(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020353
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】走行台車及び溶接システム
(51)【国際特許分類】
B23K 37/02 20060101AFI20230202BHJP
B23K 9/12 20060101ALN20230202BHJP
【FI】
B23K37/02 B
B23K9/12 331M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125669
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】518112321
【氏名又は名称】コベルコROBOTiX株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】久保 光弘
(72)【発明者】
【氏名】戸田 忍
(72)【発明者】
【氏名】児玉 克
(57)【要約】
【課題】直線部と曲線部とを含むガイドレールを走行するに際して、滑らかに走行可能であり、かつ、小型な機構でありながらも保守の回数を減らすことができる走行台車及びそれを備える溶接システムを提供する。
【解決手段】加工装置を搭載して直線部と曲線部とを含むガイドレール3上を走行し、被加工物の加工を行う走行台車は、加工装置が着脱自在に装着される台板と、ガイドレール3の幅方向両側で、かつ、ガイドレール3の延在方向に間隔を空けて、台板に設けられる複数の回転座10,11と、各々の回転座10,11に回転子9を介して支持され、ガイドレール3の幅方向端面の両縁部に形成された転走面を転走する一対のベアリング8a,8bと、を備え、回転子9の回転軸は、フランジ付き無給油軸受部20を介して回転座10,11に回転自在に支持される。
【選択図】
図6A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工装置を搭載して直線部と曲線部とを含むガイドレール上を走行し、被加工物の加工を行う走行台車であって、
前記加工装置が着脱自在に装着される台板と、
前記ガイドレールの幅方向両側で、かつ、前記ガイドレールの延在方向に間隔を空けて、前記台板に設けられる複数の回転座と、
各々の前記回転座に回転子を介して支持され、前記ガイドレールの幅方向端面の両縁部に形成された転走面を転走する一対のベアリングと、
を備え、
前記回転子の回転軸は、フランジ付き無給油軸受部を介して前記回転座に回転自在に支持される、走行台車。
【請求項2】
前記ガイドレールは、前記被加工物である角コラム柱の周囲を囲むように前記角コラム柱に取り付けられ、
前記走行台車の走行方向に間隔を空けて設けられた2箇所の前記回転子の距離dが下記式(1)を満足する、
請求項1に記載の走行台車。
【数1】
ただし、Δdmaxは、全ての前記ベアリングが前記ガイドレールの曲線部にある場合の、前記被加工物の加工線と前記加工装置の加工点の最大ずれ量の許容値であり、Rは、前記ガイドレールの曲線部の半径である。
【請求項3】
前記フランジ付き無給油軸受部は、各々が、円筒部と、該円筒部の一端側から径方向に延設される外向きのつば部と、を有する一対のフランジ付き無給油軸受を備え、
前記一対のフランジ付き無給油軸受の各円筒部は、前記回転子の回転軸と前記回転座の支持孔間にそれぞれ配置され、
前記一対のフランジ付き無給油軸受の各つば部は、前記支持孔が開口する前記回転座の両端面とそれぞれ当接する、
請求項1又は2に記載の走行台車。
【請求項4】
加工装置を搭載して直線部と曲線部とを含むガイドレール上を走行し、被加工物の加工を行う走行台車であって、
前記加工装置が着脱自在に装着される台板と、
前記ガイドレールの幅方向両側で、かつ、前記ガイドレールの延在方向に間隔を空けて、前記台板に設けられる複数の回転座と、
各々の前記回転座に回転子を介して支持され、前記ガイドレールの幅方向端面の両縁部に形成された転走面を転走する一対のベアリングと、
を備え、
前記ガイドレールは、前記被加工物である角コラム柱の周囲を囲むように前記角コラム柱に取り付けられ、
前記走行台車の走行方向に間隔を空けて設けられた2箇所の前記回転子の距離dが下記式(1)を満足する、走行台車。
【数2】
ただし、Δdmaxは、全ての前記ベアリングが前記ガイドレールの曲線部にある場合の、前記被加工物の加工線と前記加工装置の加工点の最大ずれ量の許容値であり、Rは、前記ガイドレールの曲線部の半径である。
【請求項5】
前記ガイドレールは、前記被加工物である角コラム柱の周囲を囲むとともに、前記走行台車の走行方向が水平となるように前記角コラム柱に取り付けられ、
前記ガイドレールの上方の幅方向端面には、前記一対のベアリングの転走面間にラックが設けられ、
前記ラックには、前記台板に装着された前記加工装置に設けられるピニオンが係合し、
前記走行台車は、高さ調整することで前記加工装置の上下方向位置を調整して前記ピニオンと前記ラックのバックラッシを調整可能なバックラッシ調整板を備える、
請求項1~4のいずれか1項に記載の走行台車。
【請求項6】
前記ガイドレールは、前記被加工物である角コラム柱の周囲を囲むとともに、前記走行台車の走行方向が水平となるように前記角コラム柱に取り付けられ、
前記ガイドレールに対して上側の前記回転座は、前記台板に固定される固定回転座であり、
前記ガイドレールに対して下側の前記回転座は、前記台板に対する上下方向位置を調整可能な幅調整回転座である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の走行台車。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の走行台車と、
前記走行台車に装着される溶接ロボットと、
直線部と曲線部とを含み、被加工物である角コラム柱の周囲を囲むように取り付けられて前記走行台車を案内するガイドレールと、
を備える溶接システムであって、
前記走行台車は、前記溶接ロボットを支持して、前記溶接ロボットの高さを規制するためのバックラッシ調整板を備え、
前記ガイドレールは、前記溶接ロボットが有するピニオンと噛合可能なラックを備え、
前記ラックは、前記ガイドレールの上側に設けられ、2つのベアリングの転走面の間に位置する、
溶接システム。
【請求項8】
前記ラックの板厚をD、前記ラックのピッチをPとするとき、
P/D=0.6~0.9である、
請求項7に記載の溶接システム。
【請求項9】
