
4J039AD03
4J039AD09
4J039BA04
4J039BC19
4J039BC56
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039CA06
4J039DA02
4J039EA36
4J039EA44
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、水性ボールペン用インキ組成物において、ボールとボールペンチップのボール座間の潤滑性を向上して、ボールの回転をスムーズにすることで、ボール座の摩耗を抑制し、顔料分散性に優れた水性ボールペン用インキ組成物を得ることである。
【解決手段】本発明は、水、顔料、スチレンアクリル樹脂、ポリエチレングリコール系界面活性剤を含んでなることを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、顔料、スチレンアクリル樹脂、ポリエチレングリコール系界面活性剤を含んでなることを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項2】
前記スチレンアクリル樹脂の酸価が、100~300(mgKOH/g)であることを特徴とする請求項1に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコール系界面活性剤が、一般式(化1)で示されることを特徴とする請求項1または2に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【化1】
【請求項4】
前記水性ボールペン用インキ組成物に、脂肪酸またはリン酸エステル系界面活性剤を含んでなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項5】
前記顔料が、カーボンブラックであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項6】
前記水性ボールペン用インキ組成物に、オレフィン系樹脂粒子またはアミノ基を有する樹脂粒子を含んでなることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項7】
前記水性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度が、20℃、剪断速度1.92sec-1において、500~5000mPa・sであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物を収容した収容筒と、前記収容筒の先端にボールペンチップとを有することを特徴とする水性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた水性ボールペンに関し、さらに詳細としては、ボールとボールペンチップの間の潤滑性を向上して、ボール座の摩耗を抑制し、さらに顔料分散性に優れた水性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた水性ボールペンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ステンレス鋼材などからなるチップ本体を用いたボールペンチップを具備したボールペンはよく知れている。これは、耐摩耗性、耐食性やコスト等を考慮して、ステンレス鋼材からなるチップ本体を用いている。また、筆感の向上や、筆跡のカスレ、線とびなどが発生しないように、特開2006-282870号公報「ボールペン用水性インキ組成物」、特開平7-62288号公報「水性ボールペン用インキ組成物」、特開2003-192972号「水性ボールペン用インキ」には、様々な潤滑剤などを含有する水性ボールペン用インキ組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】「特開2006-282870号公報」
【特許文献2】「特開平7-62288号公報」
【特許文献3】「特開2003-192972号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、イソプレンスルホン酸-アクリル酸共重合体を含有することで、インキが途切れることなく安定した吐出が行われるため、軽い書き味で筆記することができ、筆跡の線切れやカスレを抑制すること、特許文献2では、ジベンジリデンソルビトールを含有することで、ボールの回転によりインキが容易に流動する事によりスムーズに筆記が可能となり、カスレ等の筆記性能を向上することが開示されているが、特許文献3では、N-アシルアミノ酸、N-アシルメチルタウリンを含有することで、チップの受け座に吸着して筆記時のボールの回転においてボールとチップ受け座の摩擦を低減することで、書き味を向上することが開示されている。そのように、ある程度滑らかな筆感を得ることはできたが、ボール座の摩耗が促進してしまうため、改良の余地があった。特に、φ0.5mm以下の細字水性ボールペンでは、ボールとボール座の接触面積が小さくなる傾向となり、一定荷重における単位面積あたりの荷重が大きくなり、ボール座の摩耗がひどく筆記不良になりやすく、その問題を解決することが望まれていた。
【0005】
さらに、特許文献1~3のように顔料を含むことを想定した水性インキでは、顔料分散性についても安定性が求められる。
【0006】
本発明の目的は、上記のような問題を解決するもので、水性ボールペン用インキ組成物おいて、潤滑性を向上して、ボール座の摩耗を抑制し、さらに顔料分散性に優れた水性ボールペン用インキ組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、
「1.水、顔料、スチレンアクリル樹脂、ポリエチレングリコール系界面活性剤を含んでなることを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物。
