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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020187
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】抗ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/82 20060101AFI20230202BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20230202BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230202BHJP
【FI】
A61K36/82
A61P31/12
A61K8/9789
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125433
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】513309834
【氏名又は名称】フェイスラボ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106448
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 伸介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】西原 政晃
(72)【発明者】
【氏名】石田 早紀
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD59
4B018ME14
4B018MF01
4C083AA111
4C083AA112
4C083AD391
4C083AD392
4C083BB51
4C083CC01
4C083EE11
4C083FF01
4C088AB45
4C088AC04
4C088BA08
4C088BA09
4C088BA13
4C088CA03
4C088CA05
4C088MA02
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZB33
(57)【要約】
【課題】人体に対して作用が緩和であり、原料が容易に手に入り、環境にも配慮した抗ウイルス剤を提供する。
【解決手段】本発明は茶実果皮の抽出物を有効成分として含有する抗ウイルス剤である。茶実果皮抽出物は外果皮抽出物を含むことが好ましい。本発明はまた、茶実果皮抽出物を有効成分として薬学的又は化粧品学的に許容される担体又は賦形剤へ添加することを含む、抗ウイルス剤の製造方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶実果皮抽出物を有効成分として含有する抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記茶実果皮抽出物が茶実外果皮抽出物を含む、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記茶実果皮抽出物が水溶性溶媒による抽出物である、請求項1又は2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
前記水溶性溶媒による抽出物が水抽出物である、請求項3に記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の抗ウイルス剤を含有する抗ウイルス用皮膚外用剤。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の抗ウイルス剤が施用された日用品。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の抗ウイルス剤が施用された食品。
【請求項8】
茶実果皮抽出物を有効成分として薬学的又は化粧品学的に許容される担体又は賦形剤へ添加することを含む、抗ウイルス剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス剤に関し、より詳細には茶実果皮抽出物を有効成分とする抗ウイルス剤及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