前記ガイドレールの前記角コラム柱側の側面に固定された複数の取付け板と、
前記複数の取付け板のねじ孔に螺合し、前記角コラム柱の対向する少なくとも2つの側面に当接して、互いに突っ張ることで前記ガイドレールを前記角コラム柱の周囲に固定する取付ねじと、からなる突っ張り治具を備える、
請求項7又は8に記載の溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行台車及び溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、造船、鉄骨、橋梁等の溶接構造物の製造において、工場内での溶接作業は、自動化が進み、大型の多軸溶接ロボットが多用されている。一方、大型の多軸溶接ロボットが適用できない現場溶接作業においても、半自動溶接といった手動の溶接から作業員が一人で運ぶことができる可搬型溶接ロボットを適用した溶接方法へと自動化が進められている。可搬型溶接ロボットを適用することにより、それまで手動で溶接が進められてきた溶接現場において、溶接効率を向上させることができる。
【0003】
この可搬型溶接ロボットを適用した技術として、例えば、特許文献1には、直線部と曲線部とが連続して繋がっているガイドレール上を移動して溶接を自動で行う溶接システムが開示されている。また、特許文献2には、曲線部からなるガイドレール上を移動して溶接を自動で行う溶接システムが開示されている。さらに、特許文献3には、ロボット本体を支持した取付台を取り付ける走行台が走行レールに移動自在に取り付けられ、走行台の上部に、取付台の上部に設けた係合ピンを介してロボット本体を吊持する凸部を設けるとともに、走行台の下部に、取付台の下部を固定する固定手段を備え、該固定手段によりロボット本体を上下動させて、走行レールの下面に設けたラックとロボット本体のピニオンとのバックラッシを調整可能とした溶接ロボットの取付け構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3079485号公報
【特許文献2】実開昭63-66594号公報
【特許文献3】特開平7-100694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述した可搬型溶接ロボットのような加工装置を搭載し、直線部と曲線部とを含むガイドレール上を移動する走行台車には、走行台車が直線部及び曲線部のいずれに位置する場合でも、滑らかに走行できることが求められている。
また、上記走行台車には、可搬性の観点から小型な機構が求められるとともに保守の回数を減らすことができる機構が求められている。特許文献1~3に記載の溶接システムにおいては、これらの点において、さらなる改良が求められている。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、直線部と曲線部とを含むガイドレールを走行するに際して、滑らかに走行可能であり、かつ、小型な機構でありながらも保守の回数を減らすことができる走行台車及びそれを備える溶接システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、走行台車に係る下記[1]又は[2]の構成により達成される。
【0008】
[1] 加工装置を搭載して直線部と曲線部とを含むガイドレール上を走行し、被加工物の加工を行う走行台車であって、
前記加工装置が着脱自在に装着される台板と、
前記ガイドレールの幅方向両側で、かつ、前記ガイドレールの延在方向に間隔を空けて、前記台板に設けられる複数の回転座と、
各々の前記回転座に回転子を介して支持され、前記ガイドレールの幅方向端面の両縁部に形成された転走面を転走する一対のベアリングと、
を備え、
前記回転子の回転軸は、フランジ付き無給油軸受部を介して前記回転座に回転自在に支持される、走行台車。
【0009】
[2] 加工装置を搭載して直線部と曲線部とを含むガイドレール上を走行し、被加工物の加工を行う走行台車であって、
前記加工装置が着脱自在に装着される台板と、
前記ガイドレールの幅方向両側で、かつ、前記ガイドレールの延在方向に間隔を空けて、前記台板に設けられる複数の回転座と、
各々の前記回転座に回転子を介して支持され、前記ガイドレールの幅方向端面の両縁部に形成された転走面を転走する一対のベアリングと、
を備え、
前記ガイドレールは、前記被加工物である角コラム柱の周囲を囲むように前記角コラム柱に取り付けられ、
前記走行台車の走行方向に間隔を空けて設けられた2箇所の前記回転子の距離dが下記式(1)を満足する、走行台車。
【数1】
ただし、Δdmaxは、全ての前記ベアリングが前記ガイドレールの曲線部にある場合の、前記被加工物の加工線と前記加工装置の加工点の最大ずれ量の許容値であり、Rは、前記ガイドレールの曲線部の半径である。
【0010】
また、本発明の上記目的は、溶接システムに係る下記[3]の構成により達成される。
【0011】
[3] 上記[1]又は[2]に記載の走行台車と、
前記走行台車に装着される溶接ロボットと、
直線部と曲線部とを含み、被加工物である角コラム柱の周囲を囲むように取り付けられて前記走行台車を案内するガイドレールと、
を備える溶接システムであって、
前記走行台車は、前記溶接ロボットを支持して、前記溶接ロボットの高さを規制するためのバックラッシ調整板を備え、
前記ガイドレールは、前記溶接ロボットが有するピニオンと噛合可能なラックを備え、
前記ラックは、前記ガイドレールの上側に設けられ、2つのベアリングの転走面の間に位置する、
溶接システム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、直線部と曲線部とを含むガイドレールを走行するに際して、滑らかに走行可能であり、かつ、小型な機構でありながらも保守の回数を減らすことができる走行台車及びそれを備える溶接システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、ガイドレールに装着された走行台車及び溶接ロボットの側面図である。
【
図2】
図2は、ガイドレールに装着された走行台車及び溶接ロボットの斜視図である。
【
図3】
図3は、角コラム柱及び角コラム柱の外周側に取り付けられたガイドレールの平面図である。
【
図5C】
図5Cは、幅調整時における走行台車の側面図である。
【
図6A】
図6Aは、回転座に回転自在に嵌合する回転子を説明するための部分断面図である。
【
図7A】
図7Aは、2組のベアリングを有する走行台車がガイドレールの直線部を走行する状態を示す模式図である。
【
図7B】