2.前記スチレンアクリル樹脂の酸価が、100~300(mgKOH/g)であることを特徴とする第1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
3.前記ポリエチレングリコール系界面活性剤が、一般式(化1)で示されることを特徴とする請求項1または2に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【化1】
4.前記水性ボールペン用インキ組成物に、脂肪酸またはリン酸エステル系界面活性剤を含んでなることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
5.前記顔料が、カーボンブラックであることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
6.前記水性ボールペン用インキ組成物に、オレフィン系樹脂粒子またはアミノ基を有する樹脂粒子を含んでなることを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
7.前記水性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度が、20℃、剪断速度1.92sec-1において、500~5000mPa・sであることを特徴とする第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。」である。
8.第1項~第7項のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物を収容した収容筒と、前記収容筒の先端にボールペンチップとを有することを特徴とする水性ボールペン。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、水性ボールペン用インキ組成物において、ボールとボールペンチップのボール座間の潤滑性を向上して、ボールの回転をスムーズにすることで、ボール座の摩耗を抑制し、顔料分散性に優れた水性ボールペン用インキ組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の特徴は、水、顔料、ポリエチレングリコール系界面活性剤、スチレンアクリル樹脂を含んでなることを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物とする。これらの各成分について説明すると以下の通りである。
【0010】
本発明では、顔料、ポリエチレングリコール系界面活性剤、スチレンアクリル樹脂を併用することで、ボールとボールペンチップのボール座間の潤滑性を向上して、ボールの回転をスムーズにすることで、ボール座の摩耗を抑制することができ、さらに顔料の分散安定性に優れることが可能となる。
ボール座の摩耗抑制については、顔料粒子自体がボールとボールペンチップのボールの座間で生じるベアリング効果も得られるが、それに加えて、特定のスチレンアクリル樹脂によるクッション作用による潤滑効果が得られるため、潤滑性を向上し、さらに顔料表面や、顔料周辺にポリエチレングリコール系界面活性剤が存在することで、ボールとボール座間に顔料粒子が入り込んだ場合に、ポリエチレングリコール系界面活性剤による潤滑層によって潤滑効果が得られる。
よって、顔料粒子自体がボールとボール座間で生じるベアリング効果と、スチレンアクリル樹脂によるクッション作用と、ポリエチレングリコール系界面活性剤による潤滑層による相乗的な潤滑作用が働くことで、より一層の潤滑効果が得られるため、ボールとボールペンチップのボール座間の潤滑性を向上して、ボールの回転をスムーズにすることで、従来よりもボール座の摩耗を抑制することが可能となる。
また、顔料分散性については、ポリエチレングリコール系界面活性剤が、顔料分散作用をしつつ、さらにスチレンアクリル樹脂が、補助的に顔料分散作用が働くことで、より顔料分散性を良好とすることが可能となる。
【0011】
(ポリエチレングリコール系界面活性剤)
ポリエチレングリコール系界面活性剤については、含んでなることで、顔料表面や、顔料周辺にポリエチレングリコール系界面活性剤が存在することで、ボールとボールペンチップのボール座間に顔料粒子が入り込んだ場合、潤滑層を形成することで、潤滑効果が得られ、ボール座の摩耗を抑制することが可能となる。さらに、顔料表面や、顔料周辺にポリエチレングリコール系界面活性剤が存在することで、顔料の分散安定性を維持することが可能である。
【0012】
ポリエチレングリコール系界面活性剤については、ポリエチレングリコールエーテル、ポリエチレングリコールエステルなどが挙げられるが、ボール座の摩耗を抑制し、顔料分散性を考慮すれば、ポリエチレングリコールエーテルが好ましく、よりボール座の摩耗抑制を考慮すれば、一般式(化1)を用いることが好ましい。これは、R1、R2のようなアルキル基が、顔料表面に吸着しやすく、長期間吸着作用が働きやすいため、潤滑効果が得られやすく、ボール座の摩耗抑制しやすいためで、さらに顔料表面にアルキル基が吸着していることで、顔料粒子同士が直接接触しないため、顔料が凝集しづらく、顔料分散性を向上しやすいためである。
【化1】
【0013】
一般式(化1)で示されるポリエチレングリコール系界面活性剤の中でも、(化1)のR1、R2のようなアルキル基の炭素数が4~20が好ましい。これは、上記範囲であると、顔料表面に吸着しやすく、ボール座の摩耗抑制や、顔料分散性を向上しやすいためで、より考慮すれば、アルキル基の炭素数が5~18であることが好ましく、8~15であることが好ましい。
さらに、一般式(化1)のエチレンオキシド基-(CH-CH-O)m-ついては、エチレンオキシド付加モル数mが、10~40が好ましい。これは、上記範囲であると、ボールとボール座間において、クッション作用が働きやすく、ボール座の摩耗抑制効果が得られやすい。さらに水性インキでの安定性を得るために親水性のエチレンオキシド鎖が特定の範囲にあることが好ましい。より考慮すれば、エチレンオキシド付加モル数nが20~40であることが好ましく、30~40が好ましい。
【0014】
