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  • 特開-シラミ忌避剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020276
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】シラミ忌避剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 47/16 20060101AFI20230202BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20230202BHJP
   A01N 37/18 20060101ALI20230202BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
A01N47/16 A
A01P17/00
A01N37/18 Z
A01N25/04 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125545
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000149181
【氏名又は名称】株式会社大阪製薬
(71)【出願人】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】得野 克成
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 由明
(72)【発明者】
【氏名】引土 知幸
(72)【発明者】
【氏名】下方 宏文
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AC06
4H011BB06
4H011BB13
4H011BC06
4H011BC22
4H011DA15
4H011DF03
(57)【要約】
【課題】
本発明では、衛生害虫のうち、とりわけ卵から孵化したシラミ、すなわち、シラミの幼虫や成虫を人体や衣類に寄せ付けない忌避効果を持続することができるシラミ忌避剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
シラミ忌避の有効成分であるイカリジン、ディートから選ばれる少なくとも1種と、脂肪酸エステルを含有することを特徴とするシラミ忌避剤、そして、精油を含有することを特徴とする前記シラミ忌避剤、さらには、前記精油が、チョウジ油、ウイキョウ油又はレモングラス油から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記シラミ忌避剤などにより解決することができた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラミ忌避の有効成分であるイカリジン、ディートから選ばれる少なくとも1種と、炭素数12~20の脂肪酸及び炭素数2~8のアルコールから得られる脂肪酸エステルを含有することを特徴とするシラミ忌避剤。
【請求項2】
精油を含有することを特徴とする請求項1に記載のシラミ忌避剤。
【請求項3】
前記精油が、チョウジ油、ウイキョウ油、レモングラス油、カナンガ油、ペパーミント油、ヒバ油、ハッカ油、ケイヒ油、ベチバー油、スペアミント油、フェンネル油、イランイラン油、ゼラニウム油、スターアニス油、月桃葉油、シトロネラ油、ナツメグ油、カルダモン油、ジンジャー油、セターウッド油、クローブ油、ヒノキ油、アニス油、ティートリー油、ラベンダー油、コリアンダー油、クラリセージ油、ジュニパーベリー油、ブラックペッパー油、パチョリ油、ローズマリー油、ユーカリ油から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載のシラミ忌避剤。
【請求項4】
前記脂肪酸エステルが、1.0w/v%~10.0w/v%、イカリジン、ディートから選ばれる少なくとも1種が、3.0w/v%~30.0w/v%、前記精油が、0.05w/v%~20.0w/v%含有されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のシラミ忌避剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラミが人体や衣類に付着することを防止する効果を持続させるために使用されるミリスチン酸イソプロピルを含有してなるシラミ忌避剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シラミの人体や衣類への寄生や付着で生じる吸血による激しい痒みや、さらにその痒みによって引き起こされる引っ掻き傷からの皮膚の炎症などの健康被害が知られており、それらの健康被害を防ぐために、また、被害の拡散を防ぐために、人体や衣類に塗布して使用する製剤が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、所定含有割合のディート(N,N-ジエチル-m-トルアミド)、アルコール、水を含有し、人体及び衣類の両方に使用することができる衛生害虫忌避剤が開示されている。
【0004】
そして、特許文献2には、所定含有割合のディート(N,N-ジエチル-m-トルアミド)、所定含有割合のグレープフルーツ由来の精油、エタノール、水を含有する衛生害虫忌避剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-237636号公報
【特許文献2】特開2014-201581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示される衛生害虫忌避剤では、製剤を人体に直接付着させるとき、ディート(N,N-ジエチル-m-トルアミド)などの薬効成分を多く配合すると、べたつき、アレルギーや肌荒れなど皮膚への悪影響があるため、ディートの配合量を必ずしも多くすることはできないことにより、シラミの忌避効果を十分に持続することが困難であった。
【0007】