図7Bは、先行するベアリングがガイドレールの曲線部にあり、後続するベアリングが直線部にある場合の、走行台車がガイドレールを走行する状態を示す模式図である。
【
図7C】
図7Cは、2組のベアリング有する走行台車がガイドレールの曲線部を走行する状態を示す模式図である。
【
図8】
図8は、変形例に係る回転子の側面図である。
【
図9】
図9は、走行台車に溶接ロボットを取り付ける状態を示す側面図である。
【
図10A】
図10Aは、溶接ロボットが走行台車に取り付けられた状態を示す側面図である。
【
図12】
図12は、円形のガイドレール上を走行する溶接ロボットの溶接アーク点と溶接線の関係を示す模式図である。
【
図13】
図13は、直線部と曲線部が連続して繋がるガイドレール上を走行する溶接ロボットの溶接アーク点と溶接線の関係を示す模式図である。
【
図14】
図14は、走行台車が直線部と曲線部をそれぞれ通過する際の溶接ロボットの溶接アーク点と溶接線の関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る走行台車及び溶接システムの一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本実施形態では、後述するように、ガイドレール3は、ガイドレール3の延在方向が角コラム柱1に対して水平となるように角コラム柱1に固定されている。このため、ガイドレール3の幅方向は、鉛直方向すなわち上下方向となり、以下の説明では、ガイドレールの上下方向とも表す。また、ガイドレール3の延在方向及び幅方向の両方に直交する方向をガイドレールの板厚方向と表す。したがって、ガイドレール3に案内される走行台車7の走行方向は、水平方向となる。
また、走行台車7に搭載される加工装置としては、以下の実施形態では溶接ロボットを一例として説明する。走行台車7は、溶接ロボット以外に被加工物の切断を行う切断ロボットなどを搭載してもよい。
【0015】
図1は、ガイドレール、ガイドレールに装着された走行台車及び溶接ロボットの側面図であり、
図2は、その斜視図である。また、
図3は、溶接対象物である角コラム柱及びその外周側周囲に配置されたガイドレールの平面図である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係る溶接システム150は、角コラム柱1の周囲を囲むように固定されるガイドレール3と、ガイドレール3に案内されて走行する走行台車7と、走行台車7に着脱自在に装着される溶接ロボット200と、を備え、溶接対象物である角コラム柱1の開先4を溶接し、横向溶接継手を作製する。
【0017】
(1.ガイドレール)
図2及び
図3に示すように、ガイドレール3は、直線部3Aと曲線部3Bとを含む複数のレールピース3Cを接続することで、溶接対象物である角コラム柱1の周囲を囲んでいる。ガイドレール3は、ガイドレール3の延在方向が角コラム柱1に対して水平となるように角コラム柱1に固定されている。なお、
図3に示す実施形態では4つのレールピース3Cが接続されている。
【0018】
図3及び
図9に示すように、ガイドレール3と角コラム柱1との間には、複数の突っ張り治具5が取り付けられている。この突っ張り治具5は、ステー6aを介してガイドレール3の裏面に固定された取付け板6と、該取付け板6のねじ孔に螺合する取付ねじ2とを有する。そして、取付ねじ2を角コラム柱1の外周面に向けてねじ込むことで、取付け板6が角コラム柱1の外方に押され、角コラム柱1に対して各取付け板6が突っ張る。
【0019】
このように、取付け板6の弾性力を利用してガイドレール3を取り付けることで、安定した突っ張り力が得られ、ガイドレール3が角コラム柱1の周囲に固定される。なお、マグネットを利用してガイドレール3を固定する一般的な方法では、マグネットが角コラム柱1における吸着面から少しでも離れると急激に吸着力が低下するのに対して、突っ張り治具5を利用する上記方法では、取付け板6の弾性力を利用することからガイドレール3の固定力が強固になる。
【0020】
図4Aは、ガイドレールの正面図であり、
図4Bは、
図4AのA-A断面の説明図である。
図4A及び
図4Bに示すように、ガイドレール3はアルミ押し出し材などの曲げ加工しやすい材料を用いて形成される。ガイドレール3の上下方向の端面である上面及び下面には、ベアリング8(8a,8b)を転走させる転走面3a,3bが、ガイドレール3の表裏面との両縁部を斜めに切欠いて、略逆V型、略V型にそれぞれ形成されている。また、ガイドレール3の上面には、一対の転走面3a,3bの間にラック100が差し込まれて、ガイドレール3の全周に亙って取り付けられている。
【0021】
ラック100は、ラック100の板厚をD、ラック100のピッチをPとするとき、P/Dが0.6~0.9となるように、板厚D及びピッチPがそれぞれ設定されていることが好ましい。板厚Dは2.5mm~5.5mm、ピッチPは2.19mm~3.14mmであることが好ましい。
【0022】
P/D=0.6~0.9とする理由を以下に説明する。板厚Dが薄い方が曲げ加工がし易く、更にガイドレール3の曲線部3Bでは、隣接する歯面の間隔が曲げ中心から法線方向に沿って次第に大きくなるため、板厚Dが薄い方がガイドレール3の内側と外側でのピッチPの差を小さくし、噛合するピニオンのピッチと合わせることができ、適正なバックラッシの調整がし易くなる。本実施形態において、バックラッシは、後述するピニオン221とラック100との遊びである。また、ガイドレール3の内側と外側のピッチPの差を小さくするには、ラック100の板厚Dは薄い方がよいが、所定の厚さ以上にすることで動力を伝える歯面圧力が高くても、摩耗損傷の発生を抑制し易い。一方、走行用モータの伝達トルクや回転数などにより、ピニオンの適正な歯車設計がなされ、これに合わせてラック100のピッチPも適正に設計がなされることで、回転力がむらなく伝達される。これらを総合的に満たし、走行台車7を滑らかに走行させるのに好ましい範囲がP/D=0.6~0.9である。
【0023】
(2.走行台車)
図5A~
図5Dに示すように、走行台車7は、溶接ロボット200が着脱自在に装着される台板12と、この台板12に設けられた複数の回転座10,11と、これらの回転座10,11に回転子9を介して支持され、ガイドレール3の転走面3a,3bを転走する一対のベアリング8a,8bと、を備える。台板12には、中央に大きな逃げ孔12aが形成されている。本実施形態では、4つの回転座10,11が、ガイドレール3の上下方向両側かつ、ガイドレール3の延在方向に間隔を空けて、台板12のガイドレール3側の側面12bの4箇所にそれぞれ1つずつ設けられている。
