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特開2023-20332ロジウム含有めっき溶液からのロジウムの回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020332
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】ロジウム含有めっき溶液からのロジウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20230202BHJP
   B01J 39/05 20170101ALI20230202BHJP
   B01J 41/07 20170101ALI20230202BHJP
   B01J 47/028 20170101ALI20230202BHJP
   B01J 41/13 20170101ALI20230202BHJP
   B01J 39/20 20060101ALI20230202BHJP
   B01J 47/04 20060101ALI20230202BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20230202BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C22B11/00 101
B01J39/05
B01J41/07
B01J47/028
B01J41/13
B01J39/20
B01J47/04
C22B3/24 101
C22B3/06
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125637
(22)【出願日】2021-07-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】596133201
【氏名又は名称】松田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉井 大介
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA41
4K001BA19
4K001BA21
4K001DB06
4K001DB36
(57)【要約】
【課題】本開示は、ロジウム含有めっき溶液からロジウムを高回収率で回収する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ロジウム含有めっき溶液からロジウムを回収する方法であって、ロジウム含有めっき溶液を、弱塩基性陰イオン交換樹脂および強酸性陽イオン交換樹脂に通液させて、前記陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂にロジウムを吸着させて、回収することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジウム含有めっき溶液からロジウムを回収する方法であって、ロジウム含有めっき溶液を、弱塩基性陰イオン交換樹脂および強酸性陽イオン交換樹脂に通液させて、前記陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂にロジウムを吸着させ、回収することを特徴とするロジウムの回収方法。
【請求項2】
前記強酸性陽イオン交換樹脂がNa型及び/又はH型であることを特徴とする請求項1に記載のロジウムの回収方法。
【請求項3】
ロジウムが吸着したイオン交換樹脂を焼成した後、酸で溶解してロジウムを回収することを特徴とする請求項1又は2に記載のロジウムの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロジウムめっき工程で使用する、或いは発生するロジウム含有めっき溶液からロジウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金族元素であるロジウム(Rh)は、化学的に非常に安定な材料であり、電子部材の表面にロジウムのめっき皮膜を形成することが行われている。ロジウムは、貴金属であって、高価な材料であるため、被めっき物を洗浄水(主に純水)に浸漬して、余剰のめっき液を洗浄し、その洗浄水から、皮膜形成に用いられなかったロジウムを回収することが求められる。
【0003】
一方、使用済みの電子部品を酸処理して、ロジウムを溶出した水溶液からロジウムを回収する技術が知られている。たとえば、特許文献1には、ロジウムを含む溶液に酸を不溶性化させたキトサンに接触させてロジウムを選択に吸着させ回収することが記載されている。また、ロジウムを回収するために、特許文献2は、キレート樹脂を用いること、文献3、4は、特殊な吸着剤を用いることが記載されている。
【0004】
また、特許文献5、6には、陰イオン交換樹脂などの樹脂を用いて、ロジウムを回収する技術が開示されている。白金族元素は、酸性溶液中において、陰イオン錯体として存在するため、陰イオン交換能力がある樹脂や吸着剤により吸着、回収することが可能であることから、上記のような手法によって、ロジウムの回収が行われているのが通常である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-36425号公報
【特許文献2】特開平5-33071号公報
【特許文献3】特開2012-31449号公報
【特許文献4】特開2012-41593号公報
【特許文献5】特開2016-132782号公報
【特許文献6】特開平6-172090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、ロジウム含有めっき溶液からロジウムを高回収率で回収する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決できる一態様は、ロジウム含有めっき溶液からロジウムを回収する方法であって、ロジウム含有めっき溶液を、弱塩基性陰イオン交換樹脂および強酸性陽イオン交換樹脂に通液させて、前記陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂にロジウムを吸着させて、回収することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ロジウム含有めっき溶液からロジウムを高回収率に回収することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例、比較例で用いた吸着試験装置の模式図である。