毎年のように流行するインフルエンザウイルスや昨今のSARS-CoV-2ウイルスによるCOVID-19感染症(新型コロナウイルス感染症とも呼ばれる)のパンデミック等からの感染を防止する基本的な手段として、手洗い、うがい、マスクの着用等が挙げられる。これらに加えて、アルコール液、次亜塩素酸水等の消毒用品による手やテーブル等の消毒が、ウイルス感染リスクを低減するのに有効である。
【0003】
今般の新型コロナウイルス感染症の騒動では、アルコール等の消毒品の品切れやアルコール等に敏感な人が一定数いるという問題が発生している。消毒方法の選択肢の増加や消毒以外の方法でウイルスから身を守ることが求められているところ、満足な効果を発揮するものは得られていない。アルコールに敏感な人々や自身が敏感肌であると考える人々は、使用製品に植物由来のもの、そして環境重視の人々は、自然環境保全(エコ)や環境重視の素材を要望することが多いといわれている。したがって、人体に対して作用が緩和であって、環境にも配慮し、しかも原料入手が容易で製造方法の簡易な抗ウイルス剤の開発が待たれている。
【0004】
茶樹(茶の木、チャノキともいう)は、学名をCamellia sinensis(カメリア シネンシス)又はCamellia sinensis(L.)O.Kuntzeといい、日本人に馴染みのあるツバキ科の常緑の低木である。茶実種子由来のサポニン(茶実サポニン)には、抗炎症作用、抗菌作用や抗ウイルス作用を有することが知られている。例えば特許文献1では、ヒト及び動物の免疫作用を向上させかつ抗菌および抗ウイルス活性を強化する方法であって、カメリア・シネンシス、カメリア・オレイフェラ、カメリア・ジャポニカ等のツバキ植物の葉や種子から得られるトリテルペノイド・サポニンを含有する医薬品をヒト等に投与する方法が提案されている。特許文献1の実施例1では、カメリア・オレイフェラの種子を搾油した後の残渣(シードケーキ)をアルコール抽出してトリテルペノイド・サポニンを得た。このトリテルペノイド・サポニンを加えた飼料を鶏に28日間食餌した後、鶏にIBD(伝染性ファブリキウス嚢病)ウイルスを接種したところ、免疫グロブリン、Tリンパ球トランスフォーメーション率等が増加した。このことから、トリテルペノイド・サポニンには、免疫力を向上させかつ抗ウイルス性があると結論づけられた。
【0005】
特許文献2では、茶実の種子から得られる茶サポニンを有効成分とする抗インフルエンザウイルス剤が提案されている。茶サポニンの抽出方法としては、脱脂した茶実の種子(実施例1では胚乳部)をメタノールで抽出し、抽出液にエチルエーテル等のエーテルを加えて粗サポニンを沈澱及び乾燥させる。粗サポニンは再結晶等の手法により精製してもよい。
【0006】
特許文献1や2の発明が使用した茶実の種子について抗インフルエンザ試験を行ったところ、後述の比較例1及び2に示すように、満足すべき抗ウイルス性が得られなかった。さらに、特許文献2のようにメタノールを抽出溶媒として用いることは、化粧料や食品分野では許されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平11-504222
【特許文献2】特開平11-193242
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、人体に対して作用が緩和であり、原料が容易に手に入り、環境にも配慮した抗ウイルス剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、茶実の有効利用を促進するために、茶実の種子搾油工程前に廃棄されてしまう茶実果皮について、果皮からの抽出物の取得とその抗ウイルス作用を検討した。茶実果皮抽出物が、意外にも、茶サポニンを含む茶実種子抽出物よりも高い抗ウイルス作用を示すことを発見し、これに基づいて上記課題を解決した。すなわち、本発明は、茶実果皮抽出物を有効成分とする抗ウイルス剤を提供する。特許文献1や2の発明は、茶実種子から抽出される化合物又はエキスを使用し、本発明のように茶実の果皮から抽出されるエキスを使用することを教示も示唆もしない。
【0010】
茶実種子抽出物には、サポニンに由来する高い発泡性が確認されている。一方、茶実果皮の抽出物の発泡性は、茶実種子抽出物と比べて極めて低いので、本発明の有効成分である茶実果皮抽出物の抗ウイルス作用は、サポニン以外の成分に起因すると考えられる。また、本発明の抗ウイルス剤の抗ウイルス作用は、後述の実施例に示すとおり、免疫機能が関与しない試験系で評価を行われているので、特許文献1に示すような免疫力の向上に基づくものでもない。