【0024】
回転座10,11は、ガイドレール3の上方で台板12の側面12bに固定された一対の固定回転座10,10と、ガイドレール3の下方で台板12の側面12bに位置調整可能に設けられた一対の幅調整回転座11,11と、を有する。
図5Dに示すように、一対の幅調整回転座11,11は、連結部材17によって連結されており、また
図5Aに示すように、台板12の左右に設けられた2つの長孔12dに挿通された固定ねじ13により、台板12に固定される。一対の幅調整回転座11,11は、長孔12dの範囲で上下方向に一体に移動可能であり、これにより、
図5B及び
図5Cに示すように、下面側のベアリング8a,8bの位置を調整することで、ガイドレール3の上面側のベアリング8a,8bと、ガイドレール3の下面側のベアリング8a,8bとの間隔を調整できる。
【0025】
図6Aに示すように、固定回転座10及び幅調整回転座11の支持孔内には、回転子9,9の回転軸9a,9aがフランジ付き無給油軸受部20を介して、回転自在に配置されている。回転子9,9の回転軸9a,9aは、固定回転座10と幅調整回転座11の各支持孔内で、ガイドレール3の上下方向に沿って互いに同軸となるように設けられている。
【0026】
また、
図5Dに示すように、ガイドレール3の延在方向において、一対の固定回転座10,10に設けられた各回転子9,9の間隔と、一対の幅調整回転座11,11に設けられた各回転子9,9の間隔は、いずれも所定の距離dに設定されている。なお、距離dの設定については、後で詳述する。
【0027】
図6Aに示すように、固定回転座10及び幅調整回転座11に回転自在に支持された各回転子9のガイドレール側の端部には、回転軸9aの回転中心に対して傾斜した2本の支持軸9bが設けられ、ベアリング8a,8bは、ガイドレール3の転走面3a,3bを転走するように、各支持軸9bに取り付けられている。
【0028】
また、本実施形態のフランジ付き無給油軸受部20は、互いに同一形状を有する一対のフランジ付き無給油軸受20A,20Bを備える。フランジ付き無給油軸受20A,20Bは、
図6Bに示すように、円筒部23と、円筒部23の一端側から径方向外側に延設される外向きのつば部24とを有する。
【0029】
一対のフランジ付き無給油軸受20A,20Bは、
図6Aに示すように、回転座10,11の上下方向両側で、各円筒部23を回転座10,11の支持孔の内周面と回転子9,9の回転軸9a,9aの外周面との間に隙間10a,11aをあけて配置し、各つば部24を、支持孔が開口する回転座10,11の上下端面に当接させる。そして、回転軸9aの一端に形成された雌ねじに、座金21を介してナット22を螺合させることにより、回転子9は、回転座10,11に摺動回転可能に取り付けられる。
【0030】
したがって、一対のフランジ付き無給油軸受20A,20Bの各円筒部23は、回転座10,11の支持孔と回転子9,9の回転軸9a,9aとの間に配置される。また、ナット22側に配置されるフランジ付き無給油軸受20Aのつば部24は、回転座10,11のナット22側端面10b,11bと座金21との間に配置される。さらに、回転子9側に配置されるフランジ付き無給油軸受20Bのつば部24は、回転座10,11の回転子9側端面10c,11cと回転子9との間に配置される。
【0031】
このように構成することで、ガイドレール3に装着された走行台車7が、回転子9を回転させながら走行する際、回転子9を支持する一対のフランジ付き無給油軸受20A,20Bは、回転子9の回転軸9aに作用するラジアル荷重及びスラスト荷重の両方を受けることができる。
【0032】
特に、回転座10,11のナット22側端面10b,11bと座金21との間、及び、回転座10,11の回転子9側端面10c,11cと回転子9との間の両側に、一対のフランジ付き無給油軸受20A,20Bの各つば部24が配置されている。このため、各つば部24は、走行台車7に搭載される溶接ロボット200の重量によって回転座10,11に作用するスラスト荷重を支持することができる。
したがって、回転子9が回転する際には、円筒部23による回転抵抗の低減だけでなく、各つば部24による回転抵抗の低減もできる。
【0033】
フランジ付き無給油軸受20A,20B自体は小さな部品であるので、走行台車7がフランジ付き無給油軸受20A,20Bを備える構成としても、走行台車7が大型化することはなく小型のまま構成できる。また、フランジ付き無給油軸受20A,20Bは、軸受本体に潤滑油が含浸されている又は固体潤滑剤が埋め込まれていることから基本的に給油が不要であるため、走行台車7の保守の回数を減らすことができる。
【0034】
次に、走行台車7がガイドレール3上を走行する際の、ガイドレール3の延在方向に離れて配置された2組のベアリング8a,8bの動きについて、
図7A~
図7Cを参照して具体的に説明する。
【0035】
図7Aは、2組のベアリング8a,8bを有する走行台車7がガイドレール3の直線部3Aを走行する状態を示す模式図である。
図6A、
図7Aに示すように、走行台車7がガイドレール3の直線部3A上にあるとき、ベアリング8a,8bの転動面とガイドレール3の転走面3a,3bがそれぞれ接しており、先行するベアリング8a,8bの各回転軸Cを通る仮想平面PL1及び後続するするベアリング8a,8bの各回転軸Cを通る仮想平面PL2は、それぞれガイドレール3の直線部3Aの延在方向に対して直交している。なお、仮想平面PL1及び仮想平面PL2は、
図7A~
図7Cにおける紙面垂直方向に平行な平面である。
【0036】
図7Bは、先行するベアリング8a,8bがガイドレール3の曲線部3Bにあり、後続するベアリング8a,8bが直線部3Aにある場合の、走行台車7がガイドレール3を走行する状態を示す模式図である。先行する2つのベアリング8a,8bがガイドレール3の曲線部3Bに到達しさらに進むと、
図7Bの矢印に示すように、先行するベアリング8a,8bは、先行側の回転子9が回転することによってガイドレール3の曲がる方向に沿うように転走面3a,3b上を接したまま転走する。このとき、曲線部3B上の先行する2つのベアリング8a,8bの各回転軸を通る仮想平面PL1が曲線部3Bの曲率中心Oを通るとともに、先行する2つのベアリング8a,8bの位置における曲線部3Bの接線に対して直交するように、先行側の回転子9が回動している。
【0037】
図7Cは、2組のベアリング8a,8bを有する走行台車7がガイドレール3の曲線部3Bを走行する状態を示す模式図である。4個のベアリング8a,8bが、共に曲線部3Bに到達しさらに進むと、