図2】実施例、比較例の吸着試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ロジウム(Rh)のめっき工程は、ロジウム含有めっき液に被めっき物を浸漬して、被めっき面にロジウムの被膜を形成することが行われる。その後、ロジウム被膜が形成された被めっき物を純水等からなる洗浄水に浸漬して、余剰のロジウム含有めっき液が洗浄される。洗浄後の洗浄水には、貴金属であるロジウムが含まれ、ロジウムは高価であることから、洗浄水中のロジウムを高回収率で回収することが求められる。
【0011】
めっき液中、ロジウムは、硫酸ロジウム、リン酸ロジウムといった化合物で存在し、遊離酸として、硫酸、リン酸、硫酸+リン酸、その他応力緩衝材等が加えられている。めっき液中のロジウムは、陰イオン錯体として存在するため、通常、陰イオン交換樹脂を用いてロジウムを回収することが行われている。しかしながら、めっき液中、ロジウムの構造は複雑であるため、通常の陰イオン交換樹脂を用いてロジウムを分離しようとした場合、すぐにイオン交換樹脂に吸着破過してしまい、ロジウムを高回収率で回収を行うことが困難であるという問題がある。
【0012】
上記問題に鑑み、本発明者は鋭意研究を行ったところ、弱塩基性陰イオン樹脂と強酸性陽イオン交換樹脂を組み合わせて使用することで、高回収率でロジウムを回収できるとの知見が得られた。かかる知見に基づき、本発明の一実施形態は、ロジウム含有めっき溶液を、弱塩基性陰イオン交換樹脂および強酸性陽イオン交換樹脂に通液し、前記陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂にロジウムを吸着させて、回収することを特徴とするものである。
【0013】
本開示は、主として、ロジウムをめっきした被めっき物を洗浄して、余剰のロジウム含有めっき液を含む洗浄水からロジウムを高回収率で回収することを目的とするものであるが、本明細書中、ロジウム含有めっき溶液(以下、単にめっき溶液と称する場合がある。)には、上述するロジウム含有めっき液を含む洗浄水のみならず、使用済又は未使用のロジウム含有めっき液等も含むものである。すなわち、ロジウム含有めっき液を含む溶液であれば、本態様を適用できるものである。
【0014】
弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムにめっき溶液を通液させてしばらくすると、通液後の液中に黄色の結晶が確認される。この黄色の結晶はロジウム水酸化物と考えられ、微細であるため、陰イオン交換樹脂の空隙を通過してカラム外に排出されることになる。この水酸化物が生成されるに従って、ロジウムの漏洩が多くなるため、ロジウムの回収率が低下する。水酸化物が生成される原因は、弱塩基性陰イオン交換樹脂がOH型であるため、ロジウム錯体(陰イオン錯体)が吸着するとOHイオンが放出されて、イオン交換樹脂内のpHが上昇するためと考えられる。
【0015】
一方、ロジウムは、陽イオン錯体でも存在し、陰イオン錯体と平衡状態になっていると推測される。この陽イオン錯体を強酸性陽イオン交換樹脂で吸着させることが重要である。強酸性陽イオン交換樹脂として、H(水素)型のものを用いることで、陽イオン錯体が吸着してHイオンが放出され、イオン交換樹脂内のpHを低く保ち、水酸化物の生成を抑制することが可能となり、ロジウムの漏洩を防止し、ロスを低減できる。
【0016】
強酸性陽イオン交換樹脂として、Na(ナトリウム)型を用いた場合には、生成した水酸化物を吸着できずに、通液初期より一定濃度での漏洩がみられる。しかし、Na型は、H型に比べて体積当たりの官能基が多いため、H型に比べて陽イオンの吸着回収能力が高い。したがって、陽イオン交換樹脂それぞれの性能と通液段階に応じて、H型とNa型と
を適切に組み合わせることで、回収率の向上が期待できる。
【0017】
弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、(化1)に示すような弱塩基性の三級アミン-N(CHを交換基に持つ陰イオン交換樹脂を使用することが好ましい。強酸性陽イオン交換樹脂としては、(化2)に示すような強酸性のスルホン酸基-SOHを交換基に持つ陽イオン交換樹脂を使用することが好ましい。弱塩基性陰イオン交換樹脂と強酸性陽イオン交換樹脂のどちらか一方を先にして通液させてもよいが、両方を混合して、同時に通液させてもよい。また、混合する場合は、弱塩基性陰イオン交換樹脂と強酸性陽イオン交換樹脂とを体積比率で1:2~2:1とすることが好ましい。
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
【0020】
陰イオン交換樹脂や陽イオン交換樹脂からロジウムを回収する方法としては、公知の手段を用いることができる。例えば、ロジウムが吸着した樹脂を焼成した後、王水などの酸に溶解することで、ロジウムのみを回収することができる。また、ロジウムが化学的に非常に安定な材料であることから、必要に応じて、還元やアルカリ溶融などの操作を加えてもよい。
【実施例0021】
次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。なお、以下の実施例はあくまで代表的な例を示しているもので、本願発明は、これらの実施例に制限される必要はなく、明細書の記載される技術思想の範囲で解釈されるべきものである。
【0022】
ロジウム含有めっき溶液(硫酸ロジウム、ロジウム濃度:66.1mg/L、pH:1.6)を図1に示す吸着試験装置を用いて、ロジウムの回収率を調査した。ロジウム含有めっき廃液1を、カラム通液ポンプ2を用いてガラスカラム3に通液し、ガラスカラム3内に充填した各種イオン交換樹脂4によってロジウムを抽出し、樹脂通液後の廃液を回収槽5で回収した。イオン交換樹脂の充填量は5mLとし、2種のイオン交換樹脂を混合して用いる場合は、各充填量を2.5mLとし、よく混合して充填した。通液速度はSV=5(1/Hr)とした。