【0011】
上記茶実果皮抽出物は、茶実外果皮抽出物を含むことが好ましい。
【0012】
上記茶実果皮抽出物は水溶性溶媒による抽出物であることが好ましい。
【0013】
前記水溶性溶媒による抽出物は特に水抽出物が好ましい。
【0014】
上記抗ウイルス剤は、例えば抗ウイルス用皮膚外用剤として用いられる。
【0015】
上記抗ウイルス剤はまた、例えば日用品に施用して用いられる。
【0016】
上記抗ウイルス剤はまた、例えば飲食品に施用して用いられる。
【0017】
本発明はまた、茶実果皮抽出物を有効成分として薬学的又は化粧品学的に許容される担体又は賦形剤へ添加することを含む、抗ウイルス剤の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
後述の実施例と比較例との対比に示すとおり、本発明の抗ウイルス剤は、抗ウイルス作用があるとされる茶サポニンを含んだ茶実種子搾油残渣抽出物と比べて優れた抗ウイルス作用を示す。本発明の抗ウイルス剤は、有効成分が植物由来である点で安全かつ安心であり、従来のエタノール等の消毒薬の代替手段として、エタノールに敏感肌の人にも使用可能である。
【0019】
本発明の抗ウイルス剤は、抗ウイルス用消毒剤として利用される他に、医薬品及び医薬部外品、化粧料、雑貨、飲食品等へ抗ウイルス性を付与することができる。
【0020】
本発明の抗ウイルス剤は、水溶性溶媒で容易に抽出することができ、上記特許文献で提案された茶サポニンの抽出方法よりも簡便に調製可能である。
【0021】
茶畑は、近年、茶葉の利用減少や価格低下、管理者の高齢化等の理由で放棄されることが増えている。このような中、耕作放棄された茶畑の有効利用として、茶実種子の搾油が茶の実油として、茶実種子に含まれるサポニンが天然由来の洗浄成分(茶の実シャンプー)として利用されている。このように茶実種子は利用されているが、茶実果皮は廃棄されている。本発明の抗ウイルス剤の製造方法によれば、茶実果皮を原料とすることで、未利用資源の有効活用にもつながり、環境に対して優しいといえる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に従う一実施態様の抗ウイルス剤であって、茶実の外果皮の熱水抽出物を有効成分とする抗ウイルス剤の抗ウイルス性試験結果を示す。図1の左側には、抽出物の所定の範囲の濃度におけるIAV RNA(インフルエンザウイルスのRNA)のウイルス生存率、そして右側には、同濃度範囲における細胞内RNAの生存率を棒グラフ化している。IAV RNAのウイルス生存率は、抽出物の濃度0.025~1%の範囲で濃度依存的に減少したことから、本発明の抗ウイルス剤に抗ウイルス性が確認された。
図2】本発明に従う別の一実施態様であって、図1の茶実外果皮熱水抽出物の代わりに、茶実外果皮の50%エタノール水溶液抽出物を用いた以外は、図1と同様に試験した結果である。IAV RNAのウイルス生存率は、抽出物の濃度0.025~1%の範囲で濃度依存的に減少したことから、抗ウイルス性が確認された。
図3】本発明に従うさらに別の一実施態様であって、図1の茶実外果皮熱水抽出物の代わりに、茶実内果皮の熱水抽出物を用いた以外は、図1と同様に試験した結果である。茶実果皮抽出物を用いたIAV RNAのウイルス生存率は、抽出物の濃度0.025~1.25%の範囲で濃度依存的に減少したことから、抗ウイルス性が確認された。
図4】本発明に従うさらに別の一実施態様であって、図1の茶実外果皮熱水抽出物の代わりに、茶実内果皮の50%エタノール水溶液を用いた以外は、図1と同様に試験した結果である。茶実果皮抽出物を用いたIAV RNAのウイルス生存率は、抽出物の濃度0.025~0.5%の範囲で濃度依存的に減少したことから、抗ウイルス性が確認された。
図5図1の茶実外果皮熱水抽出物の代わりに、本発明の従わない茶実の種子の搾油残渣の熱水抽出物を用いた以外は、図1と同様に試験した結果である。IAV RNAのウイルス生存率は、抽出物の濃度0.0125~0.05%の範囲で一貫して対照よりも増加したことから、抗ウイルス性は確認されない。
図6図1の茶実外果皮熱水抽出物の代わりに、本発明の従わない茶実の種子の搾油残渣の50%エタノール水溶液抽出物を用いた以外は、図1と同様に試験した結果である。IAV RNAのウイルス生存率は、抽出物の濃度0.0125~0.05%の範囲で一貫して対照よりも増加したことから、抗ウイルス性は確認されない。
