(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020188
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】筋萎縮性側索硬化症におけるCEP290遺伝子の変異
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20230202BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20230202BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230202BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230202BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20230202BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230202BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230202BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230202BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20230202BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C12Q1/68 100Z
C12Q1/6869 Z ZNA
C12N15/12
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
A61P21/00
A61P25/00
A61K48/00
A61K38/17
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125434
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000185983
【氏名又は名称】小野薬品工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】桃沢 幸秀
(72)【発明者】
【氏名】笈田 浩次
(72)【発明者】
【氏名】吹田 直政
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4C084
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA23
4B029BB20
4B029CC01
4B029FA15
4B029GA03
4B029GB06
4B063QA08
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR42
4B063QR62
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4B063QS03
4B063QS25
4B063QS34
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4B063QX02
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA44
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZC511
4C084ZC512
(57)【要約】
【課題】本開示はALS患者の診断方法および層別化方法、並びにALS罹患および/または罹患リスクの判定方法を提供する。
【解決手段】
本開示は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を有する患者のCEP290をコードする遺伝子において見出される変異を提供する。本開示は、前記変異に基づくALS患者の診断方法および層別化方法等を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ALSに罹患している対象から対象を選択する方法であって、
ALSに罹患している対象から得られたゲノムDNAにおいてCEP290をコードする遺伝子の変異を検出することと、
当該変異を有する対象を選択することと
を含む、方法。
【請求項2】
ALSに罹患しているか否か、または罹患するリスクを有するか否かを評価する方法であって、
対象から得られたゲノムDNAにおいてCEP290をコードする遺伝子の変異を検出することを含む、方法。
【請求項3】
変異が、機能喪失型変異である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
機能喪失型変異がp.Phe2421fs、p.Val2310fs、p.Lys1930*、p.Arg1926*、p.Glu1664*、p.Gln1283*、p.Gln1268*、p.Val683fs、p.Arg549*およびp.Arg205*からなる群から選択される少なくとも1つ以上の変異である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法に用いられるキットであって、CEP290をコードする遺伝子の変異を検出する手段を含む、キット。
【請求項6】
CEP290をコードする遺伝子の変異が検出された対象に、CEP290をコードする核酸を投与し、これによって、当該対象においてCEP290タンパク質を発現させることをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を有する患者のCEP290をコードする遺伝子において見出される変異に関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、脳から筋肉への指令を伝達する運動神経およびその機能が損なわれる病気である。ALSの原因としては、遺伝子異常、酸化ストレス、およびグルタミン酸過剰などが提唱されている。中でも遺伝子異常などの遺伝的要因(例えば、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)の変異、TDP43、FUS、optineurin、C9ORF72、SQSTM1、およびTUBA4Aの変異など)が原因となるものが多いとされている(非特許文献1~4)。
【0003】
CEP290は、CEP290遺伝子によりコードされるヒトでは290kDaのセントロソームタンパク質である(非特許文献5)。CEP290は、これまでにSenior Loken症候群(SLC)、ジュベール症候群(JS)(非特許文献6)、致死性メッケル・グルーバー症候群(MKS)(非特許文献7)、およびバルデ・ビードル症候群(BBS)(非特許文献8)の原因遺伝子として知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Andersen PM, and Al-Chalabi A. Nat. Rev. Neurol., 2011; 7: 603-615
【非特許文献2】Oda M et al., Brain Nerve., 2011; 63: 165-170
【非特許文献3】Deng HX et al., Nature, 2011; 477: 211-215
【非特許文献4】Fecto F et al., Arch. Neurol., 2011; 68: 1440-1446
【非特許文献5】Coppieters F et al., Hum. Mutat., 2010;31: 1097-1108
【非特許文献6】Sayer JA et al., Nature Genet. 2006; 38: 674-681
【非特許文献7】Baala L et al.,Am. J. Hum. Genet. 2007; 80: 186-194