ポリエチレングリコール系界面活性剤の質量平均分子量は、5000以下であることが好ましい。これは、上記範囲であれば、インキ中で溶解安定しやすく、ボール座の摩耗抑制、顔料分散性を安定的に保ちやすく、より考慮すれば、質量平均分子量は4000以下であることが好ましく、質量平均分子量は3000以下が好ましい。さらに、質量平均分子量は、500以上であることが好ましい。これは、顔料表面やボールとボールペンチップのボール座間に介在しやすく、ボール座の摩耗抑制、顔料分散性を良好にしやすいためで、より考慮すれば、質量平均分子量は1000以上であることが好ましい。
【0015】
ポリエチレングリコール系界面活性剤の含有量について、インキ組成物全量に対し、0.1~5質量%であることが好ましい。これは、上記範囲であると、ボール座の摩耗抑制や、顔料分散性に優れた効果が得られやすいためである。さらに、より考慮すれば、0.3~3質量%が好ましく、0.5~2質量%が好ましい。
【0016】
(スチレンアクリル樹脂)
スチレンアクリル樹脂については、含んでなることで、スチレン基の立体構造によって、ボールとボール座間でクッション効果が得られ、ボールとボール座間の摩擦を低減することが可能であり、ボール座の摩耗抑制することができる。カルボキシル基が、金属に吸着しやすく、スチレン基の立体構造によって、ボール座の摩耗抑制の効果を得ることができる。さらに顔料表面にスチレン基が吸着することで顔料粒子を反発させやすく、顔料分散安定性を保ちやすい。また、スチレンアクリル樹脂については、スチレンアクリル樹脂やそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などの塩が挙げられるが、ボール座の摩耗抑制や、顔料分散性を考慮すれば、スチレンアクリル樹脂のアンモニウム塩を用いることが好ましい。また、スチレンアクリル樹脂については、ジョンクリルシリーズ(BASFジャパン社製)などが挙げられる。
【0017】
スチレンアクリル樹脂の質量平均分子量は、1000~18000であることが好ましい。これは、上記範囲であれば、ボールとボール座間でのクッション作用が得られながらも、インキ中での溶解安定しやすく、適度なインキ粘度を保ちやすいため、ボール座の摩耗抑制、顔料分散性を保ちやすく、より考慮すれば、質量平均分子量は1500~8000であることが好ましく、4000~8000が好ましく、5000~7000が好ましい。
【0018】
スチレンアクリル樹脂の酸価(mgKOH/g)は、100~300(mgKOH/g)であることが好ましい。これは、上記範囲であれば、インキ中での溶解安定しやすいため、ボール座の摩耗抑制、顔料分散性を安定的に保ちやすい。また、インキフローも良好でボールペンチップ先端からの吐出を安定にする効果も得られことから潤滑性に優れるとともに書き味が良好で、さらに筆記性(筆跡カスレ、泣きボテを抑制)が良好であるボールペンを得ることができる。より考慮すれば、酸価(mgKOH/g)は150~300であることが好ましく、よりインキフローを良好として、潤滑性や筆記性を良好とすることを考慮すれば、150~300が好ましく、200~250が好ましい。
さらに、スチレンアクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、本発明の効果を考慮すれば、80~200℃であることが好ましく、100~200℃であることが好ましく、120~180℃が好ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定により求めることができる。
【0019】
また、前記スチレンアクリル樹脂の含有量について、インキ組成物全量に対し、0.1~10質量%がより好ましい。これは、上記範囲であると、ボール座の摩耗抑制や、顔料分散性に優れた効果が得られやすいためである。さらに、より考慮すれば、0.3~7質量%が好ましく、0.5~5質量%が好ましく、0.5~~3質量%が好ましい。
【0020】
本発明で用いる着色剤は、顔料を含んでなるが、これは、顔料粒子自体がボールとボール座間で生じるベアリング効果を得られるため、本発明では効果的である。顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、マイクロカプセル、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、補色顔料等が挙げられる。
これらの顔料としては、、顔料分散性を考慮して、顔料をポリエチレングリコール系界面活性剤、溶媒を用いて、顔料分散させた顔料分散体を用いることが好ましく、より考慮すれば、顔料をポリエチレングリコール系界面活性剤、水、多価アルコールを用いて、水性顔料分散体を用いることが好ましく、さらに、予め顔料をポリエチレングリコール系界面活性剤、水、多価アルコールを用いて、水性顔料分散体を用いることが好ましい。
【0021】
顔料について、カーボンブラックを含んでなることが好ましい、これは、顔料粒子自体がボールとボール座間で生じるベアリング効果が得られやすいためであり、上記のようにカーボンブラックをポリエチレングリコール系界面活性剤、溶媒を用いた顔料分散体として用いることが好ましい。
さらに、カーボンブラックの中でも吸油量が50~300ml(/100g)であるカーボンブラックを用いることが、好ましい。これは、吸油量はカーボンブラックのつながりであるストラクチャーをあらわす代替特性であり、吸油量が大きいほどストラクチャーは大きくなる。吸油量が50~300ml(/100g)のカーボンブラックは、ボールとボール座間の隙間に適した大きさのストラクチャーであるため、効率的なベアリング効果が期待でき、ボール座の摩耗抑制を得られやすく、顔料分散安定性に適した大きさのストラクチャーとなるため顔料分散安定しやすく、さらに、カーボンブラック自体が、紙面上に残ることで、濃い鮮明な筆跡になりやすいため好ましい。さらに、ボール座の摩耗抑制、顔料分散性を考慮すれば、カーボンブラックの吸油量については、100~250ml(/100g)が好ましく、120~200ml(/100g)が好ましい。