図7図7の写真に茶実の外果皮とその内側の内果皮にくるまれた3個の種子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の抗ウイルス剤の実施の形態を以下に説明する。本発明の茶実果皮抽出物を有効成分とする抗ウイルス剤は、ウイルスの感染から保護するために用いられる。
【0024】
ウイルスは、細胞構造を有する細菌、真菌等の微生物と異なり、細胞構造を持たず、ゲノムをカプシドという外殻タンパク質の中に持つ構造体である。ウイルスは、ゲノムがDNA又はRNAかによって二種類に大別され、カプシドが脂質二重膜からなるエンベロープで覆われている有膜ウイルスとエンベロープで覆われていない無膜ウイルスかによってさらに分類される。具体的には、RNAタイプの有膜ウイルスにはインフルエンザウイルス、SARSやMARSのようなコロナウイルス、風疹ウイルス等;DNAタイプの有膜ウイルスには、ヒトヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス等;RNAタイプの無膜ウイルスにはノロウイルス、ポリオウイルス、エンテロウイルス等;そしてDNAタイプの無膜ウイルスにはアデノウイルス、B19ウイルス等が含まれる。本発明の抗ウイルス剤の対象は、RNAウイルス及びDNAウイルスのいずれでもよい。RNAウイルス及びDNAウイルスは、有膜ウイルス及び無膜ウイルスのいずれでもよく、好ましくは有膜ウイルスである。
【0025】
図7に、茶実の外果皮とその内側の内果皮からなる果皮に1~3個の種子がくるまれた状態を示す。本発明に使用する茶実の部分は、茶実果皮は、外果皮及び/又は内果皮のいずれでよく、抗ウイルス性が高い点で外果皮を含むことが好ましく、特に外果皮からなることが好ましい。
【0026】
茶実から茶実果皮抽出物を得る方法の一例を以下に説明する。茶実を打砕機にかけて、あるいは必要に応じて金槌やペンチを用いて手で外皮及び内皮付きの種子を分離し、内皮付きの種子はさらに脱皮機や殻剥き機にかけて内皮と種子とを分離する。回収した外果皮及び/又は内果皮を、適宜、乾燥及び粉砕した後、抽出溶媒で抽出して抽出物を得る。
【0027】
上記抽出溶媒は、水溶性溶媒が好ましい。水溶性溶媒の具体例として、水、エタノール、イソプロパノールのような低級アルコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコ―ル、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンのような多価アルコール、アセトン、ポリオールのような親水性有機溶媒あるいはこれらの混合溶媒が挙げられる。水溶性溶媒は、好ましくは水及びエタノール水溶液であり、特に好ましくは水であり、さら好ましくは熱水である。エタノール水溶液のアルコール濃度は、通常10~90%であり、好ましくは30~70%であり、特に好ましくは50%である。
【0028】
前記水溶性溶媒の温度は、通常、常温以上溶媒沸点以下である。水溶性溶媒が水の場合、好ましくは50℃以上、特に好ましくは70℃以上、さらに好ましくは90~100℃の熱水である。抽出時間は、溶媒の種類と抽出温度にもよるが、通常、0.5~5時間でよく、好ましくは1~4時間であり、特に好ましくは2~3時間である。抽出の際、スターラ等で攪拌することによって抽出を促進させてもよい。抽出後、固液分離して、液層部分を抽出物として回収する。前記抽出物は、適宜、滅菌後、濾過、脱色、脱臭、分画、濃縮、乾燥等の工程に付される。茶実果皮抽出物の好ましい形態は、保存及び取り扱いの簡便さの点で、濃縮物又は乾燥物である。
【0029】
本発明の抗ウイルス剤の製造方法は、有効成分としての上記茶実果皮抽出物を薬学的又は化粧品学的に許容される担体又は賦形剤に添加することを含む。上記担体又は賦形剤の例には、水、エタノール等のアルコール、ブチレングリコール等が挙げられる。
【0030】
本発明の抗ウイルス剤には、医薬品や化粧品用途、特に抗ウイルス用途で一般に用いられている各種助剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で使用してよい。助剤の具体例には、公知の抗ウイルス剤;ビタミン類;生理活性成分;水溶性高分子;高級アルコール;糖類;高級脂肪酸、油脂、合成エステル油;粉末成分;キレート剤;pH調整剤;粘度調整剤、増粘剤;界面活性剤、乳化剤;発泡剤;噴射剤;紫外線吸収剤;抗酸化剤;防腐剤;抗菌剤;保存剤;蛍光増白剤;着色料;香料等が挙げられる。