【非特許文献8】Leitch CC et al., Nature Genet., 2008; 40: 927
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、ALS患者の診断方法および層別化方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を有する患者のCEP290をコードする遺伝子において見出される変異を提供する。本開示は、一態様において、前記変異に基づくALS患者の診断方法および層別化方法を提供する。
【0007】
本発明者らによれば、ALS患者と非ALS患者のゲノムDNAの配列を検討し、CEP290をコードする遺伝子の変異がALSと関連していることを見出した。本開示はそのような知見に基づく。
【0008】
本開示は以下の発明を提供し得る。
(1)ALSに罹患している対象から対象を選択する方法であって、
ALSに罹患している対象から得られたゲノムDNAにおいてCEP290をコードする遺伝子の変異を検出することと、
当該変異を有する対象を選択することと
を含む、方法。
(2)ALSに罹患しているか否か、または罹患するリスクを有するか否かを評価する方法であって、
対象から得られたゲノムDNAにおいてCEP290をコードする遺伝子の変異を検出することを含む、方法。
(3)変異が、機能喪失型変異である、上記(1)または(2)に記載の方法。
(4)変異がp.Phe2421fs、p.Val2310fs、p.Lys1930*、p.Arg1926*、p.Glu1664*、p.Gln1283*、p.Gln1268*、p.Val683fs、p.Arg549*およびp.Arg205*からなる群から選択される少なくとも1つ以上の変異である、(3)に記載の方法。
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載の方法に用いられるキットであって、CEP290をコードする遺伝子の変異を検出する手段を含む、キット。
(6)CEP290をコードする遺伝子の変異を検出する手段がCEP290をコードする遺伝子の変異を含むDNA断片を増幅または濃縮する手段である、(5)記載のキット。
(7)CEP290をコードする遺伝子の変異が検出された対象に、CEP290をコードする核酸を投与し、これによって、当該対象においてCEP290タンパク質を発現させることをさらに含む、上記(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(8)ALSに罹患している対象を処置する方法であって、
当該対象に、CEP290をコードする核酸を含む医薬組成物の有効量を投与し、これによって、当該対象においてCEP290タンパク質を発現させることを含み、前記対象は、CEP290をコードする遺伝子に変異を有する対象である、方法。
(9)変異が機能喪失型変異である、上記(8)に記載の方法。
(10)ALSに罹患している対象を処置することに用いるための医薬組成物であって、
制御配列に作動可能に連結されたCEP290をコードする遺伝子の有効量を含み、前記対象は、CEP290をコードする遺伝子に変異を有する対象である、医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、CEP290をコードする遺伝子において見出される変異に基づくALS患者の診断方法および層別化方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】CEP290をコードする遺伝子において見出される変異の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<定義>
本明細書では、「対象」とは、ヒトを含む哺乳動物であり得、特にヒトであり得る。
【0012】
本明細書では、「処置」とは、予防的処置および治療的処置を意味し得る。予防的処置は、病気の発症を防止すること、発症を遅延させること、発症率を低下させること、を含む意味で用いられる。治療的処置は、病気の悪化の速度の低下、悪化の遅延、悪化の防止、病気の症状の軽減、病気の治癒、および病気の寛解を含む意味で用いられる。
【0013】
本明細書では、「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)とは、脳から筋肉への指令を伝達する運動神経およびその機能が損なわれる病気である。運動神経およびその機能が損なわれると、脳による指令通りの動作が困難となり、筋肉が痩せ細る。筋肉の減弱化は、基本的には、神経による指令が損なわれた結果として生じるものであり、筋肉自体の疾患ではないと考えられている。患者の多くが50歳から70歳で発症し、男性の方が罹患者数が多い。ALSの発症には様々な原因が関与すると考えられている。例えば、遺伝子異常、酸化ストレス、およびグルタミン酸過剰などが提唱されている。中でも遺伝子異常などの遺伝的要因(例えば、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)の変異、TDP43、FUS、optineurin、C9ORF72、SQSTM1、およびTUBA4Aの変異など)が原因となるものが多いとされている。ALS全体の中のおよそ5~10%は家族性であると考えられている。家族性ALSの病因遺伝子が明らかにされている。
【0014】
ALSは、はじめに出現する症状により2つのタイプに大別される。1つは、四肢型であり、1つは、球麻痺型である。四肢型では、手足に力が入りにくくなる症状が最初に現れる。球麻痺型では、舌や口を動かしにくくなる症状が最初に現れる。例えば、ろれつが回りにくいといった症状や、嚥下機能の低下などである。これに対して、ALSにおいては、中枢神経の機能、五感(見る、聞く、嗅ぐ、味わう、および触れる)を司る知覚神経、排泄の機能などを司る自律神経は、比較的に損傷を受けない。ALSの病状は、急速に進行する患者もいるが、十数年にわたりゆっくりと進行する患者もいる。ALSの確定診断は、日本では通常は脳神経内科で行われる。脳神経内科では、患者の目、顔や手足の動き、ハンマーを使った腱反射、バランスや感覚の異常の有無を診察し、運動神経がどの程度ダメージを受けているかを確認する。具体的には、(i)攘夷運動ニューロン徴候(腱反射亢進、痙縮、病的反射)と会運動ニューロン徴候(筋萎縮、繊維束性収縮)が多髄節にわたって認められること、(ii)症状が進行性であり、かつ初発部位から他部位への進展が認められること、および(iii)類似の症状をきたす疾患の鑑別(除外診断、例えば、感覚障害、括約筋障害、自律神経障害、視覚障害、錐体外路症状、アルツハイマー型認知機能障害の除外)を行う。その上で、3領域以上の上位および下位運動ニューロン障害、進行性経過、および除外診断の項目をすべて満たす場合にALSであると確定診断される。但し、治療的介入をより早期に行うために診断確実度をグレードわけする試み(具体的には、Definite、Probable、Possible、およびSuspected)もなされている。身体の運動支配領域を、脳幹、頸髄、胸髄、および腰仙髄の4領域に分けて、2領域において、上位および下位運動ニューロン障害を示す所見がある場合にProbableとし、3領域において、上位および下位運動ニューロン障害を示す所見がある場合にDefiniteとし、ProbableとDefiniteを治療対象とするというものである。表1に、ALS診断のためのAwaji基準、表2にAwaji提言を取り入れた改訂EL Escorial診断基準を示す。
【0015】
【0016】
【0017】
薬物療法としては、リルゾール投与が行われる。リルゾールは、グルタミン酸有利阻害作用、興奮性アミノ酸受容体との非競合的阻害作用、電位依存性Na+チャンネル阻害作用を有し、主にグルタミン酸による興奮毒性を抑制することにより神経細胞保護作用を発現すると考えられている。ALSの病勢進展を抑制するために、患者には1日量100mg(例えば、50mgを1日2回)を経口投与する。
【0018】
本明細書では、「ゲノムDNA」とは、対象のもつ遺伝子の全体(ゲノム)を構成するDNAである。ゲノムDNAは、特に細胞核に存在するゲノムDNAである。