カーボンブラックの吸油量は、カーボンブラックのストラクチャーを示す特性であり、乾燥された一定量のカーボンブラックがDBP(ジブチルフタレート)を吸収する量をいいJIS K6221に規定される試験方法で測定される。
【0022】
顔料の平均粒子径については、顔料分散性を考慮すれば、1μm以下である顔料を用いることが好ましく、より考慮すれば、平均粒子径が0.5μm以下であることが好ましい。さらに、顔料粒子の形状については、球状、もしくは異形の形状のものなどが使用できるが、摩擦抵抗を低減することでボール座の摩耗抑制を考慮すれば、球状顔料粒子が好ましい。ここでいう球状顔料粒子とは、真球状に限定されるものではなく、略球状の顔料粒子や、略楕円球状の顔料粒子などでも良い。
また、顔料粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定機(商品名「MicrotracHRA9320-X100」、日機装株式会社)を用いてレーザー回折法で測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)により測定することができる。
【0023】
本発明では、潤滑性を向上して、ボール座の摩耗抑制、書き味を向上することを考慮すれば、脂肪酸またはリン酸エステル系界面活性剤を含んでなることが好ましい。これは、脂肪酸基、リン酸基を有するものは、金属類に対して吸着力があり、ボールやチップ本体などに対して吸着することで、潤滑効果があり、さらに、スチレンアクリル樹脂によるクッション作用による潤滑効果や、ポリエチレングリコール系界面活性剤による潤滑層との相乗的効果として、より潤滑効果の高い潤滑層が形成されるため、ボール座の摩耗抑制効果が得られやすいためである。特に、脂肪酸とリン酸エステル系界面活性剤を併用すると、より一層の潤滑効果が得られやすいため、好ましい。
【0024】
また、脂肪酸の種類としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸やそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などの塩が挙げられる。脂肪酸は、炭素数が12~24であることが好ましい。これは、上記範囲であると、ボールの潤滑性が向上しやすく、ボール座の摩耗抑制、書き味を向上しやすく、より考慮すれば、炭素数が16~20であることが好ましく、よりボール座の摩耗抑制を考慮すれば、リノール酸またはその塩が好ましい。
【0025】
リン酸エステル系界面活性剤の種類としては、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、ラウリルアルコール系、トリデシルアルコール系、オクチルフェノール系、短鎖アルコール系などが上げられる。この中でも、フェニル骨格を有すると立体障害により潤滑性に影響が出やすいため、ボール座の摩耗抑制、書き味を考慮すれば、リン酸エステル系界面活性剤は、直鎖アルコール系のラウリルアルコール系、トリデシルアルコール系を用いることが、好ましい。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0026】
脂肪酸またはリン酸エステル系界面活性剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1質量%より少ないと、所望のボール座の摩耗抑制、書き味の向上が得られづらく、5.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になるおそれがあるため、インキ組成物全量に対し、0.1~5.0質量%が好ましく、より考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.5~3.0質量%が好ましい。
【0027】
(樹脂粒子)
本発明では、樹脂粒子を含んでなることが好ましい。これは、樹脂粒子が、ボールとボール座間に存在することによって、クッション作用することで、相対的に硬い顔料粒子がボールまたはボール座と接触することを抑制しやすく、ボールとボール座間の摩擦を低減することが可能であり、ボール座の摩耗抑制することができる。さらに、樹脂粒子によってボールとチップ先端の内壁との間の隙間における組成物の流動を制御して、インキ漏れを抑制しやすいため、好ましい。このとき、樹脂粒子は、無機物と比較して硬度が低いことから、粒子同士が一部変形などして、お互い密着するので、比較的小さい樹脂粒子が相互に微弱な凝集構造を形成し、インキ漏れを抑制すると考えられる。
【0028】
このような効果を得ることができる樹脂粒子としては、オレフィン系樹脂粒子、アクリル系樹脂粒子、スチレン-ブタジエン系樹脂粒子、ポリエステル系樹脂粒子、酢酸ビニル系樹脂粒子、アミノ基を有する樹脂粒子などが挙げられ、このうち、ボール座の摩耗抑制と、ペン先のインキ漏れ抑制効果が高いので、オレフィン系樹脂粒子またはアミノ基を有する樹脂粒子が好ましい。
【0029】
オレフィン系樹脂粒子の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどのポリオレフィン、ならびにそれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、ボール座の摩耗抑制、インキ漏れ抑制を向上することを考慮すれば、ポリエチレンを用いることが好ましく、具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低分子ポリエチレン、変性ポリエチレン、変性高密度ポリエチレンなどが挙げられる。その中でもボール座の摩耗抑制、インキ漏れ抑制効果を考慮すれば、低密度ポリエチレン、低分子ポリエチレン、変性ポリエチレンが好ましく、特に低密度ポリエチレンは、他種のポリエチレンよりも融点が低く、低密度ポリエチレンは、柔らかい性質のため、ボールとボール座の間でのクッション効果が得られやすく、ボール座の摩耗抑制が得られるためで、さらに、柔らかいため、ポリエチレン粒子が密着しやすく、粒子間の隙間を生じづらく、インキ漏れしづらいため、好適に用いることが可能である。低密度とは、密度が0.90~0.94(g/cm3)の低密度のものをいい、よりボール座の摩耗抑制、インキ漏れ抑制を考慮すれば、ポリエチレンの密度が、0.91~0.93(g/cm3)であることが好ましい。