図7Cの矢印に示すように、先行するベアリング8a,8bと同じように後続するベアリング8a,8bも、後続側の回転子9が回転することによって、ガイドレール3の曲がる方向に沿うように転走面3a,3b上を接したまま転走する。このとき、曲線部3B上の後続する2つのベアリング8a,8bの各回転軸を通る仮想平面PL2も曲線部3Bの曲率中心Oを通るとともに、後続する2つのベアリング8a,8bの位置における曲線部3Bの接線に対して直交するように、後続側の回転子9も回動している。
【0038】
上記したように、ガイドレール3の形状に従って回転子9が回転するため、ガイドレール3の直線部3A及び曲線部3Bのいずれに位置する場合でも、ベアリング8a,8bの転動面とガイドレール3の転走面3a,3bがそれぞれ接した状態を維持することができる。これにより、走行台車7の走行抵抗の変化を小さくすることができ、走行台車7は滑らかな走行が可能となる。
なお、上述したベアリング8a,8bでは、外輪部材の外周面が転動面を構成しているが、
図8に示すように、転走面3a,3bとボールが点接触可能に支持され、任意の方向に回転することができるボールベアリング8cに変更することもできる。
【0039】
次に、溶接ロボット200を走行台車7に装着する機構について説明する。
図5A及び
図5Bに示すように、走行台車7には、溶接ロボット200を台板12に固定するための装着機構60が、台板12のガイドレール3と反対側の側面12cに設けられている。装着機構60は、台板12の下端部に固定されたボルト固定台54と、ボルト固定台54の上方に配置されたバックラッシ調整板50と、台板12の上部に支持台15を介して配置された溶接ロボット固定レバー14とを有する。
【0040】
図5Aに示すように、台板12に2本のピン56で一体に固定されたボルト固定台54には、その両端に形成された雌ねじに、2本のバックラッシ調整ねじ55が螺合して配置されている。バックラッシ調整ねじ55には、ナット57が螺合されており、バックラッシ調整ねじ55は、バックラッシ調整後、ナット57をボルト固定台54と当接させることにより回転止めされる。バックラッシ調整板50は、後述するピニオン221とラック100の遊びであるバックラッシを調整するためのものである。バックラッシ調整板50は、上下方向について位置調整した後、3つの長孔58に挿通された3本のボルト52により台板12に固定することができる。また、バックラッシ調整板50の上面には、後述する溶接ロボット200の位置決め穴に係合して、バックラッシ調整板50に対する溶接ロボット200の位置を決める、一対の位置決め突起51が設けられている。
【0041】
また
図5Aに示すように、溶接ロボット固定レバー14は、支持台15を介して台板12に固定された支持軸16に回動自在に支持されている。そして、支持軸16の上方には、溶接ロボット固定レバー14を揺動するための操作部14aが設けられ、支持軸16の下方には、
図9に示すように、溶接ロボット200に設けられたセット治具203を押圧して溶接ロボット200を台板12に固定する固定片14bが設けられている。
【0042】
したがって、
図9を用いて後述するように、溶接ロボット200は、位置調整されたバックラッシ調整板50によって走行台車7に位置決めされ、かつ、溶接ロボット固定レバー14の簡単な操作によって走行台車7に固定される。
【0043】
(3.溶接ロボット)
図10A及び
図10Bに示すように、溶接ロボット200は、ロボット本体207と、溶接トーチ210とを備える。溶接ロボット200は、角コラム柱1の開先4を溶接し、横向溶接継手を作製する。溶接トーチ210には、溶接の際にコンジットケーブルを介して溶接ワイヤ204が供給される。また、ロボット本体207は、溶接トーチ210をガイドレール3の上下方向及びガイドレールの板厚方向に駆動する駆動機構を備え、溶接トーチ210は、
図10Aの上下方向の矢印に示すように平行軸206によって上下移動し、
図10Aの左右方向の矢印に示すようにロボット本体207によって左右移動可能である。溶接トーチ210を上下移動又は左右移動させることで、溶接ロボット200によっても溶接位置の調整が可能である。
【0044】
ロボット本体207の下面207aには、バックラッシ調整板50に設けられた一対の位置決め突起51に係合して溶接ロボット200をバックラッシ調整板50に対して位置決めする位置決め穴が設けられている。また、
図11に示すように、ロボット本体207は、内蔵されている走行用モータの回転軸220で駆動されるピニオン221と、ピニオン221の上方を覆うピニオンカバー222とを有する。ロボット本体207は、ピニオン221がガイドレール3のラック100と噛み合うように配置されている。
【0045】
(4.ガイドレールに対する走行台車の取付け)
ガイドレール3に対する走行台車7の取付けは、以下の手順で行われる。まず、固定ねじ13を緩めて幅調整回転座11を
図5Cに示す矢印の下向きの方向に移動させて、一対の固定回転座10,10に配置されている上側のベアリング8a,8bと、幅調整回転座11に配置されている下側のベアリング8a,8bとの間隔を広げ、上側の4個のベアリング8a,8bをガイドレール3の上面の転走面3a,3bに引っかけるように設置する。
【0046】
次いで、幅調整回転座11を
図5Cに示す矢印の上向きの方向に移動させて、下側のベアリング8a,8bとガイドレール3の下面の転走面3a,3bとを密着させた状態で、幅調整回転座11を固定ねじ13により台板12に固定する。そして、走行台車7をガイドレール3の直線部3A及び曲線部3B上を走行させ、走行抵抗に異常がないことを確認する。このとき、上側のベアリング8a,8bは、ガイドレール3の上面に取付けられたラック100を跨ぐように、ガイドレール3の上側の転走面3a,3bに搭載されている。
【0047】
よって、ガイドレール3の上側の転走面3a,3bが走行台車7の取り付け基準となり、走行台車7の上側のベアリング8a,8bをガイドレール3の上面の転走面3a,3bに載せるだけで、走行台車7とラック100の位置関係が精度よく再現される。つまり、ガイドレール3から走行台車7を取り外し、再度取り付けたとしても、走行台車7とラック100の位置関係が再現される。
【0048】
さらに、走行台車7は、角コラム柱1の周囲に固定されたガイドレール3に対して着脱することができるので、複数の角コラム柱1に予めガイドレール3を固定しておけば、1つの角コラム柱1にて溶接が終了したら、ガイドレール3から走行台車7を取り外し、角コラム柱1に固定していた別のガイドレール3に走行台車7を取り付けることで、溶接作業の準備の効率化を図ることができる。また、複数の角コラム柱1に予めガイドレール3を固定しておく際に、走行台車7をガイドレール3毎に設けておく必要がないので、設備コストを抑えることができる。