【0019】
本明細書では、「CEP290」は、CEP290遺伝子によりコードされるヒトでは290kDaのセントロソームタンパク質である。CEP290は、ヒトでは12番染色体のQ腕上(Chr12:88.05-88.14Mb)に存在する。CEP290は、3H11Ag、BBS14、CT87、JBTS5、LCA10、MKS4、NPHP6、POC3、SLSN6、rd16、またはcentrosomal protein 290とも呼ばれる。CEP290は、米国国立生物工学情報センター(NCBI)データベースに、例えば、Gene ID: 80184として登録されている。ある態様では、ヒトCEP290タンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する。
【0020】
本明細書では、「機能喪失型変異」(LoF)とは、遺伝子産物の機能を減じるか消失させる変異である。機能喪失型変異は、常染色体上に存在する遺伝子に関しては、常染色体劣性変異となるか、ハプロ不全となる。機能喪失型変異の典型例としては、ナンセンス変異およびフレームシフト変異が挙げられる。ナンセンス変異は、アミノ酸をコードするコドンが、変異により終止コドンになる変異であり、ナンセンス変異が生じると本来よりも短いタンパク質が生じてしまう。フレームシフト変異は、塩基の挿入や欠失によりコドンの読み枠が変わり、当該挿入または欠失以降のアミノ酸が本来あるべきアミノ酸とは異なるアミノ酸に変化するものである。終止コドンの喪失も機能喪失型変異の典型例となる。終止コドンが喪失すると、リボソームはポリA配列部分で停止し、nonstop mediated decayによりmRNAは翻訳完了前に分解することが知られている。また、開始コドンの喪失も機能喪失型変異の典型となる。さらには、スプライシングの異常も機能喪失型変異の典型例であり得る。スプライスドナーの変異もしくは欠失、またはスプライスアクセプターの変異もしくは欠失は、スプライシングによるイントロンの切除の正常な作動を阻害し、誤ったmRNAを生み出す。これにより、フレームシフト変異やナンセンス変異などの機能喪失型変異の原因となり得る。
【0021】
本明細書では、「ターゲットリシークエンス」は、解読する領域を含むDNA断片を増幅または濃縮してから次世代シークエンシング等のシークエンシング技術によりシークエンスする手法である。解読する領域を含むDNA断片に対して、当該領域をカバーするに十分な種類および数のDNA断片を増幅するようにプライマーセットを設計することができる。当該プライマーセットを用いて遺伝子増幅(例えば、PCR法による遺伝子増幅)に供して多数のアンプリコンを得る。遺伝子増幅(例えば、PCR法による遺伝子増幅)は、マルチプレックス(例えば、マルチプレックスPCR法による遺伝子増幅)で行うことができる。得られたアンプリコンをシークエンシングすることによって、当該領域の核酸配列を解読することができる。これに対して、全ゲノムリシークエンスは、特に特定領域の増幅や濃縮をせずに核酸配列を解読する手法である。哺乳動物などのゲノムサイズの大きな生物のゲノムDNAの解読には、ターゲットリシークエンスが好ましく用いられ得る。
【0022】
本明細書では、「次世代シークエンシング」(NGS)は、数百万から数十億ものDNA断片を同時並行的に配列決定可能なシークエンシング技術である。次世代シークエンシング以前は、サンガー法によりDNAの配列が決定されていた。サンガー法では、1種類の単一鎖のDNA鋳型を含む溶液中で、DNA鋳型に対して相補的なコピーを作製する。その際に、デオキシリボヌクレオチド(A、T、G、およびC)に加えて、それぞれ異なる蛍光色を発する蛍光色素で標識されたジデオキシリボヌクレオチド(A、T、G、およびC)を混入しておく。そうすると、相補的なコピーは、鋳型に沿って伸長するがジデオキシリボヌクレオチドを取り込むとその箇所で伸長を停止する。伸長したコピーは、末端の蛍光色素を発するために、末端の核酸がATGCのいずれなのかを判別することができる。このようにしてサンガー法によるDNAシークエンシングは、1度に1つのDNA断片をシークエンシングすることができる。これに対して、次世代シークエンシングでは、数百万から数十億ものDNA断片を同時並行的にシークエンシングすることができる。次世代シークエンシングでは、サンプルDNAを読めるサイズ(数十から数百bp)に断片化し、両末端にアダプター配列を連結させることによりライブラリを調製する。その後、DNA断片を増幅し、配列を解読する。ブリッジPCR法では、基板にアダプターにハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドが固相化されている。両末端が基板上に固相化されたポリヌクレオチドに結合すると基板上にブリッジ形状が形成される。この状態で増幅を行い、増幅された鋳型に対する相補的なコピーを合成しながら相補鎖に取り込まれる1つ1つの塩基を当該塩基をラベルした蛍光色で判別して配列を解読する。各塩基はターミネーターキャップを有し、塩基を伸長する度に伸長を停止させる。解読後、ターミネーターキャップを除去してさらに伸長させながら塩基を解読する。エマルジョンPCR法では、アダプターを付加したDNA断片とアダプターにハイブリダイズできるポリヌクレオチドが固相化されたビーズとをエマルションに1:1となるように導入し、その後、PCR法により核酸を増幅して、ビーズ毎に1種類の増幅した核酸を結合したビーズを得る。得られたビーズは、パイロシークエンシング、ライゲーションシークエンシング、またはイオン半導体シークエンシングによりビーズ上の核酸をシークエンシングする。
【0023】
本明細書では、「ディープシークエンシング」とは、被覆度が30回以上のシークエンシングをいう。被覆度とは、特定塩基がシークエンシングされた回数をいう。本明細書では、「ペアードエンドシークエンシング」とは、断片の両端からシークエンシングをし、得られた1対のデータをセットで取り扱うことをいう。本明細書では「アダプター」とは、DNA断片の末端に連結する固有の配列を有する核酸をいう。アダプターは、固有の核酸が固相化された表面への固相化の目的、シークエンシングプライマーにプライミングする場所を提供する目的などの目的で用いられ得る。
【0024】
ポリヌクレオチド(または遺伝子であり、以下同様である)に関して用いる「作動可能に連結」という用語は、プロモーターなどの制御配列が遺伝子配列に十分に近くに配置され、プロモーターなどの制御配列が遺伝子配列の発現に影響を及ぼしうることを意味する。例えば、ポリヌクレオチドがプロモーターに機能的に連結するとは、当該ポリヌクレオチドが、当該プロモーターの制御下で発現するように連結されていることを意味する。
【0025】
「発現可能な状態」という用語は、ポリヌクレオチドが導入された細胞内で、該ポリヌクレオチドが転写され得る状態にあることを指す。
「発現ベクター」という用語は、対象ポリヌクレオチドを含むベクターであって、該ベクターを導入した細胞内で、対象ポリヌクレオチドを発現させる機構を備えたベクターを指す。例えば、「ポリヌクレオチドの発現ベクター」とは、該ベクターを導入した細胞内で、ポリヌクレオチドを発現可能なベクターを意味する。ポリヌクレオチドの発現ベクターにおいては、ポリヌクレオチドは、例えば、制御配列に作動可能に連結している。
【0026】
本明細明細書において、塩基配列どうしの配列同一性(又は相同性)は、2つの塩基配列を、対応する塩基が最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアラインメント中のギャップを除く、塩基配列全体に対する一致した塩基の割合として求められる。塩基配列どうしの配列同一性は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアを用いて求めることができる。例えば、塩基配列の配列同一性の値は、公知の相同性検索ソフトウェアBLASTNにより得られたアライメントを元にした計算によって得ることができる。
【0027】