オレフィン系樹脂粒子は、必要に応じてポリオレフィン以外の材料を含んでいてもよい。
【0030】
前記オレフィン系樹脂粒子の形状については、球状、もしくは異形の形状のものなどが使用できるが、摩擦抵抗を低減することを考慮すれば、球状樹脂粒子が好ましい。ここでいう球状樹脂粒子とは、真球状に限定されるものではなく、略球状の樹脂粒子や、略楕円球状の樹脂粒子などでも良い。
【0031】
また、前記オレフィン系樹脂粒子については、予め水などに分散したオレフィン分散体にすることが好ましいが、オレフィン分散体のpH値については、7~11が好ましい。これは、オレフィン樹脂粒子の分散安定性や、顔料、界面活性剤などのインキ成分に対する安定性を良好としやすいためである。より考慮すれば、pH値7~10がより好ましい。
【0032】
また、アミノ基を有する樹脂粒子として、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド樹脂粒子、ナイロン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、ウレタン樹脂粒子などが挙げられる。これらの中でも、潤滑性やインキ漏れ抑制を考慮すれば、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド樹脂粒子、メラミン樹脂粒子を用いることが好ましい。
【0033】
また、樹脂粒子の含有量は、ボール座の摩耗抑制、インキ漏れ抑制を考慮すれば、インキ組成物全量に対して、0.01~5質量%であることが好ましく、より考慮すれば、0.1~3質量%であることがより好ましく、0.1~1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0034】
前記樹脂粒子の平均粒子径については、平均粒子径が小さい方が、ボールの回転抵抗を緩和し、ボール座の摩耗抑制しやすく、さらに、お互い密着して、微弱な凝集構造をとりやすく、インキ漏れを抑制しやすいため、10μm以下が好ましく、さらに、8μm以下が好ましく、より考慮すれば、7μm以下がより好ましい。一方、平均粒子径が小さすぎると、ボール座の摩耗抑制、インキ漏れ抑制効果が劣りやすいため、平均粒子径は、0.1μm以上が好ましく、より好ましくは、1μm以上が好ましく、より好ましくは、3μm以上が好ましい。また、平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定機(商品名「MicrotracHRA9320-X100」、日機装株式会社)を用いてレーザー回折法や、コールターカウンター法(コールター社製)を用いて測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)を測定することができる。
【0035】
また、樹脂粒子の平均粒子径をXμm、前記顔料粒子の平均粒子径をYμmとした場合、Y/X≦1.0の関係であることが好ましい、これは、樹脂粒子の粒子径の方が大きいことで、クッション作用が働きやすく、ボール座の摩耗抑制しやすく、さらに樹脂粒子同士が密着し、前記樹脂粒子間に隙間が発生した時に、該隙間を埋めづらく、インキ漏れに影響が出やすいためである。より考慮すれば、Y/X≦0.5の関係であることが好ましく、より好ましくは、0.001≦Y/X≦0.5であり、0.001≦Y/X≦0.3が好ましく、0.001≦Y/X≦0.1が好ましい。
【0036】
(溶媒)
本発明で用いる溶媒としては、水、水溶性溶剤などを含んでなる。
水としては、特に制限なく、例えば、イオン交換水、蒸留水、および水道水などの慣用の水を用いることができる。
【0037】
また、水溶性溶剤については、水分の溶解安定性、水分蒸発乾燥防止等を考慮し、水溶性溶剤を用いる。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール溶剤、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテル系溶剤などが挙げられる。その中でも、本発明で用いるポリエチレングリコール系界面活性剤、スチレンアクリル樹脂との溶解安定性を考慮すれば、多価アルコール溶剤を用いることが好ましい。多価アルコール溶剤とは、二個以上の水酸基が脂肪族あるいは脂環式化合物の相異なる炭素原子に結合した化合物である溶剤であり、その中でも、2価または3価の水酸基を有する多価アルコールを少なくとも含有することが、好ましい。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0038】
水溶性溶剤の含有量については、溶解性、インキ漏れ、にじみ等を考慮すると、インキ組成物全量に対し、0.1~25質量%が好ましく、7~20質量が好ましい。
【0039】
また、インキ粘度調整剤として剪断減粘性付与剤を含んでなることが好ましい。剪断減粘性付与剤としては、架橋型アクリル酸重合体、多糖類としては、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、グアーガム、ローカストビーンガム、λ-カラギーナン、セルロース誘導体、ダイユータンガムなどや、会合型増粘剤としては、会合性疎水性基によってポリエステル系、ポリエーテル系、ウレタン変性ポリエーテル系、ポリアミノプラスト系などやアルカリ膨潤会合型増粘剤、ノニオン会合型増粘剤などが挙げられ、これらの剪断減粘性付与剤は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0040】
剪断減粘性付与剤の中でも、顔料分散安定性やインキ漏れ抑制効果を考慮すれば、多糖類を用いることが好ましく、多糖類の中でも、キサンタンガム、サクシノグリカンを用いることが好ましい。