【0031】
本発明の抗ウイルス剤の形態は、特に制限されない。形態の具体例として、水溶液、スプレー、クリーム、ペースト、ゲル、ジェル、粉末、顆粒、錠剤、トローチ、ドロップ等が挙げられる。
【0032】
本発明の抗ウイルス剤の主用途は、抗ウイルス用消毒剤である。汎用の抗菌性消毒剤に本発明の抗ウイルス剤を配合することにより、抗菌性消毒剤に抗ウイルス用途を付加してもよい。
【0033】
抗ウイルス用消毒剤は、本発明の有効成分が水溶性であることから、水溶液やスプレーの形態が有利である。抗ウイルス用消毒剤の使用方法は、例えば抗ウイルス剤を水、アルコール等の水溶性溶媒に溶解又は分散させた溶液を調製し、その溶液を手指消毒用ディスペンサーに充填する、紙、不織布、布、スポンジ等の担体に含浸させる、便座、台所、テーブル、床等の基体に塗布する等が挙げられる。
【0034】
本発明の抗ウイルス剤を抗ウイルス用消毒剤として用いる場合、抗ウイルス剤中の茶実果皮抽出物の含有量(固形分換算)は、ウイルスにもよるが、通常、0.0001重量%以上5重量%以下でよく、好ましくは0.0005重量%以上2.5重量%以下、さらに好ましくは0.001重量%以上1.2重量%以下であり、特に好ましくは0.004重量%以上1重量%以下である。抗ウイルス用消毒剤中の茶実果皮抽出物の含有量が低過ぎると充分な抗ウイルス性が得られないことがある。含有量が高過ぎると細胞障害性、着色等の問題が生じる場合がある。
【0035】
本発明の抗ウイルス剤はまた、抗ウイルス用消毒剤以外の医薬又は医薬部外品、化粧料のような皮膚外用剤、日用品、飲食品等の物品に施用して、物品へ抗ウイルス性を付与するために使用してもよい。抗ウイルス用消毒剤以外の医薬又は医薬部外品としては、洗口液、うがい薬、のど飴等が挙げられる。上記化粧料の具体例には、洗顔料、クレンジング、美容液、化粧水、乳液、パック、フェイスマスク、ハンドクリーム等のスキンケア・基礎化粧品;ファンデーション、化粧下地、フェイスパウダー等のベースメイク;日焼け止め・UVケア等のUVケア商品;シャンプー、コンディショナー、ヘアパック、トリートメント等のヘアケア・スタイリング化粧料;アンチポリューション化粧料等が挙げられ、ハンドクリームやアンチポリューション化粧料が好ましい。上記日用品には、日常生活で用いる家庭用品や携帯品を含む雑貨、文房具、家具又はその部品、玩具・遊具、マスク、不織布、鞄、財布のような服飾品が挙げられ、特に雑貨のようにヒトの手で日常触り易いものが好ましい。上記飲食品には、パン、菓子類、飲料、サプリメントが挙げられる。
【0036】
本発明の抗ウイルス剤で各種物品へ抗ウイルス性を付与する態様は、医薬品や化粧料では添加、日用品では、塗布又は噴霧、飲食品では添加、練り込み、塗布又は噴霧である。本発明の抗ウイルス剤の有効成分である茶実果皮抽出物は、植物由来であるため、ヒトの健康を阻害しない点で有利である。
【0037】
上記の各種物品へ本発明の抗ウイルス剤を施用して抗ウイルス性を付与する場合、各種物品への抗ウイルス剤の使用量は、茶実果皮抽出物の固形分換算で、通常、0.00005重量%以上3重量%以下でよく、好ましくは0.00025重量%以上2重量%以下、さらに好ましくは0.0005重量%以上1.2重量%以下であり、特に好ましくは0.002重量%以上1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以上1重量%以下である。
【実施例0038】
以下に、本発明の実施の態様を実施例によって説明する。
〔調製例〕
本発明の抗ウイルス剤を調製するために、茶の実(静岡県内の茶畑より入手)を乾燥した後、手で外皮を取りはずし、さらに内皮に包まれた種子を脱皮機にかけて内皮と種子とに分離した。比較例に用いるため、上記茶実の実から採取した種子を搾油した後に得られる搾油残渣を用意した。
【0039】
上記で得られた茶実の外皮又は内皮、若しくは搾油残渣を、温度90℃の熱水又は常温の50%エタノール水溶液(以下、50%EtOH)中で、約2時間、保持することにより、各果皮又は搾油残渣中の有効成分を熱水又は50%EtOH中に抽出し、さらに濾過して抽出液を得た。茶実外皮(乾燥物基準)からの熱水及び50%EtOH抽出物の収率は、それぞれ16.3及び16.0重量%(固形分換算)であった。また、茶実内皮(乾燥物基準)からの熱水及び50%EtOH抽出物の収率は、それぞれ1.6及び2.6重量%(固形分換算)であった。