<ALS患者の診断方法および層別化方法、並びにALSに罹患している、または罹患するリスクを評価する方法>
(A)本開示によれば、
ALSに罹患している対象から対象を選択する方法であって、
ALSに罹患している対象から得られたゲノムDNAにおいてCEP290をコードする遺伝子の変異を検出することを含む、方法
が提供される。本開示のこの方法は、CEP290をコードする遺伝子の変異が検出された対象を選択することをさらに含み得る。このようにして選択された患者は、遺伝子治療(または遺伝子編集技術による遺伝子の正常化)の対象となり得る。また、このようにして選択された機能喪失型変異を有する患者は、CEP290タンパク質の補充療法の対象となり得る。
【0028】
(B-1)本開示によれば、
対象においてALSに罹患している対象を検査する方法であって、
対象から得られたゲノムDNAにおいてCEP290をコードする遺伝子の変異を検出することを含む、方法
が提供される。本開示のこの方法は、当該対象において、ALSの原因がCEP290をコードする遺伝子の変異である可能性があると推定することをさらに含んでいてもよい。この意味では、
(B-2)本開示によれば、
ALSに罹患している対象においてALSの原因を推定する方法であって、
ALSに罹患している対象から得られたゲノムDNAにおいてCEP290をコードする遺伝子の変異を検出することを含む、方法
が提供される。本開示のこの方法は、当該対象において、ALSの原因がCEP290をコードする遺伝子の変異である可能性があると推定することをさらに含んでいてもよい。原因遺伝子が推定されることにより、当該対象の治療戦略がより明確化され得る。以下明細書では、(B-1)と(B-2)を単に(B)と総称する。
【0029】
(C)本開示によれば、
ALSに罹患している対象においてCEP290の補充療法またはCEP290の遺伝子治療の有効性を推定する方法であって、
対象から得られたゲノムDNAにおいてCEP290をコードする遺伝子の変異を検出することを含む、方法
が提供される。対象においてCEP290をコードする遺伝子の変異が検出されたときには、当該対象は、CEP290の遺伝子治療において有効性を有することが示され得る。したがって、本開示のこの方法は、CEP290をコードする遺伝子の変異が検出された対象を、CEP290の遺伝子治療において有効性を有すると推定することをさらに含み得る。また、CEP290をコードする遺伝子の機能喪失型変異の存在は、CEP290タンパク質の補充療法が有効であることを示し得る。したがって、本開示のこの方法は、CEP290をコードする遺伝子の機能喪失型変異を有する対象をCEP290タンパク質の補充療法において有効性を有すると推定することをさらに含み得る。ここで、上記において「推定する方法」は、「推定するための方法」、「推定するための予備的情報を得るための方法」、「診断する方法」、「診断するための方法」、または「診断するための予備的常法を得るための方法」と読み替えることができる。ある態様では、上記方法は、ヒトに対する医療行為を含まない。例えば、遺伝子解析センターにおいて医療従事者ではない技術者が推定することに有益であり得る。
【0030】
(D)本開示によれば、
対象においてALSに罹患しているか否か、または罹患するリスクを有するか否かを評価する方法であって、
対象から得られたゲノムDNAにおいてCEP290をコードする遺伝子の変異を検出することを含む、方法
が提供される。本開示のこの方法は、CEP290をコードする遺伝子の変異が検出された対象を、ALSに罹患している、または罹患するリスクを有すると評価することをさらに含み得る。対象においてCEP290をコードする遺伝子の変異が検出されたときには、当該対象は、ALSに罹患しているか、罹患するリスクを有することが示され得る。確定診断は医師により行われ得る。ここで、上記において「評価する方法」は、「評価するための方法」、「評価するための予備的情報を得るための方法」、「判定する方法」、「診断する方法」、「診断するための方法」、または「診断するための予備的常法を得るための方法」と読み替えることができる。ある態様では、上記方法は、ヒトに対する医療行為を含まない。例えば、遺伝子解析センターにおいて医療従事者ではない技術者が評価することに有益であり得る。
【0031】
本開示による上記(A)~(D)に記載の方法それぞれにおいて、CEP290をコードする遺伝子の変異は、CEP290タンパク質の変異、特に機能喪失型変異であり得る。機能喪失型変異としては、ナンセンス変異、フレームシフト変異、スプライスドナーの変異、スプライスアクセプターの変異、開始コドンの喪失、および終止コドンの喪失からなる群から選択される変異が挙げられる。
【0032】
本開示による上記(A)~(D)に記載の方法それぞれにおいて、CEP290は、ヒトでは約2500アミノ酸のタンパク質である。ヒトCEP290の例としては、NCBIにGene ID: 80184として登録されているアミノ酸配列を有するCEP290が挙げられる。NCBIにGene ID: 80184として登録されているアミノ酸配列において、アミノ酸番号1~695は、自己会合に関与する領域であり得る。上記アミノ酸配列においてアミノ酸番号696~896は、他のタンパク質との会合に関与する領域であり得る。上記アミノ酸配列においてアミノ酸番号1966~2479は、自己会合に関与する領域であり得る。また、上記アミノ酸配列においてアミノ酸番号59~565の領域、598~664の領域、697~931の領域、958~1027の領域、1071~1498の領域、1533~1584の領域、および1635~2452の領域は、コイルドコイル領域であり得る。これらの領域は、タンパク質相互作用において重要な役割を果たし得るため、喪失は、機能喪失型変異を生じ得る。
【0033】
ある態様では、ALS患者のCEP290は、機能喪失型変異としてナンセンス変異を有し得る。ナンセンス変異を有するCEP290変異体は、機能を喪失するか、または、ナンセンス変異依存mRNA分解(NMD)により分解され得る。
【0034】
本開示による上記(A)~(D)に記載の方法それぞれにおいて、ある態様では、これらそれぞれの変異は、フレームシフト変異により得る。すなわち、フレームシフト変異は、上記アミノ酸配列のアミノ酸番号1~59の領域、59~565の領域、565~598の領域、598~664の領域、664~695の領域、696~896の領域、897~931の領域、932~957の領域、958~1027の領域、1027~1070の領域、1071~1498の領域、1499~1532の領域、1533~1584の領域、1585~1634の領域、1635~1965の領域、1966~2452の領域、および2453~2497の領域からなる群から選択される1以上の領域、または当該領域に対応するCEP290の領域に存在し得る。
【0035】
本開示による上記(A)~(D)に記載の方法それぞれにおいて、ある態様では、CEP290の変異は、表3に記載のいずれかの変異であり得る。
【表3】
【0036】
ある態様では、機能喪失型変異は、p.Phe2421fs、p.Val2310fs、p.Lys1930*、p.Arg1926*、p.Glu1664*、p.Gln1283*、p.Gln1268*、p.Val683fs、p.Arg549*およびp.Arg205*からなる群から選択される1以上であり得る。ここで、「p.」はタンパク質であることを意味し、アルファベット3文字はアミノ酸の3文字表記を表し、数字はアミノ末端のメチオニンから数えたアミノ酸番号を示し、「fs」はその箇所でフレームシフト変異が生じたことを意味し、「*」はその箇所で終止コドンが生じたことを示す。したがって、「p.Phe2421fs」は、変異によりタンパク質の2421番目のフェニルアラニンにフレームシフト変異が生じたことを意味する。「p.Lys1930*」は、変異によりタンパク質の1930番目のリジンが終止コドンに変わったことを意味する。
【0037】