そこで、本発明では、衛生害虫のうち、とりわけ卵から孵化したシラミ、すなわち、シラミの幼虫や成虫を人体や衣類に寄せ付けない忌避効果を持続することができるシラミ忌避剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔1〕すなわち、本発明に係るシラミ忌避剤は、シラミ忌避の有効成分であるイカリジン、ディートから選ばれる少なくとも1種と、炭素数12~20の脂肪酸及び炭素数2~8のアルコールから得られる脂肪酸エステルを含有することを特徴とするシラミ忌避剤である。
【0009】
〔2〕そして、精油を含有することを特徴とする前記〔1〕に記載のシラミ忌避剤である。
【0010】
〔3〕そして、前記精油が、チョウジ油、ウイキョウ油、レモングラス油、カナンガ油、ペパーミント油、ヒバ油、ハッカ油、ケイヒ油、ベチバー油、スペアミント油、フェンネル油、イランイラン油、ゼラニウム油、スターアニス油、月桃葉油、シトロネラ油、ナツメグ油、カルダモン油、ジンジャー油、セターウッド油、クローブ油、ヒノキ油、アニス油、ティートリー油、ラベンダー油、コリアンダー油、クラリセージ油、ジュニパーベリー油、ブラックペッパー油、パチョリ油、ローズマリー油、ユーカリ油から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記〔2〕に記載のシラミ忌避剤である。
【0011】
〔4〕そして、前記脂肪酸エステルが、1.0w/v%~10.0w/v%、イカリジン、ディートから選ばれる少なくとも1種が、3.0w/v%~30.0w/v%、前記精油が、0.05w/v%~20.0w/v%含有されていることを特徴とする前記〔2〕又は前記〔3〕に記載のシラミ忌避剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシラミ忌避剤によれば、シラミの幼虫や成虫を人体や衣類に寄せ付けない忌避効果を持続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明における脂肪酸エステルであるミリスチン酸イソプロピルが、シラミ忌避の有効成分などの揮散性化合物の揮発を抑制していることを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のシラミ忌避剤に関する実施形態について詳しく説明する。なお、説明中における範囲を示す表記「~」のある場合は、上限と下限を含有するものである。
【0015】
本発明において使用されるイカリジン、ディートから選ばれる少なくとも1種において、イカリジン及びディートは、ともに、シラミの幼虫や成虫に対して忌避効果を示す有効成分である。イカリジンとは、具体的には、ピカリジンとも呼ばれる1-(1-メチルプロポキシカルボニル)-2-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジンである。ディートとは、具体的には、N,N-ジエチル-m-トルアミドである。なお、本発明において、イカリジンとディートは、それぞれ単独で使用することができるし、適宜割合にて混合して使用することもできる。
【0016】
本発明において使用されるイカリジン、ディートから選ばれる少なくとも1種の含有割合は、3.0w/v%~30.0w/v%であることが好ましく、さらに、4.0w/v%~20.0w/v%であることが好ましく、5.0w/v%~18.0w/v%であることがもっとも好ましくい。イカリジン、ディートから選ばれる少なくとも1種の含有割合が、この範囲であれば、付着物へのシラミの幼虫や成虫に対する忌避効果を奏することができる。なお、本発明において、w/v%の濃度表記については、100mLあたりのグラム数(g)の割合である。
【0017】
本発明において使用される炭素数12~20の脂肪酸及び炭素数2~8のアルコールから得られる脂肪酸エステルは、炭素数12~20の脂肪酸におけるカルボキシル基と炭素数2~8のアルコールの水酸基が脱水縮合して得られるエステル化合物である。上記の脂肪酸エステルは、シラミ忌避の有効成分などの揮散を抑制することで、シラミの幼虫や成虫に対する忌避効果を長い時間に亘り持続することができる。上記の脂肪酸エステルに用いられる脂肪酸としては炭素数12~20の飽和脂肪酸であることが好ましく、アルコールとしては炭素数2~8の直鎖又は分岐鎖を有する飽和アルコールであることが好ましい。上記の脂肪酸エステルとしては、具体的に、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸2-エチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸へキシルなどが好ましく、パルミチン酸イソプロピルがより好ましい。
【0018】
本発明において使用される上述した脂肪酸エステルの含有割合は、1.0w/v%~10.0w/v%であることが好ましく、さらに、2.0w/v%~5.0w/v%であることが好ましい。脂肪酸エステルの含有割合が、この範囲であれば、後述するイカリジン又はディート、若しくは精油などのシラミ忌避の有効成分による効果を持続することができる。
【0019】
本発明において使用される精油は、各種植物から水蒸気蒸留法などの留出手段にて得られる揮発性の油分であって、シラミの幼虫や成虫に対して忌避効果を示す有効成分である。特にシラミの幼虫や成虫に対して忌避効果が高いことから、精油として、チョウジ油、ウイキョウ油、レモングラス油、カナンガ油、ペパーミント油、ヒバ油、ハッカ油、ケイヒ油、ベチバー油、スペアミント油、フェンネル油、イランイラン油、ゼラニウム油、スターアニス油、月桃葉油、シトロネラ油、ナツメグ油、カルダモン油、ジンジャー油、セターウッド油、クローブ油、ヒノキ油、アニス油、ティートリー油、ラベンダー油、コリアンダー油、クラリセージ油、ジュニパーベリー油、ブラックペッパー油、パチョリ油、ローズマリー油、ユーカリ油から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。なお、本発明において、チョウジ油、ウイキョウ油、レモングラス油等の各種精油は、それぞれ単独で使用することができるし、適宜割合にて2種及び3種を混合して使用することもできる。