【0041】
また、前記剪断減粘性付与剤の含有量について、インキ組成物全量に対し、0.01~5.0質量%がより好ましい。これは、前記剪断減粘性付与剤の含有量が、0.01質量%未満だとインキ増粘効果が十分でなく、顔料分散安定性やインキ漏れを抑制しづらく、5.0質量%を越えると、インキ粘度が高くなりやすく、ボール座の摩耗抑制、筆記時の追従性、書き味、ドライアップ性能に影響が出やすいためである。さらに、より考慮すれば、0.1~2.0質量%が好ましく、最も好ましくは、0.1~1.0質量%とする。
【0042】
また、書き出し性能を向上し、インキ漏れを抑制しやすいために、デキストリンを含んでなることが好ましい。これは、ペン先が乾燥した場合に形成される被膜が硬くなりすぎず、書き出しにおけるカスレが抑制され、形成される被膜が組成物中の溶媒等の蒸発を抑制し、ペン先における被膜が過度に硬くなることを抑制できるためである。さらに、ペン先のインキが乾燥時に、被膜を形成することで、ペン先の隙間よりインキ漏れ抑制する効果が得られためである。
【0043】
また、デキストリンの原料となるデンプンとしては、コーンスターチ(デントコーンスターチ)、ワキシーコーンスターチ、甘藷デンプン、馬鈴薯デンプン、タピオカ(キャッサバデンプン)、小麦デンプン、米デンプン(もち米デンプンやうるち米デンプン)が挙げられる。デキストリンの原料となるデンプンとしては、書き出し性能、インキ漏れ抑制効果を考慮すれば、ワキシーコーンスターチ、甘藷デンプンが好ましく、より考慮すれば、ワキシーコーンスターチが好ましい。
【0044】
また、デキストリンのデキストロース当量(DE)については、インキ中での溶解安定しやすいことを考慮すれば、デキストロース当量(DE)が2~25のデキストリンであることが好ましく、さらに、書き出し性能、インキ漏れ抑制効果を考慮すれば、デキストロース当量(DE)が2~15が好ましく、より考慮すれば、6~13が好ましい。
デキストロース当量とは、デンプンを酸又は酵素で分解したときの分解の程度を示す指標であり、デキストロース(ブドウ糖)の還元力を100とした場合の相対的な尺度として知られている。本明細書において、デキストロース当量を、「DE」(Dextrose equivalent)と表記略記する。なお、DEが0であるとデンプンであり、0に近いほどデンプンに近い特性を示す。逆にDEが100に近づくほどデンプンの加水分解が進んでいることを示す。デキストリンのDEは、Somogyi-Nelson法で測定することができる。また、例えば、デキストリンのDEのメーカー保証値あるいは測定値が判明している場合は、その値をデキストリンのDE値として採用することができる。
【0045】
デキストリンの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~5質量%が好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、書き出し性能、インキ漏れ抑制効果が十分得られにくく、5質量%を越えると、インキ中で溶解しづらいためである。よりインキ中の溶解性について考慮すれば、0.1~3質量%が好ましく、より書き出し性能、インキ漏れについて考慮すれば、0.5~3質量%が好ましい。
【0046】
pH調整剤は、pHを調整し、顔料分散安定性の改善や、水性インキが接触する金属部品の腐食を防ぐために用いられる。pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基性無機化合物、酢酸ナトリウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの塩基性有機化合物、乳酸およびクエン酸などが挙げられる。これらのうち、塩基性有機化合物を用いることが好ましく、弱塩基性であるトリエタノールアミンを用いることが好ましい。
【0047】
防腐剤、防錆剤としては、フェノール、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0048】
その他の添加剤は、所望により添加剤を含有することができる、具体的には、アクリル系樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、スチレン-ブタジエン系樹脂エマルジョンなどの定着剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などの界面活性剤、尿素、ソルビット等の保湿剤、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤などを添加することができる。これらは単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0049】
また、水性ボールペン用インキ組成物のpH値については、7~11が好ましい。これは、pH値が7未満で酸性領域であると、顔料、スチレンアクリル樹脂、ポリエチレングリコール系界面活性剤などのインキ成分に対する安定性への影響や、金属製のボールペンチップやボールの腐食に影響が発生するためで、pH値が11を超えて強アルカリ側に寄っても、同様にインキ成分に対する安定性への影響が発生してしまうためである。より考慮すれば、pH値7~10がより好ましい。
【0050】
また、本発明に用いるボールペンチップのボールの縦軸方向の移動量(クリアランス)については、15~50μmとするのが好ましい。これは、15μm未満であると、濃い筆跡や良好な潤滑性が得られづらくなり、50μmを越えると、インキ漏れ抑制に影響が出やすくなるためで、より考慮すれば、20~45μmとするのが好ましく、さらに考慮すれば、20~40μmとするのが好ましい。
ボールペンチップのボールの縦軸方向への移動量(クリアランス)とは、ボールがボールペンチップ本体の縦軸方向への移動可能な距離を示す。
【0051】