【0049】
(5.溶接ロボットの走行台車への設置)
溶接ロボット200の走行台車7への設置は、
図5A、
図9及び
図10Aに示すように、まず、3本のボルト52をわずかに緩めてバックラッシ調整板50を移動可能にするとともに、溶接ロボット固定レバー14を回動して固定片14bをセット位置から解除位置へ移動させる。次いで、溶接トーチ210が取り外された状態の溶接ロボット200を傾けながらバックラッシ調整板50上に載せる。このとき、ロボット本体207の下面207aに設けられた不図示の位置決め穴に、バックラッシ調整板50の一対の位置決め突起51を係合させて、バックラッシ調整板50に対して溶接ロボット200を位置決めする。そして、溶接ロボット200を走行台車7の台板12に当接し、さらに、後述するバックラッシ調整によってバックラッシ調整板50を台板12に固定した後に、溶接ロボット固定レバー14を回動させて、固定片14bをセット位置に戻す。これにより、溶接ロボット固定レバー14の固定片14bで溶接ロボット200のセット治具203を押圧して、溶接ロボット200が走行台車7にセットされる。その後、溶接トーチ210が溶接ロボット200に取付けられる。
【0050】
走行台車7に溶接ロボット200がセットされると、
図11に示すように、溶接ロボット200のピニオン221とピニオンカバー222は、台板12の逃げ孔12aを通ってラック100の上方に位置し、ピニオン221の歯とガイドレール3のラック100の歯とが噛み合う位置関係となる。
【0051】
(6.ピニオンとラックのバックラッシ調整)
次いで、ピニオンとラックのバックラッシ調整について、
図5A及び
図11を参照して説明する。
バックラッシ調整板50はボルト52によって仮止めされている。まず、走行台車7をガイドレール3の直線部3A上に位置させ、次いで、2本のバックラッシ調整ねじ55を回転させてバックラッシ調整板50を上下方向に微動させる。これにより、バックラッシ調整板50上に載置されている溶接ロボット200も上下方向に移動し、ピニオン221の歯とラック100の歯とのバックラッシが調整される。これにより、走行台車7がガイドレール3の直線部3A上にある時のバックラッシが調整される。
【0052】
この状態で、走行台車7をガイドレール3の曲線部3Bに移動させて、同様の手順で、曲線部3Bにおける適正なバックラッシに調整をする。通常、曲線部3Bにおけるバックラッシ量は、直線部3Aにおけるバックラッシ量より大きくなる。以後、同様に、直線部3Aと曲線部3Bにおけるバックラッシ調整を数回繰り返して行い、直線部3A及び曲線部3Bで滑らかに走行可能な適正なバックラッシに最終調整する。そして、ボルト52を増締めして、バックラッシ調整板50を台板12に固定する。
【0053】
上記のガイドレール3に対する走行台車7の取付けでも述べたとおり、走行台車7とガ
イドレール3の位置関係は再現性が得られるため、溶接ロボット200も走行台車7と適正なバックラッシが得られる位置関係が決まれば、溶接ロボット200のピニオン221の歯と、ガイドレール3におけるラック100の歯とのバックラッシも再現されることになる。つまり、一旦適正なバックラッシが調整できれば、その後は、走行台車7の着脱を繰り返したり、あるいは、溶接ロボット200の着脱を繰り返したりしてもバックラッシが変化することはなく、バックラッシ調整は不要となる。したがって、バックラッシ調整が不要となるため、溶接作業の準備時間を削減でき、作業効率が向上する。なお、ラック100やピニオン221に摩耗が見られた場合は、再度上述した手順を行い、バックラッシを再調整する。
【0054】
以上説明したように、走行台車7と溶接ロボット200を分離可能な構造にすることで、ガイドレール3とベアリング8a,8bの間隔調整、及びラック100の歯とピニオン221の歯のバックラッシ調整を、それぞれ単独で調整できる。また、走行台車7と溶接ロボット200を分離できるため、溶接ロボット200の持ち運びが容易になる。また、本実施形態の走行台車7は、装着機構60によって溶接ロボット200の設置も簡便である。
【0055】
(7.2つの回転子の距離の適正値)
次に、走行台車7の走行方向、即ち、ガイドレール3の延在方向に間隔を空けて設けられた2つの回転子の距離dの適正値について説明する。高品質な自動溶接を実現するためには、溶接トーチ210のコンタクトチップから延びる溶接ワイヤ204の先端部である溶接アーク点WPは、溶接対象物である角コラム柱1の開先4における溶接線WLに沿って正確に移動することが求められる。
【0056】
しかしながら、本実施形態では、溶接ロボット200を搭載する走行台車7は、距離d離れて配置された2つの回転子9に支持される2組のベアリング8a,8bによって、ガイドレール3上を走行するので、この距離dが、ガイドレール3の形状によって溶接アーク点WPの位置に影響する場合がある。以下、円筒状の被加工物1Xと角コラム柱1を溶接する場合の距離dによる溶接アーク点WPへの影響について、
図12~
図14を参照して説明する。
【0057】
図12は、走行台車7が円形のガイドレール3X上を
図12の矢印で示す方向に走行し、溶接対象物である円筒状の被加工物1Xを溶接する場合を模式的に示している。なお、溶接アーク点WPは、距離dの中央において、2組のベアリング8a,8bを支持する2つの回転子9の回転中心を結ぶ線分LS1に垂直な線分LS2が、溶接線WL上に位置するように設定されているものとする。また、
図12では、円形のガイドレール3Xの半径をRとし、被加工物1Xの溶接線WLの半径をrとしている。
【0058】
図12に示すように、ガイドレール3Xが円形で、被加工物1Xが円筒状であれば、一旦、被加工物1Xの上に溶接アーク点WPがあるように設定すれば、距離dの長さに関係なく、またガイドレール3X上の走行台車7の位置に関係なく、溶接アーク点WPは常に被加工物1Xの溶接線WL上に位置する。したがって、円筒状の被加工物1Xを溶接する場合、2つの回転子9間の距離dは溶接アーク点WPの位置に影響を与えない。
【0059】
一方、
図13及び
図14は、走行台車7が、直線部3Aと曲線部3Bが連続して繋がっているガイドレール3上を
図13及び
図14の矢印で示す方向に走行し、溶接対象物である角コラム柱1を溶接する際の溶接アーク点WPの位置の変化を模式的に示している。なお、溶接アーク点WPは、走行台車7が直線部3A上にあるとき、距離dの中央において角コラム柱1の溶接線WL上に位置するように設定されているものとする。また、