【0020】
本発明において使用される精油の含有割合は、0.05w/v%~20.0w/v%であることが好ましく、さらに、0.1w/v%~10.0w/v%であることが好ましい。精油の含有割合が、この範囲であれば、付着物へのシラミの幼虫や成虫に対する忌避効果を奏することができる。
【0021】
本発明において、イカリジン、ディートなどの有効成分を溶解させるために、炭素数が2~6のアルコールを用いることができる。そのようなアルコールとして、具体的に、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどが好ましい。
【0022】
本発明において、脂肪酸エステルとイカリジン、ディートから選ばれる少なくとも1種の含有重量比は、脂肪酸エステル/イカリジン、ディートから選ばれる少なくとも1種=1/20~1/2であることが好ましく、1/10~1/3であることがより好ましい。脂肪酸エステルとイカリジン、ディートから選ばれる少なくとも1種の含有重量比がこの範囲であると、シラミの幼虫や成虫を人体や衣類に寄せ付けない忌避効果を長時間持続することができるとともに、付着したときのべたつきを抑制することができる。
【0023】
本発明のシラミ忌避剤に、香りを付けるために種々の香料を添加することができる。
【実施例0024】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
<実施例1>
25℃において、容量が200mlのグリフィンビーカーに、脂肪酸エステルとしてミリスチン酸イソプロピルを3.0g、イカリジンを15.0g、チョウジ油を1.0g、ウイキョウ油を1.0g、レモングラス油を0.2g入れ、残余としてエタノールを加え、均一になるまで攪拌して、100mlの組成物を得た。
【0026】
<実施例2~10>
実施例1において、イカリジンをそのまま用いたりディートに替えたり、チョウジ油、ウイキョウ油、レモングラス油をそのまま用いたり一部を除いたり、それらの配合量を変えるなどしたこと以外は、実施例1と同様にして液状の組成物を得た。
【0027】
<比較例1~3>
実施例1において、ミリスチン酸イソプロピルを配合することなく、イカリジンをそのまま用いたりディートに替えたり、チョウジ油、ウイキョウ油、レモングラス油をそのまま用いたり一部を除いたり、それらの配合量を変えるなどしたこと以外は、実施例1と同様にして液状の組成物を得た。
【0028】
実施例1~10、比較例1~3で得られた組成物を用いて、シラミの成虫に対する忌避効果の試験を行った。
【0029】
〔シラミ成虫忌避試験〕
濾紙を敷いた直径9cmの開放円盤状のシャーレ内に、実施例1~9、比較例1~4で得られた組成物を10mg/cm2となるように含浸し乾燥させた羅紗布をシャーレの外側に位置するように設置し、中心を挟んだ反対側に20匹のコロモジラミ(雄雌各10匹)を供した。そして、所定時間後にその羅紗布上にコロモジラミが存在していない状態を忌避できているとして、その匹数を数え、忌避率を(式1)によって算出した。
忌避率(%)=(羅紗布上に存在していない匹数/20}×100・・・(式1)
なお、各実施例及び比較例で得られた組成物を羅紗布に含浸させずに同様の試験を行ったコントロール試験における忌避の割合を補正係数として、各実施例及び比較例における上記忌避率に乗じ、補正忌避率を算出した。
【0030】
これらの結果を、表1、表2に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
表1及び表2に示すように、実施例1~10ではミリスチン酸イソプロピルが含有していることにより、比較例1~3に比べて、12時間経過してもシラミの成虫を忌避しており、忌避効果を長時間持続できることが明らかとなった。
【0034】
<実施例11>
25℃において、容量が200mlのグリフィンビーカーに、脂肪酸エステルとしてミリスチン酸イソプロピルを3.0g、イカリジンを15.0g、チョウジ油を1.0g、ウイキョウ油を1.0g、レモングラス油を0.1g、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(別名、PEG-40水添ヒマシ油)5.0g、エタノール40.0gを入れ、残余として精製水を加え、均一になるまで攪拌して、100mlの組成物を得た。
【0035】
<比較例4>
実施例11において、ミリスチン酸イソプロピルを配合しなかったこと以外は、実施例11と同様にして液状の組成物を得た。
【0036】
実施例11、比較例4で得られた組成物を用いて、揮散量の測定試験を行った。
【0037】
〔揮散量測定試験〕
6.25cm2の羅紗布に、実施例11で得られた組成物を10.4μL含浸して、25℃にて静置し、1時間後、3時間後、6時間後、12時間後の重量をそれぞれ測定し、含浸直後の重量からの差分を各時間経過後における揮散量とした。比較例4においても同じ試験を行った。
【0038】
これらの結果を、表3及び図1に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
表3及び図1に示すように、脂肪酸エステルであるミリスチン酸イソプロピルが配合されている実施例11はミリスチン酸イソプロピルが配合されていない比較例4に比べて、揮散量が少ないことから、脂肪酸エステルであるミリスチン酸イソプロピルがシラミ忌避の有効成分などの揮散性化合物の揮散を抑制していることが分かった。なお、図1における実施例11及び比較例4のそれぞれの一点破線は、揮散量測定試験にて得られた揮散量の組を、適切なモデルから想定される1次関数として最小二乗法により近似したものである。したがって、表1及び表2の結果も踏まえれば、上述したような揮散性化合物の揮散を抑制するという脂肪酸エステルであるミリスチン酸イソプロピルの作用により、シラミ忌避の有効成分などが徐々に揮散され、ミリスチン酸イソプロピルが配合されている実施例1~10に示すようにシラミ忌避の効果を長時間に亘り持続できることが明らかとなった。
図1