本開示による上記(A)~(D)に記載の方法それぞれにおいて、ある態様では、変異は、ナンセンス変異であり得、ナンセンス変異は、特に限定されないが例えば、p.Lys1930*、p.Arg1926*、p.Glu1664*、p.Gln1283*、p.Gln1268*、p.Arg549*およびp.Arg205*からなる群から選択される1以上であり得る。
【0038】
ある態様では、機能喪失型変異は、c.7257delA、c.6927delA、c.5788A>T、c.5776C>T、c.4990G>T、c.3847C>T、c.3802C>T、c.2047_2050delGTTA、c.1645C>T、及びc.613C>Tからなる群から選択される1以上であり得る。ここで、「c.」は、コード領域を意味し、数字は開始コドンのATGのAを1番目として変異の生じた塩基番号を示し、ATGCは塩基を示し、「del」は該当する塩基番号の塩基の欠失を示し、「>」は該当する塩基番号の塩基の置換を示す。
【0039】
本開示による上記(A)~(D)に記載の方法それぞれにおいて、ある態様では、ALSの機能喪失型変異は、例えば、開始コドンの喪失であり得る。ある態様では、ALSの機能喪失型変異は、例えば、終止コドンの喪失であり得る。終止コドンの喪失は、例えば、フレームシフト変異により生じ得る。終止コドンの喪失は、例えば、塩基の挿入、欠失および置換からなる群から選択される1以上により生じ得る。開始コドンの喪失は、タンパク質の合成を阻害し、終止コドンの喪失は、mRNAの分解を誘発する。
【0040】
<CEP290の変異の検出方法>
CEP290の変異は、ALSの原因足り得る。したがって、CEP290の変異の検出は、ALSに罹患していること、またはALSに罹患するリスクを有することを示し得る。また、CEP290の変異の検出は、ALSに罹患している対象に対して正常機能を有するCEP290を補充する処置が有効であることを示唆する。そのため、CEP290の変異の検出は重要である。
【0041】
CEP290の変異は、シークエンシングにより検出することができる。CEP290は巨大なタンパク質である。したがって、その全長の配列を解読するためには、CEP290の全長を次世代シークエンシングにより解読することが好ましい。哺乳動物は膨大な配列を有する。したがって、ある好ましい態様では、CEP290の変異は、ターゲットリシークエンシングにより検出され得る。ある好ましい態様では、CEP290の変異は、次世代シークエンシングにおける全ゲノムシークエンスまたはターゲットリシークエンスによって検出され得る。
【0042】
ゲノムDNAを含む生体サンプルを対象から取得することができる。生体サンプルは、末梢血、唾液、頬粘膜、ツメ、または毛髪であり得る。ゲノムDNAの抽出は、常法により実施することができる。例えば、ゲノムDNAの抽出は、生体サンプルを細胞溶解液で処理し、溶解液に溶解したゲノムDNAを回収することにより行われ得る。DNAの回収は、エタノール沈殿などの当業者に周知の方法により実施され得る。得られたゲノムDNAは、凍結して保存され得る。
【0043】
ゲノムDNAは、シークエンシングに供することができる。シークエンシングは、サンガー法により実施することができる。サンガー法では、シークエンシングの前にCEP290の配列解読部分を増幅することができる。増幅は、例えば、PCR法によることができる。PCR法は、増幅する領域を挟むように設計された2つのプライマーを用いて実施され得る。増幅産物は、サンガー法により配列を解読され得る。シークエンシングは、次世代シークエンシングにより実施することができる。次世代シークエンシング(NGS)では、シークエンシングの前にライブラリを調製することができる。ライブラリ調製においては、まず、ゲノムDNAを解読可能な長さ(例えば、数十~数百bp)の断片になるように切断することができる。切断は、例えば、制限酵素などのDNA切断酵素(エンドヌクレアーゼ)を用いて行うことができる。DNA切断に用いることができる、配列特異的なエンドヌクレアーゼが様々に知られており、本切断に用いることができる。得られたDNA断片は、その両末端にアダプターをライゲーションすることができる。このようにして、アダプターを両末端に有するDNA断片がライブラリとして得られ得る。
【0044】
ライブラリは、遺伝子増幅に供されうる。遺伝子増幅は、例えば、ブリッジPCRまたはエマルションPCRによりなされ得る。
【0045】
ターゲットリシークエンスが好ましく実施され得る。ターゲットリシークエンスでは、ライブラリを調製する過程において、アダプターのライゲーション前または好ましくは後に、CEP290にハイブリダイズ可能な標識オリゴヌクレオチドプローブを1本鎖化したDNA断片と混合してDNA断片とハイブリダイズさせ、これを標識結合物質を固相化した表面(例えば、ビーズ)上に吸着することによって、CEP290をコードする遺伝子の断片を濃縮することができる。DNAの一本鎖化は、例えば、熱変性により容易に達成することができる。ライブラリは、遺伝子増幅に供され、その後、配列が解読され得る。オリゴヌクレオチドは、例えば、ビオチンにより標識することができる。この場合、アビジンを固相化した表面を用いて、当該表面にビオチンを介して濃縮したい断片を濃縮することができる。したがって、CEP290をコードする遺伝子にハイブリダイズできる標識核酸(または上記遺伝子に相補的な配列を有する核酸)と、当該標識に対する結合性化合物を固相化した表面を有する支持体(例えば、ビーズ)とを用意することができ、これを用いてCEP290をコードする遺伝子を含むDNA断片を濃縮することができる。断片は、数十から数百bp程度の長さを有する。したがって、CEP290をコードする遺伝子(約7kb超)をカバーするようにDNA断片を濃縮するためには、それぞれのDNA断片にハイブリダイズ可能な複数の標識核酸を準備することができる。例えば、ゲノムDNAからのDNA断片の作製において、制限酵素を用いることによって、得られるDNA断片の開始点と終了点が明確化される。したがって、例えば、制限酵素を用いて得たDNA断片を推定し、個々の断片それぞれに対して別々にハイブリダイズできる複数の標識核酸を用意することができる。標識核酸は、例えば、DNA、RNA、および修飾核酸からなる群から選択される核酸を含み得る。DNAに対しての結合力の観点では、RNAを用いることが好ましく、修飾核酸を用いることがより好ましい。濃縮後は、相補鎖のコピーを合成して、その後、アダプター配列を付加し、CEP290をコードする遺伝子の断片について集中的にシークエンスをすることができる。
【0046】
修飾核酸においては、RNAは安定性を高めるために、塩基に対して2’-O-メチル修飾または、2’-フルオロ修飾若しくは2’-メトキシエチル(MOE)修飾をすることがあり、修飾核酸においては、核酸バックボーンのホスホジエステル結合をホスホロチオエート結合に置き換えることもある。修飾核酸としては、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子が架橋された核酸が挙げられる。このような修飾核酸としては、例えば、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がメチレンを介して架橋された架橋型DNAであるlocked nucleic acid(LNA)、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がエチレンを介して架橋されたENA、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子が-CH2OCH2-を介して架橋されたBNACOC、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子が-NR-CH2-{ここで、Rは、メチルまたは水素原子である}を介して架橋されたBNANCなどの架橋型核酸(BNA)、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子が-CH2(OCH3)-を介して架橋されたcMOE、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子が-CH2(CH3)-を介して架橋されたcEt、2’位と4’位の炭素原子がアミドを介して架橋されたAmNA、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がメチレンを介して架橋され、6’位にシクロプロパンが形成されたscpBNA、およびデオキシリボースまたはリボースの代わりにN-(2-アミノエチル)グリシンがアミド結合したポリマーが主鎖となったペプチド核酸(PNA)などが挙げられる。修飾核酸としてモルフォリノオリゴを用いることもできる。モルフォリノオリゴでは、塩基で修飾されたモルフォリン環が、例えば、-P(=O)(NH2)-などの共有結合性の化学結合により連結されている。