【0040】
上記茶実外皮の熱水抽出液(固形分1.78重量%)及び50%EtOH抽出液(固形分2.05重量%)、茶実内皮の熱水抽出液(固形分0.36重量%)及び50%EtOH抽出液(固形分0.63重量%)、茶実種子搾油残渣の熱水抽出液(固形分6.17重量%)及び50%EtOH抽出液(固形分4.49重量%)を、実施例及び比較例に使用する茶実抽出物試料に供した。
【0041】
〔実施例1~4〕
上記抗ウイルス剤の抗ウイルス性を試験するために、インフルエンザウイルス感染阻害試験を行った。まず、イヌ腎臓尿細管上皮細胞(MDCK細胞)を10%FBS含有培地で一晩培養後、24ウエルプレートに蒔き、PBSで洗浄して、トリプシンを添加した無血清培地に置換することにより、インフルエンザウイルス感染感受性とした。
【0042】
調製例で得た茶実抽出物試料を図1~6に示す所定濃度で上記無血清培地に添加した後、A型インフルエンザウイルスA/yokohama/110/2009(H3N2、以下IAVという)を接種して3日間培養することにより、MDCK細胞にIAVを感染させた。培養後、real-time RT-PCR法によってMDCK細胞由来の総RNA量(Total RNA count)及びIAV由来のRNA量(IAV RNA copy)を定量した。IAV RNA copy及びTotal RNA countで、抗ウイルス剤試料のそれぞれ抗ウイルス性及び細胞障害性を評価した。
【0043】
比較例1の茶実種子搾油残渣熱水抽出物及び比較例2の茶実種子搾油残渣50%EtOH抽出物の抗インフルエンザウイルス試験結果を、それぞれ図5及び6に示す。Total RNA countは、抽出物濃度0.0125~0.05%で対照レベルの75%程度を維持したが、抽出物濃度0.05%で極端に減少し、すなわち細胞障害性が現れた。このことから、抽出物濃度0.05%よりも高い濃度域での抗ウイルス試験は行なわなかった。Viral RNA copyは、抽出物濃度0.0125~0.05%で一貫して対照よりも増加した。以上の結果から、茶実種子搾油残渣抽出物に抗ウイルス性が見られないことが確認された。
【0044】
実施例1~4の本発明に従う茶実果皮抽出物の抗インフルエンザウイルス試験結果を図1~4に示す。実施例1~2のTotal RNA countは、抽出物濃度0.025~1%で対照レベルの75%以上を維持し、細胞障害性はほぼ見られなかった。抽出物濃度0.25~1%で、実施例1及び2のViral RNA copyは濃度依存的に対照よりも減少した。
【0045】
実施例3のTotal RNA countは、抽出物濃度0.063~1.25%で対照レベルの75%以上を維持していたが、抽出物濃度2.5%では低下した。抽出物濃度0.63~1.25%でのViral RNA copyは濃度依存的に対照よりも減少した。抽出物濃度2.5%でのViral RNA copyは増大したが、この増大は細胞障害性が現れたためと考えられる。
【0046】
実施例4のTotal RNA countは、抽出物濃度0.025~0.5%で対照レベルの75%以上を維持していたが、抽出物濃度1%では大きく低下した。抽出物濃度0.25~0.5%でのViral RNA copyは濃度依存的に対照よりも減少した。抽出物濃度1%でのViral RNA copyは増大したが、この増大は、細胞障害性が現れたためと考えられる。
【0047】
実施例1~4及び比較例1~2で得られた抗ウイルス性の結果を表1にまとめる。
【表1】
効果発現濃度:ウイルス生存率が対照の10%以下に減少する抽出物濃度
ウイルス生存率:効果発現濃度での対照に対するウイルス生存率
【0048】
表1に示すとおり、本発明に従う実施例1~4の茶実果皮抽出物は、細胞障害性をほとんど示さない所定の濃度域で顕著な抗ウイルス性を発揮している。
【0049】
実施例1~2の茶実外皮抽出物と実施例3~4の茶実内皮抽出物とを対比すると、ウイルス生存率が対照の10%以下に減少する濃度が低い、換言すると、抗ウイルス活性が高い点で外果皮が好ましいといえる。
【0050】
実施例1の熱水抽出物と実施例2の50%EtOH抽出物とを対比すると、細胞障害性が現れる濃度が高い点で熱水抽出物が好ましいといえる。これは、実施例3の熱水抽出物と実施例4の50%EtOH抽出物との対比においても同様である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7