インキ粘度については、20℃環境下、剪断速度1.92 sec-1で、インキ粘度は、500~5000mPa・sが好ましい、これは、前記インキ粘度が500mPa・s未満だと、インキ粘度が低過ぎて、顔料分散安定性やインキ漏れを抑制しづらく、5000mPa・sを越えると、書き味やボール座の摩耗抑制や書き味が劣りやすく、インキ消費量が少なく、濃い筆跡が得られにくいためである。より考慮すれば、1000~3500mPa・sが好ましい。
【0052】
また、ボールに用いる材料は、特に限定されるものではないが、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金ボール、ステンレス鋼などの金属ボール、炭化ケイ素、窒化珪素、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどのセラミックスボール、ルビーボールなどが挙げられる。
【0053】
ボール直径については、特に限定されないが、0.1~2.0mm程度のボールを用いる。ボール直径が0.5mm以下とした小径のボール径であると、ボールとボール座の接触面積が小さくなる傾向となり、一定荷重における単位面積あたりの荷重が大きくなる。さらに同一距離の筆記をする場合にボールの直径が小さいほどボールの回転数が多くなるので、ボール座の摩耗が激しくなりやすいため、本発明で用いる水性ボールペン用インキ組成を用いると効果的であり、さらに、ボール直径が0.4mm以下であるとボール座の摩耗が進みやすいため、より効果的であるため、好ましい。
【0054】
また、ボール座の摩耗抑制、および書き味向上のために、ボール表面の算術平均粗さ(Ra)を0.1~10nmとすることが好ましい。これは、算術平均粗さ(Ra)が、この範囲を越えると、ボール表面が粗すぎて、ボールとボール座の回転抵抗が大きくなりやすいため、書き味やボール座の摩耗に影響が出やすく、また、この範囲を下まわると、ボールの表面に十分に顔料が載らないため、筆跡カスレなど筆記性に影響が出やすい。そのため、ボール座の摩耗抑制、および書き味を向上し、さらに十分な筆記性を得るためには、ボール表面の算術平均粗さ(Ra)が、0.1~10nmとすることが好ましく、0.1~5nmとすることがより好ましく、0.1~3nmとすることが特に好ましい。
【0055】
ボール表面の算術平均粗さについて、表面粗さ測定器(セイコーエプソン社製の機種名SPI3800N)により測定された粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値である。
【0056】
本願発明では、水性ボールペンの100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、ボール座の摩耗を抑制、書き味、筆記性(筆跡カスレ、泣きボテを抑制)を向上することを考慮すれば、150≦A/B≦500とすることが好ましく、より考慮すれば、200≦A/B≦450とすることが好ましく、さらに、220≦A/B≦400が好ましい。特に、ボール径0.5(mm)以下とした場合には、ボール座の摩耗を抑制、書き味、筆記性(筆跡カスレ、泣きボテを抑制)をバランス良く向上しやすいため好ましく、ボール径0.4(mm)以下であると、より好ましい。
本発明においては、20℃、筆記用紙JIS P3201筆記用紙上に筆記角度65°、筆記荷重100gの条件にて、筆記速度4m/分の速度で、試験サンプル5本を用いて、らせん筆記試験を行い、その100mあたりのインキ消費量の平均値を、100mあたりのインキ消費量と定義する。
【0057】
次に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1
顔料分散体(カーボンブラッ吸油量:170ml(/100g)、一次粒子径:21nm) 30.0質量部
(主な含有物:カーボンブラック6質量部、ポリエチレングリコール系界面活性剤1.5質量部、多価アルコール3.0質量部)
スチレンアクリル樹脂 (酸価215(mgKOH/g) 、 分子量6200、 ガラス転移温度(Tg:136℃) 1.5質量部
水 48.5質量部
多価アルコール(グリセリン) 10.0質量部
樹脂粒子(低密度ポリエチレン分散体、平均粒子径6μm、pH値9、固形分40%) 1.0質量部
デキストリン(ワキシーコーンスターチ由来、DE:6~8) 1.0質量部
pH調整剤(トリエタノールアミン) 2.0質量部
リン酸エステル系界面活性剤 1.0質量部
脂肪酸(リノール酸) 1.0質量部
防錆剤(ベンゾトリアゾール) 0.5質量部
剪断減粘性付与剤(キサンタンガム) 0.4質量部
【0058】
実施例1の水性ボールペン用インキ組成物は、予め水、多価アルコール、顔料、ポリエチレングリコール系界面活性剤を添加し、分散機で分散させて、顔料分散体を作製した。その後、顔料分散体、水、多価アルコール、樹脂粒子、デキストリン、pH調整剤、リン酸エステル系界面活性剤、脂肪酸、防錆剤をマグネットホットスターラーで加温撹拌等してベースインキを作成した。
【0059】
その後、上記作製したベースインキを加温しながら、剪断減粘性付与剤を投入してホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合攪拌して、実施例1の水性ボールペン用インキ組成物を得た。
尚、実施例1のインキ粘度は、ブルックフィールド社製DV-II粘度計(CPE-42ローター)を用いて20℃の環境下で、剪断速度1.92sec-1(回転数0.5rpm)の条件にてインキ粘度を測定したところ、2500mPa・sであった。
また、実施例1のpH値は、IM-40S型pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、20℃にて測定したところ、pH値=8.6であった。
【0060】
実施例2~23、比較例1~5
表に示すようにインキ成分、チップ仕様を変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2~23の水性ボールペン用インキ組成物および水性ボールペンレフィルを得た。表に、評価結果を示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0061】