【0047】
あるいは、ある態様では、ターゲットリシークエンスでは、ライブラリを調製する過程において、アダプターのライゲーション前に、CEP290をコードする遺伝子の断片を増幅することができるプライマーセットを用いてPCR法により断片を増幅することができる。プライマーは、複数の増幅産物によりCEP290の全長がカバーされるように設計することができる。PCRは、マルチプレックスで行うことができ、これにより、CEP290をカバーする様々DNA断片が増幅される。アダプターは、プライマーに含めることにより、増幅断片に含まれるようにすることができる。例えば、ターゲットシークエンスパネルとしてCEP290をコードする遺伝子領域の全長をカバーする複数のDNA断片を増幅可能なプライマーセットを用意しておくことができる。好ましくは、プライマーセットには、アダプター配列を含まれていてもよい。得られたライブラリは、遺伝子増幅に供されうる。遺伝子増幅は、例えば、ブリッジPCRまたはエマルションPCRによりなされ得る。
【0048】
ある態様では、1回のシークエンシングの実行において、複数の対象に由来するサンプルをシークエンシングすることができる。この場合には、各対象を区別するために、アダプター配列に加えて、サンプルの由来を区別するインデックス配列をさらに付加することもできる。インデックス配列は、対象に固有の配列とすることができ、各対象のサンプルにインデックス配列を付与(ライゲーション等)した後に、複数の対象のサンプルを混合し、シークエンシングを行う。シークエンシングにより得られた配列情報にはインデックス配列が含まれる。インデックス配列を参照することにより、当該配列情報が由来する対象を特定することができる。
【0049】
ある態様では、本開示の方法は、CEP290をコードする遺伝子に2以上の変異を有する対象において、当該2以上の変異がハプロタイプか否かを決定(ハプロタイピング)することをさらに含み得る。ハプロタイプは、2つ以上の遺伝子型が同一染色体上の遺伝的な構成を意味する。ハプロタイピングは、2つ以上の遺伝子型が同一染色体上の遺伝的な構成であるか否かを決定することを意味する。ハプロタイピングは、例えば、CEP290をコードする遺伝子上に2以上の変異が検出されたときに、当該2以上の変異のうちの少なくとも2つを含む遺伝子断片を取得し、ロングリードのシーケンサーで配列を解読することによって行うことができる。遺伝子断片は、シークエンスの前に増幅されてもよい。ロングリードの配列解読は、ナノポアシークエンシングなどのロングリードシーケンシングにより達成され得る。CEP290をコードする遺伝子をプラスミド上にクローニングして、大腸菌を当該プラスミドで形質転換し、シングルコロニーをピックアップしてシークエンシングすることでもハプロタイピングを実施し得る。
【0050】
<CEP290をコードする遺伝子の変異を伴うALSに罹患している対象を処置する方法>
CEP290をコードする遺伝子の変異を伴うALS患者は、CEP290タンパク質の機能喪失型変異がALS発症の原因となっていると強く示唆される。したがって、当該対象にCEP290タンパク質の投与、またはCEP290をコードする遺伝子を投与することによって、当該対象においてCEP290タンパク質を増加させることにより、ALSを処置し得るのである。特に、CEP290をコードする核酸をCEP290をコードする遺伝子の変異を伴うALSを有する対象に投与することができる。また、CRISPR-Cas9等の遺伝子編集技術を用いて、CEP290をコードする遺伝子の変異部分を正常化することもできる(Nature Communications, 2020, 11, Article number: 482)。例えば、ゲノムDNA中の変異部分を含む領域(標的領域)に遺伝子編集技術を用いて切断を導入することができる。これにより標的領域を正常な配列を有する核酸(組換え用の配列)に置き換えることができる。具体的には、標的領域の上流配列と相同組換え可能な上流ホモロジーアームと組換え用の配列と標的領域の顆粒配列と相同組換え可能な下流ホモロジーアームとをこの順番で有するDNAテンプレートの存在下で、標的領域に切断を導入すると、真核細胞はゲノム修復をする際に組換え用核酸と相同組換えを誘発する。これにより、標的領域が組換え用の配列に置き換わる。組換え用の配列に機能的な配列(正常化した配列、例えば、フレームシフト変異が修正されて正しいフレームを有する配列、終止コドンを有しない配列、および野生型の配列など)を用いることにより、変異部分を正常化することができる。標的領域への切断は、遺伝子編集技術(例えば、CRISPR/Casシステム、好ましくはCRISPR/Cas9システム、TALEN、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガベースヌクレアーゼなどのゲノムDNA上に好ましくは1箇所のみ切断を導入するDNA切断酵素)を用いて導入することができる。導入は、例えばアデノ随伴ウイルス(AAV)により実施できる。AAVは、ある態様では、Cas9ヌクレアーゼをコードする遺伝子、ガイドRNAをコードする遺伝子、DNAテンプレート、および必要に応じてこれらを駆動するプロモーターを含み得る(Nature Communications, 2020, 11, Article number: 482)。
【0051】
ある態様では、CEP290をコードする核酸は、制御配列に作動可能に連結している。本明細書で使用される「制御配列」とは、それに動作可能に連結された遺伝子を駆動し、その遺伝子からRNAを転写する活性を有する配列である。制御配列は、例えば、プロモーターである。プロモーターとしては、例えば、クラスIプロモーター(rRNA前駆体の転写に用いることができる)、クラスIIプロモーター(コアプロモーターと上流のプロモーター要素を含み、mRNAの転写に用いることができる)、クラスIIIプロモーター(さらにタイプI、II、IIIに分類される)などが挙げられる。制御配列は、調節配列とも呼ばれ、動物細胞や植物細胞などの細胞内でmRNAを転写することができるプロモーターであればよい。例えば、第1の制御配列として、様々なpol IIプロモーターを用いることができる。pol IIプロモーターとしては、CMVプロモーター、EF1プロモーター(EF1αプロモーター)、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、β-アクチンプロモーター、CAGプロモーター、CBhプロモーターなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、プロモーターには、T7プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーターなどのバクテリオファージ由来のRNAポリメラーゼを駆動するプロモーターや、U6プロモーターなどのpol IIIプロモーターも含めることができる。T7プロモーターは環状DNAからの転写に好ましく用いられ、SP6プロモーターは直鎖状DNAからの転写に好ましく用いられる。また、プロモーターは、誘導性プロモーターであってもよい。誘導性プロモーターとは、プロモーターを駆動するインデューサーの存在下でのみ、プロモーターに動作可能に連結されたポリヌクレオチドの発現を誘導することができるプロモーターである。誘導性プロモーターの中には、プロモーターの活性を抑制する阻害剤の非存在下でのみ、プロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチドの発現を誘導できるものがある。誘導性プロモーターには、ヒートショックプロモーターなど、加熱により遺伝子発現を誘導するプロモーターが含まれるが、これに限定されるものではない。また、誘導可能なプロモーターには、薬剤で駆動可能なプロモーターも含まれる。このような薬物誘導可能なプロモーターとしては、例えば、クメートオペレーター配列、ラムダオペレーター配列(例えば、12×ラムダOp)、テトラサイクリン誘導可能なプロモーターなどが挙げられる。テトラサイクリン誘導性プロモーターとしては、例えば、テトラサイクリンまたはその誘導体(例えば、ドキシサイクリン)または逆テトラサイクリン制御性トランス活性化因子(rtTA)の存在下で遺伝子発現を駆動するプロモーターが挙げられる。テトラサイクリン誘導性プロモーターの例としては、TRE3Gプロモーターが挙げられる。