【0023】
(実施例1)
弱塩基性陰イオン交換樹脂とNa型陽イオン交換樹脂を1:1(体積比率)で混合し、混合したものをカラムに充填し、ロジウム含有めっき廃液を該カラム内に通液し、一定期間ごとに通液後の液を回収して、ロジウム吸着量を測定した。その結果、通液量が60Lの時点で、4.0g/樹脂Lであり、通液量が100Lの時点では、6.2g/樹脂Lであった。それぞれロジウムの回収率は88.4%、89.0%であった。以上の結果をまとめたものを表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
(実施例2)
弱塩基性陰イオン交換樹脂とH型陽イオン交換樹脂を1:1(体積比率)で混合し、混合したものをカラムに充填し、ロジウム含有めっき廃液を該カラム内に通液し、一定期間ごとに通液後の液を回収して、ロジウム吸着量を測定した。その結果、通液量が60Lの時点で、4.4g/樹脂Lであり、通液量が100Lの時点では、5.8g/樹脂Lであった。それぞれロジウムの回収率は99.8%、83.0%であった。
【0026】
(比較例1)
Na型強酸性陽イオン交換樹脂をカラムに充填し、ロジウム含有めっき廃液を該カラム内に通液し、一定期間ごとに通液後の液を回収して、ロジウム吸着量を測定した。その結果、通液量が60Lの時点で、3.4g/樹脂Lであり、ロジウムの回収率は81.0%であった。
【0027】
(比較例2)
H型強酸性陽イオン交換樹脂をカラムに充填し、ロジウム含有めっき廃液を該カラム内に通液し、一定期間ごとに通液後の液を回収して、ロジウム吸着量を測定した。その結果、通液量が60Lの時点で、3.3g/樹脂Lであり、ロジウムの回収率は77.6%であった。
【0028】
(比較例3)
弱塩基性陰イオン交換樹脂をカラムに充填し、ロジウム含有めっき廃液を該カラム内に通液し、一定期間ごとに通液後の液を回収して、ロジウム吸着量を測定した。その結果、通液量が60Lの時点で、3.0g/樹脂Lであり、通液量が100Lの時点では、3.6g/樹脂Lであった。それぞれロジウムの回収率は79.0%、53.0%であった。
【0029】
実施例、比較例の結果をまとめたグラフを図2に示す。図2に示す通り、通液初期において、実施例2では、カラム出口でロジウムはほとんど検出されなかったが、比較例1-3では、ロジウムの検出が見られた。また、実施例1についても、ロジウムが一定濃度で漏洩していることが確認された。一方、通液量を増やしていくと、実施例1での回収率が最も高い結果となり、実施例2での回収率が低下した。
【0030】
上記の結果より、通液初期での回収率は、実施例2の「弱塩基性陰イオン交換樹脂」と「H型強酸性陽イオン交換樹脂」とを組み合わせたものが最も良いが、実施例1の「弱塩基性陰イオン交換樹脂」と「Na型強酸性陽イオン交換樹脂」とを組み合わせたものに比べて、ロジウムの漏洩が早く、通液を継続していこうとで、実施例2と実施例1とは、ロジウムの回収量及び回収率が逆転することが分かる。発生する液量や濃度に合わせて、「H型強酸性陽イオン交換樹脂」と「Na型強酸性陽イオン交換樹脂」それぞれ単独で使用する、あるいは、組み合わせて使用することで、より効率的に回収できることが推測できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、ロジウム含有めっき溶液からロジウムを高回収率に回収することができるという優れた効果を有する。ロジウムは非常に安定な材料であるため、電子部品の電解めっき皮膜材料として使用され、特に、近年では自動車の排気ガスに含まれる有害成分を浄化するための触媒として使用されている。ロジウムの需要が拡大する一方、供給の不足が発生していることから、ロジウムの回収率を高めることができる本発明は、特に有用である。

図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-06-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジウム含有めっき溶液からロジウムを回収する方法であって、ロジウム含有めっき溶液を、弱塩基性陰イオン交換樹脂および強酸性陽イオン交換樹脂に通液させて、前記陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂にロジウムを吸着させ、回収し、前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が三級アミン-N (CH を交換基に持つ陰イオン交換樹脂であり、前記強酸性陽イオン交換樹脂がNa型及び/又はH型である、ことを特徴とするロジウムの回収方法。
【請求項2】
ロジウムが吸着したイオン交換樹脂を焼成した後、酸で溶解してロジウムを回収することを特徴とする請求項1に記載のロジウムの回収方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図2
【補正方法】変更
【補正の内容】
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-08-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジウム含有めっき溶液からロジウムを回収する方法であって、ロジウム含有めっき溶液を、弱塩基性陰イオン交換樹脂および強酸性陽イオン交換樹脂に通液させて、前記陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂にロジウムを吸着させ、回収し、前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が三級アミン-N(CHを交換基に持つ陰イオン交換樹脂であり、前記強酸性陽イオン交換樹脂がH型である、ことを特徴とするロジウムの回収方法。
【請求項2】
ロジウムが吸着したイオン交換樹脂を焼成した後、酸で溶解してロジウムを回収することを特徴とする請求項1に記載のロジウムの回収方法。