図13及び
図14では、ガイドレール3の曲線部3Bの曲率半径をRとし、角コラム柱1の円弧状のコーナー部の溶接線WLの曲率半径をrとしている。
【0060】
走行台車7における2つの回転子9が共に直線部3A上に位置しているときには、溶接アーク点WPは、角コラム柱1の溶接線WL上に位置している。しかしながら、
図13中の破線で示すように、溶接アーク点WPは、先行する回転子9が曲線部3Bに差し掛かるところから、後続する回転子9が曲線部3Bに到達するまでの間、溶接線WLから徐々に外れていく。
そして、先行及び後続する両方の回転子9が共に曲線部3B上に位置しているときには、溶接線WLと溶接アーク点WPとの差は、最大となる。さらに走行台車7が進行して、先行する回転子9が再度直線部3Aに到達した後は、溶接アーク点WPは徐々に溶接線WLに近づき、後続する回転子9も次の直線部3Aに到達すると、溶接アーク点WPは再び溶接線WL上に戻る。
【0061】
このように、直線部3Aと曲線部3Bが連続して繋がるガイドレール3を走行する走行台車7では、曲線部3B及びその近傍で、溶接アーク点WPが溶接線WLからずれるという現象が生じる。溶接アーク点WPの溶接線WLからのずれ量は、2つの回転子9の距離dが大きく影響する。したがって、距離dを適切に設定することにより、直線部3Aと曲線部3Bが連続して繋がるガイドレール3を走行する走行台車7においても、溶接を安定して行うことが可能となる。
【0062】
図14に示すように、先行及び後続の回転子9が共に曲線部3Bにあるとき溶接アーク点WPと溶接線WLとのずれ量をΔdとしたとき、2つの回転子9の距離dは、式(2)のように求められる。
【0063】
【0064】
溶接ロボット200は、溶接トーチ210をガイドレール3の上下方向及びガイドレール3の板厚方向に移動する駆動機構を備えており、溶接ロボット200が開先4をセンシングして溶接線WLを認識していれば、ずれ量Δdを溶接開始前に補正して自動溶接することができる。しかしながら、溶接をより安定的に行うには、センシングでの補正量を極力小さくすることが求められており、ずれ量Δdをできるだけ小さくする必要がある。なお、ずれ量Δdは小さければ小さいほどよく、最も好ましいのはずれ量Δdが0である場合である。
【0065】
したがって、本実施形態では、ずれ量Δdの最大値を溶接品質に影響がない許容値内に制限するようにしている。ここでの許容値は、例えば、使用する溶接ワイヤ204の直径の5倍以下、好ましくは3倍以下とし、許容できるずれ量の最大値をΔdmaxで表すと、2つの回転子9の距離dは、式(1)となる。
【0066】
【数3】
ただし、Δdmaxは、全ての回転子9がガイドレール3の曲線部3B上にあるときの、溶接線WLと溶接アーク点WPとの最大ずれ量の許容値である。
【0067】
本実施形態では、上記式(2)に基づいて、溶接線WLと溶接アーク点WPとの最大ずれ量の許容値に応じて2つの回転子9の距離dが設定されている。これにより最大ずれ量の許容値を超えることが無いので、安定した自動溶接が可能となり、保守の回数を減らすことができる。
【0068】
距離dが短いほどずれ量Δdを小さくできるが、距離dの下限値は走行台車7に搭載する溶接ロボット200の大きさ、重量等の設計条件で決められる。
【0069】
また、直線部3Aにおける溶接速度は、走行台車7の走行速度と同じであるが、曲線部3Bにおいては、溶接速度を直線部3Aでの溶接速度と同じ速度にするため、走行台車7の走行速度を、直線部3Aでの走行速度に対してR/r倍に上げなければならない。このように走行台車7の走行速度が速い状態において、溶接アーク点WP、すなわち溶接トーチ210を補正のために大きく動かすことは、溶接の不安定化につながりやすいため、溶接トーチ210の移動量を最低限に抑制するためにも、ずれ量Δdは溶接品質に影響がない許容値内に納まるように設定するべきである。
【0070】
なお、本実施形態では、ガイドレール3の延在方向に2つの回転子9が離れて台板12に設けられる場合について説明したが、本発明は、ガイドレール3の延在方向に3つ以上の回転子が台板12に設けられてもよい。この場合、2つの回転子の距離dは、最も離れた2つの回転子におけるガイドレールの延在方向の距離とする。
【0071】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
例えば、上記実施形態では、可搬型溶接ロボットが走行台車に搭載された溶接システムについて説明したが、本発明の走行台車に搭載される加工装置は、これに限らず、例えば、被加工物を切断する切断装置であってもよい。
したがって、加工装置が走行台車に搭載される場合、距離dを設定する際のΔdmaxは、全てのベアリングがガイドレールの曲線部にある場合の、被加工物の加工される位置である加工線と加工装置の加工を行う位置である加工点の最大ずれ量の許容値となる。また、加工装置が走行台車に搭載される場合、Δdは、被加工物の加工線と加工装置の加工点のずれ量である。
【0072】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
【0073】
[1] 加工装置を搭載して直線部と曲線部とを含むガイドレール上を走行し、被加工物の加工を行う走行台車であって、
前記加工装置が着脱自在に装着される台板と、
前記ガイドレールの幅方向両側で、かつ、前記ガイドレールの延在方向に間隔を空けて、前記台板に設けられる複数の回転座と、
各々の前記回転座に回転子を介して支持され、前記ガイドレールの幅方向端面の両縁部に形成された転走面を転走する一対のベアリングと、
を備え、
前記回転子の回転軸は、フランジ付き無給油軸受部を介して前記回転座に回転自在に支持される、走行台車。
この構成によれば、直線部と曲線部とを含むガイドレールを走行するに際して、滑らかに走行可能であり、かつ、小型な機構でありながらも保守の回数を減らすことができる走行台車を提供することができる。
【0074】
[2] 前記ガイドレールは、前記被加工物である角コラム柱の周囲を囲むように前記角コラム柱に取り付けられ、
前記走行台車の走行方向に間隔を空けて設けられた2箇所の前記回転子の距離dが下記式(1)を満足する、
上記[1]に記載の走行台車。
【数4】
ただし、Δdmaxは、全ての前記ベアリングが前記ガイドレールの曲線部にある場合の、前記被加工物の加工線と前記加工装置の加工点の最大ずれ量の許容値であり、Rは、前記ガイドレールの曲線部の半径である。