【0052】
制御配列に作動可能に連結されたCEP290をコードする遺伝子は、哺乳動物細胞内において転写および翻訳されてCEP290タンパク質を産生し、CEP290の変異の影響を軽減することができる。CEP290タンパク質は、特に限定されないが例えば、野生型のCEP290であり得、例えば、米国国立生物工学情報センター(NCBI)データベースに、例えば、Gene ID: 80184として登録されているアミノ酸配列、またはこれに対応する配列を有するCEP290であり得る。
【0053】
ある態様では、制御配列に作動可能に連結されたCEP290をコードする遺伝子は、タンパク質発現ベクターに搭載され得る。したがって、本開示では、制御配列に作動可能に連結されたCEP290をコードする遺伝子を発現可能に搭載したタンパク質発現ベクターを提供される。タンパク質発現ベクターは、例えば、ウイルスベクターであり得る。
【0054】
したがって、本開示によれば、例えば、このような制御配列に作動可能に連結されたCEP290をコードする遺伝子を含む医薬組成物が提供される。本開示によれば、例えば、制御配列に作動可能に連結されたCEP290をコードする遺伝子を搭載したタンパク質発現ベクターを含む医薬組成物が提供される。
【0055】
ある態様では、CEP290をコードする核酸は、メッセンジャーRNA(mRNA)であり得る。ある態様では、mRNAでは、少なくとも1以上のウリジンがシュードウリジンに変更されていてもよい。シュードウリジンは、1-メチルシュードウリジンであり得る。mRNAはcDNAから転写されたものであってもよく、すなわち、イントロンを有しなくてもよい。また、mRNAには、5’末端にCap構造を有していてもよい(Furuichi Y & Miura K. Nature. 1975;253(5490):374-5)。Cap構造は、Capアナログを用いたAnti-Reverse Cap Analogues(ARCA)法によってCap0構造をmRNAに付加することができる(Stepinski J et al. RNA. 2001 Oct;7(10):1486-95)。2’-Oメチルトランスフェラーゼ処理をさらに実施することにより、mRNAのCap0構造をCap1構造に変換することができる。これらは、常法により行うことができ、例えば、市販のキット、例えば、ScriptCap m7G Capping System、およびScriptCap 2’-O-Methyltransferase Kit、またはT7 mScript Standard mRNA Production System(AR Brown CO., LTD)によっても実施することができる。mRNAは、ポリA鎖を有することができる。ポリA鎖の付加は、常法により行うことができ、例えば、A-Plus Poly(A) Polymerase Tailing Kit(AR Brown CO., LTD)により行うことができる。したがって、ある態様では、mRNAは、5’末端にCap構造を有し、3’末端にポリAを有し、好ましくはウリジンの少なくとも1部がシュードウリジン(好ましくは、1-メチルシュードウリジン)であるmRNAであり得る。mRNAは、単離されたmRNAまたは合成されたmRNAであり得る。
【0056】
mRNAは、脂質ナノ粒子(LNP)に内包させることができる。これにより、生体内でのmRNAの分解を防ぐとともに、細胞内にmRNAを送達する効率が向上する。したがって、ある態様では、mRNAは、5’末端にCap構造を有し、3’末端にポリAを有し、好ましくはウリジンの少なくとも1部がシュードウリジン(好ましくは、1-メチルシュードウリジン)であるmRNAであり得る。このようなmRNAを内包する脂質ナノ粒子がまた提供される。脂質ナノ粒子は、特に限定されないが、例えば、US9364435B、US8822668B、US8802644B、およびUS8058069B2に記載された脂質ナノ粒子を用いることができる。あるいは、mRNAは、ポイリオンコンプレックスミセル、またはポリイオンコンプレックス型ポリマーソームに内包してもよい(Miyata et al., Chem. Soc. Rev., 2012, 41, 2562-2574)。
【0057】
したがって、本開示によれば、CEP290をコードするmRNAを含む医薬組成物が提供される。本開示によればまた、CEP290をコードするmRNAを内包したナノ小胞が提供される。ナノ小胞は、サブマイクロメートルの粒径を有する小胞であり得、好ましくは、100nm以下の直径を有する小胞であり得る。ナノ小胞は、脂質ナノ小胞であり得る。ナノ小胞は、ポリイオンコンプレックス型ミセルであり得る。
【0058】
<CEP290をコードする遺伝子の変異を含むDNA断片を増幅または濃縮する手段を含むキット>
本開示によれば、上記(A)~(D)に記載のいずれかの方法に用いるためのキットが提供されうる。キットは、CEP290をコードする遺伝子の変異を検出する手段を含むことができ、当該手段はDNA断片を増幅する手段(a)または濃縮する手段(b)を含むことができる。
【0059】
CEP290をコードする遺伝子の変異を含むDNA断片を増幅する手段(a)としては、CEP290をコードする遺伝子の一部または全体を増幅することができるように設計されたプライマーセットが挙げられる。上記手段(a)において、プライマーセットは、ある態様では、CEP290をコードする遺伝子の全体をカバーすることができるように複数のDNA断片を増幅することができる。すなわち、CEP290をコードする遺伝子のうち、増幅されない領域が存在しないように(増幅断片の重複は許容される)プライマーセットが設計されている。したがって、手段(a)は、CEP290をコードする遺伝子のうち、増幅されない領域が存在しないように設計された(増幅断片の重複は許容される)1以上のプライマーセットを含み得る。また、表3に挙げられた変異箇所を検出または増幅する各プライマーセットを含みうる。手段(a)は、上記のようなプライマーセットを含む検査パネルとして提供され得る。
【0060】
ある態様では、プライマーは、アダプター配列を含んでいてもよい。プライマーがアダプター配列を含むことにより、得られる増幅産物は、その両端にアダプター配列を含むこととなる。ある態様では、プライマーは、サンプルの由来を識別する等のためにインデックス配列をさらに含んでいてもよい。あるいは、手段(a)は、増幅産物のライゲーションするためのアダプター配列、および/またはインデックス配列を有するDNAを含んでいてもよい。上記手段(a)は、PCR法に用いることができる耐熱性DNAポリメラーゼなどのDNAポリメラーゼをさらに含んでいてもよい。上記手段(a)は、PCR法に用いる反応溶液をさらに含んでいてもよい。反応溶液には、例えば、プライマーセット、DNAポリメラーゼ、dNTP(例えば、dATP、dGTP、dCTP、およびdTTP)、およびMgイオンなどのPCRに必要な要素が含まれていてもよい。
【0061】