試験および評価
実施例及び比較例で作製した水性ボールペン用インキ組成物を、インキ収容筒の先端にボールを回転自在に抱持したボールペンチップをチップホルダーに介して具備したインキ収容筒内(ポリプロピレン製)に充填したレフィル(1.0g)を(株)パイロットコーポレーション製のゲルインキボールペン(商品名:G-knock)に装着して、以下の試験および評価を行った。尚、耐摩耗試験、書き味の評価は、筆記試験用紙としてJIS P3201 筆記用紙Aを用い、以下のような試験方法で評価を行った。
また、実施例1、3、8、19、20の水性ボールペン用インキ組成物および水性ボールペンレフィルを用いて水性ボールペンとして、らせん筆記試験を行い、100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、A/Bは以下のような結果となった。
実施例1:A=125(mg)、B=0.38(mm) A/B=328
実施例3:A=110(mg)、B=0.38(mm) A/B=263
実施例8:A=95(mg)、 B=0.38(mm) A/B=250
実施例19:A=150(mg)、B=0.5(mm) A/B=300
実施例20:A=160(mg)、B=0.7(mm) A/B=228
【0062】
耐摩耗試験:ボールペン組立1ヶ月後に、筆記用紙JIS P3201筆記用紙上に、20℃で、荷重100gf、筆記角度65°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のボール座の摩耗を測定した。
評価としては、スチレンアクリル樹脂を含まない比較例1~3を各ボール径の基準として、ボール座の摩耗抑制率(摩耗抑制量)を算出して評価した。
具体的には、実施例、比較例の摩耗抑制量を測定して、ボール径ごとに対比して算出した
・ボール径0.38(mm)の場合
比較例1と実施例1~18、実施例21~23とのボール座の摩耗抑制率(摩耗抑制量)を対比した。
実測例:実施例1:16.8μm、比較例1:29μm
ボール座の摩耗抑制率:42% (29μm-16.8μm)/29μm、評価:◎◎
・ボール径0.5(mm)の場合
比較例2と実施例19とのボール座の摩耗抑制率(摩耗抑制量)を対比した。
実測例:実施例19:8.5μm、比較例2:10μm
ボール座の摩耗抑制率:15% (10μm-8.5μm)/10μm、評価:○
・ボール径0.7(mm)の場合比較例3と実施例20とのボール座の摩耗抑制率(摩耗抑制量)を対比した。
実測例:実施例20:5.5μm、比較例3:6μm
ボール座の摩耗抑制率:8% (6μm-5.5μm)/6μm、評価:△

ボール座の摩耗抑制率が40%以上である ・・・◎◎
ボール座の摩耗抑制率が20%以上、40%未満である ・・・◎
ボール座の摩耗抑制率が10%以上、20%未満である ・・・○
ボール座の摩耗抑制率が1%以上、10%未満である ・・・△
ボール座の摩耗抑制率が1%未満 ・・・×
【0063】
顔料分散性試験: 実施例1~23、比較例1~5のインキ組成物を直径15mmの密開閉ガラス試験管に入れて、50℃、30日間放置した後、それぞれのインキ組成物をスライドガラスに採取し、光学顕微鏡を用いて観察し、下記評価基準でインキ組成物の顔料分散性を評価した。評価は表2にまとめたとおりであった。
凝集体が確認されず、均一に分散されている良好な状態。 ・・・◎
凝集体がわずかに確認されたが、実用上問題のないレベルであった。・・・○
凝集体が確認され、実用上懸念の残るレベルであった。 ・・・△
凝集体の沈降が見られた。 ・・・×
【0064】
インキ漏れ試験:40gの重りをゲルインキボールペンに付けて、ボールペンチップを突出させて下向きにし、ボールペンチップのボールの、ボールペン用陳列ケースの底部に当接させた状態を保ち、20℃、65%RHの環境下に1日放置し、ボールペンチップ先端からのインキ漏れ量を測定した。
インキ漏れ量が5mg未満であるもの ・・・◎
インキ漏れ量が5~15mgであるもの ・・・○
インキ漏れ量が15mgを越えて、30mg未満のもの ・・・△
インキ漏れ量が30mg以上のもの ・・・×
【0065】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかであるもの ・・・○
実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0066】
表の結果より、実施例1~23では、耐摩耗試験、顔料分散性試験、インキ漏れ試験、書き味ともに良好レベルの性能が得られた。
また、実施例1、6、8、9、10において、耐摩耗試験の筆跡を観察したところ、筆記性(筆跡カスレ、泣きボテを抑制)を比較すると、実施例1、6、9、10では、実施例8よりも、筆記性(筆跡カスレ、泣きボテを抑制)が良好であった。これは、スチレンアクリル樹脂の酸価が150~300(mgKOH/g)であったため、
【0067】
表の結果より、比較例1~5では、スチレンアクリル樹脂またはポリエチレングリコール系界面活性剤を用いなかったため、耐摩耗試験、顔料分散性試験、書き味が劣ってしまった。
【0068】
本発明では、水性ボールペン用インキ組成物をボールペンに用いた場合には、ボールペンチップ先縁の内壁に、ボールを押圧するコイルスプリングを配設することによって、ボールペンチップ先端のシール性を保つことで、チップ先端の隙間からインキ漏れを抑制しやすいため、より好ましい。
また、実施例のようにインキ収容筒内に水性ボールペン用インキ組成物を充填したレフィルを軸筒に装着してボールペンとして用いているが、この形態に限定されるものではなく、前記インキ収容筒を軸筒として用いて水性ボールペン用インキ組成物を充填してそのままボールペンとしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、水性ボールペンとして利用でき、さらに詳細としては、キャップ式、出没式等の水性ボールペンなどとして、広く利用することができる。