この構成によれば、走行台車が直線部と曲線部が連続して繋がるガイドレールを走行する際、滑らかに走行可能であり、かつ、被加工物の加工線と加工装置の加工点の最大ずれ量が許容値内に抑えるように距離を設定することで、品質の安定した加工を行うことができる。
【0075】
[3] 前記フランジ付き無給油軸受部は、各々が、円筒部と、該円筒部の一端側から径方向に延設される外向きのつば部と、を有する一対のフランジ付き無給油軸受を備え、
前記一対のフランジ付き無給油軸受の各円筒部は、前記回転子の回転軸と前記回転座の支持孔間にそれぞれ配置され、
前記一対のフランジ付き無給油軸受の各つば部は、前記支持孔が開口する前記回転座の両端面とそれぞれ当接する、
上記[1]又は[2]に記載の走行台車。
この構成によれば、走行台車がガイドレールに装着され、回転子を回転しながら走行する際、一対のフランジ付き無給油軸受が、回転子の回転軸に作用するラジアル荷重及びスラスト荷重を受けることができる。また、走行台車に搭載される加工装置の重量によって、回転座に作用するスラスト荷重を各つば部によって支持することができ、回転子が回転する際には、円筒部による回転抵抗の低減だけでなく、各つば部による回転抵抗の低減も期待できる。
【0076】
[4] 加工装置を搭載して直線部と曲線部とを含むガイドレール上を走行し、被加工物の加工を行う走行台車であって、
前記加工装置が着脱自在に装着される台板と、
前記ガイドレールの幅方向両側で、かつ、前記ガイドレールの延在方向に間隔を空けて、前記台板に設けられる複数の回転座と、
各々の前記回転座に回転子を介して支持され、前記ガイドレールの幅方向端面の両縁部に形成された転走面を転走する一対のベアリングと、
を備え、
前記ガイドレールは、前記被加工物である角コラム柱の周囲を囲むように前記角コラム柱に取り付けられ、
前記走行台車の走行方向に間隔を空けて設けられた2箇所の前記回転子の距離dが下記式(1)を満足する、走行台車。
【数5】
ただし、Δdmaxは、全ての前記ベアリングが前記ガイドレールの曲線部にある場合の、前記被加工物の加工線と前記加工装置の加工点の最大ずれ量の許容値であり、Rは、前記ガイドレールの曲線部の半径である。
この構成によれば、走行台車が直線部と曲線部が連続して繋がるガイドレールを走行する際、滑らかに走行可能であり、かつ、被加工物の加工線と加工装置の加工点の最大ずれ量を許容値内に抑えることができ、品質の安定した加工を行うことができる。
【0077】
[5] 前記ガイドレールは、前記被加工物である角コラム柱の周囲を囲むとともに、前記走行台車の走行方向が水平となるように前記角コラム柱に取り付けられ、
前記ガイドレールの上方の幅方向端面には、前記一対のベアリングの転走面間にラックが設けられ、
前記ラックには、前記台板に装着された前記加工装置に設けられるピニオンが係合し、
前記走行台車は、高さ調整することで前記加工装置の上下方向位置を調整して前記ピニオンと前記ラックのバックラッシを調整可能なバックラッシ調整板を備える、
上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の走行台車。
この構成によれば、バックラッシ調整板の高さを調整することで、ピニオンとラックのバックラッシを正確に調整できる。また、一度、バックラッシ調整すれば、溶接ロボットのような加工装置を走行台車に取付ける度にバックラッシ調整する必要がない。
【0078】
[6] 前記ガイドレールは、前記被加工物である角コラム柱の周囲を囲むとともに、前記走行台車の走行方向が水平となるように前記角コラム柱に取り付けられ、
前記ガイドレールに対して上側の前記回転座は、前記台板に固定される固定回転座であり、
前記ガイドレールに対して下側の前記回転座は、前記台板に対する上下方向位置を調整可能な幅調整回転座である、
上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の走行台車。
この構成によれば、ガイドレールに対する幅調整回転座の上下方向位置を調整することで、固定回転座と幅調整回転座との間隔を調整することができる。したがって、ガイドレールとベアリングの隙間を適正に調整でき、走行台車のがたつきを抑えることができる。
【0079】
[7]上記[1]~[6]のいずれか1項に記載の走行台車と、
前記走行台車に装着される溶接ロボットと、
直線部と曲線部とを含み、被加工物である角コラム柱の周囲を囲むように取り付けられて前記走行台車を案内するガイドレールと、
を備える溶接システムであって、
前記走行台車は、前記溶接ロボットを支持して、前記溶接ロボットの高さを規制するためのバックラッシ調整板を備え、
前記ガイドレールは、前記溶接ロボットが有するピニオンと噛合可能なラックを備え、
前記ラックは、前記ガイドレールの上側に設けられ、2つのベアリングの転走面の間に位置する、
溶接システム。
この構成によれば、バックラッシ調整板の位置が調整された走行台車に溶接ロボットを装着するだけで、ラックとピニオンの適正なバックラッシが自動的に設定できる。
【0080】
[8] 前記ラックの板厚をD、前記ラックのピッチをPとするとき、
P/D=0.6~0.9である、
上記[7]に記載の溶接システム。
この構成によれば、曲線部を有するラックにおいて、曲線部の内側と外側とのピッチ差を小さくすることができ、走行台車が滑らかに走行できる。
【0081】
[9] 前記ガイドレールの前記角コラム柱側の側面に固定された複数の取付け板と、
前記複数の取付け板のねじ孔に螺合し、前記角コラム柱の対向する少なくとも2つの側面に当接して、互いに突っ張ることで前記ガイドレールを前記角コラム柱の周囲に固定する取付ねじと、からなる突っ張り治具を備える、
上記[7]又は[8]に記載の溶接システム。
この構成によれば、ガイドレールを強固に角コラム柱に固定できる。
【符号の説明】
【0082】
1 角コラム柱
2 取付ねじ
3 ガイドレール
3A 直線部
3B 曲線部
3a,3b 転走面
5 突っ張り治具
6 取付け板
7 走行台車
8,8a,8b ベアリング
9 回転子
9a 回転軸
10 固定回転座
11 幅調整回転座
12 台板
20 フランジ付き無給油軸受部
20A,20B フランジ付き無給油軸受
50 バックラッシ調整板
100 ラック
150 溶接システム
200 溶接ロボット
221 ピニオン
d 距離
D ラックの板厚
P ラックのピッチ
R ガイドレールの曲線部の半径
WL 溶接線
WP 溶接アーク点
Δdmax 溶接線と溶接アーク点の最大ずれ量の許容値
Δd 溶接線と溶接アーク点のずれ量