CEP290をコードする遺伝子の変異を含むDNA断片を濃縮する手段(b)としては、CEP290をコードする遺伝子に特異的にハイブリダイズすることができる核酸が挙げられる。CEP290をコードする遺伝子が、すでにさらに細かいDNA断片へと断片化されている場合には、すべての断片に対してハイブリダイズする標識核酸を用意することができる。核酸は、標識核酸(例えば、ビオチン標識核酸)であり得る。標識核酸は、標識と結合する物質(標識結合物質)を固相化した表面(例えば、支持体、例えば、ビーズ)に吸着させることができ、これにより標識核酸を濃縮することができる。したがって、上記手段(b)としては、標識核酸、および/または、標識結合物質を固相化した表面を有する支持体(例えば、ビーズ)が挙げられる。標識がビオチンである場合には、標識結合物質としては、アビジン、ストレプトアビジン、またはニューロラビジンであり得る。
【0062】
上記手段(b)は、DNA断片を作製するための制限酵素をさらに含んでいてもよい。また、上記手段(b)は、当該制限酵素処理によって得られるCEP290をコードする遺伝子の断片のそれぞれに対して特異的にハイブリダイズできる複数の標識核酸を含んでいてもよい。上記手段(b)は、標識結合物質を固相化した支持体をさらに含んでいてもよい。支持体は好ましくは、ビーズであり得る。ビーズは、特に限定されないが、磁性ビーズであり得る。
【0063】
<処置方法および医薬組成物>
本開示によれば、
ALSに罹患している対象を処置する方法であって、
当該対象に、CEP290をコードする核酸を含む医薬組成物の有効量を投与し、これによって、当該対象においてCEP290タンパク質を発現させることを含み、前記対象は、CEP290をコードする遺伝子に変異を有する対象である、方法
が提供される。有効量は、治療上有益な効果をもたらす量であり得る。
【0064】
ここで、CEP290をコードする核酸は、CEP290をコードするmRNAであるか、制御配列に作動可能に連結されたCEP290をコードする遺伝子であり得る。これらの核酸の詳細は上述の通りである。
【0065】
ALSに罹患している対象は、Awaji基準におけるDefinite、Probable、およびPossibleからなる群から選択されるいずれかの診断グレードを有し得る。ある態様では、ALSに罹患している対象は、Awaji基準におけるDefiniteの診断グレードを有し得る。ある態様では、ALSに罹患している対象は、Awaji基準におけるProbableの診断グレードを有し得る。ALSに罹患している対象は、Awaji基準におけるPossibleの診断グレードを有し得る。
【0066】
ある態様では、ALSに罹患している対象は、EL Escorial診断基準におけるDefinite、Probable、Possible、およびSuspectedからなる群から選択されるいずれかの診断グレードを有し得る。ある態様では、ALSに罹患している対象は、EL Escorial診断基準におけるDefiniteの診断グレードを有し得る。ある態様では、ALSに罹患している対象は、EL Escorial診断基準におけるProbableの診断グレードを有し得る。ALSに罹患している対象は、EL Escorial診断基準におけるPossibleの診断グレードを有し得る。ALSに罹患している対象は、EL Escorial診断基準におけるSuspectedの診断グレードを有し得る。
【0067】
ある好ましい態様では、ALSに罹患している対象は、本開示の方法により、CEP290をコードする遺伝子に変異を有すると決定された対象であり得る。変異は、上述の通りの変異のいずれかであり得る。
【0068】
本開示によれば、CEP290をコードするmRNAを含む医薬組成物が提供される。本開示によればまた、CEP290をコードするmRNAを内包したナノ小胞が提供される。ナノ小胞は、サブマイクロメートルの粒径を有する小胞であり得、好ましくは、100nm以下の直径を有する小胞であり得る。ナノ小胞は、脂質ナノ小胞であり得る。ナノ小胞は、ポリイオンコンプレックス型ミセルであり得る。ALSに罹患している対象は、CEP290をコードする遺伝子に変異を有する対象である。変異は、上述の通りの変異のいずれかであり得る。
【0069】
本開示によれば、制御配列に作動可能に連結されたCEP290をコードする遺伝子を含む医薬組成物が提供される。本開示によれば、例えば、制御配列に作動可能に連結されたCEP290をコードする遺伝子を搭載したタンパク質発現ベクターを含む医薬組成物が提供される。ALSに罹患している対象は、CEP290をコードする遺伝子に変異を有する対象である。変異は、上述の通りの変異のいずれかであり得る。
【0070】
本開示によれば、CEP290をコードする核酸を含む医薬組成物は、ALSに罹患している対象を処置する方法において用いることができる。ALSに罹患している対象は、CEP290をコードする遺伝子に変異を有する対象である。変異は、上述の通りの変異のいずれかであり得る。
【0071】
本開示によれば、ALSに罹患している対象を処置する方法において用いるための医薬の製造における、CEP290をコードする核酸の使用が提供され得る。ALSに罹患している対象は、CEP290をコードする遺伝子に変異を有する対象である。変異は、上述の通りの変異のいずれかであり得る。
【実施例0072】
実施例1:ALS患者のゲノム解析
医師により筋萎縮性側索硬化症(ALS)であると診断された706名のALS患者それぞれの末梢血からゲノムDNAを抽出した。抽出したDNAから、製造者プロトコルにしたがって、TruSeq DNA PCR-Free Sample Prep Kitを用いてシークエンシング用のライブラリを構築し、品質評価基準をクリアしたライブラリについてイルミナHiSeq Xを用いて、ゲノムをシークエンシングした。
【0073】
ALS以外の疾患を有する患者であって、ALSではない患者(非ALS患者)4263名それぞれからもゲノムDNAを抽出し、同様にゲノムをシークエンシングした。非ALS患者は、心筋梗塞患者、薬疹患者、がん患者、及び認知症患者などを含む。
【0074】
ゲノム解析においては、変異、特に機能欠失変異(LoF変異)に焦点をあてた。具体的には、フレームシフト、スプライシング異常(スプライスアクセプターおよびスプライスドナー)、遺伝子の開始部分および終了部分の変異、およびナンセンス変異である。LoFの探索においては、SnpEffソフトウェアVer.r4.3tにより、デフォルトのパラメータ設定において、impactがHIGHと評価されるものをLoFと定義した。非ALS患者群とALS患者群とでLoFを比較し、ALSと関連のあるLoFを同定し、その上で、遺伝子単位でLoFを評価した。すなわち、LoFを遺伝子単位でクラスタリングして、当該クラスタとALSとの関連を評価した。
【0075】
結果は、表4の通りであった。
【0076】
【0077】
表4には、CEP290の機能欠失変異に関する統計解析結果を記載した。CEP290についてはp値<106であり、技術的意義が明確であると推定される。このように本解析によれば、ALSにおける機能喪失型変異をゲノムワイドに特定することができた。
【0078】
CEP290において認められたLoFは、表5の通りであった。
【0079】
【0080】
上記表5の変異をCEP290遺伝子に対してマッピングすると
図1に示される通りとなる。
【0081】
CEP290は、Centrosomal protein 290(またはKIAA0373、NEPHROCYSTIN6(NPHP6)、モノクローナル抗体3H11により同定される抗原、もしくはBBS14とも同定されている)であり、繊毛のアッセンブルや繊毛のトラフィッキングに関与する。CEP290は、これまでにSenior Loken症候群(SLC)、髄質性嚢胞腎(MPHP)、ジュベール症候群(JS)、バルデ・ビードル症候群(BBS)、および致死性メッケル・グルーバー症候群(MKS)の原因遺伝子として知られている。CEP290の機能喪失型変異は、CEP290の補充療法や遺伝子治療の対象となり得る。